闇派閥が正義を貫くのは間違っているだろうか   作:サントン

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新たな人員

 リューには二つの選択肢が提示され、一つの提示されない選択肢が存在した。

 

 一つは闇派閥の手伝いをして、一般人が多く命を拾う道。

 もう一つは闇派閥の手伝いをせずに、一般人が多くの命を落とす道。

 最後に、闇派閥の手伝いをすると嘘をついて、逃げ出す道。

 

 どれを選んでも、致命的な裏目が存在する。そもそも闇派閥の言うことは信用できない。

 

 カロンの悪魔の誘惑はあくまでも、揺さ振るもの。水面に石を投じるだけのものである。相手の決定権までは決して、奪えない。

 

 選択とはしばしば、決断するときに多大な苦痛を伴う。

 どれが正解だったのか、いつまで経っても、選択の結果が出た後ですらも、それはわからない。そして、選択の結果によって、大きな痛みを伴いうる。

 

 悪の成り立ちを知るガネーシャは、苦汁の決断で民衆の安寧を守るために直々に悪を根絶やしにする決断を下した。

 

 リューは苦悩しつづける。そしてリューは知らない。

 それは、ずっとカロンが味わいつづけてきた苦しみである。

 

 人を殺して生きるべきか?人を殺さずに死ぬべきか?

 どちらの人間を囮にするか?どちらの人間を見捨てるべきか?

 どの選択肢を選べば、未来は良くなるのか?

 

 カロンは今までずっと、決断しつづけてきた。

 苦しみが麻痺したと自分で思い込むしかないほどに。悲しみを覚える暇なんてないと自分で思い込むしかないほどに。

 本当は苦しいし、悲しい。そしてそれによって彼は耐える力が恐ろしく強くなっていく。

 それがバスカルがカロンを強いと評した理由である。バスカルは、かつて選択することが出来なかった。

 

 闇に生きる不安定な人間の人生は、苦しみを伴う決断の連続である。そもそも彼らの現実は、非常に苦しい。出口のない迷宮に囚われ、いつになったら安寧が齎されるのか、皆目見当がつかない。いつになっても、人生の先行きに安定を得ることが出来ない。彼らは長い間、苦痛を受けてきた。

 

 そしてそれは、彼らが強い決定的な理由の一つでもある。

 彼らは一様に皆、恐ろしく苦しみに強い。我慢強い。

 堪えられない人間は、我慢できない人間は、当然すぐに消えていく。

 

 そして、リューは苦しみに弱い。

 リューは苦しみに弱いからこそ、仲間が死んだ苦しみに堪えかねて、復讐を望んだ。苦しさを発散できる対象を捜した。

 

 どれだけ苦しくても、時間は待ってくれない。

 決断を先延ばしにしても、余計に苦しいだけでしかない。

 彼らはそういう状況に、幾度となく置かれてきた。彼らは幾度となく、苦しみを伴う決断をしてきた。

 

 リューは、考える。

 

 ーー私は………どうするべきだ?確かに、民間に被害が出るのは受け入れられない………正直にガネーシャ様にすべてを話すべきか?それとも奴らの言うことに従うべきなのか?奴らの言う通りにすれば本当に民間人の被害を抑えられるのか?どうするべきだ?私が耳栓をしている間、奴らは何を話していたのだ?あの男の考えが読めない………。

 

 カロンは考える。

 

 ーー時間はいくらあっても足りない。考えれば考えるほど、新しい状況、戦略、戦局が存在する。クレインは手配されていない。つまりクレインに新しい傷を複数箇所作れば、彼女を闇派閥の被害者としてエルフと一緒にガネーシャの下に保護させることは………それは不可能か。神は子供の嘘を見破る。クレインは闇派閥だ。しかし、ダイダロス通りに逃げ込む際に、クレインの面相が割れなければ彼女は市民に紛れ込むことが可能になる。そうなれば彼女に工作を命令することも、彼女をただの市民として市中で平穏に暮らさせることも可能になる。まずはクレインと話をすべきか。

 

 ◇◇◇

 

 「エルフ、わかってるな?」

 「ええ。」

 

 カロン達は、手加減をしてリューを痛め付ける。リューは顔を殴られ、胴体手足を蹴られ、体に生傷を増やす。血に塗れるリュー。

 

 「エルフ、俺達を好きに恨みな。」

 「………。」

 

 リューは考える。

 今は体の痛みより、自分の行動による結果の方が大事だ。

 私の行動は正しいのか?私はどうすればよいのか?

 答はでない。

 

 リューは知らない。

 それは明確な答の存在しない選択肢で、自身の強い意志でいずれかを選ぶしかない選択肢だということを。どうやっても裏目から逃れられない選択肢だということを。

 

 「このくらいでいいか。ハンニバル、レン、バスカル、掘削を頼む。穴が塞がらないようにする補強板は俺が作る。」

 「ああ。」

 

 ハンニバルが答える。

 

 「クレイン、話がある。」

 「どうしたの?」

 

 カロンはリューと共に居るクレインの下へと向かう。

 

 「エルフは耳栓をしろ。」

 

 リューは素直に耳栓をする。

 

 「クレイン、お前はオラリオで手配されていない。ダイダロス通りに首尾良く逃げ込めたら、お前は昼間は俺らと別行動できる。お前は市民に紛れ込める。」

 「………そうね。」

 「それで、どうしたい?俺としては、お前がそのまま市民として暮らして行くのがいいと思うのだが。」

 

 クレインがその選択を選べば、彼女の安寧を守るためにクレインの面相を知るリューは手段を選ばずに埋められることが決定される。

 

 リューを埋める決断をすることは、カロンにとって苦しみである。意味のない殺しなんか、誰だってしたくない。しかしそれがどれほど苦しくても、カロンは決断する。

 

 「どうかしらね。」

 「俺としては非常に………何と言うか、判断に迷っている。懸念事項が多い。俺達が危機に陥ったとき、お前は俺達を見捨てることができるか?」

 「無理ね。」

 「まあそうか。やはりそう言うか。そうなると………どうするべきか………。工作を任せるべきか?物資の補給………ヴァリスの必要性………これは予想外だ。今のオラリオはダンジョンを封鎖している。魔石の換金なんかをしたら、一発で通報されてしまう。物資は盗まずに買う方がリスクが低い。リヴィラからヴァリスをくすねて来るべきだった。急いで戻るか………。」

 「私がもう盗って来てるわよ。」

 「本当か?助かるよ。さすがクレインだ!」

 「今までお金に苦労したから。必要になるかもと思って持ってきたの。500万ヴァリスくらいは持って来れたわ。」

 「本当に助かるよ。気が利くな。クレインが予約すれば、身分確認が必要になるような宿でないなら泊まれるな。夜間に話し合いを行い、昼間は市中に紛れておいて欲しい。………いや、エルフにガネーシャ側にクレインの人相を伝えられてしまったら、まずいか?」

 「髪をバッサリ切るわ。私はあなたたちのように面相着きの手配書が出回っているわけじゃないから、エルフ本人に出くわさなければしばらくは大丈夫よ。」

 「うん………仕方ないか。それについては後で考えておくよ。」

 

 リューを埋める決断は、回避された。

 カロンは思案する。

 

 ーーとりあえず、策は練ったが………やはりエルフが裏切った場合は………不安だ。エルフが裏切った場合のシミュレーションを行う。エルフが裏切れば、奴は敵に何と伝える?奴は俺達の人員を伝えるだろう。そしておそらくは、俺達がダンジョンで爆薬を仕掛けていて、俺がなんらかの策でダンジョンを脱出しようとしていると敵に伝わることになる。俺はエルフに、浮動派連中の情報を渡した。その情報は俺達が、奴が裏切らないように報酬として渡した、わけではない。新たな敵が現れれば、奴らは戦力を分散させる必要を考えるからだ。撹乱のために俺達は奴に情報を提供した。それがガネーシャに伝われば、僅かであっても効果が見込めるか?俺達はロキファミリアが居たリヴィラを壊滅させたほどの、危険な連中だ。奴らは俺達を軽視しなくなるだろう。さほどの効果は見込めない。しかしやっておいて無意味ではない。

 

 ーー考えろ、どこまででも、考えろ!エルフはガネーシャにどう伝える?奴はリヴィラ全滅を伝える。俺達の人員を伝え、俺が策を練っていることを伝える。しかし俺がダンジョンに爆薬を仕掛けていることも同時に伝わるはずだ。そうすれば敵はどう動く?慌てて人数を使って俺達の捜索を行うか?人数はどう使う?纏めるか?散らばらせるか?ガネーシャも、犠牲0を想定はしないはずだ。エルフが奴らに俺達の指示通りに伝えれば、奴らは慌てて俺達を攻めて来る可能性が大だ。ダンジョンを横抜きしてしまったら、危険な俺達が市中に現れることになるためだ。エルフが俺の指示に従わなかった場合は………奴らはどう考える?まず奴らに伝わる情報。それは俺達が火薬を仕掛けている。それは囮で、俺達がなんらかの手段で逃走を試みている。俺達の頭脳は俺。

 

 ーーそれが伝わればどうなる!?エルフは俺達がレンを囮にすることをどの程度信憑している!?ガネーシャが採りうる選択肢はいくつか存在する。しかし、それはあまり宛てにならない。十分な思考時間があるなら、俺達は奴の考えることを推測しうる。敵方の視点で見ると、エルフからもたらされた情報では俺達はすでにダンジョンに爆薬を仕掛けているということになる。ガネーシャが俺達の想定通りに行動を起こさなければ、俺達はそちらを脱出の手段として採用する可能性が高いとオラリオは考えるはずだ。

 

 ーーそうなると、市中の警備に人員を割くか?それともダンジョンの強襲に人員を割くか?あるいは全く別の行動を採るか?現状維持か?最も可能性が高いのは、万一を考え強力な連中をある程度オラリオに残し、犠牲を許容してダンジョンに部隊を送ること、か?

 

 ーー市中に人員を割かれたら、俺達は一旦少し下の階層まで逃避する。強襲されたら何としてでも行き違う。現状維持ならば新たな策を考える。部隊を送り込むようならそいつらを帰さない。それがベストな選択か?クソッ!裏切られた場合の有用な策は、極めて少ない。ならばいっそ次善の策として本当にダンジョンを爆薬で横抜き出来る状況にしておくべきか?しかしそれはそれで敵方から偵察を送られる可能性が高まるというデメリットも存在する。

 

 リューは考える。

 

 ーー私はどうするべきだ?私はつい奴らの案に乗って嘘の情報を流すことに首肯してしまった。一般人の犠牲の減少に釣られて、頷いてしまった。私はどうする?どうすればいい?私は逃がされた先で正直に話すべきか?それとも奴らの言う通りにするべきなのか?わからない、わからない、わからない。

 

 カロンはタバコに火を点けて、考える。

 

 ーーこうなってしまえば、つくづくヴォルターの戦力の喪失が惜しい。あいつが生きていれば、蟲の魔法で選択を強制的に迫ることが可能だった。エルフを逃がすと同時に、蟲で敵を覆ってしまえば、敵は攻めるか退避するかさほどの時間をかけられない。選択を間違えさせやすい。ほぼ敵は退避するだろう。他にもオラリオの人の多いところで使えば、あいつの切り札は囮としては決定的だった。敵は真っ先に一般人の退避の指示を行わないといけなくなる。しかしこの方向の思考は詮なきことだ。

 

 ーーレンの重力、バスカルの火炎、クレインの氷塊………どれも組み合わせて決定的に強力に現状を打破できるわけではない。クソッ!

 

 考え込むカロンの側へとリューが近寄る。リューは物いいたげにカロンを見つめる。

 

 「………。」

 「あん?どうしたエルフ?何か用か?」

 「………気が変わりました。やはり私はあなた方のことを信頼できません。私は逃げた先であなた方の言う通りに行動できません………。」

 「いまさらか?お前が俺達の言う通りに動けば、死人は減るぜ?」

 「あなたが仮に、人を殺したくないというのが事実であったとしても、それでも生きるために必要になったと思ったら人を殺すでしょう。」

 「まあ、そうなるな。しかしお前には、すでに報酬を渡していたはずだが?」

 「………お返しします。」

 

 カロンは考える。

 

 ーー逃走先で裏切られるよりはマシだが………まあ決行ギリギリで翻意をされるよりはいいと考えるしかないか。俺達はまだ、さほど行動には移していない。そうなると掘る場所も変えないといかんな。………すまない、レン、バスカル。

 

 リューは本来であれば、嘘をついてオラリオに逃げて彼女の知る限りの情報を作戦本部に伝えるべきである。それが最も正解に近く、裏目が少ない答である。しかし彼女がカロン達の境遇を聞いてしまい、カロンが最初にリューに慈悲で選択肢を提示したことがここに至って彼女にこのような解答を出させた。

 

 悪党が慈悲で偽り無しに選べる選択肢を提示するのに、正義は嘘をついて逃げるのか、と。

 

 しかしそれは高潔さや正義などではない、ただの甘さである。リューは無意味な個人の正義感に足を引っ張られている。それは彼らがこれから起こす行動で、どれだけオラリオが被害を受けるのか、どれだけ死人が出るのか、それを考えていない想像力の欠如でしかない。もしこれがカロン達が逆の立場であったら、彼らだったら平気で嘘をついて逃げる。

 

 そして、彼女の選択は、自分は手伝わない。その答は、明確な彼女の意志によって決定されたものではなく、どれを選べばいいのかわからないからという理由の思考放棄による現状維持である。

 

 思考放棄しなければ、命とは個人の正義感などとは比べものにならないほど重いという結論を出したはずなのに。

 思考する苦しみに、選択する苦しみに、彼女は負けた。逃げた。

 

 リューは苦しみに弱いゆえに、思考放棄という最も愚かな選択肢を選んだ。

 

 「………本当にいいのか?お前がここで俺達の言うことを聞けば逃げれるんだぞ?」

 「………このままでは私は誰かには嘘をついてしまいます。………気が乗りません。」

 「………その紙は持っていけ。」

 「いいのですか?」

 「構わん。俺達にとってはどうでもいいことだ。」

 

 カロンは掘削を始めた仲間の所へと行く。

 

 「………みんな、済まない。状況が変わった。最初の予定通り、壁を抜いて逃げることになる。別の場所を掘ることになる。」

 「………そうか。」

 

 レンが沈痛な面持ちで答える。

 

 レンの心中は如何ばかりだろうか?

 死ぬことが決まった状況から、生きることに僅かな希望が持てる状況に変わり、再び死ぬことが決まった状況へと落とされる。

 しかし彼女は何も言わない。

 

 「場所を移動する。俺が入口の場所の確認による地表までの距離の推測と爆薬の保有量を加味して、どの程度掘削するか決定を行う。クレインはより敵の動向に気をつけてくれ。下手したらフレイヤの奴らが出張ることも有りうる。」

 「ええ、わかったわ。」

 

 仲間達は、壁を掘る。カロンはどこまででも考える。

 

 ーー参った。この手を使うとなると、先ほどの案よりも時間がかかる。そうなってしまえば、俺達は少しでも長い時間稼ぎが必要となる。俺達の現在地点は、ダンジョンの正規ルートから外れた横道。こちらに偵察が寄って来る可能性は薄いと言えるが………しかし少しでも長い間リヴィラの現状を敵に伝わらないようにせねばならない。リヴィラ全滅の報を帰還した偵察から聞いた奴らは、それに対する何らかのアクションを起こす。リヴィラから偵察が帰って来なければ、奴らはより強力な人員をもう一度リヴィラに送る必要性が出てくる。ゆえに少しでも時間を稼ぐために、奴らの偵察を埋めなくてはならない、か。まあ仕方あるまい。

 

 「クレイン、奴らが何かのアクションを起こすことを最大限に警戒しろ。奴らが人員を送っていたら、俺達の方へ来なくとも俺に必ず伝えてくれ。」

 「ええ、わかったわ。」

 

 彼らはひたすら穴を掘りつづける。カロンはひたすら思考し続ける。

 

 ◇◇◇

 

 彼らはひたすら掘りつづける。カロンはひたすら思考し、補強板を作成する。 

 彼らが壁を掘りはじめて二日後に、少し事態は動く。

 

 「カロン、偵察と思われる奴らがいるわ。」

 「わかった。」

 

 カロンはダンジョンの影に潜み、敵の確認を行う。

 

 ーー俺でも見たことがあるそれなりに名の通った奴ら。確かガネーシャの所のレベル4が二人にレベル3が一人、か。埋めるのは問題なく行える。奴らがリヴィラに行って戻るまで丸一日以上かかる。が、まだ穴を掘りつづけるのは当分かかる。残念だが、処分することにするか。

 

 「レン、バスカル、済まないが別の仕事だ。ガネーシャの所の偵察を三人、片付けてくれ。死体はここへ持ってきてくれ。奴らの持ち物で使えるものがないか俺が確認する。」

 「敵のレベルと所在地は?」

 

 バスカルが問う。

 

 「敵はレベル4が二人、レベル3が一人。今下の階への通路を降ったところだ。確実に葬って、絶対に逃げられないようにしてほしい。………済まないがガネーシャの奴らだ。」

 「………ああ、わかった。」

 

 レンとバスカルは掘削を中断し、冒険者を襲いに向かう。

 

 ◇◇◇

 

 ダンジョンに送られた三人の偵察、彼らの名前はデルフ、アラン、ビルである。

 唐突に複数の炎がデルフ達三人を襲い来る。

 炎を確認したリーダーのデルフは即座に仲間達に叫ぶ。

 

 「みんなっっ!!敵だ!警戒しろ!!」

 

 ーーこれは、見覚えがある。ということは、敵は()()か。クソッ!

 

 暗闇から、二人組の男女が現れる。強者の雰囲気を纏った、赤い髪の女と茶髪の優男。

 

 「レン!バスカル!こんな馬鹿げたことは、もうやめろ!おとなしく捕まるんだ!」

 「あん?おとなしく捕まったところで、どうせ私たちは縛り首だろうが!自分から死にに行く馬鹿が、どこにいるんだ?」

 

 レンはそう答える。

 向き合う二人と三人。

 レンとバスカルはもともとガネーシャファミリアの人間である。彼らは顔見知りだった。

 

 「バスカル!お前までこんな馬鹿げたことに付き合うのか!!」

 「ああ、付き合うね。もう俺はここまで来ちまった。たとえ馬鹿げてても、間違っていても、死を望まれる最悪の奴らと呼ばれても、俺は俺の命の限り生きつづける。生きなければ、何もできないだろ?」

 「……ああ、確かにバスカル、お前の言う通りだ。誰だろうと生きなければ何も出来ないんだろうな。」

 

 デルフはバスカルのその言葉に、説得することは不可能だと判断する。

 

 レンとバスカル、対するはガネーシャのレベル4二人にレベル3。

 デルフ達はレンとバスカルに面識がある。

 デルフ達はそれなりの期間をレン達と共にガネーシャファミリアで過ごしていたために、戦いで自身達に勝ち目が極めて薄いことを理解していた。

 

 デルフは考える。

 

 ーー奴らに入口側に陣取られてしまった。仲間から定期連絡が来ないことに不審を感じた俺達だったが、まさか敵がもうこんな所に来ていたとは!?どうなっている?リヴィラはどうなったんだ?奴らは入口の近くに構えていたのか!?こいつらはかつてガネーシャファミリアに在籍していた時でさえ、すでにレベル5目前だったはずだ!元ガネーシャファミリアの最高戦力!俺達じゃあおそらくはこいつらに勝ち目がない。

 

 「問答無用だ!」

 

 レンが宣い、迫り来る。戦端が開かれる。

 

 ◇◇◇

 

 ーー奴ら………やはり強い!レンの動きだけでも俺達は対応で精一杯なのに、炎が隙間を縫って襲い掛かって来やがる、クソッ!!

 

 デルフは毒づく。

 デルフ達の戦法は、槍と盾を持つレベル4のデルフが前衛を一手に請け負い、レベル4のアランとレベル3のビルが魔法攻撃を行う。比較的万能なアランはデルフの指示に従い、前衛と後衛を行き来する。

 しかし全く通用しない。デルフ達にとって何より最悪なのは、手札、戦術、切り札がばれてしまっていること。

 

 彼らの今現在の戦術は、デルフが足止めし、アランが雷魔法で相手の動きを止め、ビルがトドメの風の刃の魔法で打ち倒すというもの。前衛、後衛、後衛の三人組。しかし。

 

 彼らの指揮者のデルフは考える。

 

 ーーここまで実力差があると俺達の戦術は総崩れだ。俺が足止めが出来てなくて、アランの雷魔法は詠唱が終わるタイミングを知られているために魔法を避けられる。当然ビルの風の魔法が当たるわけがない!

 

 デルフが考えている最中にも敵は襲い掛かって来る。レンは壁を蹴り、空中で宙返りを行い、死神の鎌は空中から重力と遠心力を加算されて振り下ろされる。

 

 「ぐっっっ!!」

 

 デルフにとっては重い、あまりにも重い一撃。彼の持つ盾を貫通し、彼の鼻先で間一髪鎌は止まる。しかし彼が安心するひまはなく、バスカルの炎が側面から迫って来る。

 

 「くっ。」

 

 補助をするビルの風の刃魔法が何とか炎を斬り飛ばす。しかしバスカルの炎は即詠唱で、ビルの魔法は詠唱に時間がかかる。どちらが不利か言うまでもない。

 

 「ライトニング!!」

 

 ーーマジかよ!?いくら手札を知っているとは言え、雷を避けるかよ!普通!クソッ!

 

 アランが雷魔法を打つが、敵の打ち出しを見ていたレンは軽々と雷を避ける。

 レンはそのまま床を走り、盾を壊されたデルフへと襲いかかる。デルフは敵の鎌を壊れた盾で何とか防ぐが、バスカルに炎で狙い撃たれる。デルフはバスカルの炎を無理な体勢で避けてレンに致命的な隙を晒す。

 

 「トドメだ!」

 「待ってくれ。降参だ。」

 

 デルフは無様に床にしりもちをついている。

 デルフは武器を床に放り投げ、両手を上にあげる。

 

 「あん?」

 「この状況じゃ、俺達に逃げる目も、勝てる目も存在しない。」

 「「デルフ!!」」

 「お前のお仲間は、何かいいたげだぜ?」

 「俺が説得する。」

 

 デルフは後ろの仲間へと振り向く。

 

 「おい、降参してどうすんだよ?相手は危険な奴らだぜ?」

 「戦っても、確実に死が待つだけだ。奴らに対して俺達は勝ち目がない。今を生き延びて、機を伺うんだ。」

 「………。あんたがリーダーだしな。」

 

 アランとビルは、文句をいいたげではあるが、しばらく話し合い結局はリーダーの言うことに従うことにする。

 

 「俺達はお前らに降伏することにする。俺達は、死にたくない。」

 

 レンは考える。

 

 ーーカロンのヤローは埋めろと言ってたが、別に無理して今埋めなくとも構わねぇ。それはいつでもできる。ならば生かしたまま、連れていくか?問題ありゃ、あっちで埋めればいいか。

 

 彼らは顔見知りだ。レンは埋めなくて済むのであれば、そちらの方がいい。

 

 「バスカル、どうするよ?」

 「殺すのはいつでもできるしな。無駄に殺したいわけでもないし。お前ら、逃走を試みたらその時点で残った仲間の首が飛ぶのはわかってるな?」

 「あ、ああ。」

 

 彼らの処遇が決定される。

 レンとバスカルは相手に逃げられないように細心の注意を払い、カロンの元へと帰還する。

 

 ◇◇◇

 

 「カロン、奴らを捕らえてきた。」

 「生け捕りにしたのか。………少し待ってくれ。少し考える。そいつらが反抗しないように、万全の注意をしてくれ。」

 「ああ。」

 

 ーー………想定外だ。レンとバスカルが敵を生かしたまま、捕らえてきてしまうとは。しかし、これはもしかすると妙手かもしれない。案外と使い道が存在するのか?

 

 「おい、お前ら。」

 「………何だ?」

 

 デルフが答える。

 

 「お前らは命が惜しいか?」

 「………ああ、もちろんだ。」

 「当たり前の話だが、俺達はお前らを逃がすことが出来ない。お前らを逃がしてしまえば、俺達の計画が敵に筒抜けになってしまう。」

 「………。」

 

 デルフは考える。

 

 ーークソッ!!レンとバスカルだけで俺達には勝ち目がほとんどない。俺達はここまでか?

 

 カロンは考える。

 

 ーー特に生かす意味はなさそうだが、こいつらを掘削人員に使うとなると話は別だ。こいつらにも壁を掘らせてしまえば、俺達が壁を掘る期間は短縮できる。夜間はステータス封印薬を打って、俺とクレインの交互に見張ればいい。俺達が逃げる際に、適当な所にステータス封印薬を打ったまま置き去りにすればいい。

 

 「………お前ら、上のお前らの状況と人員はどうなっている?お前らが戻らなければ、次は誰が偵察に送られる?」

 「………それは死んでも言えねぇ。たとえ拷問されたとしても。俺達は、民衆を愛するガネーシャ様の眷属だ。仲間は売れねぇし、民衆が傷付くのなら、俺達は命を捨てて戦う。」

 

 カロンは考える。

 

 ーーやはり情報は吐かんか。実際に拷問を行ったら、こいつらは掘削人員として使い物にならなくなってしまう。別々のダンジョンの部屋で拷問すれば、得た情報のすりあわせも出来る。そうすれば信憑性の高い情報を得られるか?情報はかなりの価値が有り、どうしても欲しいものではあるが、現実どれだけこいつらが拷問に耐えきれるかは不透明だ。本当に死ぬまで何も吐かなければ、俺達がこいつらを捕まえても捕まえた時間と拷問した時間がかかっただけで何にもならなかったことになる。それならばやはりいっそ情報を諦めて掘削要員にするか。これも断るようなら埋めるほかはない。

 

 カロンは彼らに告げる。

 

 「………お前らは壁を掘れ。お前らが必死に壁を掘るのを手伝うなら、俺達はその間お前らを殺したりはしない。俺達が首尾良く脱出できれば、俺達は俺達の都合がいいときにお前らをどこかにうっかり置き忘れて逃走することになる。これも断るようだったら、残念ながら俺達はお前らをここに埋めることになる。」

 

 デルフは考える。

 

 ーー誰かを殺せと言われるくらいだったら死に物狂いで戦うつもりだったが、壁の掘削をやらせられるくらいだったらまだ許容範囲だ。おとなしく従おう。隙があれば逃げれるかも知れんが、こいつは確か青い目の悪魔と呼ばれる男だ。そんなにぬるい奴だとは思えん。

 

 「………わかった。」

 「さらに言うと、お前らが少しでも反抗的な素振りや逃げる気配を見せたら、迷わずに埋めることになる。言動には気をつけろ。理解したか?」

 「………ああ。」

 

 カロンは考える。

 

 ーーレベル4二人にレベル3一人。仮にこいつらが逃げ出したとしても、逃げる進路上に俺とクレインが居れば奴らが逃走を試みてもわずかに足止めが可能だ。そうすればレンとバスカルとハンニバルもすぐに合流する。とりあえずは、問題ない。問題は次だ。次はこいつらよりも、強力な偵察が送られて来ることになる。おそらくはフレイヤの人員だ。そうなればどうする?まさか猛者を送りだしたりはしないだろう。もうワンランクは落とすはずだ。なぜなら最悪の場合はリヴィラ壊滅を想定しているはずだから、単体で送り出せば最悪猛者を失うことになりうると考えるはずだ。となると………。

 

 カロンは思考を続ける。仲間は掘削を続ける。クレインはリューの見張りを続ける。

 

 ーーどうする?次の人員を俺達はどうするべきだ?次の人員はおそらくは盲目的にフレイヤを信仰する奴らだ。そいつらは今日捕まえたこいつらほどぬるい相手ではなく、まず間違いなくレベル5以上。奇襲で倒すべきか?スルーするべきか?なんらかの罠を張るべきか?奇襲をした場合、俺達は敵の必死の抵抗にあう。しかしオラリオに潜伏する際、俺達を捜す強力な駒を一つ減らしうるというメリットも存在する。スルーした場合は、特にメリットもデメリットもない。予定通りにガネーシャに情報が伝わるだけだ。………どうする?やはり相手次第か?次はオラリオ側の罠も警戒する必要が出てくる。二重尾行、今日捕まえた奴らが帰還しないことを警戒して、次に送った人員を密かに仲間に尾行させるというやり方だ。敵の攻撃を受けたら仲間を合流させる。その手を使って来るのか?まあ、偵察の人数と質次第で奇襲をかけるか決まることになる、か。となると、奇襲の戦法も考えておかないとならない。レンの重力で相手を止めて、バスカルの魔法で相手を燃やす。しかし相手が予想以上の手練だったら、奇襲の重力魔法を避けられる可能性まで存在する。

 

 ーーところで………エルフにも壁を掘らせるか?いや、エルフは片足が使えないし、体中傷だらけだ。そうなるとそこまで壁を掘らせるのに役に立つとは思えんし、クレインは俺とここで見張りをさせている。クレインも一人では退屈だろう。このままでも構わんか。さて。

 

 ーーこいつらを解放する際、少しでも敵に情報が伝わらないように手を打つ必要がある。ダイダロス通りのどこかに縛って転がしとくのがベストか?俺達がオラリオから外に逃げ切れたら、こいつらが何を言っても、何をしても問題はない。掘削にはまだ時間がかかる。その間に考える時間はある、か。

 

 時間は経ち、夜になる。

 

 ◇◇◇

 

 夜になり、彼らは食事をする。

 そしてやがて彼らは眠りに就く。カロンは捕虜のステータス封印薬を打ち、見張りを行う。

 

 「そうか。やはりアストレアは全滅していたのか。アンタはその生き残りだったのか。災難だったな。体中傷だらけだし。」

 「………ええ。」

 

 デルフ達はリューと話す。

 カロンはそんな彼らに告げる。

 

 「おい、お前ら。多少の話をする分には構わないが、俺達の話はするんじゃねぇぞ!」

 「………ええ、わかりました。」

 「………ああ、わかった。」

 

 カロンが彼らに告げる言葉、その意図。

 デルフ達はカロン達が襲撃したガネーシャファミリアの人間であり、カロン達は彼らの仇である。リューにあまり彼らの憎しみの感情を煽って欲しくはなかった。今のまま素直に彼らが掘削を手伝ってくれてれば、役に立つ。相手は命を拾い、カロン達も時間を得る。互いに得がある。リューがうっかりカロン達がガネーシャファミリアを襲撃したといってしまえば、彼らの憎しみの感情を刺激することになる。デルフ達は薄々カロン達がガネーシャを襲撃したことを理解しているが、直接そう言われてしまったら、また別の話だ。そうなれば無駄に争う可能性が高まるだけである。

 

 「で、アンタはここから逃げ出せたらどうするんだ?」

 「………どうするとはどういうことでしょうか?」

 「ファミリアはアンタ一人きりなんだろ?立て直すのか?何だったらこんな縁だし、俺達も手伝おうか?まあ生きて還ってからという話になるが。」

 

 リューは衝撃を受けた。

 彼女はもう、自分は一人きりだと考えていた。仲間は全滅して、自分が一人で行動を取るしかないと。しかし、彼は復興を手伝おうかと言ってくれた。

 

 「………私はあなたにそんなことをしてもらう謂われはありません。」

 「そうか。まあ大変だったら言ってくれ。人生困ったときは、お互い様だ。」

 

 リューは心苦しい。

 困ったときは、お互い様。リューが凄惨な復讐を行えば、彼女にそういってくれた彼らに殺人鬼として追われることになるのだろうか?

 彼らは衆生の主、ガネーシャの眷属だ。衆生がリューを嫌えば、彼らはリューを追いかけることになるだろう。そうすれば、リューは彼らと戦う必要に迫られるのだろうか?命のやり取りをすることになるのだろうか?

 

 ◇◇◇

 

 主人公が闇派閥のこの物語の視点は、もちろん闇派閥寄りである。正義を嫌い、英雄を否定することが闇の存在意義。闇にも闇の主張がある。

 正義がどう考えているかとか、一般人がどう考えているかなどは、一切勘案していない。

 

 夢を基調とする英雄の強さと、現実を基調とする悪の強さはきっと、永遠に相容れない。

 日々の努力や練習の成果、下準備を疎かにして、それでも結果を出すのが英雄。

 日々の努力や練習でいくら結果を出しても、どれだけ入念に下準備しても、それでも結果を覆されるのが悪党。

 

 誰も知らない。それは闇派閥だけが知っている。

 物語とは、実は描かれていないところにも、いないところにこそ、たくさんの人の強さや優しさが存在する。

 彼ら闇派閥が襲撃した人間にも、仲間を命懸けで庇おうとした人間や、逃がそうとした人間がたくさん存在した。

 

 未熟な人間が不安定な強さを獲得していく過程を英雄として描かれ、強い人間や優しい人間は物語の展開に邪魔だと脇に追いやられ、名前も与えられないまま知らないうちに戦火に消えていく。

 

 神々は気付いていないのだろうか?気付いてておもちゃにしてるのだろうか?

 なぜ外部からの人間を受け入れている経済力のあるオラリオの人口が飽和点に達しないのか?

 

 神々が人間にステータスを与えてしまったせいで、死を恐れない冒険者が花形職業のせいで、冒険者という身近な存在が頻繁に居なくなるせいで、人間は消耗品だというおかしな価値観がオラリオの市民に蔓延している。おかしな話だ。実際に死に接する冒険者はさすがに必死だが、市民はそんな彼らをいくらでも替えの利く消耗品だと見なしている。どれだけ仲良くとも、居なくなったら仕方ないで済ませてしまう。人間が消耗品なんて価値観は、明らかにオラリオが神々の価値観の影響を受けている。そしてそのおかしな価値観に耐えきれない人間が、反旗を翻した人間が、復讐派に身を落とす。例えば仲間を殺されたリューが復讐を望んだように。

 

 人間は、幾通りも存在する。

 冒険者は、単純に強さを求める者だけがなるわけではない。犯罪者も当然犯罪に有利だからという理由でなるし、犯罪者を捕まえる側にも当然必要とされる。自衛にだって、必要となる。

 猫も杓子もステータス。ステータスなんてものがあるから、犯罪の脅威度はますし、捕縛の際の手違いも多くなる。戦闘の被害も大きくなる。巻き込まれる民間の人間も多い。しかし、ステータスがあれば利益が上がるから指摘しない。目をつぶる。どんなものも使う側の使い方次第なんて言い分は、きちんと教育機構を整備して、治安を維持した上でないと通用しない言い分だ。

 

 それは滑稽な喜劇でしかない。人が軽いという価値観に耐えられなかった人間が、人を大切に想う人間が、人を喰らう闇へと身を落とすのだ。そして人を喰らう闇は、また人を喰らう闇を生み出す。

 そしてそのおかしな価値観のおかげで、闇派閥は今までオラリオから全力で討伐されることはなかった。闇派閥なんてものの、復讐派なんてものの存在が、許された。

 

 いびつだ。

 ステータスがあるからオラリオのモラルが崩壊している。そしてモラルが崩壊しているから闇が存在する。オラリオ壊滅を目論んで殺人を犯して死んでいく闇があるから、オラリオの人口が一定に保たれている。それは、ヴォルターが復讐派を立ち上げる前からずっと、存在している。

 

 無差別殺人鬼が必要悪な社会なんぞ、いびつに過ぎるだろう。

 神々はそれを喜劇として、特等席で愉しんでいるのだろうか?

 

 オラリオになまじ経済力があるせいで、彼らは産んでは消えてを繰り返す。

 

 それは、多数の冒険者を闇に葬った彼らにだけ気付ける視点。

 彼らがいくら冒険者を襲っても、その数は決して減らない。一人の価値が、軽い。

 オラリオ全体の価値観は実は、命の軽い闇派閥と近いのである。

 

 命が重いという考えが少数派(マイノリティー)だから、オラリオにとってその声高な主張が邪魔だから、命が軽い方が利益が上がるから、アストレアファミリアは淘汰されたのである。だから当事者が居なくなったら再建されない。きっと代わりの組織も出てこない。オラリオが必要としないから。闇派閥はただの実行犯に、過ぎない。

 何故誰もそれに気付かないんだろう?民衆が治安維持機構を否定してるんだぞ?

 

 オラリオから闇が居なくなれば、おそらく経済力があるオラリオの人口は激増する。どれだけ利益を生み出す都市でも、人口の増加には限界がある。ダンジョンはあまりの多勢に蹂躙され、きっと悲鳴を上げることになる。オラリオはその時が来るまで、気付かない。

 仮に英雄が闇を完全に撃滅しても、その先を続く命はどうするんだ?

 それを彼らはどう解決する?話し合い?他国への侵略?

 

 おそらくは身内の喰らい合いだろう。

 

 ステータスがあるのに、命が消耗品なのに、今更話し合いを選択するとは思えない。せめて戦争遊戯で済めば良いけどな。

 他国に侵略することもないだろう。オラリオが最も欲を満たせるし、オラリオが賄いきれないものを他国からの略奪で賄いきれるとは考えづらい。しかし、もしオラリオがその選択をしてしまったら、真に世界の暗黒の時代が始まるだろう。

 

 オラリオから完全に闇が居なくなれば、人口の増加したオラリオで仲間内を喰らい合う争いが始まるのは時間の問題なのかも知れない。欲望都市での命が消耗品という価値観が蔓延した中での身内の喰らい合い、こんなものは想像しただけで恐ろしい。欲望に助長されたそれは、きっと止まらない。

 

 気まぐれな神々は、いつ飽きて天界に帰還するかわからない。彼らは人間同士の争いに嫌気が差して、無責任に天界に帰還するかもしれない。そうなったら、ダンジョンに潜れなくなる。膨れ上がった人間に、経済の貧困、周囲の敵対する国。オラリオは致命的な破滅を迎える。

 

 まあしかし、もし仮にそれが実現するようなことがあったとしても、どうせその時は闇派閥である彼らはもう、いない。多分英雄様がまた試練だなんだと言って、なんとかするんだろ。闇派閥には、関係ない話だ。

 

 ただ、悪を知ることを望んだリューは、いつか問題の根っこに気付くのかもしれない。

 

 神とはつくづく、罪深い。

 

 ◇◇◇

 

 「どうしたんだ?」

 「………なんでもありません。私たちは捕虜です。あなた方は明日も壁を掘らねばなりません。体力を取っておくために、もう寝ましょう。」

 「ああ、そうだな。」

 

 先程まで話をしていた四人、彼らはすでに、カロンの縄の魔法で縛られている。

 デルフ達三人は、さほど経たずに寝息を立てる。

 リューは先ほどの言葉が忘れられない。

 

 新たに加わった三人の捕虜達は、壁を掘るのに疲れ果てて泥のように眠り込むのだった。

 

 ◆◆◆

 

現状

ヴォルター・・・死亡

生存者

カロン、レン、バスカル、ハンニバル、クレイン

捕虜

リュー・リオン、デルフ、アラン、ビル

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