無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第047話_告白

---たまには誰かに頼るのも悪くない---

 

パウロさんに事情を聞こうと私が立ち上がると入れ替わるようにゼニスさんがルディを抱きしめた。彼女の顔が濡れていた。

 

「何があったんですか! 説明してください!」

 

自然と語気が強くなった。ルディがなぜこうなってしまったのか。パウロさんの顔には話しづらい事だと書いてあるが、そうだとしても私は知りたい。知らねばならない。

 

彼は「休ませてやってくれ」と言ったのだ。

『休ませる』とは何か。私から見てルディは正常ではない。異常だ。治癒魔術師であるゼニスさんがその異常を除去すべく治癒魔術を試みていない。

『休ませる』とは何か。もし別のシチュエーションなら私にだって意味がわからない言葉ではない。冒険の途中で、ダンジョン奥深くで、苦しむ仲間を癒す手段がなければ。元S級冒険者のパウロさんが言うその言葉がそれに通ずるのか? ここは彼らの家なのに?

 

パウロさんは無言で隣の小部屋へと移動し、私はその後に続いた。彼は小部屋の壁まで歩くと振り返りながら立ち止まった。

彼の表情は冴えない。話し始めるのを待っていると、壁にもたれてそのままゆっくりと床に座り込む。

私はその様を見ていた。背の低い私が彼を見下ろす。

 

パウロさんがこれまでの本当の5年間のことについてぽつりぽつりと話し始めた。その話は全くもって意味不明だった。だってこの災害をルディが予期して、被害を最小限にするために彼は3年間旅暮らしだったというのだ。

 

どうやって予期したのか?

何を知ったのか?

誰と旅したのか?

 

アスラ王国がいくら魔物の少ない土地柄でも水聖級魔術師という力があろうとも、当時たった7歳だった子供が一人旅をするなんて常識外れだ。ダンジョン探索に行ったときに体験させたはずだ。一人旅をするのは肉体への負担が大きすぎる。

ツッコミどころが多すぎるパウロさんの話を最初は冗談だと思った。でも言われてみて思い当たる節はある。私が書いた手紙に対する返事が遅かった。当時は私への興味がなかった、もしくは途中の配送に問題があった等の色々な理由があるだろうとそこまで気にしていなかった。だが家に居る時間が少なく、届いてすぐに読むことができなかったのならば返事も遅れるだろう。

それに甲龍王ペルギウスに会った? どれだけルディが賢くて才能があったとしてもおいそれと会って話ができる人物ではない。どうやって空中城塞に行くのか、私にはそれすら不明だ。だがフィットア領を吹き飛ばすような魔力の暴走。神話のレベルに対処できてアスラ王国に関わりがある人物というなら甲龍王だろうとも思えた。協力を仰ぐ相手としてしっくりくる。

私への手紙にはその辺りのことが何も書いていなかった。私がここに来て、居なかった5年間の話をしたときもその話はごっそり抜け落ちていた。そこは残念に思う。師匠で先生の私は自分のやりたいことをやっていて、弟子で同志のルディは自分の人生を犠牲にしていたのだ。10年の人生の内の3年、ルディ本人にとってもパウロさんやゼニスさんにとっても大事な時間だったはずだ。

私はそんなことが起こっているとは露とも知らず、自分のやりたいことをやっていた。世話になった人々を助けることも、同志……いや弟子の窮地を救うこともできなかった。

パウロさんの話は終わりの方になると大雑把な推測が増えていく。細かいことはパウロさんも聞いていないのだろう。この5年間でルディのしたことを改めて聴き直すと、

村でいじめられていた幼馴染を助けて、読み書き算術、上級までの魔術を教えた。

友達のいなかった領主の娘の友達になり、読み書き算術に剣術の指南をした。

領主の娘が外に出られるように人攫いの問題を解決した。

2人を助けて道を示しつつ、災害の回避策を探し、アスラ金貨何十万枚という復興資金を稼いだ。

そんな中でシルフィを選び、エリスとの恋愛を終わらせた。

のだという。

だが8万人もの領民を助けても、2万人弱の人々を救うことができなかったとき、それを喜ぶルディはシルフィに嫌われてしまった。

何というか途方もなくて幼稚なおとぎ話みたいな話だ。しかもパウロさんから見て、エリスもシルフィもしっかりと説明すれば別れる必要はなかったという。ルディは説明することをおかしな理屈で拒否しているそうだ。昔の素直なルディしか知らない私にしてみればあの子らしくないと思うのだけど、何か意図があるらしい。

でも話から何となく伝わって来たことがある。ルディはシルフィのこともエリスのことも未だ愛している。それが辛くて心が壊れようとしている。

パウロさんが話を終えたことを示すように立ち上がった。再び見た彼の顔には様々な感情が浮かんでいるように思えた。だが一番深く刻まれているのは父親として何もできないという懊悩(おうのう)だ。

私がすべきことは何だろうか。私が師匠として、同志として……違う、彼の事が好きな女として何ができるのか。いやまだ恩着せがましい。そんな風に思う事はない。自分が辛いときも私には好きなことをさせてくれていた彼が喜んでくれること。つまりはこの事態について聞いて、私がやりたいことは何だろうかだ。

彼女たちと復縁させることだろうか。でもルディには意図があってそれをしないのだと言う。だからといって私はルディの心が壊れて欲しくはない。

神級の魔術ではどうかは知らないが、そこらの魔術師の治療魔術では一度壊れた心は直せない。そんなのは嫌だ。

彼の心が完全に壊れる前に私が彼の心を癒す……そうしたい。でも何をすれば良いのか。

 

パウロさんが去った小部屋で私は立ったまま考えた。考えが上手くまとまらない。

まとめることを諦めてリビングに戻ると、ルディもパウロさんもゼニスさんも居なかった。代わりに2階へと向かう足音が聞こえる。

私は音を追いかけて、扉が開いたままのルディの部屋へと入る。そこには泣き通しのゼニスさんと隣で状況を聞いているパウロさんが見えた。その向こうにはルディがいるのだろう。

母親の語り掛けにルディはついに反応しなくなってしまったと、ゼニスさんの説明が聞こえてくる。うわ言のように私の名前を呼んでいるとも。

ゼニスさんは状況を説明し終えるとただただ泣いていて、パウロさんがそんなゼニスさんを抱えて部屋を出て行く。彼らが立ち上がり、ベッドの脇から離れるとそこにルディの横たわった姿が見える。私はまだ部屋の入口で立ったままだ。

パウロさんたちが部屋を出て行く直前に「すまないが、後を頼む」と私は頼まれてしまった。

彼らには何もできなかった。私に何ができるというのか。

考えながら私はルディのベッドの端におそるおそる座り、彼の胸をさすった。人族としてはまだ小さいとしても随分と大きくなった。その成長がいかに速かろうとまだ死ぬには早すぎる。

 

「ルディ、あなたのロキシーが来ましたよ」

 

これから告げる一言一言がきっと大事になる。ただ泣いてばかりではきっと後悔する。だから冷静に、声が震えていようとも悲しくても彼の先生として声をかけた。彼が私を呼んでいるというなら私がすべきことはまだ残っている。ただ、この状況では返事は期待できなかった。でも一拍おいて彼は声を発した。

 

「ロキシー? 良かった。もう来ないかと思っていました」

 

声の弱弱しさが私の胸を締め付けようとする。でも彼から目を逸らしてはいけない。私はルディと視線をあわせようとしたが、ルディの視線は相変わらず私の方を見ていない。まるで……いや、目が視えていないのかもしれない。

 

「パウロさんから事情は聴きました。私に出来ることがあるなら言いなさい」

 

「先生、僕のことは忘れてご自分のやりたいことを存分になさってください。僕はもうここでお別れです」

 

故郷を離れてから私は好きなことばかりしてきた。出会いと別れがあり、仲間を見送ったこともある。辛いこともあったが、それがこの世界の常ならば受け入れることができる。だがなに? 10歳の子供に、大事な弟子に"お別れです"だなんて私は認めない。諦めればそれで終わりだ。

 

「なぜなのです。私に分かるように説明しなさい」

 

彼は怯えながら今までより1トーン低い声でゆっくり話し始めた。その声音は死者のようだった。背筋に怖気(おぞけ)が上ってくる。

 

「……眠ると未来の可能性が見えるのです。

最初は真っ白な景色でした。

無限の可能性がありました。

でも、最近、大きな穴ができて。

その穴の中は真っ暗で未来がありませんでした。

それがジワジワと広がっていくのです。

止める方法はありませんでした。

そして、先程、夢の世界は真っ暗になりました。

剣王ギレーヌが言っていました。

お前はこのままだと心が死ぬと。

その時が訪れ、僕はカッコ悪くも喚いて助けを求めたのです。

そうしたらロキシーが来て夢から覚めました。

でも、もう次は無いと思います。

僕はもう独りではあれに抗えません」

 

彼をここまで追い込んだのは何なのか。なぜこれまで彼は独りで闘ってきたのか。分からない。分からないが独りでは抗えないというなら簡単な答えを私は持っている。

 

「大丈夫です。私が居ます。独りで闘うことはありません」

 

だが返って来たのは拒絶だった。

 

「ダメですよ……僕は自然に生まれる愛のカタチが好きなのです。未来を知って、カタチを歪めた、そんな愛に興味はありません。だから、ロキシーも自由に生きてください」

 

未来を知ることで愛が歪む。自由から最も遠い存在が私の自由を望む。1つ1つ解きほぐしていく。我慢強く、ゆっくりでいい。焦ってはいけない。

 

「最初が歪んでいても良いではないですか。好き嫌いはダメですよ。カタチでえり好みして相手の気持ちを(ないがし)ろにするんですか?」

 

「それは……」

 

「私はルディと一緒に居たい。あなたと生きることが私の望みならいいのでしょう?」

 

「……でも僕は人族ですからロキシーと共に居られる時間は本当に少ないのです。僕が今死んでも、寿命で死んでも、どちらにせよロキシーを残していくことになるのです。それなら愛が深くなる前に終りにした方が良いでしょう?」

 

「そんなことはありません。私にもあなたを失う覚悟ができるまでの時間は必要です。最後には残されるとしても私はこのままでは後悔だけが残ってしまいます。あなたを今死なせぬ手段があるなら私にその手を取らせてください。それはきっとあなたの心持ち次第なのでしょう? あなたとの間に子供が生まれればその子たちとずっと生きていきます。それで私は生きていけます。だから私ともう少し生きてください。お願いです」

 

「…………………………………………………………ロキシー。もう離れるのは嫌です」

 

ルディがこちらを見た。見えているのだろうか。どこから湧いて来たのか力強く抱きしめられて、そして唇を奪われた。

私はそれを受け入れた。

 

--

 

その日から私はルディと同じベッドで一緒に寝るようになった。寝ると言ってもやましいことはしていない。たまに彼がうなされると抱きしめて唇を重ねるくらいだ。起きている間に色々なことを話した。彼が言うにはまだ夢の中は真っ暗だという。だから眠りに落ちるととても恐ろしいそうだ。でも、私が横で眠っていればその温もりが判るから我慢できると言っていた。ゼニスさんやリーリャさんではそうはならないという。私に不思議な力があるなら、私なら彼の夢の世界を白くできる術があるかもしれない。

眠れるようになって数日すると、ルディは体力を取り戻していき、活動的になった。剣術・魔術の訓練、妹たちの家庭教師兼子守りを再開した。私はというと、彼が元気に起きている間はまた家で料理を習ったり、掃除、洗濯、新しい花壇の手入れまでも手伝うようになった。

 

 

--ルーデウス視点--

 

ロキシーと一緒にベッドで寝る生活が当たり前になったある日のことだった。

 

「先生」

 

「先生じゃなくて同志でしょう? ルディ」

 

「そうでした。同志ロキシー」

 

「普通にロキシーと呼び捨てで構いませんよ」

 

「はい。ロキシー、約束通りこの5年で集めた魔術についてお伝えしたいと思います」

 

「私もシーローンで1つとっておきのを見つけて来ましたから楽しみにしてください」

 

そうして俺は彼女から水王級魔術『雷光(ライトニング)』を得た。代わりに俺はペルギウスから習った転移魔術と召喚魔術について説明した。召喚魔術の内、人形精霊に人格付与をするところまでだ。俺のオリジナルである三次元魔法陣、神獣召喚についてはまだ説明しなかった。彼女に対して嘘や誤魔化しをしたくないし、する必要もないが、どこまでを説明すれば良いのかがまだ心の中ではっきり線引きできなかった。俺はロキシーになら全てを伝えることができると思っている。彼女はそれを受け取っても俺を変な目で見ないと思える。だが彼女は魔術の専門家だ。魔術については彼女なりの領分や常識があって、受け取れる内容にも限度があると思う。俺も魔術が万能だと理解するのに随分と時を要した。彼女を困らせたり、自信を失わせることが本意ではない。

本意ではなかったのだが、なぜか『雷光』を得意げに説明していたロキシーは転移魔術と召喚魔術の説明を聞いて肩を落としていた。内容で見劣りがあったと思ったのだろうか。俺は少し慌てた。

 

「ロキシー、僕はロキシーの教えてくれた『雷光』は研究の余地が非常に多い魔術だと思います」

 

「そういうフォローは良いんです。誰がどうみても転移魔術と召喚魔術に関する知識の方がレア度が高いのは判っています」

 

なるほどレア度の問題か。それなら説明が出来る。

 

「ロキシーなら判ってくれると思っていますが、僕はレア度の高い魔術が良い魔術とは思いません。僕が伝えた魔術は使い方が難しかったり、禁忌に触れるので大っぴらには使用できない日陰者の魔術です。それに比べてロキシーの教えてくれた『雷光』は」

 

俺はそこで言葉を切って、電撃(エレクトリック)を無詠唱で発動する。

 

「こんな感じにアレンジすることで雷魔術に出来ると思います。僕はこれは4属性に当てはめるのではなく、5番目の属性だと考えます。『雷光』のように水魔術が生み出す雲から間接的に生成するのではなく、恐らく直接的に『雷撃』を生成することが可能なのではないでしょうか? 今は無詠唱でしか使えませんが、上手く詠唱呪文を構築することでこれを適正のある魔術師ならだれでも使える魔術にできるのではないかと予想します」

 

「すごい……でも本当に可能なのでしょうか?」

 

「それは今後、僕とロキシーで研究すればわかることです」

 

「私も協力できるのでしょうか? ルディだけで研究した方が良い気もしますが……」

 

「ロキシー。僕の知っているロキシーはもっと自信がありました。どうしたのですか?」

 

「だって……」

 

目を逸らす彼女。もう一押しか?

 

「まぁ弟子のシルフィに手伝ってもらっても良いのですが、今はちょっと仲違いしていましてね。今ならロキシーとの共同研究にしますけど、ロキシーがやらないというなら彼女に頼むことにします」

 

「ま、待ってください」

 

俺は何も言わずにロキシーの次の言葉を言葉通りに待った。ロキシーは口を一度引き結ぶと意を決したように言った。

 

「やります。一緒に雷魔術について研究させてください!」

 

「こちらこそ是非」

 

かの魔術がその後に電撃魔術と呼ばれると予測しつつ、俺とロキシーは雷魔術の研究に着手した。

 

--

 

研究を始めて3週間、その日も俺は朝は剣の鍛錬、昼間は妹たちの家庭教師、そして夕方からは雷魔術の研究をするという日課をこなすはずだった。だが夕方になってもロキシーが俺の部屋に来ない。どうしたのかとロキシーの部屋へ行く。すると彼女がベッドで膝を抱えて座っていた。

 

「どうしたんですか、ロキシー。調子が悪いなら今日の研究はお休みにしますか?」

 

俺は扉を開けて彼女を見ていた。

 

「ルディ、こちらに来てください」

 

ロキシーはそう言って、膝を抱えていた右手で自分の横をポンポンと叩く。俺は何事かがあったことを察して彼女の隣に腰かけ、ベッドの(きわ)に置かれた彼女の手を握ろうとした。が、その手が空振りに終わる。彼女の右手は逃げるように当人の膝小僧に載せられてしまった。俺は横からロキシーの顔色を窺ったが、ロキシーは俺の方を見ずにまっすぐ自らの足の指を見つめている。その指はもじもじと蠢いていた

 

「この前、弟子と仲違いをしているって話をしてましたよね?」

 

「あぁはい。しました」

 

なんとなく状況が読める。これから起こるであろうことも。

 

「それにパウロさんからもこの5年間のことは聞いています。その……弟子のこと、愛していたんですか?」

 

時がゆっくりと流れて行く。俺は深呼吸をしてから答えた。

 

「無償の愛がなければ弟子は取らないようにロキシーにも伝えたはずです。自分で言ったことは僕自身にも適用されますよ」

 

「ならなんで」

 

「なんで、ですか。それを伝えるのは難しいです。そうですね」

 

でも先生になら分かってもらえるかもしれない。そう思って話し始めた。

 

「僕は、僕のことを慕ってくれる弟子に対して『この弟子には自分の人生を自分で選びとって生きて欲しい』そう感じたのです。ロキシーが僕を育てて10年後にまた会いましょうと言った時、もしくは僕が女性としてあなたを愛すると言った時、僕の全てが先生のためになってしまうと感じたのではないですか? だから5歳の誕生日の後、ロキシーは僕から離れて行った。それって同じことだと思います」

 

ロキシーの想いは違ったかもしれない。単純に自分の力不足を感じてだったか。俺の意図さえ伝わればまあ良い。俺は続けた。

 

「僕の弟子は僕と同い年の女の子ですけど、彼女はこれから自分の道を進んでいきます。僕が彼女を引き留めることはできません。僕が引き留めれば彼女は僕の下僕で一生を終えます。いや、長耳族のクォーターですから僕が死んだ後は考えるだけで恐ろしいです」

 

「ならエリスという子は……」

 

「順番が逆なので分かり難いと思いますけど、エリスのことは僕が弟子を愛すると決めたときに諦めました。僕がエリスを愛するようになれば僕の弟子の選択はさらに迷うことになるかもしれないのです。僕が誰かを愛することで弟子が一生を棒に振る、そんなことになるのが嫌なのです」

 

「それではルディの幸せはどこにあるのですか……ずっと引き摺っていたのでしょう? まだ忘れられないのでは?」

 

甘えかもしれないが、ロキシーに対して嘘や誤魔化しは不要だ。

 

「僕は彼女たちを本気で愛しています。別れなければならないと知ったときは身を引き裂かれる思いでした。そして、これからは一生独りで生きて行くかもしれないと孤独に怯えていました。夜になると夢の中で未来視をするようになり、それが闇に包まれていきました。だけどロキシーが来てくれたのです。僕をあなたが救ってくれたのです」

 

忘れられないよ。忘れるつもりもない。でも彼女たちは彼女たちとして生きて行く。ロキシーにだってそうあって欲しい。だから確信が持てるまで我慢しようと思っていた。でも俺は鈍感系じゃない。この状況で言うべきことは判っている。俺は彼女が俺の言葉を吟味している間に、その手を取り耳元で囁いた。

 

「ロキシー。もう離れるのは嫌です」

 

この前と同じ言葉。

 

「い、いいんですか?こんなちんちくりんで……」

 

「あなたがいい」

 

言うのとほぼ同時に扉が開いて、妹たちが2人で入って来た。一瞬で雰囲気が日常に戻る。俺は素早くロキシーから身体を離した。

 

「おにぃちゃーん、ごっはんだよ~♪」

「ロキシーさん。夕食の準備ができました」

 

「ねぇ、今なにしようとしてたの? ねぇ?」

 

「わかったわかった。良いだろ別に」

 

アイシャめ……ロキシーは俺を置き去りにして、ノルンの頭を撫でてから先に部屋を出て行った。俺もアイシャと手を繋いで、ダイニングに向かうためロキシーの部屋を出た。

 

 

 




次回予告
理性を越えて相手を求める。
難しく考える必要などなく、本能のままに、
心の求めるままに、身体の求めるままに
互いを求め合う。

次回『内密』
そして2人は大人になった。


-10歳と5か月
 黒い夢を見る
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