俺の彼女は幼馴染で婚約者 作:トッポの人
今回少し不穏な空気が流れますが、安心してください。いつも通りです。
今日も夕飯にお嫁さんの美味しい手作り料理で舌鼓を打った後、デザートに果物を用意していたが食べすぎてお腹いっぱいなので小休止することに。
「ふー……今日も美味しかった。ご馳走様でした」
「ふふっ。お粗末様でした」
二人揃って手を合わせて食後の挨拶をすれば、箒はゆったりと微笑む。好きな人に料理を食べてもらえるのが嬉しいんだそうな。
正直、俺も腕前は箒に及ばないまでも、普通の男子高校生以上には料理をやる機会があったのでその気持ちは良く分かる。それが大切な人だったらどうなるのかな。
だから俺も振る舞いたいんだけど、余程のことがない限りは食事は自分で作ると譲ってくれない。
「片付けるよ。箒はテレビでも見てて」
「ん……いつもすまないな」
「いいよ、こっちこそいつもありがとう」
いつも美味しい料理を振る舞ってくれるお嫁さんにせめてこれくらいはと洗い物は買って出るようにしている。夫婦なんだからやっぱり支え合わないとね。
そうして一人台所で食器を洗っていると、背中にじっと視線を感じる。二人の部屋で視線を送ってくる人なんて一人しかいない。
「どうしたの、箒」
「え!? い、いや、見てないぞ! 私は冬夜を見ていないからな!!」
「あはは、そっかー」
背中越しに視線の主にどうしたのか訊いてみると、物凄い慌てた様子で聞いてもいないのに答えてくれた。
その慌てっぷりが面白くて笑ってしまった。なんというか、本当に正直な人だ。根が嘘をつけない性格の人ってこういう人なんだろうなぁ。ちょっとからかってみよう。
「……まだ終わらないのか?」
「まーだだよー」
「そ、そうか……」
今度は視線だけでなく、いつもなら洗い物なんてとっくに終わっている頃なので追加で声も掛けられた。
まだまだと返事をすれば、落ち込んだような残念そうな声が聞こえてくる。
「……そろそろ苺でも出そうか?」
「まだお腹に余裕出来てないよ」
「そ、そうだな……」
間髪いれずにデザートにと買っていた苺を出そうと提案してくる。まだ食後三十分も経っていないのに。
さっきの問い掛けと照らし合わせてみると、どうやら俺の近くにいたいようだ。そんなに離れていた訳でもないのにね。でもちょっと意地悪しすぎたみたいだし、もうこの辺にしておこう。
「お待たせ。終わったよ」
「あっ……! ん、んんっ!! べ、別に私は待ってなど……」
箒が座っているベッドの隣に座るとほんの一瞬だけ頬を緩ませるも、咳を一つ払って直ぐに引き締めてしまう。
昔から箒はしっかりしないといけないと思っている節があり、特に俺にはだらしないところを見せたくないんだと思う。たまにしっかりしてない時もあるけど。
「それでも。ごめんね」
「ん」
言いながら左手で頭を撫でれば、先程までのツンとした表情は何処へやら。気持ち良さそうに目を細めて、彼女の方から自然と頭が肩に預けられる。
暫く黙ってテレビを見ながら撫でられていると、じっと顔を見てきた。空いている俺の右手に左手を重ねて。
「冬夜……」
「はいはい」
瞳を潤ませて切なげに名前を呼ばれれば、それが何を意味するのか分からないなんてことはない。普段はしっかりしようとする彼女の、ちょっとした我が儘を見逃すなんて出来るはずがなかった。
撫でる手を止めて、左手を握る。そうすれば箒は目を閉じて少しだけこっちに身を乗り出してきた。
「ん……」
唇を重ねればその端から箒のくぐもった吐息が漏れて、否応なしに興奮させられるけど必死に我慢。
そして一回で済むはずがないので、いつものようにもう一度しようとしたところ。
「やっぱり浮気はダメですよね。しても幸せどころか、不幸しかならないのにどうしてするんですかね」
「っ!?」
まるで急に夢から覚めて遅刻確定の時間を見たかのように、テレビから流れる音声に箒が身体を強張らせた。目の前でそんな反応をされれば気になるのも当然で。
「ん? 箒?」
「い、いいいや!? な、何でもないぞ!?」
「???」
明らかに何でもあるような態度を取られればますます気になってしまう。本当に嘘がつけないんだなぁ。
「い、苺でも食べよう! そうしよう!」
「うーん?」
しみじみ思っていると慌てて台所へと走っていってしまった。慌て過ぎて机の上に置いてあった手帳にぶつけて落としたのにも気付かなかったようだ。
「……ん?」
落とした手帳は箒のものなんだけど、そこからパラパラと何枚か写真が落ちた。本人が気付いていないようなので代わりに片付けようと写真を拾うと。
「俺の写真?」
写真に写っていたのは制服姿の俺だった。しかも学ランだから中学生の頃のだ。
先に言っておくと、俺は箒とIS学園で久し振りに再会していて、別れてからは一度も会っていない。なのに何で中学生の時の写真があるんだろう? それも隠し撮りみたいな感じの。
その時、皿が割れる音が台所から聞こえてきた。
「あ……あぁ……!」
顔を向ければそこにはこちらを見てこの世の終わりみたいに絶望した顔を浮かべている箒が。ただ事ではない様子に釣られて動揺してしまう。
「ど、どうしたの?」
「う……ふぐぅ、ぅ……!」
「ぅえっ!?」
「ごめん、なざい……ごめんなざい!」
かと思えば、今度は急に泣きそうなのを必死に堪えている。だがそれも直ぐに決壊してしまい、大きな目からそれに見合うだけの大きさの涙をポロポロと流していた。
「えええええ!? 何でぇ!?」
「ごめんなざい……!」
俺の心からの叫びは夜の寮全体に良く響いた。傍らに悪いことをした子供のように謝りながら号泣する箒を置いて。
「……落ち着いた?」
「うん……」
「はぁー、良かった……」
就寝時間も迫ってきたところで漸く箒が泣き止んでくれた。俺の大声に何事かとやって来た人達に説明しながらだったから結構大変だった。落とした皿の処理もあったしね。
「その、どうしたのって聞いても大丈夫?」
「……ぐすっ」
こちらの問い掛けに僅かに頷いて応える彼女はとてもしおらしい。何かに怯えるように震えながらもゆっくりと話し始めた。
「あの写真は……姉さんがくれたものなんだ……」
「束さんが?」
再び頷く。意外な人の名前が登場してきた。まぁ、あの人なら本人に気付かれないように写真を取るとか朝飯前だから別にそのことに驚きはしないけど。
「寂しがってる私にと、一枚くれたんだ……」
「うん」
「少し大人になった冬夜を見れるのが嬉しくて……姉さんに言ったら半年に一回持ってきてくれるようになった……」
「うん」
「最初は見ているだけで良かったんだ……」
「うん?」
え、何この雰囲気。俺の動揺も他所に箒は続けていく。その目に再び涙を浮かべて。
「何度も捨てようと思った……でも捨てられなかった」
「え?」
「それで次第に我慢出来なくなって……浮気、してしまったんだ……」
「え? えぇ?」
「あ、で、でも大丈夫だ! ちゃんとキスは冬夜が初めてだ! 身体は許してない!」
「あ、うん……」
「ほ、本当なんだ! 信じてくれ!」
はっとして身振り手振りで自分はちゃんと貞操は守ってきたのだと伝えてくる。
困惑のあまり曖昧な返事をしたらそれが疑っていると勘違いしているらしく、より必死になって潔白をアピールしてきた。
待って。さっきから困惑しまくりなんだけど。箒が浮気してた? 誰と? いや、薄々気付いてはいるんだけど、ちょっと本人からはっきり聞いてみようかな。
「えっと……箒? 浮気してたの?」
「っ……はい」
痛いところを突かれた、そんな表情で返事をする箒に続けて質問していく。
「浮気の相手は?」
「……手帳に挟んであった写真の冬夜」
「写真の俺」
何か凄い面白い言葉が聞こえてきた。思わず繰り返してしまうほどに。
でも目の前にいる彼女の表情は推理もので追い込まれた犯人の顔そのもの。真剣に箒は自分が犯したと思っている罪を告白している。
「写真の俺と何したの?」
「キス未遂を……で、でもさっき言ったようにあくまで未遂で、してはいない!」
「……それだけ?」
「それだけだ!」
嘘はついていない。箒は嘘をつくのが下手くそだから、もし嘘だったら直ぐに分かる。
それは分かるんだけど、箒が俺の写真にキスしようとして、やっぱりやめてを繰り返しているところを想像したら遂に吹き出してしまった。
「あ、あはははっ!!」
「な、何がおかしいのだ……?」
お腹を抱えて笑う俺に今度は箒が困惑する。頭にたくさんの疑問符を浮かべているのがまた面白くて笑ってしまった。
一頻り笑ってから捩れる腹を抑えて何とか箒と話していく。
「箒……それ浮気じゃないよ」
「え!?」
「浮気って言っても浮気相手写真だし、そもそも俺だし、気にしなくていいよ」
もしそれで浮気になるのなら昔の箒の写真を見て、どんな風になってるとか想像してたから俺も同罪だ。まぁ想像よりも現実の方が美人になってたんだけどね。
「い、いや、でも……んっ!?」
まだ何か言おうとする箒の口を俺の口で塞ぐ。不意打ちだったが、いつかみたいに怒られることはない。あるがまま受け入れてくれる。
口付けが終わって離れると安心させるように微笑んでから話し始めた。
「大丈夫。これからはもう寂しい思いはさせないから、ね?」
「冬夜……ああ」
寂しくさせてしまったのが原因なら寂しくさせないようにしよう。笑顔にさせると誓ったのだから尚更頑張らなきゃ。
もう一度唇を重ねて、ふとあることを思い付いた。
「あ、お願いあるんだけどいい?」
「ん……私で出来ることなら」
「じゃあ、写真撮ろう!」
「い、今からか?」
「勿論っ」
こんな提案をしたのにも訳がある。俺だけが写っている写真というのが非常に寂しく見えたんだ。そこに箒がいない。離ればなれだったんだと教えられた気がした。
だからどんどん二人の写真を撮って、空白の部分を埋めるように思い出を作っていこうという訳だ。
「じゃあ撮るよー」
「う、うむ」
片手で携帯のカメラを手に箒の細い腰を抱き寄せてとりあえず一枚。
ニッコリ笑った俺とは対象的に、目を吊り上げて真剣な表情で写っている箒が面白かった。
「ぷっ。ダメだよ、ちゃんと笑わないと」
「な、慣れてないんだからしょうがないだろう!」
「じゃあ慣れるためにもう一枚ー」
また携帯を構える。もう一枚とは言わずに様々な構図で何度も撮っていると、撮る直前に頬に柔らかな感触が。見ると彼女が嬉しそうに微笑んでいた。
「冬夜、ありがとう」
「こっちこそ」
今度は正面からして今日の撮影会は終わりを迎えた。その後は後ろから抱き締めるようにして、写真を眺めることに。
「これが今日のベストだね」
「うむ。あ、でも全部送ってくれないか? 私も持っていたい」
「オッケー」
今回のベストは俺とくっついた箒が照れて控え目に笑いながら、これまた控え目にピースしてる写真で決まり。
明日はもっといい写真を撮ろう。