無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第025話_エリスの想い

---好きに生きていくだけじゃだめなのかしら?---

 

家に突然変な男の子がやってきた。ギレーヌの昔の冒険者パーティの息子で、あたしとも遠い親戚なんだって。城門で立ち往生したからって年上のギレーヌを呼びつけたそうだ。なんてやつなの。

でも一人旅でここまで来たんだって羨ましい。あたしはまともに一人で家からも出られないっていうのに。あたしも男の子に生まれていれば……いいえ違うわね。そうしたら弟みたいに大臣やってる伯父さんの子にされていたわ。その子が2通の手紙を持ってきてお祖父さまもお父さまもその内容に驚いていたってことにギレーヌも驚いたんだって。あたしもお祖父さまが驚くなんて少し意外。それで、あいつの父親の手紙にはギレーヌと戦って勝てるかもしれないとか書いてあったそうなの。とんだ親バカよ。

あたしより年下が勝てるはずがないわ。あんなひ弱そうな子。背もあたしより低いじゃない。あたしだって勝つ自信があるわ。どうせだからあたしが先に倒してやろう。そうしたら明日ギレーヌが褒めてくれるかもしれない。そう思ってあいつに夜襲をかけた。あたしが寝てるあいつを木剣でボコボコにするはずだった。明日、模擬戦ができないくらいに。

なのに寝てたはずのあいつが短剣で先制してきて……その後の記憶はあたしにはない。たぶんあたしは負けたんだ。

目が醒めたらギレーヌに簀巻きにされてた。余計なことはするなとちょっと怒っていた。ギレーヌも模擬戦にワクワクしてるのかもしれない。力が示せるから?きっとそうね。

 

ギレーヌに簀巻きのまま背負われる形で食堂に行き、そのまま椅子に座らされた。このままじゃご飯が食べられないわ。そう思って唸っても皆が朝食を食べ始めたのに簀巻きは解かれなかった。それでこれは罰だと悟った。でも何に対する罰なのか考えても解らなかった。お祖父さまもお父さまもお母さまもあたしを助けてはくれなかった。それがちょっと悲しかった。あたしのお腹の虫がぐーぐーなってたのだってきっと聞こえていたのに。お祖父さまとお母さまは平気な顔でご飯をたべて仕事に行っちゃった。こんなこと今までになかった。あいつが来てからおかしくなったんだ。

 

皆が食べ終わった頃になってようやくギレーヌが簀巻きを解いてくれた。でもあいつの許可を取らなくたっていいじゃない。まるであいつに助けられたみたいな惨めな気分になった。

あいつが偉そうにしているのがほんとに気に入らない。大人みたいな口調で話しちゃってさ。どういう育て方されたらあんな風になるのかしら。絶対に女の子にはモテないタイプよ。その上、あたしがご飯を食べていて返事ができないことを良いことにギレーヌに負けてもあたしをボコボコにして判らせるつもりらしいわ。なんなのよ。年上を馬鹿にするんじゃないわよ。

もう不満が限界だった。でも大丈夫、もう少ししたらギレーヌが倒してくれる。あたしの剣のお師匠さまだぞ。こんなちんちくりんの子供に負けるわけない。模擬戦で負ければあいつも学校の子たちみたいに情けなく泣くに決まってる。それを見てスッキリしよう。そう決めた。

 

模擬戦が始まった。二人の戦いはあたしが習った剣術とか一端の剣士になった後に想像していたものとかそういうレベルを遥かに超えていた。

あいつが何人にも見えたり攻撃が飛んで行ったり。ギレーヌ本人もすごい速さで走っていた。最初はギレーヌに余裕がありそうだったから心配していなかった。でも、だんだんとギレーヌの顔から余裕がなくなって、あいつの手が雷みたいに光ったらギレーヌが黒焦げだった。ギレーヌはだいたい黒いけど。

それでもあたしは負けて欲しくなくて猿轡を噛まされたままで彼女の名前を叫んだ。そしたらギレーヌは目を覚ましてくれた!思いが通じたと思った。あたしからみても必殺の一撃が入るはずだった。

 

勝った!

 

でもなぜかギレーヌは空の方へと飛んで行って、地面に落ちるまで嫌な時間がかかった。それでギレーヌは動かなくなった。あれは死んだんじゃないの?訳が分からなかった。でも分かることもある。彼女は負けたんだ。

一緒に見学していたお祖父さまたちの表情にも恐れのようなものを感じた。あたしもギレーヌを倒すあいつが怖くなった。

そんな恐ろしいあいつが模擬戦の終りを告げると、あたしのところまで歩いてきた。ギレーヌと同じように殺される。簀巻きにされたまま抵抗もできない。助けて!って叫びたかったけど。助けてくれるはずのギレーヌは動けない、動かない。それでも必死で気持ちだけは負けないようにしていた。何もできずにまたあいつに負ける、負けるだけじゃないかもしれない。怖くて目を瞑った。でもそんな恐ろしい彼の態度はギレーヌに近い感じに豹変した。ほっぺをひっぱられ、おでこを突っつかれ最後にはデコピンされた。痛かったけど死ぬほどじゃない。殺されることはなかった。言ったことを信じるならギレーヌだって死んでない。あたしは下半身に少しだけ不快感を感じたが全部でなくてよかった。

 

不本意だけどあいつに夜襲をかけたことも謝った。ギレーヌに勝てるようになるまで勝負を挑むな。お前の師匠に恥をかかすなだって。くやしい。負けたままで居られない。

大丈夫、ギレーヌが再戦して勝てば、あたしにも挑戦権が戻ってくる。でもわかってる。今のあたしでは絶対にあいつに勝てない。勝てるようにあたしとギレーヌが一緒に強くなればいいんだ。勝つためには手段を選んでいられない。強くなってあいつに勝って、いままでなぎ倒してきた男の子たちと同じ目に合わせてやる。

 

そんな風に気持ちを私は切り替えることができたけれども、実際に闘って負けたギレーヌは気持ちを切り替えれていないようだった。いつもと様子が違う。なんだか別のことに集中している。夕方に少しだけギレーヌと剣術の訓練をしたけど、彼女は上の空だった。本人も分かっていたのだと思う。訓練の終りにギレーヌに一言「すまない」と謝られた。気にしてないわ。

 

--

 

次の日、ギレーヌはスッキリとした顔をしていた。昨日、負けてずっと沈んでいたように見えたのに、何かを吹っ切ったようだった。お師匠さまが戻って来た気がした。今日からはまたちゃんと剣術の修行ができる。

 

そう思って朝ごはんを食べていたら、お祖父さまが食べ終わって立ち上がろうとするタイミングを見計らったようにあいつが言った。お祖父さまはここに居る誰よりもご飯を食べるのが早い。だから給仕役のメイドさん以外、まだ全員が座っていた。

 

「お食事中のところすみませんが、そこの暴れん坊に自己紹介してもよろしいですか?」

 

あたしのこと?

 

「待っていてやるから、食べ終わってからにしろ」

 

お祖父さまが応えた。お祖父さまが待ってくださるなんて、あいつはこの屋敷の誰もが認めるヤツになったということだろう。

全員の食事が終わる頃にあいつが立ち上がって、あたしの斜め後ろまで近づいてくる。どうしようかと目が泳いでいるとお父さまがやるべきことを促してくれた。

 

「エリス、立ちなさい」

 

お父さまに言われて、あたしも立ち上がってあいつと向かい合った。

 

「ルーデウス・グレイラットです。あなたとは遠い親戚になります。仲良くしてくださるならルディと呼んで頂いて構いません。よろしく」

 

お母さまに挨拶していたときも言ってた気がしてきたけどあいつってルーデウス、ルディというのね。

 

「エリス・ボレアス・グレイラットよ、ふん!」

 

名前以外、何を言えば良いのか分からなかったからお母さまの真似をした。

 

「……」

 

無言。お母さまの真似じゃなくてお祖父さまの真似のが良かったのかしら。

 

「な、なによ!何か文句あるの?」

 

「はぁぁぁ」

 

ルーデウスの深いため息。失礼ね。

 

 

--ルーデウス視点--

 

こいつは悪魔に殴られて血反吐を吐く(デビルリバース)時代のエリスだ。俺は既に闘気を身に付け、リバースすることはないだろうが、今回はやることが沢山ある。獣を躾ける時間なぞない。しかし、フラグをいつまでも完成しなければこの獣はルークと結婚する。そう思うとため息しか出なかった。

 

「はぁぁぁ」

 

しかし、今からちゃんと教育すればもう少しまともになるかもしれない。型に嵌めるとエリスの良さがなくなるんじゃないかって思う気もする。ただそれは良い先生に恵まれたり、自分で解決すれば良いだけの話だ。ギレーヌのついでに読み書き、算術くらい教えてあげるなら、こんな獣ではダメだ。それなら多少謙虚な態度も覚えてもらおうじゃないか。

 

「エリス、良く聞いて。君のお祖父さまやご両親はとっても個性的な方だけど。その上っ面だけを真似してもね、君にはかけらも魅力を感じないよ。力がある人、力が無くても愛嬌がある人、頭が良い人、お金がある人、実績がある人。この世の中ではそういう人は自分の好きなことをやれる。でもね、最初から好きなことをやれるわけじゃないんだ。それは勝ち取るべきもので与えられるものじゃない。何も勝ち取っていないならもっと謙虚でいた方が、まだ可愛気(かわいげ)があるよ。そこにいる君のお師匠さまもね。暴力だけであんまり好き勝手生きようとしたから、追い出される形で剣の師匠に預けられたんだ。でも運が良かったんだね。剣の素質があったし、謙虚になって努力もしたから今では剣王さまで誰からも一目置かれる魅力的な人物になった。どうだい、わかるかい?」

 

俺がいきなり説教じみたことを言い出したのに、サウロスはいつもの表情を変えていない。フィリップは面白いものでも見るように。ヒルダは気に入らなげだ。ギレーヌは少し照れ臭さそうかな。

 

「なんでルーデウスにそんなことを言われなきゃいけないのよ」

 

「あーなんだ。エリスは魅力的な女の子になれるよ。宝石になれる素質を持ってる。でもね、今はぜんぜん磨かれていない道端の石ころだ。僕はそう思ったから……かな」

 

臭いセリフだがもうこの80年間で言い慣れた。

 

「そんなこと言われても、どうすれば良いかわからないわ」

 

「そっか難しい話だったかな。なら折角だ。年も近いんだから友達になろうよ。君が君らしくいられるようにさ。僕の前で誰かの真似をして誤魔化さなくても良いよ。どうすれば良いかわからなかったら素直になって、一緒に考えよう?エリス」

 

そう友達から始めよう。前世で家庭教師と教え子からいきなり家族になろうとしたのは無理があったよ。

 

「わ、分かったわ。ルーデウス」

 

「ルディって呼んでよ」

 

「ル、ルディ」

 

「よし握手だ」

 

結局、この場にいる躾をすべき人たちは何も言わなかった。握手が終わってから、俺はサウロスに向き直った。

 

「お時間を頂きありがとうございます。ようやくご家族全員へのお目通しが叶いました」

 

「ふん。お前がエリスの友となるというなら言うことは1つだ。ボレアスは武人の家だ。そこを履き違えるな」

 

「承知しております」

 

そう言って俺は貴族の礼をした。サウロスは終わりだというように嵐に戻った。嵐が過ぎ去り、フィリップとヒルダも食堂を出て行った。

 

その後、ギレーヌが「私の昔のことをなぜ知っている?」と訊いてきたのでパウロが話す昔話に出てきたと誤魔化しておいた。俺だって誤魔化すときはある。

 

 

--エリス視点--

 

思いがけずできた友達。初めてできた友人。

上級貴族に友人や友達は必要なの?お祖父さま、お父さま、お母さまに友達がいるのかしら?知り合いはいても友達は居ない気がする。ならあたしにも不要だろうと思っていた。学校に行った時だって、そこでやっているのは権力争いの児戯だった。だからあたしが本当の力ってのをあいつらに見せてやった。あの学校にもしずっと居たとしても友達はできることはなかったように思う。

学校を追い出されたことであたしが将来は上級貴族を捨てて冒険者になれる光が差した。予想外だったけどあたしの思い通りに事が進んだ気がする。

剣術を習得して冒険者になろう。冒険者に友人は必要だろうか?そこはあまり考えていなかった。まぁでも必要か必要でないかを考える必要もなくなった。だってもう友達は出来てしまったのだ。

年上を呼びつける失礼な子。ひ弱そうで、あたしよりも背が低い、指だけは豆だらけの子。お師匠さま(ギレーヌ)より強い子。友達とどうやって接すれば良いのかそれすら分からない。でも分からなかったら素直に聞けば、一緒に考えてくれると彼は言っていた。あたしは魅力的な女の子らしい。次にルディと顔を合わせたら、少しの不安はあるけど何か楽しみだ。

 

--

 

この日の昼食も夕食もルディは食堂にいたけど話かけることができなかった。たまに目が合いそうになると、なぜだか目を逸らしてしまう。これではいけない気がする。でもなぜか緊張してしまうのだ。次の日も同じことを繰り返してしまった。友達って難しい。もっと練習しておけば良かった。

あくる日の早朝、ギレーヌに叩き起こされた。こんな朝早くから剣術の修行をすると言う。なぜこんな早朝にと不思議に思ったが、とりあえず準備して訓練場に向かった。

訓練場には先客がいた。ルディだ。彼はギレーヌより強いから全然訓練していないと思っていた。でも本当は早朝に訓練をしていたんだ。まだ強くなるつもりなんだろうか。

ルディが気になったがギレーヌとの訓練が始まった。素振りに基本の型、フェイントに騙されない訓練。一通り終わったとろこでギレーヌがルディに声をかけた。

 

「ルディ。私より強いお前ならどうやって育てる。少し見せてくれないか」

 

「ふむ、普通なら断るところですがエリスは友達ですからいいでしょう」

 

「よし、エリス。行ってこい」

 

「えっ!?よ、よろしく。どうすればいいの?」

 

自己紹介をしてから初めてまともに話した。少し緊張する。

 

「打ち合いましょう」

 

そう言いながら、ルディが木剣を構えて、遅れて私も木剣を構えた。緊張してたら訓練にならない。気持ちを切り替えても一撃目はすこし怖かった。でも、ギレーヌに打ち込むのと同じように打ち込んだ。打ち込むと何度か切り結んだあと弾き飛ばされる。でも、ルディは何も言わない。ギレーヌだったらああしろこうしろと教えてくれる。私はそれを待った。

 

「どうしました。来ないんですか?」

 

「何かアドバイスとか無いの?」

 

「そういうのは後でいいでしょう」

 

彼には私の意図は伝わらなかった。それで彼が再度構えたので私も構え直した。とにかく彼が構える限り、何度も打ち込んでは弾き飛ばされた。何度飛ばされたか。

また弾き飛ばされた。でも一瞬、同じ光景がほんの数分前にあった気がした。

 

 

あたしはいろんな方向から打ち込む。でも最後は決まってあたしの剣が空振りして、そして弾かれる。やっぱり。まただ。

なんとなくパターンがあるような気がする。そう思ったとき、ルディが言った。

 

「わかるか?」

 

ちょっと強めのいつもと違う口調だった。

 

「……なんとなく」

 

自信なげに答えると、

 

「そう。よかった」

 

彼の口調は元の柔らかいものに戻った。ルディはそれだけを言って立ち上がるあたしに手を差し伸べてくれた。彼の手を借りて立ち上がる。私が立ち上がるとルディはギレーヌの方を向いた。

 

「僕の教え方はこんな感じですね」

 

「なるほど面白いやり方だな」

 

腕を組んで打ち込みを見ていたギレーヌが感心している。

 

「昔に教えてくれた人の真似です」

 

「パウロではなさそうだな」

 

「そうですね」

 

ギレーヌは満足気でルディも照れ臭そうだった。あたしは今なんとなくわかったことをもっと復習したかった。

 

「ギレーヌ、今ちょっとわかりそうなことがあるの。それをはっきりさせたいわ!」

 

「わかった、エリス。ルディの代わりは私がやってやろう」

 

「お願いするわ」

 

その日、体力が続く限りギレーヌへの打ち込みをした。ルディと木剣を打ち合わせるとギレーヌと違った親しみがある。包み込むような剣だって気づいた。これが友達なんだろうか。そうかもしれない。もっと友達が増えればはっきりするだろう。練習に付き合ってくれたこと、素直にありがとうって言えたらもっと良かったかな。あたしはまだ素直にできてない。今度同じことがあったら素直に言おう。

 

それとギレーヌにも感謝を。

 

 


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