無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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第137話_アイシャの研究発表

--- パターンを全部試しただけだよ ---

 

「運命強化用補助結界、起動します。

 臨界までカウントダウン10、9……」

 

ゆっくりと読み上げられる数字が減っていく中、室内に居た10人以上の魔術師が床に設置された魔法陣へと魔力を送る。

そして0の数字が読み上げられると、

 

「結界、正常に起動。

 運命強化状態に突入を確認」

 

全体の指揮を執っていたゴルトが報告した先には背を向けた老人。

部屋の最奥の装置、その手前に背を向けて座るウォーレン。

振り返らぬままのその背にゴルトは無言で一礼。

ゴルトが礼から直立の姿勢に戻ると、既にウォーレンが巨大な望遠装置に魔力を送り込み始めていた。

装置全体に刻み込まれた魔法陣の記号が七色に輝き、一瞬色を落ち着かせる。

それからウォーレンが小さく手元を動かし、それに連動した仕掛けが装置全体、魔法陣の紋様を変化させる。

そうしてまた新しい魔法陣が光を瞬かせると、

 

「おぉ進む、進む。

 運命の輪がまた回り始めた」

 

ウォーレンが喜色を浮かべた声色で呟く。

 

「見える。見える。

 運命改変の鍵が……む?」

 

ウォーレンが唸る。

さらに興奮冷めやらぬ声のまま

 

「ゴルトよ。

 黒騎士を配置せよ」

 

「ハッ」

 

ウォーレンの指示に短く返事し、ゴルトが部屋を出ていく。

ウォーレンはそれから暫く装置を覗き込み続けた。

 

 

--ルーデウス視点--

 

再会の約束をしてラノアへと撤収した俺達は、普段通りの日常を普段通りに過ごしていた。

朝の鍛錬から始まり、家族で朝食を囲み、妹達が大学へ、彼女らを見守るといってエリスも警邏に出かける。

今日のパウロは娘に強請(ねだ)られなかったらしく、少し遅れて1人で仕事に向かっていく。

半数以上の家族が方々へ出かけ静けさに満ちた屋敷の中、魔術を駆使して俺とロキシーは皿洗いや洗濯を手伝う。

母達が屋敷の清掃や早くも昼の支度に着手したのをみて特に用事もなさそうだと判断し、俺は書斎、ロキシーは自室へと移動。

そこで研究に臨む。

エリスが警邏から戻って来ると、彼女は午前中さらに鍛錬に励んだようだった。

 

ランドルフは朝の鍛錬で顔を出しパウロに稽古を付けるようになった。

それから食事は家族のテーブルに同席するも、末席で黙々と摂ることが多い。

また居候らしく母達に駆り出されて買い出しや野菜のカットを手伝うときもあるという。

千切りや乱切りが手早いので助かっているとゼニスからきいたときは吹き出しそうになったものだ。

 

その日もそんな日々の1つだった。

少し違ったのは警邏から戻ったエリスが書斎に押しかけ、手合いを頼まれたぐらいだ。

パウロがランドルフの手解きを受けているのに対し、ヘイムダルもギレーヌも無しでは焦燥感が募るのだろう。

ルイジェルドを探しだす当てもなく、ならば剣の聖地かとも思うのだが。

前世と異なる目標を持ったエリスにとってそれが功を奏すか、どうにも踏ん切りが付かず自信をもって勧められない。

それなら俺自身で、という結論に落ち着いてしまう。

 

エリスが先を取って剣を打ち、間合いを測るように繰り出されたそれが1度2度と空を切る。

仕込まれた意図。

目線、息遣い、口の開き具合、足の運び。

それらはこちらの攻撃を誘う、魔族の戦士の戦い方に少し似て来ている。

俺はそれに乗らず無手の構えから、

 

「シャオ!」

 

と南の夜空に瞬く水鳥のような奇声を上げながら猫パンチを繰り出し、そこから1度に5つの石弾を暗器の如く飛び出させる。

当たれば引っ掻き傷のような痕が付いただろう。

だが、それを、

 

「ふん!」

 

という掛け声1つとともに、のけ反りで躱すエリス。

彼女はその勢いのままバク宙に繋げ縮こまった態勢のまま下から切り上げるような剣を繰り出す。

その剣を首の捻りのみで躱し、逆に掌で剣の腹を横に払いのけるよう反撃。

闘気を伴ったそれは人一人を吹き飛ばす威力を秘める。

エリスは流れに逆らおうと一瞬もたついたものの、逃れられないと悟って剣ごと吹き飛んだ。

一瞬の迷いのせいでスマートな着地ではない。

剣を手放さぬまま丸めた体を受身代わりとし地面に激突する。

勢いが収まったところで立ち上がり、構え直すのは流石だ。

 

剣の間合いの3倍の距離が開く。

立ち上がったばかりのエリスに対し、

 

「シャオ! シャオ! シャーーーオ!」

 

と3回、猫パンチ。

当然の如く指は届かないが、それでもエリスは石礫を予想し横に飛びすさる。

そして、そこで腕を抑えた。

(うずくま)ったエリスに治癒魔術を掛けようと近づき、そこでようやくエリスが口を開いた。

息を整え終わっただけかもしれない。

 

「色々と言いたい事があるんだけど」

 

日々、成長していく彼女には記憶にあった部分とそうでない部分が複雑に絡まっている。

転移災害で魔大陸に飛ばされたときの細やかな記憶は、その後にエリスと再会してからの長い結婚生活にほぼ上書きされていた。

だから、先程の前置きに前世における当時のエリスらしさがあるかどうかは判断が難しい。

ダメだな。

前世と比べても良いことはないのに。

そんな風に少しだけ対応を迷っていると、

 

「闘気は纏えていたし、あの石礫に私を傷つけるほどの威力はなかったでしょ」

 

「そうだね」

 

エリスの分析に同意しておく。

一応、闘気を込めてあるから無傷とはいかないと思うけど、かすり傷程度をエリスが傷に数えるかは別なので。

 

「だからこの傷は避け損なった石礫じゃない。

 風魔術かとも思ったけれど……それも違うわね」

 

やはり勘が良い。

 

「そもそもなんだけど。

 俺はこの手合いで魔術を使ってないよ」

 

「なら、さっきの石は何よ?」

 

「あらかじめ拾って隠し持っていた」

 

顔をじっと見つめてくるエリス。

一応、目を逸らさないでおいた。

 

「嘘はついていないみたいね。

 でもやっぱり判らないわ」

 

「『真空斬り(ソニックブレード)』」

 

「でも……。

 今日は素手で戦っていたのに」

 

「小指で飛ばしたんだ。

 こうやってね」

 

そうして3連猫パンチをゆっくり再現させながら、その全てが偽物であり本命の攻撃は猫パンチの後のフォロースルーにあると示す。

フォロースルーに隠して小指をピンと立て空を切り裂いたのだと。

 

「世の中には『光の太刀』を手刀で使う御仁も居る。

 それを真似た物を練習中でね。

 『光の太刀』程の威力は出ないけど、こうやって遠距離で放てるんだ」

 

「『光の太刀』を手刀で、そう。

 面白いわね。

 アイツを倒すのに良い武器になるわ」

 

アイツ……反射的にオルステッドを思い浮かべるもそうではない。

 

「アイツってランドルフさん?」

 

「それしかないでしょ」

 

まぁそうだね、と心の中だけで同意する。

 

「一筋縄じゃいかないと思うけど。

 手数は多いに越したことはないかな」

 

「例えば、今の、剣を持ったまま使える?」

 

剣を持ちながら?

その意味は何だろう。

判らない。

 

「練習したら出来るようになるかもしれないけれど、長所短所はあるんじゃないかな」

 

果たしてメリットがデメリットを上回るだろうか。

 

「いいから。

 練習してできるようになったら私にも見せなさい」

 

どうやらエリスにはその有用性が見えているらしい。

それに「教えろ」ではなく、「見せろ」とはね。

良く判ってるじゃないか。

 

「分かった。

 でも素手で闘気が扱えなきゃ意味がない。

 それを練習してもらおうかな」

 

「ふん」

 

と鼻を鳴らし、悪役みたいな笑みをつくったエリスは、

 

「やってやるわ」

 

とキメ台詞。

かっこいい。ドキがムネムネしそうだ。

 

 

--ノルン視点--

 

家を離れていた兄さんが帰って来た頃合いだったと思う。

雪の中、エリスさんとお父さんと4人で登校して、そこでエリスさんは警邏の巡回ルートに、お父さんは仕事場へと向かう。

いつもながらの光景、私はお父さんに見送られながらアイシャと一緒に教室に向かおうと歩きだした。

けれど、隣にいるはずのアイシャが立ち止まって振り返った。

 

「ねぇ、お父さん」

 

「ん? どうした」

 

「今日は少し遅めに迎えに来て」

 

「いやしかし」

 

「ちょっと補習授業があるから」

 

「そ、そうなのか?」

 

そんなやりとりがあった。

訝し気な顔のお父さん。

無理もない。こんなことは初めて。

後ろで予鈴でも鳴らなければ。

 

そう丁度その時、ゴーンという時計台の音が鳴った。

アイシャが音を聞いて駆け出しながら、「暗くなる前には門に来るから~」そういってお父さんに手を振る。

私もお父さんに手振って……置いて行かれた事に気付いて急いでアイシャの背を追った。

後ろからお父さんの「転ばないように気を付けろよ~」という声に押されながら。

 

続きを聞けたのは1コマ目の授業を終えて次の移動教室へと移るタイミングだった。

授業の用具を抱きかかえ歩きつつ、アイシャの横手で話を切り出す。

 

「ねぇ、どうしてあんなこと言ったの?」

 

「ん? あんなことって?」

 

「お父さんとの別れ際」

 

「あぁ。

 図書館に行きたくてだよ」

 

「図書館? 何しに?」

 

「去年の冬の実験の続きをね、やってるんだ」

 

「一人で? 確か危険な結果になったからって中止したはずじゃ?」

 

「うん」

 

大丈夫、なのかな。

魔術の練習はとっても危険だって授業で習ったのに。

なんて考えていると、

 

「だけどね。

 授業とお兄ちゃんやロキシーさんが教えてくれた事に食い違いがあるんだよね」

 

「難しい部分を省いたんじゃない?

 先生の方もまだ初等科目だから説明してないだけかも」

 

「そだねー。

 そうかもしれない。

 でも気になっちゃってさ。だから先生に軽く聞いてみたんだけど。

 なぁんかこっちのこと"何いってるの?"って顔でみたんだよね」

 

そう、それで調べてみようっていうのね。

 

「判った。良いよ。

 でも直ぐに暗くなるから余り長居はできないよ」

 

「わかってるって」

 

 

--ルーデウス視点--

 

風呂上がりに喉が渇いた俺は、キッチン奥に置いてある大きなミルク缶からコップにミルクを注ぎ、それを魔術で温めながら暖炉のある部屋へと赴いた。

そこに先客のパウロが居た。

気配で判ってはいたが……それは向こうも同じはず。

 

「どうしました?」

 

そう問うてもソファに座り込んで微動だにしない。

寝てるのか?

そう思って別のソファに座り、ホットミルクをずずっと啜る。

牛乳を飲み終わるまで無言の空気が続いた。

丁度、飲み終わったのをパウロは気付いて切り出してきた。

 

「なぁ?」

 

パウロは瞑目したまま小さくそう口を開く。

 

「はい」

 

「忙しいか?」

 

「ええ」

 

「そうか。

 いろいろやっていそうだもんな。

 おまえら」

 

話は終りだ、そんな感じがしないでもないが。

いや、そうではないか。

 

「父さま」

 

「何だ?」

 

「悩みがあるなら聞きますよ。

 不肖、あなたの息子が」

 

「おまえにかよ」と言ってパウロはふっと小さく笑う。

それから、

 

「悩みというか、どうせルディのせいだろうと思ったんでな。

 知らせておいた方が良いと俺は考えているんだ」

 

さっぱり思い当たらないが、何やら俺に関係している感じらしい。

 

「実はアイシャが」

 

ほぅアイシャか。

 

「補習を受けるから迎えの時間を遅くしろと言って来た」

 

「補習? 授業についていけてない?」

 

2人を大学に入れさせた、それが俺の蒔いた種だとでもいうパターンだろうか。

 

「いいや違う。

 どうやら図書館で魔法陣の本を手当たり次第に読んでるらしい」

 

「本人達は何と言っているので?」

 

「聞いてない」

 

「は?」

 

「隠したい事にこれ以上無理に踏み入ってはいけない、俺の勘がそう囁くのさ」

 

「では父さまの勘によると、どういう事になっているのでしょうか」

 

「確か1年前の冬に魔法陣の研究をアイシャに手伝わせたはずだ。

 俺はそれが臭いと思ってる」

 

「なるほど判りました。

 僕の方でアイシャと相談してみますよ」

 

「すまんな」

 

「いえ。

 元はと言えばこちらのせいな部分もありそうですから」

 

 

--

 

パウロ邸のとある一室。

テーブルを挟んで向かい合わせのソファに3人ずつ計6人が座っていた。

部屋の入口側のソファにロキシー、俺、エリス。

窓側のソファにはゼニス、パウロ、リーリャ。

それぞれの前にはティーセットが置かれ、落ち着いた歓談が繰り広げられている。

だがトン、トンと扉を叩く音が鳴り、室内は俄に静寂に支配された。

 

扉がゆっくりと室内側へと開いてアイシャ、ノルンの順に入室。

彼女ら2人は丸めた大きな模造紙を抱えて扉から最も遠い壁に向かって歩く。

立ち止まった先はテーブルの向こう。

そこに置いてある丁字の2本足をつけた板――この世界ではまだナナホシが発明してくれていない脚付黒板に似た形状――の前。

アイシャとノルンは2人協力して持ち込んだ模造紙を鋲で止めてから、こちらを向いて直立姿勢を取った。

それから、

 

「お忙しい中お集まり頂き、ありがとうございます」

 

大人のような口上を以て一礼したアイシャ。

 

「発表者は本日のテーマをお願いします」

 

そう告げて、助手についたノルンが黒板横手の窓際に近い場所でチーンと1度ベルを鳴らす。

6歳の子供らしく緊張を漲らせた表情で固まったアイシャが、

 

「えっと、テーマは"魔法陣の新たな紋様を発見するための解析手順について"、です」

 

とややたどたどしく宣言した。

俺は静かに短く拍手して、それに遅れて両隣に座る2人、さらに遅れて両親たちが拍手する。

パウロは「小難しそうな内容、だよな?」などと隣に座るゼニスに漏らしているのが聞こえる。

 

「みんな知ってると思うんだけど」

 

そんな切り出し方でアイシャの語り口は始まる。

第1段階は、この発表に至った経緯・背景。

最近になって受講した初等カリキュラムに含まれた魔法陣学の授業。

内容はスクロールの台紙、塗料の使い方、既存のよく知られている紋様、描く際の注意点。

一方、1年前に行った俺とロキシーの魔術研究を手伝った時の内容は魔法陣を幾何学的に捉え、分解整理し、類型化するというもの。

両者に横たわる無視できない差異が気になり、補習と言い訳して図書館で調べようと思い立った。

 

第2段階は調査。

違いは何か。

アイシャは初等カリキュラムだから全容を知らされていないのでは、と疑った。

年次が上がって上級カリキュラムを受ければ、事前講習と同じ内容があるのではないか、と。

だから先生に上級カリキュラムに使われる参考書名を聞き出し図書館へ行き、初等から上級までの本の内容を洗ってみた。

しかし予想していた内容はなかった。

初級本には授業と同じ内容が、上級向けの本には上級魔術の紋様が載っているだけだった。

その事実を前にアイシャは、自分の受けた最初の講義が俺やロキシーの研究した知識そのものと理解した。

そして関われたという事実に興奮を覚えたのだという。

 

第3段階は課題抽出。

調査を経て、アイシャは現代の魔法陣学に不満が募った。

魔術と魔法陣がセットになっていない魔術――つまりは失われた魔法陣――の研究が行われていないという不満。

それはなぜ? と自分に問いかけ、理由をいくつか考え出す。

歴史的経緯が整理されていない、とか。

失われた魔法陣を復活させる事を目的とした教育カリキュラムが作られていない、とか。

多くの魔術師にとって新たな魔法陣を生み出すメリットがない、とか。

一般的な魔術師の魔力量では、今あるもので過不足がない、とか。

どの要因もありそうに思えて主たる要因を特定できなかった。

ただそんな事情より彼女の不満をより膨張させたのは別だ。

これらのカリキュラムを受けた者らがカリキュラムを瑕疵の無いものと感じている雰囲気。

なぜ不満に思わないのか、なぜ不十分に思わないのか、なぜ原因を探求しないのか。

より良い魔法陣学を生み出す。あれだけの学生がいるのなら、そのための課題を1つ1つ潰していくのもそう難しくないだろうに。

そう考えたアイシャだった、けども。

誰かが研究し、公表し、知識となり集約されるのが授業の内容となったのなら。

パターン表に"説明不能な"記号を追加した自分が、魔法陣学をまとめあげた者たちを非難できる立場だろうかと、思いとどまる。

むしろ同類なのでは、と。

そうしてアイシャが最初に選んだ課題は、その立場を脱するための選定となった訳だ。

それが「魔法陣の新たな紋様を発見するための解析手順」。

俺の理解では「魔法陣の紋様を形式的な手順で発見する手法の確立」だ。

 

第4段階は実際の解析手法。

アイシャは板に張り付けた模造紙を1枚剥し、新しい模造紙を見せる。

そこには既存の機能部品を並べて描いた表があった。

さらにアイシャは縦横等間隔に線を引いたマス目に指し棒を動かす。

1つのマスに入り口と出口が1つずつの機能部品を置く場合を考えていく。

出口と入り口の位置の種類はある1辺と左隣の1辺か、ある1辺の対面の1辺か、ある1辺と右隣りの1辺の3種類。

開始辺が4つあるので合わせて12種類。さらに例外として角と対角にある角を結ぶ1種類。

ただし機能部品の回転可能性と上下左右の対称性を考慮すると、隣の1辺と対面の1辺の2種類と角角を結ぶ1種類の合わせて3種類に絞った。

同じマス目という考え方なのでややこしいが、今度は1マスの中の機能部品をどうやって描くかをマスの解像度を上げて考える。

アイシャは四角のマス目に対角線を引いたマスを2×2に作り、先程の3種類の開始点と終着点で一筆書きできるパターンを列挙した。

それを3×3、4×4、5×5……と増やしていき、最初に示した既存の機能部品が描写できるところまで列挙していった。

アイシャの結論では25×25まで解像度を高めれば既存の機能部品が表現できるという。

そして25×25の中で描かれていないパターンは膨大だ。

そこで10×10の低解像で既存部品を無理矢理に描画して同一にみえるようなパターンを取り除き、残った中からパターンを洗い出そうとした。

それでも1000のオーダーが残ったが、そこからは力技で解析したという説明になっている。

 

実際、アイシャは直感的手法で見つけている。

しかし、それでは研究的には説明不十分であると思ったのだろう。

誰もが理解できるように、検証できるように、どうやってパターンを絞るか。

これなら誰でも同じ手法で同じ結論に至れるだろう。

かくして研究の目的は果たされた。

 

もちろん、取り除いたパターンの中にも実は有効な機能部品は存在するかもしれない。

また機能部品もスクロール本体は正方形/長方形とは限らないし、複数の入り口と出口がある場合の検討もしていない。

だが、この世には完璧な資料とか全員が納得する資料などというものは求められていない。

突っ込みどころがあると思えたなら、それは気付いた者がまた別の研究をすれば良い。

そして俺はこの発表に大変関心している。

解像度という観点。

前前世の知識に当てはめればドット絵に相当するだろうか。

超極小の魔法陣、あるいは巨大な魔法陣。

同じ内容を描いたとして、それによる違いは?

この研究テーマ、俺だけでなくナナホシにも役立つ話かもしれない。

それが俺の感想だったのだが。

 

全ての模造紙の説明を終えてアイシャが

 

「以上で発表を終わります」

 

といってお辞儀した。

ソファに座っている6人が労うように拍手を送り、ノルンが「質疑応答の時間に入ります」と宣言する。

最初に手を上げたのはパウロ。

 

「疑問は解消されたんだよな?」

 

「えっと。

 今回の分は、ね」

 

「明日からはいつもの時間で迎えにいってもいいか?」

 

「うん」

 

「そうか」

 

弛緩した雰囲気の中、次に手を上げたのはロキシー。

 

「この研究内容はどうしますか?

 ギルドに出しても恥ずかしくない内容だと思いますよ」

 

「うーんと。

 学校で習った紋様だけだったら、パターンを絞る内容の説得力と結果が微妙になっちゃう、かな」

 

「そうですね。

 出来ればそちらの情報は内緒にして欲しいところではあります」

 

「なら、"出さない"でいいです」

 

「ならばこれ以上は何も」

 

やりとりの結果、空気は硬くひりつき始めた。

ノルンが「他にありますか? 質問じゃなくても感想とかでも」と場をとり成す。

その聞き方も俺やエリス向けではなく、リーリャへであったように思う。

だから俺は無言を貫いた。

リーリャも同じく察したのだろう。

 

「ロキシーさんの言い方を踏まえますと、この内容は"空想の産物"ではないのですね?」

 

とロキシーに疑問を投げかける。

ロキシーは真正面からそれを受け止めようと、

 

「ええ。

 アイシャさんの見つけてくれた機能部品を使っていくつかの新規魔法陣が起動できるようになりました」

 

そう応えた。

 

「そうですか。

 (わたくし)もアスラ王家に仕えていた頃、王家秘蔵の魔法陣があると耳にしたことがあります。

 そういった物に抵触するような知識ですと各国に目を付けられる可能性がありますね」

 

リーリャのつぶやきに、ロキシーは「そうですね」と返す。

ロキシーの言葉を聞いて、リーリャはアイシャへと体の向きを変え、

 

「アイシャ。

 いつかこれを発表したいなら、国家レベルの思惑に打ち勝つ力と覚悟が必要となるでしょう。

 それがどのような物か、あなたのお兄さんを見ればわかりますね?」

 

「うん。わかる」

 

その言葉にリーリャは深く頷く。

そして、

 

「よく頑張りましたね。

 普段の授業も真面目に受けているようで安心しましたよ」

 

その言葉が会の締めくくりとなった。

 

「ではお時間となりましたので、発表会を終了いたします」

 

ノルンが宣言し、もう一度、部屋の中が拍手に包まれる。

良い会だったと思う。

その後、片付けをするノルンにゼニスが「おつかれさま」と労いの言葉をかけているのも含めて。




次回予告
ザック・ファフニールの強さの秘訣。
それは"無"に在り。
我欲の強さの対極に位置せり。
なれどその強さ凄まじく
言葉も感情も排した戦闘機械。

次回『黒騎士の脅威』
白刃がルーデウスを赤く染める
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