アクセル・ワールド ~弾丸は淡く輝く~   作:猫かぶり

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黒雲の鴉
Accel-1:Akihabara-BG


 

 

 

空港から乗車したタクシーで景色を眺めるわけもなく仮想ウィンドウを開き、ニューロリンカーに入力してある電子書籍をウィンドウへともってくる。

首回りに装着する通信端末〈ニューロリンカー〉は脳細胞と量子レベルでの無線通信を行うことで、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)といった技術を容易に実現し、仮想の五感情報を送り込んだり現実の五感をキャンセルしたりすることができる。このニューロリンカーは携帯電話やパソコンの代用にもなり、第一世代が発売されて十五年。現在では国民一人に一台と言われるまで普及し、現在の人々の生活を支えている。

便利だが一ページ毎に紙を捲る動作を味気ないものだと感じながら仮想ウィンドウに表示されている小説のページを指でスクロールしているとタクシーの速度が遅くなり、やがて静かに停止する。空港からここまでの料金が自動で引き落とされるのをウィンドウで確認し下車する。

 

 

 

着いた場所は東京都杉並区の高円寺北に建つ複合高層マンションだった。一階から三階までを大型ショッピングモールと複合させた巨大な建物が眼前にそびえ立つ。

マンションのエントランスで管理人に挨拶を交わし、注意点を確認、居住者用のエレベータで部屋がある二十三階へ向かう。

視界に浮かぶ解錠ダイアログにタッチし解錠、部屋へと入る。一人暮らしには広すぎる部屋には数日前に引っ越し業者と親が運び込んだ家具類が綺麗に配置されていた。

 

「また……やたらと金を使ったな。数年は一人暮らしなんだけど」

 

広いリビングに独り言が響くがそこで意気消沈している場合ではない。ニューロリンカーに設定されている音声命令を口にする。

 

「コマンド、ボイスコール、ナンバーゼロワン」

 

【登録アドレス○一番に音声通話を発信します。よろしいですか?】というホロダイアログが浮かび即座にイエス。

呼び出し音を聞くあいだに荷物を置き、リビングのソファーへ移動すると相手が出た。

 

『はいはい。着いた?』

 

「着いたよ。けど、何このマンション。あんた帰ってくるまで数年あるんだけど」

 

『母親に向かってその態度……反抗期!反抗期なのね!』

 

「……正当な主張だよ」

 

『数年っていったって仕事で日本に帰ることもあるから今のうちにって思ったのよ。ショッピングモールも複合させてあっていいところよね』

 

「わかったから。転校するところの制服は?」

 

『あなたの部屋のハンガーにかけてあるわ。学校はそっちの月曜日からで、行ったら職員室へ挨拶。わかった?』

 

「……了解」

 

『ご飯は心配ないと思うけどしっかり食べてね。後、バイクは地下の駐車場にあるから。車は免許取れたらキー渡すからそのつもりでね』

 

「はいはい。それじゃ」

 

『最後に、女の子を連れ込んでもいいけど、大人の階段は上っちゃダ』

 

スパッとコールを切る。

九時間の時差であっちはまだ日が昇る時間ではない、最後に言った一言がなかったら普通だったのだが、などと考えることが多いが諦める。

置いた荷物を持ち、自室へ向かう。部屋に入り、荷物を下ろす。壁に設けられたフックには真新しい制服がハンガーによってかけてある。

 

「……」

 

制服を見つめるのを止め、部屋から出る。必要最低限の物を持ち、家を出て、地下駐車場へ。

 

 

 

見慣れたバイクを探すのは案外簡単にいった。全体をシルバーに輝かせる全長二メートル以上あるエレクトリック・バイク。国外販売しかされていないが日本でも人気があるモデルだ。

緩く纏めていた長い髪をゴムでしっかりと纏め直し、白い光沢のフルフェイスヘルメットを被り、音声命令を口にする。

 

「起動」

 

バイクのCPUと接続し、視界に各種のメーター窓が開く。何の問題もないのを確認し、バイクへ跨がる。スロットルを開け、りゅうん、という穏やかなモーター音を発生させ、バイクを動かす。行き先は千代田区の秋葉原。

 

 

 

立体駐車場へバイクを入れ、目的地へ歩く。まだ昼間ということもあり、メイド格好の女の子が通行人へホロペーパーを手渡している。

電気街、秋葉原のメインストリートに入り北上、少し裏道に入り、一際うるさいビル〈QUADTOWER〉とネオンが瞬くビルへと入る。いわゆる二十一世紀初期までゲームセンターと呼ばれていた薄暗いコンクリート打ちっぱなしのフロアには前時代のアーケードゲームの巨大な筐体が並び存在感を放っている。

様々なアーケードゲームの筐体が並ぶ中を進み、フロアの最奥のエレベータを使いビルの四階へ。エレベータの扉が開き、目の前に頑丈そうなパネルで仕切られた狭いブースが立ち並ぶ〈ダイブカフェ〉が目の前に現れる。正面の無人カウンターで受付を済ませ、割り当てられた一人用のブースへ入る。なかなかに座り心地の良さそうなリクライニングチェアへ腰を下ろしコマンド発声をする。

 

「ダイレクト・リンク」

 

しゅわっ!という音とともに意識が身体から離させ、暗闇を落下する。

 

 

 

下方から、幾つかアクセスゲートが近づいてくるが迷わず〈アキハバラBG〉というタグをくぐり抜ける。円形のゲートに吸い込まれ、わずかなラグが発生する。

フルダイブ用の青い猫を模したアバター―見た目は長靴を履いた猫―の靴底が硬い金属音とともに接地し、巨大な酒場を模した場所が視界に広がった。

薄明かりが酒場内を照らす中、テーブル席には幾つかのアバターの姿が見える。殆どは動物を模したコミカルなアバターで片手にコップやらジョッキを持ち談笑している。天井から吊り下がった大型モニタには【TODAY`S BATTLE】のゴシックフォント。時刻、アバター名が表示されているが見知った名前の表示はない。

それらを見つつ、酒場の奥のカウンターへ。

小さな身体を上手く使い中央のスツールへ腰を下ろし、カウンター内で頭を下げて作業するアバターへ声をかける。

 

「儲かっているかい、〈マッチメーカー〉」

 

カウンターの向こうでひょいと顔を上げた見た目ファンタジーゲームに登場するドワーフのアバターがこっちを凝視したかと思ったら幽霊でも見たかのように驚きの表情をしている。

 

「その様子だと忘れられていたわけじゃないらしいな」

 

「これを驚かんで何に驚く。お前さんの姿を見なくなって二年、強制退場になったと思っとったわ」

 

「海外に引っ越してね。今日無事に帰国したのさ」

 

「実に懐かしい。二年も海外とはの。お主らのレギオンは壊滅し、お前さんも現れなくなったが、こうして再び会えて嬉しい限りじゃわい」

 

「マッチメーカー、今日は思い出話をしに来たんじゃないんだ。情報を聞きたくて来た。二年間と各レギオンの情報」

 

「レギオンの領土はたいして変わっとらん。小さいレギオンが幾つかできとるぐらいじゃ。それよりも」

 

マッチメーカーが声を溜める。

 

「お前さんとこの〈黒の王〉が復活じゃ。新生〈ネガ・ネビュラス〉と〈銀の鴉〉」

 

「黒ちゃんと〈銀の鴉〉?」

 

「やはり知らんかったか。海外ともなれば情報も入らんから仕方ないがの。少し前に現れた〈飛行アビリティ〉を持つアバターで、アバター名は〈シルバー・クロウ〉。復活した黒のレギオン所属じゃ」

 

「黒ちゃんが生きていたのは疑わなかったけど……〈飛行アビリティ〉がとうとう現れたか」

 

「そして赤のレギオンじゃが、レッド・ライダーの永久退場で崩れた後、二代目赤の王となったのは〈スカーレット・レイン〉。お前さんの知っとる豹は変わらず赤のレギオンじゃ」

 

「黒のレギオンの領土は?」

 

「空白地区だった杉並区の第三戦区。把握している人数は三人の最小のレギオン。お前さんが杉並に出入りすれば黒の王自ら挨拶してくる可能性があるとワシは思っとる。まぁ予測じゃがの。二年間の詳しい情報はお前さんのアドレスへ送っておこう」

 

「ありがとう、マッチメーカー。情報の料金だが」

 

「いやいや、随分と懐かしい顔に会えたことじゃし、そもそも料金を貰う情報でもない。料金はいらん。じゃが……お前さんの復帰としてマッチでもどうかね?ベットでもいいがの」

 

目の前のドワーフがニヤリと口端を釣り上げる。

 

「……真剣勝負はまた今度にするよ。キティのやつが来たらよろしく言っといてくれ」

 

「ここの空気が懐かしくなったらいつでも歓迎しよう」

 

マッチメーカーに背を向けながら手を振り、リンクアウトする。

 

 

 

仮想世界から意識を現実世界へ戻し、ブースから出る。ビルを出る直前にニューロリンカーの効果音が鳴り、マッチメーカーからの情報がメールで届く。

 

「目を通すのは後でいいか。色々と買い込むものもあるし」

 

立体駐車場からバイクを取り出し、来たときの逆の順路で高円寺へ戻る。地下駐車場の所定場所へ愛車を停め、モールへ移動し買い物を始める。

 

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