俺の彼女は幼馴染で婚約者   作:トッポの人

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第3話

 放課後に箒との練習を終えた俺達は姉さんに呼び出されて職員室へと向かっていた。

 何でも、今後に関わる大切な話だから直ぐに来るようにとのこと。

 

「いてて……。箒の奴、もう少し手加減してくれよ……」

「ごめんな。あとで言っておくよ」

「……やんわりとでいいからな」

 

 打ち込まれたところを擦りながら一夏がそう呟く。俺は元々剣道をやっていなかったのでそうでも無かったが、箒達が引っ越してからすっぱりやめていた一夏は弛んでいると言われて徹底的にしごかれていた。

 ちらちらとこっちを見ていたから多分俺に良いところを見せようとして張り切ってたっぽい。一夏には悪いが、そういうところも好き。

 

「「失礼します」」

「ん、来たか」

 

 さてさて、ボロボロの一夏を連れて職員室に辿り着いた。座して待ち構える姉さんにはやたら貫禄があるように見える。

 しかし、俺の顔を見るなり少し困ったような、呆れたような表情浮かべた。何だろう?

 

「それにしても……そのニヤついた顔はもう少しどうにかならないのか」

「すみません、無理です!」

 

 わははは、こればっかりはさすがの姉さんでもどうにも出来ないぜ!

 

「はぁ、まぁいい。餞別だ、受け取れ」

「おっと」

 

 元気良く返事した俺に向かって下から何かを放り投げてくる。慌てて受け取ると何処かの部屋の鍵だった。

 

「織斑兄、それがお前の部屋の鍵だ。無くすなよ」

「え? 俺の部屋……ですか?」

「お、俺はどうするんですか?」

 

 渡された鍵を見て呆然とするがその前に一週間は自宅からって話じゃなかったっけ?

 それに一夏はどうするんだろ?

 

「落ち着け。事情が事情だからな、少し強引に部屋割りを変更したんだ。それと一夏は私の部屋だ」

「げ」

「何だ? 何か言いたい事があるのか? ん?」

「何でもないです!」

 

 まぁ確かに何時だったかみたいに誘拐でもされたら敵わないしな。ある意味当然か。でも幾ら姉弟とはいえ、先生と生徒が一緒の部屋とはこれ如何に。

 

「荷物はそこにある。着替えと携帯の充電器くらいは用意しておいた。分けてあるから持っていけ。もし足りないのがあるなら今度の休みにでも取りに行ってこい」

 

 わぁ本当に必要最低限な荷物だぁ。 仕方ないか……でも前もって言ってくれればちゃんと準備したのに。

 

「って、俺は織斑先生と一緒の部屋じゃないんですか?」

「今はアレだが、お前は基本素行に関しては問題ないからな」

「俺は問題ありなんですか!?」

 

 アレってなんだ、アレって。何か信頼されてるのか、貶されてるのか分からないよ。

 俺だけ仲間外れみたいで嫌だが我が儘言うような歳でもないし、素直に褒め言葉として受け取っておこう。

 

 

 

――――――

 

 

 姉さんの部屋に一夏を置いてきた俺は今度は自分の部屋へ。

 

「俺の部屋、俺の部屋……っと、ここか」

 

 1025室。うん、間違いないな。この部屋だ。入る前に一応二回ノック。

 何でかというと探している時に気付いたがどうも相部屋が多いみたいだ。さっき入室した女子とはまた別の女子が出たりとやっているのを見て、もしかしたら俺の部屋もそうなんじゃないかと考えた訳だ。

 ……返事がないな。もう一度、声もかけてみよう。

 

「織斑なんだけど誰もいない?」

「その声、冬夜か? す、少し待っていてくれ」

「箒か? わ、分かった。ゆっくりでいいぞ」

「す、すまない」

 

 おいおいおい、俺の相部屋の相手って箒かよ!? いや、嬉しいんだけどね!? やべぇよ、抑えきれないかもしれない……。

 悶々とこれからの箒との相部屋生活を妄想していたらドアが開いた。

 

「待たせ……どうした?」

「い、いや、何でもないんだ」

「? そうか? まぁ入ってくれ」

 

 悶えてる俺を見て不思議そうに見てくるがとりあえず部屋の中に入れてくれた。部屋に少し湿気があるのと箒の髪がまだ濡れているので恐らくシャワーでも浴びてたのかな?

 

「で、急にどうしたんだ。わ、私に会いたくなったのか?」

 

 自分から言っておいて恥ずかしくなるならやめればいいのに。でも可愛い。

 こんなことを言ってくれる彼女にお返しをしなくては。

 

「会いたいというか、俺はいつも一緒にいたいよ」

「うぅぅ……」

 

 お返しと共に率直な気持ちを伝えると真っ赤になって俯いてしまった。

 

「と、そうじゃなかった。実はこの部屋に俺も寝泊まりすることになったんだ」

「え?」

「相手が箒で良かった」

「ええええええ!?」

 

 驚きの声が寮内に響いた。その声を聞いた周りの女子が集まって来たが、箒は放心状態なので俺が皆に説明するはめに。

 

「その、本当にお前が?」

「うん、相部屋になった」

「そ、そうか」

 

 撫でこ撫でこ。箒が放心状態の間にシャワーを浴びてきた俺は膝の上に乗せて存分に頭を撫でていた。普段は上げている髪も今は下ろしているので手櫛で存分にといていく。

 箒も悪くないと思ってくれているらしく、少しずつこちらに体重を預けてきた。

 

「ん……何だか妙に手慣れてるのは気のせいか?」

「そうなのかな? ただこうしたいと思ってやってるだけなんだけど」

「ふん、そう言ってお前は女を引き寄せてたからな。あまり信用ならん」

 

 えぇ……もう少し彼氏の事を信用して欲しいな。俺が何時女を引き寄せたって言うんだか。どっちかと言うとそれは一夏の方だと思いますけど。

 

「お前ら、さっさと寝ろ。消灯時間だぞ」

「「す、すいませーん!」」

「あ、もうそんな時間か」

「むぅ……」

 

 廊下から外に出ていた生徒へ姉さんの声が就寝時間を教えてくれた。気付けばそんなに時間が経っていたらしい。

 撫でる手を止めると何処か不満そうな顔しつつも離れてくれた。俺だってもっとくっついていたいんだぞ!

 

「ちょっと早いけど寝るか」

「そ、そうだな」

 

 隣のベッドに腰を掛けた箒が妙にそわそわしている。何だろう?

 

「どうし「あ、あの、だな!」お、おう」

 

 急に大声出さないでくれ。少し驚いたぞ。

 

「私達は口頭でとはいえ婚約したんだ。これは謂わば夫婦と変わり無いだろう!?」

「いや、それは「……」そうだな、俺達は夫婦だな」

 

 箒さんの無言の圧力に負けました。だって迫力あるんだもん。怖いよ。

 

「ならばその夫婦が別の布団で寝るというのは如何な物だろうか」

「……要するに一緒に寝たいってこと?」

「な、あ、う、うむ……」

 

 勢いを無くした箒はもじもじとしている。俺もそうしたかったけど理性が効くか分からないからしなかったんだけど、可愛いお嫁さんがそうしたいのなら話は別だ。

 

「ほら、おいで」

「し、失礼する」

 

 元々一人用のため、狭いベッドの中に入ってきた箒と自然に抱き合う形になった。うぅ、箒さん凄くいい匂いがします。

 

「冬夜」

 

 おでことおでこをくっ付けた状態で箒が微笑む。その顔には恥ずかしさなんてなく、言葉以上に幸せでいっぱいだと、表情で雄弁に語ってくれる。

 好きな人が目の前でこうして笑ってくれているのが何よりも嬉しい。そんな顔を見ていれば疚しい気持ちなんて吹き飛んでいた。

 その時、ふと視界に手持ち無沙汰な箒の手が映る。

 

「箒」

「ん? 何だ?」

「手、繋いでもいい?」

「勿論だ。拒むはずがないだろう?」

 

 恐る恐る訊ねれば放り出されていた俺の手に箒の手が重ねられる。どちらかが言った訳でもなく、自然と恋人繋ぎになっていた。

 

「ふふっ」

「ははっ」

 

 それがまた嬉しくてお互いに笑顔が溢れる。好きな人と共に居られる幸せが俺達の心を包んでくれた。

 その後、少しの間だが小声で昔の思い出を語り合った。お互いが居なかった時間を埋めるように。

 

「そろそろ本当に寝るか、結構いい時間だしな」

「そうだな。また明日も話せる事だ、今日は寝よう」

 

 もう携帯の時計を見るともうすぐ日を跨ぐ時刻だった。そろそろ寝ないと明日の授業中に寝るはめになってしまう。姉さんが相手だとそれは自殺行為に等しい。

 

「……最後にいいか?」

「ん?」

「キス、しないか?」

「!?」

 

 な、何ですと!?

 

「だ、ダメか?」

「そ、そそそそんなことはないぞ。うん」

「で、では…」

 

 目を閉じて軽く顎を上に向けると箒は待ちの体勢に入った。よ、よし、俺も行くぞ!

 

「……」

「……」

 

 箒の顔が近い。 近付けてるの俺なんだけどね。

 

「ん……」

 

 柔らかな唇に触れればくぐもった声が静かなこの部屋に良く響く。繋いでいた手に力が入るが、箒からも優しく握り返してくれた。

 

「「ぷはっ!」」

 

 い、いかん。呼吸のことすっかり忘れてた。息が出来なかったからなのか、興奮しているのかは分からないが、頬が上気した愛しい彼女はとても艶やかだった。

 

「そ、そのもう一度……」

「ああ……」

「「ん」」

 

 今度は初めての時とは違い、多少落ち着いてキス出来た。やばい、これは癖になる。また離れても……

 

「も、もう一度」

「う、うむ」

 

 結局この日は日を跨ぐまで何度も何度もキスしていた。やめたのも後で聞いたら俺が寝てたからという事らしい。しょ、初日からこんな調子で大丈夫か?

 

 

 

――――――

 

 

 真っ暗な部屋の中で何度も行っていた想い人とのキスが突然終わり、不思議に思ってつい名前を呼んだ。

 

「冬夜?」

「すー……すー……」

「寝たのか……」

 

 無理もない、入学初日から慌ただしく過ごしたし、その中心には冬夜がいた。好奇の視線にも晒され続けて気疲れしたのだろう。

 規則正しいリズムで寝息を立てている彼の頭を先程まで自分にしてくれていたように撫でてみる。だがどうにも彼のようには上手くいかないみたいだ。やはり誰かで練習していたのではと変に勘繰ってしまう。

 

 私とは違い、冬夜は昔から多数の異性に好かれていた。今では珍しいと言っても過言ではないその優しさからだと思う。

 それにこいつの姉も弟もそうだが美形揃いだ。その血を充分に受け継いだ冬夜も間違いなく美形だから放っておく方がおかしいだろう。

 

「むぅ……」

「うぅん……うぅん……」

 

 と、いけない。握っていた手に力を込めてしまった。でもそんな人が自分と結婚したいと求めてきてくれた事が堪らなく嬉しい。しかも子供の頃の約束を忘れないでずっと想ってくれていた。

 

「ふふ……」

 

 あの時の約束があったからこそ、私はこうしていられる。確かに保護プログラムのせいで私は友人と呼べる人はいなく、心も多少荒んでしまったが……冬夜がいたから、冬夜が迎えに来てくれると分かっていたから生きてこれたんだ。

 

「ありがとう、冬夜」

 

 きっとこいつの事だから例えお礼を言ってもそんなの当然だと、自分は大したことしていないと言うのだろう。だからこうして寝てるときに言うようにする。

 

「大好きだ。私もお前と一緒に生きたい」

 

 寝ている彼にもう一度だけキスをした。起きているときにももっと正直になれるようになろう。

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