かばんが『日記』を読み終えると、腕組みしながら聞いていたタイリクオオカミは「ふむ」と言って頷いた。
「これは中々ホラーな話だね。『輝き』を奪うフレンズ型のセルリアンか。ロッジの時は冗談で言ったんだが…本当に実在していたとはね」
「あの、日記に出てきた、『セーバル』さんがぼくたちの見たセルリアンと同じということが有り得るんでしょうか…」
日記にはセーバルというサーバルにそっくりなセルリアンが居たと書いてあった。そのセルリアンはサーバルの『輝き』を奪って、フレンズ(サーバル)型になったのだそうだ。
その後、セーバルは自分の輝きを生み出し、フレンズ化。自分を操っていたセルリアンの女王を倒し、ミライさんやサーバルとトモダチになった。
タイリクオオカミはスケッチブックに何か描きながら答える。
「かなり昔の話だから有り得ない…とは言い切れない。ハカセによると、セルリアンはサンドスターの供給が絶たれなければかなり長生きすると言われている」
すると今まで静かにしていたサーバルが肩をたたいてきた。振り向くと俯き気味に顔を下げたサーバルが自分の肩に手を置いていた。
「ねぇかばんちゃん」
「どうしたの?サーバルちゃん」
「日記の中のサーバルって私とは別のフレンズなんだよね」
「え?」
「私、日記のお話聞いてる時ね、なんかその時のパークの形とか一緒にいたフレンズとか頭に浮かんできたんだ。何でだろうって。もしかしたら私と日記のサーバルって…」
「わーーー!」
サーバルがそこまで言いかけたところで洞窟の奥からスナネコと思われる叫び声が聞こえた。
「なに!?」
三人は同時に立ち上がり駆け出した。
以前バスで通ったスナネコの家から繋がるバイパスに下りると、スナネコとツチノコが、誰かと距離をとって向き合っていた。
「あっ!フレンズ型の…!」
その向き合っていた相手はあのフレンズ型の黒いセルリアンだった。
セルリアンはこちらに気付くと、赤い目で見つめてきた。
一人一人、見定めるかのように目を向けていく。
最後にサーバルを見ると、赤い目がほんの僅か見開かれ、驚くべきことに声を発した。
「サー、バル…?」
その声は、サーバルに酷似していた。
「えっ?」
「サーバル、ここにいたんだ。どこに、いったのかと、おもった。かえろう、みんな、まってるよ」
セルリアンはサーバルにまるでトモダチであるかのように手を差し伸べ、話しかけてきた。
サーバルはかばんを自分の後ろに隠すように移動しつつ答える。
「どういう事?私はあなたの事は知らない。だからあなたも私の事を知らないはずだよ」
サーバルが言うと、セルリアンは首を傾げこちらに一歩踏み出した。
「どうしたの、サーバル。もしかして、セーバルのこと、わすれちゃたの?」
「なっ…」
それを聞いて、かばんとサーバルとタイリクオオカミは驚愕した。
先程読んだばかりの日記に出てきたセーバルがこのセルリアンだというのか。
サーバルはかばんを持って、いつでも後ろに下がれるように警戒しつつもセーバルと言葉を交わす。
「私はあなたを知らない。あなたの捜すサーバルはきっと別の子だよ」
「うそ、セーバルわかる。セーバルがトモダチまちがえるわけない」
「だから、いこ?」
セーバルは手を差し伸べたままこちらに数歩進んできて、サーバルはわずかに後退りした。
「なんで、にげるの?セーバルと、サーバル、トモダチでしょ?また、いつもみたいに、あそぼうよ」
「私はセルリアンとは友達になれない。だってセルリアンは私達を食べようとしてくるじゃない。そんな子とは友達になれないよ」
サーバルはセルリアンとはいえ自分を友達と呼ぶセーバルに少し言い過ぎたかな、と思った。
セーバルは一瞬驚いたように目を見開いたが、サーバルを睨んだ。
「セーバルも、おこるよ。そんなこというコは、サーバルでも、ゆるさない」
すると、セーバルの純粋な赤色の目がどす黒い血色に染まり、手からサンドスターロウと思しき黒いものが吹き出した。
タイリクオオカミがその現象に気付くと、また驚きの声を上げた。
「馬鹿な、野生開放!?セルリアンは出来ないはず…」
サーバルはいつでも動けるように戦いの構えをとり、野生開放すると「かばんちゃんは逃げて」と小声で言った。
「サーバルちゃん、あんなセルリアンと戦ったら危ないよ!サーバルちゃんと一緒に…」
かばんが「逃げよう」、と言う前にサーバルは声を被せた。
「大丈夫!もう二度とあんな失敗しないから!必ずかばんちゃんのところに帰るよ!ほらオオカミ、かばんちゃんを連れて逃げて!」
「な、何言ってるんだ!応戦するより助けを呼んだ方が確実だ!君が無駄なリスクを冒す必要はない!何故そこまで…」
クールなタイリクオオカミが珍しく声を大にして反論するとサーバルはこちらに背を向けたまま言った。
「なんか、私だけで解決した方がいいと思うんだ。セーバルは私を知ってるみたいだし…」
きっとその言葉はかばんを危険に晒したくない意思で出たものだ。サーバルは超大型黒セルリアンとの戦い以降、危険なことは全て「任せて!」と言って、解決してくれる。
「そんなこと…ぼくは大丈夫だよ。だから…」
すると先程と同じように声を被せられた。
サーバルではなく、セーバルに。
「よんでる…」
「え?」
「よばれてる…、いかなくては…、サーバル、セーバルは、まだゆるしてないから。なにかいいたいなら、やまにきて」
セーバルは野生開放を解除し、黒い靄の塊に変化すると浮き上がった。そしてバイパスの天井にぶつかると消えた。
「帰った…?」
かばんが呟くと、タイリクオオカミはいつものクールな口調で真顔で答えた。
「…そのようだね。戦わずに済んで良かったよ」
かばんが安堵の表情を浮かべると、ツチノコが詰めよってきた。
「おい、アイツはなんなんだ!お前らなんか知ってんのか?!」
「ぼくもびっくりしたです。あんなの見たの初めてー」
かばんとかばんに詰め寄る二人の間に割って入り、二人を両手で制したタイリクオオカミは振り向き、気遣いから言った。
「あぁ、ここは私が説明するからかばんはサーバルのとこに行ってやってくれ」
タイリクオオカミが日記について語り始める後ろで、かばんはまだこちらに背を向けて立つサーバルに歩み寄った。
「サーバルちゃん」
友達の名を呼ぶと、サーバルは振り向いた。
「かばんちゃん…」
未だ不安そうな顔をするサーバルの身体を引き寄せ、頭を撫でながらかつてサンドスターの山の上でも言った似たような決心を耳元で囁く。
「サーバルちゃん。ぼくが弱くて、まだパークのこともあんまり知らなくて、一度セルリアンに食べられたこともあってぼくがサーバルちゃんにすっごい心配掛けてるのは分かってる。でも、ぼくもパークの…サーバルちゃんの助けになりたいんだ。サーバルちゃんに見せてなかったっけ。ぼく、木登りできるようになったんだよ。こうやってぼくも頑張って強くなるから心配しないで。サーバルちゃんも難しいことはぼくに任せていいよ。サーバルちゃんは、友達…ぼくの親友フレンドなんだから」
サーバルも両手をかばんの背中に回すと、震える声で言った。
「私、かばんちゃんとお別れしたくない。だってもっとかばんちゃんと楽しい事とか行きたいところとかいっぱいあるんだもん。だからかばんちゃんは私が守らなきゃ、って思ってたんだ。かばんちゃんがそんな事考えてたなんて気付いてあげられなくて、ごめんね。かばんちゃんも頑張ってたのに、私が余計な事を…」
サーバルがその先を言う前にかばんは優しく囁く。
「余計な事だなんてそんな事ないよ。サーバルちゃんがぼくを一生懸命守ってくれるの嬉しかったよ。でも、守られてるだけじゃ駄目だって思ったんだ。パークの掟は『自分の力で生きること』だからね」
そこで少し間を置き、サーバルを抱く手の力を強めた。
「でも誰が言ったのかは分からないけどアライさんが言ってたよね。『困難は群れで分け合え』って。だからサーバルちゃんの困難はぼくにも分けてもいいんだよ」
サーバルは泣いているのだろう、肩を震わせ、嗚咽を漏らしながら答えた。
「…分かったよ。本当に困った時は私を助けてね」
「うん。ぼくに任せて。ほら、泣き止んで」
かばんはサーバルを解放し、微笑みかけるとサーバルは目に溜まる涙を拭いた。
サーバルが顔を上げるとそこにはいつも通りの元気な笑顔が戻っていた。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
よく喋るなぁ…