無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第038話_間話_ラトレイアを狙う者

---流行っています!子供の詐欺師!---

 

「おねえちゃん」

 

「どうしたの?テス」

 

「木に登ろうとしたら落っこちて血ぃ出ちゃった。それと……枝も折れちゃった」

 

「あらら、よく泣かなかったわね。すぐ手当てしましょう」

 

姉さんは治療魔術で傷を治してくれた後、アラツの木の折れた場所を確認して何やら作業をしていた。作業を終えると姉さんは笑顔で私に言った。

 

「あの木に登るのは今後、絶対にしないでね?」

 

「はい、ごめんなさい」

 

あの顔は笑顔だったけどすごく怖かった。今でも覚えているくらい怖かった。子供ながらに姉さんがあの木を大事にしていることも判った。

……

夢か。

夜勤後に書類整理をし、朝日が昇る頃に宿舎のベッドに倒れ込む。そして起き上がれずに寝てしまうと、忘れていた昔の記憶が夢として出て来た。でもなぜ急に?

意識がはっきりしてくると、もう時間は昼を過ぎている。それだけ確認して久しぶりに私服に着替えて私は実家へ帰った。

 

--

 

「あら?」

 

入ろうとする屋敷の門の前で中を窺っている綺麗な身形(みなり)の子どもがいた。

 

「こんにちは」

 

私が近づいていくとその子が挨拶をしてきた。小さな男の子だった。なんと可愛らしいのか。しかし、私の剣士としての勘がこの子をただ者じゃないと告げた。間合いを多めにとって話しかける。

 

「こんにちは。この屋敷に何かご用?」

 

「おばあちゃんに会いたいなって思って」

 

おばあちゃん?私は結婚した兄姉について考えを巡らす。アニス姉さんの子なら皆、もっと年齢が上だ。エドガー兄さんの子はもっと年齢が上か、まだ生まれたばかりのはず。亡くなったサウラ姉には子供はいないはずだった。

 

「あなたのような子供はラトレイア家の縁者にはいないわ」

 

「テレーズ叔母さまでしょう?」

 

名前を呼ばれて頬が緩みそうになった。その声で私のことを呼ぶなんてずるい。しかし、こういう怪しい輩が家の財産を狙っている可能性もある。不用意なことはできない。

 

「親御さんの名前は言えるかな?」

 

「パウロ・グレイラットとゼニス・グレイラットです」

 

……一瞬思考が停止した。家出をしてしまったゼニス姉さんの子供。姉さん結婚してたんだ。本当だろうか。

 

「信じてあげたいけど怪しい子供を屋敷には入れられないの。ゼニス姉さんが近くに来ているなら一緒にくれば良い」

 

家出をした娘を簡単に入れてくれる家柄ではないが、わざわざ来たなら母さんも無下に返したりしないだろう。

 

「そうですよね。母さまはアスラ王国のフィットア領ブエナ村で元気に暮らしてます。最近、妹も生まれたので一緒には来ていません」

 

訳が分からない。しかしこの子が嘘を付いているのはわかった。アスラ王国の首都アルスまで馬車で走っても1年半、往復で3年はかかる。ブエナ村というのは良く知らないがアルスより手前にあるとしても片道1年以上はかかるだろう。この子は1年前に何歳(いくつ)だ?1人で旅をしてきたわけもないだろうが……子供らしい嘘だ。それを咎める気はサラサラない。

 

「また来ます」

 

子供は遠ざかるように去って行った。

 

--

 

その夜、10日ぶりに自宅に帰った私は、夕飯の間続く母の小言にうんざりしていた。最近、盾グループの中隊長(ミドルリーダー)に抜擢された私は家に帰ることを許されたが、母の小言が続くようならそのうち帰ってくるのが嫌になってきそうだ。やれ結婚しろだの、ラトレイア家は由緒あるだのそういうのは兄さんや姉さんが十分勤めを果たしているでしょうに。この人はゼニス姉やサウラ姉がどうしてあのようになったのか全然反省がみられない。

まじめに聞いていたらまた喧嘩しそうだ。そう考えて、話を逸らそうと家の前にいた少年の話をした。すると母の表情が一変した。

 

「いま何と?」

 

「ですから家の前にいた子供が、ゼニス姉さんは結婚してグレイラット姓を名乗っているって言うんですよ。それで自分はゼニスの息子だって。グレイラットって言えばアスラの地方領主でも有力貴族ですけど4大貴族のどれでも無いっていうところがちょっと設定が甘いのかなって思って追い返しました。だいたい年齢が……」

 

「どのような子でした?」

 

「は?」

 

「息子、男の子だったという話でしたが」

 

「年齢はまだ10歳足らずで、その非常に」

 

「抱きしめたくなるような可愛さがあった」

 

「え?」

 

厳格な母に似つかわしくない言葉が聞こえて、無礼な口調で訊き返してしまった。

 

「昔のエドガーがそうでした」

 

母は叱るともせずに小言を止めて黙ってしまった。私の記憶にある兄さんはそういうのとは無縁で男らしい感じがする。ゼニス姉さんの息子を名乗る子と共通点があるようにはまったく思えない。だが私の知らない何かによって、あの子がゼニス姉さんの子供かもしれないと母が考えているようだ。追い返したのは不味ったかもしれない。

 

--

 

神殿騎士の仕事に戻り数日が経った。騎士用の食堂で夕食を摂っていると空いている目の前の席に父が座る。剣グループの隊長である彼はいつもは独りで食べているか、もしくは部下と一緒に食べている。父は母と違って融通が利くし、小言を言ってくることもないので動向を把握するくらいの興味は私にもある。そんな父が盾グループの娘と同席することは今までになかったので少し驚いた。でも理由は判る。

 

「姉さんの子供のことなら確かに会って話をしましたけど、怪しくて追い返してしまいました。すみません」

 

「そうか」

 

「ただ、子供の割に腕が立つようでした」

 

「ほう」

 

「上級かそれ以上の剣士が持つような異様さがありました」

 

「ゼニスが黒狼の牙というS級冒険者チームの治癒術師をしていたのは知っているか?」

 

「いえ、初めて知りました」

 

家出した娘が心配で調べていたのだろう。

 

「そこに剣王ギレーヌ・デドルディアが居たという。産んだ子供がその弟子になったということかもしれないな」

 

なるほど名前からして獣人族の剣王。弟子入りしてすぐ獣人の集落に向ったとすれば、このミリシオンを通過するという事もあり得るわけだ。あんな可愛くて小さな子供を修行に出すとはゼニス姉さんは何をやっているのかとも思うが、あの子にしてみれば家が恋しかったかもしれない。そんな子供の話を良く聞かずに追い返した私も同罪な気がした。

 

「もし次に会えたら、家に入れてもよろしいですか?」

 

「お前が母さんからその子を守ってやれるなら良いだろう。あいつの優しさはわかりにくいからな」

 

母が優しい……父もたまにおかしなことを言うので気を付けて欲しいものだ。

 

--

 

そんなことがあったが神殿騎士の私はそうそう家に帰らない。神子様の護衛をする私の部隊は普段から神子様と一緒に暮らしているし、ミリシオン付近のいろいろな町に出向くことも多い。だからまた何日も自宅に帰らなかった。そうして自宅に帰った時、彼が普通に家族とテーブルを共にして食事をしているのを見て驚いた。そもそも父は私が守ってやるなら家に入れても良いと言っていたではないか。それが私無しで。どういうことなのか訳が分からなかった。

 

「どうしたの、テス。はやく座りなさい」

 

「はい、お母様」

 

私が席に着くと給仕が料理を持ってきた。私はそれを礼儀正しく食べる。この家で食事を摂るときに少しでも粗相をすれば母のカミナリで料理の味がわからなくなる。しかし母の機嫌はすこぶる良かった。つまり、同席しているこの子供の礼儀は非常に正しいということになる。それとも甘やかしているのだろうか。

 

「ルディ、あとでお菓子をたべましょう?」

 

「お祖母さま、午後のオヤツにも甘いお菓子をいただきましたのでご遠慮させてください。でもお菓子をなしにして渋めのお茶を用意していただけるならゆっくりお話しいたしませんか?」

 

「ええ、ええ。そうしましょう」

 

これは甘やかしている。見たこともない母の姿に気味悪さを感じる。でもルディと呼ばれたこの子の礼儀もしっかりしている。私はこの子供が気になったが、母と話す約束をされてはすぐに事情を聴くことはできないだろう。

 

--

 

食事を終えた二人は仲良く母が使う執務室へと入って行った。あの厳しい母をここまで篭絡するとは本当にこの家を狙っている貴族の手先や財産目当ての小人族の詐欺師という可能性を考慮すべきではないか。考えながら私が食事を終えた頃に父が帰って来た。

あの少年と話しているなら母は出迎えないかもしれない。ならばと私が父を出迎えようと顔を出すと、既に母とあの子が出迎えている。父は私よりは頻繁に家に戻るからもう顔を合わせているのだろうか。きっと父は食事をしに食堂に来るだろう。話を聞けると思い私は食堂に取って返し、待つことにする。しばらくすると父が食堂に来た。

 

「おかえりなさい、お父様」

 

「やはり、テス。お前も帰ってきていたのだな」

 

「はい、先程戻って食事をしたところです。 帰ってきたらあの子が家で馴染んでいたので、お父様にお話しを伺いたくて」

 

「何?」

 

父の頭の上にも疑問符が浮かんでいる。父も知らないということだ。私は父の質問に答えることができず、私より若い給仕が父の食事を配膳したのを見届けて、声をかけた。

 

「少しいいかしら」

 

父にお辞儀をした後、給仕は私の声かけに応じた。

 

「はい、お嬢様」

 

「あの子供はいつからこの屋敷に?」

 

「昨日の昼にございます」

 

なるほど、それならば父も私も彼を迎え入れた話を聞くのは今が初めてということになる。

 

「屋敷の玄関に立っていたのを奥様がお呼び止めになられまして。何度かお言葉を交わされた後、屋敷に迎えられました」

 

私は父の顔を見た。父も頷いた。

 

「良く分かりました。シドニーさんを呼んできてください」

 

「承知しました」

 

シドニーさんは館の管理をしている上級使用人だ。私が生まれる前からこの屋敷に仕えているから信頼も厚い。しばらくしてシドニーさんがやってくると、父と私に詳細な経緯を説明してくれた。話によると、男の子の名前はルーデウス・グレイラット、もう数か月で8歳になる。彼の父の名前はパウロ・グレイラット。母の名前はゼニス・グレイラット。旧姓ゼニス・ラトレイア。家はアスラ王国フィットア領のブエナ村。ミリシオンに来た目的は商業区画でルード商店というお店を開くため、ということだ。

 

「シドニー。クレアはなぜルーデウスという子を屋敷に入れることにしたのだ?」

 

「奥様も最初は(うたぐ)っていらしたのですが、彼がお土産として持ってきたゼニス様の像の出来を見てお屋敷に入れることにしたそうです」

 

「お前もその像をみたのか? シドニー」

 

「はい。首元と顔にあるホクロの位置が私の記憶にあるものとも一致していました。それに」

 

「それに?」

 

「それにお顔がきっと成長されたゼニス様だろうと私めにも思えました」

 

「その像を持って来てくれないか」

 

「すみません、旦那様。どうしてもと言われればお言葉に従いますが、奥様が寝室で大事に抱えてらしたので私が勝手に持ち出すのは……」

 

「あぁ判った。そのほうが良いだろうな」

 

そういうと父は寝室に行って確かめるようだった。母が像を大事に抱えている。ちょっと想像が付かない光景だ。私も興味がある。

 

「お父様、よろしければ私もご一緒に確認させていただけませんか?」

 

「いいだろう。ついてきなさい」

 

そう言って私は子供の頃以来、久しぶりに両親の寝室に足を踏み入れることになった。寝室に入ることに少しの緊張があったが、そこにある土像の出来にすぐにそんなことは吹き飛んだ。私の中の記憶にある姉さんとは少し違っていたがシドニーさんが言うようにホクロの位置は合っている。これが姉さんを模した物でないと誰が否定できようか。

ではあの子は本当に姉さんの息子なのか。状況証拠は揃っているが、そこまでするなら姉さんの手紙でも預かって来れば信じられるのに。そう考えていると、隣で父が見たこともない表情で顔を(ゆが)ませていたので私は無言で寝室を出た。扉を閉めた辺りで部屋から少し鼻をすする音が聞こえた。

しかし剣王と獣族の村に行く途中でここに立ち寄ったのではなく、商店をミリシオンに開店する作業に同行してきた?子供が親元を離れてなぜそのようなことをするのかさっぱり分からない。私ももう一度あの子と話したら冷静でいられるだろうか。正しい判断を下さねばラトレイア家が危ないかもしれない。

そうだ。可能ならば神子様に確認して頂こう。それで彼が嘘をついているかどうかわかる。職権濫用のような気もするが職務に集中するために是非とお願いすれば内緒で見て頂けるだろう。本当に見て頂けなくても、あの子にそのことを伝えて逃げ出さなければ信憑性はあがる。

 

--

 

早朝、私が鍛錬をしようと庭に出ると先客がいた。ルーデウスが何かの剣術の型をやっているところだった。少し水神流に似た所のある型だが、水神流でもなければ剣王が教えたであろう剣神流でもなさそうである。あまりじろじろ見ている訳にもいかない。

 

「おはよう、ルーデウス君」

 

「おはようございます。テレーズ叔母さま」

 

私は挨拶だけして自分の鍛錬に入った。自分の日課を終えるとまだ彼が何かをやっていた。彼を知るためにも訊く必要を感じる。

 

「君がやっているその剣術は何流か、お姉さんに教えてくれないか?」

 

「七星流という魔法剣士のための剣術です」

 

「七星流、聞いたことも無いのだけど」

 

「僕が開祖ですから」

 

「今作った冗談、ということか?」

 

彼が一度、首を傾げる。その姿も大変可愛らしい。

 

「なるほど。テレーズ叔母さまは僕のことを信用されていないんですね。だから僕が言ったことを嘘だと思っている」

 

彼の会話能力はとてもじゃないが8歳と思えない。やり取りから言葉の奥の意図を読もうとしている。神子様に取り入ってくる連中に近いと感じる。ラトレイア家が目当てではなく、その先の神子様が目当ての者か融和派の手先という可能性も考慮した警戒が必要だ。

 

「そうだ」

 

私の声は自然と硬さを増した。

 

「でもラトレイア家を守るためならもっと疑ってください。それで何が知りたいのですか?」

 

「なぜラトレイア家に来た?」

 

「お祖母さまやお祖父さまに母を(かたど)った像を渡したかったのです」

 

「そのために子供が何年も母親と離れる理由にはならない」

 

「ここから1か月でアスラ王国に行けるので来月には母さまに会えますよ。1か月会えないのも辛いですけどね。それと小さいときにお祖母さまやテレーズ叔母さまにも会っておきたかったのです」

 

「ここから1か月でアスラに行けるわけがない」

 

「そうですか?出でよスパルナ」

 

彼の目の前に突然、人を飲み込むことができそうな鳥の魔獣が現れた。これは魔大陸にいる火食い鳥か?何をするつもりだ!?私が身構えるより早く、

 

「スパルナ、テレーズ叔母さまを乗せて飛んでおいで」

 

彼の言葉に鳥がキィと鳴いて返事をし、私を無理やり咥えて背中に放り投げる。私は火食い鳥の狼藉に抵抗することも叶わず、歯を食いしばってとにかく情けない悲鳴だけは上げずに済ませた。放り投げられた先でガッシリと翼の根本を掴む。嫌な予感がする。

『飛んでおいで』

確かに聞いた。私はその言葉を思い出すとともに、命綱もなしに上空へと舞い上がった。

 

鳥が旋回するたびに涙が空に消えていく。あまり見ないようにしていても小さくなったミリシオンの街並みが見える。堕ちたら死ぬ。

死を覚悟した頃、私はまた咥えられて地面に降ろされた。その場にへたり込み、立ち上がる気も話す気も生まれてこなかった。

 

「召喚魔術はレア魔術ですけど、どうですか?これで昼夜を問わず飛べばアスラまで1か月で行けます」

 

どうですか?

死ぬと思ったよ。

 

「……」

 

納得したがこんな乱暴な手段で説明するとは顔に似合わずヤンチャな所がある。

 

「他には?」

 

気力が回復してきた私は少し口を尖らせる。

 

「今のでゼニス姉さんを連れてくれば良いじゃないか」

 

「母さまだって嫌がりますよ」

 

判っていてやったのか!

 

「納得いかないことはまだある。君は剣術も相当できるだろう。召喚魔術にその剣術。とても人族とは思えない」

 

「3歳の頃、あそこにあるのと同じアラツの木が庭にあってその枝を父さまが剣で斬り落としたのですが、母さまはその木を大事にしていましてすごい怒りました。最終的には回復魔術を使って木を治すという事件だったわけですけど当時の僕はその魔術を真似しまして。それを見た母さまの意見で魔術の才能があるから家庭教師をつけることになったんです。でも男の子が生まれたら剣術を教えるという約束をしていたみたいで3歳から剣術と魔術を習う稽古漬けの生活になりました。だから他の子供よりも魔術と剣術ができますね」

 

後半の部分はあまりしっかりと聞いていなかった。

 

「待て。君の家の庭にはアラツの木があってそれをゼニス姉さんが大事にしていると言ったか?」

 

「ええ、そうです」

 

「そうか。そう……疑って悪かったね」

 

「?」

 

アラツの木を大事にしてることなんて私以外で知る人がいるとは思えなかった。ルーデウスはゼニス姉さんの息子だ。

 

--

 

私が見た彼はその日の朝が最後だった。そして私が仕事を終えて次に自宅に帰り、母と食事をしたとき母の話はルーデウスのことばかりだった。でも小言よりは全然良い。彼には感謝せねばならないな。母の話によると、その後も数日の間滞在した彼はラトレイア家の人々を土像で作ってゼニス姉さんへの手土産にすると言っていたそうだ。私の土像も作ってくれていると嬉しいのだが。それでこの前のことはチャラにしても良いだろう。

 

 

 

 




次回予告
飲酒は大人になってから。
十にも満たない幼子のルディにはまだ早い。
それは六面世界においてもだ。
しかし晴れの日なら、多少の無礼講で罷り通る。

次回『ノミニケーション』
酒は憂いの玉箒(たまははき)
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