「ん?……あぁ、蔵人か。珍しいな、こんなところで」
「珍しいってどういう意味だ」
「いや、だって、ねぇ?見た目も中身もヤンキーな蔵人がファミレスにいるって想像しただけでクッソ笑えるんだよ。てか笑いたいから笑って良い?」
「ブチ殺すぞキチガイ野郎……!!」
俺の名前を呼んだのはサングラス越しに獰猛な三白眼をギラつかせている長身の男だった。散髪した髪に臙脂色の上着を着崩し、胸元には
「で、なんで蔵人はこんなところにいるんだ?ボッチ飯か?寂しい奴だな……」
「ガチで憐れみの篭った目を向けるのは止めろや、その目ぇ潰すぞ……!!あっこにいるダチと飯食いに来たんだよ」
「男オンリー?」
「……男オンリー」
「……おホモだち」
「ぶち殺すぞテメェ……!!なんでオレには男しか寄って来ねえんだよ……!!見た目は悪くないだろうが!!オレだって大和撫子タイプの奴といい関係になりたいのによぉ……!!」
「いやぁ、両手と口に花束でゴメンね?俺、モテるから」
「不知火ィッ!!……って、あぁ?絢瀬かお前?」
蔵人の視線の先にいたのは綾辻なのだがどうも様子がおかしい。さっきまでは火乃香の作った冒涜的なブレンドジュースに対して一緒に戦々恐々していたのだが、蔵人が来てからは何かに耐える様に顔を俯かせている。
「最近見ねえと思っていたら不知火とつるんでいやがったのか……成る程、よっぽどオレから
「……大切な場所を取り返したいって思うのはいけない事なのかな?」
「いいや、オレとしちゃあ歓迎するぜ?強い剣客と戦えるのはオレにとって喜ばしい事だからな」
「あ〜悪いけど、そこまでにして貰えるか?飯が来たし」
綾辻と蔵人が今にも〝
「話の続きがしたいのなら食い終わってからにしてくれ。もしくはこの火乃香スペシャルブレンドジュースを飲んでからにしな……!!」
「誰がそんなゲテモノ飲むかよ!!てか作り出した本人ダウンしてるじゃねぇか!!」
蔵人に指摘されて見てみれば、確かに火乃香は空になったジョッキを持ったまま白目を剥いてテーブルに突っ伏していた。一応漣として育てているので多少なりとも毒物には耐性はあるはずなのだが、どうやらブレンドジュースはその耐性を貫通して火乃香をダウンさせた様だ。一体どんな調合をすればドリンバーにある飲み物でこれだけの威力を叩き出す事が出来るのだろうか?
「安心しろ、オレたちはもう食い終わってるからこのまま帰るだけだ。じゃあな絢瀬ちゃん、いつでも待ってるぜ?」
そう言い残して蔵人はご機嫌に手を振りながらこの場から立ち去って行った。しかし、それでも綾辻の表情は晴れていない。
「色々と言いたい事や聞きたい事はあるかもしれない。だけど、それよりも先に飯だ。ナナ、火乃香を起こしてくれ」
「あー!!」
「ヘブッ!?……ハッ!?マリッジブルーは赤く染まっているですか!?」
ダウンから帰って来た火乃香の前に残っているブレンドジュースを置いてやると、無表情だった顔を一瞬で青くさせた。
いつもならばここで綾辻が何かしらのツッコミを入れるのだが、彼女は悔しそうに歯を食いしばりながら服の裾を握り締めているだけだった。
ファミレスでの食事を終え、ブレンドジュースを飲んでダウンした火乃香をナナに連れて帰らせて俺は綾辻を連れて近くの公園に来ていた。時間が経ったので多少は緩和されているのだが、それでもまだ綾辻の顔は強張ったまま。目には静かな怒りを燃やしていた。
「顔が怖いぞ」
「わかってる。けど、どうしても我慢出来なくて……」
ベンチに座り、途中で買っていた缶ジュースを手渡すが、綾辻は開ける事もせずに手に持ったままでいる。そんな綾辻を尻目に俺はタバコに火を点ける。
「ふぅ……で、綾辻が言っていた道場破りってのは蔵人の事で良かったんだよな?」
「うん……2年前、突然来たあいつに。初めは父さんは断ってたんだけど、そうしたら門下生たちを襲って来て……それで、相手をする事を決めたんだけど……」
「負けて、今じゃ病院で寝たきりだと」
「……」
首を縦に振る事で肯定されたのだが、綾辻はその時の事を思い出しているのか、はたまた病院で眠っている父親の事を思っているのか、顔は暗かった。
「事情は知ってたからどうも言わない。だけど、一つだけ聞かせろ……お前はどうしたいんだ?」
「……変わらない。ボクは〝綾辻一刀流〟であいつを倒して、道場を取り戻したい。取り戻して、父さんの帰りを待ちたいんだ」
そう言い切った綾辻に迷いは無かった。
蔵人の実力は友人である俺がよく知っている。あいつが言うには去年の〝七星剣武祭〟では東堂に負けてベスト4だったとか。負けず嫌いのあいつのことだから、少なくとも去年よりも強くなっている事は確実だ。綾辻もその事は理解しているに違いない。
だと言うのに、彼女はそれを踏まえて諦めていなかった。挫折するのには十分な理由になると言うのに泣き叫ぶような無様を見せず、必ず成し遂げてやると意気込んでいる。
「ーーーあぁ、いい女だなぁ……」
その姿がとても眩しくて、その姿があまりにも美しくて、俺はしばし綾辻に見惚れてしまっていた。
「だけど今の綾辻の実力じゃあ、蔵人に傷一つ負わせることは出来ない。それは理解していると思うが、どうするつもりだ?」
「うん、それは分かってる。だから、新城君。鍛錬のレベルを上げて欲しい」
「まぁ、それしかないわな」
今のままでは綾辻は蔵人に勝てない。だったら今から蔵人よりも強くなればいい。それを成すために綾辻は、俺が敢えて下げていたレベルを上げて欲しいと懇願して来た。
「死ぬかもしれないし、選抜戦に支障が出るかもしれない。それでも良いのか?」
「死なないし、支障も出さない。出来るか出来ないかじゃなくてやるんでしょ?」
「そうだな」
心底拒絶しているのならば、途中で投げ出しても俺からは何も言わない。勝手に期待して、ここまでだったのかと勝手に失望するだけだ。
でも、やってやると、成し遂げてやると意気込んで前に進もうとしているのなら、俺はその背中を押してやるだけだ。
「それじゃ、破軍に帰ってから只管に模擬戦だ。今までは気絶したら休憩だったけど休んでる間も惜しい。空いている時間は全部注ぎ込むぞ」
「よろしくお願いします!!」
ベンチから立ち上がって頭を下げる綾辻の姿を一瞥しながら、頭の中では綾辻にどの程度で相手をするのかを考えていた。
と言うことで狂犬君こと蔵人君の登場。やっぱりと言うべきか修羅ヌイの影響を受けてしれっとベスト4に引き上げ。でも雷切には勝てなかったみたいです。
絢瀬ちゃんのお願いを叶えるべく、修羅ヌイが鍛錬のレベルを上げるようです。普通なら一つ二つくらいなんだけど、修羅ヌイの事だから桁一つくらい増やしそうなんだよなぁ……