異世界召喚勇者太郎(修正前) 作:悪多千里
「ふむ。これはあれか、もしかしてもしかすると異世界召喚ってやつか」
森の奥へと投げ出された状態で目を覚ました太郎はあたりを見渡すとそういいながら身を起こした。
ちなみにあのラジオはここにはない、探してみれど見当たらないのだから、仕組みが知りたかった太郎としては残念なことだが、あきらめるほかないようだ。工具セットはそこらに散らばっていたので、立ち上がっていそいそと回収していく。
続いてその場で飛んだり跳ねたりしてみた。体の感覚は以前と変わりない。チートはなしか、それともまだ使えないだけなのか。
太郎の頭の中では、ずいぶん前に読んだライトノベルがページを広げていた。妹に進められて呼んだそれはよくある異世界召喚物で、世界の危機を救うために呼び出された勇者がなんやかんやでハーレムを築いていたり最強になったりと、まぁ、感想を言えば結構面白かった。
妹に聞いてみたところ、どうやらいくつかのパターンがあるようで、その中にたしか突然知らない場所に飛ばされるようなものがあったはずだ。現実的に見れば誘拐だとかを考えるのかもしれないが、まだ若干混乱している、それも男子中学生に思い当たれというのも酷だろう。
気分の高揚を抑えながら、とりあえずここにいては何もならないと、地面を見てみるが、何の変哲もない深い森である。山のように斜面になっているわけでもないし、背の高い木の葉の覆われた頭上からでは太陽から方角を察することもできない。そもそもどの方角に行けばいいのかなどわからないのでわかったところでどうにもなりはしないのだが。
つまるところ、どこに向かえばいいのかさっぱりだった。
こうしている間にも時間は過ぎる。さすがの中学生にも夜の森が危ないというのはわかる。まず視界と足元が悪いので移動が不可能になるし、ここが夜冷えるところだったりしたら致命的だ。
わからないなら行動してみるしかないと、とりあえず今向いている正面に向かって進んでみる太郎だった。
しばらく歩いていると、何やら芝生のような背の低い植物が多くなってきたように思える。このまま人のいるところに出てくれればいいと願いながら歩を進めると、そこには一面の花畑が広がっていた。
「おぉ……」
都会とも田舎とも言えない生まれ育ちの太郎からしてみれば、ただの花畑というだけでもなんというか異世界感があふれる光景だと認識してしまう。妹といった日本の花畑も、ここまでのものではなかった。
そもそも森の中にある花畑だ。日本にあったとしても「異世界みたいだ」という感想がよぎるのではないだろうかと思う。
しゃがんでみてみれば小さな白い花がくっきりと見える。天然の絨毯のように敷き詰められたその植物は、意外に茎はしっかりしているようで、花の形は違えどシロツメクサのような印象を太郎に与えた。
まだ日は高い。このまま歩きとおすのもいいが、せっかくのこの場所をもう少し見ていたかったので、植物でできたこの天然絨毯に少し寝転がってみた。
空が高い。今のところ日本との差異はほとんど感じられない。もしかしたら召喚なんてされていないんじゃないかとふとよぎるが、その時はその時。とりあえず誰かに会えるまでの行動は変わらないと思考を振り払う。
物理的にも頭を振り、上半身を起こす。と、
「うぉあ!」「わぁあ!?」
目の前に赤毛の女の子が立っていた。女の子も驚いたようで、というかこちらを警戒しているようで、棒のようなものを太郎に向け身構えた。
先ほどの大声が恥ずかしかったのか、顔は若干赤く染まっていた。
勝気そうな釣り目の美少女だ。髪はボブ、半ズボンをはいていて、だいぶボーイッシュな感じだ。
口調と髪の編み込みも無ければ少年と間違えられそうだ。状況を放っておいて太郎は考える。
「何よあんた!どうやってきたの!?ここは町の人以外は許可取らないと入れない特別な……」
あ、言葉はちゃんと通じるんだ。太郎はどこまでもマイペースだった。