無職転生if ―強くてNew Game― 作:green-tea
また、今回の話では
・Five Star Stories
のネタが含まれます。あらかじめご了承ください。
---高度な知性は人間でなくても勘違いができる---
ザノバが死んだ。
天寿を全うして死んだ。
その数日後の夜にナナホシ・アンが俺の屋敷へとやってきた。
「マスターが亡くなったのですが、この場合はどうすれば良いのでしょうか?」
と彼女は尋ねてきた。俺はザノバが死んで相当に落ち込んでいた。だから彼女に無理なことを言ってしまった。
「新しい主を探せ」
と。彼女は少し考えてから
「サブマスター・ルーデウスを新しいマスターにしたいのですが」
と言った。俺は続けた。今度は感情に任せずに言おう。
「もう一度改めて言いなおすぞ。俺以外の新しい主を探せ。見つかるまでは俺をサブマスターとしても良い。それはお前自身の判断に任せる」
そう言えた。アンは俺が教えた少し悲しそうな表情をすると、言った。
「わかりました」
随分感情表現が豊かになったな。スケアコートの魔力がきれてナナホシが目を覚ましたら、ザノバの話を聞いてそんな風に悲しい顔をするんだろうか。アンは部屋を出て行った。その後、何年も彼女を見なかった。
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さらに数年が過ぎ、クリフが死に、エリスも死に、俺も寿命を迎えようとしている。
素晴らしいことに皆、大往生だ。ロキシー、シルフィ、エリナリーゼのように寿命が長い者を残していくことに一抹の不安を覚えていたときもあった。
しかし、それが自然なんだ。俺はこの人生に後悔がない。素晴らしい人生だった。失敗して涙したときもあったけど笑いがあって喜びがあり、何かを為した人生だった。ええっと何を為したんだろうか。いやいい、何も為していなくても。家庭があって俺の望むものがたくさんあって、嫁たちは笑顔で子供たちは巣立っていって。
最後の日、家族に見守られながら目を瞑った。家族が出て行くと、最後にナナホシが来てくれた。わざわざケイオスブレイカーから俺の最後を見に来てくれたのか。お前、ザノバの時もクリフの時もエリスの時も来なかったじゃないか。そう思った。しかし彼女は言った。
「サブマスター・ルーデウス。あなたに悔いが残っていることを私だけが知っている。マスター・ザノバが亡くなったときにあなたは言いました。『新たな主を探せ』と。私は新たな主を探す旅に出ましたが、結局、主は見つからなかった。そして、私も悔いが残っている。だから……」
そうか、こいつはナナホシ本人じゃなくてアンか。見間違えるほど精巧に作ったことを今、後悔した。そんな俺の思いと裏腹に、彼女は巨大な折り紙魔法陣を取り出して部屋に設置した。そして背負っていた旅行バックの中から大量の魔力結晶を取り出し魔法陣に設置していく。俺はもうアンに反論することもできず、良く見えない目を閉じて音だけを聞いていた。もう俺の人生は終わる。アンは俺に言った。
「過去転生の儀式を開始します」
と。儀式の最後に間に合わせるように俺は絶命した。
そして魔術を起動したアンもその場で木偶になった。
次回予告
死者が向かうのは狭く暗い所。
身動きすらとれぬのはなぜ。
どうして。
誰が。何のために。
知らない。判らない。
解説者が欲しい。
そういえば死ぬ直前、何かがあった。
次回『もしかして死後の世界!』
天国でなければ、ここは地獄だ。
だが、それがどうだというのだ。