無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第020話_妹たちと旅立ちと

---故郷があるからこそ、故郷を離れるという表現ができる---

 

風呂を作って親孝行を終えた俺は、ここから妹たちの出産まで、ルーチンとなる修行をしながら、資金繰りのための教科書の原本作りとアロマオイルの生産を行った。

 

まず作ったのが読み書きの教科書だ。読み書きを楽しく覚えるために前前世の小学校の国語の教科書のように『物語風の物』、『エリスのように冒険が好きな子が喜ぶようなダンジョン物』を用意する。とにかく数を用意して好きなものを読んでもらうようにしよう。

物語モノとしてはスペルド族の名前は出さずに魔族の歴史の真実を伝える話とチェダーマンが出てくる話を書いた。その他にもイソップ童話とかグリム童話とか日本の昔話なんかも思い出せる限りでそれっぽくアレンジして書いた。アレンジした理由は、桃太郎や浦島太郎は鬼族や海族が本当に存在するこの世界ではいろいろマズそうだったからだ。また魔法が存在する世界でシンデレラは良いのだろうかと思いながら、思い出しつつ書いてみた。

スペルド族についてはもっと正確に書きたい気持ちがあったが、オルステッドやアスラ王国の後ろ盾なしでミリス王国から異端者の指名手配を受ける危険は避けたかった。

 

次に算術の教科書を作成した。こちらもエリスのように算術の勉強が嫌いな子のための工夫を少し考えた。まず、小さい子には『さんすうおはじき』を提案することとした。おはじきの数が何個になるか予想するなどのゲーム性がある遊びを載せておくことで、遊びで勝つために算術を勉強しようとする意欲がでるだろうという狙いがある。次に、前世でギレーヌの話をもって算数の必要性を説いたように、具体的な内容を絡めることにして、そこから段々と抽象的な話にするのが良いと考えた。なるべく身近な内容―お金、重さ、コップで何杯かとか、料理の話―を交えて計算が生活に便利であることを伝えるようにした。

 

これらの本は単純な人形精霊ではコピー作業ができなかったので魔石を収集するまでは作業を進められないだろう。

 

最後に、日持ちのするアロマオイルを生産した。こちらはそのうち工場化しなければならないだろう。元手がタダなのは嬉しいが作成するのに結構な時間を取られるのが問題だ。

 

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さて、旅に出ると長く家を離れることになる。今の地下室は家から近すぎるから見つけられると心配だ。そろそろ地下室を新調しよう。

どこに作ろうかと少し考える。ブエナ村から赤竜山脈へと行く間でなるべくブエナ村に近いところが良いだろう。そう考えた俺は神獣スパルナに(またが)り、魔力溜まりができそうな深い場所を探した。

3日間の夜の探索で、ブエナ村から徒歩で約半日の場所に良いところが見つかった。俺はその魔力溜まりのところに同じように地下室を掘った。

その後は2体目のスパルナを召喚し、荷馬車代わりにアイテムを運んだ。作りすぎたルード鋼のせいで完全に引っ越すまで4日かかった。

 

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もう2か月もすれば俺の誕生日がくる。つまり俺は6歳になって10か月が過ぎた。ゼニスは臨月に入り、一日中ベッドの上だ。リーリャも動けなくなり、家のことは俺がこなしている。それでも手が足りないので、シルフィアーナとシルフが家にきて手伝ってくれている。

 

「シルフィアーナさん、いつもありがとうございます」

 

「ゼニスとは同じ時期に子供を産んだ戦友みたいなものなの。彼女がまた戦うというなら私が手助けしても何も不思議じゃないのよ」

 

ここ数日、口癖のようになった俺の発言にシルフィアーナは笑って答えた。

 

「そう考えると、歳が近いとは思ってましたけど、シルフと僕って同い年なんですね」

 

「そうよー。でも、うちの子が剣も魔術も読み書き算術まで教えてもらっているみたいだし、本当に気にしなくてもいいのよ」

 

「はい!妹か弟か……それとも二人なので両方か、生まれたら僕もやらなくてはいけないことがあるので、もう少しお世話にならせてください」

 

俺は軽くお辞儀した。

 

「ねぇ、お母さん。ルディと喋ってないで味見してよ」

 

「えぇ、わかったわ」

 

一度、シルフィアーナはこちらに笑顔で頷いた後、シルフがご飯の用意をしているキッチンに向かった。もうすぐ夕食なんだろう。

 

パウロがゼニスとリーリャのところから出てきた。その顔はいつもより頼りなく見える。

 

「わりぃがトイレに行ってる間、ゼニスたちを見といてくれ」

 

「判りました」

 

そういって部屋の手前でパウロとすれ違った後、ゼニスの部屋に入った。入るとお腹の大きくなった二人がベッドと椅子にそれぞれ座っていた。

 

「こんなときにメイドの私がお力になれず……」

 

「お母さん、子供を産むことはグレイラット家で女性にしかできない、一番崇高で、とっても神秘的なお仕事ですよ」

 

「坊ちゃま……」

 

リーリャは感極まったのか少し泣きそうになった。少しキザ過ぎただろうか、でも自分の子供でも妹でも変わりはしない。これが俺の本心だ。

 

「こら、ルディ。リーリャを泣かせるような臭いセリフ言わないで」

 

ゼニスが冗談交じりに口を尖らせたので俺はゼニスが座っているベッドに軽く腰掛けて、ゼニスの手を両手でとった。

 

「母さま、お腹が大きくなってぐっと綺麗になりました。お腹の子供と二人分の魅力がありますよ」

 

リーリャだけを褒めたから口を出して来たんだろうと思い、ゼニスにも臭いセリフを言ってあげた。ゼニスは言われたことには喜んだようだが、すぐに表情を暗くした。生まれるのか?と身構えたが、すぐ口にしたことのせいだったと判った。

 

「あなたもパウロに似てきたのね。しかも、こういう事態に慌てないから少し違って母さん余計に心配だわ」

 

「ゼニス様、私は坊ちゃまがどんどんダメな存在にならないか心配です」

 

ダメって……パウロみたいにならないか心配してるのか。もっと悪い何かか。その考え、現世でもあたるかもしれません。ごめんなさい。

 

「俺の息子だぞ。俺に似て当然だろ……」

 

パウロがトイレから戻ってきて口を出した。それ言われると良くない流れになる気がする。

 

「だって……ねぇリーリャ」

 

ゼニスは目くばせした。

 

「はい。パウロには良いところもありますが悪いところも多いので悪いところが似るのは困ります」

 

「はいはい。良いところを評価してくれる嫁さん達に感謝だよ」

 

リーリャの辛辣な事実に対しても ―冗談だと判っているのだろう― パウロは口撃をやり過ごして、空いていた椅子に座った。

 

「ハハハ。じゃぁ父さま、後よろしくお願いします。僕はシルフィアーナさんたちを手伝ってきます」

 

「頼んだぞ」

 

そう言って、俺は部屋を出た。

 

--

 

そんなやり取りをしていた矢先だった。次の日の朝になって、ゼニスは無事に妹を出産した。やっぱり逆子で難産だった。ついでに俺の前世の記憶通り、ゼニスが生み終わった後すぐに、リーリャも産気づき、早産ながら無事、妹を出産した。俺は前前世の弟の出産には立ち会わなかったが、前世の子供や孫の出産には10回以上立ち合っていたから、ノウハウもそれなりにあり、逆子だろうが、早産だろうが、産婆さん無しで対応した。

今回はシルフもシルフィアーナもいたので俺はまったく心細くもなかった。パウロが妹を一人ずつ抱いては涙を浮かべて喜んでいる。

よかったなパウロ、これからが本当のお父さんだぞ。しっかりやれよ。

名前も俺の記憶通りで、ゼニスの子はノルン、リーリャの子はアイシャと名付けられた。

この世界では治癒魔術があるため、しっかりした町なら産後の肥立ちで悩むことはない。ブエナ村にも診療所があり、ゼニスに俺にシルフが治癒魔術を使える。

もう俺の旅立ちも近い。

 

--

 

アイシャが早産だったので安定するまで約1か月、俺は妹たちの世話をして過ごした。アイシャも妾の子供っぽくない、普通の子に育ってほしい。今回もゼニスとパウロは子供の夜泣きでノイローゼ気味になったが、リーリャがしっかりしている。大丈夫だろう。

 

今度こそ、妹たちの良き兄になりたい。それもこれも転移事件を何とかした後になるだろう。物心ついたときに兄としてしっかり甘やかしてやるのだ。そういう意味でもこれからのミッションは成功させねばならない重要案件だ。

 

「さて、そろそろ行こうかな」

 

俺が背負った背嚢は4歳の頃に作ってもらった物より大きい。出産まで暇を持て余したゼニスとリーリャが大きく作り直してくれたのだ。その背嚢には、パウロが書いてくれた3通の手紙が入っている。

 

「本当に馬車はいらないのか?」

 

パウロが本気で首を捻っている。俺の手持ちの金があれば馬車ごと買うことだってできるんだから、それもそうかもしれない。

 

「父さま、これを」

 

俺はそう言って手を差し出した。パウロが自然と受け取るように手をだす。パウロの手にはアスラ金貨10枚が握らされていた。

 

「おい、旅費がなくなるんじゃ?」

 

「大丈夫ですよ。まだたくさんありますし、向うでもお金を稼ぐつもりです」

 

「そ、そうか。母さんたちへの挨拶は?」

 

「もう済ませました。あぁ、シルフの件、頼みますよ。そのお金からお小遣いあげてください」

 

「旅に出るときくらい、他人(ひと)の事ばっかり考えてないでちったぁ自分のことを考えろよ。腕が立つっていっても危険は多いし、子供のナリじゃ狙われるからな。気を引き締めていけ」

 

「そうですね。気を付けます」

 

「なんかあったら、すぐ戻ってこい。力になるから」

 

「えぇもちろん。では、行ってきます!」

 

俺は玄関を出てロアの方角に歩き出した。2階の方からノルンかアイシャの大きな泣き声がした。きっとノルンだろう。元気が良いのは良いことだ。

 

--

 

家を出てすぐの角でシルフが待っていた。俺もそこで立ち止まった。

 

「すぐかえってくるんだよね?」

 

「あぁ、すぐ帰ってくるよ。そんなに心配しなくても大丈夫だ」

 

「いっしょにいっちゃダメ?」

 

「ダメだ。シルフも強くなったけどまだ覚えなきゃいけない魔術があるだろう?そうだそうだ。これを渡そうと思ってたんだ」

 

俺はシルフと話しながら、話の後半で背嚢を肩から降ろし、胸の前にもってきた。そして、背嚢の一番上と二番目に入れてあった物を取り出した。

 

「前に見せた重力魔術の教本、手直ししたからこれ見て、勉強してみてくれ。それとお前ももう立派な魔術師だ。卒業の証としてこの杖をやる」

 

「くれるの?」

 

「あぁやる。でも大事なものだから教本の方は絶対に他人に見せるなよ。約束できるか?」

 

「うん」

 

返事をしてから、シルフは俺から杖と教本を受け取った。

 

「よし、なら村に帰ってきたときに重力魔術ができるかテストしてやるよ。良いか、俺がいなくても甘えずに強くなってみせろ。俺はそれができると信じて、その杖をお前に渡すんだからな」

 

「わかった!」

 

シルフが威勢の良い返事をしたので、一つ頷いてから、背嚢を背負いなおして俺は村を西に歩いて行った。シルフも村外れまでついてきて、最後にこう言った。

 

「いってらっしゃい!ルディ!」

 

「いってきます!シルフ!」

 

俺はそこから街道に沿って歩いて行った。そして人目がなくなった頃合いを見計らって、道を外れて草原のほうに歩いた。草原に着くと、神獣スパルナを召喚し、彼に手綱兼命綱がわりのロープを付けて跨った。

 

「行こう、スパルナ!あの道が見える範囲で飛んでくれ」

 

スパルナがキィーーンと(いなな)き、数歩助走するとジャンプと同時に羽ばたいて空へと舞い上がった。そうして俺はロア近くまで飛んで、夕方にはロアへ到着した。

 

 




ルーデウス6歳と11か月時

地下室の在庫
 ・ルード鋼 4,000個以上 (+1000)
 ・ルード剣 50本    (+49)
 ・前世で起こったイベントの内容、要因とその後をまとめた前世日記
 ・魔方陣の下書き
 ・重力魔術の教本
 ・重力魔術の子供用教本
 ・クーエル草の種20個
 ・カズミザミの花20個
 ・魔力結晶×10
 ・魔力付与品(マジックアイテム)
  短剣(未鑑定)
  剣(未鑑定)
  弓(未鑑定)
  盾(未鑑定)
  靴(未鑑定)
 ・魔石        
  紫(小)×5
  緑(小)×3
  紫(中)
  赤(中)
  黄色(大)

持ち物:
 ・新しい日記帳
 ・着替え2着
 ・魔力結晶×10
 ・魔力付与品(マジックアイテム)
  短剣(未鑑定)
 ・魔石
  紫(小)×5
  緑(小)×3
  紫(中)
  赤(中)
  黄色(大)
 ・神獣の石板
  スパルナ
  フェンリル
  バルバトス
 ・アスラ金貨100枚
 ・サウロスへの手紙
 ・フィリップへの手紙
 ・ギレーヌへの手紙

シルフィ所持
 ・重力魔術の子供用教本
 ・紫色の魔石付き初級杖

次回予告
グレイラット家の何気ない日常を描いた原版を
彼だけ彫り抜き、インクで塗って写し取る。
誰もが見過ごしていた物事の輪郭線が
俄に浮かび上がった。

次回『ブエナ村の4人の女』
ただしルーデウスの内心は黒く塗りこめられたままだ。

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