無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第036話_ブエナII

---着ていくための服がある---

 

俺は服を一番上等な物に着替え、箱詰めにした土像セットを手にした。服はアスラ王に謁見した時に購入したものだ。そうして塔に戻ってみると、アルマンフィも塔に戻って来ていた。

 

「主がお前の面会に応じるそうだ」

 

「そうだと思っていました」

 

「気に食わぬ子供だ」

 

そう言ってアルマンフィは金属の棒の両端に魔力結晶がついた魔道具を手渡してきた。そういえば俺の魔力量がこの時点でペルギウスを超えているか、この転移方法によって判断できる。ちょっと楽しみになってきた。

 

「しばらく待っていろ」

 

そう言うとアルマンフィが光となって消えた。ワンテンポ遅れてやってくる金属の棒に引きずり込まれる感覚。

 

--

 

俺は無事、ケイオスブレイカーへとやって来た。転移石板の横には白い仮面を付けた黒い翼の天使のお出迎え付きだ。中々の好待遇だな。

 

「案内を任されたペルギウス様の第一の(しもべ)、空虚のシルヴァリルです。よろしく」

 

「ルーデウス・グレイラットです。よろしくお願いします。シルヴァリルさん」

 

そういえば、俺の記憶にあるよりアルマンフィもシルヴァリルも少しフランクだ。子供を怖がらせないようにという配慮だろうか。いやアルマンフィの対応は普通の子供なら十分怖がるから、単に畏まっていないだけだな。それからシルヴァリルと交わした会話は城に入るまでにたった一つだけであとは無言だった。

 

「ルーデウスくん。ヒトガミという言葉に心当たりはあるかしら?」

 

「ありません。どなたかのお友達ですか?」

 

「知らないならそれでいいのです」

 

そして謁見の間。龍の紋様が刻まれた大きな扉の前まで来るとシルヴァリルが振り向いた。

 

「ペルギウス様に粗相のないように」

 

俺は同意を示すためにコクリと頷く。それに合わせたようにシルヴァリルが触らずとも扉は内側から外へとスゥっと開いて行く。

 

「お進みを」

 

促されるままに中へと入る。昔に見た光景と何も変わらない。この辺りに前世との違いはないようだった。玉座は一段高いところにあり、そこから数歩分手前に低い段差が3段ある。その段差のさらに5歩前で止まり、王の顔を仰ぎ見る。

 

「我が『甲龍王』ペルギウス・ドーラである」

 

王の挨拶に膝立ちの最敬礼で答礼する。

 

「面を上げよ、(わらべ)。名乗ることを許す」

 

言われて俺は垂れた(こうべ)を上げて名乗った。

 

「ルーデウス・グレイラットと申します。占い師などをしているしがない魔術師なれば、無礼な方法で面会を求めたにも拘らず、このようにお招きいただきありがとうございます」

 

「ならば聞こう、あれを貴様は何とみる」

 

「私めの占いによれば、あの(ひず)みから魔力が解放されるときにフィットア領が消えてなくなります。まるで大地を箒で掃いたかのようにです。それは大規模で不完全な召喚魔術の余波によって引き起こされる魔力災害であり、つまるところ、あの赤い珠は一種の召喚装置だと考えます」

 

「ふん。我がラプラスを探していると知っているのも占いのおかげか」

 

ペルギウスの独り言に俺は答えなかった。あれがラプラスに関係するかどうかをアルマンフィは気にしていたようだが、ペルギウスは気にしていないようでもある。まぁいいだろう。訊かれてもいないことに答えるのもおかしいだろうからな。

 

「それで何か願いがあるそうだな。申してみよ」

 

「はい。あの魔力の歪みから何が召喚・転移するとしても、それに伴う魔力の暴走を止める手立てがあればそれをご教示願いたいのです。もしそれが適わぬならば、この事象に関する説明のためにアスラ王への書状の作成と復興資金を頂けないでしょうか」

 

「知識の探求こそが龍族の宿命であれば、次元の歪みについて調べるのは良しとしよう。しかし、アスラの王になんと書けば良い」

 

「もし災厄が起こったのならば、それは人の手によるものではないと証明していただきたく思います。それでフィットア領……ボレアス家が他の貴族から攻撃されるのを防げるでしょうから」

 

「グレイラット、貴様はボレアス家の傍流か」

 

「フィットア領の領主サウロスは大叔父にあたります」

 

「書状の件、相分かった。だが金をくれというのは些か筋違いである。災厄を防げなくともその責が我にあるとは思えぬ」

 

「仰せの通りです。そこでこのようなものをいくつか買い取って頂けないかと思っております」

 

俺がビロードの絨毯の上、自分の小脇に置いた箱を前に差し出す。それをアルマンフィが瞬間移動のように取り上げると、中を確認する。不審物でないことを確認した上でペルギウスへと箱の中身を見せた。

 

「ほう……良く出来ている」

 

ペルギウスはアルマンフィ像を取り出して本人と見比べる。そして次々と(しもべ)と見比べていく。最後に自分の像を手にして、小首を傾げると隣のシルヴァリルに囁いた。

 

「どうだ?」

 

「写実的ではありませんが、特徴は捉えているように思います」

 

「わざと細部をバランス良く省略することで、表現する対象の特徴を際立たせたように見える」

 

「なるほど、今までに見たことのない芸術的表現といえますね」

 

「うむ」

 

静寂が支配している謁見の間では囁いたところで全ての会話は筒抜けだ。前世と同じく現世でも土像はペルギウスに好評と心に記す。

 

「一体につきアスラ金貨千枚を払おう」

 

「身に余る光栄に存じます」

 

土像は全部で13体、つまりアスラ金貨1万3千枚か。目標の復興資金、その全体の1%になる。一点物の芸術作品なら上々の成果だな。

 

こうしてペルギウスへの謁見が終わった。金貨については近日中に運んでくれるというので、運ぶ場所はロアにあるルード商店を指定した。

 

--

 

全てを終えた俺は翌日、フィリップにしばらく家に帰るので連絡することがあれば実家に知らせて欲しいと頼み、屋敷を出ることにする。あいにくとエリスとギレーヌは冒険活動中で屋敷には居なかった。そうして荷物を整理して屋敷を出るべく部屋の扉を開けると、外にヒルダが立っていた。

 

「これはヒルダ様、何か?」

 

「ルーデウス。1つ頼みがありますの」

 

「なんなりと」

 

「あと半年もない内にエリスの10歳の誕生日があるわ。そこには必ず同席なさい」

 

「判りました。誕生日の一月前には戻ってきます」

 

「あら割と長くいてくれるのね。以外と脈があるのかしら」

 

不用意な発言は控えてくれ。少しの変化でいつ転移が起こるかわからないのだから。

 

「エリスはダンスの練習で苦労しそうですから、手伝いをしようと思っただけのことです」

 

「そう、優しいのね。では頼みましたからね」

 

--

 

俺はブエナ村の自宅へと到着し、この半年過ぎでやるべきことは終わった。あとは金を稼いで備えるだけだ。金を稼ぎつつも転移事件までに『水神流奥義の研究と七星流への昇華』、『魔術ギルドのランクアップ』をしておくことにしよう。冒険者ギルドのランクアップはやっている暇がないだろう。

夕焼けに背中を押されながら家の門を通り抜けるとそこにパウロが居た。夕方まで剣術修行か?相当熱が入っている。

 

「ただいま戻りました」

 

「おぉ!お帰りルディ」

 

パウロが振っていた剣を降ろして、駆け寄ってくる。このパウロ、少し強くなった気がする。

 

「父さま、相当修行しましたね」

 

「あん?わかるのか?」

 

「えぇ。普段の仕草一つ一つにも闘気が見え隠れして、しかも制御が自然で繊細になっています」

 

「そうか、やってみるもんだな。さぁ家に入ろう」

 

「はい」

 

そうして俺は自宅へと入った。パウロは風呂に入りにいき、代わりに裏口の方からダイニングにシルフィが入って来る。

 

「もうおじさま、急にはいってくるなんて」

 

風呂の掃除をしていたか、それとも用意の途中に親父の裸と遭遇したのだろうか。シルフィ、気の毒に。

 

「え?」

 

「やぁ」

 

シルフィが笑顔で飛び込んできた。おいおい、そんな勢いで飛び込んできたら椅子ごと倒れるだろうが。俺は咄嗟に重力魔術で宙に浮いてシルフィごと制御した。

 

「おかえり、ルディ」

 

「ただいま、シルフィ。髪いい感じに伸びたね」

 

そのまま見つめ合う。キスでもしてしまおうかと思ったとき、

 

「あらあら、お熱いわねぇ。二人とも」

 

振り向くとキッチン側の入り口にゼニスが居た。

 

「母さま、ただいま」

 

シルフィがそっと離れたので重力魔術を解除して立ち上がる。

 

「おかえり、ルディ」

 

目の前まで近づいて来た母に抱き留められながら俺は謝った。

 

「いつもお手伝いができなくてすみません」

 

「良いのよ。こうやって元気なら。帰ってくるたびにどんどん大きくなるのね」

 

「このままの大きさでは困ります」

 

「私のかわいいルディのままでいてもいいのに」

 

ラトレイア家の女性は可愛い男の子が好きなんだろうか。わからん。アスラの貴族でもないから変な性癖はないと思うのだが。

 

「リーリャお母さんは?」

 

「あなたの妹をみてるわ。行ってきなさい」

 

「はい」

 

「じゃぁゼニスおばさん、私はこれで帰ります」

 

「遅くまでありがとう。シルフィちゃん」

 

俺はシルフィを玄関で見送ってからリーリャの所に向った。入り口のすぐ脇にあるリビングから妹たちの声が聞こえるから、リーリャもそこだろう。リビングに入ると2人の妹がハイハイで絨毯の上を這いまわっている微笑ましい光景が目に入る。その奥の部屋から人の気配を察知したのか、たまたまかリーリャが出て来た。

 

「あら、ルディ」

 

「ただいま、お母さん」

 

軽くハグする。

 

「妹たちも順調に育ってますね」

 

「えぇ。2人で別々のところにいっちゃうから困ったものよ」

 

「元気でいいじゃないですか」

 

「ルディも元気で帰ってきてくれて嬉しいわ」

 

足元にゴンと何かがぶつかってきたので見てみるとアイシャだった。

 

「前は泣いたけど今回は泣かないかな~?」

 

俺はそう言いながらアイシャを笑顔で持ち上げた。アイシャは足をバタバタさせながらもキャッキャと喜んでいる。良かった。

 

「アイシャ、大きくなったな」

 

「バァ」

 

リーリャが1人でまだ動き回っているノルンを抱きかかえている。後で、ノルンも抱っこしよう。結局、夕食までの短い時間をアイシャやノルンと遊んで過ごした。

 

--

 

食事が終わるとパウロに2階の書斎へと呼ばれた。何事かと思ったが、

 

「旅の話を聞こう」

 

パウロの口火で理解した俺は旅の成果について話した。

 

「水帝になったのか」

 

「水帝相当の力と認められただけです」

 

「水神は強かったか?」

 

「思った程度には強かったですね」

 

「それにタルハンドか」

 

「えぇ、見つかれば良いのですが」

 

「タルハンドが武器なんて作れるのか?聞いたことないぞ」

 

「炭鉱族で魔術が多彩につかえる方を彼以外に僕は知りません」

 

「なら、見つかるといいな」

 

「見つかったら会いますか?必要なら連絡しますから」

 

「そのうちな」

 

そのままパウロは黙って俺の顔を見た。長くもない沈黙。

 

「この前帰って来たときより顔色が良い」

 

「やろうと思っていたことが概ね終わりましたから、気持ちが楽になったんですよ」

 

「たしかに国王や甲龍王に会うなんて、誰にも相談せずによくやっている。それともフィリップに助けてもらっているのか?」

 

「フィリップさんにはあまり手伝ってもらわないようにしています。あまり世話になると良からぬことになりそうですからね。そういうときに相談するなら父さまでしょう?」

 

「判っているなら何も言う必要はない。

そうだ。前に帰って来た時に言いそびれたが、ルディに手紙が届いていたぞ。読んだのならちゃんと返事を書いておけよ」

 

「判りました」

 

旅の報告を終えた俺は風呂に入った後、自室で土像を作ることで資金稼ぎと魔力量増大訓練をこなす。寝る直前にパウロの言葉を思い出して部屋を探すと、1通の封筒が机の引き出しにしまってあった。これか。封をきって中を見ると便箋が入っていたので目を通す。

 

『親愛なる同志ルーデウスへ

 

 いかがお過ごしでしょうか。

 早いもので、あなたと別れてから2年が経ちました。

 私はシーローン王国の王都で臨時の軍の魔術顧問をやっています。

 

 経緯(いきさつ)を書くと長いので割愛しますが、騎士や兵士たちに対魔術師戦

 を教えて日々を暮らしています。

 王宮からは魔術顧問の成果を評価されて宮廷魔術師にならないかと請われました。

 でも宮廷魔術師の仕事には王子の家庭教師があり、ルーデウスに言われたことについて

 まだ答えの出せていない私は辞退しました。

 もしあのことが無かったら要請を受けていたかもしれません。

 そう思うとルーデウスが私のことを考えてくれたことに今さらながらに感謝しています。

 

 魔術顧問としていろいろな研究もしています。

 軍事機密に当たる部分は詳しく説明できませんが、王宮書庫には

 これまで知ることができなかった水王級の魔術に関する書籍があったのです。

 修得した暁にはまた連絡します。

 

 ルーデウスはどのように過ごしていますか?

 剣術か魔術かどちらの道を選んでもきっとすごい人になると思っています。

 でも気をつけてください。

 前にも言いましたが、あまり突出しすぎると世の中から叩かれて要らぬ苦労を

 かけさせられます。

 

 それと女の子には無暗に優しくしすぎないようにしてください。

 次に会った時に女性関係で悩むルーデウスを見る気がして心配でなりません。

 それでは、また。

 

 あなたの同志ロキシーより』

 

ロキシーの手紙。シーローンで仕事に就いたのは前世と変わらないが、バックスの家庭教師にはならなかったようだ。また1つ俺の肩の荷が下りた気がした。パックス自身が今後どうなるかによっては、自分が家庭教師にならなかったから……なんて考えるかもしれないけどな。それは現世でどうにかフォローしていく案件だろう。

しかし、突出しすぎると要らぬ苦労をかけさせられるか……。アスラの貴族から不興を買う可能性についてはいろいろと考えなければならない。俺自身が標的になったときに貴族連中がどのような態度に出てくるかを検討して日記にまとめておこう。それに女性関係、その中に御自分が入っているのかいないのか。私気になります。

 

--

 

朝の鍛錬に出て、筋トレ、素振り、七星流剣技の鍛錬、水神流奥義の鍛錬と一通りした後、シルフィとパウロの鍛錬を見ていた。

シルフィはまだ初級剣士の域を出ていなかったが、間合いの取り方については良くなっていた。これくらいは想定内だ。むしろ教えているパウロが少し強くなっている。昨日も夕方にやっていたように訓練時間を増やしたのが効いているようだ。

 

「よし、止め!」

 

パウロがシルフィに課していたメニューを中断させる。

 

「ルディ!」

 

ほらきた。またシルフィに何か教えろというのだろう?そう思いながら俺はパウロに近寄っていく。

 

「何ですか?父さま」

 

「お前がどれくらい強くなったか見たい」

 

ほう。

 

「どうぞ」

 

そう言っただけでパウロが闘気を纏って突っ込んできた。だがギレーヌより遅い。俺はパウロの勢いに交差するように斜め右前にステップし、木剣を持っていない左手でパウロの木剣をそのまま流す。と同時にグー・チョップ・パーの三連コンボでパウロを(はた)き倒した。見事にすっ飛んでいくパウロ。

グーで腹、チョップで左手首、パーで左肩の背中側にカウンターを当てる水神流・第弐の奥義 大波弦(だいはげん)のアレンジだ。ちなみに、ジャンケンならチョキだろうが、俺の指が痛いからチョップにした。

一応、まだ向かってくることも考えて振り向く。パウロは立ち上がってはいたが口の中が切れたのか口の周りの血を拭っている。

 

「っべぇ技を使いやがって」

 

「大丈夫ですか」

 

「心配するんじゃねぇ。それよりも何の技だ今のは!」

 

「今のは水神流奥義の1つ大波弦です。父さまが以前に見た時より格段に良い動きをしたので奥義を使ってしまいました。少しだけギレーヌに見えましたよ」

 

「ありがとうよ。よし俺は満足だ」

 

その後は結局シルフィへの指導もさせられた。まぁいいんだけど。今回は攻撃方向についてだ。初級で言えばフェイントだな。目で行うフェイント、体重移動のフェイント、殺気によるフェイント。そして何度か繰り返しの動きの中で相手に勘違いさせるフェイント。それらを体験させ、自分で気が付くように仕向けてやる。

フェイントについては中々筋が良い。エリスとは真逆のタイプだ。パウロもこちらの意図を理解したようで後はやってくれるらしい。

俺はパウロたちより先にあがって風呂に入った。

 

--

 

朝食後、シルフィとともに家の手伝いをして、それを終えると自然な流れで魔術の特訓に入るために2人であの場所へ歩き始めた。いつもの丘の上に着くと、すぐにシルフィが魔術を見て欲しいと言ってきて、それを見ることにする。

彼女が意識を集中するとフワリとその場で浮き上がり、少しずつ上昇していく。『無重力』と『斥力』は問題なく操作できるようだ。『引力』と風魔術、『無重力』のかけ直しと色々な方法で自由自在に空を飛びまわる。そして、『斥力』を徐々に弱めての軟着陸。

 

「完璧な『飛翔(フライト)』だったね」

 

そう今のは重力魔術の応用魔術『飛翔(フライト)』だ。他の魔術のランク付けに合わせれば、聖級から王級といったところだろう。無詠唱魔術前提で複数の初級、中級魔術を組み合わせるのだから妥当なところだと思う。

 

「ルディのおかげだよ!」

 

俺は満面の笑みで殊勝なことを言った弟子の手を両手でギュッと握った。

 

「剣術も家の手伝いもあるのによく練習した。がんばったな」

 

「うん。ねぇ約束覚えてる?」

 

「デートね」

 

「うん」

 

「なら明日は魔術の特訓はやめてデートにしよう」

 

「ほんと!?」

 

そんな約束をしながら昼前まで特訓をして家へと帰ると、その日の夜に俺はリーリャに断って家の調理場を使い、卵焼きとローストビーフの薄切りを用意した。

 

--

 

デート当日。

俺は朝の鍛錬、朝食、家の手伝いを終えたのを見計らって、一旦、シルフィを自宅に帰らせた。家族には今日はシルフィと出かけるから昼食は不要だと説明済み。シルフィは昼の手伝いができないことに恐縮していたが、仕事が増えたはずの両親が満面の笑顔なのだから何も気にすることはない。

さて、女の子は準備に時間がかかるだろうが俺はだいたい準備ができている。後はお昼ご飯の用意だけだ。と言っても昨日の内に作っておいた材料があればそれもすぐ終わる。俺は手早く、アスラン麦の黒パン4個に切れ目をいれて卵焼きと肉を挟んだ。昔アイシャが作ったようなサンドイッチには到底及ばないが、ホットドッグとサンドイッチの中間のような食べ物を完成させる。マヨネーズもケチャップもないので素朴な味だろう。たぶん。塩と少々の香辛料で卵と肉に味がついているので不味いということもない、はず。そして、きれいな布を敷いた小さな木箱をランチボックスに見立ててサンドイッチもどきを詰める。完成。出来映えに満足し、服を小綺麗なものに着替えてシルフィの家へと向かった。

 

シルフィの家につき、玄関をノック。中から「はーい」と声がして出て来たのはフィアーナだった。

 

「おはようございます。シルフィアーナさん。お久しぶりですね」

 

「久しぶりね、ルディ君。あの子の準備もうすぐだから少し待っていてね」

 

「はい。あの、夕方には戻りますのでお任せください」

 

「えぇえぇ、判ってます」

 

フィアーナとそんなことを話していると、奥からシルフィが出て来た。

 

「お待たせ、ルディ!」

 

彼女の格好は白のブラウスに胸元をV字にカットした紺色のジャンパースカートを合わせた可愛い格好だ。ちなみに丈は膝下まである露出の少ないスカートで彼氏?としては安心できるもの。スカートの種類はそれ以上は判らない。デザインやシルエットで分類されていた気がするが、前世で嫁たちにプレゼントするにも一緒に買いに行く方が多かった俺はその名称までは覚えなかった。ただ生地は良いものを使っていて、ゼニスとリーリャで作ったという俺好みの服がこれなのかもしれない。それと、足元は白の靴下、スカートと同じ色の靴だ。全体的に俺好みの上にブエナ村では売っていないようなデザイン性を持った可愛げのある格好といえる。このオシャレさんめ。

俺は真剣な顔になると、シルフィの前まで行って膝を付いた。

 

「お迎えに上がりました、シルフィお嬢様。本日はこのルーデウス、誠心誠意エスコートさせていただきます」

 

そう言って彼女の顔を見上げた。

 

「よ、よろしく?」

 

プフフ。彼女の顔がきょとんとしていて余りにも可愛かったのでついつい笑ってしまった。彼女は笑われたことに少しムスっとしたが

 

「悪かったよ、シルフィ。いつも通りいこう?」

 

俺が立ち上がってそう言うと、

 

「うん」

 

機嫌を簡単に直してくれた。冗談でもなかったのだが、冗談にしても通じてくれて有難い。俺は自分の右手とシルフィの左手を恋人繋ぎで握ると、フィアーナの方を向く。

 

「いってきます。フィアーナさん」

 

「お母さんいってくるね」

 

続いてシルフィもそう言うと、

 

「いってらっしゃい」

 

フィアーナも笑顔で送り出してくれた。

 

2人で並んで村の中を歩きだす。天気は晴れていてデート日和だろう。冬にさしかかる季節といってもラノアのように雪が降るわけではないが、シルフィの格好はこの時期には少し寒い気がした。握っている手が冷たくなったら魔術で空気をあたためてやろう。

 

「その服、似合ってるね」

 

「ほんと?おばさまたちとお母さんが仕立ててくれたの!

 ルディも……その一段とカッコいいよ」

 

「ありがとう」

 

顔を赤らめて言うシルフィに応えながら、予想通りであることに納得した。その(あと)も日常会話を楽しみながら歩いていく。

大きな樹の下に2人で並んで……座ろうと思い膝を折りかけるが、シルフィがちょっと躊躇ったのが繋いでいる手から伝わった。あぁ今日はおめかしした服だからな。慣れた手つきで土魔術を使い、並んで座れる石の椅子を作る。

 

「どうぞ座って」

 

「うん」

 

2人で並んで座ると。グーと腹が鳴った。時間も良い頃合いだ。そう思ってそのまま椅子の前に同じ要領でテーブルを作り、持ってきたランチボックスを載せて開く。

 

「うわぁお弁当だったんだ、それ」

 

「こっちにはカフェとか無いからね」

 

「カフェ?」

 

「町に行くとあるんだ、外出先で食事を食べられるお店がさ」

 

「へぇ行ってみたいなぁ」

 

「もう少し大きくなったらね」

 

そう言って、俺はランチボックスの中敷きにしていたフキンを水魔術で濡らし、おしぼり替わりにして手を拭いた後、土魔術で作ったコップにお茶を入れてシルフィに渡す。自分の分も用意すると2人の食事が始まる。味は上々だった。

 

食事の後にまったりした時間を過ごしつつ、雑談をする。

 

「シルフィ、そういえば重力魔術もマスターしたし、これからのことは考えてる?」

 

「んー?」

 

彼女は曖昧な返事をしつつ、顔には疑問符がついている。

 

「大人になったら何になるかって話さ」

 

「ルディのお嫁さん」

 

彼女のそれ以外にないという即答が嬉しかった。他にあるわけないじゃんっていう感じ。

 

「俺のお嫁さんは大変だよ?」

 

「わかってるよ、ルディ。でもいいよね?」

 

「良いよ」

 

ダメなんて言えるはずがない。願ったり叶ったりだ。

 

「まぁでも俺たちまだ子供だし、大人になるまでは何して過ごすんだ?」

 

「んー……リーリャさんが礼儀作法を教えてくれるんだって。それにお掃除とかお料理とかお裁縫も、覚えたいことがたくさんあるよ」

 

「そっか、剣術や魔術を活かそうとは思わない?きっとアスラ王国の宮廷魔術師とか騎士団に入れるレベルになれると思うけど。後は学校とか」

 

「よくわかんないなぁ。村の子は誰も学校行ってないし、行く必要もわかんない。何のためにルディは学校行くの?」

 

「いや、俺も学校はいかないな。それと旅をして感じた範囲でいうと、アスラでは俺やシルフィは魔術師としては既にトップレベルみたいだ。今さら学校で教わる魔術はないよ。高みを目指したらもっとできることはあるみたいだけどさ」

 

「そ、そうなんだ。そのもしかしてだけど、ルディは貴族っていうのになるの?だから貴族じゃないあたしとは結婚できないとか」

 

「え? 貴族になんてならないよ。俺はさ、新しい剣術の道場の先生になろうと思ってる。剣術と魔術を組み合わせた新しいやつのね」

 

「でも、ルディはすごいから皆がほっておかないって」

 

他人(ひと)がなんと言おうと、やりたいことをやるだけさ。それに……」

 

「それに?」

 

「これは先にロールズさんに話しておかなきゃいけないことだな……その後にシルフィに話すことがある」

 

「え、おとうさんに?」

 

「ああ。もう少し大人になったらね。10歳を過ぎて……15歳になる前くらいが良いと思う」

 

「そう。楽しみに待ってるね」

 

別に楽しい話ではないんだが。その後に結婚を申し込むとかそういうことも含めればシルフィにとって楽しい話になる。それでいいか。

そんな話をしながらまったりタイムを終えて、村の道具屋を巡り、そうして最後に村の商館宿に辿り着き中へと入る。店の中にはメーマックの姿があった。アナトリアが保護されていたのも考えて少し心配だったので無事で何よりだ。

商館宿の店舗部分には他の客が居て、メーマックと商談か世間話かはわからないが会話をしていた。だから、俺たちは話しかけられることはなかった。否、客が俺たちだけでも女連れならメーマックは話しかけてはこないだろう。それくらいの空気は読める男だ。

 

「見たことないものが沢山売ってるね」

 

「ここは商館宿、行商人が村の外のものを持ってきて売ってるんだ」

 

「へぇ」

 

シルフィは商館宿には初めて来たらしく、見る物見る物について質問してきた。その度に俺は何に使うものかを説明していく。俺は欲しそうなものがあったら買おうと思っていたが、子供向けの商品はやっぱり置いていなかったのでウィンドウショッピングを楽しんだ俺たちは結局何も買わずに商館宿を出た。

 

店を出てまた2人で歩いていく。村でのデートでは行く場所はそう多くない。しばらく歩いたら座って休憩して、また歩いて……とにかく一緒にいながら話をした。俺の旅の話をしたり、シルフィが習った料理の話を聞いたりだ。今日はたくさん話せて良かった。そして夕方になる頃に心配だったことを聞いてみた。

 

「俺がいない間にイジメられたりしなかったか?」

 

「ちょっとからかってくる子はいたけど平気だったよ」

 

本当になんでもないっていう顔をしている。キリっとした顔は小さめのフィッツ先輩を思わせる。

 

「強くなったな。シルフィ」

 

「うん。小さい村だからみんなとなかよくしないとね」

 

「そうだな」

 

ロールズかフィアーナ辺りに言われた言葉っぽいが、本心だろうか。

 

「でもね。やっぱりルディがいてくれる方がいい」

 

「そうか。寂しくさせてごめんな」

 

そう言って握っている手を強くした。すると、彼女が目を閉じた。お迎えのポーズ。

俺は子供らしく優しい口づけをした。

顔が離れる。

 

「ルディ、好きだよ」

 

「俺もシルフィが好きだ」

 

「どれくらい?」

 

「……一緒に風呂に入りたいくらい」

 

「恥ずかしいから……ムリ」

 

「うん」

 

少し最後に欲望が出てしまったが、彼女のはにかんだ顔が愛おしかった。

 




次回予告
人ってのは割と無理が利くものなんです。
火事場の馬鹿力とか耳にしたことがあるでしょう。
でも無理し続けるとダメ。
仕組みが複雑だと歪みがでちまって、元には戻らなくなる。

次回『不調』
特に心ってのは定期点検でも見逃されがちでね。
あぁいうのを技術者泣かせっていうんですよ。
誰がそんな風に作ってくれたんだか。
設計者には文句しかない。
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