無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

33 / 132
今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第033話_水神vsルーデウス

---高みはやはり遠く---

 

ギレーヌとサンドラと俺の会話はまだ続いている。

 

「なるほどな。しかし、水神流の奥義を簡単に破る君の剣技は一体なんなのだ?」

 

「僕のオリジナル剣技です。ですが、水神流の突破方法はギレーヌに基本を教えてもらいましたからアイディア元は剣神流ですね」

 

「つまり、師匠は剣王殿か?」

 

これにはギレーヌが先に答えた。

 

「違う。私の弟子はあっちにいるエリスだ」

 

俺も答える。

 

「ギレーヌの言う通り、僕はギレーヌの弟子ではありません。剣の師匠は僕の父パウロ・グレイラット。剣神流・水神流・北神流の3流派の上級剣士で3歳の頃から師事しています。それと魔術の師匠、ロキシー・ミグルディア。この2人が師匠ですね」

 

「なるほどな。フィットア領から来たボレアス・グレイラット。あっちの少女が直系で君は傍流というところか」

 

「もう少し複雑ですがだいたいそうです。やはりアスラの騎士と言えば水神流ですから、お弟子さんにも貴族が多いのでしょうか?」

 

「宗家道場に来るほどの武人を輩出する貴族などおらぬが、門弟に多くいるのも確かだ」

 

サンドラさんのミドルネームのドラゴは貴族名ではないのだろうか。しかし、カステッポという家名はあまり貴族っぽくない。あまり踏み込むと藪をつついて蛇を出すかな。

 

「へぇ。そんなものなんですね」

 

無難な相槌を打った。

 

「それなら余計にわからんこともある。なぜミリス神聖国の神殿騎士の戦い方を君が知っているのだ」

 

そりゃ……前世で闘ったからだが。うーんなんて誤魔化したら納得してくれるだろうか。あぁそうだ。

 

「母に神殿騎士の話を聞いて見様見真似でやっただけです。母はミリシオン出身で確か、家名はラトレイアだったと思います。行ったこともないので良く知りませんけど」

 

どうだ?誤魔化せたか?最近、嘘がどんどん上手くなってきたな。

 

「私はかつてミリスとの交流試合で神殿騎士と闘ったことがある。あの防御結界でこちらの攻撃を流すのが、その者と似ていたというだけで確証はないが」

 

おいおい、半分カマかけたってことじゃないか。ニュアンスを曖昧にしておいて良かった。

 

「まぁ、僕は魔法剣士ですから魔法剣士の基本戦術といえるかもしれません」

 

「魔法剣士に流派はないのか?」

 

とギレーヌ。

 

「僕は自分以外に魔法剣士を見たことがないので良く知りませんが、魔法剣士は数が少ないらしいので流派なんてないんじゃないですか?」

 

「せっかくだからルディが新しい流派を作ったらいい」

 

「そうですね。七星(しちせい)流と名乗ってもいいかもしれませんね」

 

この後すぐに三者会談は終わり、俺は水神流の2つの奥義を理解した。こちらもいくつか手の内を見せたが、どうせ使うのは俺しかいないんだ。俺が困らない範囲でなら別に秘匿することもない。

 

 

--エリス視点--

 

この道場に通う人は皆、ギレーヌやルディより弱いけど私より強い。見たところ年齢は私より上の人しかいない。おじさんというほどでもないけど、おにいさんという感じで友達になるのはちょっと難しい気がする。サンドラさんは少し怖いけど、他の女性のおねえさんという感じの人とは友達になれるように頑張ろう。イゾルテさんとか。今度、声をかけてみよう。

 

ここにいる人はみんな紳士と淑女だった。騎士の人もいるし、騎士でなくても水神流は礼儀作法を対人戦闘技術の一つとして学ぶみたい。だけど礼儀作法が良すぎるせいか、ちょっと距離感を感じる。それにこちらにも礼儀作法を要求してくるときがある。この人たちにとって対等に付き合うためには礼儀作法も重要みたい。礼を失すると話していても露骨に会話を打ち切ろうとする人もいる。私は他流派でそういうところに気を付けないといけない。正直、肩が凝る。こんな関係で友達になれそうもない。

ルディはこんな状況でもうまくやってる。思い起こせば、ロアの家に来た状況だって誰も知っている人のいない環境だった。お母さまは最初から嫌っていたから仕方ないけど、それ以外で周囲を嫌な気分にさせることはなかった。ここでもそうだ。ここの人たちの師匠を倒してしまったのに、彼らと上手く付き合っている。何かコツとかあるのかもしれない。そもそも田舎暮らしだったのになんであんなに礼儀作法がしっかりしてるのか謎だ。今夜にでも相談してみよう。

 

--

 

ルーデウスの部屋。夕食後にルディの部屋を訪れた私は、彼が寝ているベッドに座って彼の枕を抱きしめた。彼の臭いがふんわりと鼻孔をくすぐる。彼は招き入れた私に適当に座ってよと言っただけで、日課だという日記を書く作業に戻ってしまった。私が何も言わずに彼の小さな背中を見ていたからだろうか、彼から訊いてきた。

 

「どうした? エリス」

 

「日記、書き終わったら話すわ」

 

「そう、ならちょっと待って」

 

また部屋にはルディが日記を書く音だけが響いた。ときに停まりときに進む、もどかしい音だった。これから話すことをどう言おうかは決まっている。後は彼がこちらへ振り向くだけだ。

 

「それで?」

 

ルディはようやく振り向くと私に訊いてきた。

 

「ルディは人付き合いが上手いわ。それに比べて私は下手。コツを教えて欲しいの」

 

「人と人の付き合い方にコツなんてないよ。同じことをしても嫌われることもあるし、好かれることもあるんだから。でも他の人のことが気になるなんてエリスにしては珍しいね。どうしたの?」

 

「ここの人は私より強い人が多いでしょ……だから全力でぶつかっても友達になれる気がするのよ」

 

「へぇ」

 

「何よ」

 

「友達一杯できると良いね」

 

「できなくて困ってるの」

 

ハハハ、何が可笑しいのかルディが笑った。私がこんなに困っているのに。薄情者。

 

「この道場の人たちはちょっと特殊だから、注意するポイントはあるかもね」

 

「それを教えなさいよ」

 

「まぁ待ちなよ。ここの人たちは皆同じ目的で来てる。何かわかる?」

 

「道場なんだから強くなるためでしょ」

 

「その通り。だからそれをアドバイスすると良いよ」

 

「私が一番弱い気がするのにアドバイスなんて」

 

「確かに強い人からアドバイスを受けるってのは為になるよね。なぜだと思う?」

 

私より頭が良いルディが当たり前のことを訊いてくるときは少し注意した方がいい。少し考える。ギレーヌと私に当てはめて考えよう。そして慎重に答えた。

 

「強い人は弱い人が出来ないことを出来るから強い。だから弱い人は出来てないことを強い人に指摘してもらって直せば強くなれる。どう?」

 

彼は変な笑顔でニヤニヤしている。

 

「今のはエリスと僕で考えた?それともギレーヌ?」

 

言い当てられたことに驚いた。

 

「自分とギレーヌで考えたわ」

 

「だろうね。僕は他流派だけどエリスに指導したこともある。そのときエリスはどう感じた?」

 

「切り口が違ったから為になった」

 

なるほど。そういうことか。

 

「答えが出たみたいだね」

 

「うん。ありがとう、ルディ」

 

「どういたしまして」

 

--

 

次の日から、手合せした相手に剣神流の切り口で感想を言うことにした。アドバイスなんてちょっと偉そうで自分には無理だったけど、精一杯のことをした。すると、相手も同じように感想を言ってくれた。いや、相手の方が強いからあれはアドバイスに近い。ルディやギレーヌみたいに明確な意図があるわけじゃないけど、だからこそ自分でその先の合理を探す練習にもなった。休憩中に言われたことで真剣に悩んでいたら、心配してくれる人もいた。いつのまにか門弟の人たちと話すようになった。思っていた友達とは少し違うような気がするけど距離感を感じなくなった。相変わらず礼儀には厳しいんだけど、作法を間違えたら後でこうした方が良いよって教えてくれる人もいる。剣術の術理だけでなく言葉遣いから礼儀作法まで、一つ一つ覚えて行こう。やることは増えたのに肩の凝りはなくなった。

しばらくしたある日、鍛錬の途中で汗を拭いていると水場にイゾルテさんが来た。彼女も身体を拭く。その所作が綺麗で羨ましい。イゾルテさんと目が合うと向うから声をかけてきた。

 

「精が出ますね」

 

「皆さん良い方ばっかりで鍛錬が楽しいです」

 

「ウフフ、エリスさんたちのおかげで我々も刺激を受けて強くなりました」

 

私も笑顔で返した。

 

「そういえば、一つ訊いても良いですか?」

 

ちょっと唐突だったかな。それでもイゾルテさんは優しく訊き返してくれた。

 

「何でしょう?」

 

「そのイゾルテさんは自分より弱い相手を結婚相手に見ることができますか?」

 

「け、け、結婚!?」

 

「すみません。突然こんなこと」

 

「い、いえちょっと驚いただけで構いません。そうですね。できれば殿方は私より強いか同じくらいの方が良いのですが……あと顔も大事ですね」

 

「年の差とかどうですか?」

 

「できれば兄上よりは年下の方がいいですけど」

 

「自分より年下はどうですか?」

 

「まぁ1,2歳までなら……」

 

タントリスさんとイゾルテさんが幾つ違いかは分からないけど、あって5歳差くらいだと思う。ということは上が5歳差で下が2歳差くらいか。合わせてえーっと、7歳の範囲ってことになる。

 

「その範囲で条件に会う方って何人くらい居ると思います?」

 

私の質問に答えようとしてイゾルテさんは暗い顔になった。

 

「100人くらいでしょうか……」

 

「私は両親に世界に50人いないかもしれないって言われました。それで、なるべく早くから良い人を探した方が良いって言われてるんですけど。誰を参考にすれば良いか分からなくて」

 

「私も特定の方が居ないのできかれましても……そうだ!サンドラ師範は結婚されていますから今度一緒にききませんか?」

 

「是非お願いします!」

 

その後、サンドラさんを捕まえて事情を話したら、こういうことは早い者勝ちだと言っていた。お母さまの意見と同じだ。ただ微妙に違う点もあった。お母さまの意見では強くなりすぎると相手が委縮して、結婚相手になれないって話だったけど、自分より弱くとも信頼できる人を探した方が良いというのが、サンドラさんの意見だった。なんでも、サンドラさんが風邪に罹って熱にうなされていたときに、熱さましの薬草を取ってきて看病してくれた人が今の旦那さんなのだそうだ。信頼できる人。大切な……人。

 

 

--ルーデウス視点--

 

サンドラとの情報交換を終えて2日、幾人かの水聖剣士と対峙して水神流の基本技がどんなものであるか学んだ。その後は他の用事を済ませるため朝の鍛錬にだけ参加し、午前中から夕方にかけてアルスの街に繰り出す。

まず向かうべきはロアのときと同じく商人組合だ。アルスの商人組合はアスラ王国商人組合本部と呼ばれ、アルスの南側の中級市民街にある。ミリス神聖国から続く街道の終着点の周囲には各国の商館が並び、これらの商館と取引をする商人組合の本部として居を構えている。商人組合本部はフィットア支部の床面積の倍以上を持つ7階建ての建物だが、周りに並ぶ建物も同じかそれより大きいため目立っているとはいえない。

そんな本部に入っていく。フィットア支部とは違い荷受けの施設は何等かの理由で別にあるようで1Fが受付だ。受付はまだ俺の背丈より高い。俺は受付カウンターの(へり)をジャンプして掴み、懸垂の要領で顔を受付カウンターの上に出した。そんな俺の所業に受付の若い男は目を丸くしている。が、それだけで対応は冷静だった。

 

「こんにちは。アルスで新規に店を出したいのですがどうすればよろしいのでしょうか?」

 

「では、こちらの書類をご記入ください」

 

ロアのときはフィリップが事前に書類を用意してくれたが、今度は何の用意もない。書類を受け取り、記入を終えたころに声がかかった。またトラブルの種かと思いつつ、振り向くと先ほどの受付の男が立っていた。

 

「そろそろ書けましたか?」

 

「はい」

 

「少々、確認させてください」

 

こんな身の俺にも対応は変わらず丁寧だが、一応の配慮をしてくれたようだ。男は書類を確認して一言つぶやいた。

 

「ルード商店。確認ですが、ロアにあるルード商店の方ですか?」

 

「はい、店主のルーデウス・グレイラットです」

 

「あなたが……。書類に不備はありません。本部長と面会ができるかスケジュールを確認してきますのでしばらくお待ちください。お手数ですが、本日面会ができなければまた後日ご来所いただけますでしょうか?」

 

「わかりました。数日中であれば可能です」

 

受付の男は別の係の女に書類を渡し、手渡された女は階段の上へと消えて行った。俺はしばらく待つのを覚悟して待合席に座った。

なぜか受付の男はルード商店を知っていた。今度こそトラブルの種の予感がする。2時間ほど待つ間にどんな問題に巻き込まれるかいろいろと想像したが、昼前になってようやく俺の前に女が来た。女の話によれば面会できるというので、促されて7階の本部長室らしき部屋の前まで案内される。女はノックも無しに扉を少し開くと部屋の中に報告した。

 

「ルーデウス様をお連れしました」

 

「お通ししろ」

 

渋めの男の声が聞こえる。女が大きく扉を開き、俺に向って伝える。

 

「どうぞ中へ」

 

俺は促されて部屋に入る。扉を閉めようとおもい振り返ったが、入り口に立ったままだった女がそのまま扉を閉じた。前に向き直ると、応接セットのソファに座った男が立ち上がる。俺は向いのソファまでたどり着くと礼儀に適った挨拶をした。

 

「お初にお目にかかります。ルーデウス・グレイラットです。本部長」

 

「ご丁寧にどうも。私は本部長のプエルトモントだ。ようこそ、ルーデウスさん。さぁお座りなさい」

 

促されて俺は、ソファに座る。プエルトモントは齢50程の白髪の混じったやや暗い茶髪の中年男性で、ほっそりとした体つきだ。だが、眼光は鋭くアスラ王国の商人組合の本部長をやっているに見合う強かな男のように感じられた。

 

「子供の僕に驚かれないのですね」

 

「少し前にチェレンガンが管轄内で面白い店ができたと手紙で自慢してきたのでね。君の話は事前に聞いていた。あいつの話を信じなかったわけではないが、本当にこんな小さい子だとは驚いているよ」

 

チェレンガン……あぁフィットア支部の支部長のあの男か。

 

「そういう経緯であれば安心しました。変な噂でもあって取り押さえられると思いましたよ」

 

プエルトモントはハッハッハと笑って話題を変えた。

 

「それでこのアルスでも商売をしたいとか」

 

「はい、ロアと同じ商品。石の食器と本、それに少しの雑貨を販売する予定です」

 

「出店先はもう決まっているのかね?」

 

「アルスは大きいですから、南、北、東、西の順に4店舗ほど出店する予定ですが、場所はまだ決めていません」

 

「そうか。店舗毎に商い許可証が必要だから注意し給へ」

 

プエルトモントとの面談はこれで終わる雰囲気だった。

 

「では、僕はこれで」

 

そういって俺が立ち上がる前にプエルトモントが引き留めた。

 

「待ちなさい。君には尋ねたいことがまだある」

 

そう言われて、浮かした腰をソファに戻す。しかし、プエルトモントは俺を鋭く見つめるばかりですぐには口を開かなかった。結局、諦めたかのように嘆息すると口を開いた。

 

「君はルード鋼というものを知っているかね」

 

ほう……。ここでその名前が出てくるのか。

 

「知っています。私の店舗でゆくゆくは取り扱う商品ですからね」

 

プエルトモントの表情から光が消えた。

 

「なぜ、行商人を使ってルード鋼を売った?君が最初に直接販売に手を出さなかったのは危険な商品であることが判っていたからかね?」

 

「違います。当時の僕は村から遠く出ることを許されていませんでした。そのため自分の村と隣村の行商人に打診しただけです」

 

「なるほどな。子供の君に伝えることが良いのか迷ったが、伝えることにしよう。君はアナトリアという行商人を知っているね」

 

「まさか、彼に何かあったんですか」

 

「命の危険を感じるというので商人組合で匿っている」

 

良かった。人死にが出る可能性も考えていたが、ならないに越したことはない。

 

「そうですか、良かった。では、私もお尋ねせねばなりません。キルケネス・ブラウンホークとは誰ですか?」

 

「グラーヴェル派の下級貴族だ」

 

トカゲの尻尾切り……この世界ではこの表現は使えない。

 

「切捨て用の貴族ですね。でも後数日でその問題は緩やかに解決することになります。アナトリアさんにはご迷惑をおかけしましたが命の危機からは免れるでしょう」

 

「どうするつもりだい?」

 

「いえ、今はお話できません」

 

「そうか、その方がお互いのためかもしれないな」

 

漸く面談が終わった。俺は1Fの受付でアスラ金貨5枚を支払ってアルスでの商い許可証を受け取り、商人組合を離れた。

その後、アルス内の南側の地区の商店通りを見て回り、相場などを調査する。魔石の買い付けも行いたかったが、魔石の値段を見て目が飛び出した。アルスの相場はやはり高い。店舗の支度金が不足すると困るのでここは財布のひもを引き締めて行こう。

 

--

 

水帝の助力によってあの一戦から5日後の午後、ついに水神レイダと顔を合わせることになった。場所は騎士団の訓練場だ。

俺の目の前に今、水神レイダ・リィアが居る。彼女が先に言葉を発した。

 

「あんたがサンドラを倒したって?本当にまだ子供じゃないか」

 

俺は慎重に言葉を紡いだ。

 

「4度の切り結びで防御を突破しただけです。模擬戦で勝ったわけではありません」

 

「殊勝なことをいうじゃないか。余計に気に入らないね。それで私も倒すのかい?老いぼれちゃぁいるけどね、あんたに負けてやるつもりはないよ」

 

「水神流の常套手段に易々と乗りはしません。ここでは全力では戦えませんので挨拶にきただけです」

 

そう言って俺は少し真面目な顔になった。

 

「七星流開祖、ルーデウス・グレイラット。魔術込みの模擬戦を申し込みます」

 

「はん、初代様と同じ魔法剣士かい。七星流開祖ねぇ。面白い。どこでやるさね」

 

「アルスの東の草原でいかがでしょうか?」

 

「いいだろう。日時は?」

 

「そちらのご都合がよろしいときに」

 

「なら……いまからだ!」

 

「判りました」

 

レイダは足腰にガタがきているのか移動の馬車に乗り、徒歩で来た俺もその馬車に乗せられてアルスの郊外へと走った。街を抜け、道に沿って走った後、馬車を停めて20分ほど草原を歩いた。その間に会話はなかった。

 

「老体には堪えるよ」

 

そう言いながら肩と首の凝りをとる動きをする水神。俺は、老婆のボヤキには応えずに模擬戦用の木剣を構えた。

 

「レイダさん、水神流の模擬戦で闘いますか?」

 

「水神をなめんじゃないよ。あんたと私のマジの勝負だろう?剣はこれだがね」

 

そういって水神が手に持った木剣を叩いた。

 

「わかりました。では、参ります」

 

俺は旋風剣を打ち、立て続けに残像剣からの真空剣を放つ。レイダが旋風剣と真空波と衝撃波を止め、3度の空を舞う斬撃カウンター。俺は二つを躱し、3つ目を『物理障壁』で防ぐ。今のは剥奪剣界ではない。防いだのは水神流剣技・流を発展させた何等かの技だが雨沼矛でもない。構えが違う。遠距離で斬撃カウンターを放つ技、サンドラに聞いた技に無いならば奥義の一つだろう。

崩すためにノーモーションの魔術を使う。剣王を倒した組み合わせ、いや『電撃』は止めよう――何かまずい気がする。『泥沼』の後に『フロストノヴァ』、続けての真空斬り、『風裂(ウインドスライス)』を放つ。『泥沼』に対するカウンター、『フロストノヴァ』に対するカウンター、『風裂(ウインドスライス)』に至っては鎌鼬一つ一つに対するカウンターが返された。水神流は魔術を掴むが、水神になれば何でもありなのか。放射状に放った魔力が顕現した『泥沼』や『フロストノヴァ』まで単一の魔術として掴むとはこちらの理解を超えている。俺はカウンターを凌ぎきれないと判断し、飛来する闘気を『乱魔』で解除する。『乱魔』に対するカウンター……これにはカウンターが来ない。『電撃』を放たなくて良かった。どんなカウンターが来たかわからない。

 

「もう終りかい?」

 

結局、模擬戦形式でなくても水神流から攻めてくることはない。俺はレイダの言葉に答えながら、一息ついた。

 

「やはり、厄介ですね」

 

「あんたがやってることのが異常さね。本気で魔術を使ったらどこまでつかえる」

 

「そうですね。一部の帝級と王級ですね。細かく言えば使えないものもありますが、少なくとも全属性の王級を1つは使えますよ」

 

「本当に人族かい?」

 

「ええ」

 

「なぜそれを使わない」

 

「魔術であなたを殺すことが目的ではありません」

 

俺の呼吸が整った。レイダがニンマリと笑って催促した。

 

「まだあるんだろう?来な」

 

俺は懐から石板を2枚取り出して、唱えた。

 

「では。お言葉に甘えて。出でよ!フェンリル、スパルナ!」

 

スパルナには空中で嘶くタイミングと攻撃をプログラムし、フェンリルにはスパルナの哭き声を合図に死角からの同時攻撃を指定する。

 

「召喚術とは初めてみるね」

 

レイダのつぶやきが聞こえる。飛び立ったスパルナが上空から哭きながら真っ逆さまに突撃し、フェンリルがそれに合わせる。2つの嘶きが合わさるタイミングで俺は領域指定の重力魔術を発動する。

重力魔術が水神流剣技・流の発展技で弾かれる。ほぼ同時のカウンター。ギリギリで『物理障壁』が阻む。足元に直接発動する重力魔術すらカウンターの対象にするとは、本当に器用なことをする。フェンリルとスパルナも同時にきられ、それでも分解しきらず2度、3度のカウンターに耐える。4度目のレイダの攻撃でついに彼らは分解した。

あと1歩届かない。少なくとも3方向からの同時攻撃に反応している。

だが、使っている闘気の技術はだいたい分かった。ポイントは眼と何にカウンターをしているかというところだろう。これ以上は蛇足だ。

 

「一体に4度も使うとは固いね。まだあるんだろう?」

 

「特別に固いのを用意しましたから、固くて当然です。そして、もう結構です。お時間を頂きありがとうございました」

 

「なんだい、以外とあっさりした子だね。勝った気でいたけど、次は負ける気がしてきたよ」

 

「剥奪剣界の原理のようなものはだいたいわかりました。真似もできるかもしれません」

 

「へぇ。それであんたは水神流の技を分析して何をする気だい?」

 

「守りたい者を守るために。運命に抗うために。必要な力を得ようと思っています。そうですね、列強2位くらいには認められる力が必要だと思っています」

 

「あんた龍神に勝つつもりなのかい?」

 

「剥奪剣界があったとしても、龍神オルステッドに勝つことはできませんよ。僕の剣技や魔術では龍聖闘気を完全には突破することができません」

 

「あんたなら倒せるかもしれないとあたしは思うけどね」

 

「いえ、生身では無理でしょう」

 

「あんた面白い子だね。剥奪剣界の話をしようじゃないか」

 

帰りの道と馬車の中で先の戦いで見た技の分析を話し、レイダから解説を受けた。俺は、第参の奥義:鳥啼花落水空流(とりなき、はなおちて、みずむなしくながれ)、第肆の奥義:剥奪剣(はくだつけん)、第伍の奥義:水眼(すいがん)を理解した。

扱うことができるようになるまでに相当の時間がかかるだろう。しかし、水眼。視覚を変化させる闘気。これは面白い。何せ前世で使っていたことを闘気で再現できる可能性があるのだ。よくよく考えれば、水神流の魔力の流れを読む技術自体が闘気による視覚変化の源流にある気がする。

いつか魔界大帝に会う必要があるだろう。彼女が配っている魔眼にはたしか上位魔眼がある。種類が解れば再現が可能ということは多いにあり得る。

そしてレイダは、水帝の認可を受けるならばアスラで便宜を図ってくれるという。俺はアスラ王に極秘裏に会談できるかと尋ね、彼女はそれを請け負った。

 




次回予告
調整、調整、また調整。
人脈を作り、面通しを行って、会議へ出席する。
昔はこういうのが苦手だったけれど。
家族を守るために龍神の右腕となり、
世界有数の王女と親交を持ち、
娘の1人が王子と恋仲になって。
いつのまにか苦も無く出来るようになった気がする。

次回『秘密会談』
関係者間の事前調整もこれでようやくひと区切り。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。