無職転生if ―強くてNew Game― 作:green-tea
--- 龍を討たんとする者。その真価を見せよ ---
「陛下、フィッツに続きシルフィエットが白騎士に接触した模様です」
報告するゴルトにウォーレンは「あぁ」とだけ。
その理由の説明をゴルトは待った。
なぜならウォーレンの指示でシルフィの監視を外したのだから。
だが、残念ながらウォーレンに説明する意思は見受けられない。
ゴルトは諦めて次の報告へと手に持っていた書類束を1枚めくる。
「
新部隊の編成。
首輪の安定。
全て完了致しております」
報告を聞いているのか、いないのか。
ウォーレンは天井を仰ぎ見て、一言。
「ゴルトよ、左に3歩移動せよ」
「……ハッ、では失礼して」
言葉の意味が咀嚼しきれず、少し遅れて返事をしたゴルトが言われた通りに動く。
ほぼ同時に執務室の扉が開き、現れた闖入者から横柄な声で「ジジィ!」という一言が放たれる。
移動していたお陰でゴルトは吹き飛ばされずに済んだらしい。
ウォーレンの指示の意味するところに驚き、闖入者の無礼を諫めるのが遅れてしまったが、
「調子は良さそうだな。
フィッツジェラルド」
ウォーレンが機先を制して確認する。
「あぁん調子ィ?
別にワルかない」
「ならば1つ務めを授けよう」
「はん、話が早いじゃないか。
ジジィ」
「小隊を率いて赤竜の下顎を目指すが良い」
「そこに何がある?」
「何も」
「何も?
なら、なぜ行く必要がある」
「そこは何の変哲もない場所だ。
だが龍神オルステッドに遭遇する」
「ほぅ、列強2位。大物だね。
ジャジュカとシェスタ。
それに『ガルディオーラ』を使わせてもらおう」
「構わぬ。
元よりヌシの専用機である」
それだけ聞くと、
「直ぐに出撃するッ!」
そう口にしてフィッツはマントをはためかせながら退出する。
部屋に静寂が戻り、控えていたゴルトが元の位置へと移動し直して、
「宜しいので?
早々に失う事態になりかねないと存じます」
と一言。
止めるなら自分が動く、そんな意思を感じさせる表情。
しかしウォーレンは事務作業を再開させながら、
「案ずるな。
白き髪の少女。その運命の火は未だ消えぬ。
たとえ完全なる運命の持ち主が相手であろうとな」
それは説明不足の独白に近しい呟き。
ゴルトは納得できていない自身の不敬を恥ながら、一礼して部屋を出ていく。
フィッツが開け放した扉も閉めて。
「龍の神子。
世界を滅ぼす者。
未だ世界崩壊のヴィジョンに変化は見られぬ。
しかしなぜ。
龍の神子は世界を崩壊させようとする。
その因子を解き明かすに必要な者らを」
--オルステッド視点--
赤竜の下顎の近く紛争地帯へと続く東垂れの裾野に広がる森において、ただ1つポツンと空き地が広がった場所がある。
おそらく赤竜山脈からの冷気が吹き込んで出来た地形だろう。
そこに足を踏み入れた直後、悪寒のようなものが首筋を撫でる。
仰ぎ見る雲は天高く流れ、既に冬の到来を示すモノとなっていた。
冷気に当てられたか。
それとも心を占める諦めにも似た感情のせいか。
溜息を1つ吐き出し、足を止める。
今回のシナリオでヒトガミに至る可能性は、おそらく無い。
だからといって意義がないという訳ではないが、余りにも未検証な因子が多すぎる。
ここから先、1つ1つの因子を紐解き何が得られる?
次回の試行では、やはり俺が確実だと思ったルートを推し進めるべきか。
そもそも俺が確実だと思っているルートは次回以降に再現可能か。
確信は揺らぐ。
前提条件をひっくり返す未来からの影響。
俺以外のアクターが過去転生し状況を変化させている。
不都合な現実。
ルーデウスの書、転移者ナナホシ。
別時間軸で起きた転移災害ではウォーレン・ムーンは死亡したか、あるいは超越機関から勧誘されない場所へと転移した。
そうした流れから奴等の知識に帝国は存在しない。
ただしその後のヒトガミの暗躍によりパックス・シーローンが自ら命を絶ちラプラス復活が不透明になった、とある。
結果、その世界の俺は第二次ラプラス戦役を見据え準備していたという。
実質、その時間軸で俺が起こした行動は無駄だった。
いや、これまでのループの中で俺が積み上げた全てが無駄になったと評して過言ではない。
ヒトガミを倒すまで後一歩と考えていたところでの
ルーデウスの行動が強い運命力を用い本来変わることがないはずだった強固な未来を変える。
ナナホシの存在がそれを後押しする。
恐ろしいのはそれらがヒトガミの暗躍でないということだ。
それでも動かねばならない。
どの因子がどう影響するのかの検証。
また1から、か。
徒労感の波を振り払い、考える。
ルーデウスの書に描かれていない事はいくつかある。
書の中の俺がナナホシと出会ったのは、ウォーレン・ムーンを殺すためにフィットア領へ向っていたからだ。
だが、おそらくそれを俺はいちいちルーデウスに語ったりしなかったらしい。
そしてウォーレン・ムーンが417年を生き延びてロアに居残ると超越機関が現れて奴をスカウトする。
スカウトされたウォーレン・ムーンは帝国を興し紛争地帯を平定後、シーローン王国と戦争し王国を滅ぼすに至る。
帝国侵攻を契機にパックスは隠遁し、帝国弱体を待ってシーローン共和国を建国するのだが……。
それでも尚、ラプラス復活の場所は中央大陸北部であったり、ミリス大陸であったり、魔大陸であったりと安定しない。
変化の因子が何なのかはまだ定かではない。
ルーデウスの書にある通り、4人目の使徒ギースの暗躍も影響しているのだろう。
だから帝国へと招聘されるに先んじウォーレン・ムーンを殺さねばならなかった。
しかし今回は転移災害が起きたにも拘わらずルーデウスの活動によってウォーレン・ムーンは生き延びロアに居残り、超越機関にスカウトされ帝国を興した。
今回、紛争地帯を訪れるのも帝国が南方侵攻を準備しているかどうかの確認と変化の兆しを知るため。
さてどうなるだろうか。
考えすぎただろうかと思っていたところで、見上げ続けた空に3つの点が現れる。
なんだ?
徐々に大きくなっていく卵型の飛行物体が3機。
だんだんと近づいてくる。
頭上に至り、自分を囲むように時計まわりに1機ずつ降着。
それぞれの機体は地面に着く前に俺の身長の倍程の高さを持つ人型魔道具へ変形。
大きさに比して静かな駆動音だ。
「ルミランとクロスビンのマシンメサイアか」
目前に2機、真後ろに1機が静かに降着する。
ルミランとクロスビンによって製作される巨大な鎧の魔道具。
闘神鎧を模した奇妙な鎧人形。
人がその中に搭乗して操るモノだ。
魔術師が剣士と対等に戦える力を得るための発明となる可能性を持っている。
くすんだ水色を濃くしたようなカラーリングの2機は『アルセイデス』。
紅蓮の機体は『ガルディオーラ』。
俺が知るそれらに飛行機能や変形機構はなかった。
それに『ガルディオーラ』が完成するには時期が随分と早い。
「龍神オルステッドだな?」
黙っている内に眼前に立つ内の1機、
「いかにも。
そちらの名も聞いておこうか」
「ボクは龍撃隊の隊長フランシス・フィッツジェラルド」
そう返答しながら
呼応するようにもう1機も槍を構える動きを見せる。
後ろにいるもう1機も得物を構えた気配がした。
『龍撃隊』。
隊長はジャジュカときにはシェスタの場合もある。
が、今聞いた名の者であるのは初めてだ。
『フランシス・フィッツジェラルド』。
記憶の深い部分まで潜っても、記憶にない名。
次に関連性の深そうな親兄弟の名前を思い出してみる。
それでも思い当たる者はいない。
目を閉じしっかりと記憶する。
そして再び目を開く。
「用件を聞こう」
「ボクらは龍を撃滅する。お前のような邪悪を許しはしない」
耳にたこが出来るようなお題目だけならば、一蹴しても構わなかったのだが。
早まった時期。
変化した機体。
見知らぬ隊長。
何がこれら変化の因子なのかを見極める必要があるだろう。
「おまえはどこの出身だ」
「何?」
「紛争地帯か。
それとも王竜王国か。
家族構成は?
なぜ龍撃隊に居る?」
「貴様とのおしゃべりに興じるつもりはないッ!」
俺に相対する者の大半は話が通じない。
それは恐怖からであったり、ヒトガミの言葉を妄信するが故であったりする。
だが、残りの2人は確か、
「そちらの2人はどうだ?
アルセイデスの機手よ。
槍使いはジャジュカ、後ろのはシェスタだろう?」
そう指摘してやると構えに僅かな乱れがあった。
どうやら間違いないないらしい。
だが、礼儀正しくも返答はない。
「こちらの動揺を誘うつもりだろうがそうはさせないよッ!
ナブラをかける」
「判りました」
「ハイ」
声からすると左前の機体にはシェスタ、真後ろの機体にはジャジュカが搭乗している。
そしてナブラ――――
思考がまとまる前にシェスタが槍を引き、フランシスの乗る赤の機体は手斧を横薙ぎにしてくる。
真後ろからも攻性の意志を感じ、左目でぎりぎりまでシェスタの動きを捉えつつ、右に首を動かして最終的にジャジュカまでも視界に収める。
ジャジュカは柄と鉄球を長い鎖でつないだフレイルを持っていた。
先端の鉄球を器用に回してタイミングを見計らっている。
闘気を纏った左手で薙いでくる斧を払い落とし、地面に突き立った斧を右足で踏みつけることでめり込ませる。
目に映るジャジュカはまだ動いていない。
だが、これは龍聖闘気による超加速の結果に過ぎない。
ジャジュカの持つ鉄球の回転がスローモーションで回り、放たれる。
そして同時に気配と闘気による触覚がシェスタの槍が皮膚の上層に迫ったと伝える。
最小最速の動きで左腕を上げ、槍の柄を左脇に絡め取り、槍を持ったままのシェスタをアルセイデスごと持ち上げ投げ捨てる。
飛んでいくシェスタが弧を描き、その頂点に至るよりも早く今度はフレイルの鉄球を掴み投げ返す。
ここまで一瞬。
列強下位並の速さを伴った3体同時攻撃。
ナブラとは3種の武器を使った連携攻撃の名前のよう。
槍による刺突。
斧による横薙ぎと質量のある斬撃。
フレイルによる打撃と鎖による行動妨害。
それぞれ性質の異なる三種の武器、捉えにくい位置、対応しにくいタイミング。
強烈な一撃を放つ連携技。
しかし注目すべきは"列強下位並"の強さであること。
搭乗者の強化にマシンメサイアの高性能化を乗じなければ不可能。
超加速状態を解き、時間が元の速さで動きだす。
フランシスは斧を放棄して間合いを取り直し、シェスタは一回転のバク宙から着地、その際膝関節部分から
ジャジュカは鉄球を何とか避けるものの、その勢いから鎖がはじけ飛び、残った柄を投げ捨てる。
それぞれの攻撃には十分な闘気が込められていた。
劣化闘神鎧が3体。
さらに乗り手は少なく見積もっても――あるいは機体による上昇幅を大きく見積もった結果として――聖級から王級の可能性がある。
しかし龍撃隊は魔術師集団のはずだ。
ジャジュカもシェスタも剣士ではなく魔術師。
それが、何らかの因子の変化によりある程度の闘気を操る剣士になっている。
龍撃隊の隊長フランシス。
こいつが一番の要因と思われる。
「気が済んだか?」
それぞれの武器を失った龍撃隊に言葉を突き刺していく。
「さすがは龍神。世界2位の強さ。
これ程とはね」
フランシスの威勢はそれなりに挫いた気がしたはずだが、その声にはまだ気丈な強さがあった。
挽回の秘策があるらしい。
その秘策を知るのも重要。
「武具だけでもう少しやれる自信があったのにな」
とフランシスがわざとらしく聞こえる声で呟き、
「我々は魔術師、仕方のない事もあるのではないか」
そう応えるジャジュカ。
「そうです。僕らにはまだ魔術があります」
最後にシェスタが呼応する。
ジャジュカとシェスタは言葉を発した後、『アルセイデス』を動かす。
フランシスの両隣へと場所を変えるためだろう。
龍撃隊、彼らにはルーデウスの書との類似点が多く見えるのはなぜか。
魔術師が闘気を獲得する手法。
闘神鎧を模した
これもルーデウスの影響ならば帝国とルーデウスに繋がりがある、のか。
それとも偶然か。
疑問点を整理しながら、だが自体は予想通りに進み始める。
ジャジュカが魔術の詠唱を始め、他の2人はジャジュカを守る構えを見せる。
背中を何かが這うような気味の悪さ。
雪だるま式にこの感覚に襲われることはよくあること。
それは大抵、死に直結するが、果たして。
「かつて龍の神在り。時の河を渡り運命をも御す……」
初めて耳にする詠唱文。
攻撃か防御か、龍撃隊の定石では最初に防御や付与によって安全を確保しようとするが。
それよりも詠唱に含まれる『龍』あるいは『龍の神』という文言に皮膚が粟立つ。
「さすれば万象を我が意のままに……『
聞こえたのはそこまでだった。
--フィッツジェラルド視点--
『
ジャジュカの魔術が完成すると同時、龍神を含めた小さな辺の立方体で区切った空間の時が停止する。
ウォーレン様はおっしゃった。
龍神はこの世の理から外れた存在である、と。
そしてこうもおっしゃった。
この世と異なる時の中で生きる者であれど、龍神も時の中に生きる者である、と。
時空支配はこの世界の理の要素としての時を停止するのではなく、その範囲の中のあらゆる時を停止する。
故に龍神が属する時があるのならばそれを停止する。
故に龍神はこの魔術の影響を受ける。
ジャジュカの『アルセイデス』が膝を付き、中から本人が顔を出す。
魔力を相当に消費して辛いのだろう。
「ジャジュカ、いけるか?」
機体に備わった拡声機能で呼びかける。
すると恨めしそうな顔で、
「少しだけ息継ぎをすれば、大丈夫です」
ジャジュカが応えるのを機体の集音機を通して聞き届ける。
「あまり時間はない」
「ええ、なんとか」
反対に目を向けるとシェスタが準備詠唱を終え、本題に差し掛かるところだった。
「天空の星の子ら。
我、輝きを結び
煌めきの龍よ、汝に願う。
星降りの儀を始めよ、唸りを上げよ、大地を穿て
『
そう叫びシェスタが空を見上げる。
つられてボクも見上げると小さな煌めきを認める。
「成功しました。
フィッツ様。
巻き込まれないように移動を」
シェスタも疲れた顔を見せながら『アルセイデス』を操作するべく動き出す。
魔術を維持したままこちらのやり取りを聞いていたジャジュカも自機を再起動させた。
「離れるぞ」
そう告げて『ガルディオーラ』を空に浮かべると、2つの僚機も空に浮かんだ。
停止したままの龍神を残して。
煌めく点は次第に大きくなっている。
その姿は今や雲を棚引かせて時に強く光りながら。
その様を離れた崖に降着し、見ていた。
「ジャジュカ、行けるか?」
「えぇ。
カウントダウンを頼みます」
頼まれ、強化した視力を以て観測する。
訓練通りのタイミングを見計らう。
「まだ。
……もう少し。
3、2、1、解!」
言い終えるよりやや早かった気がしたが時間停止が解除される。
そして。
龍神の姿が地面に殺到する隕石群に飲み込まれるのを接触の直前まで捉えていた。
衝突によってまず光が、次に遅れて轟音が、最後に砂を含んだ乱気流が視界を埋め尽くす。
徐々に砂ぼこりが晴れていく。
一瞬目を瞑ってしまったが、一瞬だ。
観測を再開。
そしてあれほどの質量の物体の衝突に巻き込まれても、ほぼ同じ場所に小さな影が現れる。
魔術の爆心地。そこに、龍神が膝を付いている。
古代龍言語魔術を人間語化した2つの魔術連携。
それを以てしても尚、龍神の闘気を完全には突破できない可能性はあった。
むしろ彼が攻撃を回避できず、黒焦げになり、相応のダメージを負っているのではないか。
ジジィの予想を超えた、僥倖だ。
そんな評価を口に出せば面倒事になるのは判っている。
だから、
「陛下の言う通りか。
しかし、それなりに効果はあった、というべきだろうな」
と口にする。それに対し、
「直撃ですから当然です。むしろ生きているはずが」
そう言ったのはシェスタで、
「いや、倒せたと考えるのは早計だろう。
先ほどの攻防を見ても常人を遥かに超える反応速度を持っている相手だ」
一方のジャジュカは俺の意見を支持した。
「しかし……」
とシェスタは納得がいかない様子だ。
ジャジュカの慎重な意見からは神クラスの相手への懼れが見える。
シェスタもむしろ普段はボクら2人よりも確実性を求める傾向が強いし、龍神を舐めているというわけではないはず。
だがそれを越えて今回は魔術の威力に絶対の自信があると言っているに違いない。
「残念だが生きている。撤収だ」
声に応じ、ジャジュカ機は飛行形態へと移行する。
一方のシェスタ機は人型のままだ。
「効果があったのなら止めを刺せば良いのではないですか?」
これだ。
真の評価を口にしなくて、本当に良かった。
「どれだけのダメージを負ったかは判らない。
それで?
陛下の命に背きたいのか?」
「いえ、そう言う訳では」
指示命令系統の頂点となる人物の名前を出されてシェスタも思考が冷えただろう。
少し卑怯な論法を使ったがグズグズしているわけにはいかなかった。
「ならさっさと撤収しろ」
「は、ハイッ」
--オルステッド視点--
ジャジュカの魔術『ドミニ―』とやらによって何かが起こり、気付いたときには眼前に隕石の雨が迫っていた。
それを龍聖闘気と流を併用して受け流しやり過ごすも、巨大な質量体を遠くに弾き返すことは叶わなかった。
大地と激突していく隕石によって地表はマグマと化し、高温が肉体を灼く。
脳が熱で動かなくなる前に水系治癒魔術『
肉体の温度を下げつつ肉体の損傷を回復するが、貴重な魔力を失っていく。
ここに留まるべきではない。
隕石群を切り抜けて速やかに地面を蹴り、マグマ地帯を跳躍で脱する。
眼下には煮えたぎるマグマの海。
そして熱で高温に揺らめく空気層ができあがっていた。
1度目の跳躍の着地点は地表を剥ぎ取られた砂地帯だった。
俺自身が弾き飛ばした巨大な隕石も赤々とした残骸となってそこかしこに散らばっている。
もう一度、跳躍。
爆心地から逃げ出すように倒れた木々を越え、森の中へと入った。
引き際を弁えるか……龍撃隊は追撃の姿勢を見せず、撤退したようだ。
だが、ここで一息つくことは出来ない。
この状況は既知のルートではないが、似ている状況の経験がある。
龍撃隊の襲撃後に、同じく帝国の白騎士や黒騎士によって波状攻撃を受けた経験。
それに付き合っても魔力を浪費するだけ。俺が知る範囲において、その後のルートに変化はない。
だから慎重に戦闘区域を離れ、曙光に顔を染める頃にようやく戦闘の記憶、戦闘で生じた超常現象に意識を傾けるに至った。
3機のマシンメサイアからの連携攻撃を闘気を使って対処した後、何かの魔術を使ったのはジャジュカだった。
聞こえて来たのは詠唱の一部。
それらをつなぎ合わせたところで俺の知る魔術に該当する魔術はない。
ならば未知の魔術か?
いいや。
そうではない。
既知の魔術であるものの人間語に翻訳されている訳文を俺が知らない場合を考えよう。
確実に聴き捉えた『龍の神』という特段に気になる文言。
俺の知っているとある龍族専用魔術の"古代龍言語"による詠唱文。
それらが太古の盟約への入力上、等価になるのであれば。
該当する魔術は『
時空平面上において"現時点"から"少しだけ未来のある時点"へと対象を強制移動する魔術。
この魔術の空間座標を全く移動させなかった場合、対象の時間だけが移動する。
それはつまり、簡単に言えば時間停止を行う魔術だ。
なるほど俺は時間を止められて、次に巨大な隕石の雨に晒された。
これも龍族専用魔術『
『
位置エネルギーをその主な原資とするこの魔術はそのせいで発動から衝突までのタイムラグが大きい。
また影響範囲の広大さから1対1の戦闘においては他の扱いやすい魔術を選択されがちな魔術でもある。
こちらはシェスタかフランシスが使用したのだろうが、『時空支配』と組み合わせればなるほど驚異だ。
しかし不思議だ。
龍語を使う者も少なくなり、このような高度な魔術を使える者も希少だ。
そんな失われる寸前の魔術。
俺の知る中において、それを知る方法は『死者たちの迷宮』か『魔道』のどちらかに行く必要がある。
しかも『魔道』では偶然にも龍語の魔術書が出現した場合のみであり、俺が聞く限りそのような偶然が起こったことは一度も無い。
となると俺の知らぬ遺跡があるか、どこかに龍族の魔術を伝える魔術書があるのかもしれない。
それでも龍語を理解するか龍語を人間語に翻訳した者がいる。
そのような者を過去のループの中で見たことは無い。
どのような人物がそれを為したのか。
思い当たるとすればルーデウス・グレイラット。
あの者は俺の知らぬ異世界の言語でナナホシと会話し、人間語に変換するための事典を持っていた。
あやつならばもしかすると龍語と人間語の翻訳のための本を持ち、それができる可能性はある。
だが龍撃隊を擁する帝国とルーデウスは俺視点では接点がない。
判らないことはあやつ本人に問いただせばわかるかもしれない。
次回予告
試験、誰かが用意した問題に正しく回答する作業。
私は得意で人より良い点数がとれた。
でもそれって記憶力や思考力その柔軟性の証明なだけ。
私自身が凄いとか偉い訳ではない。
それを研究で学んだ。
次回『アイシャの研究発表』
ただ見えているパターンを綺麗にまとめただけの幼稚なもの。
そうだとしてもこれは大学の図書館にない新規性がある。
※補足
以下は、拙作設定限定の話です。
人界にある太古の盟約により、他世界開発の魔術は基本的には起動しないとされています。ただし同、太古の盟約の定義に、ある種族は種族限定の魔術(吠魔術や催眠魔術)が使えると定義されていたりすると使える事にしています。また起動できない魔術であっても仕組み自体は残っており、その仕組みにアクセスするインタフェースを用意することで起動できるものとしています(転移魔術、転移板を隠すための結界、龍言語魔術)