無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第026話_おはじきとイーサ

---子供の頃に覚えたことの覚え方は、思い出せないのが道理である---

 

7日目の朝食後、フィリップの所にいきフィットア領の町や村について調べたいと願いでて書庫に入る許可を得た。俺は書庫に入ると目につく書類をひっくり返して、町や村の点在状況と人口構成をまとめた。

最初に理解したのはフィットア領全体の人口は9万5000人前後で、想定していた10万人よりわずかに少ないということだ。ただし、事件が起こるまでに人口が増加すれば想定を超えるかもしれないから油断は禁物だろう。

次に理解したことはフィットア領内の城塞都市ロア、アルカトルン、商業都市ムスペルムの3つの町に9万人が、他の17の村と町に5000人が住んでいるという人口比率である。フィットア領最大の町でフィットア領の中心から少し東に行ったところにある城塞都市ロア、この町はフィットア領の行政の中心地であり、約4万人が住む。そのロアの西門から出てドナーティ領との中間にあるアルカトルンは、約2万人が住む町だ。ドナーティ領方面からの物流によって宿場町的役割から発展した町である。そしてロアの南門から出た道が王都アルスとウィシル領に分岐する場所にあるムスペルムは約3万人が住み、ロア、ウィシル、アルスの物流がぶつかる交易点として発展した商業都市である。

残りの町や村は主に食料や水の事情により、大きな町の周辺に馬車で数時間という距離を置いて点在しているという。この情報から物流を支えるのは馬車であり、馬車で食材を腐らすことなく運搬するためには距離に限界があることが判る。確かにロアのような大都市であっても城壁の外にはアスラン麦を中心とした田園風景が広がるのも納得できる。

まとめた内容から今後の方針について再検討すると、人口は予想をやや下回っているが3年後にはどうなるか未知数であるから目標額は変わらずアスラ金貨120万枚を目指すべきだ。またロア、アルスに店を出店した後はアルカトルンとムスペルムも出店先の有力候補だと思う。

調べたいものが終わったとフィリップに伝えて書庫を後にすると、自室に戻って自分の日記帳にそのことを転記した。

 

--

 

調べものに一息ついた俺は、今日の残りの時間でやることを考えた。資金繰りも重要だがまだ店舗もないし、時期的にもやれることは少ない。

ならエリスとギレーヌの教育についてやれることをする。ただ別の行動をすれば別の結果が起こることは経験済みだから、転移事件を防ぐために結果は大きく変えるとしても人間関係はなるべく変えないように心掛けねばならない。

 

まずは前世のイベントを振り返っておこう。前世のメインのイベントは、『家庭教師としてエリスの信認を得る』、『ギレーヌの元で弟子としてエリスと切磋琢磨する』、『エリスに休みを作って一緒に出かける』、『エリスの10歳の誕生日を一緒に過ごす』、『俺の10歳の誕生日をエリスと一緒に過ごす』となる。……なんだかエリスとの思い出ばっかりだ。まぁいいか。

ギレーヌとの模擬戦で勝利した俺がギレーヌの弟子というのは不可能だが、最近は早朝に打ち込みをさせて欲しいとエリスが頼んで来るようになったので代用できるだろう。また誕生日についてはそれぞれ出席すればいいと思う。つまり、やるべきこととはエリスの教育をして忙しくなったら休みを作ってやるくらいだ。

ではどうやって教育を施すのか。家庭教師役を買って出るのはここにきた理由としてはおかしい話になるが、ギレーヌのついでに教えるということなら自然にいける気がする。ただし、俺が転移事件を回避するために前世ほど時間が取れないことを考えると、ほとんどの時間は教科書を手渡して自習してもらうことになる。もっとも、俺が家庭教師をしても前世の彼女は魔大陸からの旅や剣の聖地での修行期間でその教えをすっかり忘れていた。読み書き、算術は完全に忘れていて、覚えていたのはアンデッドを発生しないようにするための初級の火魔術と旅で便利な水魔術程度だ。つまり彼女が本当に必要だと思わなければ家庭教師も自習も時間の無駄だ。そして自習ならすぐに逃げ出すことは自明の理である。

なぜそうなってしまうのかについて俺は前世のイベントや子供たちを育てた経験から多くのことを理解している。それはエリスが世間知らずのお嬢様で傍若無人に生きてもやって来れてしまったことにある。彼女にとって気の毒なのは一人でロアを出歩けば上級レベルの剣士が複数人やってきて人攫いにあうという点だけだ。端的に言えば、甘やかされすぎている。ロアではサウロスとフィリップに。魔大陸では俺とルイジェルドに。それからはギレーヌに。前世で俺と結婚するまでは誰かが常に見守っていた。大きな失敗や困難に直面しないようにされていた。過保護過ぎたのだ。だから彼女は失敗から逃げ、

『難しいことはルーデウスやシルフィ、ロキシーに任せるわ。それが適材適所だから良い』という考えに囚われてしまった。

その言い分を俺はエリスだからと許していた。でも、もし自分の子供の成長に対してと考えた場合、それを許さないだろう。なぜなら人を育てるとき、その人にどんな適正があるのかは芽が出てきてからでなければわからないのだ。後で無駄だったと知ったとしても、それはやったから無駄だと判ったのであり、やらずに無駄と判断するのは逃避なのだ。しかし子供は純粋で素直だからこそ直接的な利を求め、経験がないからこそ失敗を恐れる。一歩先、二歩先を考えるような老獪さや狡猾さを持っていないだけだとも言える。であれば大人 ―育てる側、教える側、導く側― がすべきことも自ずと見えてくる。教える内容に直接的な利を繋げてやること、甘やかさずに失敗させることだ。

この仕事はエリスの両親の仕事であるとは思えない。前前世の常識なら両親の仕事であろうが、前世と現世の常識に当てはめればそれは教師の役割だ。社会の箱庭たる学校というシミュレーションの場がその役割を担っても良いだろう。従って、学校から拒否されたエリスにそれを教えるのは彼女の教師だ。そう、前世で言えば彼女の家庭教師は俺だったのだ。ならば今回は俺がその役割をしっかりとこなそう。

少し余談になるが、ここまでの整理をしたことで俺はショックも受けていた。俺も前前世で学校を拒絶した記憶から前世でエリスを甘やかしたのかもしれない。それは意図したものではなく深層心理から来る行動であったと思う。俺も経験不足だったから良い教師でなかったことは確実である。つまり俺は良い教師ではなく『悪い教師』だった。あぁやはりロキシーにダンジョンで言ったことは何様の話なのだろうか。どの口があんなことを彼女に言ったのだろうか。穴があったら入りたい気持ちだった。このことをロキシーには知られたくない。

 

……とここまでは事前に整理していた話である。

 

そして残念ながらエリスの状況は前世と同じだった。だから俺は新しい教え方を実施することにした。この空いている時間を使って。

 

--

 

「エリス、ギレーヌ、お昼にお時間空いていますか?」

 

昼食を終えて、食堂を出て行く二人を俺は呼び止めた。

 

「空いているぞ」

「空いているわ」

 

二人の返事は即答だった。こういうところでエリスはギレーヌに良く似ている。いやサウロスもこの傾向があるから二人を好きなエリスはそういう部分が似るのも道理といえる。

 

「ならちょっと僕のお店が開店したときのための練習に付き合ってもらえませんか?もし付き合ってくれるなら、エリスに対魔術師用の剣術訓練を教えても良いですよ」

 

「どうするエリス?私はお前に合わせるぞ」

 

「魔術師じゃなくて魔法剣士にしてくれない?」

 

「対魔法剣士の基礎も対魔術師と同じですが良いでしょう」

 

「ならOKよ」

 

打倒俺のエリスからすれば妥当な交換条件といえるだろう。

 

--

 

俺たちはいつも剣術を訓練している中庭にやってきた。

 

「さて、何をすればいいのかしら?」

 

エリスが問い、俺が答える。

 

「そうですね。お二人にはお客さん役をしてもらいます。少し待ってください。今、店を作りますので」

 

そう言って俺は土魔法で商品となる皿とコップと本に見立てた四角の塊を作り、次に陳列棚と店番が立つためのカウンターを作った。最後に、商品を陳列棚に並べた。出来上がったところで俺はもう一度2人を見る。

 

「お店に見えますか?」

 

「お前の魔法はなんでもできるんだな」

 

攻撃以外で魔術を利用したからだろう、ギレーヌが感心している。

 

「なんでもはできません。できることだけです」

 

胸が大きな眼鏡の委員長みたいなことを言ってしまった。そんなやり取りは誰も気にされることもない。そしてエリスの顔は今からやるお手伝いへの興味が示されていた。

 

「それでお客さん役ってどうすればいいの?」

 

「このお金に見立てた『おはじき』でこのお店から商品を買ってください」

 

そう言いながら土魔法でお金に見立てたおはじきを作り、手渡す。相手から見れば、何も持っていなかった手からお金がでてきたように見えたかもしれない。

 

「大きい塊はアスラ金貨、中くらいのはアスラ銀貨、小さいのはアスラ大銅貨です」

 

エリスはそう言われてもどうすれば良いか分からなかったようだ。それを感じ取ったギレーヌが率先して動いてくれた。

 

「ならば私がルディの店の第一の客になろう」

 

「よろしくお願いします」

 

「ふん、ではこれをもらおう」

 

ギレーヌはそういって陳列棚から迷いなく中皿を取り出し、カウンターまで持ってくる。

 

「銀貨1枚と大銅貨5枚になります」

 

そういうとギレーヌは銀貨2枚の代わりになる『おはじき』を出した。俺が『おはじき』を受け取って、「お釣りの大銅貨5枚です」と言ってから大銅貨5枚分の『おはじき』を返す。

 

「ありがとうございました!」

 

「あぁ」

 

俺が威勢よく挨拶をしたのでギレーヌが若干仰け反りながら皿を持って元の立ち位置へと戻って行く。

 

「判ったか?」

 

「えぇ」

 

2人が何かを示し合わせたのが見える。

 

「エリスもどうぞ」

 

そう促すと、エリスも緊張した面持ちながらも棚からコップを取り出してカウンターまで持ってきた。

 

「ふん、ではこれをもらおう」

 

喋り方までギレーヌの真似をしなくてもいいんだが。

 

「コップは銀貨1枚と大銅貨2枚になります」

 

待つ……。

エリスはおはじきを見て……固まっていた。

 

「あの代金をお願いします」

 

俺は辛抱強く待った。このための練習なのだから苦にはならない。

 

「は、はい!」

 

エリスが出したのはアスラ金貨1枚だ。

 

「アスラ金貨1枚からですね。ではお釣りは銀貨8枚と大銅貨5枚になります」

 

そう言って、一瞬間をおいてエリスの目を見た後に目線を外すが、エリスは何の疑いもなくそのお釣りを受け取る。

 

「おい、ルディ」

 

「何か?」

 

ギレーヌの呼びかけに俺はしらばっくれた返事をする。そこからは想定内の流れだった。

 

「お釣りが少ないんじゃないか?」

 

「はぁ」

「えっ?」

 

「ギレーヌ、どうしてそう思うんですか?」

 

「お前の視線が奇妙だった」

 

「ギレーヌには敵いませんね。エリス、足りなかった大銅貨3枚です。どうぞ」

 

「う……うん」

 

釈然としない顔のエリス。

 

「こうやってお釣りを誤魔化される可能性があるので注意してね」

 

「なんでそんなこと」

 

俺が注意事項を述べると、そういう行動に出たことにエリスは自分から疑問を持ったようだ。中々良い流れだと感じる。

 

「エリスが緊張していて、しかも明らかにお金を使い慣れていない感じだったから、これはお釣りを偽れると商人的に考えたんだ」

 

「普通のことなの?」

 

「もしワザとやったことがバレたらお客さんに怒られるね」

 

そういうとエリスは少しムッとした。だが、ギレーヌの言葉がそれを(たしな)める。

 

「この世の中では普通にあることだ。私はそのせいでお金を巻き上げられて苦労した。緊張せずに使い慣れている雰囲気を出しても相手の商人が上手ならやられる。騙されたくなかったら算術を覚えることだ」

 

「そうですね。僕も何枚足りなかったか正確に指摘されたら謝ってお釣りを出しなおすつもりでした」

 

「へ、へぇ」

 

エリスよ、算術は勉強したくないと顔に書いてあるぞ。

 

「良いかな、エリス。こっちにきて」

 

俺はエリスを自分の隣に呼び、テーブルにおはじきを並べた。エリスが近づいてくる。ギレーヌにも目くばせすると少し離れてみているようだった。

 

「大銅貨10枚と銀貨1枚が交換できるんだ。ためしに僕に大銅貨10枚を渡して、銀貨1枚をやり取りしてみよう」

 

「えっと……いち、にぃ、さん、し、ご、ろく、しち、はち、きゅう、じゅう。はい」

 

「いいね。どうぞ銀貨1枚だよ」

 

それからおはじきを使って両替みたいなことを繰り返した。

 

「じゃぁ最後に銀貨二枚を渡して、銀貨1枚と大銅貨2枚のコップと交換したら何枚の大銅貨をお釣りでもらえばいいかな?」

 

「えっと。8枚かな」

 

「正解。冒険者になると自分で欲しいものは自分で用意できるようになった方が良いと思う。パーティーになれば苦手なことは他のメンバーに頼めるけど、それでも最低限は自分で用意した方が良いし、病気や怪我のせいで頼むメンバーがいなくなったら結局自分でやる必要があるからね」

 

「そうかしら」

 

「いずれわかるよ」

 

「まぁいいわ」

 

「エリス、ギレーヌ。練習に付き合って頂きありがとうございました」

 

「対魔法剣士の訓練の約束、忘れないでよね」

 

「わかってるよ」

 

今日はここまでにしよう。ギレーヌはこちらの真意に気付いているようだったが、エリスには押しつけがましい流れより、自主性を育て本人の意思で学び、利用し、この世界を生きて行って欲しい。

その後も何かと理由をつけてエリスとごっこ遊びをした。彼女のお気に入りは冒険者ごっこだった。

 

--

 

調べものに一息ついた俺は、フィリップが店の用意ができると伝えにくるまでに魔術ギルドへの登録を済ませた。同時に灯の精霊の魔法陣の技術供与による定額収入を獲得し、新魔法陣の提供によってランクもFからEに上がった。ついでに冒険者ギルドへの登録も済ませたが、予想通りアスラ王国は討伐系の依頼は無い。前世の記憶を手繰(たぐ)れば、確か王国騎士団で対応しているはずだ。逆にFランクとEランクの依頼は山のようにあり、俺みたいな駆け出し冒険者には好都合だ。といっても俺はやることが多いのでランク上げをする暇はないだろう。

 

2つのギルドへの登録が終わった後、まだ時間がありそうだったので今後の商売に必要な魔道具を作成することにした。その魔道具の名前をイーサと言う。

魔道具イーサは周囲の魔力を吸収し、魔法陣や魔力結晶に魔力を充当する。世界各地の遺跡の秘密部屋にある転移魔法陣に魔力を供給する魔道具と同じ機能を持つ。それもそのはずで前世においてルード傭兵団とシャリーアの事務所を結んでいた転移ネットワークの維持管理を効率化するために各地に残されれていた魔道具を参考に俺が研究を始めた魔道具だからだ。

少し前世(むかし)の話をしよう。前世のシャリーアの事務所を中心にした転移ネットワークは魔力結晶を使って石板の魔法陣を常に転移可能にしていた。しかし、魔力結晶にも金がかかるし、いつのまにか魔力結晶の魔力が空になると使えなくなるという課題を持っていた。これらの課題を解決するために俺は()の天才魔術士が残したとされる魔道具の研究を始めた。

最初は既に存在する魔道具をコピーしようと考えた。だが、魔道具に使用されている部材は今では手に入らないものや何でできているか不明なものがあり、オルステッドの協力を得て研究してみたものの再現ができなかった。さらにそれらの部材が重要なのか魔道具に仕込まれた魔法陣だけを複写して使っても上手く機能しなかった。

そこで、魔力の吸収という言葉から関連付けられるものに手掛かりを求めた。筆頭は吸魔石や吸魔眼だ。だが、その時点で吸魔石については研究が済んでいた。吸魔石は内側から向けた魔力を分解波に変換して外側に放つ石である。この分解波は『乱魔(ディスタブ・マジック)』の干渉波より高度な波を形成していると予想することができる。しかしながら、魔力の吸収とは実質的に関係がない。おそらくだが吸魔眼も同じだろう。その後に思いついたのがペルギウスやオルステッドが使用する召喚魔術『前龍門』と『後龍門』だ。『前龍門』が魔力を吸収して、吸い上げた魔力を『後龍門』から充当する。『前竜門』と『後竜門』は組になった魔道具であり、それを召喚する魔術の名前でもある。このことをオルステッドに説明すると『前竜門』と『後竜門』に記述された魔法陣を書いてくれた。ただ魔力を通さないとこの魔法陣によって周囲の魔力を吸収することはできない。この魔法陣をもう少しアレンジする必要があり、それは俺の手に余った。ならば誰かに手伝ってもらおう。誰が適任か、魔法陣の専門家はナナホシだが、彼女は既に1か月に一度起きる生活に入ってしまっている。それならばとロキシーに頼み込んで『前龍門』と『後龍門』、それに転移魔法陣に付属していた魔道具の魔法陣から新しい魔法陣を作って欲しいとお願いした。ロキシーは相当苦戦しながらもオルステッドとの議論を経て、この魔法陣の効果を転移魔法陣に設置された魔道具の効果に似せることに成功した。ちなみに俺も魔力による導通確認を手伝ったり、肩が凝ったと言われれば肩を揉み、もたれたいと言われればロキシーを膝にのせて椅子代わりになり、疲れたと言われればあ~んして砂糖漬けのフルーツを食べさせた。役得だった。

 

さてそんな経緯で研究したイーサを今になって作った理由は、イーサの材料として必要な部材がブエナ村で手に入らなかったからであり、ロアに来てそれが手に入るようになったからだ。ただしイーサを使うことと、商売を円滑に進めることは結び付けるのが難しい。だからイーサの利用先を含めて『永久機関の人形精霊』、『魔力充填システム』、『魔力濃度の高い場所でない転移先を持つ転移ネットワーク』、『永久機関の店番をする神獣』と順を追って説明する。

まずイーサの基本の使い方は複製元の魔道具の使い方と同じ『魔力濃度の高い場所で魔法陣に魔力を供給し続ける』である。しかし、イーサの魔力の供給先は魔法陣でなくても良いので、俺の作る人形精霊の魔力源として応用できる。本来の人形精霊は魔力を消費しきると機能停止するのだが、魔力濃度の高い場所で活動する人形精霊の心臓部にイーサを組み込めば、永久機関としてパーツのメンテナンスが必要にならない限り動くことができる。

また、周囲の魔力濃度が高い場所でイーサを魔力の空になった魔力結晶に取り付けると魔力結晶に魔力を充填できる。そして永久機関となった人形精霊に魔力結晶への魔力充填作業と充填後の別の空の魔力結晶への交換作業を命令すれば、魔力充填システムを構築できる。条件は魔力濃度の高い場所、イーサを取り付けた人形精霊、イーサ、十分な数の魔力結晶を用意することだ。

さらに魔力充填システムと転移ネットワークを連携させる。つまり、転移ネットワークの中継点を魔力充填システムのある魔力濃度の高い場所とし、そこに魔力結晶を取り付けた転移魔法陣の石板を置く。また端点となる場所(魔力濃度は高くなくても良い)にも同様に魔力結晶を取り付けた石板を置く。そして両端の石板についた魔力結晶が空になる前に人形精霊が魔力結晶を交換する。

最後に、転移ネットワークの端点に店番ができる神獣を置く。神獣に対しても魔力の供給源として魔力結晶を使い、空になる前に転移ネットワークを通じて魔力結晶の交換作業をする。

このような流れで、イーサを基盤に『店番の神獣』と『店と中継点を繋げた転移ネットワーク』を作っていく予定だ。

 

ついでになるが、転移ネットワークの利用計画に関して考えたことも日記に追記しておこう。

ロアに旅立つ前の当初の計画で世界各国の物価の差を利用したり、輸送費を削減する目的で転移ネットワークを作る気でいたが、この前のチェレンガンの話を通じてそれらが不可能であることが判明している。そうであってもこの世界の商人にとって転売が褒められない行為であり、人や物の輸送能力が馬車である限り、俺の店(小売業者)が各国に出店することで距離と時間の両面でメリットを得ることができる。やはり転移ネットワークは商売に有用である。そしてこれ以上は考えすぎかもしれないが、資金を集め、そのまま寝かせる行為によってアスラ王国の通貨の流通量が減り、市場に悪影響を及ぼす可能性もある。これまでに得た常識ではアスラ金貨120万枚は非常に多いが、それが市場に影響を及ぼす程かどうかは良く判らないし、それを調べる(すべ)も不明だ。であるならば影響をなるべく小さくするために資金の吸い上げは世界各地から行なった方が良く、世界各地に分散させた店舗を管理するために転移ネットワークを作る意味はある。

 

 




次回予告
人は誰もが利己的である。
しかし、その利己的さを社会性でもって利他的に繋げている。
私も、あなたも、他の誰かも。
ルーデウスが救いたいのは、あくまでボレアス家である。
なるべく穏当に救いたい。だから領民を救う。
たったそれだけ。
だが、それでいいじゃないか。
崇高な信念、犠牲的精神。
そんなもので10万人の被災者の腹は満たせない。

次回『開店準備と転移ネットワーク』
必要とされるのはひとかけらの良心ではなく、ひとかけらでも多くのパンなのだから。


ルーデウス6歳と11か月時/ロア9日目

持ち物:
 ・日記帳
 ・着替え3着
 ・パウロからもらった剣
 ・ゼニスからもらった地図
 ・ミグルド族のお守り
 ・魔力結晶×10
 ・魔力付与品(マジックアイテム)
  短剣(未鑑定)
 ・魔石
  紫(小)×5 (イーサの作成で消費)
  緑(小)×3 (イーサの作成で消費)
  紫(中) (イーサの作成で消費)
  赤(中)
  黄色(大)
 ・神獣の石板
  スパルナ
  フェンリル
  バルバトス
 ・アスラ金貨63枚(-30、イーサの作成材料を購入)
 ・ルード鋼70個(+50)
 ・商い行為許可証

■魔法陣ネットワークにおける魔道具イーサの利用先まとめ
 1.魔力濃度の高い地下室で活動する人形精霊の魔力充当
  魔法陣ネットワークの管理者として人形精霊を用意する。
  この人形精霊の内部にイーサを具備する。
  そうすることで、本来なら一定時間で魔力切れを起こすはずの人形精霊が
  地下室内で半永久的に活動できるようになる。
  人形精霊が転移先の魔法陣活性化用の魔力結晶を魔力切れが起こる前に
  交換する。

 2.魔力を消耗した魔力結晶の魔力充当
  アスラ国内の町ではイーサを使っても転移魔法陣を活性化し続けるには
  魔力濃度が不十分である。
  よって、魔力結晶を使って魔法陣に魔力を充当する。
  この魔力結晶の魔力は有限であるため、時間経過で魔力切れを起こし、
  魔法陣は不活性になる。
  これを防ぐために定期的に人形精霊によって魔力結晶を交換する。
  そのままでは魔力結晶が無限に必要となるので、魔力を消耗した魔力結晶に
  魔力を再充当するためにイーサを用いる。


フィットア領の都市と人口のMAP

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