俺の彼女は幼馴染で婚約者   作:トッポの人

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第1話

 目の前で大切な幼馴染みの女の子が連れていかれる。重要人物保護プログラムというのでもう会えなくなるというのは分かった。

 その子も分かっているんだと思う。昨日も泣いてたのに目を真っ赤にして、小さなその肩を震わせて、今にも泣き出しそうにしているのを必死に堪えているから。

 

「箒!」

「冬夜……?」

 

 気付けばここら一帯に聞こえるくらいの大声を張り上げていた。

 名前を呼ばれて振り向く幼馴染み。普段はくりくりとした目だけど、やっぱり赤く腫らしている。

 

「俺が、俺が絶対に箒を探す! 何時になるか分からないけど箒を見つける! そしたら……!」

 

 大好きな幼馴染みと、箒とこんな顔して別れたくない。どうせ別れるならこの想いを言ってから。

 

「俺と結婚してください!」

 

 俺の姉弟や箒の姉、色んな周りの人達が驚く中、恥ずかしさで顔を真っ赤にしている中で――――。

 

「……はいっ!!」

 

 箒の顔はさっきと比べて遥かに輝いた素敵な笑顔で返事をしてくれた。

 

 

 

――――――

 

 

「見られてる、明らかに見られてる……」

 

 弟の一夏が顔を青くしながら後ろの座席にいる俺にぼそっと呟いた。それもそのはずだ。

 

「まぁ双子が珍しいんだろ……」

「いやいやいや。絶対それだけじゃないって、俺達が男だからだろ!?」

 

 ああ、そういえばそうでしたね。

 俺達がいる学園、IS学園は突如出現したISという超兵器を扱える女性を養成する学園だ。何故女性だけかというとISは女性にしか扱えないからだ。原因は不明、開発者も分からないと匙を投げている。そのおかげで女尊男卑とかいう風潮まで起こしている始末。

 

 そんな中俺達が現れた。ISを扱える二人の男性。俺、織斑冬夜と織斑一夏だ。俺達は世界の男性達の希望らしいんだが……。

 

「どうでもいいよ……。見たけりゃ見りゃいい……」

「お前……」

 

 呆れ気味に声をかけてくる一夏にぐでーっと机に突っ伏する俺。気付かれないように横を見るとポニーテールの見知った顔があった。

 

 篠ノ之箒、俺と一夏の幼馴染みであり、本人達の口約束とはいえ、子供の頃に結婚を誓った相手。

 

「……」

「あ……」

 

 ああ、まただ。また目が合ったのに逸らされた。

 何だ? 俺、何かしたのかな? 確かに子供の頃言った時は勢いというのもあったけど、でもあの気持ちに偽りは無かったし、今でも変わらない。さすがにあんなに大勢の前でもう一度というのは恥ずかしさに負けるがな!

 めそめそと一人心の中で涙を流していると教室の扉が開く音がした。

 

「すみませーん、席に着いてくださーい」

 

 何だかのんびりと穏やかな声が聞こえる。声のする方を見ると私服姿の女性が立っている。

 まさか彼女が教師なのか? 随分と若く見える。というよりも教師が生徒に向かってすみませんはないだろう。

 多分ここにいる全員がそう考えているはずなのだが、変な緊張感があって誰も何も言えない。

 

 その緊張感はこの自称先生にも伝わっており若干狼狽えている。……どちらにせよ、もう少し真面目にしますか。机に突っ伏するのをやめて、椅子に座り直す。

 

「じゃ、じゃあ、まず自己紹介ですね。出席番号順でお願いします」

「はい」

 

 返事したのは俺だけだった。クラスメイトに先生を加えた視線の射撃が始まる。心の底からやらかしたと思った。本当にもう大人しくしていよう。

 

「織斑一夏君?」

「はい?」

「あ、あのね、大声出しちゃってごめんね? 怒ってるかな? ごめんね、ごめんね! で、でも出席番号順で行くと次織斑君の番なのね? だから自己紹介してくれるかな?」

 

 涙目になりながらこっちに懇願してくる態度に再度教師かと疑ってしまう。

 一夏も一夏でテンパって話を聞いてなかったな。

 

「そ、そんなに謝らなくともちゃんと自己紹介しますから落ち着いてください」

「ほ、本当?約束ですよ。絶対ですよ!」

 

 何故かこちらに対して妙に腰が低い先生に詰め寄られ、たじたじになってしまう。

 これはこの人の性分なのだろうか? それともこういう世の中だから男性と会話するのが苦手なだけなのだろうか。

 

「はぁ……うっ」

 

 一夏は立ち上がりこちらに振り向くとその顔を思わずしかめた。

 改めてこの状況を確認してしまったんだろう。一面に映るクラス全員…俺を除いて本当に女子だけ。

 目線で必死に助けを求めてくるがさっさと言ってしまえばいいんだ。そうすればその一人舞台から降りられる。

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 ……え? それだけ? いやいや、いやいやいやいや、さすがにそれは無いだろ。見ろ、周りの人達もそこからの展開を期待しているぞ。言え、言うんだ!

 

「…以上です」

 

 一夏を除くここにいる全員が同時に肩を落とした。この馬鹿はそれを見て何やら感動しているようだ。

 兄として、家族として、ちょっと何か言った方がいい。

 

「お前、もう少し「この馬鹿者が」あっ」

 

 教室に乾いた良い音が鳴る。発生源は一夏の頭だ。その証拠に一夏が頭を抑えて悶えている。というか……。

 

「姉さん、何でここに」

「げぇ、関羽!?」

 

 今度は二回鳴った。俺と後ろを振り返った一夏の頭だ。い、痛い、凄く痛い。一回目も思ったがもしかしてあの出席簿で殴ったのか?

 それにしても一夏はともかく、何故俺の頭まで……。

 

「誰が三國の英雄か。ここでは織斑先生と呼べ」

 

 なるほど、公私を混同するなと言いたいのか。それ叩く必要あったのか?

 

「千冬姉、何でここにいるんだよ!?」

 

 三度目の良い音。今言ったのに、今言ったばかりなのに。さすが一夏さんや。身体を張って笑いを取りに行く姿勢、ほんま芸人の鏡やで。

 

「何度も言わせるな」

「……はい」

 

 今度こそ理解した一夏はさっきとは別の理由で頭を抱え込んで大人しくなった。

 

「あ、織斑先生。会議お疲れ様です」

「急に押し付けてすまなかったな、山田君」

「いえ、織斑先生のお願いでしたら……」

 

 何か頬を染めて姉さんを見つめ出す山田先生。え、そういう人?

 

「さて、改めて言うが今日から一年間諸君の面倒を見ることになった織斑千冬だ。私達の目標は君たちを一年で使い物の操縦者にすることだ。その間、みっちり鍛えてやる。私の言ったことはとにかやれ。出来ない者は出来るまでやる。いいな」

 

 うわぁ、凄い自己紹介来ちゃった。どこの軍隊ですか。

 

「「「キャーーー! 千冬様!」」」

「ずっとファンでした!」

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです。北九州から」

 

 俺達の姉はISの世界大会で全ての種目で優勝するという快挙を成し遂げている。しかも公式戦は無敗、憧れるのは無理もなかった。

 しかし姉さんはそれらを本当に鬱陶しそうな顔で見る。

 

「毎年よくもこれだけ馬鹿者共を集められるものだ。それとも私のクラスにだけ集中させてるのか?」

 

 いや、確かに煩いし鬱陶しいかもしれないけどそれを言ってはダメだろう。そう思っていたが何というか事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので……。

 

「きゃあああ! お姉さまもっと罵って! もっと叱って!」

「でも時には優しくして!」

「嘘ですやん……」

 

 何だか凄いクラスに来たな……いや、さっきの姉さんの言葉通りならこの学校が、か。本当に来てよかったのかと今更だが不安になる。

 

「喧しい」

 

 たった一言、鬼教官のたった一言により辺りは波紋のない水面のように静まりかえった。

 

「全く…初日からこれでは思いやられるな。山田君、続きを頼む」

「は、はい。えぇと、次は…」

 

 これから一年間世話になるのだからクラス全員の名前と顔くらいは覚えておかなくては。

 

「織斑冬夜君ですね」

「え゛」

「呼ばれたら直ぐに立て」

 

 おいおいおい、マジか、マジかよ、マジですかぁ!? あんな空気の後のトップバッターが俺とか……。いや、違う!

 

「はい」

 

 一夏の時とは全然違う。何故ならあいつが酷い自己紹介をしたからだ。あのあとならどんなのでも

 

「あれ? さっきと比べると普通」

 

 になるはず。

 立ち上がった後に勢い良く振り返ると何やら期待の眼差しでこちらを見てくる女性陣。

 何を言うのだろう? 面白い事でも言うのかな? と言わんばかり。

 あ、やべぇ。姉さんが来てたのをすっかり忘れていた。くそ、もうどうにでもなれ。

 

「織斑冬夜です。趣味は音楽鑑賞です。自分は皆さんに比べてISに関する勉強が遅れていますが追いつくよう頑張りますのでよろしくお願いします」

 

 ちょっと遅れてから起こる拍手。よ、良かった。印象は悪くないみたいだ。

 

「まぁお前にしては上出来だな」

 

 厳しい評価ありがとうございます、お姉様。さて、今度こそクラスの自己紹介を聞くとしよう。

 

 

 

――――――

 

 

「冬夜、ちょっといいか?」

 

 1時間目も終わった休み時間、幼馴染みに声をかけられた。先ほどまでは視線を会わせると直ぐに逸らすくらいだったのだが何があったのだろう?

 

「あ、ああ、いいけど」

「そうか。しかしここではな……」

 

 言わんとしている事は分かる。ただでさえ注目を浴びているのにその中で女子と話しているとなると更にだ。箒だって見せ物になりたくはないだろう。

 

「だ、だったら屋上に行かないか?外の空気も吸いたいし」

「そうだな、っと一夏はいいのか?」

「ああ、大丈夫だろ」

 

 先ほどとはまた別の理由で頭を抱え込んでいる一夏。それもそのはず、勉強が到底理解出来ていないからだ。

 入学前に渡された資料も一度も目を通すことなく捨ててしまい、今に至る。予習している俺でさえちんぷんかんぷんなのに。

 それにしてもやっぱり怒ってるのか? 一緒に行くというのに横に並ばず前方をずんずん進んでいく。

 

 ふと箒が引っ越す前の事を思い出した。昔は俺の後をついてきていたのに、今ではその逆か。何だか懐かしい。

 

「は、話ってなんだ?」

「う、うむ…」

 

 さて、屋上へ来たわけだがまた黙ってしまった。やっぱり何か怒っているのか? 何故かは分からないが謝った方がいいな。それにしても…。

 

「な、何だ?人の顔をジロジロと見て」

「いや、綺麗になったなぁと思って」

「き、ききき綺麗!?」

 

 あ、つい本当の事を言ってしまった。

 瞬間湯沸し器みたいに顔を真っ赤にした箒が目を逸らして呟いている。

 

「全く、相変わらず突拍子もないことを言うなお前は」

「でも本当だ。教室で見た時だって一瞬分からなかったぐらいだ」

「うぅ…そ、そういえば何故分かったんだ?あれから結構経つのに」

「それは相手が箒だからだ。他の人だったら分からなかったよ」

「~~~!!」

 

 ありゃ、また顔真っ赤にして。

 

「でも良かった」

「な、何がだ?」

「箒が怒ってないみたいで」

「……何故私が怒ってると思ったんだ」

 

 一転して今度は膨れっ面になる箒さん。それもまた可愛い。

 

「だって俺の事無視するし、視線合っても直ぐ逸らされちゃうから何か怒らせたのかなって」

「あ、あれは……」

 

 モジモジして言葉を詰まらせる箒さん。

 何だ、何だよ、何ですかぁ!? その仕草はぁ!? もしかして俺を萌え殺す気ですかぁ!?

 

「あ、あんな別れ方を子供の頃とはいえして、しかもはいと答えてしまったのだぞ!? ましてや私だけ覚えていたとなっていれば、どんな顔すればいいかなんて分かるか!」

 

 がーっと捲し立てるように言ったせいか肩で息してる。

 何だ、そういうことか。つまり箒は自分は覚えているが俺はその約束を忘れていると思ってああいう態度を取ったのか。

 

「な、何だ。ニヤニヤして」

「いや、覚えてくれて嬉しいなぁと」

「~~!! ふんっ、どうせ子供の頃の話だろう!」

「ううん、そんな事ないよ」

「え、ふぇ!?」

 

 驚いて変な声が出てるぞ、と言える余裕なんか無かった。だって大好きな箒を抱き締めて落ち着けと言う方がどだい無理な話だ。

 

「俺は今でもあの時の気持ちと変わらない。箒が大好きだ。そしてそれはこれからも変わらない」

「と、冬夜……」

「本当は俺が想像してたシチュエーションと違うんだけども言わせて欲しい」

 

 心臓の鼓動が煩い。それがくっついているせいで俺のか箒のかすらも分からない。

 

「俺と結婚してください」

「!」

「この先、しわくちゃのお爺さんとお婆さんになっても俺の側で笑っていて欲しい。きっと笑顔にさせる。だから……」

「……」

「返事を、聞かせてくれないか」

 

 言った。遂に言った。あれから五年、長かったようで短かった。

 あれ、今更になって怖くなってきたぞ? もしもこれで返事がはいじゃなかったら……か、考えたくもない! し、しまった、もう少し時間を掛けてから言うべきだったか!?

 

「い、良いのか? 私は剣道しか取り柄のない女だぞ?」

 

 不安に押し潰されそうになってると漸く返事がきた。箒も若干不安なのか、身体が震えている。それを抑えるようにもっときつく抱き締めた。

 

「そんな事言ったら俺は何の取り柄もない。箒みたいに全国で優勝もしてないしな」

「し、知ってたのか」

「これでも新聞は読むようにしてるんだ」

「そうか……」

 

 軽くおどけてみせたがあまり効果は無かったらしい。

 

 そして静寂。端から見れば恋人同士が抱き合ってるように見えるがその実、ただ男が求婚してるだけに過ぎない。その後そうなるかどうかは箒しか知らないんだ。

 と、箒の震えが止まり向こうからも抱き付くように身体を預けてきた。未だにその顔を真っ赤にして。

 

「その……こ、こんな私で良ければ……」

「――――」

「と、冬夜?」

 

 箒が口にした返事に俺の時が止まるも、声をかけてきた愛しい人の声にはっとする。

 

「あ、ああ!! もう離さないからな!」

「と、冬夜痛い……」

「ご、ごめん。でも……やったあああああ!!」

「きゃあ!?」

 

 嬉しさのあまり全力で抱き締めてしまった。何とか取り持つも我慢出来ない! 今度はお姫様抱っこしてくるくる回り始める。

 

「冬夜、降ろしてくれ! さすがに恥ずかしい!」

「ごめん、ごめん! でもこの喜びをどう表現していいかわからないんだ!」

 

 ひゃっほう! 今日は何て素敵な日なんだ! あなたがいいねと言ったから今日は俺達記念日!

 

「全く、しょうがない奴だ……」

 

 そういう箒も満更でもなさそうな表情を浮かべている。このまま俺達は授業開始の鐘がなるまで続けていた。

 授業開始の鐘は俺達のこれからを祝福してくれているようだった。

 

 

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