無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

134 / 134
第134話_ザノバの選択

--- 戦争が人を成長させるなど、なんと悔しいか ---

 

ジュロウの話を聞き、数日の間に考えていた。

シーローン王国の滅亡。

それは大胆に結論すれば、ヒトガミとオルステッドの暗躍によって生じる運命の収束だ。

パックスが王政から共和制へと政治改革を行って生まれるシーローン共和国。

同国内からループ期限までにラプラスの転生体が生まれる未来。

オルステッドは百を越えるループの中でこれに気付き、転生時期を確定する手順を確立。

手順に従いつつヒトガミ打倒に必要な魔力量を確保するルートを導き出している。

一方のヒトガミはそんなオルステッドの活動を未来視から読み解き、妨害に励んでいる。

具体例としては、パックスを自死に追い込んで転生位置を変更したり、俺自身や闘神鎧を身に着けたアレクサンダー・カールマン・ライバックをオルステッドにぶつけて魔力の浪費を強要したりといった具合だ。

 

では今回の件も同様か?

もしこれが運命の収束というのならば?

オルステッドは人に恐怖される呪いを持っているから、帝国のような複数人で動く組織体を動かすのが不得意だ。

逆にヒトガミは人に信頼されるのを得意としているから、"使徒を操り、シーローン王国を滅亡させた"という疑惑に現実味がある。

だが、そもそも俺は前世のルートが再現されぬように対策してしまっている。

ロキシーが家庭教師にならずパックスは王竜王国へ追放されなかったし、仮に俺の知らないイベントのせいでパックスが王竜王国に辿り着いても、その先にランドルフはいない。

即ちパックスは前世ルートにおけるクーデター騒ぎを起こさないか、起こしたとしてもそれは共和制へと続くクーデターになるはずなのだ。

 

これらの措置が万全とは思っていなかったし、今尚、万全であるとは思えない。

だが今の事態は何なのか。

仮にヒトガミの画策によって帝国侵攻がなされたとして、その意図は?

今後30年のオルステッドの活動妨害として、魔力消費を狙ってか。

ラプラスの転生先を分からなくするためか。

オルステッドにとっても共和制への障害となるならシーローン王国の滅亡は望むところであるが、その先にはパックス王による共和制建国が必要だ。

が……パックスはまだ若い。

地固めもできずに放り出されて、その先に新国家誕生があるのだろうか。

そもそも本当に帝国の裏にヒトガミがいるのだろうか。

状況はオルステッドの確立したルートの許容内に収まっているのだろうか。

不確定要素が多すぎる。

 

「ねぇ、いつまで待ってるつもり?」

 

当初は大騒ぎで浮遊城を眺めていたエリスが暇を持て余して問いかけてくる。

 

「ザノバ殿下の居場所が分かり次第、動くはずですが」

 

応えるロキシーは部屋に置いてある事務机を窓際に寄せ、そこに陣取って何事かを紙に描いている。

 

「それっていつ?」

 

「平均すればそろそろかと思います」

 

「そろそろって?」

 

詳細を聞かれてロキシーは手を休め、顎にペンを付けながら天井を見上げる。

 

「運が良ければ明日。

 最悪は明後日になるかもしれないですね」

 

そんな連れない回答で、またロキシーは机に向かう。

エリスは溜息一つ。

 

「中間ノードまで戻って鍛錬していようかしら」

 

エリスの呟きに応える者はいない。

同室のベッドで横になっている俺を見て、

 

「できれば明日にしてよね」

 

そう言い残し、部屋を出て行くエリスの足音が遠ざかる。

ロキシーが軍事顧問時代に得た砦の情報を元にザノバの居所を探している俺。

活動は夜中、昼間の内はこうしてベッドで体を休めている。

ただ剣士の嗜みと言ってしまって良いのか、寝ていても周囲の気配には敏感にできているらしい。

エリスとロキシーの何気ない会話で俺の意識は少しだけ覚醒し、静かになった事でまた闇の中へと落ちていった。

 

微睡み半覚醒状態のまま、俺はまた考えに耽る。

ジュロウから聞いた事前情報によると、ザノバは北側の国境付近にあるカロン砦へ配属された。

だが初日にカロン砦を訪問してみるも空振り。

最寄りのリコン砦にも、そこから西側の各砦にもザノバの姿はなし。

ザノバは今どこに?

敵に捕まったか、逃げ出したか、宗主国である王竜王国へと急ぎ向っているか。

どの線も捨てきれないが、シーローンの継承システム――王が崩御した際、最も多くの親衛隊を所有している王子が次の王になる――を考えれば……いやそれも今や無意味。

パックスが行方不明の状態。他の王子は全員が死亡。

国難を前に各砦の責任者達はザノバを王に担ぎ上げざるを得ない。

そうしてどこかの砦で臣下一同集まり今後を相談している可能性。

もしくは既に意を決して次の行動に移ろうとしているかもしれない。

 

 

夕方になってエリスは未だ消化不良といった顔で部屋に戻って来た後、自分用に割り当てられたベッドで横になり、さしたる間をおかずに小さな寝息をたて始めた。

入れ替わるように目を覚ました俺は、黒装束に着替えた姿で部屋の扉に手を掛けて止まる。

顔だけで振り返った先には自分用のベッドに座り、書類に目を通しているロキシー。

 

「行ってきます」

 

「そろそろ限界ですよ」

 

こちらを見向きもせずに彼女が放った言葉は端的なものだ。

だが、その意味するところは酷く重い。

 

「分かってます」

 

言い残し、部屋を出る。

静かに階下の裏口へとまわり、夜の街を疾駆する。

まずはヴァルムス砦から。

 

--

 

ヴァルムス砦が空振りに終わって次なる砦へと向かいながら、再びザノバに関する出来事を整理する。

前世のザノバ、それにシーローン王国。

転移災害によって魔大陸へと飛ばされた俺は帰還の途中、ヒトガミの誘いによってシーローン王国でアイシャと出会う。

このイベント内で関わったザノバは問題行動を起こしたとして、ラノア魔法大学への留学という形で国外追放を受ける。

俺がまたヒトガミの助言に従ってラノア魔法大学へと入学し、再会を果たすと彼は自動人形の研究開発、転移魔法陣の3次元化の手掛かりの発見、商店の経営といった面で大きく活躍した。

一方、俺がシーローンを訪れた事でパックスも問題行動を咎められ、王竜王国に留学という形の国外追放を受ける。

それからいろいろあって王位簒奪を果たすも誰にも努力が認められぬと悟り、パックスは自死を選ぶに至る。

パックスが建国するはずだった共和国への道は閉ざされ、ラプラスの転生先が判らなくなる。

事件の顛末はそんなところだ。

 

ちなみにオルステッドの画策に対して俺という存在がいない場合、ヒトガミの対応は間に合わず『甲龍歴457年前後にパックスがクーデターを起こして王になり、共和国を誕生させる』未来がある。

これは手順がほぼ確立できているルートらしい。

一方、日記では『パックスが王にならず、共和国が誕生しない』未来が語られており、俺の前世では『甲龍歴427年にパックスがクーデターを起こして王になるも、自死してしまうために共和国は誕生しない』未来があった。

ここでオルステッドが進めているルートは彼にとってかなり自信のあるルートであるとされていた。

介在の程度に関わらずパックスが王にさえなってしまえば共和国が誕生するという強い運命があると認識していたのだ。

転移災害が起こり予定ルートが進行不可になった日記ルートも、パックスが王にならず共和国が誕生しなかったのでオルステッドの考える強い運命は否定されなかった。

が、しかし。

俺の前世ルートではパックスが王になるも共和国が誕生しないルートが示され、『強い運命の綻び』を見せつける結果となった。

 

うーむ。

オルステッドの攻略ルートの重要人物はパックス。

オルステッドの攻略ルートの「大した男ではない」人物がザノバ。

それ故に前世でオルステッドはザノバを見捨てる・見捨てないの判断を俺に委ねた。

パックスを殺さず、一応予定のルートを維持してくれるのなら好きにしろと言っていた。

なら今回もザノバを助けるのは支障がないはずだ。

 

オルステッドの指示を仰がずにザノバを説得する意味。

来たるべき未来を変化させ、歪める行為。

転移災害を除いて俺はなるべくそれを避けていた。

未来の情報を元に他人に助言し、行動を変化させる行いがヒトガミじみていると忌避し、関わった人々に一貫した態度で臨んできた。

その一貫性が失われてしまう。

しかし、もう俺は後悔しないように生きると決めている。

オルステッドと対立しようとヒトガミの真意に気付かされようと、そこから逃げずに全力で生きると決めている。

 

 

--

 

本日4つ目となるウオル砦にて漸く対象を捉えたのは深更を迎えた頃だった。

鉄で補強された木質の扉をゆっくりと開けると、寝台と事務机が置かれただけの狭い部屋が現れる。

日干しレンガと粘土で造られた分厚い壁、壁の上部には大人の肩幅半分ほどの空気穴があり、そこから漏れてくる月の光に照らされて長身の男がベッド脇に座り、本を読んでいた。

声をかける前に男は本を懐へと仕舞い込み、こちらを見あげる。

 

「まだ夜が明けぬ前に何事か」

 

「夜分、失礼します」

 

そう言いながら、俺は後ろ手で扉を閉める。

 

「ふむ、砦の兵士ではないようだ」

 

怪力の神子たる彼は不審人物であろう俺を見ても、慌てる様子をみせない。

そもそもシーローン王であるはずの彼の部屋の前に護衛の1つも置かれていない時点で、彼自身と彼の部下たちの認識がどのようであるかを見事に体現している。

俺はそんな事に想いを馳せながら、顔に巻き付けていた黒染めの包帯を解き、顔が良く見えるように灯の精霊を呼び出した。

 

「おぉそのお顔!

 師匠、ルーデウス師匠!」

 

ベッドから立ち上がり、抑えた声で俺の前に跪くザノバ。

 

「無事なようで安心したよ。

 ザノバ殿下いえシーローン王とお呼びすべきでしょうか」

 

「余にも立場がある故、悩ましいですな。

 ですが2人だけの時は以前お伝えしたように、ザノバと」

 

「わかった、ザノバ」

 

自身がシーローン王であることを否定しなかったザノバ。

今の状況は推して知るべし、か。

そんな事を頭に過らせながら、ザノバを元居た位置に座らせて俺は事務机の椅子に腰かけた。

一息ついて先んじたのはザノバだった。

 

「して、師匠。

 今回は何用でこのようなむさ苦しい場所に?」

 

「シーローン城が落とされたと聞き、慌てて会いに来たんだ」

 

「然様でしたか。

 いえ、皆まで申さずとも委細分かり申した。

 お借りしている研究日誌ならこの通り肌身離さず持ち歩いておりましたので、お返し致します」

 

そう言ってザノバは懐から先程読んでいた物だろう一篇の小冊子を再び取り出し、差し出してくる。

どういう思考回路かわからないが、勘違いしているのだけは判った。

話を進めるためにはその勘違いの訂正から入った方が良いだろう。

 

「一応言っておくと、日誌を返して貰いたくてここまで来た訳ではないよ。

 そもそもそれ写本だから。

 俺自身は失っても痛くはないし、俺とザノバ以外でその本に価値を見出し解読できる者がいるなら会いたいくらいだ」

 

「装丁の着色、裁断面の加工精度、無線綴じに使われている糊の品質……これが写本ですと?

 ルード商店の技術力、恐れ入りますな」

 

「いやいや俺なんて」

 

「ご謙遜を。

 一流と呼ぶに相応しい出来といえますぞ、これは」

 

「ほぅ一流、シーローン王国ではこれが一流の品扱いか」

 

「む?」

 

「ちなみに俺はこれ以上の物、いわば超一流の品々だけを蒐集する御仁を知っている」

 

「ちょういちりゅう……一度、目にしてみたいものですな。

 師匠がそこまでいう逸品たちを」

 

「そうか、なら生きねばならんぞ。

 ザノバ」

 

話があらぬ方に行ってしまたと気付いたのだろう、ザノバは「コホン」と一度咳払いをして話を切り出す。

 

「そのような話をしに師匠はここへと参られたのですか?」

 

「そうだ。

 おまえが王に担ぎ上げられ、無惨に散っていくのを座視できない」

 

「それが余の定めならば致し方ないかと」

 

そう言い切るのは固い決意を浮かべる男の顔だ。

 

「ザノバ」

 

「商人である師匠に分かってもらえるなどとは申しませぬが、そこを押して理解していただきたい」

 

その言葉に俺は少し頭が冷えた。

今世において俺は商人もしくは人形師としてザノバと出会った。

魔術師でなく、冒険者でもなく、魔法大学の特別生の後輩という訳でもない。

冷静な思考でそれを強く意識する。まず認めねばならない。

 

「俺は確かに商人だ。

 だがアスラの四大貴族の家で家庭教師をしていた時期もあるし、商売の一部業務には王侯貴族との取引きも含まれる。

 その関係で、実はザノバの考えは理解できる」

 

「なら、この話は終りですな」

 

「いいやザノバ。

 理解できるからこそ、次にどんな商品が売れるかが分かる」

 

「ほぅ、何を買わせようというのですかな?」

 

「俺が売るのは情報」

 

「情報?」

 

「そうだ。

 例えば……首都ラタキアの状況は聞いているか?」

 

「未だ詳報は手に入っておりませぬが」

 

「なら、知り合い価格で提供しよう」

 

「いかほどで?」

 

「そうだな。

 アスラ金貨100枚くらい」

 

「それは少々ぼり過ぎでは」

 

「冗談だ。

 ザノバの王位継承祝いだ。

 無料で提供するよ」

 

そう告げると、ザノバの顔にあった緊張が少しだけ解けたのが見える。

そうして俺がラタキアの状況を説明し始めると、ザノバは黙ってそれに聞き入った。

戒厳令状態のラタキア。シーローン城上空に居座る浮遊城。

王と城内に居た王子たちの処刑。行方不明のパックス。

ザノバは話を聞き、

 

「やや特殊な結果となっていますが、斬首戦術の一形態とみなすが良いでしょうな。

 我々の視点からでは異端に見える戦術も、暗殺者ギルドが幅を利かせる紛争地帯では順当な進化のようにも思われます」

 

と分析する。そこにはこれからの戦争を指揮する将たらんとする風格があった。

説得するにはここから話を広げても良いだろう。

 

「もう少し詳しく説明してみてくれないか?」

 

そうザノバを促す。

俺の頼みに応えるようにザノバは少し考え、

 

「そうですな……本来、戦争などというものは数で決まるもの。

 即ち本戦術は数で劣る軍隊がその劣位を覆さんとして選択するもの」

 

浮遊城のような特殊な軍事施設があれば話は大いに変わってくるのでは?

とも思うが、敢えてここでは否定しないでおく。

 

「つまり帝国とシーローン王国の軍事力はシーローンに分がある?」

 

と話に乗ってみたのだが、ザノバは首を横に振る。

 

「今回の場合、そういった結論にはなりますまい。

 帝国は王竜王国の総戦力の一部としてシーローンをみている。

 勿論、サナキア王国やキッカ王国の軍事力も計算に入れているとみるべきと推測できます」

 

確かに言われてみればそんな気もする。

 

「シーローンの宗主国である王竜王国が今回の侵攻に無反応を貫くとは思えないものな。

 故に王竜王国と一戦交えるのを想定し、戦力差を考えてシーローンに対しては斬首作戦を選択したと見る訳か」

 

「いかにも」

 

「つまり、それは帝国が王竜王国にまで攻め入る予定と考えられるのか」

 

「それはまた別の要因が絡むでしょう」

 

またしてもザノバは控えめな異を唱える。

軍事的、地政学的な考え方というのはなかなかに複雑だ。

 

「前提として紛争地帯では貧しい地域が多く、王竜王国やその同盟国とは違います。

 帝国がここまで加速度的に紛争地帯を糾合できたのは帝国の齎す恩恵が貧しさに喘ぐ民たちを救い、支配者層を一掃できた故。

 ですがシーローン王国の民たちはそれなりに豊かで支配者層たる地方豪族も簡単に逃げ出さぬ構え。

 となりますと、これまで帝国が行って来た占領政策が機能せぬのが筋。

 面従腹背となった地方豪族たちの前に立ってキッカ王国攻略に乗り出すのはリスクが高すぎます」

 

「ええと、そうなると……どうなる?」

 

「シーローン王国の掌握には帝国本国から地上部隊を侵攻させる事になりましょうな。

 余の見立てではシーローン王国内へと展開した帝国地上軍はシーローンの主要5都市に分遣されます。

 そして戦力を分散しながらキッカ王国との国境まで進軍する。

 一方、王竜王国側も数か月内にはキッカ王国の北部国境で新たな防衛ラインを構築することになりましょう」

 

「キッカ王国がそれをやるのか?

 それとも王竜王国軍が派遣されてくるのか?」

 

「そうですな……王竜王国がシーローン王国と同盟を組んでいたのは紛争地帯への防波堤の役割を担わせるため。

 一方、他2国は食料自給の基地としての同盟関係ですからな。

 そういう事情を踏まえるとキッカ王国の常備軍だけでは防衛ラインは保てませぬ。

 そしてキッカ王国が仮に奪われるとすれば王竜王国が被る経済的損失は許容範囲を越えるでしょう。

 故に王竜王国から軍団規模の出征が行われると予測できます」

 

ザノバの意見の中に、シーローン王国を奪われただけでは経済的ダメージが少ないような意図が垣間見えた。

しかし俺にはそう思えない。思えない理由は、

 

「シーローンを奪われるだけでも、街道を占拠されて経済的に大きなダメージを被ると思うが」

 

という点にある。

しかし、ザノバは俺の疑問を一蹴する。

 

「帝国が街道貿易に介入するのは折角手に入れたシーローンの利益の8割に蓋する愚行ですな。

 アスラやミリスをも敵に回し、街道を共有する相手が敵対国家だらけになれば商売は立ち行かぬかと」

 

それもそうか。

なら街道機能は維持されると読んで良い訳だ。

 

「ちなみに双方の準備ができるのはどれくらい後だ?」

 

「……王竜王国の準備が完了するにはおよそ1年」

 

「帝国側は?」

 

「それは、我々シーローン王国軍の奮戦度合いによりましょう。

 もしシーローン王国軍が即時投降した場合、これは最短の計算となりましょうが、半年かと」

 

俺は頭の中でここまでに出た情報を整理する。

帝国はシーローン王国を占領し、シーローン王国南部国境に地上軍を展開するのに半年。

一方の王竜王国はキッカ王国北部に軍団を派遣し、新たな国境線と前線基地を構築するのに1年。

 

「おまえの戦況予測は良く判った。

 で、シーローンはどう動くべきなんだ?」

 

「シーローン王国と王竜王国は未だ同盟関係にあり、我々が時を稼げば被害はシーローン王国で留まるでしょう。

 同盟国として彼らの意に沿い、半年踏みとどまる。

 国の盾として生かされてきた余にとっての晴れ舞台となりましょうな」

 

「存念の程よく分かった。

 だが、だから、それで?」

 

俺の疑問に「む?」とザノバは身構え、目を泳がせる

答えが出てくるようには見えない。

だから補助線を引いてやる。

 

「どんなに善戦しようとシーローン王国は滅亡し、帝国に飲み込まれる。

 ザノバ、おまえの言葉を俺はそう受け取ったよ」

 

「だから逃げ出せとでも?」

 

「逃げるのも有効な手段だとは思う。

 でも、おまえが自分をシーローンの王と称するなら自分で決めたら良い。

 俺はそれに協力する」

 

「なぜです?」

 

「なぜ?」

 

「数か月前に会ったばかりの余になぜ、そこまで協力してくれるのか。

 この国がまだ安泰であったなら、すり寄る意義もあると思いましたが」

 

「なんだ、そんな事か。

 当たり前過ぎて言い忘れていたかな」

 

「む?」

 

「シーローンの王子、怪力の神子。

 それらもおまえの持つ属性に違いない。

 だからそれらを評価する者が居るのは当然だし、大方の自己評価もそうなのだろう。

 だが俺はおまえを異なる軸で評価する。

 それはおまえが抱いている"人形に対する熱意"だ」

 

ザノバが両目を見開く。

 

「研究日誌に描かれている魔道具。

 その研究なら、普通は魔術師に頼むものだ。

 だが俺は魔術の知識より、人形への熱量が高いおまえを選んだ。

 魔術の知識は後から学べば良いだけだしな。

 むしろ調べ物に付随して必要だからと学べば、高い学習意欲が湧くものだろう」

 

「だから御助力いただけると?」

 

「最初にも言ったが、ここで失うには惜しいと思っているよ」

 

「師匠ぉ」

 

感極まったザノバが再び膝をついた。

 

 

--

 

 

ザノバがおいおいと泣き始めたので『防音壁(ノイズバリア)』を起動し、待つ事しばし。

漸く落ち着いたザノバだったが、

 

「お気持ち大変嬉しく。

 このザノバそれだけで心置きなく帝国との戦いに挑めるというもの」

 

やはりザノバの頭の中に『戦いから逃げるという選択肢』は(はな)からないらしい。

固い意思。

俺は、その想いに付き合ってザノバを助けるために戦争に参加する覚悟を決めている。

前世でも同じような流れがあり、ザノバの根底にある想いなのだろうと薄々感じるところがあった。

……けれども。

ザノバの表情が遥か昔の記憶と有機的に結合した結果、当時のさまざまな感情を惹起し、1つの小さな疑問を生じさせる。

 

ザノバは前世でも頑なに国を守るといって聞かず、罠だと言っても聞かず、ラノアから祖国へ戻った。

パックスの指示で砦へと派遣され戦に挑み、勝利を手に入れ、停戦交渉への道を拓く。

その後、ザノバは国に残ろうとするが、ラタキアでクーデター騒ぎが起こり、急ぎ首都へと向かう事になる。

向った先で起こるパックスの悲劇、そうして漸くザノバは国を捨てると決心する。

つまり何か?

ザノバをラノアへ呼び寄せるためにはパックスを見殺しにせねばならない?

強い運命としてそれを目指せと?

 

パックスを心配するザノバ。

前世でもザノバは似た悩みを抱えていたように思う。

少なくともザノバがオルステッド傘下に与したのはパックスの仇討ちを希望してだった。

そのような想いを利用する。

本人が知らぬとしても、どうして俺は彼の親友足り得るのか。

 

かといってザノバをこのまま王にすれば、遠からず帝国に擂り潰されてしまう。

どうする。どうすれば? 本当に手詰まりか?

いや、まてよ……。

 

そもそもパックスが今の状況で軍もしくは王族に合流してこない理由は何だろうか。

前世と同じように王への野心を持っているのは間違いない。

そうでなければ共和国への道もなくオルステッドの予定は破綻してしまう。

しかし今の戦況でパックスが王位を目指してもザノバが現在迫られている状況に巻き込まれるだけで共和国への道が開かれるとは考えにくい。

つまりパックスに野心はあれど分が悪いとみて身を隠している。

そして帝国の侵攻が落ち着いた後、再び頭角を現し共和国を立ち上げる。

そんなストーリーがあるはずだ。

 

パックス。

パックスか。

 

弟という存在。

一時期、俺はその存在を忌避していた。

怒りゲージが溜まると暴走して大切な物を破壊してくる認識だけが残っていたからだ。

だが前世および現世で俺には妹が居てくれた。

さらに結婚して複数の子供を持つと、子供同士の関係性を否が応にも親目線で観察するようになった。

兄弟姉妹。

互いをどう認識し、家族として暮らし、窮地においては助言し、もしくは実際に助け、或いは見守って来たか。

だからだろう、こんな風に思うのは。

 

「なぁ、ザノバ」

 

「何ですかな?」

 

「パックス殿下は今頃どこで何をしているかな」

 

「どうされました急に」

 

「いやな。

 おまえが王様しながら国の盾として働くって実際できるモノかなと疑問に思ってさ」

 

「余の能力にご懸念が?」

 

「ザノバなら軍の最高指揮官も神子として最前線で戦う現場指揮官も遺漏なくできるだろう。

 だが両方を兼任するとなると話は違ってくる、そう思えてならないんだ」

 

「兄上らが生きておればそのような人事に悩まされずに済みましょうに、まこと困ったものです。

 しかし無いものねだりをしても仕方がないのも事実。

 確かに兄上らはもういない。けれども、いや余には弟も居る」

 

そしてザノバは両手をポンと打ち、続ける。

 

「なるほど、師匠のお話みえました

 パックスを見つけて王に据え、余は1人の将として力を発揮する。

 そう提案なさるつもりなのですね」

 

「どうです、当たりでしょう?」と、我が意を得たりと鼻高々なザノバ。

だがその顔は長く続かない。

ほんの刹那の間に見て分かるほどに深い影を現し始める。

 

「どうした?」

 

心配になって問いかけると、

 

「いえ……自分で口にしてみていささか得も言われぬ気持ちに」

 

と曖昧な応えを返すのみ。本当にどうしたのだろうか。

ザノバの心の裡が見えずに俺も続きが言えなくなってしまう。

当惑の中にいる俺を他所に、ザノバは悩まし気な心情を吐露する。

 

「パックスを。

 弟を王に据えて負け戦を指揮させようなど……酷い兄だと思いましてな。

 はは、ジュリアスの首を取った余が弟の心配などしておるのです。

 お笑いくだされ」

 

「フゥーアッハッハッハハハハ!」

 

「し、師匠?」

 

「いやースマンスマン。

 笑えと言われたらこうするようにしているんだ、他意はない」

 

「はぁ……」

 

「ザノバも覚えておくと良い。

 もしかしたら不死身の魔王と名前で呼び合う仲になれるかもしれない」

 

"どんな時にもとにかく笑え"がポリシーのお茶目な魔界大帝付き。

 

「まぁ、なんだ。

 俺にも妹が2人いてな。

 正直、何考えているかさっぱり判らない。

 まさしく不可思議生物なんだ、あいつらは」

 

「つまり?」

 

「そうだな……つまり。

 何考えているか良く判らないし、何をしてやれば良いのか判らないとしてもだ。

 妹が"何を考えているか"を考えるのは兄貴として大事だと思ってる。

 一緒に悩んでやりたい、何もできずとも傍にいてやりたい。そう思ってるんだ。

 だからザノバ、おまえもやってみたらどうだ?」

 

「パックスの事を?

 この状況で?」

 

「大事な話だろう?

 パックス殿下の今後に関われるのは今や唯一の肉親になってしまったおまえしかいないのだからさ」

 

「ふむ。それもそうですな。

 しかし突然言われましても、何をどう考えれば良いのやら」

 

「例えば……パックス殿下は王位に就く野心を抱いているように見えたか?」

 

「あやつは親衛隊の数も余と最下位を争う第七王子でした。

 ですが継承戦が本格化すれば、どんな番狂わせも発生し得るもの。

 知恵を巡らして足場作りに勤しんでいたのを考慮すれば、野心はあったのでしょうな」

 

「パックス殿下については噂程度の知識しか持ち合わせていない俺でもそう思う。

 だからこそ今もパックス殿下は姿を晦まし、シーローンが帝国に飲み込まれるのを待ってる」

 

「馬鹿な。

 このままではシーローン王国はこの世から消えてしまいますぞ」

 

「さきほどはシーローンが帝国に併呑されるのは変えようのない未来だと、おまえ自身が認めたように聞こえたけどな」

 

俺の言葉に「むぅぅ」と唸るに留めるザノバ。

 

「"今、王になるくらいなら国は一度滅んでしまっても良い"と考えているとしたらどうか」

 

「王国なくして王座もありますまい」

 

国破れてなんとやら、といった考えがザノバには無いらしい。

ただパックスの思考は正確には分からないのだからザノバの意見を否定する根拠らしい根拠もない。

強弁しても空理空論で終わっては納得も遥か彼方だろう。

お前がそう思うんならそうなんだろう? おまえのなかではなって奴だ。

 

「つまり、なんだ。

 パックス殿下に野心があったなら王国が滅ぶ前に動くはずで、もし動かなければ王に興味がない証左だってことか」

 

「もしくはどこかで野垂れ死んでいるか」

 

ザノバの理解は少々、短絡的に感じる。

まぁ王家の暮らしぶりを考えれば仕方ないのかもしれない。

母が違い、お互いの生活空間も分かれている。

王子同士は椅子を取り合う競争相手でもあり、家族の結びつきを感じるには程遠い状況。

それでも尚、無意識に弟を案じている精神性こそ賞賛すべきか。

 

「シーローン城に現れて帝国兵に捕まった情報はない。

 どこかで怪我でもして身動きが取れなくなっている可能性もある」

 

「師匠がそこまで気になさるなら、消息は余の騎士ジンジャーに調べさせましょう。

 怪我をして動けなくなっていても問題はありませぬ。

 ジンジャーめは治癒魔術も使えます故、見つけ次第、回収できましょう」

 

「なら話すべきことは話し終えたし、待つより他にすることもないか」

 

「待つのでしたら部屋をご用意致しましょうか?」

 

「いや俺はひとまず(ねぐら)に戻る。

 夜中に部外者が現れたなんて公けにして見張りの兵士が責任を取らされるなんて夢見が悪い」

 

「それは、そうかもしれませぬな。

 では師匠」

 

「ん?」

 

「ありがとうございました。

 このザノバ、今日の事は一生……」

 

「近いうちにまた来る。

 今度は明るい時にしよう。

 だから命は大事に、な」

 

「怪力の神子ザノバ・シーローン。

 体の頑丈さが取り柄ゆえ、安心召されよ」

 

「そうか。

 なら、また」

 

「師匠、お元気で」




次回予告
帝国離脱を決めたはずのシャンドルは
ついに白き髪の少女と出会ってしまう。
彼女の魔術と闘気がとめどなく湧き出す感情となって
彼の心を打つ。
その想いはストーイとの約束を反古にするほど。

次回『白騎士、留まる』
霧は晴れ、遠き武の頂きへの道がはっきりと見えた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:20文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ようこそ享楽至上主義の教室へ(作者:アネモネ)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

デスゲーム開催に胸を弾ませて高校入学を果たしたCクラス所属の子の話。▼なお、デスゲームなんてなかった模様。▼1年生編、終わり。2年生編、開始。▼匿名希望の方よりファンアートをいただきました。ありがとうございます。▼【挿絵表示】▼X→https://x.com/wind_flower00▼特殊タグ無し版→https://syosetu.org/novel/33…


総合評価:11171/評価:8.79/連載:127話/更新日時:2026年06月20日(土) 13:39 小説情報

剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜(作者:カゲムチャ(虎馬チキン))(原作:無職転生)

 学生最強剣士『剣崎絵美理』。▼ 彼女は一流の剣道家でありながら、幼い頃に憧れたアニメに出てくる人間の限界を超えたファンタジーな剣士達への憧れを忘れられない立派な中二病患者であった。▼ そんな彼女はある日、同じ学校の生徒達が言い争ってる場面に遭遇して気を取られ、トラックによる背後からのアンブッシュで昇天した。▼ そして、目が覚めると緑髪エルフの双子の妹として…


総合評価:29145/評価:8.89/完結:146話/更新日時:2026年03月29日(日) 00:50 小説情報

機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望(作者:UMA大佐)(原作:ガンダム )

SEEDの連合軍に早期からOS開発用MSを突っ込んでみたら?主人公(転生者)がそのOSを開発する部隊の隊長になったら?という話。▼ついでにその主人公に「ギレンの野望」みたいなステータス閲覧能力を持たせてみる。▼○2020年9月30日に、番外編や設定解説を別ページにまとめました。▼https://syosetu.org/novel/237583/▼※感想欄での…


総合評価:4945/評価:6.89/連載:140話/更新日時:2026年03月24日(火) 22:10 小説情報

魔法少女ノ異世界生活(作者:ブナハブ)(原作:Re:ゼロから始める異世界生活)

まのさばの二階堂ヒロがリゼロの世界に迷い込んでしまうお話です。▼基本原作沿いです。▼※※※注意※※※▼本作では、魔法少女ノ魔女裁判に関する重大なネタバレがガッツリ含まれています。まだ触れてないけど気になっているという方は、こんな駄文でお目汚しになる前にまのさば本編をご覧になって下さい。


総合評価:1636/評価:9.06/連載:13話/更新日時:2026年06月13日(土) 22:03 小説情報

アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件(作者:紅乃 晴@小説アカ)(原作:スターウォーズ)

マスターウィンドゥのパダワンとして転生した主人公がアナキンの親友を目指すハートフルストーリーです!!▼なお、ヒロインタグはフォースの導きである(遠い目)


総合評価:36859/評価:8.98/完結:94話/更新日時:2020年11月24日(火) 14:09 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>