魔物図鑑と共に歩む日常   作:RGT

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ユニコーン

 

ある日、湖でアンと晩飯の魚を調達しているときのことだ。

水面を漂う棒ウキが沈むのをただただひたすら待っていると、草むらが揺れ動き一匹の一角馬が水飲みに現れた。

 

「珍しい。みよ圭、ユニコーンだ」

 

釣り竿を垂らしているちょうど対岸で額から立派な一本角を生やした馬ユニコーンが水面に顔を近づけているのが見えた。

ユニコーンが水を飲んでいる。ただそれだけだというのに、なんと絵になることだろうか。

あまりの美しさにもっと近くで見たいという気持ちがどこからともなく沸き上がる。

 

「限界まで近づいてくる」

 

「やめておけ。これでもかなり近いほうだ。これ以上近づこうとするのはよさぬか」

 

「え?」

 

アン曰く、確かに額に一本長い角を生やしただけの馬に見てとれるかもしれないが、ユニコーンはああ見えても案外気位が高く凶暴で警戒心が強く、むやみやたらに近づくと痛い目をみるらしい。そっとしておくのが一番という。

 

「大丈夫。まぁ、見てろって」

 

俺にはいけるという確かな確証があった。記憶が正しい限り、ユニコーンは処女な乙女が一人でいると、その警戒心をとき近寄ってくるとか来ないとか。

 

処女とは性交経験がない女性のこと。また、その女性の状態=童貞も大差ないのでは?乙女とは若い女性、処女。穢れを知らない女性=健児でも変わらないのでは?それにもしユニコーンがメスだった場合、レズビアンでもない限り童貞で健児の俺によって来るのでは?

 

このわずか5秒の脳内会議の結果、ユニコーンに触れるという結論に至った。

そうと決まれば次の行動は早かった。竿を地面に差し込み、固定するとゆっくりゆっくりとユニコーンのほうへと忍び足で近づく。

 

 

 

そして俺は宙を舞った。

 

 

 

 

 

「いわんこっちゃないではないか」

 

結果から言うとユニコーンには触れられなかった。

あの糞馬刺し野郎は近づく俺に気づくや否や、その鋭利な角をこちらに向け襲い掛かってきたのだ。とっさに防御できたが、体は勢いそのまま吹き飛ばされ湖へとダイブした。

もう体中びしょびしょ、魚は釣れない、ユニコーンには触れない。散々だった。

 

「くっそー、いったいどこから駄目だったんだ?」

 

「全てだ、全て。それになぜいけると思ったのか。全く呆れて物もいえん」

 

「ユニコーンは処女な乙女なら触っても大丈夫だと聞いていたから。男バージョンの童貞で健児の俺なら触れるかと思って触れようとしたら………ダメだった」

 

「それでいければ苦労せぬわ。………全く、お主が行くより我のほうがまだ可能性があるだろうに」

 

アンがぽつりと呟く。言われてみればそうだ。

今のアンは誰がみても口を揃えて乙女という身なり。今の体も処女のようだし可能性は大いにある。試そう。

 

「よし、アン。行ってこい。大丈夫だったら合図を送ってくれ」

 

「嫌なのだが?」

 

「お前、俺に負けた時になんでも言うこと聞くって言ったよな?ほら行ってこい」

 

先日、性懲りもなくまたアンは俺に勝負を挑み負けていたのだ。その約束が残っている。

 

「それを今言うか?うぅーーー、ドラゴン遣いの荒いやつめ」

 

アンはしぶしぶユニコーンへと近づく。ユニコーンもアンに気づくと、最初は警戒する素振りをみせたが、アンが女だと気付くと自ら近づいていく。

お、成功かと思った次の瞬間、アンは宙を舞った。

 

 

 

「あの腐れ馬、今晩は馬刺しにしようぞ」

 

「アンでもダメだったか?しかしなぜだ?条件はクリアしていたはず」

 

乙女、処女の条件はクリアしている。まさかほかにも条件があるのか?

そうなるともうお手上げだ。

 

半ばあきらめかけたその時、

 

「聞いたことがある声がしたかと思ったら、ドラゴンさんに人間さん、そんなびしょびしょになって何してるんですか?」

 

とそこにゴブリン族の王の娘ゴブリンことゴブ姫が現れた。今日も今日とて花畑に行っていたらしく、いまはその帰りらしい。

 

「ん、あそこにユニコーンがいるだろ?あいつをもう少し近くで見たくて近づいたら二人とも返り討ちにあったんだよ。なんでもユニコーンは乙女で処女じゃないと警戒心を緩めないとか何とかで」

 

ん、待てよ?いやしかし可能性はある。

 

「ゴブは処女か?」

 

「処女って何?」

 

完ぺきではないか。

 

「おいおい、待つのだ圭よ。仮にもこのメスゴブリンが条件を満たしているとしよう。しかし我が行って返り討ちになっているのだ。こやつが行ったところでうまくいく確証はないだろう。それにあの王の娘だぞ?もし何かあった時にはどうするつもりだ?」

 

アンの言い分ももっともだ。しかしそれに気づかない俺ではない。ゴブ姫にはあらかじめ防御結界を何重にも重ね掛けすることによって、万が一の事態になってもゴブ姫は無傷で逆にユニコーンの角がへし折れるだろう。

 

「よしゴブ姫、頼んだぞ」

 

「なんだが、よくわからないけどわかった」

 

ゴブ姫は言われたようにユニコーンに近づく。一同は固唾をのんで見守った。

 

 

 

うまくいった。うまくいったのだ。ユニコーンはゴブ姫に顔を摺り寄せている。

 

「「おぉ!」」

 

ゴブ姫がいることにより俺たちが触れてもユニコーンは暴れるそぶりを一切見せない。

 

しかしここで一つの疑問がわく。

 

「なぜ我ではだめだったのだ?」

 

そう。なぜアンではだめだったのか?

 

「やはり見た目をいくら見繕っても中身は乙女とは到底呼べないし、ユニコーンはその独特なものを感じ取ったのかもな」

 

「殺すぞ」

 

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