闇派閥が正義を貫くのは間違っているだろうか   作:サントン

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最終回、仕上がってるので早めに投稿します。


最終回 アンチヘイト スーパーヒーロー

 「計画は上手くいっているようだな。」

 「面白いわ。本当に面白い。これがオッタルすら戦うことを嫌がった闇派閥の首領、青い目の悪魔ね!こんなにも面白いなら、見物料として喜んでバベルくらいくれてやるわ。なにもかもを思い通りにする悪魔の知略、美しいとさえ言える。一つの計画で複数の目的を全て達成してるじゃない。逃亡を成功させて、復讐を代行させる人材を育て上げて、互いの遺恨を残さないための共同作業、さらに被害の最小化。ついでにおまけでちゃっかりと彼個人の恨みもはらしてる。協力者のあなたにも民衆の称賛をプレゼントしている。さらに痛快なのが、復讐の代行者が正義の味方というところね。オラリオがこんな若い敵の手玉に取られてる。ロキの子供達もあなたも最上の結果が共有できるから従わざるを得ない。若くてこんな鮮やかな計画が立てられる人間なんて、是非とも欲しいわね。」

 「………それは不可能だ。あいつはオラリオで名が売れすぎている。」

 「わかってるわよ。本当に、もったいないわ。あなたはどう思う?」

 「………私は私の大切な子供が立ち直るなら特に意見はないわ。」

 「つまりあなたまで目的が共有できるというわけね。今回の計画に必要だったのなら正義の神のあなたであっても、人間の悪の彼に自発的に従わざるを得なかったということね。オラリオの徳の高い神が揃って悪の計画に荷担するわけね。面白いわ。」

 「………その通りね。もう私は、正義を謡うのはやめるわ。これだけ悪にいいようにされてしまったら、とてもじゃないけど恥ずかしくて正義とか言えないし。後はリューにすべてを任せることにするわ。」

 

 ◆◆◆

 

 夜間にも関わらず赤く空が染まるオラリオ、乾いた空気、燃えつづける大火、それは次々と辺りへと飛び火していく。

 そしてどこまでも逃げ回る放火犯。必死に鎮火しようと試みる人々。終わり無く鳴り響く不吉を告げる警鐘。

 オラリオの象徴であるはずのバベルはすでに存在しない。

 

 悪魔はこの世に地獄を顕現させる。

 

 ーーこれは………ひどい。これが私の選択の結果だというのか?他の選択肢を選んでいたら、この状況は避け得たのか?私がしっかり考え抜いていたら………。

 

 逃げ惑う人々の悲鳴を聞き付け、縄に縛られたリューは心を痛め、自分の現状をもどかしがる。

 自分にステータスが戻るまではあと凡そ一時間程度。

 その時に自分はどういう行動を取るべきだろうか?

 リューは近くで自分と同様に縛られるデルフへと話しかける。

 

 「あなた方は動けるようになったらどうなさいますか?」

 「あん?そんなん一般人の避難と救出を最優先するに決まってんだろう。クソッ!この縄がとっとと解けてくれりゃあ!」

 

 リューを含めた四人は、唯一敵の作戦を知っている存在である。敵の作戦をオラリオの首脳部に告げれば、あるいはオラリオから逃げ出す敵を追跡して捕縛できる可能性が存在するのかも知れない。

 

 リューにはわからない。

 自分が彼らと同様に民間の避難を優先するべきなのか?

 上役に敵の情報の伝達を優先するべきなのか?

 

 彼女はひたすらに考え、ただ時間だけが過ぎていく。

 

 ◇◇◇

 

 「すまない、待たせたなクレイン。道中で敵に捕まって時間を取られちまった。」

 「構わないわ。急いで逃げましょう。」

 

 カロンはガリバー兄弟と遭遇したことによって、予定していたよりも時間をとられていた。すでに僅かとは言え待ち合わせの時間を過ぎている。

 当然ハンニバルは、いない。

 カロンは、内心で密かに願っていたハンニバルの生還を諦める。彼らは周囲を高い壁にグルリと囲まれた中、南の門へと向かう。

 

 カロンは考える。

 

 ーー取り敢えずここまでは上手く行った。………上手く行って生還者は俺達二人のみになりそうだ。しかし、俺は死んだ奴らに全賭けをさせられてしまった。俺は生きねばならない。直に外へ逃げる門だ。

 

 「カロン!危ない!」

 

 クレインが叫び、カロンは突き飛ばされる。

 クレインは脇から、槍の穂先が飛び出てくるのを見ていた。

 

 ーーしまった!敵か!油断した!俺は門を抜けるまでは必死でいるべきだった!敵は何者だ?

 

 クレインはカロンの側に寄る。

 彼女はカロンを突き飛ばした際に、敵の攻撃を腕に受けて破れた袖から血を流している。

 

 「やァ、マッ………てたよ。ァあ、アたマ………ガ………イタい………。」

 

 ーー勇者!ここに来てか!

 

 門へと続く通路にフィンが現れる。

 

 ーー………敵は確かレベル6だったはずだ。

 

 カロンは刹那に思考する。

 

 フィンはレベル6。カロンはレベル3でクレインは後衛のレベル4。

 ここまで近接戦闘に差がついてる相手に不意打ちで攻撃を喰らえば、カロンもクレインも本来ならば生還できる道理がない。

 

 ーー奴の左顔面が陥没している。おそらく相当なダメージが蓄積されているのだろう。ゆえに俺達は奴の不意打ちを躱す事が可能だった。

 

 カロンは採りうる選択肢を即座に判断し、指示を出す。

 

 「クレイン、奴は手負いだ!俺達は奴を仕留めて逃走する。おそらくは相当なダメージが残っているはずだ!覚悟を決めて俺を盾に使え!」

 

 カロンは戦闘することを決意する。

 

 フィンのダメージ、それはあまりにも大きなものであった。レベル7の拳の直撃を顔面にまともに受けたため、左目は失明し、脳は散々に揺さぶられて混ぜくられてさらに蟲の毒が回っていた。言語中枢もすでにあまり機能していない。挙げ句に戦士の命とも言える片目を潰されているため、距離感も掴めない。死角も存在する。万能薬でも回復できない程のダメージをフィンは、負っていた。さらに彼が今持っている槍は、ダンジョンに放置されていたアレン・フローメルの所持していたものである。彼本来の槍はすでにヴォルターに使い物にならなくされている。ダメージと失明と本来の武器でないことより、フィンは十全から程遠い実力しか出せない。

 

 フィンはその状況で必死に這い、リヴィラに敵が戻ってきた時に下の階層に潜むことによって命を長らえた。彼はここまででもカロン達の襲撃は可能であったが、自身のダメージを何とか理解するだけの理性は残されていた。敵の戦力が充実している状況で襲っても勝ち目はない、と。そのためにフィンは敵の行動をあまり働かない脳で必死に推測し、淡々と復讐の機会を狙っていた。

 

 燃え盛る建物を背後に、彼らは向かい合う。

 今現在彼らの持つ盾と槍は、奇しくも共に死んだアレン・フローメルの持っていたものであった。

 つくづく先のことはわからない。カロンはアレンという強力な駒を仕留めてしまったせいで、今ここで武器を持った勇者という強力な敵と相対しているのだ。

 

 「勇者、お前良く生き延びてたな。」

 

 カロンは盾を前面に押しだし、一切の警戒を怠らない。

 

 「まァ………ね………。キみタチ………ノオかげで………サんざン………だヨ。」

 

 フィンはそう宣うと槍でカロンを突いて来る。

 空気を切る音を立てて、槍でカロンの右肩へと突きかかる。カロンはそれを盾で弾く。

 

 ーーさすがに速いが、これがレベル6の十全の実力だとは思えん。やはりダメージは相当なもの。俺の右肩を狙ったことと奴の顔面の陥没を併せて考えれば、奴は左目を失明している可能性が高い。そちらが敵の急所だ!

 

 「クレイン!敵はおそらくは左目が見えてない!奴の左への移動を意識して建物に身を潜めろ!」

 「わかったわ!」

 

 クレインはフィンの左を意識して、建物の影へと身を潜める。

 クレインがフィンの足元に氷塊を生成する。フィンは足元を固められたまま槍を振り回す。カロンは力任せの敵の槍を受け、はじき飛ばされる。足元の氷塊をフィンは槍で打ち砕く。フィンはカロンに突進するが、それは片目が見えていないために照準がズレているもの。フィンはカロンに突進を受け流され、壁へと突っ込む。

 

 カロンは思考しながら戦いつづける。

 

 ーーこれだけ入念に想定しうる状況を確認したにも関わらず、やはりいつだって裏目は存在しうる。まさかここに来て、もう必要ないと置いてきたステータス封印薬が切り札として必要になるとは!あれだけ必要になりそうな物資を必死に考えたというのに、クソッ!どうする?敵は著しく戦闘力を落としているが、それでも強靭な肉体を持っている!逃げてもおそらくはどこまでも追って来る!俺達が奴に速度で勝れるわけがない。

 

 夜を明々と照らす炎を背景に、三人は戦い続ける。

 カロンは敵の槍のなぎ払いを転がり避け、クレインは相手の行動の阻害を意識した魔法を放つ。カロン達には敵を打倒しうる強力な札がない。フィンの攻撃はうっかりまともに喰らえば必殺。周囲の人間は今は他の地点の鎮火か比較的火の回っていない西に避難に向かっていて誰もいないが、いつまでも姿を晒しつづけるわけにはいかない。

 

 カロンは自身のスキルを試行してみる。

 

 「なあ、勇者。お前は何のために俺達と戦うんだ?」

 「そン………なのハ………ドウデもいィ………。いたインだ………。」

 

 フィンは槍でカロンを突く。突きはたまたまカロンに向かって真っ直ぐにのびて、盾で受けたカロンは衝撃で後ろへと弾かれる。フィンは追撃を行おうとするが、片足を氷に纏われたために動けない。

 フィンは忌ま忌ましく思いながら足元の氷を槍で砕く。

 

 カロンは考える。

 

 ーー………クソッ!!やはり敵は言葉で揺さぶれるほどの理性が残っていない。何か、使える札はないか?奴を必殺に陥れる策は?手札は………切り札は?何かないか?

 

 ーー俺の手持ちは小刀と盾とあとはリヴィラから持ち出したいくらかの物資だけ!小刀での攻撃は、残った敵の目を抉るくらいしか有効的なダメージを与えられない!しかも敵との身体スペック差でそれは不可能だ。策もなく近づけば弾かれるか致命の一撃を喰らうだけに終わる!

 

 ーーダメだ!手持ちの札だけでは良くても現状維持だ!クレインの氷塊魔法も、空気中の水分を凝結させるために火事の今は空気が渇いていて著しく効力を減衰させている!

 

 ◇◇◇

 

 「ステータスは戻りましたか。」

 「ああ、そうみてぇだな。」

 

 ステータス封印薬の効果が切れ、魔法の縄を力で引きちぎるリュー達四人。

 リューはデルフに問い掛ける。

 

 「あなたたちは、やっぱり町の人々の救出に参加するんですか?」

 「ああ、もちろんだ。」

 

 デルフが答える。

 その淀みなき返答に、リューは決断する。

 

 「それでしたら私にも手伝わせてください。四人で手分けして、協力して行動に当たりましょう。」

 「助かるよ。俺がアンタに指示を出しても良いのかい?」

 「ええ、よろしくお願いします。」

 「ならアンタは片足が不自由だし、ここから比較的近い地点をお願いしようかな。これ、支えにして持って行きな。」

 

 デルフは自身の槍をリューに手渡す。

 彼は足が不自由なリューを慮り、火に巻き込まれることがないように比較的近くて火力の弱い地点の救助を要請する。そこは火の周りが弱くすでに避難活動も終わったと目されている地点である。

 四人は燃え盛るオラリオへと人命救助と鎮火のために向かう。

 

 ◇◇◇

 

 「あア………あたマがィたいナァ。」

 

 フィンは呟きながら槍を、力いっぱいに縦へと振り下ろす。

 カロンは避けようとするも避け切れずに、穂先が正中線近くを通り落ちて多量の出血する。

 カロンは痛みに耐える。

 

 ーー敵に技量はない。しかしつくづくステータスの厄介なところだ!一度鍛えあげてしまったら、肉体スペックだけはどうやっても覆せない!早過ぎる!くそっ!遮蔽物を使って退避するしかない!

 

 「クレイン、行動変更だ!俺はそこらの民家へと逃げ込む!任せた!」

 

 カロンはそう叫ぶと人の居ない近くの民家へと飛び込む。フィンは足元に氷を生成されて追撃できない。クレインは声で居場所がばれるのを恐れて黙したままに行動する。

 カロンは民家に侵入する。フィンはカロンを追いかける。クレインは敵に察知されないように遠巻きに二人を追跡する。

 

 戦場は室内へと移り変わる。

 フィンの武器は長槍で、室内では自由には振り回せない。しかも左が死角。

 カロンはフィンに追い付かれたら先ほどまでの焼き増しであるためにどこまででも逃げる。

 クレインは二人を見失わないように、必死に追跡する。

 

 カロンは民家の階段を駆け登り、窓から隣の家へと飛び移る。

 フィンは家具にぶつかり、槍を壁に引っ掛けて辺りの物を壊しまわりながら窓から飛び移ろうとして目測を見誤る。フィンは庭へと墜落する。

 カロンの指示が飛ぶ。

 

 「クレイン!先に行け!俺は何とか勇者を巻いて逃げる!お前は先にオラリオから脱出しろ!!」

 

 ◇◇◇

 

 ーーやはり………酷いものですね。

 

 リュー達は手分けして人命救助活動を行っている。

 オラリオで特に酷い火災が上がっている地点は、北、東、南、中央。四人はそれぞれ手分けして、手助けが出来る区画へと向かっていた。

 建物の焼け焦げる臭い。阿鼻叫喚の巷。

 果たして如何程の犠牲者が上がっているのだろうか?

 

 リューは僅かな間黙祷し、作業へと移った。

 

 ◇◇◇

 

 「嫌です!私はここに残ります!」

 「馬鹿っっ!!」

 

 クレインは叫び、戦闘の際の不文律は破られる。

 専門後衛であるクレインは、敵に居場所を決して知られてはならない。それが彼らの鉄則。

 しかし、カロンを一人残したら彼は間違いなく死ぬ。クレインはそれが受け入れられない。

 

 そしてフィンは敵が二人いたことを思いだし、獰猛に嗤う。

 フィンは本能で弱者から討ち取りに向かう。

 

 ーーあの馬鹿っっ!!クソッ!さっきまでとは状況がまるで逆だ!俺が勇者を追いかける側になっちまった!

 

 カロンは必死に声のした方へと向かう。

 

 ◇◇◇

 

 クレインは逃げ回る。途中で氷塊を生成して、相手の行動を阻害しながら。

 クレインが声を上げてから、クレインがフィンの姿を確認するのにほとんど時間がかからなかった。敵は瞬く間に追ってきた。

 

 クレインはテーブルを飛び越え、障害物を避けて、氷で相手を阻害しながら家の外へ向かって逃走する。

 フィンはテーブルを壊し、障害物を蹴飛ばして、力付くで氷を排除しながらクレインの背中を追う。

 

 やがて彼ら二人は家の外へと出て、彼らはカロンと合流する。

 カロンは手立てを考える。

 

 ーークソッ!状況はマイナスになっただけだ。再びクレインを隠そうとしても、こいつはどうせ倒し易いクレインを追いかけるはずだ。何か手立ては?何か手立てはないのか!?

 

 カロンはフィンとクレインの間に割り込み、槍撃を受け止める。たたらを踏み吹き飛ばされるカロン。

 カロンという盾が無くなったクレインは対応に一瞬苦慮する。

 

 「クレイン!俺を盾にしろ!俺の近くに逃げて来い!」

 

 しかしクレインの目前にはフィンが存在する。

 フィンは嗤い、槍は迸る。自身の命運を理解したクレインは、目をつぶる。

 

 「クレイィィーーーンッッ!!」

 

 ーー何?

 

 クレインは突如として何者かに突き飛ばされる。

 

 「やァ………きミはそいツラのナカ………まかィ?」

 「………いいえ、違います。」

 

 リューは返答する。

 

 「ジャあ………ナぜじゃマヲ………するンだい?」

 

 リューは返答に苦悩する。

 彼女はたまたま足が不自由なためにデルフの指示で近場の地点で火の周りが弱くもあるこのあたりに配備されていた。たまたま逃げ遅れた人間を捜している最中に、民家から彼らが出て来たのだ。クレインが殺されそうなところを見たリューは、気付いたら支えの槍を投げ捨てて彼女を突き飛ばしていた。

 

 なぜ自分が邪魔をしてしまったのか?考えはまとまらない。つい手が出てしまったと以外言いようがない。

 リューはクレインの言葉と行動が忘れられない。わざわざ自分の傷を明かして生きることを励ました彼女が忘れられない。たとえそれがクレイン自身のためのものであったとしても、リューは確実にあの時に元気づけられたのだ。

 

 カロンは話をするフィンを隙と見て、フィンの背後から残った目を短刀で抉りにかかる。

 しかしフィンはそれに気付いていて、背後より襲い掛かるカロンを槍の柄で押し戻す。

 

 「クレイン、俺の近くに戻れ!」

 

 クレインはその言葉に速やかにカロンの側へと寄る。

 

 「キみモてきカ………。」

 「私は敵じゃない!」

 「………うソヲ………つくナ………。」

 

 思考能力の薄いフィンはリューも敵だと見定める。

 リューは相手の様子を見て正気ではないことを理解する。

 

 カロンは思考する。

 

 ーーエルフは片足が使えない!現状じゃあ、奴にすぐにやられてしまう。あいつは囮にも出来ない。時間が稼げない。ならばいっそのこと共闘が得策!

 

 カロンは即座に決断する。

 

 「エルフ!俺の後ろに来い!そいつを倒すまで共闘だ!」

 

 リューは迷い、フィンの槍は迫り来る。

 リューはその乱暴な一撃を必死に転がって避ける。

 リューは考える。

 

 ーー確かに………相手の攻撃から実力を察するに生還するためには一人で戦うのはダメだ。しかし共闘する相手は闇派閥………生かして置くべきではない相手。それでも私は………生きることを誓ったはずだ………私はどうすれば良い!!

 

 リューは酷く苦悩する。悩む一瞬、迫り来るフィンの突き。

 カロンは大きな体で体当たりをしてフィンのリューへの一撃を何とか逸らす。

 

 「悩んでる時間はないぞ!エルフ!生にしがみつくつもりなら手伝え!死んでもいいなら断れ!その二択だ!今すぐにここで決めろ!」

 

 カロンの言葉は悪魔の囁き。それは相手の心を揺さぶるもの。

 カロンの言葉はリューの心を揺さぶる!

 

 ーーそうだ!!私は捕まったあの時に生きると決めた!仲間の無念を晴らすために何としてでも生き延びると決めたんだ!!

 

 リューは覚悟を決める。リューはカロンの背後へと回る。

 

 「良く決断した。」

 「余計な一言です。悪人に褒められる謂われはありません。」

 

 戦いは三対一へと移り変わる。

 フィンは力付くで目前の三人を攻撃する。

 カロンは敵の攻撃を少しでも後衛に通さないために必死で粘る。

 クレインは氷塊で敵の行動の阻害を行う。

 リューは片足が不自由ながらも鍛え上げた体幹で敵の攻撃を避け、反撃を行いつづける。

 

 人間には利き手が存在する。リューはカロンの左側に陣取る。その理由はフィンは右利きであり、必然的に槍を振り回す攻撃はフィンから見て右回り、つまりカロンの左側に陣取る人間の方が脅威度が高いからである。さらに今のフィンは理性が薄い状態である。結果として、カロンの左側から攻撃が飛んで来る可能性が圧倒的に高く、脅威なのである。クレインよりも前衛に向いていて体捌きの上手いリューは必然的にカロンの左に位置する事となる。

 

 カロンはフィンの水平の一撃を受けて、弾かれる。リューはカロンを弾いて速度の落ちた槍の一撃を躱し、短刀をフィンの腕へと突き立てる。クレインは大回りになった槍の攻撃を避けて、カロンの背後へと退避する。フィンは槍をさらに動かし、リューを斜めに斬り払おうとする。リューはその場から片足と片手のみで後方宙返りを行い避ける。カロンが前線へと復帰し、クレインは隠し札を切る。

 フィンは唐突に眼前に氷結を纏わされる。フィンの顔の右半分。クレインの氷はどこにでも生成可能であるが、高レベル冒険者相手に普通に魔法を使用しては空気の温度の低下を理解して避けられる。そうなれば戦術の札が暴かれるだけ。しかし今のフィンは頭の痛みで周囲の温度の低下に気が行かない状況。

 フィンは唐突な視界の狭まりに驚き、槍を力を込めて振り回す。カロンはそれに僅かに堪え、少しの時間が稼げたリューは左手に持つ小太刀をフィンの頸部目掛けて突き刺さんとする。しかしフィンの振り回す槍に弾かれて、リューは退避する。

 

 フィンは顔を覆う氷を理解して、力で氷を剥がす。氷は剥げる際にフィンの顔の右半分の皮膚を掻っ攫い、ただでさえ顔の左半分が陥没しているフィンはさらに凶相となる。フィンは頭痛が酷く、顔の皮膚を剥ぐ痛みを感じていない。

 

 カロンは考える。

 

 ーー戦況はエルフがこちらに付いたことでだいぶ戦えるものとなっている。絶望ではない。しかしさっさと戦いを終わらせてしまわないと、いつ住民にみとがめられるかわからない状況!取り敢えず今はこの辺の住民は比較的安全な西の方へと避難しているが………。クレインの隠し札も切ってしまった。敵の肉体は強靭でこのままではいつ致命的な一撃を喰らうかわからない!決定打がない!考えろ、俺!どうすればいい?

 

 「………私の切り札は風の魔法です。戦いながらの並行詠唱が可能です。」

 「助かる!詠唱にどれくらいかかる?」

 

 リューはボソリと呟く。リューの切り札を聞き、カロンは戦いながら作戦を考える。

 フィンの突きを盾で何とか逸らし、攻撃を周りに任せ、カロンはなおも考えつづける。

 

 ーー敵は力任せに襲ってくる知能が薄い相手だ。レベル6の肉体に単体のレベル4の魔法では致命の一撃にはなり得ない。策を練るならば俺がなんとなくでリヴィラから持ち出した()()が役に立つかも知れんな。まさかあんなものが。人生、つくづく先のことはわからんものだな。

 

 カロンは内心で苦笑して、奇策を練る。

 リューから得た情報を元に、カロンはリューとクレインの詠唱時間を考慮して作戦を練る。

 

 「クレイン、俺が合図をしたら詠唱を始めろ!奴の顔面の視界が利いてる方を氷で覆え!エルフ、風力をある程度弱めに調節して奴に向かってお前の風を吹かせることが出来るか?」

 「可能です!!」

 「ならばそのように行動しろ!作戦は練り上がった!」

 「わかりました!」

 

 戦いは続き、リューは詠唱を始める。

 カロンは最前線に立ち、はじき飛ばされながらも必死に後ろに攻撃を通さないようにする。

 リューは相手の攻撃を避けて、詠唱に集中し続ける。

 クレインは相手の攻撃を避けて、時折相手の行動を阻害する。

 

 彼らは敵の槍を時折体に掠らせて血を流しながらも、必死に相手に食らい付き続ける。

 

 そして、時は来る。

 

 「クレイン、詠唱を始めろ!」

 

 今だ暴れ狂うフィン、彼らは必死に戦い抜き、やがて状況が完成する。

 

 「フリーズ!」

 「ルミノスウィンド!!」

 

 ーー今だ!

 

 カロンは懐より、さほどの深い意味は無くリヴィラから持ち出してきたレジャーシートを出して広げる。クレインと逃げるのであれば、彼女のために使えると考えて持ち出したものであった。

 

 フィンは目の前に青い大きなシートが広がり、驚いた隙に再び無事な方の視界の右目を氷に覆われる。シートはリューの風に乗ってフィンを覆わんとして来る。フィンはあまり良く見えない視界でシートを槍で斬り払う。そしてそこにカロンが可能な限り姿勢を低くして近付く。姿勢の低いカロンはフィンの槍の斬り払いを首尾良く避ける。フィンはシートを斬り払っても、視界が狭いまま。敵の姿は視界の外。

 

 ーーここだ!!

 

 フィンはシートを斬り払っても、酷い頭痛のせいで敵の行動に気が行かない。それは本来のフィンであれば軽々と避けるはずの一撃。カロンは右手に持つ短刀を、敵の剥き出しになっている見えない左目へと深々と突き立てる。

 どこまでも深く捩り込み、抉り込み、そしてそれはフィンの脳まで到達する。ただでさえ混ぜられて出血しているフィンの脳にとどめとなる致命の一撃。

 

 「ぐがガがガがガガっっ!!」

 

 フィンは鼻と口から血を流し、手に持つ槍を地面へと取り落とす。

 戦いは終わる。

 

 ◇◇◇

 

 「さて、俺達は急いで去るが、戦いはどうする?」

 「行きなさい。」

 

 リューはカロンとクレインを見た後に燃え盛るオラリオを見る。

 

 「………ずいぶんと素直だな。俺達は大量殺人鬼だぞ?捕まえに来ないのか?」

 「あなたは必要があれば殺すのでしょう。必要が無ければ殺さない。私は片手と片足が不自由で切り札もばれてしまっている。挙げ句に二対一の戦いで勝ちの目は薄い。足がこんな状況なので逃げに徹されたら追いかけることさえ不可能だ。私は生き延びると決めたんだ。」

 「そうか。」

 

 カロンはクレインの下へと寄り、彼女を抱えて立ち上がらせる。彼女も戦闘で随分消耗している。

 

 「差し当たってはそんな無駄な行動をとるくらいならば、その時間をあなた達が散々に散らかしたオラリオの人命救助に費やした方が遥かにマシです。」

 「………そうか。」

 「オラリオを頑張って立て直します。明日を良くするために必死に行動します!死んだ仲間達にも立派に胸が張れるように!それが私の正義です!」

 「そうか。それがお前の選択か。そうだな。悪くない。せいぜいどっかで幸薄いエルフの幸運を祈ってるよ。」

 

 カロンは笑う。

 

 選択とは、苦しみである。同時に、選択することとは、苦しみに耐える強さである。

 この話の冒頭で、リューは苦しみを背負ってでも、生きることを決めた。

 

 そして今また彼女は、彼女の明確な指針を以って、選択した。

 

 正義を嫌い、否定するのが闇の存在意義である。

 しかし、正義や英雄を成長させるのもまた、闇の存在意義である。

 

 一流の悪役と相対する未成熟な正義は弱点を浮き彫りにされ、必ずそれを乗り越える。結局は彼らも、彼らが嫌う英雄や正義の試練の一つに過ぎない。

 

 敵が居ない英雄譚は、さぞかし味気無いものとなるだろう。

 

 英雄が真に無敵で、たった一人で誰も彼も倒してしてしまうのならば、それは恐怖政治や弱いもの虐めとたいして変わりがない。ゆえに英雄は無敵ではなく、彼らは感情を揺さぶり人々の力を一つに纏めて戦う。

 

 そして英雄が歳をとっていなくなっても、人の営みは続いていくし悪は存在する。

 悪は人間から生まれるものだから、どうやってもなくならない。どう根絶するかという簡単な理想の戦いではなく、どう被害を最小限化するかという苦しい現実的な戦いである。

 

 英雄が去ったその後、彼らは新たな英雄が現れるまで悪に為されるがままなのだろうか?

 

 そのために彼女は生きて残された。英雄不在の際も、悪と戦える組織を作り上げるために。

 

 悪の行動には、いつだって理由がある。

 

 アストレアを襲撃した悪党は、自分達の役割や行動理念を理解しない三流の悪党だった。だから綿密に描写されない。

 一流の悪党は役割を理解し、苦しめる振りをして正義や英雄をしっかりと育成する。それが悪党の正義。

 

 だって正義がしっかりしないと、悪の見せ場も減るだろう?弱いもの虐めをする悪党の話なんて、一体誰が喜ぶんだ?正義がしっかりしないと、悪党はいつ正義が来るかとワクワクしたまま暗いダンジョンの底で延々と何年も待ちぼうけを食らうはめになるんだぞ?いくら悪が我慢強くても、ものには限度があるだろう?どれだけストレスが溜まると思ってるんだ?

 

 悪は、SSにも虚実を織り交ぜる。

 実は悪は、社会を恨み正義や英雄を嫌う振りをして、いつも救いを願っている。

 

 俺達はいいよ。自分たちでどうにかするから。でも俺達の他にたくさん消えて行った奴らがいるんだ。俺は悪党だから戦えない。俺にはどうしようもできないんだ。だから頼むから、代わりに正義が戦ってくれよ。

 

 彼らの苦しみや閉塞感を打開してくれるのは、いつだって英雄や正義だって知っている。本当は誰よりも英雄の登場を心待ちにしている。自分達を乗り越えていく正義や英雄の強さを知っている。その程度の腹芸くらい出来なきゃ、悪党は名乗れない。

 

 だって強いはずの悪党を噛ませいぬにして乗り越えるんだぞ?実際にやられた悪党以上に正義や英雄の強さを実感してる奴らがいるわけないだろ?

 

 あんなに強いあいつらだったら、きっと社会の歪みだって正して乗り越えてくれるはずだ。俺達がいずれ俺達を救ってくれる正義や英雄の芽を摘み取るわけないだろう?そんなの間違えないように、潰れないように、大切に育てるに決まってる。

 悪には正当性は必要ないが、正義や英雄には正当性が必要不可欠なんだ。正当性のない力は、ただの暴力に過ぎない。

 正義にしか倒せない敵だって、存在するんだよ。

 

 そしてきっと、それが復讐派にとっても最高の復讐になる。

 

 彼らを復讐に駆り立てた問題点を、強く育った正義は正当な手段で打倒する。

 

 悪党に正当な手段はとれない。悪党は問題の根本と戦えない。悪党はみんなに嫌われているから、みんなが話を聞いてくれない。悪党では、永遠に復讐出来ない。

 この上、リューまで民衆に嫌われてしまったら、一体誰が問題の根本と戦うんだ?正当性を失った大量殺人鬼の言うことなんて、普通に考えて絶対に誰も聞く耳持たないぞ?

 

 三流の悪党には、復讐と称して感情を無意味に誰かに発散することだけしか出来ない。

 正義を嫌い英雄を否定するふりをして、正義を応援し英雄を育成するのが一流の悪党の存在意義。そうすりゃ悪の彼らの苦しみの元を、正義はいずれきっと倒してくれる。

 苦しみが好きなのは、悪ではなくてただのどMだろ?俺達だって、ずっと苦しいままなのは、つらいに決まってるだろ?

 

 こんなに明確な理由があるのに、悪党が正義や英雄が嫌いなわけないだろう?

 

 悪の行動にはいつだって理由がある。

 俺達が表だってあいつらを応援したら、あいつらの経歴に傷を付けちまう。癒着を疑われて、せっかくの正義が潰れちまうかも知れないだろう?だから嫌いなふりをするしかないだろ?応援は絶対に誰にもばれないように、だ。

 

 脇役だって、いつまでも英雄におんぶに抱っこじゃあ立つ瀬がないだろう?

 立派な大人が正義を志す子供の力になってやれよ。

 

 ロキファミリアやフレイヤファミリアだって、いつも主役級の活躍なんだからたまにはやられ役を担当してくれたって、いいだろ?

 

 「それにしたってこんなに情けない配役は初めてだよ。お詫びに適当でいいから僕がリリルカさんを颯爽と助けるSSをーー

 「スマン。無理だ。そんな実力はない。」

 

 闇派閥にも闇派閥の主張がある。

 ヘイトや評価が怖くて、SSなんて書けないだろう?

 

 手痛い被害を受けたオラリオからも、当分悪に対する油断はなくなるだろう。

 オラリオは何か変わるのだろうか?それは彼女の活躍次第。

 悪はそれを、とても楽しみにしている。

 

 あいつらは、きっと俺達の状況を良くしてくれる。我慢していればいずれ俺達が苦しまなくてもいい未来を築いてくれる。だから俺達はあいつらを大切に育てていくのが一番のいい方法なんだ。

 

 悪党だって本当は、いい明日を、夢を、英雄を、正義を、信じているんだ。

 

 「私はツイてます!こんな中でも、私は今ここで生きてるから幸運です!」

 「お前はまだそれを言い張るのか………。何なんだそのわけのわからない強情さは!?だったら少しは笑えよ。四六時中不景気なツラしやがって。」

 

 リューはしばらく俯き、何かを決意して顔をあげる。

 

 「以前もらったタバコというのを一本分けていただけますか?」

 「それはダメだな。絶対にダメだ。何が何でもいけねぇ。」

 「どうしてですか?」

 「タバコは二十歳になってから、だ。お前多分未成年だろ?」

 「………あなたも未成年に見えますが?」

 「俺は犯罪者の闇派閥だから特別に許される。一般人は真似してはいけねえ。」

 「………邪悪な闇派閥だというのならやっぱり何が何でも捕まえないといけません!」

 「嘘だよ、嘘!闇派閥改め逃亡者だ!きちんと法を遵守して禁煙するよ!」

 

 カロンとクレインは去る。リューはオラリオへと人命救助へと向かう。

 

 正義を敵に回して英雄の免罪符を失ったフィンは死に、正義を貫くリューは生き残る。

 そして、現実を信じていたはずの悪党のカロンは仲間達の愛という感情によって逃げ延びる。

 

 英雄譚であれば、それで綺麗に収まる。

 もしもこれが英雄の話だったのならば。

 

 

 

 

 一流の悪党とは、鮮やかでなければならない。

 

 ◆◆◆

 

 「フィン、お疲れ。」

 「やあ、ティオネ。待っててくれたのかい?ありがとう。………それにしても衝撃だ。彼の指摘した通りだった。これが彼の言っていた見えない敵か。民衆が僕たちに依存しきっている、民衆にも悪と戦える強さが必要、か。悪魔はなにもかもを見透かして、僕たちに知恵を授けて去って行った。僕たちがいないオラリオがこれほど脆弱だったなんて。僕たちだっていつ死ぬかわからない冒険者だというのに………。」

 「フィン………。」

 「目に見える敵は怖くない、彼はそう言っていた。目に見える敵は知恵を振り絞れば倒せるし、倒したのがわかるからって。目に見えない、わかりづらい敵は気付くのが難しいし、本当に倒せたのかわからないから恐ろしいって。それは真理なのかもしれない。彼はきっと、ずっと目に見えない敵と戦っていたんだ。苦しくてどうしようもない現実という敵と。」

 「それにしたってフィンにこんな雑用を押し付けるなんて!」

 「ティオネ、そう言うんじゃないよ。僕たちもオラリオに住む一員だ。僕たちも無関係じゃない。彼らは間違いなく強いし、人間同士の凄惨な殺し合いなんて、僕だってしたくない。闇には皆で協力して立ち向かわないといけない。闇派閥ですら闇に立ち向かっているのだから。」

 「フィンがそういうんだったら。でもあの人達そんなに強いのかな?」

 「彼らが強い理由はいくらでもある。彼の言葉を聞いたとき、僕は親指だけでなく全身の震えが止まらなかった。彼の言葉の裏側は、見えてる敵であれば、知恵を凝らせば何でも倒せるとそう言ってるんだ。戦わずに済んだのは、本当に英断だった。」

 

 ◇◇◇

 

 「………つくづく惜しい男だ。死者の怒りすら鎮めるとは。悪名さえ知られていなければ、お前はきっと英雄になれたはずなのに。」

 「英雄なんざ興味ねぇよ。それより、立場が違えばお前とは友になれたかもしれねぇのにな。俺にとってはそっちの方が遥かに残念だ。」

 「友………。友か。確かにそうかも知れんな。俺もとても残念だ。………人は己の弱さや罪を悪魔のせいにして責任を押し付ける。お前はそれにすら打ち勝った。それではさらばだ、悪魔の皮を被らされたただの人間よ。お前は、信じられないくらいに強かった。」

 「俺をただの人間だと認めてくれるのか。ありがとう、慈悲深い衆生の主よ。それではさよならだ。」

 

 ◆◆◆

 

エピローグ

 

 ここは正義のアストレアファミリア。あれから時間が経ち、痛手を受けたオラリオの傷も癒えていた。

 大火の後にファミリアに戻ったリューによって、アストレアは再建されていた。

 人数はそこそこ。副団長は、リューがガネーシャファミリアに赴いて頭を下げて引き抜いたデルフ。団長室の机の上には灰皿があり、リュー・リオンは二十一才。

 

 あのあと、リューの敵の浮動派は全員ガネーシャに引っ張られていった。少数精鋭の復讐派は、全員オラリオから消えて居なくなった。

 

 リューはあのあと、大火の最中に助けた人間や、町を立て直す最中に出会った人間をアストレアファミリアへと迎え入れていた。町の再建活動の最中には、ガネーシャファミリアやヘルメスファミリアなどの有力なファミリアとの縁も出来ていた。

 リューは若いにも関わらず、怪我で戦闘が出来ないにも関わらず、明日を良くしようと行動する姿勢を以ってして正義を貫く団長として尊敬を受けていた。

 そして今日は今年のアストレアの新人面接日。

 

 「団長、今年はあまり良さそうな人材がいませんね。」

 「そういうことを言うんじゃありません。」

 

 デルフがしゃべり、リューが苦笑い。

 

 「団長、新しい面接希望者がいらっしゃいました。」

 「通してください。」

 

 リューに今声をかけたのは、大火の最中に拾ったリリルカ・アーデという有能な眷属。彼女は火事の中、行く宛てなくオラリオをさ迷っていたところをリューが保護をした。リューの秘書の役割を負っている。

 

 リリルカが呼びだして団長室に新しい面接希望者が入ってくる。白い髪の小さなうさぎみたいな少年。

 

 ーー期待薄、かな?頼りなさそうに見えるし。

 

 「名前と志望動機をお聞かせください。」

 「はい、ベル・クラネルです。志望動機はアストレアの方針に共感したためです。いいですよね、明日を良くするって。」

 「オラリオ在住の方ですか?」

 「いえ、地方から出てきました。」

 

 リューはクビを傾げる。

 

 「アストレアの方針がオラリオの外に広まっているとも考えづらいですが………。」

 「近所に住んでいたいつも僕に良くしてくれたお兄さん夫婦に聞かされました。何でもその人達以前にオラリオに住んでいたことがあったとか。」

 「どのような方ですか?」

 「あっ、その人からアストレアファミリア宛てに伝言があります。」

 「伝言、ですか?」

 「はい。何でも『遅れたが再建の御祝儀だ。これで少しは景気が良くなるだろ。』だそうです。僕には意味がわからないんですよね。そう伝えろって。何も持たされてないのに………。」

 

 リューはそれを聞いて、ただ笑う。

 

 ◇◇◇

 

 「ベル、オラリオに行っちまったな。」

 「ああ。あいつが心配か?」

 「あの子なら大丈夫よ。あなたがしっかり手助けしたじゃない。信頼出来るファミリアも紹介したことだし。」

 「ハンニバルは最後まで怖がられてたけどな。」

 「お前は顔が怖いんだよ。」

 「アンタも大概だろ?ヴォルター。」

 

 ◆◆◆

 

本当の状況

 

逃亡成功者・・・カロン、クレイン、レン、バスカル、ハンニバル、ヴォルター

 

オラリオ被害状況

死者・・・0

重傷者・・・少数

軽傷者・・・少数

家屋焼失・・・多数

ギルドに記された特筆事項・・・バベルが倒壊。再建の目処は立っていない。極めて危険な闇派閥の襲撃であることを鑑みると、人的被害の極めて少ないオラリオ全体の被害は異常と言える。ごく少数の軽傷者は、避難の際に負ったものである。重傷者は闇派閥の人間で、敵の仲間割れなのではないかと推測されている。敵はオラリオに軽微な損害を与えて、気付いたら居なくなっていた。家屋焼失に関しても、すでにガネーシャファミリアから保証金が出されている。ガネーシャファミリアの避難誘導が的確だったために死者が出なかったという声もオラリオから多く上がっており、保証金の件と合わせてガネーシャファミリアには称賛の声が上がっている。事件に関しては、敵の首魁が狡猾で悪名を知られている青い目の悪魔であることを考えれば、これは何らかの作戦である可能性が高いと言うのがオラリオの見解である。決して予断は許されない。

                                  完




ヘスティア様とヘファイストス様はバベルが倒壊したにも関わらず、多分地下の教会とかでしぶとく仲良く今日も私は元気です。ヘファイストス様も住居や店舗を無くして貧乏になってます。

おまけ1『茶番劇』

ダンジョンをひた走る、ベル・クラネル。彼はカヌゥによって嵌められて、直前まで窮地に陥っていた。彼は彼を裏切ったリリルカを助けるために必死になってダンジョンを駆けていた。

 「リリィィーーーっ!!」

脇目も振らず、息も絶え絶えにリリルカを探す、ベル・クラネル。彼は見失ったリリルカを必死に探す。彼は彼同様にカヌゥに嵌められて危機に陥っているリリルカを見つける。

 「リリっっ!!」

たくさんの魔物に囲まれて窮地に陥っているリリルカ。
ベルはリリルカを助けるために必死に駆け寄ろうとする、その刹那。

 「大丈夫だったかい、リリルカさん。僕が来たからにはもう大丈夫さ。邪悪な魔物め、食らえ!とおっ!!」
 「ええっ!?」
 「フィン様!!」

ベルが到着する前に、ロキファミリア団長のフィンが颯爽と現れてリリルカに迫る悪意をバッタバッタと薙ぎ倒したのだ!

 「フッ、リリルカさん。キミは僕が守る!僕が来たからにはもう大丈夫さ。」
 「フィン様、ステキ………。」
 「何なんですか!?この茶番劇は!?」

おまけ2『生き残った闇は、シビアでしたたか』

 「クレイン、ところで俺達の新天地での生活の資金はどこから出てるんだ?」
 「オラリオから逃げるときに、ついでに火事場泥棒でちょろまかしてきたわ。」
 「………すごいな。俺は金のことはすっかり忘れてたよ。結局俺達の中で一番シビアでしたたかなのはお前じゃないか。」
                         
おまけ3『ベルの憧憬はリュー』

 「リュー、大変よ!この間受け入れた新しい眷属のベルちゃんにレアスキルが発現したの!」
 「アストレア様、レアスキル、ですか?」
 「ええ。しかも二つもよ。」
 「二つもですか!?」
 「ええ、片方は憧憬一途というスキルでこっちはまだいいのよ。」
 「それではもう一つは?」
 「………悪魔崇拝というスキルよ。」
 「悪魔崇拝!?正義のファミリアなのに!?」

おまけ4『くっころさん』                       

 「どうだ~憎い正義のリュー・リオンめ!苦しめ!苦しいだろう~!」
 「くそ、悪め!………うっ!もうダメだ!苦しい。苦しすぎる。もう私はこの苦しみに耐えられそうもない。くっ、殺せ!」
 「いや、違うよ。そうじゃない。もっとねばれよ。乗り越えろよ。俺が求めているのはそういうのじゃないんだよ。」

おまけ5『もっとも被害を受けた神々』

 「ヘファイストス。ボクはなんかとてつもなく大切なフラグを失った気がするよ。」
 「ヘスティア、世迷い言はいいからしっかりとじゃが丸君を揚げなさい!生きていくにはお金が必要なのよ!」

おまけ6『真実』

 「ううっ、なんでやあああぁぁ。アイズたああぁん、みんなあぁぁ、ウチを置いてなんで死んだんやああぁぁ!!」
 「ただいま、ロキ。」
 「ええっ!?アイズたん!みんな!なんで!?死んだはずじゃあ!?」
 「ああ、それはこのSSの作者が闇派閥だから闇派閥をかっこよく書くためにSSにも嘘を織り交ぜてるから実は死んでなかったの。」
 「ええっ!?どういうことや!?そしてなんでフィンだけはおらんの!?」
 「フィンにはまだ仕事があるから一人だけ残業だって。私たちは復讐派の人たちに頼まれてたの。自分達のような苦しい状況に陥る人間が出ないようにするために、たまたま死にかけているところを保護した正義を立ち直らせたいから協力してくれって。それでヴォルターって名前のおじさんから身の上話を聞かされながらリヴィラでお茶を飲んでた。ベートさんは喧嘩売ってビンタ一発でゴミみたいになってたけど。」
 「ア、アイズ、バッ………!それ秘密にしろって言っただろ!」
 「ええっ!?ウチがめっちゃ心配してる間にみんなそんな呑気に過ごしとったの!?」
 「だってオッタルさんやアレンさんもフレイヤ様のところにもう帰ってる。民間の被害も実はゼロだし。みんな狐につままれたような反応してるけど、ガネーシャ様は闇派閥はフレイヤファミリアを恐れて元来たダンジョンに逃げたって説明したみたい。バベルだけは戒めとこれまでの復讐派の死者への墓標のために本当に倒壊したままだけど。復讐派の人たちはガネーシャ様と裏取引して全員オラリオの外に逃げたよ。本当は機密事項だって言われてたんだけどロキなら話していいって言われてる。」
 「ガネーシャと!?どうやってや!?」
 「怪物祭のために地下に来ていたガネーシャ様の眷属のデルフって人にガネーシャ様との渡りを付けてもらってたみたい。それでなんかオラリオの生命に対する危機感が足りないから抜き打ちの避難訓練を手伝ってもらったんだって。より危機感を煽るためにロキファミリアを撃滅するほどの危険な闇派閥が突然襲ってきたって設定で。復讐派のリーダーのカロンって人が考え出した案らしいの。復讐派とガネーシャの利害が一致するからって。ガネーシャ様とフレイヤ様の共謀らしいよ。あのヘルメス様まで見事に騙されたって大笑いしてたよ。」
 「ええっ!?ここまで書いといてそんなん許されんの!?」

おまけ7『悪魔との密約 ~戦術よりも戦略~ 』

リューが捕まった翌日、ガネーシャ本拠地。

 「よう。始めましてだな、ガネーシャ。」
 「………闇派閥が俺に何の用だ?………?お前本当に青い目の悪魔なのか?確かに容貌は一致するが、それでもずいぶん若く見えるが?」
 「それはどうでもいい。今日は大人の話をしに来た。」
 「大人の話だと?お前のような若い人間がか?」
 「年のことは放っておけ。ガネーシャ、俺達をオラリオから逃がせ。互いに利益の大きいいい提案がある。俺達は復讐を達成できて、お前らは闇を打倒しやすくなる提案だ。」
 「………何だと?」
 「互いに争っても死者が続出するだけだ。お前は俺の言葉の真偽がわかるな?俺は人殺しなんてしたくない。」
 「………続けろ。」
 「俺達は先行きがどうしようもなくなってしまった人間の集まりだ。俺達の目的はオラリオから逃げることだ。」
 「………。」
 「仲間はすでに説得が済んでいる。説得に今まで時間がかかってしまったが。俺達はオラリオから逃げたい。仲間も含めてもう二度と犯罪をしないと誓える。俺達だって憎しみの感情が強かっただけのただの人間なんだ。俺はずっと、真っ当に生きたかった。」
 「………。」
 「だがただ俺達が逃げるんじゃあお前らも俺達に恨みがあるし納得し辛いだろ?だからそこで互いに利益の大きい案だ。俺達だって俺達をこんな状況に陥れたオラリオに遺恨がある。」
 「………何が言いたい?」

 「ガネーシャ、闇はいきなり理由もなく現れるものではない。闇は民衆の弱さだ。社会の歪みだ。戦えよ。大本を絶てよ。見えないところで汚い手を使ってでも民衆を守れないようじゃ、俺は絶対にお前を民衆の王様だと認めねぇぜ?お前もわかってんだろ?」
 「………。」

 「そのために一芝居を打つんだ。死が他人事だから命は消耗品なんて馬鹿げた価値観が出来上がる。価値観とは、時代の常識だから問題があったとしても当人達はなかなか気付かない。闇派閥に命の大切さを説かれたらおしまいだぞ?」
 「続けろ。」

 「突然オラリオに危険な闇派閥が現れたとなったらオラリオは少しは自分の命の大切さを思い出す。怪物祭で浮かれてる時期だ。冷や水をぶっかけるのに、ちょうどいい。僅かではあるが俺の仲間の積年の恨みの発散にもなる。仲間達にはそれで納得させてある。本当は、実際にそれなりの死人を出した方が効果的なんだが、そんなことはしたくない。それに死者が出なければ、対応したファミリアのオラリオでの発言力も強くなる。力のある神を秘密裏に味方につけて、サクラにすればより効果的だ。そうすりゃお前の主張に以前よりオラリオが耳を傾けるようになる。価値観を変えるための土壌が作りやすくなる。」
 「………。」

 「俺は出来る限りの協力をする。俺だって俺をこんなに馬鹿げた状況に陥れた敵を打倒してほしい。俺達の手元にはたまたま拾ったアストレアの生き残りがいる。俺達のアジトに連れてきた際にそいつが大暴れしたせいで、鎮圧したときに手違いで片足が動かなくなっちまったが。さわると暴れる野良猫みたいな奴で、そのせいで手当も遅れちまった。ちょうどいいし、そいつを闇と戦う旗頭に据えればいい。本人に志があったんだから、周りに信頼できる大人を付けてそいつをみんなに認められる立派で強力な正義に育て上げるんだ。オラリオの腐った価値観をぶっ壊せるほどに。ガネーシャ、お前がパトロンになってそいつを守れ。」
 「アストレアの生き残り?アストレアは壊滅したということか?確かに投書があったが………。」

 「ああ。浮動派の馬鹿共はつくづくろくなことをしねぇ。俺が気付いた時にはすでに手遅れだった。投書ということは奴らまた俺達に罪をなすりつけやがったな。あいつらの所在もお前ら欲しいだろ?あいつらをほっときゃアストレアの生き残りが復讐しに行くぜ。あたら有望な冒険者の前途を潰すのは本意じゃねぇだろ?だから俺達が荒療治で何とか立ち直らせてやるよ。俺には破格のスキルがあり、それは壊れた精神を立て直すのに打ってつけだ。時間が経てば、そいつのダメージも抜けて演技がばれやすくなる。やるなら今のうちだ。闇派閥に力を貸すたちの悪い神の詳細も俺が知る限りの情報を渡す。そこをどうにかすりゃ、オラリオの闇派閥は一気に弱体化する。だからそれらと俺達の命と引き換えだ。狂信派の実態に関しては、悪いが俺達でさえもよくわからなかった。こっそり捕まえて拷問してみたりもしたんだがな。とりあえず目に付いた狂信派の奴らは手土産に片付けておいた。捕まえても自害するせいで身柄の引き渡しは出来ねぇが。」
 「お前は逃がしてもいい。お前が闇派閥のリーダーになってから犠牲者が減少していたことには気付いている。お前がどうにかしようとしていただろうことは、信じられる。………しかしレンとバスカルは大量殺人鬼だ。許すわけにはいかん。」

 「二人は渡せないよ。誰だって仲間は大切だ。俺は仲間を何よりも大切にしたから、こんなに弱いのに危険な奴らのリーダーとして認められてるんだ。それを反古にすりゃあ、考えるのも嫌になるほどの恐ろしいことになるぜ?それに俺達はお前らが考えているより遥かに結束が固い。さほどレベルが高くない俺が単体で出てこれたのも、俺に手を出したら地獄だという確信があるからだ。」
 「………。」

 「お前は俺が言ってることが本当だとわかるな?だからお前があいつらは死んだと嘘を付け。神が神の嘘を見破るかは知らないが、そこはいくらでもやりようがある。そこで渋ったら凄惨な命懸けの戦いに突入することになる。こんな馬鹿げた話はない。お前なら呑めるだろ?それともまさかお前まで自分の眷属に命は消耗品だから戦って死ねとか馬鹿げたことをぬかすのか?戦いを避けられるのに?間違いなく大勢死ぬのに?力わざで門を抜けるとお前らに大勢の死人が出るからわざわざ俺は捕まるリスクを冒してここに話し合いに来てるんだぞ?」
 「………致し方なしか。それにしても本当に痛烈な奴だ。挙げ句にその若さで神をあごでこき使おうとはな。だが嫌いではない。忠言とは得てして耳に痛いものだ。」

 「口が悪いのは許せ。闇じゃあこれくらい言えないと生き残れない。それで互いの合意が出来たら俺から策を提案する。概要はまずは、アストレアの生き残りになるべく不自然にならないように俺達の境遇を聞かせて闇もただの人間だということを理解させる。闇も人間であって果たして短絡的に命を奪っていいのかという問題提起をする。そしてそこから立て続けに人の死を意識させる難しい選択を迫る。今のそいつは思考する意志を放棄した自暴自棄な状態だ。まずは本人に思考する意志を植付ける。後は俺のスキルで何度も揺さぶりをかける。最後に頼れる立派な大人だってたくさん存在するのだということを理解させる。それらとオラリオの避難訓練を結び付ければ手っ取り早く、矛盾も出にくい。避難訓練でオラリオに人がいないうちに俺達はそのままいなくなる。詳細はこの紙に書いてある。細かく計画の説明をしよう。まずはお前が自分たちの眷属も最近俺達にたくさん殺されていたと民衆を煽る。次にーーー

1、オラリオの価値観を変えたい
2、死者を減らしたい 争っても互いに死者が出るだけ
3、リューを立ち直らせたい
4、復讐派を生み出す大きな原因の一つである浮動派をなんとかしたい
5、オラリオからいなくなってほしい(いなくなりたい)
6、悪党に力を貸す邪神をなんとかしたい

彼らはこれだけの利害が一致するんです。フレイヤはオラリオを騙すのが面白そうだったから乗っかりました。バベルは自演です。オッタルさんがめっちゃ頑張って倒しました。ガネーシャからの依頼でバベルは倒れたままにしてあります。

英雄が強い裏で、民衆は英雄に頼り切りで弱くなっています。英雄が悪をやっつけてくれるからなぜ悪が生まれるのかも考えないし、英雄が守ってくれるから自分たちは弱くても構わないとそう考えています。自分たちのことだけを考えて、悪は自分たちとは関係のない得体の知れない存在だというその無責任な考えこそが復讐派を生み出しました。民衆は彼らもロキファミリアが倒してくれると無責任に考えています。だからこそ、闇派閥にロキファミリアが敗れたら次はフレイヤファミリアに縋ります。

ガネーシャ様は問題を眷属を増やして影響力を強くして行くことで、問題を何とか地道に解決しようと努力なされています。

狂信派の連中は復讐派を恐れてちりぢりに逃げました。ほぼ壊滅状態です。彼らは犬猿の仲で、元々主人公が頭角を現したのも闇派閥同士の抗争の最中でした。裏設定として、原作様の正史においては、復讐派は狂信派に敗れて飲み込まれたという設定で、本作では主人公が頭角を現したせいで逆に復讐派が狂信派に勝利したという設定です。
今現在の復讐派の人員はめちゃめちゃ強くていやらしいです。主人公が狂信派が壊滅してることに気付いていないのは、拷問で得た彼らの行動原理が理解できずにもっと何らかの裏があると深読みしてるせいです。

ロキやフレイヤが手を出しあぐねたのも、復讐派は普通に戦っても強い上に狡猾な戦い方をして来ることを理解しているからです。

リリルカはただソーマから逃げてただけです。他のアストレアの人員は多くが密かなガネーシャ様からの支援です。人格者を見繕ってあります。金銭的な痛手は裕福なオラリオからすればさほどのものではありません。

神の千里眼や、ダンジョンの抜け道も、本当は無しにしたのではなく使う必要がないから使っていないだけです。

彼らの復讐心も、長期に渡るカロン必死の説得ですでに薄れています。
彼らは以前は何回も凄惨な戦いを経験していますが、カロンの説得の結果としてここ最近は魔物を狩って魔石をそこらの冒険者に押し付けて替わりに身ぐるみ剥ぐという奇妙なやり方で生活していました。

ロキに情報が行ってないのは、そっちの方が面白いからというフレイヤの協力の交換条件です。
ロキファミリアとガネーシャファミリアの生存報告は近々なされます。彼らが生きてた理由は、世渡り上手なロキ辺りが何か上手い言い訳を考えるでしょう。

話の中に出て来る、物語は闇派閥の視点であるという言葉と、悪党は平気で嘘を着くという言葉は伏線で、作者は闇派閥の悪党だから話に平気で嘘も書きますよ、という暗示です。滑稽な喜劇という言葉も暗示です。

話は、悪党の逃亡記でありながら、リューの成長譚でもあります。つまり本当は正義と悪のW主人公です。主張という意味での視点は闇派閥ですが、実際に起こったことはリューの視点で、残りは悪魔の言葉に誘導されたリューの想像による補完で書かれています。主人公の思考描写は、演技に緊張感を持たせるためと、普段の思考する癖で、実際にその状況に陥ったらどうするかを思考しています。戦闘シーンはただの字数稼ぎです。闇派閥の作者はバトルものでバトルを字数稼ぎだと言い切ります!

リヴィラに関しては、再到着時に彼女を眠らせておくことで上手く対応しました。実際は彼女は全く死体をみておらず、クレインからの伝聞だけだったためにあんなにも冷静でした。死体を燃やすシーンも、大男の体に遮られた魔物の死体を燃やすシーンでした。ガネーシャファミリアやロキファミリアは魔物の死体を集めた後は、シュールにも家屋に隠れています。
フィンを刺すシーンも、刺すところは大男の体に遮られて見えませんでした。もちろんデルフも共謀で、家屋に隠れてリューが来るまで計画をカロンとフィンで話し合っています。
ステータス封印薬も、実はガネーシャからの根回しです。

物語の冒頭も、リューはケガをして朦朧としていることと精神的に追い詰められていることと相手は闇派閥だという先入観より記憶違いしています。リューが頻繁に変なタイミングで寝込むのも、殴られたのではなく襲撃のダメージが抜けていないせいです。

つまり実は、リューはいろいろ勘違いしています。このころにはすでに、復讐派は仲間内で逃げ出す合意が取れているからリューをどうこうするつもりは全くありません。リューの勘違いのせいで、物語にも間違いがたくさんあります。物として扱うとか、カロンは本当は言ってません。タバコも与えてません。そもそもリューを拘束したのも放置したら暴れるせいです。暴れて鎮圧されるでダメージが一向に抜けない無限ループにはまってます。変に回復させると余計に元気に暴れるのでカロン達は困り果てています。挙げ句に放流すると新たな復讐派を立ち上げかねないという懸念を捨てきれないどうしようもない困ったちゃんです。そしてリューは鎮圧された際のダメージを殴られていた、手当するために触られるのをそういうことをするためだと勘違いしています。しかし、実際に策を立てるカロンは、そちらが都合がいいと気づき、放置します。

策に関して言えば、例えばヴォルターの話を立ち聞きするシーンなんかは、闇派閥がただの人間だということを理解させるためにあえて拘束を緩めて立ち聞きさせるなど、カロンはいろいろな策をこらしてます。

そして最後に、リューはオラリオの実際の被害の状況と照らし合わせて自分が騙されて励まされていたことに気づき、彼女は大笑いします。

まあつまりは闇派閥とガネーシャ様とアストレア様とフレイヤ様が共謀して、仲間を失って失意に沈む子供を大人の汚いやり口で立ち直らせて大切に育てていくだけの話です。
だからレンの矜持の回に出てくるカロンのリューにはまだ使い道があるという言葉は本当の言葉です。

悪魔は嘘をついて、読者様も平気で欺いていたのです。
                           
 「ああそうだ。ガネーシャ、ついでにアストレアとかいう分別のついてない子供にステータスを与えていた邪神に文句言っといてくれ。」
 「あいつは眷属を失ったばかりだ、勘弁してやってくれ。………それにしてもお前は本当にどこまで口が悪いのだ。」
                        おまけ 完

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