俺の彼女は幼馴染で婚約者 作:トッポの人
初めて箒と出会ったのは小学校に上がる前、一夏と一緒に神社で開いている剣道場へと姉さんに連れていかれた時だった。
一夏と違って俺は剣道になんか全然興味なくて、ずっとどうやってこの退屈な時間を過ごそうかと考えていると。
「やぁっ!」
そこに一生懸命に竹刀を振っている彼女の姿があった。その時は何でその姿から目を逸らすことも出来ないのかが分からなくて。ただその姿を見ているだけで、あっという間に時間は過ぎた。
今にしてみれば、きっとあれが一目惚れだったんだと思う。後にも先にも初対面でああなったのはこの一度だけなのだから。
結局俺は剣道をやらなかったが、俺とは逆に予定通り剣道をやることになった一夏に付き添う形でほぼ毎日道場へ。そうして箒と話していく内に、知っていく内に、どんどん好きになっていくのが分かった。
いつもどこか寂しそうで、でも笑うと本当に華が咲いたように明るく綺麗で。傍にいるとこちらまで笑顔にさせてくれる。
何事にも一生懸命で、特に剣道に関しては凄く真摯に向き合っていて。そんな彼女を応援出来るのが嬉しかった。
ここまで来るのにも、そして気付くのにも時間は掛からなかった。俺は彼女が、篠ノ之箒が心の底から好きだということに。
「 大丈夫か?」
「あんまり大丈夫じゃない……」
三限目が終了した直後、先程と比べて大分友好的になった箒がこちらに来た。未だに好奇の視線に曝され続けている一夏は机に突っ伏してぐったりしている。
俺? 俺は箒との婚約が出来てそれどころじゃないね! 未だに笑顔が止まらないし。
そのせいで一夏はともかく、他の人から若干どころか、かなり引かれちゃってるもんね。どうにかしたいんだけどこればっかりはしょうがない!
「ちょっとよろしくて?」
そんな浮かれ気分の俺に尋ねてきたのは端から見てもお嬢様の空気を漂わせた女性だった。箒は結構人見知りがあるからちょっと警戒してる状態へ。
「どうしたの、オルコットさん」
「…………まぁ、及第点といったところですわね。最低限の礼節は弁えているようですし……ただその顔はどうにかなりませんの?」
「ごめん、今日は無理なんだ!」
こんな感じに引かれるんだよ。でも一切構わない。俺には箒がいるからね!
「んで、そのオルコットさんは何の用で来たんだ」
さっきまで頭を抱えていた一夏が振り返り、僅かながら怒気を含めて言った。こいつは女尊男卑をひどく嫌っている、というよりもISが女性にしか扱えない事を良いことに力を振りかざす人が嫌いだ。
まぁ簡単に言うと目の前の彼女がそうなんだけど。彼女の場合は代表候補生という事もあって余計に拍車がかかってる。
あ、ちなみに箒さんも若干怒ってらっしゃいます。礼節を重んじる武士道まっしぐらな箒さんにとって今の上から目線は気に食わない言葉。まだ怒鳴り付けない分ましになった方だ。
それらを感じ取れなかったのかオルコットさんはわざとらしく声を上げた。
「まぁ、何ですのその言い方は! わたくしに話かけられるだけでも光栄なのですからそれ相応の態度があるのではなくて?」
「あはは。ごめんね、オルコットさん」
「あなたもさっきから何で笑ってるんですの? 全く、薄気味悪い!」
「ほう……冬夜の事を知りもせずによくもまぁそれだけ言えたものだ。人に礼節を言う前に自分を省みたらどうだ?」
あ、箒さんの殺る気スイッチが入った。オルコットさんに対して敵意剥き出しの目で睨みつけてる。擬音を付けるとしたらぎろりだね!
「うっ……」
ここまで露骨になればさすがに感じ取ったのかオルコットさんが狼狽える。まるで蛇に睨まれた蛙みたいだ。
少しオルコットさんが可哀想に思えてきたので落ち着かせよう。
「まぁまぁ。箒も落ち着いて、ね?」
「お前は……! 自分の事なんだぞ!? 何故そんなにものほほんとしていられる!?」
止めに入ると今度は俺が怒られる。
何故と言われてもね、箒は知ってるはずなのになぁ。
「五年間ずっと夢に描いてた事が現実になったんだ。こんなこと言われた位じゃ全然怒る気にもならないよ」
「あ、くっ、うぅぅ……」
「???」
屋上でのやり取りを思い出したのか、また真っ赤になって俯いた。うん、とりあえずはこれで大丈夫だ。 一夏は相変わらずだけど、放っておこう。
「もう大丈夫だよ。ところでオルコットさんは何か用があったんじゃないの?」
「え、ええ……」
箒に気圧されちゃってた彼女だったけど、その箒の毒気は抜いたので今は無害だとわかると咳を一つ払い、立て直した。
「こほん……とにかく、わたくしのような代表候補生に選ばれた人間とクラスを同じくすることだけでも奇跡、幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「「はぁ」」
何とも言えない生返事が思わず一夏とハモってしまった。まさかこの人が正直ここまで立て直すとは思ってなかったからびっくりだ。
「でもさ……あ、やっぱりやめとくね」
「何ですか。言いたいことがあればはっきりと言いなさい」
うぅん、でも言っていいのかな? これ確実にダメな気がするけど、本人が言えって言ってるんだからいいんだよね?
「代表候補生よりも世界で二人しかいない男性IS操縦者の方が希少価値高いと思うよ?」
「ぷふっ……そうだな、言い方変えると俺達は選ばれた人間になるな。普通に考えればそっちの方が幸運じゃないのか?」
俺の答えに思わず一夏が吹き出して笑った。周りを見ると何人かが笑いを堪えているのが分かる。
だってそうだろう? 今後現れるかどうか分からない俺達男性IS操縦者と一つの国に何人かいる代表候補生、どちらと一緒にいるのが珍しいかなんて一目瞭然だ。
羞恥に染まったオルコットさんが怒鳴るのも時間の問題だった。
「あなたは……! わたくしを馬鹿にしていますの!?」
「だから言うのやめようとしたのに。ごめんね?」
まぁ、これはさすがに俺が悪いから謝ったけどそんな程度では鎮火してくれそうにもない。
「そっちも馬鹿にしてきた癖に何言ってるんだ。これでお相子だろ」
「あ、ちょ」
一夏、何故火に油を注ぐような事を……。
「あなたは……!」
「何だよ」
一夏とオルコットさんが一触即発の空気になった所で四限目の授業開始を知らせるチャイムが鳴った。 と同時に恐らくオルコットさんが怒鳴り始めた辺りから集まっていたギャラリーも自分の席やクラスに戻っていく。
「オルコットさんも戻った方がいいんじゃない?」
「くっ…あとでまた来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」
「へいへい」
何か面倒な事になってきたなぁ。オルコットさんもまたこっちに来るなんて言ってたし。次って昼食なんですけど? 俺は昼食は静かに過ごしたいぞ。……一夏に任せて箒と食堂行こうかな。
「ああ、そういえば授業の前に今度クラス対抗戦を行う代表者を決めないといけないな」
クラス対抗戦? あらやだ、何そのちょっと物騒な催しは?
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席…まぁ、クラス長だな。クラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないが競争は向上心を生む。ちなみにクラス代表者は一度決まると一年間変更はないからそのつもりでいろ」
おおう、想像以上に面倒な役割だ。クラス対抗戦だって一度だけじゃないだろうし、他の催しにも何かにつけて呼ばれるみたいだ。絶対なりたくない。
「はい、織斑くんを推薦します!」
「私もそれがいいと思いまーす!」
そして続く私もという声。いやいや、まだ慌てるような時間じゃない。織斑は二人いるんだからな、一夏がやれば俺は何の問題もない。きっと一夏を推しているのだろう。
「織斑は二人いるが……まぁ両方候補にしておくか」
「「えぇ!?」」
おぉい、姉さん!? 思わず二人してハモっちゃったよ!? 一夏のやつも俺を推していると思ってやがったな!?
「すいません、辞退させてください」
「駄目だ。何のための推薦だと思っている」
くそぅ、周りの人達も自分がやりたくないからって好き勝手してくれちゃって。
「待って下さい! 納得いきませんわ!」
そう言って勢い良く机を叩いて立ち上がったのは先程一夏と揉めていたオルコットさんだった。
そうだ、俺も納得出来ないぞ! こういうのはもっと平等にやるべきだ!
「実力からいけばわたくしが代表になるのは必然。それを物珍しいという理由だけで極東の猿にされては困ります! わたくしがこのような島国に来たのはサーカスをするためではなくてISの修練のためですわ!」
俺達だって好きで物珍しい猿になったんじゃないやい。
「いいですか!? クラス代表は実力トップであるこのわたくしがなるべきですわ!」
そろそろオルコットさんを止めないと目の前の一夏が、あと横を見ると明らかに怒っている箒が言ってまた一騒動になってしまう。では皆さんお手を拝借。
「大体文化としても後進的な国で暮らさなければならない事自体、わたくしには耐え難い苦痛で――――きゃ!?」
教室に木霊する破裂音に呆気に取られていた他の人だけじゃなく、さっきまで威勢の良かったオルコットさんも身をすくめる。
やべぇ、ここまで大きい音出るとは思わなかった。あ、ちなみに今のは俺がただ手を叩いただけだよ?
「落ち着いた? じゃ、話をまとめようか。俺や一夏は代表になりたくないけど推薦されて代表者の選抜から辞退出来ない。でオルコットさんは代表になりたい。ここまではいいかな?」
「え、ええ」
何か滅茶苦茶大人しくなったな。とりあえず話を続けよう。
「そもそも俺と一夏の二人いる時点で何かしらの方法で代表を決めないといけなかったんだ。二人が三人になった所で変わらないよ。で、その決める方法だけど……ジャンケンじゃ駄目ですよね?」
「お前はここを何処だと思っているんだ? そんな小学校みたいな方法があるか。一週間後にアリーナの使用を予約してある。そこで決めろ」
ですよねー。いや、本当に聞いてみただけです。
「ああ、それと織斑の二人には学園から専用機が用意される」
姉さんのその一言に周りがざわつく。俺だって驚いてるさ。多分分かってないのは目の前のこいつだけだろうよ。
「専用機ってそんなに凄いのか……?」
思わず顔を隠してしまった。やめて、やめてよ一夏さん。そういうのほんと恥ずかしい。幾らあの分厚い教本捨てちゃったからってそれは知らなすぎだよ……。
「あの、一夏さん? この教本のこのページ音読してみて」
「え、何でそんな他人行儀なの? えっと……」
簡単に言えばISのコアは全部で467しかない。その製造法も箒の姉である篠ノ之束さんしか知らないし、製作を中止しているため非常に希少な存在だ。その中で専用機を持つというのはこれ以上ない特別待遇だ。
「「はぁ……」」
今度は姉さんと息を合わせて溜め息を吐いた。こんな状況で大丈夫なのかな?
午前中、最後の授業が終わって漸く昼食だ。
箒と付き合えると分かって安堵したのもあって、お腹はペコペコ。
「というわけで一緒に食堂に行こう!」
「何がというわけなんだ?」
「さぁ?」
まぁまぁと箒と一夏を連れて食堂へと歩き出す。本当は箒と二人で食べたいけど初日だし、幾らなんでも一夏が可哀想だしな。和食定食をトレイに受け取ると空いてる席に座った。
「それにしても大丈夫なのか?」
「何が?」
「一週間後の代表決定戦だろ。クラス代表なんてやりたくないけどなぁ」
「あぁ、負けたくもないからな」
どんな理由があっても真剣勝負に手を抜くのは相手に失礼だ。それに俺達は負けず嫌いだから出来るなら勝ちたい。でも練習したいけど今から訓練機の申請しても受理されるまで時間かかるし、どうしたもんかね。
「せめて勝負勘は身に付けて置きたいな」
「だ、だったら放課後道場に行かないか? 勝負勘なら剣道でも身に付くぞ?」
成る程、強ち間違いはない。しかも全国一が相手になってくれるのならより良い結果になるだろうし。
それに今日付き合うとなったのに直ぐに離ればなれは寂しすぎるからね。箒も妙にそわそわしてるから同じ気持ちのはず。
「じゃあ、お願いするよ。一夏もそれでいいよな?」
「んー……俺はいいんだけどいいのか?」
ぅん? 何が言いたいんだ?
どうにも要領を得ない答えに俺の代わりに箒が食い付いた。
「何の話だ?」
「二人の邪魔にならないかなってさ」
と、そういう事か。こいつはこいつなりに俺と箒が付き合ってるのに気付いてたのか。だから昼食誘ったときも微妙に素っ気なかったのか。
「大丈夫さ。見てない所でイチャイチャするから」
「い、イチャイチャだと!? は、ははは破廉恥な!!」
顔真っ赤にして言ってくるけどちょっと嬉しそうなの分かるよ?
「まぁそれならいいんだけど……からかうのは程々にな」
まさか一夏にそんなこと言われるなんて何かショック。