無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第019話_植物学者ルーデウス

---花が咲き、種を飛ばし、そしてまた芽吹く---

 

少し時間を戻って5歳になった頃、俺は今後必要になる復興資金について頭を悩ませていた。目標金額がアスラ金貨120万枚、最低でも80万枚。途方もない数字だ。それを何の後ろ盾もなく用意しなければいけない。ナナホシがオルステッドの後ろ盾を利用して、『料理系と服飾系、学校教育関連』で資金を調達したことよりさらに厳しい状況と言える。そして、この世界に特許料なんていう考え方は存在しない。必要なら製法を秘匿して独占的に販売しなければいけない。つまり、何かを発明したからといって多額のお金は入ってこないのだ。

販売にだって問題がある。たった5歳の俺の話をまともに聞いてくれる大人はいない。つまり、広く浅くに薄利多売で売るようなものを作っても、販売ルートで挫折して失敗する。あれも駄目これも駄目な状況で、アスラ金貨120万枚を稼がなくてはいけない。しかし、絶望してばかりもいられない。逆に考えれば、取りうる方法は限られているのだから、それにあった商売を考えれば良い。なんでもできる状況だと難しいがこれしか出来ないというならそれを愚直にやるだけで済む。

 

まず販売先を考えよう。1つは金持ちを相手に直接商売する。この近辺で取引できる金持ちは、ロアの町の町長フィリップ、フィットア領の領主サウロス、ゼピュロス・ノトス・エウロスの領主、アスラ王都の貴族、甲龍王ペルギウス、アスラ王(国)となる。この場合の問題点は、金持ちというのは権威意識が高く、10歳未満の幼児の話にきっと耳を傾けないか、それを根こそぎ奪い取って自分が儲けようとするということだ。

だから取引相手足りうるのは、フィリップ、サウロス、甲龍王ペルギウス、それにアスラ王(国)に絞ることができる。フィリップとサウロスが災害の被災者になることを考慮して除外すれば、甲龍王ペルギウスとアスラ王(国)だ。甲龍王ペルギウスに会えるチャンスはかなり限られている。家庭教師時代にロアの近くにケイオスブレイカーが来ることがある。そこを狙って無理やり出会う。危険も大きいが、こちらが子供ならシルヴァリルが助けてくれるだろう。アスラ王(国)は上手く根回しして信用を勝ち得なければ面通しすら難しい。……いや、相手から面会にこさせるのもありだな。とりあえずこのやり方で災害直後の初期費用となるアスラ金貨80万枚が目標だ。

 

次に考えるのは、金持ちではない平民を相手に販売ルート無しで商売する方法。つまり店舗販売だ。王都アルスに行って店を構え、そこを人気店にするのが良さそうだ。このやり方は一気にドカッと資金を得られる方法にはならない。だが、災害復興中に順次資金投下していくための資金であればこの稼ぎ方で集めても問題ない。目標はアスラ金貨で40万枚だ。

売り物は、石から削り出した食器(コップ、皿)、インスタントのお茶の素、くらいしかないのでもう少し品揃えが必要だろう。店は商品がごちゃまぜの雑貨屋でいい。

それに店舗を構えることにはメリットがある。これを前世でのルード傭兵団のように利用する方法だ。例えば、ロアとアルスに店を構え、両地点を転移魔法陣で繋げる。これで町毎の差額で転売利益を稼げる。

人員については問題ない。こういう時のために俺はアルビレオの人形術を再現した魔術と神獣召喚を持っている。アルビレオは精霊の人格付与が未熟だったが、ペルギウス直伝の俺の人形はオートマタ達でさらに洗練してある。高度な人格付与によって店番と転移魔法陣が魔力切れを起こさないように管理することができる。

 

--

 

色々考えたが、アスラ王(国)自身が俺に接近するよう俺は行商人につなぎを付けた。上手くいけばいいが、失敗すれば面倒事が増えることになる。ただし途方もない金額を稼ごうとすればこういったリスクは負わねばならないだろう。

 

あとは旅立つまでに商品開発をしていこう。そう考えて、ブエナ村で作っている物を見て行く。アスラン麦、バティルスの花、野菜、その他に森の中に食べられる野草や薬草がある。料理関係はナナホシに譲るとして、森の中のものは商品にするのは難しいだろう。すると、バティルスの花が残った。

 

─バティルス

 ブエナ村でも栽培されている植物。

 ラベンダーに似た植物で、薄紫色をしており、食べることもできる。

 前世の記憶では、花びらを加工して香料にする。

 しかしブエナ村では生産して一次加工するだけで、香料にするのはロアの職人が行う。

 また、特殊な方法で精製すると媚薬になる。

 生成方法はロアの町長が独占している。

 

俺が思いついた商品は、バティルスの劣化媚薬を入れた精力剤だ。前世で使用した経験がある俺からしても、バティルスの花から作った媚薬は効果がありすぎる。あれを使うと理性が完全にとんで性欲だけの野獣(ケダモノ)になってしまう。だいたい、飲んで上手い飲み物でもない。これから致しましょうというときに、明らかにヤバそうな味がするのもムードを壊すってモノだ。飲んだ後の即効性も時には問題だ。ご飯時に飲んで、しばらくして部屋に行くってときには使いづらい。

 

つまり、口当たりが良くて、それなりの精力増強効果があり、理性が完全にぶっとぶほどではなく、飲んでから効いてくるまで少し時間を要す。そういう商品を目指すってことだ。

 

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方針が決まったので俺はバティルスを仕入れて研究することにした。修行の毎日のせいで、研究できるのは昼休みとシルフと別れる夕方以降だ。

まずは情報収集をしよう。そう考えて、その日の夕食を食べ終わった後に俺はゼニスに話しかけた。

 

「母さま、ブエナ村ではバティルスの栽培が盛んですよね。なのになぜ栽培するだけで商品に加工せずに卸してしまうのですか?」

 

「あら、ルディ。お花に興味があるの?」

 

そうか、現世のゼニスは俺に植物事典をプレゼントしなかった。そういう疑問も浮かぶだろう。

 

「どちらかというと商売に興味があるのですが、バティルスの花の匂いは母さまの匂いに近くて好きです」

 

前世で嫁の機嫌をとり続けた俺の会話能力は、ゼニスに「俺、花には全然興味ないよ」と言うのを憚らせた。

 

「あらあら。そうね-。確か、花びらのままなら日持ちするけど、加工して香水にするとあんまり日持ちがしないのよ。だから花びらだけを集めてロアに持っていくのよ」

 

ふむふむ。

 

「なるほど。因みに、家の花壇にもありますよね。あれは観賞用ですか?」

 

「そんなことないわ。見た目が綺麗だから見て楽しむけど、花が落ちるまえに花を集めて匂い袋にするの」

 

「あー。匂い袋、見たことあります。あれは母さまが作っていらしたんですね」

 

「ええ」

 

「母さま。知っていらしたらで良いのですが、花摘みした後のバティルスの茎や根はどうするのですか?」

 

「そういうのは、村の南の丘の麓に集めて後で燃やすぞ」

 

最後はパウロが補足してくれた。何?燃やす?

 

「わかりました。今度行ってみます」

 

「勝手にやらずに許可は得るんだぞ」

 

「そうですね。バティルスを栽培している方にきいて許可が得られたらすこし作業します」

 

「それでよし」

 

ゼニスもうんうんと頷いている。OK。明日の昼にシルフを連れて、その辺りの許可を得る。その後、時間を無駄にできないからシルフの特訓をする。夕方から出来る範囲で研究する。段取りが決まってきた。

 

--

 

次の日、昼飯を食べた後、シルフを連れて丘に行く途中でバティルス畑で働く農夫を見かけた。フィールドワークと称して町を巡り、大人の顔と名前はだいたい頭に入っている。俺はその男ペルーンに話しかけた。

 

「ペルーンおじさん、こんにちは!」

 

「こんにちは……って、パウロさんとこの子じゃねぇか!なんか用か?」

 

「実は、バティルスの花を集めたあとの茎や根をどうしてるかお尋ねしたくて来ました」

 

「は?そりゃ、村の南の丘の麓に集めて捨てちまうぞ?」

 

「それって勝手に家に持って帰っても誰かに叱られたりしませんか?」

 

「あーん?構やしねぇが食わねぇほうがいいぞ。 昔は食用にしてたが常食してると毒だってことが判ったからな」

 

俺は食べることもできるって習ったが、食べ続けると毒だったのか。しかし、一体どんな毒なんだ。気になるが目的とは異なる。

 

「そうなのですか。昔はどのようにして食べていたのですか?」

 

「湯掻いた後、筋をとって食っていた。正直おらぁ子供の頃から嫌いだったよ。貧しくて仕方なく食っていただけさ」

 

「湯掻くときに、バティルス特有の匂いって出ますか?」

 

「出る、出る。あの独特な匂いがよぉ、家中充満するもんで、はぁ今日も夕飯はバティルスかよってなったもんさ。今でもカカァがそれで色目つかってくると、大事なモンも引っ込んじまうよ!カカッ」

 

おっさんの冗談はまぁ無視して良いとして、貴重な情報が手に入ったぞ。ただし、俺の隣にいるシルフよ。顔を真っ赤にしているがこのセクハラ親父が言っている意味を理解しているのか?6歳でその耳年増はちょっと問題だぞ。

 

「情報ありがとうございます」

 

「構わねぇよ!」

 

「ではまた」

 

「おぅ、またな」

 

ペルーンから良いことが聞けた。今日の夜やることも概ね決まった。シルフの特訓に集中しよう。

 

--

 

商人イベントが終わってから妊娠イベントが起こるまでの間に、シルフは風上級魔術師になった。後3種の攻撃属性の上級魔術もすぐに使いこなせるようになるだろう。なんとか、旅立ち前に全攻撃属性魔術、治療・解毒魔術を上級にできるだろう。重力魔術の指導は間に合いそうになければ教本だけ渡しておこう。あとはシルフのやる気次第だ。

 

さて、夕方に特訓から帰ってきた俺は裏の空き地のなるべく奥まった場所に、土魔術を使って、かまどとその上に乗せる鉄釜、それにいくつかの実験に使うための器具を作りだした。ガラス製品のビーカーや試験管、遠心分離機も欲しいところだが、そういうのは無い。遠心分離機はあっても使い方もよくわからんしまぁいいか。後は、人形術で人型のゴーレムを10体つくりだし、人格を付与した精霊をゴーレムの器へ魂を与えるように込めていく。そいつらに夜中のうちに廃棄されている茎や球根を持ってくるように命令しておいた。

 

あくる日、剣の修行のため空き地に行くと、魔力切れを起こす前に停止したゴーレムが並んで座っていたので、ゴーレムをバラシてお役御免にしておいた。実験に使うには十分以上の量のバティルスがあった。パウロがその山を見て、どうやってそれを為したのか不思議そうに見ていた。

 

いつもの日課をこなして、夕方になると俺は実験を始めた。まず、ペルーンの話を元にバティルスの成分は温度によって組成が壊れるのではと予想した。そこで加熱の方法として『茎を湯掻いて出来たゆで汁』、別の加熱の方法として『茎を燃やして、灰を水で溶かした水溶液』、無加熱の方法として『茎を細かく刻んで、布で絞って抽出した汁』という3つを用意し、比較した。加熱した工程の結果、『茎を湯掻いて出来たゆで汁』は、単にバティルスの茎の風味がついた汁であり、『茎を燃やして、灰を水で溶かした水溶液』は苦いだけだった。これらからやはり『目的の成分が熱に弱い』可能性があるってことが推測される。一方、無加熱で絞った汁は紫色で、茎を絞っても花と同じ紫色の汁ができることにまず驚いたが、媚薬とは味も色も粘り気も異なる。

 

そこで実験は頓挫しかけた。だが、ペルーンの話から茹でたときには花と同じような匂いが充満するという。今は裏庭のオープンスペースで作業しているからそこまで感じないが、もし匂いの成分が水蒸気に含まれているとすれば、それは茹で汁の中では加熱によって組織が破壊されても水蒸気側では完全には破壊されずに残るのではないかという推測ができる。そこで『大量の茎を煮詰めて、その蒸気を集め、冷却する』ことを考えた。確か蒸留っていうんだったかな。俺には小中の理科の知識しかないが、この世界では結構通用する気がするのだ。

蒸留のための器具は手元に無いので、土魔術を使って漏斗と漏斗の先に付けるL字の土管を作った。そして土管部分は水魔術で外側を凍らせる。この器具の漏斗の口部分によってバティルスを茹でるときの水蒸気を集めると、水蒸気が土管を通るときに冷却されて気体から液体に戻る。液体は土管の口から落ちてくるので別の容器で受けるという寸法だ。

得られた液体は2層に分離していた。下の層は匂いだけのついた水溶液で、上の層は脂のような水に溶けない層だった。さらに下の層は無色透明であり、部屋などに撒くと香水と同じ匂いを発した。また、水が劣化すると匂いも落ちたのでこれがロアで作っている香水に近いと思われた。一方、上の層の脂のような層は青味がかっていて匂いの成分を凝縮したものに思われた。俺はこれによく似たものを昔、姉貴の部屋でみたことがある。アロマテラピーの装置にこの脂みたいなやつをポタポタ落して加熱すると匂いが部屋に充満する。つまりこれは匂いのオイルだ。俺の予想が正しければこのオイルは結構長持ちする。

 

この実験を通して媚薬を作ることはできなかった。だからここからは何の根拠もない推測になる。茎を絞ってできた紫の汁から蒸留で得た青色の成分が抜けると、ピンクの色の成分が残るんじゃないだろうか。まぁ、青色の成分を抜く方法が分からない。

だから紫の汁を土魔術で作成した壺に保存して冷温で地下に保存してみた。もしかしたら時間を置くことでゆっくりと青色の成分が蒸発してピンクの成分だけが残るかもしれない。それだけでは何か物足りない気がすると同時に、ふと前前世で母が作っていた漬物が思い浮かんだので見様見真似で茎のまま別の壺の中に重ねて、魔術で作った石を重しとして載せておいた。

 

しばらくしたら地下においたバティルスの汁と漬物から何かできてないか確かめよう。

 

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さて、商品開発、ルード鋼の販売路の根回しを終えた俺は、初動の資金を稼ぐために

ダンジョン攻略を始めた。

 

まず準備として、魔術で作成した石に神獣召喚用の石板を作成した。いくら腕に覚えがあるといっても装備は心許ないし、昔も懸念したようにダンジョンで気を抜くと一瞬で死が待っている。

 

そこで俺が作成したのは、スパルナ、フェンリル、バルバトスの3体の神獣の石板だ。神獣スパルナは大きな鳥で攻撃力も高いがダンジョンに入れないため、今回は移動用だ。神獣フェンリルは大きな白い狼で見た目はレオに似ている。前衛が必要なときに呼びだす。神獣バルバトスは弓を持った人型精霊でシーフの能力があり、罠や隠し扉を発見する能力に長けている。まだ前世には遠く及ばない魔力量では、3体同時は難しく、顕現させても多めに魔力量を注ぎ込むことはできない。相克の問題もあるのでそこは良しとした。

 

準備が終わったあくる日の夜、俺は皆が寝静まった夜に、ロキシーと行ったダンジョンに赴いた。このダンジョンは既に入ったことがあり、罠関連の無いルートを知っているので、行きはスパルナで移動、内部はフェンリルを召喚して倒して行く。今回はバルバトスは地下3階を攻略した場合にだけ呼び出すことにした。

 

そして、雑に直した地下3階への入り口を再度壊し、あの異形の蜘蛛の王を倒しに行った。蜘蛛の王は、俺たちが入ってくると警戒行動に入り、そして敵対行動へと移った。

 

「いけ!フェンリル」

 

まずはフェンリルをけしかける。フェンリルは蜘蛛の王の上部の腕のように使う足を上手くかわしつつ、自分の前足で蜘蛛の地面についている方の脚に飛びついた。飛び掛かった1本の足が強靭な顎の力でちぎれた。

 

「クグァアアアキーーーー」

 

くぐもった鳴き声の後に金切り声が耳をつんざいた。フェンリルは足を集中的に狙って、相手の機動力を落とすつもりのようだ。おれはフェンリルが間合いを取った瞬間を狙って、岩砲弾(ストーンキャノン)。完全に無詠唱で一発ぶち込んだ。それでも蜘蛛の王は上手く反応しようとして、上部の腕足二本でバツの字を作り、受け流した。水神流を使うのか?一瞬、アーマードウォリアーを思い浮かべる。だが、蜘蛛の王の傷を見て意見を変えた。やつはバツを作った腕の外側の一本目を犠牲に勢いを殺し、二本目を使って斜め後ろに受け流しただけだ。勢いを殺した方の腕は完全に潰れて使い物にならなくなり、受け流しに使った方の手は関節の根本から落ちている。俺の岩砲弾(ストーンキャノン)で上体が崩れたのでさらにフェンリルが蜘蛛の脚を薙ぎ払った。フェンリルでこちらが見えなくなった隙に、フェンリルの移動方向を予測して、射線を測る。位置を捉えた瞬間に、2発目と3発目の岩砲弾(ストーンキャノン)。蜘蛛の王はその場で絶命した。蜘蛛の王が死に、フェンリルが戻ってきたが、その全身から煙を噴いていた。どうやら蜘蛛の毒のようだった。フェンリルは「ウォーーーーーーーーン」と哭いて(うずくま)ると、その場で精霊構造が解けてしまった。蜘蛛の王、フェンリルと対等に戦うヤツだったか。ロキシーとの共同戦をやらなくて本当に良かった。

 

俺は懐の石板を取り出して、バルバトスを召喚した。バルバトスはこの部屋をウロウロと歩き回り、最後に首を横に振った。どうやらこの部屋に罠も隠し財宝もないようだ。俺はバルバトスに財宝の回収を頼み、自分は蜘蛛の王の死骸を焼いた。焼き終わり横に体を向けると、バルバトスが俺の隣に魔力結晶と魔力付与品(マジックアイテム)の剣と盾を並べた。それらを背嚢に仕舞おうとすると、彼は手でまだだとジェスチャーしてきた。彼は俺の人格付与では確かに話ができるのに、いつも話さない。変わった神獣だ。彼は蜘蛛の王の死骸の燃え尽きたあたりにごそごとと手を突っ込んだ。そして、死骸の中から手のひら大の大きい黄色の魔石を引き抜き、俺が差し出した背嚢に入れた。彼は大きく頷いた。バルバトスがいなければこの魔石は見逃していただろう。

 

俺は満足してダンジョンを抜けて、帰りもスパルナを召喚して帰路についた。

 

同じ手順で俺はブエナ村の周辺にあるダンジョンを攻略しつくしたが、最初のダンジョンより手ごわいボスは居なかった。

 

--

 

時間は進んで、ゼニスと一緒に風呂に入った次の日の昼、今度は俺はシルフの家にきて、約束通り、庭に花壇をつくり、クーエル草とカスミザミの花を30本ずつ植えた。

転移災害以後に植えなおすために各種20個は地下室で保管する。

 

シルフもシルフィアーナも何でこんなことをするのか不思議に思っているようなので、俺は全ての作業が終わってからシルフィアーナに言った。

 

「シルフィアーナさん。クーエル草を煮詰めて絞った絞り汁を髪につけると、髪色の脱色ができます。それに、カズミザミの花弁を集めて絞るとこの辺りの人族に近い茶色の染料になりますから、脱色した後に付けて乾かせば髪の色を変えることができます。脱色剤も染料もどちらもかぶれやすいので取り扱いに注意してください」

 

その後も『染めた後の頭皮のケア』、『種をとって増やす方法』、『作った染料を保存する方法』について説明した。これらはルイジェルドとジークの髪で悩んだ俺が色々試行錯誤して得た前世の知識だ。

最後にシルフに言った。庭を作っている間は笑顔だったシルフの顔は今は少し暗い。やっぱり、心のメンテナンスが必要だろう。

 

「僕はシルフの髪のこと気にしてないよ」

 

「ほんと?」

 

「本当さ。シルフが大きくなってこの村を出ることになったら、きっとこれが必要になる。わかった?」

 

「うん、ありがとルディ!」

 

これでシルフの憂いも取れただろう。そう思いたい。

 




地下室の在庫(ルーデウス6歳と3か月時)
 ・ルード鋼 3,000個以上
 ・ルード剣 1本
 ・前世で起こったイベントの内容、要因とその後をまとめた前世日記
 ・魔法陣の下書き
 ・ブエナ村の周辺ダンジョンの位置とダンジョン内の情報(削除)
 ・シルフィに教えるための重力魔術の教本
 ・クーエル草の種20個(-80、時間軸的には18話の前)
 ・カズミザミの花20個(-80、時間軸的には18話の前)
 ・魔力結晶×10   (New!、時間軸的には18話の前)
 ・魔力付与品(マジックアイテム)
  短剣(未鑑定)   (New!、時間軸的には18話の前)
  剣(未鑑定)    (New!、時間軸的には18話の前)
  弓(未鑑定)    (New!、時間軸的には18話の前)
  盾(未鑑定)    (New!、時間軸的には18話の前)
  靴(未鑑定)    (New!、時間軸的には18話の前)
 ・魔石        
  紫(小)×5    (+4、時間軸的には18話の前)
  緑(小)×3    (New!、時間軸的には18話の前)
  紫(中)      (New!、時間軸的には18話の前)
  赤(中)      (New!、時間軸的には18話の前)
  黄色(大)     (New!、時間軸的には18話の前)

次回予告
想定外の無い想定、考慮外の無い考慮。
万全の備えとやらも同ベクトルのそれ。
だけれども、ここでするべきは全てやった。
やったはずだ。ならば次へ。

次回『妹たちと旅立ちと』
残して行くのは頼りがいのある者たちなればこそ。

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