無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。
また、今回の話では
・新世紀エヴァンゲリオン
・天空のエスカフローネ
のネタが含まれます。あらかじめご了承ください。


第013話_ロキシー登場

---運命加速装置、いわゆる一つのアトランティスマシーン---

 

3歳になる前に家の裏の空き地に土魔術をつかって地下室を作った。正直、リーリャに見つかり易いのでもう少し離れた位置に作りたいが、3歳の行動範囲で森までは行き難い。とりあえず、この地下室にはルード鋼 200個弱(秘密特訓の日課で作った高硬度の石材)、前世で起こったイベントの内容、要因とその後(思い出せる範囲)、魔法陣の下書きを保管している。バレないように細心の注意を払っている。まず、入口は元々空地にあった大きな岩で塞いである。というより、空地にあった大きな岩の下に入り口を作った。出入りするときは重力魔術で岩を動かす。出入りは夜中に行くトイレの時だ。それ以外の時間は見つかるリスクが高すぎる。

 

地下室の造りにも注意している。転移事件が発生したとしてもこの地下室が飛ばされないように、地表と地下への階段は連続していない。簡単にいうと、地下への入り口は土だけで作ってあるってことだ。こうすることで地下室への入り口が転移の影響を受けても地下室の構造物が飛ばされることを防げる。まぁ、ここの地下室を転移事件が起こるまで使い続ける予定はないから無駄かもしれないが、俺の予測と全く異なる時期に事件が起こった場合も一応考慮しなければいけない。

 

そして3歳になって一月が過ぎた。この国では区切りの年じゃないと誕生日を祝わないから過ぎてるのに気づかなかった。そろそろロキシー召喚イベントをやらないといけない。それで前世と同じように2階の自室で水砲をぶっ放そうかと思っていたら、ちょうど良いイベントが起きた。

 

イベントの内容はこうだ。

午前の仕事から帰ってきたパウロが昼一に庭先で剣術の訓練をしていたところ、間違ってゼニスが大事にしている木の枝をはねてしまった。俺がガン見していることで、おそらく子供の教育のために嘘をつけなかったパウロはゼニスを呼んで正直に謝った。ゼニスはかなり怒っていたが、最終的にヒーリングの呪文を唱えはじめた。

 

そしてパウロが謝っている頃にはもう、俺の中ですべきことは決まっていた。ゼニスの真似した振りでヒーリングを唱える。相手はパウロだ。

 

「「え?」」

 

二人の驚きは綺麗にハモった。そこからは大騒ぎだった。あぁ昔もこういう風に大騒ぎしたんだっけ。今回は偶然を活かして、家を壊さずにおいてやったぞ。ただ、片付けにくるはずのリーリャが来なかったので、剣士にするか魔術師にするかの言い合いがその場で収拾しなかった。

 

夕食になってもまだ二人はお互いの意見を譲らなかったので俺がこう言ってやった。

 

「父さま、母さま、僕のことで喧嘩するのはよしてください。僕は父さまの読んでくださったご本に出てくる水神レイダルを目指します。それなら剣と魔術を両方使えるから問題ないでしょう?」

 

二人は顔を見合わせてから「それもそうね(だな)」と言い合って笑っていた。リーリャは複雑な顔をしていた。俺にはなぜリーリャがそんな顔をするのか分からなかったので不安になってきた。なにか失敗しただろうか。

 

「よしルディ、明日から俺と剣術の稽古を始めるぞ。レイダルを目指すなんて家の息子はすごいな!」

 

「治癒魔術ならお母さんが教えてあげるから、一緒にがんばりましょうね!!」

 

「はいッ」

 

俺は元気よく返事をしたが、内心失敗したことで落ち込みそうだった。リーリャの件はよくわからないが、ゼニスのことで失敗していた。パウロが自分で剣術を教えるというのは想定内だ。パウロ自身がこの世界で上位2000人には入る手練れだからな。一方、ゼニスが自分で治癒魔術を教えようとするのは想定外だ。たしかに俺が使った魔術は初級の治癒魔術だった。彼女だって治癒魔術師として冒険者をしていたなら、中級治癒魔術と初級の攻撃魔術くらい使えてもおかしくない。これではロキシーは家に来ない……。似たようなイベントがあるからといって違うことをすると、まったく違う結果が返ってくる。これは大きな教訓だが、いまさら教訓を得たところで(ロキシー)とまみえない人生に路傍の石以上の価値があるだろうか。

 

 

--リーリャ視点--

 

2歳と半年が過ぎた頃から坊ちゃまには高い知性が表れるようになった。先ほどもご自分が両方学べば両親の諍いが仲裁できると考えて二人を諭すような物言いをした。2歳くらいまでは普通の子供らしい振る舞いをしていたのにだ。

全くの異例というわけでもない。私が勤めていた王宮の王女や王子、また上級貴族の子女たちは厳しい躾や知らない大人たちに囲まれることで早い段階からこういうことがままある。話に聞いた限りでは、アスラ王国にある劇団の子役たちも似たような感じに育つらしい。しかし、長閑(のどか)なこのブエナ村でたった3人に囲まれて、しかもその内の二人は実の両親だ。厳しく躾ける者もいない。

そういうことにこのお二人が気づかないのも無理はない。パウロは勘当されたとはいえ、ノトス・グレイラット家の長男、奥様は家出したとはいえ、ラトレイア家の次女だ。お二人の記憶の中ではそういう子も周りにいただろうから。

話を戻そう。2歳を過ぎた頃に何かがあったのかもしれない。住み込みといっても私はこの家族の侍女であって坊ちゃま専属の乳母ではないから、彼の行動をずっと監視しているわけでもない。ただ、この3年間はブエナ村らしい変わらない毎日だったように思う。時期的に見るなら、嵐の日に両親とは一緒に眠ることができず、私のベッドで一緒に寝たことくらいだ。あの時、両親がまぐわっている場面でも覗き見てしまったのだろうか。それでショックを受けたとか。それとも他人の私と同衾したことで何かが変わってしまったのだろうか。僭越ながら、私の胸でノトス家の本能が目覚めてしまったとか。いや考えすぎだろう。私から見たら彼は他人だが、彼から見たら私は生まれてからずっと一緒にいる家族に見えるだろうから。

そんなことを思っていると、坊ちゃまと一瞬、目があった。彼の目は私に何かを訴えているように感じられた。彼は残念がっているのだ、この状況を。そう彼には高い知性がある。たったの3歳で、あり得ないことかもしれないが、もう何かを学びたいと感じているのだ。子供らしくないといって無理やり子供らしくさせたり、抑えつけてしまうときっと歪な子供になってしまう。私は決意した。

 

「あの、奥様、差し出がましいようで恐縮なのですが、ルーデウス坊ちゃまには家庭教師をつけてはいかがでしょうか。坊ちゃまには治癒魔術以外の才能もあるように思います。ならば体系的にお学びになるのが最良かと存じます」

 

私が意見したことよりも坊ちゃまには才能があると言われたことで奥様のお顔はぱっと輝いた。

 

「それもそうね! ねぇ、あなた、明日にもロアの街で募集を出しましょう! 才能は伸ばしてあげなくっちゃ!」

 

坊ちゃまの顔を見ると、私がそのように口を挿んだことに目を見開いて驚いていた。困った顔はしていない。これで良かったのだろう。

 

 

--ルーデウス視点--

 

失敗したと思っていると、リーリャが助言して無事に家庭教師を呼ぶことになった。前世とは違って彼女からの好感度が高いから……そう考えればいいのだろうか。よくは判らないが一つ借りができた。これでロキシーじゃないお爺さんがきたらそのときは諦めの気持ちも付くだろう。さっきまでほとんど諦めていたんだ。

 

すぐに家庭教師が見つかった。すぐに見つかったときいてやっぱりなと思えた。何がやっぱりかって?来るのさ、あのロキシーが。4年ぶりに彼女に会える。胸が高鳴る。始まるのだロキシー教徒最大のイベント、神との邂逅が。あの声を聞き、彼女の教えを受け、そして俺は彼女の生徒……いや使徒になる。ロキシーの第一使徒ルーデウスだ。セカンドイン〇クトで地球に壊滅的な打撃を与えることも厭わんぞ。

 

そして彼女は来た。黒のとんがり帽子、そこから流れ落ちるのは三つ編みにした水色の綺麗な髪。透けるような白い肌なのに顔はジト目で無愛想。懐かしくもある茶色のローブ、その上半分にはまったくの起伏を感じない。あるべき山脈は丘というのも憚られる。左手にカバン、右手には杖。

 

「ロキシーです。よろしくおねがいします」

 

心の中でガッツボーズ。表情には出さない。俺はいちもにもなく彼女と話したかったが、挨拶は両親に任せよう。そのほうが自然だ。

 

「あ、あ、君が、その、家庭教師の?」

 

「あのー、ず、随分とその……」

 

ゼニスが黙ってしまった。彼女はミリス教徒でラトレイア家は魔族排斥派だ。「髪が緑に近い青なんですね」なんて言い出したらルートが変わってしまうかもしれない。結局俺は、前世と同じことを言った。危ない、この前の教訓を忘れてはいけない。イベントを同じように進めたいなら、なるべく同じように振る舞わなければいけない。

 

「小さいんですね」

 

「あなたに言われたくありません」

 

その後は順調だった。これまでの半年間、オルステッドの真似をして整理した生前の記憶が役に立っている。どれだけ順調かというと、ロキシーが来てからの5か月で火水土風の上級、治癒魔術は治療系中級、解毒系は初級の授業を終わらせた。尚、今回も俺の魔術感覚では無詠唱で治癒魔術を他人に施すことはできなかったことを報告しておこう。

 

最近のロキシーは混合魔術を教えるために世界の常識や物理法則を教えてくれている。昔もこういうふうに教えてくれていた。少し違うのは、シルフィや子供たちに今後、教えるときのために判っていることでも「どうしてですか?」と尋ねるようにした。俺が教えて相手がすんなり理解しなかったところについては、ロキシー流の教え方を学んでいこうというスタンスだ。

 

そうそう魔族の説明の下りでのイベントはしっかりやろうとして、少しやりすぎた感じがした。俺の中の茶目っ気が暴走してしまった。

 

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「僕、先生のこと、好きですよ」

「そうですか。あと十数年した時に考えが変わらなかったらもう一度言ってください」

「はい、先生。でもそのとき先生は僕のことまだ好きでいてくれますか?」

「え?」

 

夜の座学は丸机をはさんでの対話形式だ。必要があれば俺はノートにメモをする。だから、ロキシーが戸惑っている間に俺は自分の椅子を降りて彼女の椅子の横まで歩いた。そして、おもむろに彼女の膝の上によじ登りコアラみたいにまたがって見上げる形で目を合わせた。

 

「十年後、また僕に会いに来てくれますか?」

 

彼女は『十数年』といったが俺は『十年後』に変えて言った。

 

「い、いいですよ。十年後にまた会いにきます。ルディが私に会いに来てくれても構いませんけどね」

 

「約束ですからね」

 

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まぁ過ぎたことだ。大丈夫と思いたい。とにかくロキシーとできるショタっ子プレイはこれで最後だと思ったのは確かだ。おっとっと……思い出しただけでも暴走しそうになる。言いたいのはそういうことじゃない。

 

話を戻すと、同じようなことで俺はこの頃、少し悩んだ。これまでの教訓で、前世と同じイベントを起こしたいなら起こったことを愚直になぞった方が良いと理解している。このまま順調にいけば水聖級の卒業試験は3歳の終り頃になるだろう。そうしてロキシーとダンジョンかフィールドワークに行ったとして、その後の人生のイベントを予測できるだろうか。今のところ大きく改変してないから良いようなものの、ここから大きく変化させた結果が俺にとって良い方向に進むかは全く分からないのだ。どうするべきか。そう悩んでいたのだが、遠からず結論はでた。どうせ転移事件を防ごうと思えば世界への変化は大きなものとなる。俺はあの事件を見過ごすことができないと心に決めているのだ。なら、ロキシーとのことだって変化させてしまおうと素直に思えた。俺は今の人生を前回の焼き直しにしたいとは思っていない。闘気も持っている。できなかったこと、遠回りしたことをやってみてもいいだろうと。

 

転移事件を防げた場合の後のことも気になる。前回のキーワードで言えば、運命力だ。強い運命力を持っているとどれだけイベントを回避しても、強い運命力があれば結果は収束するのだ。俺が不確定要素として存在することでも改変できない未来があるとして、運命改〇装置があればこの結果を収束させないことができようが、俺にはそんな装置の持ち合わせがない。ヒトガミだって根回しを繰り返して運命の収束力を改変させる程度だ。ちなみにヒトガミとヒ〇ミって一文字違いだな。

 

あぁ忘れていたが、パウロとの剣術訓練も始まっている。前回と同じで5歳まではおそらく体力作りだ。前回との違いは走り込みをするために家の敷地外へ出たというくらいだ。そのうちブエナ村を一周するくらいの体力は今後必要になる。今はまだまだだが、7歳くらいを目途としよう。尚、闘気が扱えることはパウロにはまだ秘密だ。

 

そして4歳になった直後に水聖級の試験を行った。

 




地下室の在庫(ルーデウス4歳時)
 ・ルード鋼 500個以上(New!)
 ・前世で起こったイベントの内容、要因とその後をまとめた前世日記(New!)
 ・魔法陣の下書き(New!)

次回予告
S級とA級の2人が冒険のイロハを教える。
北神流短剣術、森の歩き方、野草の種類、夜の番。
たった4歳の子供への手解き。
のはずが。隠そうとして隠しきれるものでもないらしい。

次回『フィールドワーク』
歴史の歯車はわずかに回り始める。

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