俺の彼女は幼馴染で婚約者   作:トッポの人

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すみません、他の作品だったり、これのR18のこと考えたり、我に返ったりしてたら遅れました。


第10話

 生活を改めようと言った翌朝。彼の腕の中というこの学園に来てからはいつもの、そして私が考えうる最高の状況で目が覚めた。

 

「ふふっ」

 

 目の前にはまだ幼い子供のような顔で眠る彼の顔。見ているだけで笑顔になれた。相変わらず私を幸せな気分にしてくれる。何度見ても、どれだけ見ていても飽きることなんてない。

 

「しかし、暖かいな……」

 

 心地好い春だからだろうか。布団の中は程よく暖かく、起きたばかりだというのに怠惰な眠りへと誘ってくる。

 それは彼に近付けば近付くほどに暖かく、より強く怠けさせようとしてくるのだ。まるで甘い蜜がここにあるぞと言っているようでもある。明らかな罠だ。だが、そうだと分かっていても引っ掛かるのが恐ろしいところで。

 

 ……と、ダメだダメだ。今日から自重すると決めたのだ。言い出しっぺの私が我慢出来ないでどうする。

 

「よしっ」

 

 彼に笑われないためにも小さく気合いを入れると、起きないよう静かに布団から出ることに。

 まずは朝食を作るとしよう。作っている間に彼も起きてくるはずだ。私が作った料理に目映いばかりの笑顔を浮かべて。

 

「よしっ!」

 

 その姿を想像するだけで頑張る気になれる。もっと美味しいものを作ろうと思えるのだ。彼のために。料理を覚えていて本当に良かった。

 

「んー……あれ? 箒……?」

 

 制服に着替えて、下ろしていた髪を結い、エプロンを着けて台所に立っているとベッドの方からモゾモゾと物音が聞こえてくる。

 顔を向ければ寝癖でところどころ髪が跳ねた彼が必死に未だ眠たそうに必死に目を擦って私を探していた。そんなあどけない仕草に悶えそうになったのは秘密だ。

 

「ん、んん! 漸く起きたか」

「おはよう……あ、そっか。今日からか」

 

 寝惚けた頭を働かせて、朝私がベッドにいなかった理由を思い出したらしい。少し寂しそうに見えたのは気のせいではないだろう。

 しかし、千冬さんに認めてもらい、これから先も一緒にいるためだ。ここはお互い我慢しなくてはならない。

 

「ああ、おはよう。そうだぞ。今日から私達は節度を持って生活するのだ。共に頑張ろう!」

「おー……」

 

 彼の気の抜けた声と力なく上げられた腕を見ると幸先不安だ。この調子では直ぐに根を上げてきそうな気もするが、眠たいだけだと信じよう。

 

「とりあえず目を擦るのをやめて、顔を洗ってこい」

「うん……」

 

 のそのそと起き上がり、着替えを手に洗面所へと向かった。そしてタイミング良くご飯が炊けたと炊飯器が報せてくれる。彼も起きたことだし、朝食を盛り付けていこう。

 

「おお、今日も凄く美味しそうだ」

「そうだろう、そうだろう」

 

 テーブルに並べられた朝食を見て彼がそう口にした。ボサボサだった寝癖も寝惚けた目も直り、いつもより嬉しそうに微笑む彼を見て私も頬が緩んだ。手間暇掛けた甲斐がある。

 

「箒」

「あ……ぅ、ん……」

 

 すると、彼が近寄って優しく頬を撫でてきた。暖かい彼の手で撫でられているとこちらからもすり寄ってしまう。起きてから時間が経つというのにまた夢見心地にさせてきた。

 顔を見ればこちらを真剣な眼差しで見てくる彼がいた。こういう時に真面目な表情をするのはずるい。

 

 私はされるがまま、目を閉じてじっとその時を待っていた。と、直ぐに唇に柔らかな感触がやってくる。何度も経験した大好きな彼の唇だ。

 どれくらい経っただろうか。いつも通りたっぷり彼の感触を味わってからお互い顔を離した。目を開ければ、これでもかというほど幸せを噛み締めた彼の顔があった。私も似たような顔をしているのは想像に難くない。

 

「おはよ」

「おはよう」

 

 改めて朝の挨拶をしてから私達は朝食に手を付けた。

 

 

――――――

 

「つまりここはですね――――」

 

 山田先生の声が教室に響く中、私は授業中にも関わらず横目で冬夜を見つめていた。別にカッコ良くて見つめている訳ではない。私とてそんな惚気るほど浮かれてなんていないのだ。

 ……いや、まぁ確かにカッコ良いのは本当なのだが断じて私は惚気ていないし、今はそうではない。では何故見つめているのか? 答えはこの一言に尽きた。

 

 ――――物足りない。

 

 朝は起きてからと出掛ける前にいつも唇を重ねていたが、今日は起きてからのみ。しかもこれまで数度はしていたのを今日はたった一度だけ。

 一度してしまったからと抱き締めてもらうのもしなかったし、色々と物足りなかった。

 そう感じるのは私だけなのだろうか? 今も何でもないようにしている彼はどう思っているのだろうか?

 

「ん……」

 

 ふと人差し指で唇をゆっくりなぞってみる。いつも朝一番に彼の唇が触れる場所だ。物足りなさからついつい始まったものだが、欲求は満たされない。むしろ強まるばかりだ。

 

「はぁ……」

 

 それでも止められない。漏れでる吐息は熱に浮かされたように熱く、彼に向けられる視線も熱くなっていく。

 

「ほ、箒さん?」

「っ……!」

 

 その時、彼がこちらへ向いてくれたのだ。それだけではない、声も掛けてくれたのだ。嬉しさで心臓が跳ね上がる。

 もしかしたら平気そうに振る舞っていただけで、彼もこの物足りなさを感じていたのかもしれない。証拠に彼の頬がうっすら赤く染まっていて……。

 

「あ、あの……篠ノ之さん?」

「え?」

 

 と、そこで今度は山田先生に声を掛けられた。一体何だろうか?

 

「はぁ……篠ノ之、授業中に男を誘惑するな。時間と場所を弁えろ」

 

 千冬さんにそこまで言われて気が付いた。彼は勿論のこと、辺りを見渡せばこのクラスの誰もが頬を染めて私を見ていることに。あの鈍感の一夏でさえも。例外なんて千冬さんくらいだった。

 

「す、すみません……」

 

 顔が熱い。恥ずかしさでどうにかなりそうだった。小さく縮こまるが、それでも向けられる視線に穴が空きそうだ。

 彼だけならともかく、クラスメイトやよりにもよって一番知られたくない千冬さんに知られてしまうとは情けない。彼はちゃんと我慢出来ているのだから、私も見習って我慢しなくては。

 

 授業が終われば直ぐに彼がこちらに来てくれた。心配そうにしているのは気のせいではないだろう。

 

「箒、大丈夫?」

「な、何がだ。私は平気だぞ」

「……本当に?」

「う、うむ。それよりも早く行こう」

 

 何とも恥ずかしいところを見せた私は早々に彼と共にこの場を離れたかった。未だ頬を赤らめて私を見てくる女子達から逃げたかったのだ。昼食時だし、ちょうどいい。

 

「何処行こうか?」

「天気も良いし、屋上に行こうっ」

「わ、とと」

 

 二人分の弁当と彼の手を握り、そそくさと教室を後にして屋上へ。

 

「うぅむ、相変わらず誰もいないな」

「そ、そうだね……」

 

 屋上に着くと相変わらず誰もいない。私達が利用し始めたころは誰かしらがいたのだが、気付けば私達専用の場所となっていた。

 ベンチに腰を降ろすも先ほどから彼の様子がおかしい。しどろもどろになっている。

 

「冬夜? 先ほどからどうしたのだ?」

「え、あ、う、うん……」

 

 むぅ、何だというのだ。

 

「その、さっきから箒が何か近いというか密着してるから……」

「え? っ!!?」

 

 言われるまで分からなかった……。私は彼にぴっとりと寄り添っていた。肩は勿論、太股も触れ合っている。

 これは確かに密着していると言ってもいい。というよりはそれ以外言いようがなかった。

 

「す、すまない。何をしているのだ、私は……」

 

 慌てて離れるが、本当に何をしているのだろうか。自分から禁止と言って、自分で破ろうとしている。たった半日足らずでこれだ。全くもって度し難い。

 

「いや、いいんだけど……本当に無理してない?」

「ああ、勿論だとも」

 

 そうだ、無理なんてしていない。ただ私の頑張りが足らないのだ。ここで踏ん張らなくては彼との明るい未来が閉ざされてしまう。頑張らなくては。

 

 

――――――

 

「箒、本当に大丈夫?」

「な、何のこれしき。大丈夫だと言っているだろう」

「……そっか」

 

 就寝も近付いてきたころ、彼は今日何度目になるか分からない質問をしてきた。それに対して私も何度目になるか分からない答えを返す。

 彼がそういうのも無理もなかった。普段の習慣からねだってしまったが、帰ってきてからいつもしていたお帰りのキスも、宿題が終わってからしていたキスもしていない。彼が我慢しているのだ。私も耐えねばなるまい。

 

「もう就寝時間だ。静かに、寝ろよ?」

 

 と、千冬さんがやたら静かにを強調して廊下を歩いていく。もし破ったら……と無惨な姿を想像させられてしまう。

 だが、今の私にはそんなのは関係ない。待ちに待ったこの時間がやってきたのだから。

 

「俺達もそろそろ寝ようか」

「っ、うむ! そうだな!」

 

 彼の言葉につい過剰に反応してしまった。そうだ、寝る前となればいつもの口付けが始まる。定めたルールに則って正式に抱き締めてもらえるのだ。

 

「冬夜っ!」

「おっと」

 

 正面から勢い良く抱き着く。待ちくたびれたこの瞬間に喜びを隠せない。

 ただ朝起きてから彼と抱き合っていないだけなのに、もうずっと前からしていなかったような錯覚さえする。漸く彼の腕の中に戻ってきたのだと。

 

「冬夜」

「はいはい」

 

 私の口から甘く囁かれるのは彼の名前。そんなつもりもなかったが、自然と求めるように出てしまった。それに応えるように彼の唇がそっと触れる。と、その時だった。

 

「おい、さっさと寝ろ」

「うわぁ!?」

「きゃあ!?」

 

 突然扉を開けてきた千冬さんによって中断させられてしまった。き、貴重な一回がこんなにあっさりと……。

 失意の中、千冬さんが出ていってから彼が微笑んで問い掛けてきた。

 

「もう一回する?」

 

 思わず息を呑んだ。何と魅力的な提案なのだろうか。しかし、しかしである。

 

「だ、大丈夫だ」

 

 ここは耐えなくてはならないところ。きっと千冬さんが来たのもしっかり耐えてみせろということなんだろう。

 

「……そっか。じゃあ寝ようか」

「うむ……」

 

 寝る前の行為も終えればあとは寝るだけ。一緒のベッドに入ろうとして別々に寝ると言ったのを思い出して、慌てて使ったこともないベッドへと移った。

 

「「お休み」」

 

 ベッドの中で顔を見合わせてそう言うと、彼は仰向けに大の字になって寝始めた。物足りなさもあるが、我慢して私も寝よう。

 

 あれからどれだけ経っただろうか。一時間か、二時間か。どちらにせよ目を瞑っていても一向に眠たくなる気配すら見せない。時計を見てまだ十五分しか経っていないのを知って少し驚いた。

 

 一人で入るベッドは春だというのにとても寒く感じた。彼が目の前にいるのにとても遠く感じる。寂しくてしょうがない。

 彼と再会する前よりももっと辛い。でも私が言い出したことなんだ。最後までやらないと……。でもせめてこれぐらいは許してほしい。

 

「冬夜……」

 

 彼を想って、彼の名前を口にする。そうすれば少しはこの寂しさも誤魔化せるかと思ったが、より寂しさは募っていくだけ。逆効果でしかなかった。

 

「呼んだ?」

「え?」

 

 と、思いきや仰向けになって寝ていたはずの彼が片目だけ開けて問い掛けてきた。眩しいばかりの笑顔も添えて。

 

「な、何で起きて……」

「いやー、俺も箒いないから寝れなくて」

「わ、私は別に冬夜がいなくても……」

 

 そう言うと、彼は起き上がってこちらのベッドに近付いてくる。何をするかなんて直ぐに分かった。

 

「だ、ダメだ。別々に寝ると約束しただろう」

「そうだけど……我慢出来なくなっちゃった」

 

 一言だけ謝るとベッドに入って私を抱き寄せた。あれだけ寒かったこのベッドが一気に暖かくなる。

 

「あー、やっぱりこうすると温いですなー」

「ダメだ。ダメなんだ……」

 

 上機嫌そうな彼の声に私も嬉しくなるが、寸でのところで思い止まる。

 甘えてはいけないのだ。拒否しなくてはならない。ダメなんだと言わなくてはならない。

 それさえも無視して、彼の手が優しく後ろ髪を撫でながら話してくれた。

 

「言ったでしょ? 辛くなったらいつでも助けるって」

「私は辛くなんて……」

「自分にまで嘘吐いて楽しい?」

「うっ」

 

 見透かされている……。

 

「俺はね、姉さんや一夏に無理してる箒じゃなくて、いつもの箒を知ってもらいたい」

「いつもの私、か?」

「そ、優しくて俺に甘えてくれる可愛いお嫁さんをね」

「で、でもそれでは……んぐ」

 

 千冬さんに認められないかもしれない。そう言う前に人差し指で口を塞がれた。

 

「箒が無理してると俺が怒られちゃうよ。好きな女に辛い思いさせてこの馬鹿者がって。実際、放課後問い詰められたしね」

「そ、そうなのか?」

「うん。ちゃんと彼氏としての務めを果たせだって」

 

 だからと、更に抱き寄せられる。彼の首元に顔を埋めるような形となり、強制的に甘えさせられた。ぐらぐらと揺らいでいた思いがより大きく傾くのが分かる。そしてダメ押し。

 

「だからいつもに戻ろうよ。俺に箒を幸せにするっていう彼氏としての務めを果たさせてほしい」

「……冬夜!」

 

 そんなことを言われれば我慢なんて出来るはずもなかった。彼に密着すると私の方から口付けをした。

 

「好き……好きだ……」

「俺も、好きだよ」

 

 時折お互いに愛の言葉を囁きながら口付けしていれば、日付を跨いでいるのにすっかり気付かなくて二人とも翌日寝坊してしまった。

 でもこれが私達らしくて、お互い笑って空腹のままこの部屋を出ることに。お腹は空いていたが、心が満たされていたので辛くはなかった。

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