無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。
・治癒魔術の原理・工程や修復される側の感覚については、(私に読みこぼしが無ければ)原作では語られていない部分のため拙作のオリジナルとなります。
あらかじめご了承ください。


第002話_苦手分野の克服1_治療魔術

---考え方次第で得をする---

 

俺は転生したての頃、魔術も剣術も強くなりたいって思っていた。

 

魔術での苦手は治癒魔術を無詠唱できない点だったからそこまでの躓きもなかったように思う。むしろ、ゼニスがすごいすごいと褒めてくれてロキシーの手ごたえも良かったから、その苦手を克服することを真剣には考えていなかった。あれは俺の悪い癖が出ていたってことだろう。苦手を克服する。これからの命題だ。

 

剣術についてはどうしようもないかもしれない。だって俺は闘気を纏えない。バーディガーディの話では細胞一つ一つに魔力を纏わせるってことで、つまりはパウロの剣術を見て思った通り、ブースト、自己エンチャント系の魔術ってことだろう。俺がラプラスの因子を持っていて、ご先祖のラプラスも闘気を纏っていなかったという話だから、なんか自然と腑に落ちたというか諦めたというか。そのおかげで魔道鎧を開発できたと思うと悪くはないと思うのだが……

いや待て、こういう逃げ腰だからいけなかったんだろう。俺が水神流を扱えていたら、パウロを失わずにヒュドラを倒せていた可能性がある。やはり、俺がどうにかして闘気を纏えるようになり、剣術でも聖級に至るってのが苦手を克服するということに繋がると思う。だいたいラプラスの因子をもっていてもシルフィは無詠唱で治癒魔術を使うことができる。つまり、シルフィが剣術を嗜めば闘気を纏うことができる可能性がある。

俺だけがおかしな縛りになっていたら、それはもう神子か呪いだろう。

 

まずは苦手分野を減らす。妹たちや子供たちに苦手なことでもがんばりなさいと言っていたはずなのに、俺自身ができていなかったんじゃないか。本当に恥ずかしい。偉そうなことばかりいうお兄ちゃん・父さんでほんとごめんな。

 

よし、反省したところで克服を目指すモノを決めよう。

まずは『治癒魔術の無詠唱化』、次に『闘気の獲得』とする。その他にも政治的交渉術とかあるかもしれないが俺がこの世界にきてやりたかったことに絞ればこんなもんだろう。ルーデウスキャノンは苦手分野を撃ち抜くぜ。

 

--

 

治癒魔術でわかっていることを思い出そう。そうだ。あれは結婚したてで、シルフィに『乱魔(ディスタブマジック)』を教えて、代わりに上級の治癒魔術を教わっているときに判ったことだった。シルフィは言っていた。「ルディ、もしかして、術を受けている側の感覚が分からないんじゃない?」と。

そうそう、『魔力で対象の魔力に干渉して傷を治癒させる必要があるのにそれが判らない』それで挫折したんだった。『右手の人差し指で左手の平を触っても、人差し指側しか感覚がない感じ』そういう風に理解したんだ。

 

だが待て、こういう難しい問題はいつもロキシー先生に尋ねて解決している。それを俺が思い込みで済ませているのは間違っている。いや間違っていたはずだ。

うーん、じゃぁロキシーに相談してみようか。いやいや、先生は無詠唱ができない。いつも先生に依存してばかりだから俺はこういう苦手分野を克服できていないんだ。落ち着け落ち着くんだ素数……はいいか。

先生が答えられる分野なら今まで通りに頼ったって構わないだろう。でもそうじゃない場合、俺はどうしたらいいのか。そうだ脳内ロキシーイルカ先生を作りだすのだ。この脳内ロキシーイルカ先生に聞けばなんでも解決できると想定してみよう。

某表計算ソフトのヘルプで出てくるイルカにまたがったロキシーを想像するために、俺は庭先に出て、庭にある石の上で座禅を組んだ。そして目を瞑る。

ポクポクポク、いっき〇うさんみたいだな。

 

「なんですか、ルディ?」

 

「脳内ロキシー先生、実は質問があるんです。治癒魔術で対象の魔力に干渉する感覚が判らないんです」

 

「ふむ、困りましたね。ではあなたは治癒魔術が使えないんですか?」

 

「いえ、呪文を詠唱すれば使えます」

 

「なるほどなるほど、ではどういう感じなんですか?」

 

脳内のロキシーは眠そうなジト目で青い髪をくるくるしはじめた。いつもの癖だ。かわええ。俺を誘っていやがる。おっといかんいかん。もっと真剣に打ち込もう。

 

「右手の人差し指で左手の平を触っても、人差し指側しか感覚がない感じです」

 

「はぁ、あなたは左手の平の感覚がないんですか?」

 

脳内ロキシーが自分の右手の人差し指で自分の左手の平を押して試している様子が目に浮かぶ。そして彼女が俺の左手の平を押すところまで想像できた。

 

「俺もロキシー先生を押してもいいですか?」

 

「いいですよ。さぁどうぞ」

 

なぜか脳内ロキシーは両手を腰にあてて、その小さな胸部装甲をずずぃっと押し出した。俺はためらいもなくその胸を押し込み……

 

「あぁん」

 

脳内ロキシーの顔が赤くなった。あぁもうなんでエロに走ってしまうんだ。くそっ、まじめにやろうとしてるのに。脳内ロキシーめ。

ん?まてよ。さっきの例えはおかしいぞ。今はじめてそのおかしな点に気づいた。

そうじゃない、そうじゃないだろう。例えば、俺は右手の人差し指でロキシー丘陵を触ってもロキシーの快感がわからないって話だ。そんなの当たり前だ。わかるほうがおかしい。でも治癒魔術の理論ではそうではないらしい。わからなきゃ治癒魔術の無詠唱化はできない。

なら、俺が右手の人差し指でルーデウス胸板平原を触ったらどうなるだろうか。その場合は俺は俺自身の感覚で触ったことが判る。そんなことも当たり前だ。わからないほうがおかしい。つまり!!!!!!!

 

天啓だった。脳内ロキシーが俺に伝えようとしたことはこれだったのだ。決して安易にエロに走り、お色気シーンを想像させるためではなかったのだ!なんと判り易い教え!さすがだぜロキシー先生!

 

俺は庭石の上ですっくと立ち上がるやひょいと石から飛び降りると、問答無用で自分の腕を『風裂(ウインドスライス)』で斬りつける。激しく出血し庭に血しぶきが飛んだ。

窓際でみていたジークがそれを見て目をまん丸くして、ついには大きな声で叫んだ!

 

「ママー!パパがー!パパがー!」

 

ジークよ。驚いたかい。でもそんなに大きな声を出すんじゃない。お父さんだって驚いているんだ。これ、結構痛いんだぜ。

そう、わざわざ痛い思いをしたいんじゃない。俺は初級の治癒魔術を唱えた。

 

「神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん、ヒーリング」

 

傷口が魔力によって修復していく。しかし傷が消えていくことを気にかけている場合ではない。

俺が今、感覚を研ぎ澄ます必要があるのは治される側の『対象となった自分の腕の魔力が干渉される感覚』だ。

 

ジークの声を聞きつけて、シルフィが2階から駆け下りてきた。

 

「どうしたの!?」

 

リビングにきたシルフィはジークを見つけて問いただしている。ジークは庭にいる俺を指さしていた。しかし、もう俺は自分の傷を治癒し終わり、怪訝な表情のシルフィに笑顔で応えた。

 

 

--シルフィエット視点--

 

朝の仕事を終えた頃、ルーシィ、ララ、アルス、それとロキシーは学校に向かっていった。

 

「いってきまーす!」

 

「いってきます。ふぁぁ」

 

今日も子供たちは元気だ。学校も楽しそうで何より。ロキシーは昨晩の夜伽が激しかったのだろう、眠そうだ。今日はボクの日。楽しみで仕方ない。ニヒヒ。

 

送り出してからほっと一段落して、2階の自室の片づけをしていた。アイシャちゃんは朝の仕事が片付いたら傭兵団のほうに行くだろう。

少しぼんやりしていると、大きな声でジークが階下で叫ぶのが聞こえた。こんな大きな声ははじめて聞くかもしれない。

 

「ママー!パパがー!パパがー!」

 

ボクを呼んでいる。ルディに何か?急いで階段を駆け下りて、ジークの声のしたリビングに飛び込んだ。

そこにはジークが立っていて、窓の外を指差している。それを追って顔を動かせば、ルディが別段変わった風もなく庭先に立っていた。いや……足元には血溜まりができていた。

 

「どうしたの?」

 

ボクは怪訝な表情で問いかけた。ルディは笑顔で応えた後、一瞬ためらって言った。

 

「いや、少し実験をしててね。あまりにもナイスアイディアだから、咄嗟に周囲の確認もせずに実行してしまったんだ。そこをジークに見られてね。少々驚かせてしまったみたいだ。ごめんなさい」

 

ルディはボクに謝った後、ジークにも謝った。

 

「ごめんな、ジーク。急に魔術をつかったら驚くよな」

 

またこれだ。説明しているようでいて大事なところをはぐらかしている。こういうときは怒ってくれってルディは言っていたね。ジークに謝る振りをしてボクから目をそらしたのがバレバレなんだ。ここは一つ、少し怒ってみよう。

 

「ねぇルディ、何か隠してるでしょ。そういうのボクも辛いの。ね、お願いっ、ちゃんと説明して」

 

ふふふ、どうだボクだってこれくらいの演技はできるんだ!上手くなったのは夜の甘え方だけじゃない。おおっと、怒っているはずなのに顔がニヤけちゃう。

 

 

--ルーデウス視点--

 

あ、やばい。シルフィが怒ってる。こういうのを溜めさせてはいけないのだ。目を逸らしちゃいけない。ここが正念場か?しかし、俺だって何かを誤魔化しているつもりはないんだ……こいうときこそ落ち着いて整理しよう。

ナイスアイディアが浮かんだ。実験をした。ジークに見られた。うん、俺はそう説明した。

あーそうか。オーマイガッ。何のアイディアか伝えてない。そりゃ隠し事してる感じに聞こえるよね。

 

「ご、ごめん。実は自分の苦手分野の克服について少し考えていてね。それでナイスアイディアが浮かんだから自分に風魔術を使ってそれを治療魔術で治したんだ。それで……」

 

「あー治療魔術の……それでジークが驚いたってことね」

 

治療魔術の無詠唱化、それを苦手にしてることはシルフィも知っている。それでもこれだけの少ない言葉で合点がいくとはウチの嫁は察しがいい。

 

「うん、『風裂(ウインドスライス)』の威力もちょっと間違えてしまって……血が舞ったんだと思う。反省してます」

 

「『風裂(ウインドスライス)』で!?……やりすぎよ。でもわかったわ、ルディ。それで何か掴めたの?」

 

正直いまの一回ではまだ何も掴めていない。でもこんな騒ぎを起こして何の成果もなかったなんていえるだろうか……まてまて、すぐわかる嘘なんてついたら余計怒るよな。ここは素直にいこう。それしかない。

 

「い、いやそれがまだあんまり掴めてないんだ。やっぱり苦手分野の克服って一朝一夕というわけにはいかないね。はぁ」

 

よし、少しションボリ気味で。弱みをみせる。パウロに習ったテクニックを思い出すのだ俺。

 

「気を付けてね、ルディ。あと何か掴めたら教えてね!ルディが強くなるのってボクもうれしいんだからねっ」

 

パウロ流モテテクの効果は絶大のようだ!

 

「わかったよ。ちょっと家で試すのは無神経だったね。空地に行ってくるよ」

 

「いってらっしゃい。パパ」

 

「ジーク、いってくるね」

 

これまで二人のやり取りを黙って見ていたジークが送りだしてくれた。俺もその送り出しに手を振り応えながら、家を出て空地に向かった。

 

--

 

空地についた俺は一応周囲を見回して子供たちがいないことを確認した。謝ったそばから同じミスはすまい。準備ができたところで実験再開だ。しかし、『風裂(ウインドスライス)』を使っての自傷行為は少しやりすぎだったな。痛みとジークの騒ぎ、シルフィの足音も相まって集中力が削がれたように感じた。

痛みを減らしてみよう。そう思い、土魔術の『土槍(アースランサー)』を可能な限り威力を絞り、そして範囲も極小で発動する。

すると非常に硬度の高い土の針が出来上がった。それを地面から風魔術を使って切り出した。

一応、ばい菌が怖いので火魔術で炙って殺菌しておこう。

ふふん、良い出来だ。これを痛覚のない箇所にさせば痛みなしに怪我をすることができる。それを治癒魔術で治すのだ。

プランニングした内容を実行に移す。さて、どうなるか。

 

ぷすりと自分の左肘をさした後、ヒーリングを唱える。

 

「神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん、ヒーリング」

 

神経を集中させると左肘の出血している部分で魔力の干渉を感じる、これかっ。これがシルフィが昔言っていたヤツなんだな。俺だって感じることができるじゃないか。

いろいろ試してみるべく傷口を大きくしたり、複数個所にさしたりする。

おお……わかるぞ。これが治癒魔術で俺が理解していなかった原理なのか。

外側から治してるんじゃなくて、肉体の内側から魔力で満たしていく感じだ。魔力から肉体のパーツを作り出すイメージもなんとなくわかってきたぞ。

治癒魔術の工程はかなり複雑だ。今まで他人から治癒魔術で何度も治してもらっているのに気が付かなかったのも道理だろう。痛みに紛れていてはこの工程を別視点から理解するのは困難だ。この実験方法は、壁に耳を当てて部屋の中の状況を知ろうとする方法に近いからな。観測が非常に難しい。だが、意図的に痛みを最小限にしておいて、治癒すればそれを実体験で理解できるってわけだ。

 

ヒーリングの工程でわかったことを列挙してみよう。

 1.傷ついていない細胞から修復情報を読み取る(停止条件の作成)

 2.修復対象の魔力の流れで正常でない部分を正常になるように干渉して捻じ曲げる

  (修正力の発生)

 3.修正力が肉体を回復させるのを待つ(回復)

 4.肉体の修正が停止条件になったところで魔術を止める(回復完了)

 

確かに、これは以前シルフィに教えてもらった理論とも合致する。

あの時は全く理解していなかった。いや実感が全く伴っていなかった。

俺の想像では、攻撃魔術に自然科学の知識が必要なのと同様に、DNAとかRNAがどうたらこうたら~って理論か、もしくは縫合や止血に関する知識が必要とおもっていて、まったく間違っていたわけか。

これを無詠唱でできるだろうか。少し不安になる。おじけづくな俺。

失敗してもいいように、最初は小さい傷口からはじめよう……焦りは禁物だ。

修復情報から完了状態をイメージする。自分の肉体の中を流れる魔力の流れを把握する。これを右手から発した治癒魔術の魔力で修正する!魔力の流れが安定したら、魔術を止める。どうだ!

 

--

 

数時間の特訓の後、俺は自己治癒に関しては無詠唱治癒魔術を使えるようになった。正確に言えば、欠損を回復するような王級治癒魔術以上ではどうだかわからない。だって怖くて試そうと思えなかったんだもん。しかし、たったこれだけのことだったのか。

まぁ、他人の治癒をするためにはやはり『他人の』修復情報や『他人の』魔力の流れを読み取らねばならないから、体得不可能だろうということも分かった。他人に試す気にもなれないしな。いや、しかし苦手分野もしっかり研究してみるもんだ。こんな数時間でいままで完全に無理だと思っていたことが改善するんだからな。

これなら初めてオルステッドと対峙して肺をつぶされたときも修復することができたはずだ。それで勝てる要素が増えるわけでもないだろうがな。

さぁ帰るか。シルフィにも良い報告ができそうだ。

 

おっとちょっと待てよ。一応の成果は出た。シルフィも俺が強くなるってのを喜んでくれるとさっき言っていた。だが……

何か喉に小骨がささったような感じがする。思い出そう、昔、俺が治癒魔術の無詠唱ができないって知ったときのシルフィの感想を。

 

「なんかちょっと、安心した。ルディにも出来ない事ってあるんだね」

 

そうだ。確かに言っていたぞ。エリスほどではないがシルフィも俺と肩を並べて戦いたいってことだ。

彼女にできて俺ができないことがあれば彼女はそこを頑張ってくれる。子育ての面で今や我が家を取り仕切っている彼女には既に戦闘面でのそういった劣等感はなくなっているかもしれない。だがあるかもしれないのだ。それを直接聞いてしまうのもヤボというものだろう。特訓したが、できなかった。俺はまたパウロ流弱みを見せるテクニックで乗り切る。どうだ。俺だってなかなかヤるもんだろう?お父親様(やじさま)よ。

 

そうして特訓を終えた俺は少し肩を落としながら帰宅した。

 

 

 


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