無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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第139話_浮遊城vs空中城塞

--- やる気を起こさせてくれるなぁ。困難て奴は! ---

 

雪を冠する山とその恵みを受け止める湖。

湖の脇には城。城は湖から流れ出でる川の行く手に待ち受ける街を見下ろす。

川は街を抜け農地を抜け、そして唐突に現れる断崖に飲み込まれ、その姿を消す。

ここは空を飛ぶ島、浮遊城(フロートテンプル)

 

紛争地帯北西部にあったバッハ王国首都ゴダシムを地下の岩盤ごと土系魔術で繰り抜いた上層部。

重力魔法陣で構成した緻密な魔導装置によって上層部の全容積に掛かる重力を相殺する下層部。

2つの層からなる移動要塞。それはそのまま西バッハトマ帝国の首都として機能している。

 

旧バッハ王国王城であり、現西バッハトマ帝国城、その玉座の間。

今、そこには巨大な装置が鎮座し異彩を放つ。

それに比すれば余りにもこじんまりとした椅子に鎮座する老人。

彼がファインダーを覗き込む傍らで部屋の隅に立つ3人の側近の姿があった。

老人が右手をついと持ち上げると控えていた側近の内の1人が老人の動きに呼応して一歩前に出る。

老人は相変わらずファインダーを覗いたままの姿勢で口を開く。

 

「デフコン(ワン)

 龍の城来たる。

 迎え撃て」

 

前に出た男が老人の言葉を理解するには、ほんのわずか時間を要した。

優秀な高官であるにも関わらず当意即妙といかなかったのは老人の言葉が端的に過ぎる故。

それでも男は余計な質問を返さなかった。

 

「ハッ」

 

と一言を告げ、指示を復唱することなく小走りに部屋を出る。

 

空中城塞(ケイオスブレイカー)

 やはり浮遊城の存在自体が空の支配者を怒らせたのですかね」

 

場に残った2人の内の1人であるランディ・ゴルトが軽口を投げるが、ウォーレンは視線を装置に向けたまま、

 

「違うな。

 避け得ぬ運命だったに過ぎぬ」

 

と呟く。

 

「やれやれ忙しくなる」

 

一度だけ肩をすくめてゴルトは部屋を出て行った。

暫くして戦闘配置を告げる鐘が遠くで鳴ると、最後の1人、壁にもたれていた銀髪の青年フィッツがマントを翻し、出口へと向かおうとした。

その時、計ったようにウォーレンがその背中へ声をかける。

 

招焔岩雨(メテオストライク)が必要だ」

 

フィッツは立ち止まり、

 

「判った。

 シェスタには伝えておくよ。

 で?

 龍撃隊(ボクら)の出番はそれだけかい?」

 

そう肩越しにウォーレンを見ながら応える。

ゴルトに続き、不敬な態度のフィッツ。

常ならウォーレン本人が気にせずとも他の者がこの態度を咎め会話は続かないはずだった。

しかし、今は横やりを入れる者は無く2人のラフなやり取りは進む。

 

「ついでに甲龍王の先兵を相手にしてもらおう」

 

「先兵?」

 

フィッツはそう自問し、肩越しだった体を再び室内へと向けた後、

 

「あぁ精霊ね」

 

と自答する。

 

「いかにも」とウォーレンはただ告げ、

 

「それで龍退治(ほんぎょう)の方は?」

 

フィッツの眼差しには期待が籠る。

ウォーレンはその意味を理解しながらも、

 

「届かぬ」

 

とあっさり切って捨てた。

フィッツは何かを考えるような素振りを一瞬みせたが、ウォーレンは相変わらず装置に目を向けていて気付かず、その間にフィッツはその素振りを消してしまった。

フィッツは表情を笑顔で隠し、それから入り口の壁に左肘を突いておどけた調子の声色を装う。

 

「そう断言されると試してみたくなっちゃうなぁ~」

 

相変わらずのウォーレンはこれを相手にしない、かに見えた。

無視された形のフィッツが鼻を鳴らしてつまらない、という態度を露わにし、それでも相手にされないため靴音を響かせて部屋を出て行く寸前。

その顔を上げ、しかしあくまでフィッツの方を見ることなく中空を見つめて「汝、運命に抗すを願うか」と呟く。

フィッツの足は短いその言葉だけで床に縫い留められ、またしても振り向いた。

振り向いたフィッツの目はウォーレンの見開いた目と対峙する。

 

「汝の運命は強くない」

 

「ボクが弱いって言いたいのかな?」

 

侮られたと感じたのか語気を強くするフィッツ。

しかし、ウォーレンに焦りは見えない。

 

「汝が実力者であると我は認む。

 闘気を外部から読み取り模倣する技は強者が存在する限りにおいて無限の成長を約束する神技(じんぎ)

 しかし、その実力とは裏腹に汝の運命そのものは強くない」

 

「余計に判んないな。

 陛下の、その"運命"って一体何なのさ?」

 

「我が提唱する運命理論。

 運命の方程式、知りたいと望むならば教えよう」

 

「できるだけ簡単にね」

 

「現在から未来へと進む時の川。

 それを世界の運命と呼ぶならば、人の運命は川を流れ翻弄される泡の如きもの。

 お主の運命もこの枠から逃れられぬ」

 

「強くない運命を持つボクの泡はすぐに弾けて消えてしまうってことかい?」

 

ウォーレンは首を振る。

 

「強い運命を持つ者とて、それが人ならば人の運命に代わりない。

 人は常に自らの意志により己が運命を選び取るもの。

 なれば人の意志が自由である限り人の運命には無限の可能性がある。

 無限の選択肢。人が選択する都度、世界は変容する。

 ただし世界の全てが変容できるか? と問われれば、答えは否だ」

 

「人の意志が完全に自由でないから?」

 

「そういう見方もあるが、我の考え方は異なる。

 単純にこの世界は広すぎるのだ」

 

「ふぅん。

 世界は川で、人が泡とはそういう意味。

 的を射ている良い例えだね」

 

「本来、人が変え得る運命は泡の膜のほんの少し飛び出した範囲でしかない。

 世界という川は広く、人の手の及ばぬ無数の、変更不能な『確定した運命』が横たわっている。

 事象の悉くを見通す魔術『事象把握(レポーター)』。

 事象から連なる未来を見る運命予測機。

 2つを使って我はそれを知った」

 

「そーーおなんだ?」

 

「――と同時に運命は揺らぎ『確定した運命』すら変容していると気付いた」

 

「『確定した運命』の変化?

 魔術か理論のどちらか、もしくは両方が間違っているんじゃないの?」

 

「お主と同じ懸念を抱く者も居ったが、帝国を発展させ魔術と理論の正しさは証明してある。

 それに、さらなる観測により揺らぎの正体も今や判明している」

 

「もったいぶらずに揺らぎの正体を教えなよ」

 

「龍神オルステッド」

 

「あいつ、あいつか」

 

「運命の川を自在に泳ぎ、確率的に到達不能な分岐へ到達する者。

 奴の選択は確定だったはずの運命を変え、世界を揺さぶる。

 此度の空中城塞襲来もそれに類する」

 

「確率的に到達不能な分岐ってところが難しいな。

 時と場所に居合わせれば良いだけなら、今のこの事態も変更出来ない理由が理解できないや」

 

「運命を変える分岐とは確かに特定の場所、特定の時間を指している。

 しかし多くの場合、目前の事象とは事前に選択した分岐の内の1つから導かれた結果に過ぎない」

 

「空中城塞との戦いの結果を覆す方法は、もうずっと前に過ぎ去ってしまったんだね」

 

「然り」

 

「判っているなら対処法は?」

 

「主導権を握られている限り成す術ない」

 

「あれば良いんだ。主導権」

 

「お主にはいずれその役を担ってもらう」

 

「龍退治の為なら喜んでするよ」

 

フィッツの口元には小さな笑みが浮かび、軽い足取りの音色が廊下へと響いた。

 

--

 

対する空中城塞。

その謁見の間の中央で俄に光の粒が収束し、アルマンフィが姿を現す。

立ち姿で現れた彼は、その姿を顕現させるや即座に片膝を付き、

 

「ペルギウス様、敵に動きあり。

 攻撃態勢に入った模様です」

 

と早口にて報告する。

対するペルギウスは考えるように右手で顎を撫でつつ、ゆっくりとした口調で

 

(はな)から敵と認識する、か。

 オルステッドの話にも信憑性が出て来たようだ」

 

と独り言ちた。

 

「ラプラスの転生場所を確定させる、など信じるのが難しい話と私も思っておりました」

 

右隣に立つシルヴァリルの語り掛けを不敵な笑みで聞き流したペルギウスは、

 

「既に事は動き出している。

 シルヴァリル、魔導砲、発射準備。射程に入り次第、敵を撃て。

 クリアナイトはこの場で指揮管制。

 残りは敵の攻撃部隊の迎撃に当たれ」

 

と断固たる意志を示し、それを受け12の使い魔たちは迷いのない足取りで動き出した。

 

--

 

ウォーレンが覗き続ける巨大な装置。

その周囲に司令部要員と各種機材が持ち込まれ、慌ただしく人が行き交う。

喧噪が玉座の間を埋め尽くす中、隙間を縫うように1つの声が響き渡った。

 

「強力な魔力照射反応!」

 

短いその言葉で室内の空気は一変し、静寂が満ちる。

目を閉じたまま玉座の隣に立つ魔術師風の衣装の男がウォーレンへと囁き掛ける。

 

「空中城塞からの照準波ですな。

 この後は準備射撃、効力射が続くと予想されます」

 

ウォーレンは態勢を微塵も動かさず「あぁ」とだけ返す。

2人のやり取りを見守る誰かの生唾を飲む音が聞こえた気がするほどの静けさが僅かに続いた後、

 

「目標中心部付近。

 強大な魔力場の形成を確認。

 推定エネルギー量12万魔力結晶(エーテライト)です!」

 

2人目の観測要員から齎される新たな情報。

場の緊張度が一層の高まりを見せる。

司令部詰めの主任操舵員が一瞬ウォーレンの顔色を窺うが、反応がないとみて独自の判断で動く。

引き込まれた伝声管の蓋を開け、

 

「1番から10番、魔力チャフ散布!

 居住区水平そのまま。

 散布完了合わせ、転舵。

 高度上げ200、両舷半速後進」

 

と指示。

伝声管から、復唱の声。

ややあって、

 

「魔力チャフ直上展開!

 風向き西南西、チャフ流れ50」

 

「感知レーダーホワイトアウト、状況不明」

 

と2人居る観測員がそれぞれに結果を報告。

 

「浮遊城の足では魔導砲の的になりはしませんか?」

 

先程の盲目の魔術師が懸念を伝える。

 

「稼ぐ時間は僅かでよい」

 

とウォーレンは小さく手を振った。

盲目の魔術師は「しかし」と続けようとし、ウォーレンが「すぐに判る」と言い切るのをみて口を噤む。

 

「レーダー戻ります」

 

観測員がチャフの効果切れを報告。

今度こそ魔導砲が発射されてしまうのではないか、誰もがそう思ったその瞬間。

 

「シェスタ機から招焔岩雨(メテオストライク)の発動を確認。

 照射反応消失!

 敵、照準。隕石群の対応へ移行の模様!」

 

--

 

上空に放たれた隕石群は、空気との摩擦により火球へと変じ空中城塞へ降り注ごうとしていた。

対して城の下部中央に備えられた砲端が魔力塊を豪快に吐き出し、空中待機した10の精霊の形成した円陣を貫く。

魔力塊は円陣を通過した途端に偏向・拡散され、巨大な火球を次々と消滅させた。

それでも無数の礫となった隕石が城を囲む結界に接触。

その衝撃が結界を蝕んでいく。

ペルギウスは謁見の間から巨大な魔法陣の描かれた部屋に移動し、防御結界が突破されぬよう魔力を補充し続けた。

また、結界をすり抜けるほどの小さい(つぶて)は空中城塞に石の雨を降らせ、その流麗な城を幾ばくか曇らせた。

 

「このままで宜しいのでしょうか?

 防戦一方となっていますが」

 

クリアナイト自身の意見か、それとも外で迎撃している誰かの意見を伝えているのか、投げかけられる疑問。

 

「良い。

 これほどの大魔術、そう長くは保てぬ。

 持ちこたえてみせよ」

 

「ハッ。伝えます」

 

--

 

「シェスタ機、撤収します」

 

と司令部要員の一人が報告をあげる。

 

「さて、満足して帰ってくれると助かりますが」

 

と、相変わらずファインダーを覗き続けるウォーレンの隣で魔導師の男が零し、

 

「難しいであろうな。

 魔力の再充填が終わり次第、第2波が来る」

 

ウォーレンが応える。

 

「まだ龍撃隊には龍聖級術師がおりますれば。

 足止めを」

 

という提案には、

 

「その道に先はない」

 

「しかし何らかの手を打ちませんと」

 

男の言葉をウォーレンは意に介さず、少しだけ声を張って呟く。

 

「居住区を分離(パージ)、第2機関部を使って撤収させよ。

 こちらは分離が完了次第、高度下げ、ラタキア市上空を低空飛行する」

 

と命じた。これを受けた主任操舵員は、

 

「空中戦で頭上を取られてしまいます!」

 

と命令の撤回を求めるものの、

 

「一般的には不利。

 しかし我らの下にあるのはラタキア市だ。

 街を火の海にする覚悟が甲龍王にあるはずもない」

 

とウォーレンはこれを撥ね退けた。

 

--

 

「目標、2つに分離。

 一部後退。

 残りはラタキア市に降下し匍匐飛行するようです」

 

クリアナイトが戦況を報告。

それを聞いたペルギウスは魔力を充填する作業を続けたまま、小さく笑みを作り、

 

「街を背にしてこちらの攻撃を躊躇わせるか」

 

と敵の意図を瞬時に理解する。

 

「魔導砲撃を回折すれば攻撃可能です」

 

とは砲座についているシルヴァリルの言葉。

 

「そうだな。

 だが……止めておけ」

 

と一度は同意したにも関わらずペルギウスはそうさせなかった。

シルヴァリルが反論を述べず頷いた直後、クリアナイトが鋭い言葉でそのやり取りに割って入った。

 

「目標から出撃する飛翔体を感知。

 機影、多数」

 

「応戦せよ」

 

ペルギウスの命を受け、魔導砲が機影に向けて放たれる。

 

 

--フィッツ視点--

 

出撃中の龍撃隊31名。

たった31名。

シェスタが放った2回の招焔岩雨(メテオストライク)発動によってラタキア市外縁部上空の雲海は消失。

事前の敵情によれば敵戦力は精霊10体、空中城塞中腹に備えられている魔導砲1門、浮遊城と同じように高空で生活するために必要な結界魔術。

スリーマンセルで急造の10分隊を編成し、2隊を魔導砲および結界の破壊に当てて残り8隊と自分を精霊撃破に当てる。

この作戦、陛下の言によれば我々の牙は甲龍王に届かない。

が、

 

「浮遊城の安全確保のためにも魔導砲の無力化は譲れないらしい、とすると」

 

魔導砲を2分隊6名で無力化出来なければ、さらなる増援も視野に入れる必要がある訳だ。

精霊10体を8分隊プラス1名の総員25名で相手するのですら十分とはいえないのに。

そこからさらに抽出し分派する。

隊長として、その望まぬ事態を考慮せざるを得ない。

 

時間制限も忘れてはおけない。

飛行のための風魔術を使った戦闘機動と攻撃魔術による消費は大きく、魔力枯渇での脱落は大いに予想しておかねばならない。

予備魔力機構の搭載によって墜落死は免れるが、隊員数を減じれば精霊と互すのはいよいよ難しい。

 

自機(ガルディオーラ)の搭乗席に設けられた視界スリットから編隊飛行する友軍機(アルセイデス)の内、3分隊を視界に収める。

その最先頭を翔けるガァディ隊の1機から通信用発光器が短い間隔で明滅する。

通信内容は

 

「敵、数10こちらに接近、ね」

 

自分と同様に通信を理解した各機が、分隊毎に散開。

見える範囲にいた3分隊が戦闘態勢に移行するのを見る。

見えていない残りの5分隊も同様だろう。

別行動している2分隊(ジャジュカたち)のためにも

 

「派手に引きつけてやろうじゃないの」

 

と思った瞬間。

強烈な魔力反応が頭の中を漂白し、それよりも一拍遅れでビービーとコックピット内のコンソールが警告音を奏でる。

まだ遠くに見える空中城塞。そこから急速に近づいてくる嫌な予感。

細い雲のようにも見えるそれが伸び進んでくる。

まだ遠い故に知覚している速さよりもかなり遅く見えるも、そうではない。

警告音が示す莫大な魔力の塊。

それを視覚的にも認識したのと、それが精霊の作る輪を経由して屈曲、10条の放物線に分かたれるのを目撃するのはほぼ同時だった。

こちらも動き続けている。そもそも戦闘機動中の機体は急に止まれないが。

 

直感は敢えて無視する。相対速度を忘れてはいけない。

目に映るほどにあれは曲がっていない。

誘導系、追尾型ではなく拡散攻撃だ。

 

魔力弾を躱した後、機体を操作の途中で地表に一瞬だけ目を向けると、地上に突き刺さった魔力弾が郊外の田畑に小さな煙を立ち昇らせているのが映った。

陛下の予想通り向こうもラタキア市は傷つけたくないらしい。

 

「かといって帝国が人質を取ったでは風聞が悪い」

 

機体の高度をさらに上げつつ精霊との距離を縮める。

周囲に闘気の指を伸ばし、視界の不利を補いながら。

それをどこまで伸ばして行くか。

これも塩梅が難しい。

まずは最大展開し、散開した味方機の位置を把握。

どうやら全機、敵前逃亡せずに精霊との戦闘を目指している。

闘気糸による感知。

肉眼に頼り過ぎず最初からこうすれば良かったな。

 

「いい。すごくいいじゃないか。

 追い詰められたこその発見。

 フフ、フフフ。

 もっとボクを楽しませなよ、甲龍王の精霊ども」

 

呟いている間に1体目の精霊を捕捉。

背中にマウントされていた手斧を取り出し、構え、躊躇なく頭上から両断。

――したかにみえたが、手応え無し。

今のを避けるか。

 

「なかなかやる」

 

マシンメサイアを使っての空中戦闘。

関節部分の摩耗を帳消しにする土魔術。

重力を極小化する重力魔術。

全方向への移動を実現する風魔術。

敵を打ち倒すための攻撃魔術。

4つの魔術を混在させて立ち回る戦闘様式。

ただ土魔術と重力魔術は常時展開が必要で操縦者への負担が大きく、魔法陣を魔力結晶で発動する機能が備わっている。

だから空中戦闘を実現するためには残る2つの魔術、移動の風魔術と攻撃魔術の運用が操縦者に課せられる。

移動方向と加速度の設定がいる風魔術を魔法陣で扱うと動作がぎこちなくなるのと、攻撃方向や数、フェイントなどが必要になる攻撃魔術は魔法陣で実現しにくいというのもある。

ここで帝国魔導院は発想を転換。

攻撃魔術を端から諦め近接戦闘に持ち込んでしまえば?

常時発動が必要な魔術を1つに絞ることができ、操縦者の負担をぐっと減らせるのではないか?

そう考えた訳だ。

 

近接戦にする事で新たな問題もあった。

竜撃隊のマシンメサイアからはリアクションホイール機構がオミットしてあるので、無重力化した状態で斧を振り下せば進行方向への運動を続けながら新たに斧を振るった方向へ、肩を中心とするモーメント力を得てしまう。

 

つまり――今このときの自分と同じく。

機体が回転し始める。

 

重力の壁を斜め上側に生成し、両の足で掴んで踏ん張り相殺する。

さらに強く蹴りだして空中機動までもを変化。

闘気糸で捉えた別の精霊1体を狙う。

 

今度は斧を振らずに前方に固定したまま体当たりを決める。

突き飛ばした精霊はこちらの運動量を相殺できずに吹き飛び、大地へ斜めに衝突。

土煙をあげたあと、光の粒子となって気配を消した。

10の精霊の内のどれだかは知らないが、形を保てなくなったとみて良いだろう。

 

「ひとーつ」

 

戦闘の高揚感が背中から脳へと突き抜ける。

いい。すごくいい。

そこへ、背後から飛来する魔術的攻撃。

 

「いい所なのに!」

 

闘気糸で感知したその射線を風魔術で逃れる。

見渡す戦況。

こちらを攻撃してきたと思われる奴は、既に他分隊が遠距離の土魔術を砲火にして浴びせている。

接近戦を行うほどの練度に満たない分隊が静止状態から放ったそれ。

精霊側の応射を予測して、彼らも散開。

ランダムな機動を数度繰り返した後、別地点に集結を目論む。

訓練通りの良い動きだ。

彼らから隊長が獲物を奪ってはいけないだろうと考え、別の獲物を探す。

 

残り9。

精霊にも個体差があるか。

もちろん、こちらの攻撃を避けた奴の動きが一番良く手強そうだ。

それに固執しても全体として勝利に導くかは怪しい。

ならば数を減らすのを優先したい。

そう考えて、次の標的を選び決める。

体の内側から燃えるように湧く高揚を抑えきれず、

 

「ふたぁつめぇはオマエだァ!」

 

と聞こえもしない独り言を繰りながら、風魔術を調整し弧を描くような機動を取り距離を詰め、敵の動きを即座に想定。

敵は未だ他に視線を向けてこちらには気付いていない。

完全に避け得ぬはずの一撃。だが手応えは無し。

 

馬鹿な。

最初に回避されたときとは明らかに違う。

動きの鈍そうなやつを狙った上で、回避の動きすら想定していた末で回避されるのは完全な想定外。

とりとめのない感情が意識を占め、その分だけ戦闘思考が疎かになる。

冷静さを取り戻すのに一瞬以上の思考を必要とした。

故に、

 

「マズッ」

 

気付いた時には遅かった。

ぎりぎりまで引き付けられた嫌な感触。

身を固め、衝撃に備えるので精いっぱい。

だが、

 

「どういうことだ?」

 

来るはずの衝撃も無い。

だけではない。

手の届く距離から逃げるでも攻撃するでもなくただ漂う敵に強烈な違和感を受ける。

手玉に取られ続けている。予想を外され続けている。

まずい気がしてならないという直感。

 

その時。

ただでさえ狭い視界のスリットがさらに狭くなっていると気が付いた。

闇は直ちに広がり視界のスリットを埋め尽くす。

だけでなく操縦席内の機器、自らの手さえもが闇に包まれる。

無音無明の闇。

視界を封じる未知の魔術?

視覚、聴覚、触覚が封じられた? いやこれらは錯覚かもしれない。

錯覚だとしても。

それで上下左右前後が判らないのはキツイ。

今が戦闘中であるからこそ、危険な攻撃。

闘気糸からの情報で周囲の状況は感じ取れているが、動きが後手に回ってしまう。

最悪、無力化できたと相手が判断して放置されれば味方機はどうなる?

 

風魔術を使って闇を抜けれないか。

それとも風を使ってこの視界を遮る何かを振り払えないか。

素早く試すも効果無し。

もしかして自分の移動に暗闇が追随しているのか?

面倒な、と声にだしても自分の声すら聞こえない状況。

隊長たる自分が抜ければ形勢は敵に傾くのは必至。

 

なれば仕方ない。

暗闇の中さらに闘気の糸を広げ、味方と精霊を索敵。

こいつらは敵、こちら側にいるのはたぶん味方……味方パイロットにまで闘気を伸ばすか?

いや、そこまでは必要ない。

精霊の大きさは人とそう変わらず、一方の友軍機(アルセイデス)の大きさは人の3倍強ある。

大きさで敵を判別、確定。

 

で、どうする? どうしたい?

闘気糸を広範に広げたせいで魔術に使えるリソースは厳しい。

風魔術を使った接近攻撃の繊細な制御は危険、と。

 

ならこれで。

 

丁度良い距離の精霊1体のさらに上空へ闘気糸を伸ばし、速度設定を(ゼロ)にした水中級魔術『氷柱(アイスピラー)』を無詠唱発動。

発動完了を経て氷柱を生成。

間もなく氷柱は自由落下を始める。

そこへ、重力魔術『引力(アトラクティブフォース)』を用いて加速度を倍率で増大させてやる。

 

その瞬間。

 

闘気糸で捉えきれないほどの速さを得た氷柱を射出、即座に見失う。

闘気糸で追うこと刹那。

軸線上にいたとおぼしき精霊1体が氷柱で串刺しになり、その運動量に巻き込まれていく。

間もなく気配が空中に霧散した。

その結果を闘気糸によって感知。

 

まだ闇は晴れていない。

次の1体を選定。同様の手順を実行。

 

3体目が消えても闇は晴れず。

そして自分へと向けられる攻撃。

暗闇の中、自分を檻のように囲ませておいた闘気糸が直線的な何かによって破壊されるのが判った。

射線を素早く予測して進路を変え躱す。

闘気糸の破断はこちらを包んでいた闇さえも掠め、さらに後方へと遠ざかっていく。

闘気糸の最後方まで。

 

間断なく攻撃が続き反撃の糸口が見つからなかったのだが。

友軍機の攻撃魔術が放たれたらしい感触の後、好機を得た。

素早く反転。

最後に受けた攻撃の射線方向に反撃。

今度は相手の足元へ『氷柱』を生成し、始まった自由落下の速度を『斥力《リパルシヴフォース》』で反転、倍率で加速させる。

自分から離れて行く軌道のほうが戦い易い。

 

残念ながら闘気糸を寸断する面倒な攻撃が再開される。

クッ。

別の奴だった?

それとも同種の攻撃手法を持つ奴が複数いる?

 

本当に索敵用の闘気糸を削って来る攻撃は煩わしい。

それも暗闇に閉じ込められているせいなのだけど。

どちらかを止められるのなら、とも思う。

闘気糸を伸ばし直し状況を整理。

そもそもだ。

暗闇によって自機が包まれているのだとしたら、相手からも見えないはずだろうに。

黒い靄の塊のようになっているのではないか?

だとして攻撃魔術も遠隔発動している以上、ボクの攻撃だとは分かりにくいはずだけど。

いや、闇中にいるボクに攻撃が当たらず、この場に居続けている事。

ボクへの攻撃が途切れるのに合わせ精霊が撃墜される事。

各分隊の攻撃は牽制になれど精霊の撃墜に至っていない事。

3つの事象を重ねれば誰の手による攻撃かは明らかなのだろう。

 

また新手の攻撃パターンを感知する。

前方やや左上からの攻撃。

同時に背中の方向から別の攻撃。

今までにない感触なのは後方からの攻撃の方だ。

激しく振動する何かに巻き込まれるように闘気糸が千々に裂けて散るのが判る。

闘気糸の変化から射線を予測し、移動。

移動しながら闘気糸を再展開。

次の攻撃に備える。

 

何度も何度も執拗に迫る2連攻撃。

絶妙なタイミングで絶妙な位置から放たれるそれらに対応するリソースを食われ、反撃に移れない。

予想させぬようにという意図。工夫。

初め攻撃のそれぞれは直撃を狙うものだった。

それが今は違う。

一撃が回避先を狭めるように、もう一撃が直撃を狙って来ている。

順序を入れ替えたりもする。

狡猾な奴ら。

 

馬鹿の1つ覚えで攻撃していれば良いモノを!

 

ならば、こちらも工夫を捻りだす。

まずは敵を狙っているボクの攻撃に巻き込まれるような間抜けがこの隊には居ない、そう味方を信じ直す。

仮に当たったとしても直撃は避けてくれるだろう。

そう割り切る。

だから誤射対策に味方機を把握していた分の闘気糸を引っ込めて、索敵距離を半分にする。

距離の3乗に比例するから体積的には8分の1。

余剰が出来た闘気を使って1つ1つの闘気糸に込める魔力を倍に増やす。

魔力が増えれば闘気糸の形状変化の速度を上げられる。

攻撃を感知した瞬間、敵の攻撃よりも早く闘気全体の形を変化させ、削り取られる量を減らす。

損失補填のためにする闘気糸の再展開を不要にする。

これによって手間と負担を減らし節約、反撃の戦闘リソースを確保。

 

そうこうしている内、全くの偶然、敵の攻撃の先読みが大きく外れる機会を得る。

リソースは十分。

闘気糸を展開。

回避した攻撃の出処を逆探知。

 

居た。

 

最後の1撃を放って来た奴の逆探に成功し、その居場所を確実に捉え続けている。

敵も自分も移動しているとはいえ逃しはしない。

時間的にギリギリ間に合いそうとみてコンボ発動。

僅かに間を置き、気配の消失を感知。

そこへ飛んでくる一撃は振動系。

その次の一撃も振動系。

攻撃の種類が減っている。

攻撃役が減ったか?

それとも味方機側に攻勢をかけているか?

限界に近い挙動の連続で荒くなった息を整えつつ、思考を巡らす。

 

む?

 

次弾が来るはずの間隔が過ぎても攻撃が無い。

こちらへの攻撃が止んだ?

慌てて敵味方の位置を探り当て残数を確認。

敵は残り5体。撤退した訳ではないらしい。

 

そこで強大な魔力反応。

空中城塞からの再砲撃か、これは。

近づいた瞬間、精霊の陣を経由して拡散し空間を埋め尽くす砲撃。

しかし精霊の数が減ったからか、こちらの数が減らされたからか。

拡散数は初撃よりも少なく、それゆえに一撃に乗る魔力量・範囲が多くなっている。

これらに闘気糸を粉々にされながらも射線を読み取り回避。

 

砲撃が来ているということは……さぞ分遣隊(ジャジュカたち)は苦労していることだろう。

けれど、こちらも苦しい。

先程から頭がズキズキする。

既定の戦闘時間は過ぎ、オーバーワークな状況。

自分も分隊員にも疲労が蓄積し、集中力は低下し、多少なりとも機体の損傷が発生しているはず。

万全なら砲撃で落とされる間抜けはいないと信じているが、今の状況では何機かは落ちたかもしれない。

 

頭痛を気合で無視し、次の標的を定め、『氷柱』で貫き気配を霧散させると。

――遂に覆っていた闇が溶けるように消え、視界がクリアになった。

しかし、視界スリットの向こうに映ったのは、最後の味方機が堕ちて行く姿だった。

 

1対4。

戦闘途中に倒し損ねた2体と初見の2体。

最初に動きだしたのは、倒し損ねた2体の内の1つ。

動きの最も良かったと記憶している奴。

そいつが光の粒子となって猛進してくる。

短時間での移動距離は凄まじいが、物理的な運動ではないらしく粒子化を解いて放つ攻撃にその運動量は乗っていない。

故に、攻撃力は大したことがなく捌ける。

 

そこへ空間を振動させる攻撃が飛んでくる。

不可視の振動系攻撃。

闘気糸の損壊状況からして、暗闇状態で攻撃していた奴であり、初見の2体の内の1体。

そいつが前衛の相手をしている間に前進し中列の位置から攻撃してきている。

受けるのは恐らくまずい。

逆位相波で相殺しない限り、波が装甲を浸透し内部の搭乗者を直接揺さぶるに違いない。

けれど、もうタネの割れた攻撃のそれを回避するのは難しくない。

 

前衛中衛の攻防を処理しつつ狙いは後ろの2体に絞る。

『氷柱』を2本同時に生成。

生成位置は射出タイミングで自分と相手の軸線上に位置するように。

魔力の合成。なんとなく出来る気がした。

 

成功。

 

次に『斥力』。

これも2つ必要だが、魔力の合成で同じ処理を2回やるのは無駄だ。

だから1つの『斥力』を途中まで構築し、完成直前の構築内容を複写。

複写したものは魔力の合成と扱いは同じ。

対象となる『氷柱』を2つ指定してやる。

魔力の複写。これらもなんとなくできる気がした。

 

成功。

 

複製処理に掛かった分だけの時間差で2本の『氷柱』が後衛それぞれを貫かんとする。

苦労して実行したそれらも左の奴には一切見る素振りなし(ノールック)で避けられた。

近接攻撃を避けたあいつだ。

一顧だにせず最小限の動作での回避。

まるでそこを『氷柱』が通るタイミングが判っていたような感じだ。

先読みが鋭い?

厄介だ。嫌になる。

 

右の奴にも『氷柱』は通用していない。

貫く直前、既に落下し加速を始めていたはずの『氷柱』が急停止し、奴が射線から逃れるまでその停止は続いた。

停止の解かれた『氷柱』はその後に何事も無かったように運動を再開した。

魔術のレジストとはどこか違う。力学的運動法則の一切が機能しなかったようにみえる。

こいつの手品。

似た光景を見た覚えがある。

時空支配(ドミニオン)』の効果範囲に『招焔岩雨(メテオストライク)』が被った時とそっくりだ。

自由落下中の物体の速度は時間に比例し、移動距離は時間の2乗に比例する。

つまり時間の停止した物体は速度がゼロになり、停止する。

間違いないだろう。

タネが割れても厄介だけど。

 

光速移動、振動攻撃、先読み、時間停止、断続的に飛来する砲撃。

 

「部下たちが負けたのも頷ける」

 

厄介なら後回しだ。

だとすると、うん。

中衛の、攻撃役の奴が邪魔。

そうしてある程度、敵全員に攻撃をばらまきながら攻撃役を本命にした戦いの構成を組み立てる。

 

数度の交錯の末、こいつらの攻撃と防御の呼吸も掴めてきた。

そしてタイミングを計る。

 

まだ。

 

追いすがる光速戦士の短剣技に応戦。

気を取られている素振りで他の油断を誘えないか。

 

しかし、まだだ。

まだ早い。

立ち回りの中で自然に、中衛・後衛に対し背中を見せてやる。

 

もう一呼吸。

 

攻撃役、その足元に『氷柱』を生成。

 

あと半呼吸。

 

相手の攻撃タイミングに重なるよう『斥力』発動。

対する敵攻撃役も振動波を放ち、中間にあった闘気糸の一部を引き裂きながら向かって来る。

戦闘機動の最中、光速戦士が誘導しようとしている意図を理解し射線の位置へ入ることを拒否。

そこまでしておいて。

突然、接近戦で引き付けていた短剣持ちが光の粒子となって消え、振動波が機体前方を虚しく過ぎる。

次の瞬間、光速戦士は攻撃役付近にまで後退して攻撃役を突き飛ばしていた。

そのせいでこちらの攻撃も空振りに終わる。

 

どういうことだ?

即座には理解できなかった。

ボクの知っている戦闘行動の範疇に収まらない。

 

「精霊の分際で気になるじゃないか」

 

目の前にしている相手の行動の意味の分からなさ。

直前まで光速戦士はボクの行動の意図に気付いていなかったのに、突然それが読まれた。

誰が読んだか。あの後ろの奴だ。

光速戦士が攻撃役を守った。あれほど速く動けるならどこからでも味方を守れる。

ただ、こいつらは別の精霊。

瞬時に情報を共有した手段を持っているのだろう。

この強風の中、口頭で行なっていないのは明らで。

どうやって意志を共有する?

今までの6体を攻撃したときはなぜ同じように守らなかった?

味方機の善戦のせいか?

疑問は尽きず、紐解けないからこそ攻撃は躱され続ける。

 

「ッェホ」

 

強い吐気。

頭の痛みも強くなり、今やズキズキを通り越しガンガンと響くようになった。

 

いけない。

闘気の糸の感知範囲に穴が開いている。

 

それは穴が都合よく開いたのではない、開けられたのだ。

曳光弾的に撃たれた事前の振動波によって千切れ飛んでしまったのだろう。

先程までならそれに気付けていたはず。

吐気と痛みがそれを自分に認識させなかった。

相手が隙を見逃すはずもなく、上下前後左右が判らなくなるほどの激しい衝撃が機体を襲う。

咄嗟に勘だけで回避を試みたものの、おそらく左肩に振動波が直撃し機体肩部より先を喪失。

その証拠に左腕の操縦機構のワイヤーが緩み、腕を動かしても操作抵抗はなくすっぽ抜けていく。

……だけならまだしも、高度が勝手に下がり始めた。

それを見て気付く。

 

「搭乗者保護か」

 

魔力消費量の限界を監視し、搭乗者が気絶・操縦不能になるのを防ぐ機構。

だからボクは気絶していない。

操縦桿は握れている。

この機構を組み込んだ魔導院の技術者は仕様通りの仕事をした。

だがそれが今この状況では宜しくない。

 

「魔力量の閾値をもう少し上げて、早めに機構を作動させた方が良いね。

 こう無防備ではゆっくりと落ちて行くただの的だ」

 

トドメを刺しにくるならどうする?

どうにかして地上で肉弾戦を仕掛けるか?

地表に到達するまでの毛ほどの猶予の中で考え、そして精霊が撤収した。

非常にまずい。

分遣隊(ジャジュカたち)の方に向かったとすれば彼らが危ない。

どうする。

助けに行かなければと迷っている間に……再び機体が強く揺れる。

時間切れ、地表へ激突したか。

そこまでを理解してボクの意識は暗転した。

 

次に気が付いた時。

目に入ってきた最初の情報は薄暗い搭乗席。

左手を動かす。

操作用ワイヤーの返しは無し。

それだけで戦闘と墜落した自分の状況に思い至る。

 

生きてる?

生きてる。

 

差し込む光のお陰で操縦席は真っ暗ではない。

首を捻って背後にある搭乗口を見ると、墜落の衝撃でフレームが歪んだ部分から外の光が差し込んでいるのが判った。

視界スリットの方は完全に地面側を向いていて、こちらからは外の光が届かない。

自機は仰向けに倒れているようだ。

そして――

 

「フィッツ様、フィッツ様!」

 

と呼びかける声に気付く。

ノロノロとした動きながら足と肩の動きで右側の操縦ワイヤーの接続を外し、体を自由にする。

右足元に用意してある搭乗口開閉用魔法陣に魔力を注入。

ガゴン、という音ともに歪んだ搭乗口扉が背中方向にスライドし開く。

慣れた動きで這い出すと、

 

「フィッツ様。

 お怪我は!?」

 

「問題ない。

 ジャジュカ、お前こそ無事でなによりだ」

 

「ハッ、お気遣い感謝します」

 

「それで?」

 

「魔導砲は暫くは使用不能のはずです」

 

「そうか……良くやった」

 

「あり難きお言葉」

 

「で?

 使ったのか?」

 

「その、魔導砲の防衛には甲龍王本人がおりました故、仕方なく」

 

ジャジュカの判断は正しい。

時空支配(ドミニオン)を使えるからこそ、ジャジュカ班は分遣隊に選ばれている。

それを責めるのは筋違い。

 

「部隊の状況は?」

 

「分遣隊の損害は極軽微なものに留まります。

 隊員に多少の疲れはありますが」

 

「そうか。

 本隊は?」

 

「機体状況は大破6、中破20。

 搭乗者も軽傷者15、重傷者10と」

 

精霊対応部隊で怪我を負わなかったのはボクだけか。

 

「ヒドイものだ。

 行方不明者がいないのがせめてもの救いか」

 

戦場で行方不明となれば、戦死扱いになる。

 

「はい。

 我々が合流できたときには全員、地上に墜落しているのを確認できています」

 

「判った。

 疲れているところ酷だと思うが、動かせるマシンメサイアで全機回収しろ」

 

「担当者からは嫌味を言われるでしょうか」

 

26機が一度に整備場送りとなれば頭を抱えるのは必至。

嫌味で済むなら言わせておけば良い。

だがこれは陛下のお望みになった事。

我々の立場が悪くなりはしないだろう。

 

「さぁ、ジャジュカ。

 まずはボクから頼むよ」

 

「ハッ」

 

了解の言葉と共にジャジュカ機から右手が差し出される。

立ち上がってそこへ飛び移ると、間もなくジャジュカ機は浮遊城へ向かって低速で飛び始めた。

低速と言っても外装なしでは強い風が厳しい。

風魔術を使ってこれを防いでから、一人ごちる。

 

「陛下の言う通り、届かなかったな」




次回予告
持たざる者は人生をあらかじめ予想し
時には悲観的に生きる必要がある。
生まれながらに恵まれた奴には、それが理解できないんだと。
俺達を弱者だと決めつけて、寄り添ってますよ
なんて口にしながら、普段のそいつらときたら、
人生は多分"なるようになる"の精神で生きてやがる。
何の計画もしていない癖に、楽しく生きましょうよ、だと。
あいつら、余程のバカか余程の楽観主義者か
余程のバカな楽観主義者のどれかに違いねぇ。

次回『ダリウス復権』
人生のどうにもならない困り事を噛みしめて
それでも笑って生きようじゃねぇか、なぁ先輩。


※副題:映画『沈黙の戦艦』吹き替え版、参照。
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