無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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第140話_ダリウス復権

--- 歴史の闇に巣食う男 CHAT! CHAT! CHAT! ---

 

 

ッチ。

少し飲み過ぎたか。

いや、思い返してみれば別に昨日はそれほど飲んでない。

そう、久しぶりのヤツだ。

恩義がある、恨みもあるが、総合すれば感謝している相手からの頼み。

別に、伝言役を引き受けるのは良い。

けれども、『地べたをコソコソ這いつくばって生きていくのがお似合いなんだからさ』なんて。

一々癪に障る事を言う必要があるかよ。

 

まぁいいさ。

 

別に。

 

その通りなんだからよ。

 

俺にはコソコソするのが合っている。

んなぁことは判ってる。

だからってよ。

思い出しても胸糞悪ィなぁおい。

武器もロクに使えねぇ。魔力量もたいしてねぇ。

冒険者パーティじゃ、腰巾着のシーフが精々。

ナケナシの頭使ってこれ。

やれて来た、と思ったのも束の間。

突然のパーティ解散。自分の無力さ加減が身に染みて、正直、悔しかったよ。

いつか。

いつかは強い奴等を従えて正面切って強者を倒す、そんな風に夢想していた。

 

だがそれじゃぁ"こそこそ"が"正面切って"に変わっただけだ。

いや、それだって俺にとっちゃぁ大きな一歩だが、それが本当の最終目標なのか?

俺はそれをやりきって、本当に満足できるのか?

判らない。

確信がなかった。

 

いや、違うか。

それはシーフとしての行動を、俺の持ち味を否定する夢だ。

どこまで行っても無いものねだりの夢。

 

だが、パウロの息子ルーデウス。

そうルーデウス・グレイラット。

あいつがやってみせてくれた。

あいつが教えてくれた。示してくれた。

金を貯め根回しして人知れず世界を動かした。

俺のこれまでを否定しない、俺の持ち味を肯定しつつ影響力を数百倍にしたような事件だ。

 

おッッッッッッッッもしれェェェェ!

 

これなら。

これなら。これなら。これなら。

これならッ!

大恩ある胸糞野郎を利用して、俺にしかできない何かが出来る気がしてくるんだからおもしれぇ。

 

--

 

「邪魔するぜ」

 

大豪邸の3階。

その半分を占める大部屋の窓を外側から開けて、するりと潜り込む瞬間にそう言い放った。

この部屋の主たる男の後頭部に向って。

俺の声に反応し、安楽椅子にでっぷりと座ったまま目を瞑って居たらしい男が目を開き首を少し回しこちらを見る。

 

「何者か。

 警備は何をしている?」

 

とサイドテーブルにあった呼び鈴に手を掛けようとした。

だが俺は窓の縁にもたれ掛かかりながら余裕の表情でそれを制する。

 

「待ちな、待ちな。

 そう慌てなさんなよ。

 俺は剣も魔術もからきしの、しがない冒険者さ。

 旦那のとっておきの火魔術を喰らった日にゃぁそれだけで灰になってこの世とはおさらばな哀れな存在よ」

 

俺は1枚カードをちらつかせる。

火魔術を隠し武器にしている、それを俺は知っていますよと。

するとだ。

本来知るはずもない秘密を知られていると、人はその知った経緯に興味を持つ。

他に知っている者がいるのだとしたら、調べ上げねばならないと。

そもそも、そこまで自分を調査している理由に興味を持つ。

だから、

 

「それ以上近づくでない」

 

そう言うはするものの、男は呼び鈴を鳴らすことはなかった。

 

「へいへい」

 

元より窓際から動く気配を見せていなかったものの手を上げる。

敵意はない。

そう示すための態度だ。

 

「目的は何だ?」

 

色々と聞きたい事もあるだろうに、そう口にするのは好感が持てる。

そんな相手の態度に対し、知らず知らずのうちにフフンと鼻を鳴らしてしまい、それを気付かれたくなくて急ぎ告げる。

 

「王位継承戦、」

 

そこで区切ると目の前の男の表情が怪訝なモノへと変化した。

 

「このままじゃ盛り上がらねぇ。

 閣下、あんたもそう思うだろ?」

 

男にとって王位継承戦は既に縁遠い話。

わざわざ屋敷に忍び込んでする話と思えない。

そう考えるのが"普通"だ。

だから、

 

「王位継承戦など。

 国内を二分・三分するだけのもの。

 盛り上がらぬ方が良い」

 

そんな言葉が返される。

表情も、さも真実を言っている、という形に彩られて。

けれど、それは嘘。

 

「貴族仕草が過ぎますぜ閣下。

 腹の内とは真逆の話を、さも常識のように語るなんて、よしましょうや」

 

俺の指摘に、男は押し黙る。

黙秘か?

 

「認めたくないなら結構。

 不肖このギースが王位継承戦を盛り上げる必要性を語ってみせましょう」

 

「ふん」

 

男は"止せ"とも"黙れ"とも言わず、ただ一息鼻を鳴らす。

当然、呼び鈴を鳴らす気配もない。

 

「では、聞いてもらいましょう」

 

そこで一度、会釈し間を取る。

 

「現王が崩御したとき、継承順位により王位を継承する。

 継承順位の高いものが何らかの事由で亡くなれば、機械的に順位を繰り上げる。

 そういう制度を採る国もあるでしょう。

 実に継承の効率性と堅牢性の高いシステムだ」

 

椅子に座ったままの腹の大きな閣下は、手にしたワイングラスで水平方向に円を描き、中の液体をゆらゆらと揺らしつつ俺の言葉に耳を傾けているのがわかる。

ただ無表情。

俺の言説に対し、是とも否とも取れない顔だ。

 

「……王という業務が誰にでも務まるのであれば、それで良いのかもしれない。

 だが残念にもアスラ王国の王とは並の者では務まらない。

 この国は世界で最も発展している国の1つであり、たった1人の王が統べるには余りに巨大で複雑。

 故に信頼できる臣下を耳目、手足とせねばならない。

 さらには信頼できぬ臣下すら武威と財力と権謀で操り、誘導し、どこかの派閥に所属させ暴発を防がねばならない。

 それこそがアスラ王国を統治可能な『真の王』だ」

 

『真の王』のフレーズでワインを揺らす手がピタリと止まる。

俺はそれを見逃さなかった。そこで一息に結論へ向かう。

 

「継承順位に沿って王を選定しているだけでは、真の王として機能しない。

 王位継承戦とは真の王を形成するに必要な試練。

 国内を二分や三分するなど真の王を生むに比べれば小事も小事。

 そうだろう?」

 

「たとえそうだとしても。

 蟄居し落ち目の私には無縁の話ではあるな」

 

「いいや。

 違うね」

 

「なぜそう考える?」

 

「確かに、現王の覚えは悪い。

 最悪に近いほどに悪い。

 だから表立って動くのは難しい。

 ただ、それだけだろ」

 

俺の言葉に促されるように、目の前の男の表情に意志のようなものが宿っていく。

そして瞳に強い光が灯った気がした。

 

「王位継承戦の本番は現王が亡くなられてから。

 その時まではどうせ裏で準備に徹すれば良い。

 覚えが良かろうと悪かろうと別に構やしない。

 それに。

 動くはずがない、そう皆が思い意識の外にいるならこそ動きやすくあるんじゃないんですかいねぇ?」

 

「貴様、ギースと言ったか?」

 

「おぉこりゃ失敬。

 名乗り忘れてたかな。

 冒険者のギース・ヌーカディア。

 ギースとお呼びください。ダリウス閣下」

 

相手が名前を覚えた、今のやり取り。

それは賊ではなく客人として迎えられたと理解していいだろう。

だから、こちらも語尾を丁寧なものへと切り替えておく。

そうしてダリウスが安楽椅子を離れ、部屋の一角に用意された応接セットへ移動する。

俺は言われる前にその後ろを追いかけ、ソファに座るように促される。

 

「ギースよ。

 お前は王位継承戦を盛り上げたい、そう言ったな。

 盛り上げるための案があるのだろうな?」

 

「さすが。

 四大貴族に肩を並べる閣下だ。話が早い。

 ついでに酒を一杯用意してくれると、俺っちの舌をもっと滑らかにできる気がしますなぁ。

 アッハッハッハ」

 

俺がそう頼むと、ダリウスは呼び鈴を鳴らし、現れた執事に酒を振る舞うよう指示した。

出て来た酒はそれなりの味で、俺はそれがことのほか嬉しかった。

 

 

--ダリウス視点--

 

ギースの提案から数か月。

部下からの報告書を読み小さく微笑む。

その書類には王位継承戦を暗躍するのに十分な作戦が整えられていた。

 

状況分析。

ギースとの対話によって王位継承戦がどうなるのかが見えてきている。

次代の王と目されているのはグラーヴェル、ハルファウス、アリエルの3人。

この内、ハルファウスとアリエルはいずれも本人に王位への執着が薄く、継承権1位のグラーヴェルが最もやる気を見せている。

ただ……貴族社会の難しいところは本人の才能とやる気だけでは王位は継承できないところにある。

逆に本人にやる気が無くとも擁立・支援する貴族の力が強ければ継承順位は容易に覆る。

では貴族は誰を推しているか。

ボレアス家とガニウス家の支援を失ったグラーヴェル派は大きく後退、客観的には斜陽派閥と目されている。

ゼピュロス家とエウロス家を後ろ盾とするハルファウス派は最大派閥となった。

ただし四大貴族のルールを重んじる両家は形だけの擁立であるのを隠そうとせず、最近は中央の社交界への影響も意図的に控えている。

そんな状況を多数の貴族が理解し次期を見据えた結果、彼らはアリエル派の傘下に入るべくアリエル詣でに日夜勤しんでいる。

本命アリエル、対抗ハルファウス、大穴グラーヴェル。

ギースは王位継承戦を盛り上げるとほざいた。

だとすればグラーヴェルを支援する流れになるだろうが……さて。

私がグラーヴェルを推挙していたのは彼が第一王子であり、やる気があり、扱いやすいからでしかない。

等しく厚遇を受けるか、等しく冷遇されるのなら正直、3人の内の誰が王に就くとしても構わない。

 

では次期体制によってアスラ王国はどうなるか。

どうなるとみれるか。

3人の内いずれがなったとしても、いや、この3人以外がなったとしても結局のところ中央の政務の実権は貴族が握る。

第一王子グラーヴェルには王となる覚悟があり、他の2人にはその覚悟すらない訳だが、覚悟があるからといって国の運営が大きく変わる訳ではない。

王が示すのは目標、目的、明確なビジョン。

野望、野心、或いは現行制度への不満。

それらを腹に抱えている者でなければ、誰がなったとしてもこの国は変わらない。

変わる必要がない。

 

ただし。

外圧にどう対処・対抗するか、という問題は今後の変化点となろう。

帝国が紛争地帯を統一し王竜王国との戦争を始めている現在。

伝え聞くシーローン王都ラタキアへの侵攻・封鎖を鑑みるに、混乱の度合は相当なものだ。

停戦・終戦に至るまで10年20年の単位を優に超える時間が掛かるだろう。

アスラ王国は現政権下で目立った動きを見せていない。

漫然と街道貿易の減少という形で大きくない、しかし着実な損害を重ねている。

アリエルのところに群がっている外交センスのかけらもない貴族たち。

機を見るに敏とは程遠く、未だグラーヴェル派に固執する貴族たち。

彼らでは何も変わらぬ。

ならばハルファウス……

 

「ん?

 妙だな」

 

なぜエウロス家は動かない?

西側諸国との街道貿易で大きな財を成すウィシル領、つまりエウロス家には動く理由と能力の両方が備わっている。

王位継承戦がまだ前哨戦である中で現政権においてエウロス家が動いていない。

それとも私が知らぬ間に、

 

「既に動いているのか?」

 

領地内蟄居となって早2年になろうとしている。

そのせいで中央や地方貴族の動静が追い切れていないとは。

認めたくはないが、疎くなっている。

 

--

 

また新しく部下のまとめた報告書が届いた。

今回は資金の調達に関して。

 

アスラ王領とドナーティ領の間の街道沿いにある小さな領地を持つ上級貴族に目を付けたという話だ。

領地の規模の割に羽振りが良く、その資金力を元に上級貴族中位に座するトップコート家。

他貴族からは街道貿易と領地内経営の妙で財を成したと目されている。

 

「なるほど。

 エウロス家の街道貿易に関する調査、その比較対象が目的か」

 

ならばこれは偶然という話らしいが、報告書を読み進めていくと、なにやらトップコート家には裏の顔があったという。

昔から鎮痛効果のあるイレーサ草が自生している土地柄で、領主はこれを密かに栽培。

成分を抽出し、麻薬として販売し資金を蓄えていた。

このことを嗅ぎつけたギースはトップコート家側に密かに乗り込み、私のときと同じく話し合いに持ち込んだ。

トップコート家はすわ脅迫かと身を固めていたが、そこでギースが行ったのはやはり提案。

司法省で強い権限を持つトップコート家には、国内随一と評される法律に強い家臣が集まっている。

だから、彼らを利用して法律相談や顧問業を始めないか、と。

こちらを利益の主力に据えることで裏の仕事、その金の出処を目立たなくできるぞ、と。

最初の段階でトップコート家はこの提案に応じるかを渋っていたが、ギースが勝手に私の名を騙った事で状況は急変。

ガニウス家で大臣職を解かれてダブついていた家臣団から人員を抽出し、トップコート家に派遣する算段がついた。

新しい事業を支援し、その支援金という名目で資金源を確保したのだと報告書は纏めている。

 

「勝手に私の名を騙りよって、全く」

 

困ったものだ。

だが、その提供額をみれば叱る気も失せる。

これからの活動に十分な資金だ。

問題は、

 

「誰をどうするか、か」

 

それがまだ定まっていない。

 

--

 

或る日の午後だった。

唐突に現れたギースが、

 

「閣下、四大貴族の不文律に王位継承戦への不介入があるのはご存知ですか?」

 

などとカマを掛けて来たのだ。

 

「当然だ。

 無視した奴のせいで大層苦労させられた記憶がある」

 

「では、四大貴族がなぜそのようなルールを作ったのか。

 ご見解を頂いても?」

 

なぜ、そのような事を知りたがるのか。

おそらく王位継承戦を盛り上げるのにそれが重要なのだろう。

たとえば、四大貴族が関わった方が盛り上がるではないか? と。

そう考えているのかもしれない。

そんな予測を踏まえて口火を切る。

 

「3つの論ずべき点があるだろう。

 第一に王位継承戦の正常性を保つには、それが必要であるからだ」

 

「四大貴族が介入すると王位継承戦は正常さを保てない……それはどういったカラクリによるんで?」

 

「至極単純に言えば、従えた四大貴族の数で継承先が決まってしまう。

 数が抜きんでた者がいればその者が継承し、同数であれば引き抜いて数で勝ろうとする。

 これならば継承順位で決めるのと大差なく、真に不健全であろう」

 

「言われてみれば」

 

「第二に貴族同士、同格の相手に嫁がせた方が夫婦関係も上手く行きやすいと言われているのもあって、四大貴族は婚姻関係がある。

 王位継承戦で争って禍根を残し親戚付き合いにひびを入れたくない、そういう思惑があるのだ。

 具体的には婿養子先や嫁ぎ先の席を失う。

 ノトス家のピレモンなぞ四大貴族の当主でありながら、商家の娘を娶っているだろう?

 そうやって貴族の親戚筋が減り、平民と交わればたとえ肩書きが上級貴族であろうと格は下がっていくものだ」

 

「最後の1つはどうでしょう」

 

異論はないらしく、3つ目の論を促された。

 

「王位継承戦に関わるなど四大貴族にとっては旨みが少ない、というのが本音であろうな。

 それを誤魔化すために不介入のルールがあるなどと公言しているのだ。

 ギースよ。

 王位継承戦で次期王継承の立役者となったとして何が得られる?」

 

「そりゃぁ……大臣の職とか」

 

「判っているではないか、ギース。

 そうその通り。

 王権には領地保護がある故、新たな領地の下賜は絶望的だ。

 よって役職と発言権を得る事は非常に重要となる」

 

「読めてきた。

 そうやって貴族は権力欲や出世欲を満たしてるのか」

 

ギースはそれなりに賢い者と考えて来たが、その発言は些か頓珍漢であった。

 

「お主、何を言う?」

 

「ん?

 だから出世して金とか権力を手に入れるために王位継承戦に参加するんだろうって話でしょうよ」

 

「そのような下心を持って活動しても割りに合うかは怪しいな。

 身に余る力を望めば滅びの道を転がり落ちると、多くのアスラ貴族は弁えておる」

 

「そりゃぁ……大事なジンクスだ。

 で、何のために役職と発言権を得ようとするんで?」

 

「家臣や協力者の労に報いるための褒章として土地が与えられぬ以上、金か武具か役職が必要になる。

 それなりの発言権を持てばそれらはある程度望みのものを融通できるようになるのだ」

 

「ははぁ……そういう事ですかい。

 するってぇと四大貴族にはそれがいらねぇって訳で?」

 

「四大貴族は皆、赤竜山脈を背にした未開拓の領地を持っている。

 故に労に報いる場合、その土地を下賜し開拓させれば良い」

 

ギースは目をしばたたかせた後、口笛を鳴らしてみせた。

なんとも行儀の悪い奴だ。

 

--

 

文官の1人をギースの代筆役に任命し、奴の語った内容を提案書の形に整えさせた。

最初に手に取った書類束の表紙には『神子・呪子捜索』と書かれている。

 

……

…………

………………

 

『神子・呪子捜索』の提案書は、要約してしまえばグラーヴェル第一王子の育成計画書のようだった。

だが、

 

「なんだ? これは」

 

神子と呪子は両者共に、肉体を魔化したことで起きる性質変化。

迷宮で入手する魔力付与品と本質的に同じ?

そう書いてある。

 

重大な知見だ。

魔力付与品にも所有者に利益を齎す効果と不利益を齎す効果があり、神子と呪子の対比関係と合致する。

神子と呪子は生来のもの、なぜ赤子の時点で肉体が魔化される?

なぜただの武具を生産したときに、勝手に魔化されない?

そもそも魔化とは何だ?

ギースの論がやや強引に感じるのは、その辺りが説明されていないからだろう。

疑問は今、この場で解決できるものではない。

だからそれらは横に置き、この提案の最終目標を読み解く。

そして私は天井を見上げる羽目になった。

 

「グラーヴェル王の戴冠後、神子と呪子の研究を奨励し国家存亡の危機を乗り越えることを目指す?」

 

王位継承戦によって切磋琢磨させ、『真の王』を生み出す。

それが王位継承戦における目的とギースは主張し、私はそれを否定しなかった。

しかしだ。

そこから飛躍し、『神子と呪子の研究を行う』必要性はどのように導出される?

判らぬ。

判らぬまま……その答えを求めるように次の書類に手を伸ばす。

 

伸ばした先にあったのは『アリエル暗殺計画』と物騒な表紙で始まる書類。

これを読み進める。

 

「うぅむ」

 

まだこちらには理があった。

提案書曰く。

アリエルに暗殺者を差し向けると、暗殺に失敗する。

なぜなら、アリエルにはルーデウス・グレイラットが召喚した守護魔獣が付いているから。

しかしアスラ王はアリエル暗殺が過激化していくことを恐れ、アリエルにラノア魔法大学への留学を勧める。

これによってアリエルのアスラ王国内での影響力を削ぎ、現在のアリエル優勢の状況を一旦、公平な状態に戻す。

またアリエルについては、ラノア魔法大学への留学中に魔法三大国との関係を深めさせ……

 

「アリエル王の戴冠後、アスラ国内でも魔術師の育成を図らせ、以て国家存亡の危機を乗り越えることを目指す」

 

と書いてあった。

なるほど。

ギースがどのように考えたかが、漸く見えて来た。

つまり、こうだ。

なぜ王位継承戦を盛り上げさせて『真の王』を生み出す必要があるのか。

世界一裕福な国であるアスラなら、経済の力でほとんどのものは手に入るはずだ。

なのに、なぜ?

それは経済ではどうにもならない敵国の存在、つまり帝国がアスラ王国へ宣戦布告してくるからだ。

その時のために『真の王』によってアスラ王国に齎される何かが必要なのだ。

その何かとはおそらく1つでなくて良いのだろう。

グラーヴェルの場合、神子と呪子の研究所を作り、そこで得られた知識や技術を使って国を強化する。

アリエルの場合、魔法三大国との協力関係、ラノア魔法大学との縁、本人が魔術で国を強化できると考えるよう仕向ける。

といった具合に。

 

この予測が正しければ残る最後の書類にも似たような事が書いてあるはずだ。

……。

やはり、そうだ。

『北方砦武闘祭』と題された書類には、ハルファウスに関する提案が書かれている。

内容は北方砦主催の武闘祭を開き、ここでハルファウスを活躍させて本人が持つ闘気の技術が非常に高度であると自覚させる。

そうする事により、ハルファウスが剣の聖地や流浪の剣士と交流を持ち、本人が闘気で国を強化できると考えるよう仕向ける。

そんな作戦らしい。

 

そして三者三葉の得意分野を用意して王位継承戦を行う。

貴族たちはどの意向に興味を惹かれるか、どの候補者を勝たせたいと思うか。

勢力図はどのように変化するだろうか。

きっと大いに盛り上がり、誰がその役目を負うとなったとしても『真の王』として君臨するのではないか?




次回予告
運命は大きく変化している。
絡み合う要素は混沌の様相を呈し、
最早一人として正解を知る者はいない。
そうであっても。

次回『クロッシングポイント2』
歴史が彼らの交錯を求めるか


副題は攻殻機動隊SAC第9話のオマージュです。
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