無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第035話_石の伝言

---あの人はもう気付く頃よ---

 

会談を終えた俺は、翌日からルード商店の新店舗の開店作業に着手した。商業組合本部に行き、目星をつけておいた空き店舗の購入が可能か確認する。幸運なことに最有力候補が購入できるようなので、王領管理局への手続きも含めて商業組合本部で依頼して即金で購入。店舗名は「ルード商店アルス南支店」とした。そのうちロアにある店は「ルード商店ロア本店」に名称変更しよう。そして商業組合本部で店舗の鍵を管理していたのですぐさま受け取り、店の開店準備に入った。

地下2F施設を作り、対となる転移魔法陣の石板を設置。ネットワークを構築し、その足でブエナ地下室に転移する。アルスに来る前にブエナ地下室に設置した転移魔法陣の動作は良好のようだ。転移先で転移ネットワークへの管理者である人形精霊マリアを再プログラムし、管理する魔力結晶の数と転移魔法陣を追加した。

次に店番として神獣エビスを設置した。ロアと同じダイコクを設置しても問題なかっただろうが比較するためにはいろいろな神獣を使ってみるのが良いという判断だ。エビスはダイコクに比べると対人会話能力は普通で、算術能力が高い神獣だ。どこまでできるかは未知数だけれども、これだけ人の多い都市であるなら、商品の在庫管理に力を入れた方が良いとの判断もあった。

その後は、前回の店舗設営のときの失敗をしないように最初に内装の修繕、家具の購入、看板の注文をした。販売商品に自信がついていた俺は、店舗スペースの照度を明るくできるようにと注文を付けておくにとどめ、あまり神経質にならずに細かい話は業者にお任せした。

新店舗の開店までに食器を大量に作り、ブエナ地下室に保管する。店舗地下1Fの棚ができればこちらに移す段取りだ。

 

--

 

2日間で店舗の開店作業を一段落させた俺はその日の夜にギレーヌとエリスの相部屋を訪ねた。

 

「どうした。ルディ」

 

「少しお聞きしたいのですが、タルハンドという炭鉱族の方をご存知ですか?」

 

「そいつは昔のパーティメンバーの魔術師だ。パウロにでも聞いたのか?」

 

「そうです。父が話していた昔話に出てきました。それでタルハンドさんは火や風の魔術を使えますか?」

 

ギレーヌは少し考えてから、

 

「何?そうだな。たぶん使えるぞ」

 

と答えた。まぁ予想はついていたことだった。

 

「そうですか。もしかしてどこにいるかご存知でしょうか?」

 

「知らん。パーティが解散してから会ったことがあるのはパウロくらいだ」

 

「判りました。もし再会しても喧嘩とかしませんよね」

 

「私を馬鹿にしてるのか?」

 

「いえ、すみません」

 

今一瞬、ギレーヌが本気で怒っている気がして即座に謝った。

 

「そうですか。アルスの工房長として彼を捜索します。彼がアルスに来たら会ってあげてください。懐かしい友人でしょうから」

 

「わかった」

 

その後、エリスとも剣術の修行や夜中にやってる自習の話をして部屋へと戻る。そして自室でタルハンド宛の手紙を一通したため、翌日には冒険者ギルドに厳しき大峰のタルハンドの捜索と手紙の郵便の2つを依頼した。

 

--

 

さらに3日が経ち、作業をしているとルード商店の前に4人の男が現れた。2人は官僚服を着た人族の男たちで、もう2人はツナギを着た炭鉱族の男たちだった。

俺が出迎えると、人族の男でこの国では高価な片眼鏡(モノクル)をかけた齢40過ぎの男が挨拶した。

 

「こんにちは。財務省会計部部長補佐コンシュ・カーンガーンです。ルーデウス・グレイラットさんですね」

 

「はい。私がルード商店店主ルーデウス・グレイラットです」

 

「王命によりお伺いしました。お話をしたいのですが」

 

彼はそういって内装修理中の店内をみて、眉根を寄せた。

 

「商人組合本部にいきましょう。あそこの会議室でお話できればと思います」

 

「なるほど。その方が良さそうですね」

 

俺がそう提案したことで男の表情がさっと戻った。男は迷いなく商人組合本部へと歩いていく。他の3人も方々(ほうぼう)遅れずに歩いていく。彼ら同士に会話はないらしい。俺は内装業者の作業監督を中断して、エビスを伴ってその4人について行った。

 

商人組合本部の会議室に着く前に4人の紹介を済ませておこう。

一人は財務省会計部部長補佐のコンシュ・カーンガーン。

一人は軍務省補給部第三課課長のケルーマン・クエッタ。

一人は王国騎士団武器科金属加工長の雷鳴のバム。

一人は王国騎士団武器科修理長の冷たき荊棘(けいきょく)のフジャイラ。

顔ぶれからしてルード剣のことだろう。

 

全員が席に座ったところでエビスに頼み、ルード剣とルード鋼を会議机の上に無造作に置かせた。炭鉱族の2人は剣と石材に注意を向けたが人族の2人はこちらを見たままだ。

 

「さて、剣を納品したいということですが、いか程支払えばよろしいのでしょうか?」

 

とはケルーマンの弁だ。

 

「一本につきアスラ金貨500枚を1000本納品するので、アスラ金貨50万枚分を2年で支払っていただきたい」

 

「ほぅ。その価値があると?金貨500枚といえば王国一級の魔力付与品(マジックアイテム)に匹敵しますよ」

 

「例えば、まったく壊れず刃こぼれもしない剣があるとしてその価値はいくらですか?」

 

フジャイラが答える。

 

「そんな魔力付与品(マジックアイテム)があれば王国一級に相当しますが修理屋は廃業ですな」

 

「ではこの剣がそうです。必要であれば同じ性質の整備用の槌や道具を用意することもできます。当然、それぞれお代を支払っていただきますけどね」

 

ケルーマンの話に戻る。

 

「我々は君のために工房まで用意せねばならない、その警備もです。その費用は引いても構わないですか?」

 

「工房の用意も警備も独占販売契約のための条件です。こちらで用意しても構いませんが、他の貴族や外国に輸出することになります」

 

「脅しですか?」

 

「王様とはそういう約束をしました。(たが)えるのならこちらも反故にするだけです。工房の話はそもそもタルハンドさんが来てからの話ですので私だけであれば工房は必要ありません」

 

今まで黙っていたバムが口を開いた。

 

「なぜ奴なのだ。里の恥さらしじゃぞ」

 

「里のことは私には関係ありません。そしてタルハンドさんを指名する理由は簡単ですよ。私以外では彼にしかルード鋼を加工できないからです。それと私は一応、剣を作ることができますが剣の鍛造の腕には自信がありません。やはり炭鉱族の者に作らせた方がより良いものが納品できるでしょう」

 

バムは納得していない。

 

「納得されてないようですね。バムさん、このルード鋼を持ち帰って加工に挑戦してみても構いませんよ。研究したいというなら1本、特別にアスラ金貨100枚でお譲りすることもできます。貴方が加工できるのなら我々はその分のルード鋼をお売りするだけで済みます。どうしますか?」

 

「コンシュ殿、私は挑戦したい」

 

「バムさん判りました。では研究用に1本買いましょう」

 

コンシュはポンとアスラ金貨100枚を取り分けた小袋を机に置いた。

 

「では結論がでたら、また店に来てください」

 

俺の言葉で会議は終わった。会議の後、商人組合の本部長のプエルトモントに会いに行ったが、彼は忙しい身なので会う事ができなかった。

 

そこで、『ルード鋼を王国に実際に販売し始めたから、アナトリアの命の危険もいずれ解消されるだろう』と伝言を残した。

 

--

 

そろそろロアに帰還することになった。王立図書館に行くことができなかったがあまり長く滞在していると次にやるべきことに間に合わないかもしれない。仕方がないから頃合いを見て商店経由でアルスに戻り、調査すれば良いだろう。

 

事前に「ロアに戻ります」とタントリス、イゾルテの二人に告げたが、「そうか(ですか)」と意外にあっさりしたものだった。まったく気付いていなかったが歓迎されていなかったのだろうか。そうだとすればあまり長く居付いてしまったのは迷惑だったか。

そうして最後の朝練を終えた。歓迎されていないのなら早々に帰ろう。そう思っていると、門弟たちがエリスとギレーヌを囲んで別れを惜しんでいた。イゾルテなぞちょっと涙目で、エリスに「良い方と出会えるようにお互いがんばりましょう!」などと言っている。

はて、剣術の稽古にきたはずだが不思議なことになっているな。迷惑でなかったのならそれでいいか。自分の中の勘違いを訂正して彼女たちの方へと歩いていくと、数歩踏み出したところで声をかけてくる者がいた。

 

「ルーデウス君」

 

サンドラだ。俺は彼女に向き直って声に応える。

 

「なんでしょう?」

 

彼女は近づいてきて、膝を折ると俺との目線を合わせてきた。滞在していた期間の内で彼女がこんなことをしたことはない。大事なことか。

 

「そのだな。もし君が全ての奥義を体得して、組み合わせによってまだ見ぬ水神流奥義を編み出したのなら……厚かましいとはわかっているのだが、その、知らせてくれないか」

 

そういうことか。

 

「わかりました。そのときは技を披露しに伺います。またお会いしましょう」

 

そう言うとぎゅぅっと握手をされた。握手ではあるが、母と同年代の女性にぎゅぅとされるとはショタ冥利に尽きる。

 

「元気で」

 

「サンドラさんも」

 

俺はエリスとギレーヌの方に歩いて行った。そう、これも結んだ縁だ。さようならで終わってしまうのは悲しいとロキシーにも言った話である。本当に会えるかは判らなくとも、もう会う事はないでしょうという気持ちではなかった。

 

--

 

帰りの道すがら召喚したフェンリルは跨ったエリスにぎゅうぎゅうと締め上げられ、頬ずりされてと大変そうであった。"ぎゅっ"と"ぎゅうぎゅう"はよく似ているが全く違う。あれは神獣冥利には尽きないだろうな。ああいうことをされると召喚の持続時間が短くなったりするんだろうか。しっかり計測しておこう。

一方、俺は首の裏に確かな感覚があるのを楽しんでいた。礼儀として最初は持たれないようにしていたのだが、頭をふらふらさせると気持ち悪くなるぞと言われギレーヌにもたれかかった結果だ。そこにあったのは、俺の首から上を完全に保護する最上級のヘッドレストである。右を向いても左を向いても何もみえなくなるこの幸せな状況。なるべく気にしないように前方を向いていても、馬上のわずかな振動でぷるぷると震えるゼラチンのようなものが視界に入ってくる。俺のリビドーもついに目覚めてしまうかもしれない。

 

『パウロに似ている……やはりパウロの息子だな。お前は……』

 

ふと以前のギレーヌの言葉が甦った。男はみんなそんなもんだと言いたいが、ギレーヌの交友関係で似ている人がいればそういう判断をされてしまう。その評価が碌なことにならないのは判っているのだ。自重するべきだろう。俺は意識を他にやるために口を開いた。

 

「ギレーヌはどこで馬術を覚えたのですか?」

 

「昔、剣の師のところに馬があってな。そこで覚えた」

 

「独学ですか?」

 

「いや、剣の師が教えてくれた」

 

腕おいてけおじさんもなかなかいい仕事をする。俺も馬術を覚えた方がいいかもしれない。神獣に乗れば良いと思っていたが、馬に乗れないのも不便だ。まぁ馬車は動かせるんだが、この年で御者ができるというのも不自然だからなぁ。

不自然……俺は他からみたら為してきた何もかもが不自然だ。いまさら馬車の御者くらい誰も気にしないかもしれない。いや、何か理屈くらいはつけておいた方が良いだろう。魔術ならロキシーから、剣術ならパウロ、ギレーヌ、サンドラ、レイダからと、そういう理由付けは必要だ。召喚魔術をレイダに見せたことは少しまずいがペルギウスに会えば理由が付く。そんなことを考えながらいつしか俺はギレーヌの胸の中で随分とリラックスして眠くなっていた。

いけない。気を緩めすぎている。自分の頬をつねり、意識を覚醒させる。

 

「どうした?」

 

ギレーヌの問いかけ。

 

「すみません。居心地が良くてついウトウトしていました」

 

「寝る子は育つぞ」

 

「甘えてばかりもいられませんよ」

 

「背伸びも良いが、時には子供らしくしていろ」

 

「そうですね」

 

言葉とは裏腹に、喉の奥の方から出て来た悩みを打ち明けてしまいそうになって、すんでの所で押さえつけた。唇を噛んで食いしばった。彼女たちは友達だし信頼もできる。前世の記憶からしてもだ。だが、どんな不用意なことでその信頼が瓦解するかもわからない。最近の俺はそういうことも気になりだしている。不自然さが人の不信を招き、未来は予想しえなかった方へと転がっていく。一番おそろしいのはヒトガミが彼女らの不信感を増長させて俺を攻撃してくることだ。こんなことだからオルステッドは呪いで誰からも嫌われることを止めようとはしなかったのかもしれない。その方が気を揉んだり悩まなくて済み、判断に誤りがあったとして次の周回のための攻略情報だと割り切れる。それがまるでゲーム感覚の、孤独な人生だとしても。

結局、復路の2日目から俺はフェンリルに跨った。せっかくおとなしくしていたのにエリスの願いを一日しか叶えることがなかったのでエリスは多少不満そうだったし、ギレーヌは他のことを考えたかもしれないが、このままズルズルと甘えた気持ちで10日も過ごしたら張り詰めた糸が切れてしまいそうだった。糸を緩めるのはシルフィと2人のときだけで良い。

 

そこからは順調な旅が続いた。

 

--

 

ロアへ到着し、サウロス邸へと帰って来た。ギレーヌが馬を返している間にエリスと2人でフィリップの元へ行き、帰還の報告をする。俺はギレーヌと入れ替わるようにすぐに部屋を出たが、エリスはまだ話すことがあるようだった。

報告を終えると、予定の期日までサウロス邸を起点に王都アルスとの相場差で転売を始めた。アルスでは物がよく売れる。相場も高いから本も食器もロアより高めの値段で問題ない。逆にロアで売るための本や食器は少なめにしてその分のスペースにロアでほとんど売っていない商品かつ、アルスで捨て値になっているものを購入して並べた。儲けはほとんど無いが、商品の豊富さが客を呼ぶということもある。

その他にもイーサを追加作成して、テレサを増やし、本の生産量アップを図る。正直、食器はコンスタントに売れるが俺の生成時間を考えると遠からず限界が来るような気がする。それよりもテレサズが作り出す本の方がより儲けが出る気がする。この辺りのバランスはダイコクやエビスと相談しよう。紙やインクも大量に入荷するとそろそろ怪しまれるから業者と直接取引したほうがいいだろう。規模が大きくなってくるとまたやることが増えてくる。

 

--

 

俺は最近、空を見上げることが多くなった。今もサウロス邸の中庭の端でぼんやりと空を見ている。あれが来るのは、細かい日時を正確に覚えているわけではないが、確かエリスに休日をつくってロアの町を観光したときだった。とすると半年を過ぎた辺りからエリスの10歳の誕生日までのどこかの日だったと思う。ただパウロに負けてギレーヌに連れてこられ、家庭教師を始めた日時も正確には覚えていない。だから、現世の俺の計算だとブエナ村に一度帰ってから3~8か月くらいの間となる。バタフライエフェクトの結果、まったく違う場所を漂っている可能性もあるが。空は秋空から冬空へと移り、俺の記憶の中と似た状況の気がした。そろそろかなぁ。

 

「ルディ」

 

横から声をかけられた。

 

「どうした?エリス」

 

振り向きもせずにきいた。

 

「最近、空ばかりみてない?」

 

「空が好きなんだ」

 

「そう」

 

「嘘だよ」

 

「嘘なの?」

 

「うん」

 

「ルディが嘘をついても私にはわからないわ」

 

どんな顔をしているか気になって彼女の方をみると、平気で嘘をつかれたことが少しショックのようだ。俺ははぐらかす為にエリスの興味の先を変えることにした。

 

「嘘が苦手ならフェイントの訓練で苦労しそうだね」

 

「何でわかるの?」

 

「そういうもんだからかな。そういえばさ。戻ってきてから冒険者をやってるらしいね」

 

「ええ。お父様が礼儀作法の授業をまじめに受けるなら一人で挑戦しても良いって許してくださったの」

 

「順調?」

 

「もうすぐでEランクになれるわ」

 

「へぇすごいね」

 

「失敗ばっかりよ」

 

「でも楽しそうだ」

 

「そうね」

 

俺はそこまで話を聞くともう一度空をみてから、「冷えて来たね。部屋に戻るよ」とエリスに言って自室に戻った。

 

--

 

そこからまたしばらく日数が経ったある日。天頂に太陽が昇る頃、俺はスパルナに乗って雲海の上を滑空していた。

 

目前に空中城塞が映る。

 

相対速度を合わせて、俺は空中庭園に着陸しようと試みた。が、結界に阻まれ何百メートルかスパルナとともに後方に吹き飛ばされる。

 

この世界でも体感的には100m毎に1度気温が下がると思う。魔術で周囲の空気を温めているのだが、それもほとんど効果がなく、俺はあまりの寒さに凍えている程だ。一方で空中城塞の上ではその寒さを感じないし、風も強くは吹いていない。それに高高度からくる息苦しさもない。だから、何かしらの結界が張ってあるとはわかっていた。そしてその結界魔術は高度なものだ。帝級、神級、その辺りの可能性が高い。

この結界の中に入る方法を俺はこの7年間の間に考えていた。ポイントは2つだ。

1つ目のポイントは、結界魔術には恐らく穴があるということ。その穴とは、アルマンフィのための出入り口。これを見つけられるならそこから出入りできる。

2つ目のポイントは、ケイオスブレイカーの中で魔術が使える点だ。ナナホシが倒れたときにシルフィが使った解毒魔術や土像を実演したときに見せた土魔術、それらは普通に機能していた。このような機能を結界魔術で再現する場合、俺なら外部からの攻性に対する防壁と定義する。先程、侵入しようとして入れなかったことからも、物理障壁の定義は外から入ってくる物体の大きさも定義しているだろう。ならば攻性でない魔力を使うならこの城の中に外部からアクションを起こせるかもしれない。

 

俺が考えついた方法は『空中城塞の内部にバルバトスのシーフ能力を使って出入り口を見つける』、『石板を生成して、メッセージを書いて伝える』、『石を並べて文字として伝える』の3つであり、全てがダメであった場合は外部から攻撃をしかけてアルマンフィを誘き出すなどの過激な方法をとることになる。その場合に命の保証はない。

 

俺はバルバトスを召喚する。彼は器用にスパルナの上に立ち、無言で頷いた。スパルナにお願いして空中城塞の周りを旋回するがバルバトスは首を振るだけだった。その様子から俺は『出入口を見つける方法』を諦める。

今度はスパルナにもう一度頼んで、弾き飛ばされたときの距離ギリギリにつける。そこから結界の内部に石板を生成する。石板の生成に成功。しかし、結界内の石を彫ることができなかった。

でもがっかりすることはない。石板が出来るのなら『石を並べる』方法がとれる。気付いてくれるかは賭けだ。だが、命の保証もない喧嘩腰の呼び出しよりはましだろう。俺は空中庭園のテーブルの上に石を生成して、『アスラ王国フィットア領ロア、サウロス邸 ルーデウス・グレイラット』と記し、その場を離れた。

 

--

 

俺がロアに戻ると既に邸内は慌ただしくなっていた。慌ただしさの渦の中心へと歩いていくと、フィリップの部屋の入口でエリスとヒルダが立ち、部屋の中を窺っていた。

 

「ルディ」

 

「僕へのお客様のようですね」

 

「ええ」

 

判っている。これくらいのことが予想できなくてはこの先も危ういくらいだ。彼女たちを押しのけて、扉をノックせずに中へと入った。

部屋の中にいるのは4人。フィリップ、サウロス、ギレーヌ、それに部屋の中で仁王立ちする黄色い仮面の白い服の男。仮面の男がこちらを向いた。

 

「お前は?」

 

「ルーデウス・グレイラットです。光輝のアルマンフィさん」

 

俺の受け答えにアルマンフィが仮面の下の目を細め、部屋の中で相手をしていたであろうフィリップが胸をなでおろすのが見えた。

 

「主の居城にお前の名前が残されていた。心当りはあるか?」

 

「用事がありまして空中城塞を外から訪問しようと思ったのですが、結界に阻まれまして。 仕方なく伝言を残させていただきました」

 

「つまり、お前の仕業と言う訳か」

 

「有り体に言えば、そうですね」

 

「用事について話せ。下らないことであれば斬る」

 

アルマンフィはダガーに手を伸ばす。その動きはギレーヌが対応するよりも早い。ペルギウスが怒っているかアルマンフィの独断か。どちらでも良い。斬られる心配なんてないのだから。

 

「ご無礼については後程、謝罪します。ですが、緊急事態なのです。この屋敷の塔の上に魔術的な(ひず)みを発見しました。僕の占いではこの歪みは大きな災厄を招きます」

 

「なぜ我が主を頼る。どんな災厄の種であろうとも我が主には関係がないであろう」

 

「その歪みがラプラスに関係するかもしれないとすればいかがですか?」

 

「そのはずはない。魔神の復活はもっと先の話だ」

 

「その歪みの中に見えるのは高度な転移魔術ないし召喚魔術です。これを使えば魔神が本来とは異なる時期に復活する可能性があると僕は思います」

 

そう言った瞬間、アルマンフィは消えた。俺はフィリップに頷くとアルマンフィが居るだろう塔に急いだ。

 

--

 

幸運なことにアルマンフィはまだそこに居た。

 

「アルマンフィさん、ペルギウス様がこの事態に興味を持たれましたら幾つかお願いがあるので面会できるように仲介していただけませんか?」

 

「お前のような子供に」

 

「僕はラプラスの因子を持つ者です」

 

「伺ってみよう」

 




次回予告
やれる事は全てやった。
久しぶりの我が家。
久しぶりの家族。
久しぶりの想い人。
温かく迎えてくれる彼ら彼女ら。
だからこその温度差。

次回『ブエナII』
目的のために偽りさえ辞さなかったツケ。
支払い日はもう間もなく。
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