無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。

特に
 原作:シルフィが10歳の誕生日にもらう予定の白のワンピース
については、
 拙作:シルフィが5歳の誕生日に既にもらっている
というように改変しました。
事象の改変ととってもらっても構わないのですが気になる方がいると思いますので明言しておきます。


第021話_間話_ブエナ村の4人の女

---三人よれば姦しい、四人もあつまりゃ大騒ぎ---

 

--シルフィ視点--

 

ルディが旅に出て14日がたった。もうじき、あたしも7歳になる。パウロさんとの剣術修行。一人でやる魔術の訓練。グレイラット家での家政婦の見習い。やることはいっぱいあって充実した毎日だ。でも、そこにルディがいない。大好きな彼がいないとやっぱり心にぽっかり穴が空いたみたいになった。寂しい気持ちになったとき、あたしはルディからもらった杖を見る。そうすると、ルディのあのカッコイイ笑顔が浮かんで「しっかりやろう」って気が湧いてくる。

 

重力魔術の教科書は、難しい言葉が減ってだいぶ読みやすくなっている。ルディが忙しい合間を縫って、あたし用に書き直してくれたんだ。最初に見た本は魔術教本と同じイメージだったけど、書き直した方は説明が判り易くて、これならなんとか理解できそうだった。ルディはあたしのために色んなことをしてくれる。ルディもあたしのことが好きなんだろうか。いや好きじゃない相手と2年も朝から夕方まで一緒に居てくれるわけない。きっと、そうだ。

 

ノルンちゃんとアイシャちゃんは生後1か月と半月。だんだん首が座ってきて子供のあたしでも抱っこして良いと許可が下りた。

始めて触った赤ちゃんは体温が高くて、壊してしまいそうでドキドキした。でも、泣いてるときに抱っこしてあやしたら、すんなり泣き止んでくれてホッすると同時になんだか、あたしでもやれるんだって自信がついた。

 

--

 

そんなある日、ゼニスおばさんがちょっと困った顔でお母さんに相談していた。

 

「ねぇ、フィアーナ。ちょっと恥ずかしい話なんだけどきいてくれる?」

 

「どうしたの改まって。良いに決まってるじゃない」

 

あたしは二人から少し離れた赤ちゃん用のベッドで、寝ているノルンちゃんとアイシャちゃんを見ていた。二人ともよく眠っている。起きたらまた大騒ぎだし、ちょっと休憩しよう。そう思っていた。なんとはなしに二人の会話が耳に入った。

 

「あのね。うちのルディなんだけど」

 

ルディの話?ちょっと興味あるな。

 

「うん?」

 

「その、もしかしてルフィちゃんのこと男の子と思っているかもしれないの……」

 

「え!?」

「えぇ!?」

 

お母さんも驚いていたけど、あたしはもっと驚いて大きな声を出してしまった。驚いた拍子に椅子から立ち上がってしまった。大きな声に驚いたんだろう。ノルンちゃんが目を覚ましてぐずり始めた。

 

「ご、ごめん、いいこいいこーよーしよーし」

 

あたしは気になる話だったけど、とにかくノルンちゃんの機嫌をとるのに必死だった。これに失敗したらアイシャちゃんも起き出して、大合唱だ。

 

 

--シルフィアーナ視点--

 

突然、友人が突拍子もないことを言ったのでびっくりした。娘も同じようにびっくりしたようだけど、ノルンちゃんが起き出してあやし始めている。ここは私がしっかり聞いておいてあげよう。

 

「あの……それ本当?」

 

「そうなの、だいたいおかしいと思ったのよね。ルフィちゃんのことシルフって呼んでるのあの子だけでしょ?」

 

「でもそれって、ルーデウス君の愛称がルディだから紛らわしくないようにだと思ってたけど」

 

「そうそう。私もずっとそう思ってたんだけどね。この前あの子と話していたらおかしなことを言ったのよ。ルフィちゃんのことについて『彼は良き友人ですよ』って」

 

「あぁそれなら俺も話していて聞いたぞ。てっきり俺の聞き違いかと思ったが、ゼニスも聞いたならヤベェな。あいつ真面目な顔して『いずれ彼は魔法大学に進学します』って冗談なしに言っていたぞ」

 

「あぁ!やっぱり……まずいわ。まずいわよ」

 

本当にあの(さと)い子が娘を男の子と勘違いしているんだろうか?ゼニスの話だけではとても信じることはなかったように思う。でも、通りがかったパウロさんもゼニスの意見を補足したから私も心配になってきた。ゼニスが言うように、これってちょっとまずいのかも。

 

「まずいって何がですか?奥様」

 

リーリャさんも面白そうな話の匂いを嗅ぎつけたのか、近づいてきた。逆にパウロさんは面倒事は御免だという感じで離れていく。

 

「あのね、聞いて頂戴。リーリャ。ルディったらどうやらルフィちゃんのこと男の子だと思っているのよ」

 

「なんと、そんな。本当ですか?」

 

「えぇ。パウロも違うところで似たようなことを聞いたみたいだし、まず間違いないわ。まずいわよね」

 

「まずいですね。たしか、ロアの領主フィリップ様にはご息女がおられるとか」

 

貴族のお嬢様が今の話にどう絡むのだろう。

 

「そうなの。ロキシーちゃんもだいぶ誑し込まれていたし、またライバルが増えたらルフィちゃんもさすがに勝ち目がなくなっちゃうわ」

 

ロキシーさんは確かルディ君の家庭教師をしていた魔族の人。そんな。年齢差を考えて欲しい。居なくなってから二年ほど経つんだから、人族の4歳や5歳の子を恋愛対象にするだろうか。

 

「ちょっと待って?何々……どういうこと?」

 

ゼニスとリーリャさんがどんどん話を進めているのについていけなくなって、私は口を挿んだ。

 

「あのね……ルディってパウロに似てるの。やっぱり親子なのねぇ。人誑しなのよ」

 

「は、はぁ」

 

たった7歳の自分の子供に人誑しって評価はどうなんだろうか。あきれた声が出てしまった。

 

「フィアーナさん、舐めてはいけません。パウロをよく見てください。昔から女癖が悪くて『こいつは俺の(すけ)だ』って言って憚らないような人物です。そして二人も娶っています。彼は昔、全種族の女性を自分の妻にしようと画策していたような男なんです。その人に似てるんです。坊ちゃんは」

 

 

--パウロ視点--

 

「へ、ヘックション!ヘックション!ヘックショーーーイ!」

 

悪寒のようなものを急に感じて盛大にくしゃみした。どこかで俺の良くない噂をしてやがる。きっと嫁たちだ。先程の話の流れなら、それもこれもルディが全部悪いに違いない。

チクショウ。

既に剣で勝つこともできない息子にどうやって意趣返ししてやるか。そうだ、あいつは妹を甲斐甲斐しく世話していた。きっと良い兄貴になろうと思っているに違いない。俺が娘の愛情を全部もらってやる。旅に出たことを後悔しろルディ。「お兄ちゃんよりパパのが好き!」大作戦だ。ふっふっふ。

 

 

--シルフィアーナ視点--

 

「私が思うにあの人はまだ可愛い方よ」

 

ゼニスの表情はついに深刻な顔になって、そう言ってきた。何が!?ルディ君ってそんなに(たち)が悪いの?

 

「そうですね。奥様、私も良く考えたら坊ちゃんの方が危険な気がします」

 

リーリャさんはいつも冷静な感じだ。でもだからこそ迫力がある。

 

「そうよ。あの人はかなりエッチだけど、自分から行動を起こすタイプだもの。判り易いし、直情的だわ」

 

「はい。でも坊ちゃんは違います。こちらに好きと思わせておいて、自分は手を出さないんです。それでいて女性が欲しい言葉をどんどん与えていくんです。最適なタイミングで最適な言葉選びで」

 

「つ、つまり?」

 

私は怖くなって尋いた。ルディ君は子供らしくない程に礼儀ができていて、優しさがある。嘘か真かパウロさんより剣が強いらしいと娘が言っていた。魔術もすごく、いじめられていた娘を助けてもくれた。聞いた話では、娘のせいでパウロさんと喧嘩したのに一切、娘のせいにしなかったという。男らしいわ。いつのまにか娘の家庭教師になっていて娘の信頼も厚い。その上、依存し始めた娘が自立できるように自分が旅に出た後、娘にやらせるべきことまで言付けたという。娘が気にしている髪色のことも気にかけてくれて、解決しようとしてくれている。さっき、気付いたことだがゼニスの庭にも同じものが植えてある。それもこれもルディ君が娘のことが好きならまだわかる。でも彼は娘のことを男の子だと思っているという。とんでもないことだ。ここまでのことを意図せずにやっているなら確かに人誑しだ。

娘はルディ君のことが好きだろうし、その好きは「いつかはお嫁さんになる」って感じの純情さだ。これまで起こったことを冷静に挙げてみて、娘がそういう気持ちになるのも無理はないと思った。娘にとって彼はヒーローで、白馬に乗った王子様だ。親ですら解決しえなかったことを実現する救世主だ。私だって同じ状況ならそう思っただろうし、あの娘の母としてそういう人物に娘が嫁いでいっても誇らしいと考えていた。

だがどうだ。娘は彼の恋愛対象外なのだ。なんということなの。情けないシルフィエット。可哀想なシルフィエット。挽回の余地はあるのか。いえ、彼女の親なら私にだって責はある。なんとか挽回させてあげなければ。そんな思いを固めていた間にリーリャさんが私の質問に答えていた。

 

「つまりですね。以前、家庭教師をしていたロキシーさん、ボレアス家のエリスさん、この旅で誰かの命を助けたら、その誰かさん、それにルフィちゃん、皆で坊ちゃんを取り合うことになります」

 

その中で娘は完全に出遅れてしまう!確かにまずい!ようやく二人の危機感に追いついた私にゼニスが追い打ちをかける。

 

「そうね。私はルフィちゃんが幼馴染ならその二人にも勝てる気がする。ルディの一番になれる気がするの。でもどうかな……ロキシーちゃんはルディの初めての家族外の女の人、憧れの先生。エリスちゃんが先に同世代の幼馴染ポジションに収まってしまう。これじゃぁルフィちゃんが優位に立てる居場所がない。勝負にな……」

 

勝負にならない?ゼニスが最後の言葉を言いかけて、固まってしまったのでどうしたのかと思った。その視線を追いかけたところに、顔を真っ青にした娘が立っていた。

 

 

--シルフィ視点--

 

無事にノルンちゃんをあやし終えたあたしは、ゼニスおばさまとお母さんの話に意識を集中していた。いつのまにかリーリャさんも話に加わっている。お母さんに事態を把握させようと丁寧に説明しているようだった。ルディはたくさんの女の子が好きになってしまう存在だという。ルディはカッコイイもん当たり前じゃない。でもそれが良くないっていう話をしている。ちょっとよくわかんない。―そう良くわからなかったさっきまでは。リーリャさんが結論を言ったところであたしもまずいってことが判った。それで、ゼニスおばさまが結論を言いかけたとき、あたしはいつのまにかお母さんのすぐ後ろまでふらふらと近寄っていた。

足に力が入らなくなって、ぺたんと座り込んだ。いつの間に涙がでたのか、頬を涙が滑り落ちた。

 

「おかあさん、あたしルディのおよめさんになれない?」

 

口にしたらどんどん涙がでてきた。お母さんも慌てて、否定しようとして、でも出来ないようだった。代わりにゼニスおばさまが否定してくれた。

 

「大丈夫、大丈夫よ!」

 

目が泳いでるから信じられなかった。それでも信じたい……でも、この話を始めたのもゼニスおばさまだもの。

 

「大丈夫です。ルフィちゃん。あなたの努力次第ですけど、まだきっと間に合いますよ。あなたに坊ちゃんの妻になる覚悟があれば、大丈夫です」

 

キリっとした顔のリーリャさんの言葉がすぅっと頭に入った。涙は止まった。けど、まだそれでもっていう気持ちがあった。この人だってさっきまでお母さんに散々ルディの危険性を話していたんだもの。だから、あたしはまだ立ち上がることができなかった。

 

「たぶん大丈夫!あなたは私とロールズの娘だもの。ちょっと女の子らしくすればルディ君だってあなたのこと放っておけなくなるわ。でも、そのための準備と覚悟は必要ね!さぁ立ちなさい!ボヤボヤしてたら間に合わなくなるわ!」

 

お母さんも腹が決まったみたいで、お父さんと家のことを話しているときみたいな安心感と力強さがあった。あたしもこうなりたい。うぅん、ゼニスおばさまの朗らかさ、リーリャさんの冷静さ、お母さんの優しさと力強さ、全部手に入れてもルディのお嫁さんになれないかもしれない。それくらい高い目標なんだきっと。これまで2年近くルディを独占してきたんだもの。ここからは甘えなしでいかなくちゃならないんだ。

足に力が入るようになった。私は立ち上がって、お母さんの手を取った。

 

「がんばりますので。よろしくお願いします!」

 

--

 

それからあたしは皆の勧めで髪を伸ばし始めた。村の中でいじめられるかもって思ったけど、もう大丈夫。よく考えたら私のがずっと強い。

 

ゼニスおばさまとリーリャさんが、グレイラット家で家政婦見習いをする代わりに女の子らしい服を仕立ててくれるそうだ。ルディの好みがわかる2人なら安心だ。

一方でお母さんは、ルディが帰ってきたら5歳のときの誕生日プレゼントでくれた白のワンピースを着なさいって言ってくれた。よく考えたら、あのワンピース、ルディに見せたことないな。ワンピースと新しい服、ルディが喜んでくれる方を着ることにしよう。

 

後、皆の意見であたしの愛称も変えた方が良いってことになった。シルフじゃ男の子だからシルフィが良いって。お母さんも昔、シルフィって呼ばれていたらしい。名前だけで、お母さんが見守ってくれる感じがする。

 

パウロさんは剣術の修行でまたゴネ始めた。やっぱり、女の子なんだし豆なんて潰したら女の子の手じゃなくなるぞ?って。でもルディは魔術も剣術もできるすごい人だから、たとえ及ばなくてもルディの凄さを理解できる人になりたいって思った。だから剣術の修行はヤめなかった。少しくらい引き締まった身体の方がルディの好みだろうとも思った。だって、ゼニスおばさまもリーリャさんも胸は大きいけど、ウェストと足はすごい引き締まってる。お母さんも結構、良い感じだけどあそこまでじゃない。元冒険者や元剣士の鍛え方は伊達じゃないってことだ。胸ももう少ししたら大きくなるのかな。

 

リーリャさんは宮廷式の礼儀作法を教えてくれるそうだ。といってもアイシャちゃんがもう少し大きくならないといろいろ忙しいのでもう少し後の話になる。ルディの家は下級騎士だけど元は上級貴族の出なんだって。その上、ルディが才覚を発揮し始めれば、国が放っておかないだろうから、その妻が礼儀作法をしっかりできないと困ることになるんだって。国とか貴族とか騎士とかよくわからないけど、必要なら早い内に学んでおいた方が良い気がした。

 

ルディが帰ってきたらきっと驚くだろう。驚く顔が早くみたいな。

 

 

--ゼニス視点--

 

夕食を終えて、リーリャと並んで娘に授乳しているのをパウロが真剣な顔で見ていた。最近、彼は娘をどう育てようか本気で悩んでいるみたい。感覚派の彼がここまで娘に固執するのは何なのかしら。ルディが勝手にどんどん育ってしまったことに危機感でもあるのかもね。私もルディは天才だと思う。ちょっと手がかからなさ過ぎた気がする。7歳目前でもう自立してしまった。あんなに愛らしいのに。だから娘たちには普通でいて欲しいのかもしれないわ。

 

この前のシルフィちゃんの騒動の後、私は少し嫌な考えに囚われていた。ルディは賢い、天才的だ。だからこんな嫌な風にも考えてしまう。今のうちに吐き出してしまおう。

 

「ねぇ、リーリャ」

 

「どうしました?奥様」

 

「あのね。シルフィちゃんの件なんだけど」

 

「えぇ、分かっています」

 

「え?」

 

何を判っているのかしら。

 

「坊ちゃんが本当はシルフィが女の子だと気づいている可能性があるというお話でしょう?」

 

私はコクリと頷いた。顔に出ていたのだろうか?そんなこともないだろう。近くの椅子に座って話を聞いていたパウロなんて露骨に驚いている。つまり、リーリャも同じことを考えていたという訳ね。

 

「なぜ坊ちゃんがそうしたのか考えましたが、どうしても答えがでませんでした」

 

「そうなのよ。あの子が周囲の人まで巻き込んで演技したとすると、ちょっとその理由が思いつかないのよね」

 

「単純にあいつが天然だってことじゃねぇのか?」

 

リーリャはそんなパウロの意見は違うだろうって顔をしている。私もリーリャの意見に賛成だ。

 

「もしかしたら、これが一番シルフィちゃんを奮起させる方法だったのかもしれませんね」

 

ありそうな事だとも思った。あんな人誑しじゃ、本当に奥さんが4人くらいになってしまうかもしれない。ミリスのお母さんに孫の顔を見せにいくことは叶わないかもしれない。息子がハーレム作っていたら絶対に叱られるのは私だ。

 

 

 


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