無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第3章_少年期_優しき予言者編
第022話_到着!_ロアの町


---初めて訪れた町、守れなかった町、懐かしき町---

 

俺は麦畑が東西に広がる道を北に見えるロアに向かって独り歩いていた。時刻は西にある太陽が畑の先の地平線にぶつかる頃だ。周りに人影はない。農業従事者たちは朝が早いから夕方には家路に着き夜になる頃に寝る。そういうところはブエナ村の住民と同じだ。だからこの時刻のこの一帯は閑散としている。孤独な旅だ。

 

だが、これからやらねばならぬことの多さを考えると、胃がチクチクする不安感とともに新しい人生の幕開けのような気がして、同時にワクワクする気持ちもあった。サウロス、フィリップやヒルダと仲良くできたら良いが。

あの懐かしい声を聞いて、顔を歪まさずにいられるだろうか。前世で言えば、転移事件で死に別れた義父(とう)さん、義母(かあ)さん、それに義祖父(じい)さんだ。俺は前世の終りから随分涙もろくなった。水魔術で演技する必要性をまったく感じない程だ。辛い涙ではなく嬉し涙だが、初対面で泣かれたら相手も困惑するだろう。涙が出ないように少し気持ちを固くして行こう。

 

城塞都市ロア。ラプラス戦役の最終防衛ライン。それが近づいてきた。強固な守りを表すように高い城壁で周囲を囲んでいる。城壁は一定間隔毎に、見張りが置けるように塔の形をしているので、それがまた外から来るものに圧迫感を、中の住人には安心感を与えている気がする。今は一重の防壁だが、歩いてきた道すがらには朽ちた城壁跡が2重、3重とあった。これらはラプラス戦役で壊されたか、戦後の町の発展によって不要となり壊したのか、昔フィリップの所で読んだ歴史書には記載がなかったので、それは良くわからなかった。こういう町のローカルな歴史は別の本として編纂されているかもしれない。今後、復興計画の立案を頼まれたらフィリップの所で読み込む必要があるだろう。

 

ブエナ村から西進してきたが、ロアの東側には入り口がない。推測だが、東から西へと来た魔族軍に対して迂回させるために東門を用意しなかったのだろう。東から来た道は南門に続く道に繋がっているから、そこまできたら北に向かってロアを目指すことになる。その南門に向かう道を俺は歩いている。もう南門は目前だ。

 

南門につくと、どこの子供だと兵士に声をかけられた。俺がブエナ村から一人でやってきたと言うと、不審者を見定めようと兵士が俺を凝視している。

 

「少し、事務所で話をしよう」

 

「わかりました」

 

子供が遠くの村から一人で徒歩で来たと言えば、こうなるのは判っていた。だから、彼らの指示で入り口の外側にある事務所に通される状況に任せておく。言われるがままおとなしく座ると、俺の前に二人の鎧を来た兵士が座る。俺から向かって右の男は少しだけ(あつら)えの良い鎧を着ていて、左の男は呼び止めた兵士と同じ鎧を着ている。おそらく誂えの良い鎧を着た方は上役(うわやく)だろう。そして、部下の男からまずは質問を受けた。

 

「お父さんとお母さんは一緒に来なかったのかい?」

 

「一人旅です。僕の名はルーデウス・グレイラット。あと1月(ひとつき)で7歳になります。父の名はパウロ・グレイラット。ブエナ村で下級騎士をしており、お役目があるため旅には同行できませんでした。また、母も妹を出産した直後で同じく同行できませんでした」

 

聞かれていないことまで立て板に水の如く返した。次に質問をしたのは上司の男だ。

 

「どのような用事できたのかな? そんな遠くから子供を馬車も使わずに一人で寄越す。この辺りの治安が良いと言っても少し非常識なんだが。非常識って言葉、わかるかい?」

 

「判ります。大叔父のサウロス様と叔父のフィリップ様にそれぞれお伝えしたいことがあると父から手紙を預かり、それを持参しました。私は子供ですが、水聖級魔術師ですので両親も心配することなく送り出してくれました」

 

部下の男が驚いて声をあげた。

 

「水聖級魔術師!?」

 

部屋の中で別の机に向かって調書らしきものを取っていた男も同じように俺をまじまじと見ている。驚きを顔にださなかったのは上司の男だけだ。そして上司の男は話をしっかり吟味して俺に次の質問をした。

 

「手紙を改めさせてもらってもいいかね?」

 

話しかける口調が少しだけ大人に対する物に変わった。相手が水聖級魔術師なら子供扱いしなくても良いという判断かもしれない。それに俺の口調は基本的に礼儀に(かな)っているだろうからそこも判断材料か。

 

「封を開けるのは困ります。封を開けないと約束してくださるのなら構いません」

 

「封を開けたりはしないから心配せずとも良い。宛先や送り主を確認したいだけなんだ」

 

俺はそれを聞いて荷物の中から封筒を2通取り出し、机の上に置いた。そこから手紙を自分の右側に向かって、できる限り手で押し出して、上司の男の前へと差し出した。

 

「っどうぞッ」

 

俺の身体はまだ7歳児未満だ。前に放り投げるのは無作法なのでやらなかったが、それでも少し遠かった。これくらい勘弁して欲しい。

 

上司の男は礼儀については何も言わず、そのまま少し手を伸ばして手紙が入った四角くて白い封筒を確認した。

 

「言っていることに間違いはないようだが、君のような不審者を簡単に町に入れることはできない。君が言う水聖級魔術師というのが本当なら特にね。悪いけど今から町長のところに使いをやるからここで待っていてくれるかな」

 

「お勤めを増やしてしまい申し訳ありません。可能であれば、フィリップ様のところで護衛をしているギレーヌさんを呼んでください。彼女宛ての手紙も持っておりますのでよろしくお願いします」

 

「護衛の名前はギレーヌだな。聞き分けがよくて助かる。では頼むよ。もし泊まる所がなければ、宿屋も紹介してあげるからゆっくりしていってくれ」

 

「おそらくサウロス様のお屋敷に逗留するので大丈夫です。ご配慮ありがとうございます」

 

そう言うと、上司は俺に封筒を返却してくれた。封筒を受け取り背嚢に入れなおしている間に彼らは席を離れた。

 

その後やることもなく事務所で座っていたが、しばらく静かにしていると兵士たちの話し声が聞こえてきた。

 

「ヤレヤレ、もうすぐで夜番と交代だってのに」

 

「そうボヤくなよ。これもお勤め、給料のうちだぞ。そんなことよりもうちの息子よりあの子は小さいのにしっかりしている。俺は感心したね。家に帰ったら嫁と息子の躾について相談しないとな」

 

「そういえば水聖級魔術師って本当かね」

 

「俺も無理があると思う。信じちゃいないが用心に越したことはない」

 

門の通行を管理する兵士が情報交換している声だ。まぁ話の肴の本人に丸聞こえなのは問題だと思うが、顔も知らぬ子どもよ、お前の躾が厳しくなってしまうことは非常に残念だ。是非、これに負けずに伸び伸びとした子供に成長することを願う。

 

--

 

陽もすっかり落ちて暗くなり、近くの酒場から喧噪が聞こえてきた頃、俺の記憶より若かりしギレーヌと執事のトーマスが事務所の中へ入ってきた。

 

「こいつか」

 

ギレーヌは子供の俺を見ても驚いてはいない。まずはこちらから挨拶した方が良いだろう。俺は座っていた椅子から立ち上がって貴族式の礼をした後、二人に挨拶した。

 

「こんにちは。パウロ・グレイラットの長子、ルーデウス・グレイラットです。夜分にご足労いただき恐縮です」

 

「パウロの息子というわりにヤケに礼儀が正しいな。怪しいぞ」

 

そうギレーヌが言ったものだから事務所の中の兵士たちは少し警戒した。俺は昔もこのやり取りをしたような気がするが、まぁいいだろう。

 

「ゼニスの息子でもありますので。どうやらあなたが剣王ギレーヌさんですね」

 

「なるほどな。お前の言う通り、私がギレーヌだ。私を指名した理由を言え。私はパウロの息子の顔なぞ知らんぞ」

 

「実はギレーヌさんへのお手紙も預かっておりますので、中を拝見していただければ、僕が怪しくないことを証明できると思ったのです」

 

そう言って、俺は手紙を隣のトーマスに渡した。ギレーヌは当たり前の顔をしているが、トーマスはなぜ自分に手紙が渡されたのか不思議という顔をした。

 

「ギレーヌさんは文字が読めないと聞き及んでいますので中をお確かめください」

 

「ふむ、ギレーヌ殿。良いかな?」

 

トーマスは一応、ギレーヌに許可を求めた。

 

「そいつの言う通りだ。私は文字が読めんから代わりに読み上げてくれ」

 

「では」

 

そう言うと、トーマスは手紙を読み始めた。

 

「ゼニスとリーリャの次に愛するギレーヌへ。

お前のあの愛らしい尻尾は元気だろうか。機会があったらまた触らせて欲しいものだ。さて、この手紙を子供から渡されたのなら、そいつは俺の息子のルーデウスだ。フィリップのところに用事があって行きたいと言い出したが、俺はお役目があって同行できない。ついては一人で送り出すので町や屋敷に入れるように助けてやって欲しい。喧嘩別れしておいて図々しいと思うが息子のために協力を頼む。

一緒に水浴びしたときのことを懐かしく思う心の友、パウロ・グレイラットより。

以上です」

 

トーマスは中身を几帳面に読まされたので、その悪ふざけした文面に少々呆れ気味だ。対して、ギレーヌはこんなもんだろうという顔をしている。

 

「父らしい手紙ですね」

 

「こいつはパウロの息子で間違いがないようだ。歳はいくつになる?」

 

「もうじき7歳です」

 

「時期もあっているな。おい門番!こいつの身元は私が保証するから通してやってくれ」

 

時期があっている。パーティが解散した時期ということか?

 

「判りました。剣王ギレーヌが保証してくださるなら私どもも安心です。どうぞお通りください」

 

先程の上司の男が返事をした。

そうして俺は南門からロアへと入った。

 

事務所を出て南門の内側へと歩くと一台の立派な幌付きの馬車が停まっていた。ギレーヌとトーマスが乗ってきた馬車だろう。そう思ってみているとトーマスが御者台に、ギレーヌは荷台に乗った。そして荷台からギレーヌの声がする。

 

「おい、ルーデウス。お前も荷台だ」

 

ギレーヌの指示に従って俺も荷台に乗った。荷台の中でギレーヌの対面に座ってすぐ、感謝の意を示すことにした。

 

「ギレーヌさん。夜分にお呼びだてしてすみません。正直、明日まで事務所で寝ることも覚悟していました」

 

「ふん、ルーデウス。子供が変なことに気を遣うな。あと、ギレーヌでいい」

 

「なら、僕もルディちゃ……ではなくてルディで良いですよ。ギレーヌ」

 

「いいだろう、ルディ」

 

昔はここでルディちゃんって悪ふざけした後、ルーデウスで頼みますってお願いしたから、ずっとギレーヌは俺のことルーデウスって呼んでいたな。年上を呼び捨てにするんだったら俺も愛称のが気が楽だ。だいたい親父の知り合いならこれくらいの距離感のが良い。変に肩肘はって家庭教師なんてしたもんだから、エリスからの呼び方も”ルーデウス”だった。

 

ラノア大学に行ってシルフィに指摘されるまで、敬語の言葉遣いもなかなか抜けなかった。ギレーヌから見れば子供が敬語でしか話してくれず、嫌な気分だっただろう。

気を付けよう。俺はコミュニケーション能力も仕事の遂行能力も磨いてきている。あの時の俺とは違う。これからやることも多いが、余裕をもって進めていこう。

 

そんな風に考えを整理し終えると、もう馬車は雑踏を抜けて貴族的な屋敷が並ぶところまで来ていた。荷台の幌の入り口部分から後ろに遠ざかっていく町の景色はどれも懐かしく、家庭教師時代にエリスとギレーヌと三人で休みの日に商店街へ出かけた思い出がまざまざとよみがえった。

そして馬車のままサウロスの屋敷の入り口をまたいだ。トーマスは俺とギレーヌを玄関に降ろすと、そのまま馬車を返してくるらしく、馬車小屋の方へ消えて行った。

俺はギレーヌについて玄関から屋敷の中に入り、懐かしい建物とその内装を感慨深く見ることなく歩いて行く。残念だが俺はここには初めてきたことになっている。次に来る挨拶に意識を集中した方がいいだろう。失敗しても構わないが、挽回する手間はなるべくかけたくない。全ては時間との勝負なのだ。

気持ちを固めながら屋敷の中を進み、ついにフィリップの執務室に続く長い廊下までたどり着く。そこまでギレーヌの後ろを歩いていると、通路の反対側からトーマスが少し小走りに走ってきた。おそらく馬車小屋から裏口を通ってここまで俺たちに追いつくように急いで来たという事だろう。そしてトーマスはフィリップの執務室の扉をノックして、少しだけ扉を開けた。

 

「トーマスでございます。客人をお連れしました」

 

"入りなさい"

 

うっすらとフィリップの声が聞こえ、トーマスが開けたままの扉から離れた。

 

「ルーデウス様、どうぞ中へ」

 

トーマスに促されて俺は部屋の中に入る。部屋の奥にはフィリップのための執務机があり、それより入り口側にテーブルセットが置かれていて、テーブル奥のソファにはフィリップとサウロスが鎮座している。俺はテーブル手前のソファに近づいて挨拶した。

 

「夜分に押しかけて申し訳ありません。パウロ・グレイラットが長子、ルーデウス・グレイラットです。以後、お見知りおきを」

 

そう言ってから貴族式の礼をした。俺が礼をしている間にトーマスはフィリップの後ろへ、ギレーヌは俺の右後ろで壁にもたれて事の推移を見守るようだった。ゆっくりと礼を解く。

 

「私はロアの町の町長フィリップ・ボレアス・グレイラットだ。君の叔父にあたる。隣にいるのは、このフィットア領の領主サウロス・ボレアス・グレイラットだ。僕の父で君の大叔父にあたるね。まぁいい、長旅で疲れただろう掛けなさい」

 

フィリップに促されて、背嚢を肩から降ろして足元に置き、対面のソファの真ん中に座った。

 

「ふーん、大人を前にしても堂々としているね。父が怖くないのかい?」

 

「威厳がおありだとは思います。ボレアス家の武人、歴戦の強者ともなれば驚くことではございません。それに私のために頭を下げにきたパウロに手を差し伸べてくださったお二人。私からしてみれば命の恩人でございます」

 

「ふん、(わっぱ)が小賢しい言葉を使う。お前の命の恩人などではない。勝手にお前が助かっただけのことだ。そのような恩着せがましいつもりなどこの8年、一度も考えたこともない」

 

「僕も父と同じ思いだよ」

 

「これは分を弁えず、申し訳ありません」

 

「はぁ。パウロの息子が来たというから、どれだけ礼儀知らずな子が来るのかと思ったのに随分と礼儀正しいね。パウロが泣きついたのが8年前だからまだ7歳くらいだろう?本当にパウロの息子かい?とても信じられないね」

 

「あと数日で7歳になります。疑われるのも御尤も。ですが、こちらの手紙を見て頂ければご納得いただけるかと思います」

 

そういって足元の背嚢から2通の封筒を取り出してテーブル上の中空に差し出した。それをトーマスが受け取り、懐から取り出したレターオープナーで封をあけてサウロスとフィリップへ手渡す。

 

二人は手紙の中をそれぞれに読む。先に読み終わったフィリップが顔を上げる。

 

「パウロが言っていることは本当かい?(にわか)には信じ難い話なのだが」

 

「すみません、父は何と?」

 

「なんじゃと!?」

 

フィリップと話しているとサウロスが突然大きな声をあげて立ち上がったので会話が遮られた。フィリップも自分の話を中断して、何事かとサウロスの方を見ている。

 

「ここに書いてあることは本当なのか?」

 

「すみません、父は何と?」

 

背の高いサウロスが立ち上がったので、俺は見上げながら尋ねた。フィリップにしたのとそっくり同じ質問をサウロスにする。

 

「赤い珠について書いてある」

 

見下ろす形となったサウロスの目は俺を厳しく射抜いている。俺はその表情から嘘を見逃すまいという強い意思を感じた。

 

「あぁそれなら私が言ったことです」

 

「なぜ知っている」

 

「なぜと言われましても……」

 

「儂が見つけたのがまだ三日前なのだぞ?」

 

「占いにそう出ただけですので、もう少し早くお屋敷にきたら意味のわからない手紙になっていましたね」

 

「手紙には赤い珠がフィットア領に災厄をもたらすと書いてある」

 

「ならば、父に伝えた占いの結果が書いてあるようですね」

 

「本当に起こるのか?」

 

「判りません。起こる可能性があるのでそれを調査しに来ました。私の占いが間違っている可能性もあります」

 

サウロスは筋骨隆々の腕と胸に力を入れたようで一瞬前より一回り大きく見えた。そして俺の言葉を吟味し、気持ちがまとまったのか質問を繰り出した。

 

「おまえの占いはどれくらい信用できる?」

 

「そうですね……うーん……知らないはずの赤い珠がここにあることを予測する程度には信頼できるかと思います」

 

「そうか」

 

どうやら納得してくれたらしい。いや、これから起こるかもしれない問題に意識が行ったようだ。年齢を感じさせない身のこなしですっとソファに座り直すと、両腕を組み、一点を見つめて、口を真一文字にしている。

 

話が終わったようなのでフィリップの方に向き直った。

 

「お話の続きをお願いします」

 

「あぁ、僕の方には父が許可したら、しばらく逗留させて欲しいこと。ロアで商売をしたいというので商売の許可をしてやって欲しいこと。可能なら後ろ盾になって欲しい、と書いてあるよ。あとは、そこのギレーヌより君が強い可能性があるって書いてあるね。そして読み書き、算術ができて、君は水聖級魔術師なんだって?それだけの礼儀を身に付けて。たった7歳なんだろう?俄には信じがたいね」

 

フィリップの言葉にきっとギレーヌは反応を示しただろう。例えば耳を立たせるとか、尻尾を跳ね上げるとか。だが、あいにく俺からはそのチャーミングな動きは見えなかった。一方で、トーマスは目を(みは)っている。

 

「それでご返答は?」

 

「商売については内容によるよ。何の商売をしたいんだい?一応、この町の町長としてはね、身内だからといって簡単にOKすることはできないかな」

 

「御尤も。ええー、私が販売したいのはダンジョンで手に入れた魔力結晶、魔石、それに魔力付与品(マジックアイテム)。一般向けには、バティルスの茎をつかった精力剤とアロマオイル。文字を教えるための教科書と絵本。それに算術の教科書。石で作った少し高級な食器ですね。他はこの町の需給と相場を見て、商品を考えます」

 

「精力剤?媚薬ではないだろうね?あとアロマオイルとは何だい?」

 

「バティルスの茎はブエナ村ではもう食用にしておらず、廃棄しているものなので、商品にならないかと研究しました。完成した精力剤は媚薬のように強力なものではありません。ちょっと元気になる飲み物です。また、アロマオイルは長期保存ができる香料の元となる油です。これを数滴たらして香のように焚くと部屋に匂いが充満して心を落ち着ける効果があります」

 

「ふーん、面白そうだね。良いだろう。店舗はこちらで見繕ってあげるし、商人組合にも登録を出して置こう。取引したい商隊や聞いておきたいことはあるかい?」

 

「品物の仕入れは自分でできますので商隊への口利きは必要ありません。商人組合のルールが解りませんので、その辺りのルールを教えてくださる方を紹介していただければと思います」

 

「そうか……。ならば、商人組合への紹介状と登録申請書に私のお墨付きを添えておくから自分で登録してくると良い。組合事務所で説明してもらった方が確実だろう」

 

「判りました。お手数をおかけしますがよろしくお願いします」

 

「明日の昼には準備しておくよ。それで、君が水聖魔術師というのは?」

 

「事実です。3歳よりロキシー・ミグルディアに師事し、4歳になる前に水聖級魔術師として認められました」

 

「ロキシー・ミグルディア。はてどこかで。あぁ、家に家庭教師をしに来て、娘に叩き返された魔族の娘だね。なら、このギレーヌより強いってのはどうなんだい?」

 

「さぁ。私は6歳の頃に父と模擬戦をして勝ちましたが、剣王と戦って勝てるかどうかは分かりません。光の太刀を躱すことができれば勝つ可能性があります」

 

「へぇ。一年前にパウロに勝てたからってギレーヌより強いとは限らないけど。どうだい?ギレーヌ。やってみるかい?」

 

パウロのやつ余計な煽りをよくも書いてくれたな。よっぽど自分が言い訳できずに負けたのが悔しかったのだろう。あのときの浅慮が招いたことだと思えば自分のせいにできる。俺はぐっと堪えて、仕方ないと思い直した。

 

「パウロに勝てるなら、フィットア領内においては私が力を見るのが妥当だ。私に勝てるなら、アスラ王都に行って水帝か水神と力比べすると良い」

 

壁にもたれているギレーヌへと顔を向ける。

 

「あまり、父の言葉に騙されないでください。私とギレーヌが戦っても何も得るものがありません」

 

「なら、お前が勝ったら一つ言う事を聞いてやる。私が勝ったら私に読み書き算術を教えろ」

 

ギレーヌはやる気満々のようだ。

 

「はぁ……明日の朝でよければ承りましょう」

 

なぜかギレーヌと戦うハメになってしまった。怪我したくないし、させたくないが、本気でやらないと俺の命が危なそうだ。話が決まったのを見計らったのだろう。考え事をしていたサウロスが一言追加した。

 

「フィリップ、ルーデウスを家に泊めてやれ。空いている客間に住まわせろ」

 

俺はまたこの屋敷で厄介になることになった。

 




ルーデウス6歳と11か月時/ロア1日目

持ち物:
 ・新しい日記帳
 ・着替え2着
 ・パウロからもらった剣
 ・ゼニスからもらった地図
 ・ミグルド族のお守り
 ・魔力結晶×10
 ・魔力付与品(マジックアイテム)
  短剣(未鑑定)
 ・魔石
  紫(小)×5
  緑(小)×3
  紫(中)
  赤(中)
  黄色(大)
 ・神獣の石板
  スパルナ
  フェンリル
  バルバトス
 ・アスラ金貨100枚
 ・サウロスへの手紙
 ・フィリップへの手紙
 ・ギレーヌへの手紙

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