無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第028話_新装ルード商店

---広告:ルード商店、新装開店致します---

 

ロアに着いて11日目の早朝に俺はエリスに対魔法剣士の講義をして、部屋に戻り身体を拭いてから朝食を摂った。

朝食が済むと一人ルード商店へと向かい、裏口の扉の鍵を開けて中に入ると、内側から鍵をかけたであろう人形精霊が壁に寄りかかりながら力なく座っている姿が目に入った。その人形精霊を跨いで、販売スペースを確認する。綺麗に廃材は持ち出されている。人形精霊はちゃんと仕事をしたようだ。

俺は窓と玄関を封じていた材木を取り外し、空気の入れ替えを行った。そこから梁や柱、窓を拭き、床を掃く。掃除は自分の基準よりも丁寧に。前世でシルフィに掃除が雑と言われたことを念頭に、参考にしたのはリーリャだった。

掃除が終わると、商品ディスプレイ用の台や棚、カウンターを土魔法で作成する。このとき人形精霊の土塊も捨てるのが大変なので再利用した。結構な重量なのでこのままだと床が抜けるかもしれない。早めに木製で作り直そう。

 

準備ができたのでいよいよ商品を取りに魔法陣を経由してブエナ地下室へ。魔法陣の管理人マリアは正しく機能していて、ロア側の魔力結晶の補充作業と交換作業をしているようだ。そして作り置きしておいたバティルスのアロマオイルを並べた。値段は一瓶で大銅貨3枚だ。

しまった。品物の名前や値段を表示するものがない。とりあえず口頭で伝えるとして、はやめに商品札と値札を用意しよう。

 

その後はカウンター奥の椅子に座り、魔術で食器を作った。コップを10個に皿は大きさ毎に各種5枚、乳鉢と乳棒はそんなに需要がなさそうなので3セット。こんなもんかなと思ったが魔法陣で鳴らした腕を使って高台付きの皿や口縁の外側部分に筋を彫った皿も作ってみる。アスラの王宮やケイオスブレイカーの調度品を思い出して見様見真似だ。フィギュア以外の芸術的な感性はザノバに頼りたいところだが、まだ人脈がないのでそうもいかない。

そうだ人形を作ろう。ザノバと人脈を作るならこれを売りに出す手がある。未来日記にもその辺のことを書いたはずだったのに忘れていた。少し落ち着いたから店番しながら読むとしよう。そう思って、作業が一段落してからブエナ地下室にまた戻り、未来日記を持ちだしてカウンター奥で読んでいた。

 

「すみません、こちらのお店やっていますか?」

 

「いらっしゃいませ!」

 

カウンターで日記を読み返すために俯いていた顔を上げると、そこには客らしき男が立っていた。ついに第一客だろうか?

 

「本日オープンです。まだ商品が揃っていませんけど、どうぞ見て行ってください」

 

「あ、はい」

 

結局、男は皿やコップを眺め、怪しい小瓶を一瞥(いちべつ)しただけで店を出て行った。俺は特に気にもせず、読書に戻る。売れる時は売れるだろうし、売れないときは売れない。あまり焦らずやっていこう。

気にも止めずに数時間、日記を読み直した俺は日記をブエナ地下室へと戻し、代わりに人形製作をはじめた。日記を読む前から人形を作ろうと考えていたが、日記を読むことで店で商品として売る人形よりも先に必要な人形があると気づくことができた。

まずペルギウスへの土産としてシルヴァリル人形を作る。それから店で並べるロキシー人形や魔獣を模した人形を作る。最後にギレーヌにあげるための本人の人形だ。ロキシー人形はザノバと知り合うために必要で、ギレーヌ人形は許可が下りたら商品にする予定だ。エリスが着ていた剣神流のカッコイイ羽織を来たバージョンも作りたい。

 

「あの見ていってもいいですか?」

 

人形製作に集中しすぎてお客に全然気づかなかった。

 

「あ、どうぞ。いらっしゃいませ!」

 

この客は俺を見ると疑問符を浮かべたようだった。

 

「僕、お店番?」

 

「まぁ、そのようなものです」

 

結局二人目の来客も何も買わずに帰って行った。そして客の口ぶりと表情から俺は察した。そうか俺はまだ7歳前の子供だった。子供が一人でお店を切り盛りしていたら不信に思うものだろう。露店ならまだしも店舗販売なら、それなりの値の張るものを売る必要もあるからな。アンバランスな店には不信を抱くものだ。人形作りをしていると客に気付かないこともあるし、早々に対処が必要だ。俺は土魔術で石板をつくりだし、魔法陣を書き始めた。こういうときのための神獣もちゃんと用意している。言葉が話せて計算ができて愛想がいいヤツだ。しかし、可愛くはない。

 

俺は数十分の作業の末、石板へ魔法陣を彫り込み、そこに魔力を込めた。魔術の工程の中で複雑な人格付与を指定する。多数の精霊が集合し、足元と手先から顕現していき最後に首、頭と顕現し終えると人間タイプの神獣が出来上がった。

神獣ダイコク。神獣召喚はテンプルナイツが鎧を着て顕現することから分かるように、人間タイプは服などを精霊が再現する。だからバルバトスも目の前に召喚された男ダイコクも全裸ではない。人間の男にみえる彼が口を開いた。

 

「ご主人、お呼び頂きありがとうございます」

 

「ダイコク、お前にこの店の店主を任せる」

 

「承知しました。ちなみにご主人とお店の名前を教えてください」

 

「俺はルーデウス。店の名前はルード商店だ。笑顔を忘れんようにな」

 

そういうとダイコクはニィと笑顔を作った。大丈夫だろう。それからダイコクに商品の名前、値段、客に聞かれたときに説明する内容を教えた。

ダイコクに任せれば大丈夫と判断して屋敷に戻って昼食を摂った後、釣銭を作るべく商店や露店を周り、手頃な値段の魔石とイーサの部材を探しながら帰ってきた。

すると、俺の店から何人かの話す声が聞こえる。む、トラブルか?でも声は明るい。そう思いつつ俺は裏口からそっと入り、カウンターまで歩いて行く。さて、何が起きているのか冷静に、冷静に対処しよう。

 

「「え?」」

 

しかし、俺が裏口からカウンターにきたところを見た女性客たちが一斉に声を上げた。

なんだ?どうした?

 

「ちょっと!ダイコクさん!まさか結婚されているの!?」

 

「!?」

 

俺は悲鳴をあげそうになった。この1時間足らずに一体、ダイコクに何があったんだ。この女性たちと何があったんだ。俺はいつかのパウロみたいな顔をしたかもしれない。俺がロキシーからまだ教わりたいことがあると言ったときの。

 

「いえ、私は結婚をしていません」

 

「そう、その子供は?」

 

「ごしゅじ……」

 

ダイコクがご主人ですというとややこしくなると思った俺は、急いで言葉を被せた。

 

「あ、僕はお手伝いのルディです。ダイコクさんお客さんと何かあったんですか?」

 

ご婦人方の表情は安堵に変わった。

 

「ええ、何人かにお皿を購入して頂きました。それで購入して頂いた美しいお嬢さん方と少し世間話をさせていただいているという訳です」

 

なんだって!?もう売れた?驚いて島台に並べたはずの皿を見ると確かに数が減っている。あとたった2枚に。まてまて、一皿銀貨1枚だぞ。来ている客層をみて、そこまで貧乏人とは思わないが貴族という風でもない。なけなしのお金で買ってるんじゃないのか?大丈夫だろうか。まぁ皿自体は貴族でも使ってくれるような良いものだから値段もお手頃な自信はある。俺の心配を他所(よそ)に女性客たちはまぁお嬢様なんてとかふふふと含み笑いしたりとか完全に色目を使っていて呑気なものだ。そうかこの世界の男はあんまり臭いセリフを言わないんだったな。俺もそれでいろいろ得した面があったので、人格付与でそういうことをズケズケ言わないようには設定しなかった。いままで全く気付かなかったが、これは怪我の功名かそれとも不運か。自分の人生を鑑みても答えは五分五分……かな。

 

「そうそうルディ、アロマの使い方を実演したいのです。商品を一つもってきてください」

 

ダイコクは応用力もあるので今回はご主人とは呼ばず、手伝いと言った俺の言葉を踏まえている。

 

「判りました。そのための器具を持ってきます。少し待ってください」

 

俺はそう言うと階段を降りてバックヤードとして使う予定でまだ何も置いていないB1Fまで歩いた。それから少し段取りを立てる。まず土魔術を使って飯盒(はんごう)炊飯で使うような金属容器をコップ型に成型した。蓋には穴をあけ、容器の中に水魔術で水を注ぎ、極小に抑えた『溶岩(マグマガッシュ)』を水の中に落とす。すると容器は『溶岩』の熱で煮え始めた。容器が熱くなり持てなくなる前にお盆代わりに石の皿をつくり、それに容器を載せる。そして1Fのカウンターへと戻って行った。

ぐつぐつと湯気がでている容器をお盆ごとカウンターに置き、商品棚からアロマオイルの瓶をとって、2滴ほど飯盒の(ふた)に開けた穴に垂らす。その間にもダイコクは女性客と話していた。

 

「用意できました」

 

「ありがとう、ルディ」

 

俺がそう言うとダイコクはカウンターに置かれた皿を取り、客の近くまで持っていく。

 

「あら、バティルスの香りね」

 

客の一人が小さく鼻を鳴らしてからクイズの答え合わせをする。

 

「えぇこれはバティルスのアロマオイルです。今は2滴いれましたけど部屋の広さとお好みの匂いの濃さで調整することができます」

 

「どれくらい持ちますの?」

 

女性Aの質問は俺が用意しておいた説明になかったものだ。ダイコクが困ったような顔をしたので、俺は急いでメモを書いてダイコクに渡す。

 

「えぇっと、新商品なので正確なところは判らないのですが、少なくともこのオイルは1年は持ちます。この商品が丁度1年くらい前に作成したものですから」

 

「それはすごいですわ。いままでの香水はすぐ匂いが劣化していて困っていましたの」

 

女性Bが本気で驚いている。なかなかいい感触だな。これは売れる商品になるかもしれん。アロマを焚くのは難しくても表面積の大きい皿に注いだり、バティルスの茎をスティックにして瓶に差すことで自然に蒸散させる方法でもほんのり匂いがでるのは実験済みだ。それ用のスティックや皿も一緒に売るか。後で作っておこう。

 

「開店記念でお皿を買って頂いた皆さんにアロマオイルをプレゼントします。どうぞ」

 

ダイコクが勝手に決めたが俺もそのつもりだった。これなら俺が手伝いでいなくても良さそうだ。

 

俺は安心してカウンター裏の席に戻ると、商品札と値札用に薄目の土プレートを生成し、魔法陣を書く要領でプレートに文字を書く作業に取り掛かる。それを作り終えると、買ってきた部材と魔石で追加のイーサを作った。

 

いつしか日は傾き、通りの反対側の店が閉まり始めた頃、俺も帰り支度をした。ダイコクには販売記録を付けさせることにして、束にした紙を渡して置いた。今、彼はそこに本日の販売記録を書いている。

 

「そうだダイコク。魔力はどのくらい持ちそうだ?」

 

「この状況でよければ3日に一度くらいですね」

 

「イーサの数が増えたら魔力結晶をお前に回すよ。この店を頼むぞ」

 

「お任せください」

 

そう告げた俺は出来上がったイーサをブエナ地下室に保管し、戻って来た。そして転移魔法陣に続く階段の入り口脇に置いてある巨大なルード鋼の(ふた)を重力魔術でスライドさせて、転移魔法陣への道を塞いでおく。

 

「戸締り頼むぞ」

 

最後にもう一度ダイコクに言って店を後にした。明日、ダイコクが作成した帳簿を見るのが少し楽しみだ。

 

--

 

滞在12日目、朝のルーチンワークを終えた俺はまたしてもルード商店へとやって来た。裏口の鍵をあけて入る。

 

「おはよう。ダイコク」

 

「おはようございます。ご主人」

 

「開店準備と店番を頼むよ」

 

そう伝えると、ダイコクが開店準備を始めた。

俺は帳簿を確認する。銀貨1枚と大銅貨2枚のコップが7個で小計は銀貨7枚と大銅貨14枚、銀貨1枚の小皿が10枚で小計は銀貨10枚、銀貨1枚と大銅貨2枚の中皿が10枚で小計は銀貨10枚と大銅貨20枚、銀貨1枚と大銅貨5枚の大皿が8枚で小計は銀貨8枚と大銅貨40枚、大銅貨3枚のアロマは10個はプレゼントとして配ったとある。総売り上げ銀貨35枚と大銅貨74枚か。金貨換算で金貨4枚+α。普通の商店なら十分すぎる売上だろう。そして俺の目標値からすれば微々たるものだが、確かな一歩だ。

 

帳簿を確認し終えた俺は、皿の補充作業をして店をダイコクに任せると、転移魔法陣を通ってブエナ地下室に足を運び、まず3体の人形精霊を作成した。名前はテレサα、β、γだ。テレサそれぞれにイーサを接続していく。イーサに使った魔石の色で、α:赤、β:緑、γ:紫となったので見分けられるだろう。

テレサには本の複写と製本作業の仕事をプログラムする。地下室の奥に作業台を置き、各人形に椅子と紙束とインクとペン、製本用の道具一式、複写元となる原本を用意してある。テレサαには読み書きの本、テレサβには算術の本、テレサγには算術ドリルをそれぞれ原本として渡したので何か異常があれば検品のときに判るだろう。

一方で絵本を製作する人形はイーサの数が足りず、しばらくはお預けとなる。消耗する紙とペンは本を出荷するときにその分補充すればいいだろう。

 

一段落したところで俺は元々テレサの作業台を置く場所に鎮座していた二つの壺の中身を見てみた。これはバティルス研究のときに作った汁を入れた壺と漬物にした壺だ。パウロやフィリップには精力剤は完成しているような言い方をしたが、残念ながら出来上がってない。嘘をついた理由はあって、特にフィリップに対しては本当の媚薬の製法を引き出すための作戦の一環だ。

さて、まずは紫色の汁を保存しただけの壺の(ふた)を開け、中身を見てみた。色は薄く匂いもほとんどが飛んでただの腐った水のようになっている。次に漬物のほうの石をどかしてみると、壺の下部には隣の壺と同じ腐った水が溜まっている。ここまでは同じだった。ただ紫の水分が抜けた茎は赤色っぽく変色していて、取り出してみると茎はしんなりしている。俺はこの赤くなった茎だけを取り出して、乳鉢ですり潰した。すると……薄いピンク色で粘性のある液体ができた。うーん、これ媚薬そのものっぽいけどなぁ。さすがに口に含むことは恐ろしくてできなかった。

俺はこの経緯を頭に留めつつ。腐った水だけの壺の中身と、漬物から出た水分、その水分につかってしまった部分を地下室の隅に穴を掘って捨てた。一応、赤くなった茎は壺のなかに残して、ブエナ地下室に戻して置いた。

地下室の中も賑やかになった。3体のテレサズは休むことなく写本作業をしている。また反対の隅には転移ネットワークの管理者マリアが作業が必要になるまで静かに座っている。でもここに人間は俺しかいない。賑やかになったせいで余計に寂しい気持ちがした。前世のようにまた色んな人の輪の中で暮らせるといいな。安心した環境でパウロ、ゼニス、リーリャ、妹たちに囲まれて何年かを暮らしたい。その後はロキシーやシルフィやエリスも加えて楽しく暮らしたい。

そう思うとやはり独りぼっちのルイジェルドさんのことも気になる。彼の人生にも俺はやはり必要だろう。転移事件よ、はやく過ぎてくれ。俺のやりたいことはその先にも沢山あるんだ。もしかしたら転移事件を回避すれば俺にとってままならない環境が来るかもしれないがそれはそれで思い悩むことからは解放されるだろう。

 

そんな憂鬱な気持ちを引き摺りつつ俺はブエナ地下室からルード商店の1Fに戻り、客のいない店でダイコクに話しかけた。

 

「ただいま。今日はお客さんいないね」

 

「さっきまで居たのですが今はいませんね。ご主人、よろしければ食器の補充をお願いします」

 

そう言われて食器を確認するとまた半分くらいが売れていた。思った以上に人気があるようだ。

 

「判った」

 

俺は食器を再補充して、昼までにペンとインクと本に使う紙、表紙に使う少し厚い紙を多めに買い込んでブエナ地下室に持って行き、その後は夕方までペルギウス向けの人形製作をした。

 

--

 

サウロスの屋敷に帰ってきて自室に入ると俺はベッドにダイブした。急に疲れが出てきていた。今回の開店作業は作業順序に小さなミスが多かった気がする。それもこれも休みがないせいだ。自分が新しいことをやってストレスが溜まっていることを自覚せねばならないだろう。

早く着手すれば、より多くのお金が稼げると焦って欲張ってしまった。はぁ、臨時で作った棚や台を木製に変え、B1Fに整理用の棚や収納BOXを用意するために内装業者に相談する仕事が残っている。でも後はそれだけだ。その後は同じように他の町に行って出店していく。転移ネットワークを拡大することでスケールメリットを出す。

 

商売のことを考える度に頭痛がしてくるが、一日何枚の金貨を稼ぐ必要があるかをもう少し具体化していこう。と言っても想像に想像を重ねることになる。それでも、頑張るため間に合わせるために目標は必要だ。

 

ルード剣がアスラ金貨50万枚で売れるかは分からない。ただし、50万枚で売れたとすれば残りは70万枚。それをこれから10歳までの3年間で稼ぐわけではない。転移事件が起きて領民が着の身着のままで避難した場合、世帯数2万世帯(領民10万人)で1年間に1世帯アスラ金貨4枚を援助すると、1年間に8万枚を配る。それを5年間。即ち初年度に必要なのは『初期費用80万枚+領民に配る8万枚』となる。

 

店舗販売で目指すのは年間8万枚の収益だと考えると判り易い。ここから1年目2年目に稼いだ分は全て初期費用にのせ、3年目までに稼げるようになった8万枚をそれ以降の毎年、領民にばら撒くわけだ。つまりここから丸2年で一日アスラ金貨220枚を稼ぐ販売網を築き、年8万枚を稼ぐ。一日アスラ金貨220枚。食器の生産は俺の魔力の限界があるので、無尽蔵に生産できるわけではない。それにこれからは一品物の石像も作る作業が待っている。アロマオイルは生産工場を作らねば今後は先細りだ。つまり、大半は本の販売だ。はやく本を売ってどれくらいの収益になるかを判断しよう。足りなければ別の商品を考えなければならない。それとネットワーク構築のための出店計画。

 

ベッドから重い身体を持ち上げて俺は眠ってしまう前に今検討したことをささっと日記に書き、魔力が切れるまで人形製作をした。精神を強く持つ。オルステッドのように俺は現世を生き抜く。決意を新たに眠りに落ちた。

 

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13日目、今日も店に行く。

 

「ダイコク、まだ魔力はあるようだね」

 

「おはようございます。ご主人。昼までには切れるくらいですね。そろそろ魔力の補充をお願いします」

 

「判った」

 

俺はダイコクに魔力を補充しながら、昨日の売り上げを確認する。

 

「何かトラブルは?」

 

「特にはありません」

 

お釣りも十分にある。

補充と売り上げ確認が終わった後、コップと皿を補充した。

 

「今日は内装業者の所に行って来るから後を頼む」

 

「了解しました」

 

その後、内装業者二人を連れて店に戻り、石材でつくった本棚等をみせると大層驚いていた。むしろ、これを引き取るから料金はいらないそうだ。まぁ売るのも捨てるのも面倒なので、本棚、島台、南側の陳列ディスプレイ、地下室の保管棚、それに皿をしまっておく収納BOXを10個注文する。二人の内装業者は寸法と床の状況を確認すると軽くてしっかりしたものを造ると請け負ってくれた。そんな頼もしい彼らにこれからも世話になるので少しなら足が出ても良いと伝えておいた。

 

看板と内装品が揃い、本を売りに出せれば晴れてルード商店のスタートと言えるだろう。そう本だ。どうなっただろうか。俺はすぐにブエナ村地下室に転移した。

ブエナ村地下室に移動すると、これまでの地下室の匂いに僅かにインクの匂いが混ざるようになった。なんだかラノア魔法大学の図書館を思い出す。そして作業台の脇にまでくると完成した本が既に何冊か置かれていた。

黙々と本を複写するテレサを横目にしつつ、俺は本を検収する気分でパラパラと流し読みをする。問題ない。テレサは正しく機能しているようだ。俺は読み書きの本と算術の本、計算ドリルを3冊ずつ手に取り、計9冊を持って店に戻った。

 

店に戻った俺がやることはシルヴァリル人形の製作だ。数十年の間培った精緻な技術でシルヴァリルの羽を再現する。彼女には躍動的なポーズより水辺で静かに佇むイメージがよかろう。俺は夕方まで作業を続け、店が閉まり始めるとダイコクに閉店を告げて屋敷に戻った。

 

--

 

屋敷についた俺は中庭で剣術訓練をしているエリスとギレーヌを見つけ、なんとはなしに休憩に入るまで傍で見学していた。

 

「よし、止め。今日の訓練はここまでとする」

 

「おつかれさまでした。師匠!」

 

やり取りが終わると、エリスが小走りに駆けてきた。

 

「ねぇ、ルディ。この前の打ち込み、練習したからまた相手してよ」

 

俺は一応、彼女の師匠であるギレーヌに目線で、いいのか?と問いかけた。彼女が頷いたのを確認する。

 

「構わないよ」

 

「やった」

 

無邪気なエリスを見つつ、俺はギレーヌに話しかけた。

 

「ギレーヌ」

 

「なんだ、ルディ」

 

「教科書ができましたので渡しにきました。ただ、文字の読み方自体は知っている人に習う必要があるので居なければ僕がやりますよ」

 

「そうか、なら頼む」

 

「判りました。店の準備も一段落しましたし、朝食後に毎日1時間ほどやりましょう。どうですか?」

 

「エリスが剣術の訓練をしないのなら時間がとれるんだが」

 

ギレーヌの言葉を受けて俺は狙ったように言った。

 

「一応、エリスの分もあるけどどうする?」

 

「え?」

 

急に話を振られて戸惑うエリス。ギレーヌの援護射撃。

 

「エリス、冒険者になりたいなら文字くらい読めないと苦労するぞ」

 

「うーん、ルディが教えてくれるの?」

 

「ギレーヌと一緒でよければ。それに、僕も先生をしたことは1度しかないので友達に教える方が気が楽だね」

 

「な、ならやってみようかしら?」

 

「決まりだな」

 

ギレーヌがそう言ったことで、俺はまた二人の生徒を受け持つことになった。

 

--

 

出店作業が一段落したこと、家庭教師をすることの2つの予定をクリアして俺は少しだけ肩の荷が下りた気がした。そのおかげか少し余裕ができた。肉体的には疲れているが精神的には楽になった。

 

そこで、ここ10日間ほど朝の剣術訓練で試していたことについてまとめる気力が湧いてきた。そうだ。ロアに来て2日目、模擬戦で俺はギレーヌにからくも勝利したが、闘気を自在に操ることができる剣士と剣技で対戦することは、魔法剣士の戦術理論について問題点を浮かび上がらせる結果をもたらした。俺の持つ戦術理論の基礎はアルビレオの基本要素である。だから打ち込みタイミング、攻撃方向、間合い、それらを見切らせないための足捌きに沿って問題点を分析し、対策を考えよう。

 

まずは打ち込みタイミングを見切らせないための足捌きについてだ。俺の戦術理論では主に、残像剣(ディレイ・アタック)を使ってそれを為す。残像剣によって残像が相手の脳裏や視野に残るのは、残像剣が相手の知覚能力を超えて運動方向を切り替えたり、相手に脳内で予測した動きと異なる動きを見せ続けることにより、映像の補正が間に合わないことだと考えられる。知覚能力が高ければ高いほど、残像となる虚像を捉えてしまうため、本来は眼の良い者ほど効果は高くなる。ただし知覚能力が高すぎて残像剣の運動を認識できればただの高速移動や無駄の多い動きとして捉えられる。ギレーヌは完全に認識できていないまでも、なんらかの方法で脳内の残像の発生を減少させ、逆に間合いに入って来るタイミングで俺に対して光の太刀を繰り出していた。だとすると、ギレーヌを越えるレベルの剣士に対しては既存の残像剣では力不足である。

そこで、より効果の高い残像剣として2つのアプローチを勘案した。

最初のアプローチは闘気に緩急をつけることにより残像剣の効果を高める方法で、新しい剣技として残像剣・闘気脈動(ディレイ・アタック・オーラテンポ)と名付けた。残像剣(ディレイ・アタック)を使うときは主に両足と身体の軸に対して闘気を纏う。その開始から終了まで一定の闘気を足に纏っているのに対し、新たな剣技では闘気の量を制御し、より複雑に動かす。エリスに見せると、通常は一定間隔に残像が見えるのに対して、緩急をつけた場合は間隔に狭い広いができるとのことだ。

2つ目のアプローチは『土槍(アースランサー)』を応用して残像剣の動きに身体動作を無視した小さな変化を付ける方法で、こちらも新しい剣技として残像剣・大地蠢動(ディレイ・アタック・アースウェーブ)と名付けた。『土槍(アースランサー)』を足場やカタパルトとした考え方の延長で、残像剣を使って動いているときの足場を魔術によって極僅かに操作する。この技をエリスに使うと今の俺の身体能力でも10~15体ほどの残像が見えるらしい。効果は高いが魔術を1つ使うために攻撃に回せる魔術が1つ減り、混合魔術が使用できなくなる。

 

次に攻撃方向と間合いを見切らせないための足捌きについて考える。俺の戦術理論では主に、分身剣(パラレル・アタック)を使ってそれを為すが、まだまだ訓練不足の感が強い。そもそも分身剣が必要となる相手がギレーヌクラスなのだからどうしても使う相手が限られてしまい、鍛錬も後回しにしてきた。だがこれからのことを考えると訓練量を増やし練度を上げるべきだろう。また、打ち込みタイミングと同様に魔術による併用も考えた。火と水の混合魔術によって生み出す『陽炎』を使って分身の状態を曖昧にする方法だ。しかしこの方法は逐次発動なら問題ないが、瞬時に発動しようとすると3つの魔術経路を使用するため、剣技として昇華するレベルには至らなかった。これなら単純に2つの範囲攻撃魔法を放った方が強い。

 

基本は重要だが魔法剣士とは応用的な攻撃が重要だから応用技術についても考える。

問題点の1つは近距離の決定力不足だ。魔剣技は真空波や衝撃波、竜巻を生み出す中距離技が多い。一方で近接攻撃は分身剣(パラレル・アタック)から繰り出す同時攻撃と水神流のカウンターを使うことを考えてきた。これに対し、接近戦でのギレーヌはスピードで水神流剣技を不十分にし、分身剣を使う暇を与えないという剣神流らしい攻撃をしかけ、それに成功している。咄嗟に発動させることができる技、もっと言えば残像剣や分身剣から連携して腕の闘気で繰り出す技が必要だ。そこで俺が考案したのが、腕から先の闘気をこれまでよりもずっと高めて、その高めた手だけで脇差を抜き、また鞘に納める居合斬りの技だ。俺はこの剣技に無走剣(ブラインドソード)と名付けた。弱点は全く同一の剣軌道しか持たないというところだが接近を許した場合の牽制として有効だろう。

 

次の問題点は、ギレーヌがおそらく俺の身体の重心や癖を瞬時に見抜き、その上で最短距離で攻撃してきた点だ。最短攻撃自体はギレーヌ本人の特性というより剣神流の特性だろう。癖をなくして最短最速になるとそれは剣神流に近くなるが、魔法剣士の戦術にはおそらく合っていない。もし同じ方向性を目指しても俺の場合は考えすぎてしまい挫折することになることが判っている。ならば、あえて癖を増やすことを考えた。少しわかり難いので例を出すと、前前世では動物や無駄の多い動作を取り入れた拳法があったと思う。蛇拳、蟷螂拳、猫拳、酔拳だ。つまり、自分の動き自体を不合理な型に嵌めて相手に癖を勘違いさせる。とりあえず理論だけだが今後、練習していく予定だ。

 

最後にこれはギレーヌ戦では問題にならなかったことだが、あれこれ工夫している中で昔にロキシーに言われたことを思い出したことから、欺瞞詠唱という技術を考えるに至った。ロキシーはフィールドワークに出たときに「同時無詠唱で2つの魔術がだせるなら詠唱をしながらすれば3つの魔術を同時発動できるのか?」と訊いてきた。その後しばらくして、俺はロキシーの疑問を実証してみたが残念ながら発動できるのは2つだった。ただしこの実験を客観的にみたとき、その戦術が無駄ではないと理解した。相手が魔術的な知識を持つ場合、詠唱内容から魔術を推測してくるのはよくあることだ。つまり、無詠唱で使う魔術とは異なる魔術を詠唱することで相手の戦術を混乱させることが可能だ。俺はこれを欺瞞詠唱と呼ぶことにした。

 

検討した内容を日記に書き、ギレーヌの人形を作り終わったらすぐに寝よう。今日もよく眠れそうだ。

 




次回予告
家に帰るまでが遠足。
心躍る出来事も帰り際に事故に遭えばケチがつく。
だから緩んだ気持ちを引き締めよ、という格言。
偉大な警句。
だが、帰る家がなくなったなら。
転移災害で村や町、一切合切何もかもが消失してしまうとしたら。

次回『社会見学』
1つでも多くの思い出を。
心に強く残る形で。
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