魔物図鑑と共に歩む日常   作:RGT

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ゴブリン

 

 数日たった日の朝。

 自宅の掃除もおおむね完了し、次に始めたのは畑の整備作業。

 雑草が生えに生え、もはや草むらとの区別がつかないほど荒れ模様の畑だったものを麦わら帽子かぶって鎌片手に刈っていく。

 

「なんでこんなになるまで放置してるんだよ」

 

「いやなに我は土から栄養を吸収することができるのでな。畑など必要としないし、友が帰ってこれる場所だけ守れればいいかと………ダメだったか?」

 

「この荒れ具合をみたら友達ぶちキレるぞ」

 

「そ、それは困る!」

 

 アンは声を上げ、刈るペースを速める。

 

 あたりまえだろ?

 帰ってきたら育ててた野菜は枯れ、草ぼうぼう。

 どれだけ気の優しい人でもキレるか、キレないにしても何らかの反応を示すと思うのが分かりきっている。しかしこの慌てよう。本気で畑のことなど頭の片隅にもなかったようだ。

 どうやら人とドラゴンとの価値観は違うらしい。

 

 まぁそこはおいおい理解していければいいかと再び手を動かす。

 

 

 

「た、助けてーーー」

 

 突然聞こえてきたのは助けを求める声。

 声がしたかと思うと草むらから胸辺りまでしかない身長の女の子が飛び出てきた。

 必死に走っていて前を見ていなかったのか、俺の胸辺りに頭をぶつける。

 

「ひぃ、ひぃぃぃぃぃ、ここにも人間がいる~~~」

 

 目には涙を浮かべ、錆びた短刀の刃をこちらに向ける。が、手先は震えて刃先は獲物を捉えていない。とてもじゃないがパニックっていて、戦えるようには見えない。

 

「武器を下げよ、妖精よ。こやつは我の、我の………なんだ?」

 

「知らねぇよ!」

 

「まぁ、とにかく悪い奴ではない」

 

 間に入ってくれるのはありがたいが、そこははっきり言ってくれ。

 だがドラゴンことアンはこの森での顔役であるようで、彼女が間に入ってくれたことにより少女は多少なりとも落ち着きを取り戻した。

 

「妖精って言ってたけど種族は?」

 

「何を言うかと思ったら、面白い冗談だな。言わずもがなゴブリンに決まっておるだろう。お主、まさかゴブリンも知らんのか?このご時世どこぞの箱入り娘でも知っていることだぞ?いったい今までどんな生活を送ってきたのか」と驚愕と半ば呆れ口調で言われた。

 

 アン曰く、ゴブリンとはおふざけといたずら好きな妖精の一種で特徴はその緑の肌と先端に向かうにつれとがった耳。彼女はゴブリンのメスの個体にあたるメスゴブリンらしい。

 

 え、マジでゴブリン?冗談だろ?

 

 俺にとってゴブリンとは醜く邪悪な小人として認識していた。しかしこのメスゴブリンはあまりにも整った顔立ちをしているため、彼女がメスゴブリンだと知った今でもにわかに信じることができない。

 

 

 

 話を戻そう。

 

「それで何があった?」

 

「は、花げwuifk畑であ、fewfuihwたらきゅ、きゅ、急に人間vh8うぃhヴが出てあdsにvきてh8あぢsvh仲間なdsvhぅいs」

 

「なるほど、わからん」

 

 泣きながら言われても無理がある。花畑で何かがあったらしい。

 

「花畑にいたところ、突然人間に襲われたようだ。仲間が殺され、この者だけが命かながら逃げ延びてきたようだ」

 

「よくわかったな」

 

「あ、いた!」

 

 その場にいるはずのない男の声音がした後、先ほどメスゴブリンが出てきた草むらから一人の冒険者が出てきた。目と目が合うや否や、睨みつけられ「こいつは俺の獲物だから手を出すんじゃねぇぞ」と怒気交じりに言われた。

 まだ何も言ってないのに………

 

「なぁあんた。こいつを殺すのは勘弁してもらえないか?そのいろいろと事情があってだな」

 

「何を言うかと思えば、ふざけるな!こいつは俺が見つけた獲物だ。じゃまするならお前事痛い目を見てもらうまでだぞ?分かったらさっさとそいつを渡せ」

 

「なるほど分かった」

 

 交渉決裂。ならばこちらも力づくで無力化せねば。

 足元から無詠唱で行使された魔法の霧が外気を奪いながら冒険者めがけて地面を伝っていく。そして冒険者まで届くと体中が足元から凍り付いていった。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 今更抵抗しよう体を震わせたところでもう遅い。男の体はどんどんと凍り付けにされていき、首から下は自由が利かなくなった。

 

「こ、こ、殺すのか?このおれを?」

 

 先ほどまで強気だった男の表情は徐々に恐怖の色に染まっていく。

 俺は男の問いかけに首を横に振った。

 

「いや、殺しはしない。無駄な殺傷は好まないんでな。ただし、次ここに近づいてら、地獄を見ることになるぞ。分かったな」

 

 男は何度も大きく首を縦に振った。

 

「よし、じゃあ飛んでけ」

 

 魔法陣が現れ、光に包まれ「うわぁぁぁ」という悲鳴を最後に男の姿は消えた。

 

 

 

 後日、家に昨日のメスゴブリンとその父親らしい王冠をかぶり赤いマントを羽織ったゴブリンが訪ねてきた。話を聞く限りこのメスゴブリンはゴブリンの長ゴブリンキングの娘らしく、父親自ら感謝の意を伝えに来たのだ。

 

 王自ら来られたことにも驚いたが、それ以上にゴブリンキングに驚きを隠せないでいた。

 なんとゴブリンキングの顔つきが思い描いていたTHEゴブリンなのだ。

 

 後からアンに聞いた話なのだが、メスゴブリンも昔はオスゴブリンのような顔つきをしていたらしい。しかしオスゴブリンが人間の女を襲い孕ませ子を産ませることで、同族の女に興味を示さなくなった。そうして長い年月が経ったあと、メスゴブリンたちがオスゴブリンたちを振り向かせるためにも進化をした結果が今のメスゴブリンの顔つきになったそう。

 

「あぁ、もしあの娘が殺されていたら、それこそあの王だ。ゴブリン族と人で戦争が起こっていたに違いない」

 

 ………マジで?と最後に肝が冷えた俺だった。

 

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