無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。
・闘気に関する細かい原理
・剣神流での闘気を示す「オーラ」という用語
・北神流での闘気を示す「覇気」、「気合い」という用語
・ルーデウスが転生前にスパ〇ボで遊んだ経験があるかどうか
・エリスが光の太刀を体得した経緯
・ルード傭兵団の支部がアスラの首都アルスにあるかどうか、また転移魔法陣が王宮内ではなく、傭兵団事務所にあるかどうか。
・事務所の構成員に関する諸々の情報(支部長が人族である等)
・アルス内にある別荘を管理する人々やその役職
は原作では語られていない部分のため拙作のオリジナルとなります。あらかじめご了承ください。



第003話_苦手分野の克服2_闘気研究

---苦手なことの多くには似た要素がある---

 

さてさて、治癒魔術についてはその後も数か月にわたって実践形式で訓練した。これにより戦闘力が劇的に向上したことを記録しておこう。というのは、エリスとの模擬戦で多少ダメージを受けても無詠唱・ノータイムで俺が肉体を回復できるからだ。実行している間は他の魔術の手数が減るけれども、これまで採れなかった神風特攻系の手筋を増やせるようになった。その手筋を使ってエリスの対応力の裏をかくことが増えている。

俺のことはおに〇さまと呼んでくれても良いぞ。

ゲームで言えば、受けたダメージに反応して自動回復するみたいなものor毎ターン回復する能力みたいに考えてもらえば良いだろう。しかもそういうのって回復上限があるだろう?最大で999とか受けたダメージの3割とか。でも俺は違う。上級治癒魔術で回復できる範囲なら受けたダメージの10割を即座に回復できる。肉体損傷までしない模擬戦なら無敵の能力に近い。それでもエリスが持つ底無しの体力と勝負すればジリ貧になるのは俺だから無敵ってわけでもないんだが。

 

「くっ、厄介ね。今まで有効だった打撃を無視して突っ込んでくるなんて。

 2度目にオルステッドと戦って、腕を落としたのに即座に回復されたときのことを思い出すわ」

 

休憩のときにエリスがぼやいている。それでも彼女は諦めていない。模擬戦ルールの範囲内で何か合理的な打撃を放つべく、次の一手を算段している。

さすが剣王様、合理に忠実だ。

 

「なぁ、エリス。闘気っていつ頃、身に付いたんだ?」

 

「闘気??」

 

え、エリスって闘気のこと意識していないのか?

 

「ほら、光の太刀を放つときに使うやつだよ」

 

「あぁ……オーラのことね」

 

オーラ!オーラバ〇ラー!つまり光の太刀とはオ〇ラ斬りってことか!まてまて光の太刀は必殺技だからハイパーオ〇ラ斬りだな。

ス〇ロボではかなりお世話になったから憧れがあるんだ。

 

「そうね。剣の聖地にギレーヌと行った後ね」

 

「ガル・ファリオンが教えてくれたのかい?」

 

現剣神ジノ・ブリッツの先代、エリスの修行時代の剣神ガル・ファリオン。

俺が出会ったのはもう彼が剣神を引退した後だったし、まともな会話も交せなかったからどんな人物か俺は知らない。不意打ちで両腕喪失させてくる嫌なオッサンのイメージしかない。

 

「いえ、ガルは何も教えてくれはしなかったわ。稽古はつけてくれたけど、ルイジェルドみたいに優しくもなかったわね。ただ力を示すだけ。まだ足りないって彼の剣は語っていたわ」

 

この前に会ったジノ・ブリッツもそんな感じだったな。道場を守ろうとかそういう気概もなければ人を育てようっていう気もなかった。剣神流は、ただ強くなりたいっていう純粋な気持ちをモットーにしているようだ。道場の形式をとる意味あるんだろうか。

 

「そうね、それまでギレーヌやルイジェルドが教えてくれたことを基礎に赤竜の下顎でオルステッドから盗み見たあの力、あれを突破しようって思ってた頃にね、オルステッドの力はやっぱりどうしようもないんじゃないかってしばらく思っていたわ。

あの力にルーデウスは対抗しようとしているのはやっぱりすごいとも思ってた。

私も追いつきたかった。ガルは何も語らなかったから私は彼と打ち合った中で合理を模索したわ。そしたら身についていたのよ」

 

え、ちょっとなんか大事なところがふわっとしてない?エリスさん? 俺が何も言わずにポカンとしていたからエリスは焦りだした。

 

「?何よ。私が何かおかしなこといったかしら?」

 

「いや、大事な部分がふわっとしているというか……」

 

「つ、つまりね。ガルに勝つために彼の剣を真似していたらできたのよ。光の太刀が」

 

あ、これあかんやつやパウロと同じ感覚派だ。合理に基づいた理論派になったと思っていたのに大事なところはすっぽ抜けてる。人はそう変わらないからな。

俺だってこの人生ではがんばろう!って思っていたのに、妥協と手抜きを繰り返して後悔ばかりしているからな。

お互い様の似た者同士だと感じて、俺の顔はニヤつき始めていた。

 

「もう、いいじゃない。でもなんでオーラのことが気になるの? たしかにルーデウスがオーラまで身に付けたら、最強になるって思うけども」

 

「最強にはなれないって思うけど、時間もあることだし苦手分野を克服しようと思ってね」

 

「ヒマってことね」

 

おいおい違うよ、エリスさん。エリスにはこういう話を赤裸々に話すことができる。もし俺が苦手分野を克服してもまた肩を並べられるように彼女は強くなってくれるだろうから。

シルフィみたいに嫉妬される可能性があるんなら隙を残しておかなければいけないんだろうがね。……いや、昔、最初の魔眼を手に入れてイイ気になってエリスを負かしたとき、彼女は泣いていたんだったな。なら剣神流をマスターしないほうが良さそうだ。エリスの得意分野もシルフィと同じで残しておいた方がいいのかもしれない。

防御のための水神流をマスターしよう。それもこれも闘気を手に入れることができたらの話だ。

 

その後、もう一度、エリスと模擬戦をしてから朝のトレーニングは終了した。

 

--

 

トレーニングから戻り、風呂を出た後、自宅の研究室に戻った俺は先ほどのエリスとの会話を日記にまとめていた。

結局、エリスに聞いても闘気/オーラの身に付け方は分からずじまいだ。もし呪いや神子的要素があるならクリフ先輩に話してみるのもアリだろうが、シルフィを見ている限り、単に俺が不得意だって思っている可能性が高い。

世の中には中級で終わる剣士も多い。

端に俺の素質が中級剣士と同じような素質ってだけと考えるほうが現実的だ。何か壁を突破する糸口がみつかれば、すんなりいきそうな気もしている。苦手分野の克服に挫折は付き物だ。見通しが悪いからといってすぐに諦めたりしないぞ。

パウロは男の子が生まれたら剣士にするってゼニスと約束していたんだ。もうパウロもいないし、ゼニスはあの調子だから俺が剣士として力を示しても喜びはしないだろうけど、それでも親の願いに腐心しようじゃないか。彼らの見てないところで頑張っても自己満足かもしれないが、俺は親孝行が少なかったからな。こういう時には男を見せなきゃ。

 

とは言ってもどうするべきか。

治癒魔術のときみたいに脳内ロキシーに相談しても良い解決策はみつからなかった。

ジノやギレーヌに聞いても有用な返事はなさそうな気もする。本当なら合理を追求している剣神流が一番説明が上手そうなのに脳筋揃いだからな。

他に闘気を扱える人物っていうと、オルステッド、バーディガーディ、北帝ドーガ、水神レイダ(旧イゾルテ)、北神二世シャンドル、北神三世アレクってなるな。バーディガーディは昔、少し剣術を見てもらったが才能がないの一言だった。オルステッドは何でも知ってるわけじゃない。これまでのループで得た知識になければ的確なアドバイスはしてくれないだろう。とすると、ドーガ、レイダ、シャンドル、アレクになる。

一番経験豊富そうなのはシャンドルだな。よしシャンドルに相談してみるか。それで納得しなければついでといっては失礼かもしれないが、ドーガやレイダに聞いてもいい。決まったぞ。

 

--

 

翌日、転移魔法陣を使うためにシャリーア郊外の事務所に向かった。家族には数日用事で出かけると伝えてあるが、行先がアスラ王国の王都アルスってのは内緒だ。行きたいって言いだすヤツばっかりだからな。

今回は家族旅行気分で行くわけじゃない。至極真面目で悩み多き案件なのだし、エリスには内緒にしなきゃいけない部分もある。

 

そうこう考えながらも事務所に到着した。

受付の長耳族ハーフの子の名前をなかなか覚えられないが、この子は鬼神がここにきて事務所が崩壊した後も健気に受付の仕事を続けてくれている。

 

「会長、おひさしぶりです。今日は社長はご不在ですけど……」

 

「そう、でも大丈夫。社長がいらしたらご挨拶しようと思ったんだけど、それが用事で来たわけではありません」

 

「はぁ、ご用件を伺っても?」

 

「アスラ王国に行くために転移魔法陣を使わせていただこうとおもいましてね」

 

「あぁなるほど」

 

「もし私が戻ってくるまでにオルステッド様に経過報告をすることになったら、シャンドルに会いに行っていますと伝えてください」

 

「ご伝言承りました」

 

申し送りが終わったので転移室に歩いていく。

今日はアレクに会わなかった。アレクを差し置いてシャンドルに会いに行くってのも不義理な気がしたから会ったらどう説明しようかと少し悩んだのに、杞憂に終わったな。

 

--

 

転移魔法陣を使ってルード傭兵団アルス支部の事務所内に転移すると、隠し扉から抜けて事務所の一室に入る。そこで構成員の一人から歓待を受けた。彼は確かここの支部長だったな。名前は……忘れた。名札付けといてほしいよ。

 

「会長!お久しぶりです」

 

「いやーどうも久しぶり。連絡も無しに訪問して悪いね」

 

「いえいえ、お気になさらずに。もし何かありましたら何なりとお申し付けください」

 

「王宮に用があってね。しばらく別荘の方から王宮に通って、また帰りには寄らせてもらうからよろしくね」

 

「承知しました。こちらでお手伝いできることがありましたら、なんなりとお申し付けください」

 

「うん、ありがとう。頼りにしてるよ」

 

当たり障りのない挨拶を口にして支部長と別れ、アリエルに下賜された別荘に向かった。馬車を借りるまでもない。この距離なら徒歩で向かおう。

 

別荘に到着し門扉をくぐる。

我が別荘には歩哨を立たせていないし、ポーターもいないのですぐに応対してくれる人はいなかった。俺は下級貴族の出だからそれが苦にならないし、気兼ねしなくて良いと思ってる。

我が家のように自然体で玄関に入ると、ハウススチュワードのマレヨさんが速足で寄って来たので、その前に自分でジャケットを脇に抱えた。

 

「これはこれは、旦那様、ご機嫌麗しゅうございます」

 

「どうもマレヨさん。何事もお変わりありませんか?」

 

(つつが)なく」

 

そう言って彼は綺麗にお辞儀した。

彼がお辞儀から向き直った後、俺は頷いてこれに応える。何かフィットア領で家庭教師している頃を思い出すな。

俺が頷くとマレヨさんが自然な所作で脱いだジャケットを受け取ってくれた。

 

「しばらく滞在します。あと、黄金騎士団団長シャンドル殿とお会いしたいので、アポイントメントを取ってください」

 

「かしこまりました。滞在とのことですが、何人でご逗留でしょうか? 奥方様方はいらっしゃらないようですが……」

 

「今回は一人できましたので部屋も1室で構いません」

 

「ははっ。部屋がご用意できるまで応接間でお待ちください。お茶をお持ちします」

 

「よろしく」

 

着の身着のまま来ても対応してくれる。ありがたいことだ。電話みたいなのがあれば事前に連絡できるのにな。通信板は大きすぎるし……この家に置いたとしても魔力が足りなくて使えないからダメだ。そう考えながら応接間へ歩いて行った。

後ろでマレヨさんが玄関据え置きの呼び鈴を鳴らす音がすると、それを聞きつけたハウスメイドが一人走ってきて、俺を見て大仰にお辞儀をしてからまたマレヨさんのところに駆けていった。きっと俺が泊まる部屋のベッドメイクをしに行くかお茶を出すために呼ばれたんだろう。この家で出るマーマレード風味の木の実のジャムと紅茶っぽい飲み物の組み合わせは非常においしくて気に入っている。ちょっと楽しみだな。

 

--

 

応接間でお茶を楽しみ、窓越しに庭をながめつつ、シャンドルに会ってどう切り出そうかと思案していた。なるようになるとは思うが、他に考えることもなかった。2時間ばかりぼんやりしていると、扉がトントンとノックされた。

 

「どうぞ」

 

扉に向かって声をかけると、マレヨさんが部屋に一歩入ってきて言いつけた用事の進捗を報告してくれた。

 

「失礼します。シャンドル殿へのアポイントメントがとれました。アリエル女王陛下の警備で忙しく、明後日の昼になるとのことです。構いませんでしょうか?」

 

「うん、問題ないよ。ご苦労さま。

 じゃぁ、そうだな。今日はこのまま屋敷にいて、明日は市街に出かけてくることにする。明後日はシャンドル殿にお会いして、戻ってきたらその日の内に帰るから、予定しておいてくれるかな」

 

俺はマレヨさんに今後の予定を伝えた。

今日はどこに行ってもお偉いさんみたいな対応を受けたな。シャリーアの事務所、ルード傭兵団の支部、そして別荘の家令。元無職ニートがこんな風になってるなんてなんか不思議だ。これは俺が魔術師として剣士として、冒険者として頑張ったからじゃない。これくらいの頑張りはきっとこの世界の多くの人がこなしていることだ。なら何が違うんだろうか、少なくとも前世のように上手くいかないことを他人のせいにはしないように心がけてきたと思う。足踏みもしなかった。他人を恨むより、生まれを恨むより、自分の責任でチャレンジしようと思った。それがたまたま上手くいったおかげなのかもしれないな。

俺は今日も幸せな一日を過ごしたようだ。実家に帰ったら日記にそう記そうと思った。

 

--

 

滞在二日目は、マレヨさんに伝えたように、アルス市街へと出かけた。

時間を有意義に使うべくザノバ商店兼工房と市場を視察すると、市場にはいろいろな物が売っていた。さすがはこの世界第一位のお金持ちの国、物資も潤沢で質を問わなきゃ何でもある。アリエルが即位してからもう随分立つが、市井の様子はあまり変わらない。きっと第一王子グラーヴェルが即位していたとしてもこの国の礎は盤石であっただろう。王竜王国もそうだったが、大国というのは国王の代わりを何重にも用意しておき、ちゃんと替えがきくようにしておくものだ。

そう考えるとアリエルが魔法大学へ出奔するときも命を狙ったというところに首を捻らざるを得ない。グラーヴェル自身がそう指示したのではなく、寝返った貴族連中が返す刀で足蹴(あしげ)にしたというところが実際の顛末だと言われた方が納得がいく。全ては想像の範疇だが、それこそ裏切っていたノトス家の差し金だったかもしれない。また、シーローンのパックスが謀反を起こして王族を残らず殺してしまうというのも王制の維持という観点では浅はかな行為だったと同様に言うことができるだろう。

パックスがヒトガミの使徒の王竜王に唆されたというのだから気の毒なことではあったけどな。第七王子なら王室に固執せずに上流貴族みたいな立ち位置で放蕩の限りを尽くせばよかったんだ。犯罪にだけは注意して優雅に暮らすべきだったのに、変にまじめで、そのクセ法律やルールには無頓着だった。それで大きく失敗したと言えよう。まぁ前世で失敗ばかりの俺が偉そうに言うことでもないか。

これも帰ったら日記に書いておこう。

 

--

 

滞在三日目、朝から正装をして馬車に乗り、昼前には王宮に入った。目的はシャンドルに会うためだったが、まずはこの国の最高権力者、アリエル女王に謁見する。

 

謁見の間で片膝をつき、そのまま静かに待つ。待っているとドラが鳴り、その後、幾人かの人間が部屋に入る気配がした。そして最後に女王が着座する衣擦れがする。

 

「面をあげなさい。ルーデウス・グレイラット」

 

「アリエル様におかれましてはご機嫌麗しゅう。また一段とお美しくなられましたこと、このルーデウス喜ばしく思っております」

 

「あらあら、よく滑る口ですこと。それで3人も娶ったというのだから気をつけねばなりませんね。私のことも昔のようにアリエルと呼び捨てにしてくださって構いませんことよ」

 

周りに居並ぶ重鎮たちが眉根を寄せた。なんてこと言ってくれるんだ、この女王様は。

 

「はは、お戯れを。女王陛下を呼び捨てにしたことなど、このルーデウス一度もなかったと記憶しております」

 

「ふふふ、そうでしたわね。出会った頃のそなたは男としても自信を無くしていたとかいなかったとか」

 

周りの重鎮たちから笑い声を無理やり抑えようとする雰囲気が感じられた。今日のアリエルは何か感じ悪いぞ。俺、気に障るようなことでもしたんだろうか?

 

「それで……シルフィエットたちの姿が見えませんが本日は何用でここへ?」

 

「はっ。シャンドル殿に少しご相談がありまして。いえ、政治的なことではありません。武人の心得についてお聞きしたいことがあるのです」

 

「まぁ、そうなの。判りました。もう下がってもよろしくてよ」

 

「はっ。では、これにて失礼いたします」

 

立ち上がって胸に手をあて貴族の礼をすると、アリエルも立ち上がり謁見の間を出て行った。アリエルが居なくなった後、俺も謁見の間を退出した。

先ほど嫌味をいわれたのはどうやらシルフィを連れてこなかったことへの当てつけだったようだな。よく考えると、もう何年も二人は顔を合わせていないのだ。アリエルに挨拶するのは分かっていたんだからちゃんと連れてくるべきだったんだ。またミスをしたようだ。

しかし、ここ数日お偉いさん的な待遇を受けていたからアリエルと会って下々の者として扱われると浮ついた気持ちが落ち着く。浮ついていたとは思っていなかったけど、アリエルはそこのところも上手く手綱を引いてくれたのかもしれない。

 

謁見の間を出ると衛士が一人待っていて、シャンドルの居る部屋まで案内してくれた。その部屋にはいると、こちらに気づいたシャンドルから熱い出迎えを受けた。

 

「やぁ、ルーデウス君、しばらくぶりだね」

 

「シャンドル殿、この度は突然の要請にお時間を割いていただき、誠にありがとうございます。またビヘイリル王国ではご無礼が多々ありましたこと、この場にて改めてお詫び申し上げます」

 

「気にすることはない。いいじゃないか、僕も真名を君に知らせなかった。あの戦いは心躍る戦いだったんだ。君が気にすることは一つもないよ。それで、今日の用件を聞かせてもらえるかな? 僕に答えられる内容だと嬉しいのだけど」

 

「はい、実は剣士が纏う闘気について教えて頂きたく。幼少の頃から父パウロより剣術の指南を受けていたのですが、悲しいことに闘気を纏うに至らずここまできました。ここに至り、なぜ自分が闘気を纏うことができないのか、それを研究したいと思っております」

 

「つまり、もっと強くなりたいと? それはすごい。既に列強七位になった泥沼のルーデウスが更に上を目指そうとしているってことなのかな。確かに、ビヘイリル王国の件でも君は闘神鎧に似た魔道具を使っていたね。それで闘気を纏う我ら剣士と対等に戦っていたと思うのだけど。それでも必要なことなのかい?」

 

「正直なところを申しますと、闘気を纏うのは難しいと思っております。私にはその素質がない。しかしながら、素質がないからこそ思うのです。今の闘気の体得の仕方は非効率ではないか、と」

 

「非効率というと?」

 

「そうですね。少し話を戻したいと思いますが、よろしいでしょうか?」

 

「あぁ、どうぞ」

 

「ありがとうございます。このような質問をするに至った背景からお話しましょう。

まず私の妻に剣王エリス、また旧知の仲の剣王ギレーヌがおります。いずれも剣神流で闘気を体得した者達ですが、彼女らが闘気を体得しえた過程は明確ではありません。体を鍛え、剣の修行をし続けることでいつしか闘気を得る。そういったものなのです。これは私のように修行をし続けても闘気を得られなかった者からするとなぜ?という疑問を解消しきれません。そこで他の流派の方にお知恵をお聞かせ願っているというところです」

 

ギレーヌには話を聞いていないがどうせ脳筋だからエリスと同列の扱いをしてしまった。すまんなギレーヌ。

「なるほど、つまり私が話すべきは北神流での闘気の体得の仕方だということだね」

 

「ご理解が早くて助かります。ですが、明確な体系化がなされていなくても構いません。私はそれらの情報を集め、体得するために必要な資質を整理するつもりでおります」

 

「ようやく何を答えるべきか判ったよ。しかし、我が息子のアレクにこのことについて訊かなかったのかい?」

 

「お尋ねしようと思いましたが、折り悪くシャリーアにはいらっしゃいませんでした。おそらくオルステッド様と仕事に出ているということだと考えております」

 

「そこで私に白羽の矢がたったというわけか。ふむふむ。ではなるべく順序立ててお伝えしましょう。なぁに伊達に長生きしているわけではないですからね」

 

シャンドルの講義はおよそ2時間に及んだ。話してくれた内容はかなり整理してあったからまとめるのも簡単だ。要点は次のようなものになる。

 

1.北神流では闘気のことを「覇気」と呼ぶ。ただしアトーフェは「気合い」と呼んでいるそうだ。彼女らしいな。

2.北神流でも自然と「覇気」を身に着ける者が多いが、自然と身に付かない場合に強制的に身に着けさせる方法が3つあるという。さらに細かい分派で亜流が存在するらしい。強制的に身に着けさせる方法は次のようになる。

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2-1.臨死法:命掛けの戦いを行い、臨死体験をすることで「覇気」を手に入れる方法。アトーフェが考案した方法で3つの方法の中で不死族が最も手軽に「覇気」を手に入れる方法である。不死族以外が挑戦し、失敗すれば絶命する。

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2-2.封穴法:全身にあるという気穴を聖級以上の師匠の「覇気」によって無理やり封じる方法。気穴を強制的に閉じられた被験者は、体内の魔力を制御する機会を得て、素質ある者は「覇気」を得る。素質の無い者の気穴を閉じ続ければ、被験者は死に至るが、師匠の采配により気穴を開けば死に至ることはない。ただし、聖級になるのに相応しい体の鍛え方をしていなければ肉体への負荷も大きく、剣士生命が終わる場合もある。

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2-3.開穴法:封穴法とは逆で全身にある気穴を開かせて排出量を大きくする方法。これによって、肉体の中を流れる魔力が一気に低下する。生きるために非常に少ない魔力を制御しようとすることで体内の魔力制御が繊細になる。この後、気穴を元に戻すと気を練ることができるようになる場合がある。気穴をどの程度、開かせるかという匙加減が難しく、現状シャンドルのみが実施できる。上手くいけば先の2つの方法より肉体へのダメージは少ないが、この方法で「覇気」を手に入れたのは「覇気の繊細な制御を苦手としていた者」だけである。

 

3.「覇気」を体得する者の多くは、魔術的素養が少なかった。

 

4.魔術的素養を多く持ちつつ「覇気」を体得するものは、独特で多彩な剣技を操る者が多かった。

 

5.「覇気」の扱い方にも特徴があり、例えば北帝ドーガは防御と突進力。シャンドルは受け流しと緩急、アレクは体力と打撃力が強化される。アトーフェの「覇気」は見たことが無いからよくわからないそうだ。

 

「非常に参考になりました。ご助力感謝いたします。もし何かわかりましたらご協力いただいたシャンドル殿にもしっかり報告させていただきます」

 

「ルーデウス君が研究してくれるんだ。期待して待っていよう」

 

そう言葉を交わしてシャンドルとの相談は終了した。

 

--

 

あれから1か月。シャンドルが語ってくれた話は非常に有意義だった。シャリーアに戻ってきた俺は、彼の話とバーディガーディが昔「魔力を細胞に押し固める」といっていた話を総合して次のように4つの仮説を立てた。

思ってもみなかったことだが、治癒魔術で得た知識がここでも役立った。仮説を持って説明しよう。

最初の仮説は魔力の在りかに関する仮説で、『この世界の住人は魔力を腕から手の平にかけてだけ存在させているのではない』というものだ。俺は今まで魔力については余り細かいことを気にしていなかった。自分の身体の中で魔力はどこで生成され、使わなければどうなるのか。そういうことに疑問を持たなかった。ただ魔術を使うときは、自分の中で全身から魔力を集めようとするので魔力が全身に存在していて、絞り出す回路が指先か二の腕当たりにあるとは認識していた。ミリス国にある「術奪い」から判る通り、これは俺特有のことではなく、一般的なこの世界の住人であるなら誰もがそうである可能性が高い。

ならばどこにあるのかを考えて『魔力は全身を血液のように流れていて、気穴から自然排出される』という仮説を立てた。治癒魔術の知識から『非常にわずかな魔力が体内を流れている』のは確かであり、その知識が役立った。そしてシャンドルの説明から循環する魔力は気穴から体外に排出されるものであると推測できる。

次になぜ俺が闘気を手に入れることができないのかという部分に対して『魔力の総量と知覚尺度は比例する』という仮説を立てた。

俺の魔力総量はラプラス並みに多い。魔力総量を燃料タンクだとすると総量の多い者の目盛りは100リットル単位、逆に総量の少ない者の目盛りは1デシリットル単位というようになる。体内を流れる魔力は非常に小さいので目盛りのアバウトな術者ほど闘気を体得するのが難しくなるというわけだ。

最後の仮説は『闘気は体内の魔力を制御し、体外に排出させず体内に留め、さらに練り込み細胞に保持させることができる』というものだ。バーディーガーディの説明から闘気の本質が魔力であることは明らかになっている。さらに、シャンドルの説明から闘気の練り込み方によってブーストされる肉体の状況は変わる。つまりそれぞれ異なる魔術として発現する。推測だが、武術を修練すると魔力を絞り出すのは体中の至る所からできる。

 

シャンドルの説明で「気を練る」というワードがあったので、これを練気と名付けると、次のようなフェーズに分割できる。

 

操気:体中の魔力の流れを感じ、制御する。

集気:肉体から自然に魔力を排出するための気穴を閉じ、魔力を体内に留める。

錬気:留めた魔力を練り込み体の任意の部位に固める。

纏気:錬気を持続させて体に纏い戦闘機動を行う。纏う場合は別に腕の発動回路を経由しなくても良い。

 

となると思う。可能であれば纏気をしつつ、両手からはさらに魔術を扱うのが俺のスタイルになるはずだ。苦手分野を克服できたわけではないが、仮定に基づいた4つの技術、操気、集気、錬気、纏気を覚えるための訓練メニューを考えてみよう。

 

 

 


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