無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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第131話_奇抜派V_暗示

--- 茸の毒vs気の毒 ---

 

私の闘気の特徴は『受け流し』と『緩急』だと判った。

それらは私が長年使って来た武器と相手の強さによって決定付けられたものである、と予想している。

で、あるならば。

新たな武具を使って迷宮へ潜れば新たな必要性に駆られて新たな特徴が開花するのか。

活動を始めて数か月。

迷宮内で手に入った魔力付与品を装備して、さらに別の迷宮を攻略するというマッチポンプめいた日々が続いた。

 

今潜っている迷宮はこれまでのところ、鍾乳石が天井と床の双方から延びるフロアで構成されている。

その鍾乳石の1つを片手槍で突き刺し引き抜く。

穴の開いた石は根元からボキリと折れて槍と共に私の足元へと転がった。

何も無為に鍾乳石を破壊したのではない。

その証拠に石の下からはゆっくりと魔物の体液が滲み出ていた。

闘気糸を使った気配探知のお陰で可能となった芸当。

 

「師匠、今のは?

 物音も無しに反応したようですが」

 

荷物持ち及び松明担当のギルトダート。

獣族である彼の耳が魔物の位置を捉えるより早く、私が正確に魔物を刺し貫いたのを見て違和感を持ったようだ。

 

「偶然ですよ」

 

私は説明を避け、何事も無かったように奥を目指す。

ギルトダートは首を傾げて魔物の死骸を暫く見つめていた。

しかし私が松明の灯りの外へと出てしまっている事に気付き慌てて追いつこうと走り来る。

彼のそんな所作を振り返る事もなく私は闘気で捉えていた。

もっとも本来、暗闇の中に踏み出していく私の奇行に気付けたなら。

何と応じただろうか。

目を閉じたまま先を行き、頭のどこかでそんな可能性を考えていた。

 

尤もギルトダートは少しだけ夜目が利く。

自分が見えている物を他者が見えないと気付くのは難しいものだ。

そう思い直していた。

 

--

 

無事、迷宮攻略を終えると、数日の間を開けて迷宮探索を手伝った報酬と称し、手合いを行う事になった。

数日明けたのは彼らが自身の疲れを癒すためだろう。

流石に一騎打ちとはいかず3対1の非対称戦形式。

 

跳躍力と加速を活かすギルトダートは背中の剣を抜かず格闘術で先制。

繰り出される拳を親指一本分の間合いで避けつつ突き出された右手が引き戻される前にこちらの左手で絡めとる。

肘関節を固める寸前。ギルトダートは危険を察知し、絡めとろうとするこちらの動きに合わせて身体を投げ出しすり抜けた。

そこへ背の低いムィ・ターが遅れて参戦。

足を狙うような小剣の刺突は2度3度と素早く放たれる。

足先ではなく、太腿を狙う動きはギリギリで躱すのが難しいとみて、間合いを稼ぐために後退を選ぶ。

ただし退がり過ぎてはいけない。

相手の間合いを読みきることでムィの息継ぎタイミングを見計らい蹴りを見舞う、

カウンター狙いを見せておくことは無駄ではない。

顎への蹴りはムィの身体にヒットする直前、飛来した障害物へと当たり勢いを減じ、ムィの後退を手助けする。

飛んできたのは間合いの外に居るワンカイヨの手から延びる分銅付きの鎖。

緩んだはずの鎖は闘気によって鞭のように撓り、掴み返す間なくワンカイヨの元へと戻る。

足へのダメージは無し。

ワンカイヨの闘気は鎖の操作性を良くしているが、分銅の運動エネルギーを高めるには至っていないのだ。

ギルトダートが背中の剣を鞘から抜き構えた。

 

――さてどうやって調理したものか。

 

彼ら一人一人の動きは鍛錬により、旅の連れ添いになった頃より格段に進歩している。

連携もそれなり。

だからこそ、己の成長を信じているからこそ。

ギリギリで当たらない自身の攻撃の理由が知りたいと。

彼らの剣と拳が語りかけてくる。

必殺の間合い、全力の闘気、鍛えられた筋肉が唸る。

手合いのはずが、いまや死合いと見紛う程だ。

 

それでも、残念だが。

――私が勝つ。

 

「さて、そろそろ」

 

声を出したとき、気付いた。

ワンカイヨの鎖がいつの間にか複数、後背の木々へと突き刺さったまま放置されている。

しかも闘気が残ったままだ。

闘気の練度が低いだけでこのような現象は起きない。

ムィとギルトダートはその鎖の上を走り来る。

そして斜め上から下へと2本の剣が私の身体の上で交差しようとする。

立体的な軌道だが。

顔はムィの方に向けつつ咄嗟の判断でギルトダートの剣へと飛び込み、当身で活路を得る。

 

「今のは惜しかった」

 

吹き飛ばされるギルトダートには目をくれず、追いすがる小剣を無手で捌いていく。

 

「だが、それでは足りない」

 

言葉と共に飛んでいく指弾。

ムィの手元を直撃し、小剣が手を離れ空を舞う。

手を抑えて座り込むムィ。

 

「まず1人」

 

フォロー出来なかったのを悔やんだか。

分銅ではなく、鎖の逆端についた手鎌が鎖を引き連れて弧を描き迫る。

もうこれはいらない。もう十分に見た。

鎌をすり抜け、鎖を片手で掴みとり、握りつぶす。

鎖を2つに分けて地に落し、反撃の態勢に移行する直前。

ワンカイヨの視線に嫌なものを感じ、咄嗟に右左とステップしながら間合いを広げる。

直前まで居た空間に死神の鎌が振り下ろされた。

ワンカイヨは鎖を引き戻すでもなくそのままで居た。

おそらく鎖を闘気で蛇のように動かし、千切れた先の鎖へと継ぎ直したのだろう。

器用に結んで応急処置したか、闘気を糊のようにしてくっつけたか。

闘気による武器の遠隔操作と油断を誘う戦術。

面白い。

 

ただそれには問題がある。

諦めずに向かってくる鎌を避けながら、再び鎖を掴む。

ワンカイヨは気にせずこちらの掴んだ手を絡め取ろうと鎌と鎖を操作する。

しかし……鎌は垂れ下がり、張りつめていたはずの鎖は弛緩する。

鎖を闘気で浸食すれば操作は不可能。

鎖はただの鎖に。

異変に気付いたワンカイヨはどうにか鎖を取り戻そうと力を込めているが、

 

「判断を誤ったね」

 

鎖に固執する必要はなかった。

だから没収。

闘気の浸食完了。同時に鎖がこちらへと動き出し、遂にワンカイヨの手を離れる。

 

「2人目だ。

 どうする?」

 

問いかけの先には、ダメージから復帰して立ち上がったばかりのギルトダート。

まだ意志は挫けていない。目に強い光が宿るのを私は見逃さなかった。

彼は「ウォォォォォォォォン」と一啼きし、闘気を変化させて自己加速を高める。

これもまた面白い使い方だ。

 

急激なスピード変化に追随しようとした自分に制動を掛け、そのせいで剣を見失う。

ただし闘気の糸を広げて構築した感知網に死角はない。

軌道を察知し直して手の甲で剣を受け、流し、ワンカイヨの鎖と同じように。

 

同じように?

闘気はギルトダートの剣を侵食する。

 

浸食が終わる。

否、もっと出来るはずだ。

 

もっと。

もっと先へ。

思ってしまえば出来ない事はない。

万能感。

それは勘違いではない。

ギルトダートの肉体をも浸食する闘気の糸。

それが気穴を全て塞ぎきった時。

ギルトダートの動きがガクンと緩やかになり、脳と肉体に生じた大きな誤差が足を縺れさせ、転倒へと至る。

 

「素晴らしい手合い。

 実りあるものだった。

 どうもありがとう」

 

心から感謝を。

倒れ、座り込む者らが返事を返すことなくただ呻くだけだとしても。

 

--

 

数日後、近隣の村イスパーノにて。

 

「先生、先生!

 急患、急患です。

 先生!」

 

院内の静寂を打ち破ったのは名前は何だったか。

とにかく、この集落に住む若者の一人としてかろうじて顔は記憶している。

 

「そう繰り返し言わずとも分かりました。

 ですが、見てわかりませんか?

 今は目の前の患者を」

 

「あの私は後でも構わないですから」

 

そう、施術中の患者が申し訳なさそうに申し出る。

 

「そうですか?」

 

と念を押しても、

 

「ええ……余程の」

 

と騒がしい若者を見るばかり。

ここまで言われては仕方がないか、と切り替えたところで、

 

「そう、そうそうそう。

 なんかすげぇ苦しんで、汗だってすげぇしで」

 

と若者は要領を得ない説明を続ける。

 

「して呼吸は?」

 

「こ、呼吸?」

 

「浅いですか? 深いですか?」

 

「んなこと言ってる場合じゃ!」

 

「大事なのですよ。

 どっちなのです?」

 

「浅い、浅いと思います。たぶん」

 

「どうやら本当に急ぎの方がいるようですね」

 

「ったく、先生まじやばいんだって!

 はやくしてくれよ!」

 

「分かりましたよ。

 うん……?」

 

場所は村の中央広場。

闘気糸が示すのは知った顔とは異なる心音。

はて、これは。

いかん。本当に命の火が消えかけている。

 

「あれ?

 先生?」

 

その言葉が遠くで呟かれるのは聞き流しておく。

 

 

目の前に座り込むのは旅装の、上手く隠してはいるがこれは女性だ。

かなりやつれている。しかし怪我はない。

その横に俯せで倒れている背の低い男。

この者の命が――ベッドに運んでいては間に合わない。

仕方なくその場で手早く仰向けにし口を開かせ、呼吸を再確認。

浅い、脈も弱い。

胸、心の臓の上で両手を添えながら周囲に放っていた闘気糸を全て集め、次々に気穴から負傷者の中へと送り込む。

 

経絡に浸透させ、さらに経絡上にある臓腑を侵食し、自己強化の闘気としての力を与える。

それだけで途切れ途切れになっていた脈が正確なリズムを取り戻す。

これでいささかの時を稼いだ。

それから全経絡を闘気で満たし、肉体全体を強化してやる。

 

男は「んぐぁあああああ」と悲鳴を上げる気力を取り戻した。

だけでなく体を痙攣させて苦しみだす。

原因はどこだ?

経絡に満たした闘気糸から送られてくる情報。

慎重に見定めていくと腸の入り口に何か、小さな乱れがある。

 

「何か、食べましたか?」

 

誰にとも知れず問いかける。

 

「お昼頃に、生えていた」

 

応えたのは近くに座り込んだままの旅装の女性。

 

「生えていた? 何です?」

 

先を促すと、

 

「倒木に生えていた白い茸を鍋にいれて食べました」

 

「それは貴方も?」

 

だったらなぜ女性は痛みを訴えていないのか。

原因は別にあるのではないか。

という合理的な分析は、

 

「はい。あ、でも1つだけ赤い斑点のものがあって」

 

という言葉で意味消失する。

 

「それをこの者が食べたのですね?」

 

「ええ……やっぱりあれ毒キノコだったと思います。

 解毒魔術をかけたのですけど」

 

女性の言葉から、"解毒魔術は体内の茸を無害化しないのだろう"という合理的な推測が成り立った。

断続的に毒を吐き出し続ける物質が体内にあるとしたら現状はひどく合点がいく。

原因物質、腸の入り口にあるのは毒茸。

どうやら胃で消化しきれずその先で緩やかに毒を出し続けている。

一気に毒が発生していないのは男が茸をしっかり噛まなかったからかもしれないが、おかげで発症が遅れた可能性もある。

悩ましいことだ。

ならば対応方法は原因物質を除去し、しかる後に解毒魔術を使う。

これで良いだろう。

そう頭の中で段取りを組み立て、

 

「お疲れのようですが、まだ魔術は使えますね?」

 

と聞けば、

 

「ええ魔力切れという訳ではないですから」

 

と回答を得る。

これで原因物質の除去に集中できる。

 

「ならば暫しお待ちを」

 

どうにかなるかもしれない。そう考えて眼を見開く。

左手から伸びる闘気の糸で男の肉体を強化したまま、右手を動かし男の唇に触れる。

唇が閉じないようにして右手から伸ばした糸を中へ。

患部となる場所にあるはずの消化しかけた異物を目指す。

 

おそらくこれだ。

 

まず茸の表面を闘気で包んで強化する。

こうすれば消化液で分解できなくなる。

経絡から読み取れる悪い流れも沈静化したということは断続的な毒の漏出は止まったとみていいだろう。

 

「解毒魔術を!」

 

短く頼むと、女は意外な素早さで反応し詠唱を始める。

詠唱が終わり力ある言葉が発せられ、苦しんでいた男が目を覚ました。

 

「ぐ、うぅぅぅぅん?」

 

解毒と肉体強化の両方のお陰だろう。

驚くべき早さで復調の兆しを見せる男。

意識もはっきりしたらしく、目をぱちくりさせる。

腹をさすってはいるが発汗も止まり当然のように起き上がろうとする。

 

「まだ施術中です。

 横になったままでいなさい」

 

男の肩を抑えながら、そう命令すると素直に男は従った。

 

「どうして……」

 

そう言ったのは解毒魔術を掛けた女性だ。

いままで効果がなかったはずの解毒魔術が効いた訳が分からないのだろう。

疑問符を表情に貼り付けている。

まぁそれは後にしよう。問題は残っているのだから。

そう、闘気で固めた異物はこのままでは消化もままならない。

排出されるまで包み込んだままにするか?

できない訳ではないだろうが、消化されずに排出するのは酷い痛みを伴うはず。

それに私も暇ではない。

診察しかけの病人もいるし……いや、待てよ?

 

思い付いたのは闘気の浸透先の変更。

空気。異物の周辺にある空気。

それ自体に闘気を混ぜ、固め、性質を強化する。

そうすればやはりだ。

 

「口を開けて」

 

意味も分からなかっただろうが私の言葉に従い、男は口を開いてみせる。

慎重に運び、口の中に見えたところで一瞬のうちに異物を手の中に収める。

止まっていた息を深呼吸して取り戻す。

 

「はい、結構です。

 もう大丈夫ですよ」

 

そういうと男は口を閉じた。

 

「これから茸を食べるときは十分注意するように」

 

男は小さく頷き、のろのろと上半身を起き上がらせた。

それを見て私は男の肉体を強化したままだったと思い至り、急いで解除する。

すると男は地べたに座った状態で一度ぐらつき、そのままでは居られなくなって仰向けの姿勢に戻った。

 

「体が弱っていますから、体力が戻るまで治療院のベッドを使うと良いでしょう」

 

--

 

それから本来予定していた各患者たちを自宅で訪問治療し終えるとすっかり日が暮れてしまった。

家路を目指し、暗い村の外縁部まで来て足を止める。

その先に魔術師の女性が立っている。

用件がある。そう言いたげな表情で。

 

「少し宜しいですか?」

 

「構いませんよ。

 旅の方」

 

私がそう応じると言葉尻から察した彼女は、

 

「申し遅れました。

 私はストーイ。

 ストーイ・ワーナーと申します」

 

と自己紹介。

 

「私はシャンドル・フォン・グランドール。

 北の里で修行する一介の武芸者です」

 

「武芸者……剣士様なのですよね?」

 

「一般的にはその理解で構わないでしょう。

 より分かり易く説明するなら、北神流剣士と名乗るべきでしたか」

 

「あぁそれで。

 怪我の応急処置の技術を使い村人の治療をされている訳ですね」

 

少し違うが。

ただ、彼女がそれを確認してどうする?

この紛争地帯の、しかも最北最西端のこの村に旅行者など聞いた事もない。

旅行者でなければ?

新たな治癒術師として来てくれたか。

などと訝しんでいると、

 

「それで昼の、ウィを助けてくれたでしょう?」

 

「村人が急患だと騒ぐものですからね。

 見殺しにするのも寝覚めが悪い」

 

「そうじゃなくて……」

 

何かを取り違えたのだろうか。

女性はやや困ったように言い淀む。

が、それほど待つでもなく女性は再起動した。

 

「どうして解毒魔術が突然効いたのか。

 私、どうしても判らなくて」

 

予想通り、この女性は村に新たに来た治癒魔術師なのだろう。

それも熱心な、という修飾語を付けるべき者。

知りたいのであれば隠す必要もなし。

 

「何、そう難しくはありませんよ。

 魔物の毒にやられれば毒が回らないように患部から吸い出したりする。

 それと同じで毒物を食べてしまったら、まずは吐き出させる。

 私は魔術に詳しくありませんが、おそらくワーナー殿の治癒魔術は被験者の体内を解毒しても腹の中にある毒物を無害化してはくれなかった。

 だから解毒魔術で男の体内を浄化しても、腹の中の毒物がさらに消化されると再び苦しみだしたという訳です」

 

「するとシャンドル様は体内の毒物を浄化した訳ですか」

 

「いいえ」

 

「い、いいえ?」

 

「腹の中に残った茸の残骸をひとまとめにして口から吐き出させました」

 

「だから、ウィに口を開けさせたんですね。

 でもどうやって……」

 

「武芸を基にする技法です。

 説明するのはやぶさかではありませんが、ワーナー殿には扱えないモノ。

 それより今回の場合、解毒魔術の効果内容を明確にしておくべきだったかと。

 それができれば古典的な方法との組み合わせも容易になるでしょう」

 

「違いありません」

 

私は彼女が納得するのを見て、里へと再び歩き出した。

 

--

 

いつもの定期診療よりも短い間隔で再びイスパーノを訪れ、向った先に見たのは、診療所の前の空き地で剣の鍛錬に励む男の姿だった。

男は先日の毒茸に苦しんでいた者、確かウィといったか。

 

「心配をして見に来ましたがその必要は」

 

「そなたは!」

 

必要は無かったと言い終わるよりも早くウィがそう叫ぶ。

やや語気が強く、表情も合わせて考えるに感謝とは別の何かを感じずにはいられない。

 

「何か?」

 

迫る男に問いかければ、

 

「お主、我の身体に何をしたッ!?」

 

「治療法についてはストーイ殿に説明していた通りですよ」

 

「まだ何か隠しておろう!」

 

そう言われても、特に何かをしたつもりもなく隠しているといわれても心外である。

詰めてくる相手に動じず迎えると、「ぐぬぬ、どうしても隠し立てするつもりか」と呻いて剣を構える。

 

「ならばこれをどう説明する!」

 

そういった男が剣を構えたまま、一度大きく身を退く。

小人族の特徴である低身長、そしてずんぐりむっくりとした姿だが、闘気を纏い機敏に男は動いた。

そのまま駆けて剣を下段から振り上げる。

私が横にズレていなければ脇腹を直撃していただろう。

 

「太刀筋はなかなか見所がありますね」

 

突然の凶行とも見えるが、それは気にならない。

嘘偽りない評価をするだけ。

里の者が聞けば大喜びしそうな言葉だが、ウィには通じないらしく。

剣を落として「ではこれは茸の副作用か?」と打ちひしがれた様子。

どうにもよくわからない。

丁度そこに、

 

「ウィ、何か大声が聞こえてきましたけど……あらシャンドル殿」

 

治療院の入り口に姿を現したのはストーイ・ワーナー。

ここの新たな主といったところか。

 

「治療の経過を見に参ったのですが、あの調子でして」

 

「まぁ? でも仕方がないのかも」

 

その発言、まさかストーイが男の肩を持つとは思っておらず、私は目をぱちくりとさせた。

 

--

 

ウィ・ターと名乗った男。

氏族名で判る通り、ムィと同じ村の小人族らしい。

私がカジャクトを息子に渡す頃には既に剣の修行へ出ており、こちらがミリス大陸へ向かうのと入れ替わるように魔大陸へと上陸したのだという。

修行の最中、北神三世と出会い師事するも指導環境に馴染めず1年と経たず離脱。

生家へと戻った後、村を訪れた謎の剣士とそれを追いかけたムィの話を聞きつけて紛争地帯を目指したとか。

そして道すがらストーイの護衛を務め、到着を目前にして毒茸で死にかけた訳だ。

そこまでの話はよく分かった。

だが、

 

「何かお困り事があるようですね」

 

「さっきのを見てわからんか?」

 

そうウィは恨めしそうな眼でこちらを見返す。

正直、見ても判らない。

やりとりの仲裁をするように、

 

「シャンドル殿、こちらへ」

 

そう言って手招きするストーイ。

私はゆったりとした足取りで彼女について治療院へと向かった。

 

彼女は治療院の入り口で立ち止まる。

なぜか入り口の扉は外されている?

外壁に立てかけてあるそれをよく見ると歪んだ蝶番、内側から壊されたドアノブ。

数日前に私がここを使って診療した時はこんなことにはなっていなかったのだが。

 

「これ、ウィさんが軽く捻ったらドアノブが壊れてしまったらしくて」

 

「軽く?」

 

私の短い疑問に、ストーイは「ええ」と答える。

扉は古くなく、また腐ってもいなかった。

ならば力の有り余っている者が壊したというのだ。

それは誰だ? 話の流れからしてウィだろう。

そして先程の闘気。

見て分かるという言葉。

 

「もしかして……茸を食べて怒りっぽくなった、とか?」

 

「ちーがーう!

 断じて、違う!

 あぁもう!」

 

私の答えに納得いかないのだろう。

ウィは地団駄を踏む。

そしてその足は地面に突き刺さり、苛立たし気に抜く様など酷く滑稽である。

と、そこでこの者が抱えている問題が分かった気がした。

私は闘気の糸を彼の肉体を常に覆う闘気へと向ける。

さらに闘気を漏れ出している気穴、気穴から先の経絡へと伸ばしていく。

私は闘気糸を通じて彼が練り固めた闘気の領域を簒奪し、簒奪した後で練っていない闘気にさらに置き換えた。

 

「これでどうです?

 ほら、もう一度足を踏みしめて」

 

私が入り口から一歩も動かずに告げ、ウィは不思議そうな顔で言われた通りに地面を踏みしめる。

みるみるうちにウィの顔はほころぶ程の笑顔になり、「おぉ!」と歓喜する。

それを他所にゆっくりと闘気の糸を引っ込め、気穴より闘気が溢れてこないのを確認。

 

「もう一度」

 

私が繰り返すと、ウィは言われるがままに何度か足を踏みしめる。

その間に彼の間合いのぎりぎり外まで移動し、

 

「剣を構えて」

 

ウィが素直に剣を構えたのをみて、こちらから徒手空拳で攻撃を繰り出す。

慌てて拳を躱すウィ。

その動きは上級剣士程度のもの。

先程までの機敏さは一切が消えていた。

どうやら治ったらしいが、残念でもある。

 

「シャンドル殿、ウィさんの異常は一体なんだったので?」

 

余程気になったのだろう。

ストーイは治療院の入り口から私を追いかけてきた。

 

「どうやら無意識かつ無制御に闘気を練ってしまっていたようで」

 

そこまで答えて、出会った日の別れ際にも思ったようにやはり魔術師に剣士の言葉が通じないと知る。

 

「つまり剣士が戦闘状態でみせる超人的な力を普段使いしてしまうと、こういう不便さがあるのですよ」

 

「その原因は?」

 

「毒に苦しみ息絶えようとしている肉体を外部から無理矢理強化したせいでしょう。

 ならばもう一度。今度は外部から無理矢理解除すれば良いのではと、思ったまでです」

 

それは推測的一手、合っているかもわからないものだったが。

 

「どうやらその認識は正しかったようですね」

 

ストーイが言うように、私もそう思う。

だが、

 

「残念ながらね」

 

というのが正直な感想でもある。

 

「残念ながら?」

 

「おっと」

 

この出来事により、私は他人の肉体に練った闘気を与える危険性を理解する。

一方で外部からの操作で闘気を修得する道があるとも理解した。

だからウィ・ターが修行の里へと現れるのを好機とし、彼や彼より後に現れた者らを被験者として闘気の体得手順を研究する。

研究の結果、『封穴法』と『開穴法』の2つの闘気体得法を編み出して聖級以上の北神剣士を多数輩出する。

彼らは穴掘りや壁登りの技、森の恵みを乾燥させて作った目潰し丸などを駆使した全く新しい戦闘スタイルを生み出し、里外の者らは彼らを奇抜派と呼ぶようになった。




次回予告
シャンドルがイスパーノに来た理由。
ストーイがイスパーノに来た理由。
2つの運命の交差は本当に偶然か。
勇者を導く賢者の意図と正体に迫る。

次回『超越機関の発足と終焉』
深淵がこちらを見ている
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