アクセル・ワールド ~弾丸は淡く輝く~   作:猫かぶり

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Accel-4: Possibility

 

 

 

加速コマンドを叫び、現実世界を初期加速空間である青い世界へと変貌させる。

学校などの公共のフルダイブ環境用に設定している黒猫アバターは金色の鈴つきの尻尾をゆらゆらと揺らしている。

ブレイン・バーストのインストを起動し、マッチングリストをチェックする。リストには〈シルバー・クロウ〉〈シアン・パイル〉〈ブラック・ロータス〉の名前が準々に並んでいた。

そこからタッグを組んでいる〈シルバー・クロウ〉と〈シアン・パイル〉の名前を選び【DUEL】ボタンを手、今の状況では肉球のついた前足で押す。

 

 

 

薄黄色の空が広がり、見渡す限り赤茶けた巨岩が立ち並ぶ。〈荒野〉ステージが眼前に広がっていた。属性はそこそこ強い風が吹くだったかなと思っていると背後でガチャっと音が聞こえる。

 

「さて」

 

対戦相手の二人が巨岩の上からこちらを見ている。筋肉質な体躯でメタリックブルーの装甲、頭部は涙滴形のマスクで横に細長いスリット状の隙間がいくつも開き、青白い両眼が輝いているのがシアン・パイルだろう。

このブレイン・バーストには〈カラーサークル〉というものが存在する。アバターの色によって得手不得手がわかるのだ。

赤系統なら遠距離。黄系統なら間接。緑系統なら防御などと。その〈カラーサークル〉で判断するなら、シアンはかなり純粋な青系統。特徴は攻撃と防御に優れた近接型のアバター。

その後ろの小柄なアバターがシルバー・クロウ。全身が細く磨かれたように白銀に輝くアバター。頭部は流線型のヘルメット。そこでクロウの姿がブレる。

いや、懐かしい姿がダブって見えた。

 

「ファル……コン」

 

ひと言口にしてしまい、ハッとしながら首をフルフルと振りながら考えを消す。かつての顔見知りはこの世界にもう存在してなく、ある種の幻影なのだと思考をまとめる。

シルバー。つまりは銀色だが銀はそもそも〈カラーサークル〉上には存在しない。別枠、いわゆるレア色。〈メタルカラー〉と呼ばれ特徴としてはその色、金属としての特徴がそのまま反映されるのだ。

 

「あの……」

 

「大丈夫だよ……少し考え事をしていただけだから」

 

「それじゃあ始めましょう。プラチナ・バレットさん」

 

「よろしく頼むよ」

 

返事を返すとパイルの右腕が青く輝き肘から下をパイプ型の武装が包み込む。強化外装に内蔵されている尖った金属棒の先端が、ぎらぎらと剣呑な輝きを放っている。

 

「はっ!」

 

近づいてくるパイルに蹴りを放つ。だがパイルの外装に止められ、空いている左からのパンチが飛んでくる。それを回避しつつ距離を取ろうとするとガシュン!と鋭い金属音とともに右腕の外装に内蔵されている金属棒が射出された。左の肩へ金属棒の先端が掠めこちらのゲージを僅かに削る。

 

「驚いた……まさか飛び出すとは」

 

「先輩はぼくを近接と判断して近づいてくるのが分かってましたし、そこに予想外の攻撃を加えれば少しは効果があると思いまして」

 

「近接の強化外装だと思っていたんだけどね。まさか〈杭打ち機〉とは。アバターネームのパイルはそれだったか」

 

打ち出された杭が再装填されるのを確認しながら再び距離を取る。

 

「距離は取らせません。〈スプラッシュ・スティンガー〉!!」

 

ズドドドドドゥッ!!と機関銃じみた連射音とともに、幾多の杭が射出される。

近距離で喰らうのはまずいと判断し足の車輪を回転させ杭を避ける。

 

「ハル!今だっ!」

 

「なっ!?」

 

避けた先に待っていたかのようにクロウが立ちふさがる。いや、実際に予測していたのだろう。

 

「うぉおおおおお!!」

 

純粋な近接の格闘戦。飛行アビリティというそこだけに注目していたがそれだけではないらしい。どのアバターにも特徴、能力があり、それを昇華させながら戦い抜くのが格闘ゲームであり、このブレイン・バーストの本質だ。

〈飛行アビリティ〉それだけでレベル4になれるほど加速世界は甘くない。体力ゲージが一撃一撃を防ぐごとに確実に減っていく。

 

「っつ……なかなか、いい動きだね……でも少し遅いかな……〈ソニック・アクセル〉」

 

「えっ……?」

 

クロウの気の抜けた声を聞く前にバレットの脚、車輪がギュイン!と音を立て必殺技のライトエフェクトを光らせる。

 

瞬間デュエルアバターがシュンっと消える。

バレットの必殺技の一つ〈ソニック・アクセル〉。静止状態の車輪を瞬時にトップスピードまで加速させ超機動させる補助系統の技。

 

「ハル!後ろだっ!!」

 

パイルの声でクロウが反応するが少し遅い。

 

「ふっ!」

 

こちらに振り向きかけていたクロウの腹を蹴りつけ吹き飛ばす。クロウの体が地面に跡をつけながら転がる。

 

「がっ、く……しゅ、瞬間、移動なのか?目の前から一瞬で」

 

「そう万能な技じゃないよ。まあ掴み技や拘束技じゃない限り俺は止められないけど」

 

「ハル大丈夫かい?」

 

「ああ。ゲージを結構削られたけど、まだ戦える」

 

「なかなかいい動きだったよ。必殺技を囮にしてクロウへ向かわせるところや近接格闘。でもまだ本気じゃない。クロウの飛行アビリティも見てないしね」

 

「こっちもまだまだ戦えます!タク、いくぞ!」

 

「ああ、ハル!」

 

「じゃあ少しご褒美をあげよう。……弾丸を両手に」

 

その発声をトリガーに二丁の銀色の銃が両の手に収まる。

 

「銃?」

 

「ハル、ぼくが先輩を抑えておくから、君は上空から」

 

「わかってる」

 

その返事と同時にクロウの背中から白銀の光沢を持つ翼が現れ、クロウが重力に抗いその身を空へと羽ばたかせる。

 

「あれが……飛行アビリティ」

 

銀翼を開放し大気を震わせながら空を翔けるクロウの姿に不覚にも美しいと感じてしまう。空に憧れ最も空へと近づいた彼女のように。

 

「先輩、よそ見は禁物ですよ……〈ライトニング・シアン・スパイク〉!!」

 

必殺技の発声とともにパイルの右手武装の〈杭打ち機〉から青いライトエフェクトが輝き、一条の光線と化した鋼針が発射された。鋼針の先端がこちらに向かって伸び進む。

だが、それに当たってやるほどこちらも甘くはない。向かってくる杭を見つめながら前方へと駆け抜ける。

杭の先端が装甲に当たる直前に手に持つ拳銃の側面部分で杭の軌道を少しずらしながら前方にいる、目の前にういる無防備なパイルに向け片方の拳銃を突き出す。

 

「いい攻撃だったよ。シアン・パイル」

 

「……流石です。〈ミーティア〉さん」

 

トリガーを引き、撃鉄が落ち〈ジェミニーズ〉の大口径の銃口から轟音とともに空気の弾丸がパイルのボディへと吐き出される。パイルの体がポリゴンの断片を飛散させ、青い光の柱へと変わる。

その直後、キィィィィィンという振動音が聞こえ体を吹き飛ばした。

 

「ぐッ…」

 

装甲の一部が火花を散らせながら砕かれ地面に落ちる。

 

「上空からの急速降下の一撃か……鴉どころか鷲か梟、猛禽類の間違いだ」

 

体力を確認すれば両方ともゲージは半分以下。カウントも残り約五分程度。クロウは空中でホバーリングしながらこちらがどう動くのか警戒している。

 

「やっぱり飛行能力ってのは侮れないよ」

 

「い、いえ、そんな。先輩もすごいですよ。タクの必殺技と僕のダイブ・アタックで勝てると思っていたんですけど」

 

「まだまだ後輩にやられるほど落ちぶれてないよ……シルバー・クロウ、決着といこうか」

 

「はい!」

 

両手に握られた銃を地面に向ける。目線だけをクロウへ向けトリガーを引く。空気の弾丸が地面を大きく抉り、凄まじい推進力を与え俺を、プラチナ・バレットを空へと押し上げた。クロウの顔に表情こそわからないが驚きが現れる。

そこへ二つの銃口を向けトリガーを引く。空気の弾丸がクロウの装甲をかすめ火花を散らすがゲージの減りは少ない。

白銀の翼が大きく広がり高く上空へ飛翔する。重力に従い体が降下し、その無防備な状態に向かって銀色の光が上空から大気を切り裂きながら落ちてくる。

 

「う……おおおおおッ!!」

 

「〈リリース・ライト〉!!」

 

クロウの雄叫びとこちらの必殺技の発声が重なる。

クロウの急降下からの蹴りとこちらの必殺技の溜め蹴りが激しい光を撒き散らせながら互いに残されたゲージをガリガリと削り合う。

 

「やっぱり強いな、シルバー・クロウ」

 

「先輩も」

 

互いにマスクで顔の表情は見えないがいい笑顔をしているように感じた。

 

「今度は一対一で対戦しよう」

 

「はい」

 

「今回は……俺の勝ちだ」

 

ぶつかり合っていた脚を横凪に振るいクロウの銀色に輝く装甲を蹴り砕く。ゲージが一気にゼロに達し銀色の光へと変えた。

視界中央に【YOU WIN!!】の炎文字が燃え上がり対戦が決着する。

 

 

 

加速が終了し現実世界へと戻る。目の前には加速する前と同じ光景が広がっている。

 

「ハルユキ君、タクム君お疲れ様。ナイスファイトだったぞ」

 

「は、はい。でも負けちゃいましたけど」

 

「こっちもギリギリだったよ。それに勝つだけが対戦じゃない。負けてわかることもある」

 

「ユーの言う通りだ。タッグとはいえバレットのゲージを半分以上削ったんだ。誇ってもいい」

 

「でもぼくの必殺技も避けられるし……」

 

「最後は結構強引に空にまで追いかけてきましたし……」

 

黛君と有田君がすごい落ち込んでいる。

 

「なんか変なものでも見るような目はやめてくれ」

 

「ユーは銃さえなかったらただの速くて柔い金属だ。そう気にするな」

 

「なにそれ……すごい傷つくんだけど」

 

確かに強化外装なしなら速くて蹴りが得意な金属だがその言い方はひどい。

 

「何はともあれこれで条件はクリアした。ユー、これからよろしく頼む」

 

最後は何故か、いや納得できないことを言われながら〈ネガ・ネビュラス〉へと復帰を果たした。


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