無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。
 ・上位召喚術の設定
 ・魔力の源泉の話
 ・王竜王国で発生するイベントの内容すべて
は原作では語られていない部分のため拙作のオリジナルとなります。
また、今回の話では
 ・伝説のオウガバトル
 ・GS美神 極楽大作戦
のネタが含まれます。あらかじめご了承ください。



第005話_新分野の開拓2_重力魔術を求めようとして

---信頼できる上司には素直に従う---

 

召喚魔術についてのレポートを書き上げて数か月、俺は新召喚魔術を開発し、精霊召喚の上位として神獣召喚を作り出した。依代召喚や生贄召喚も開発したが、俺にはあまり必要がなさそうだったので理論だけで留め置いた。

神獣召喚は俺が憧れていた召喚魔術にかなり近い、例えば魔力によって火の精霊を大量に召喚し、集合させるとより大きな炎の精霊になる。これを繰り返すと炎の巨大な鳥になる。まさに神獣・朱雀(すざく)を召喚したように見えた。見た目が派手でカッコイイ!消費魔力が大きいし、戦闘時の瞬発力も低いのが難点だが初見の相手に対して前衛を取らせるのに役立つ気がする。

 

また闘気については身に付くか未知数だ。訓練が順調でないと言ってもいいだろう。最近は、所謂(いわゆる)、魔力量というやつが己の身体のどこにプールされているのだろうかと考えるようになった。魔力の源泉、それが全身の細胞にあってひとつひとつから力を取り出している、ありうる話だ。大量の魔力を消費すると髪が真っ白になる現象が糸口かもしれない。

 

--

 

さて、召喚魔術の研究に満足した俺は自分の日記を読み返した。未来からきた俺がもってきた悲しい日記はもうずっと開いていない。あれを開かなくて済むように今後に必要な部分は今の日記に転記してある。俺は転記部分を読み返し、次の課題を決めた。俺は重力魔術をマスターする。

 

重力、万有引力、昔読んだラノベなら反重力物質なんてのもあった。そして重力系魔法の最強になると必ずでてくるのがブラックホールだ。中卒の俺には理屈はよくわからないが、時間平面がどうとかそういう話が出てくるお約束のやつだ。重力魔法自体はビヘイリル王国での戦闘で『王竜剣カジャクト』を持ったアレクが使用したのを真似て、俺も使ったことがある……気がする。しかし、もうあの感覚を思い出せない。死に物狂いだったからな。『王竜剣カジャクト』はバーディガーディの封印用に使っているから手に入らないし、日記の俺はどこで重力魔術を手に入れたのだろうか。日記には肝心の体得までの経緯が書いていない。弱ったな。

まて、そうだ。王竜剣カジャクトが重力操作の機能を持ったのは、王竜王カジャクトが重力魔術を使えた影響だとか。違ったかな、違ったかも、自信はない。でもそうすると、王竜王国か王竜の住みかに行けば重力魔術を習得できる可能性があるってことだ。まずは郊外の事務所に行こう、アレクにその辺りのことを聞くのは問題ない。

ただし、オルステッドには何の役に立つんだ?って聞かれたら上手く答える自信がないし、ヒトガミとの闘いに勝利することに全力でいて欲しい。俺の自己満足な活動に時間を割いてもらうのは俺の本意ではない。一人で調べたせいで多少時間がかかっても気にすることはない。王竜王国でルード傭兵団を使って情報収集したって問題もない。

暇を出されてから上手く行ってるものだけでも治癒魔術、召喚魔術、ついでに魔法陣がある。しかも、日記によれば重力魔術は100%修得できる。多少、手間がかかろうが何の問題があるか。

 

「ちょっと出かけてきます」リーリャさんに気軽に伝えて家を出る。まぁ夕食の時間までには帰ってこよう。そんな気軽さだった。

 

シャリーアの事務所を経由して王竜王国に到着した。今日もオルステッドとアルクは事務所にはいなかった。少し前にオルステッドと話したとき彼は言っていた。「フラグを回収するより、発生するイベントを探して要点をまとめて、どこに分岐点があるかを探すことは非常に手間がかかることだ」と。

俺もそう思う。俺は前世では何をやるでもなく無気力で、現世ではそれを振り払うことに邁進した。でもオルステッドに暇をだされてすぐのときに現世を振り返ってみるといろんな分岐点があったことにいまさら気づいた。そして思う、あのとき違う選択をしていたら、違う人間がそこにもしいたらと。それらを何百回のループかの中で実験し、やり直す。彼の精神力は並大抵のモノじゃない。尊敬に値すると言えよう。俺は今はのんきに生活しているが、彼は今こそが壮絶な日々なのかもしれない。彼はいつもより魔力量を温存できていない。逆境で、しかも作業は心身をすり減らすタイプのもので、そんな時期に俺を戦力から外す。適材適所なのかもしれないし、俺が気づいていない遠大な計画なのかもしれない。ただ少し寂しい気もした。

 

そんな風に考えていたからだろうか、ルード傭兵団ワイバーン支部に転移して事務所にドンと座っている男をみて眼をみはってしまった。

 

「どうした、ルーデウス・グレイラット。何を突っ立って驚いている。何かようか?」

 

「いえ、オルステッド様がワイバーンにいらしているとは存じませんでしたので少し驚いただけです。失礼しました。ここで何かヒトガミ関連の事件でも起こるのでしょうか?」

 

「まだ起こると限ったわけではない」

 

「つまり、これまでに起こったことのないことが発生する可能性があると?」

 

「しかたない。お前を巻き込むつもりはなかったんだが、興味があるなら付き合ってもらおう」

 

俺も仕事に混ぜてくれるようだ、邪魔者扱いされてないか心配していただけに少しうれしいな。

 

「ネクロマンサーを知っているか?」

 

「死霊魔術を使う魔術師という程度の知識です」

 

「あっている。魔大陸にある死者たちの迷宮の管理人で、ツメタシルクという名のネクロマンサーがいる。俺の知っているあやつは、これまでに3度、その迷宮から外に出ている。そしてあやつが外に出ると、管理者不在の迷宮が暴走し、魔大陸で発生する出来事が予測不能になる。しかも、これまでのループであやつが迷宮の外に出た理由は、いずれも霊魂を鎮め、迷宮へと案内することだったが、この地域でそうなるほどの御霊(みたま)が現れたことはない」

 

原因不明イベント。それに俺を参加させてくれる、そういうことだと理解する。

 

「そして、これまでの3回はすべて魔大陸内で事が済んでいた。ミリス大陸を抜けて王竜王国にまで足を伸ばした、その状況があまりにも不可解で慎重を期す必要がある。そういう意味で手を(こまね)いていたのだが、お前がきたのならば、お前に任せたいと思う。やってくれるか?」

 

「当然です。やらせてください」

 

いつもよりも力強く即答した。

 

「ふむ……しかし、お前にも用事があったのではないか?」

 

「重力魔術の研究をしようと足を運びましたが、そのようなミッションと比べれば取るに足らぬことです」

 

「そうか、ならば無駄足にならずに済んで良かったな。重力魔術の先駆者は、今、手が離せない状況にあるから、どうせ会いに行っても教えを請うことはできなかったであろう。5年後だ、ルーデウス・グレイラット。お前がそのときまだ重力魔術を習得したいというならば、その時ここに来るがよかろう。そのためにも一つ条件を付ける。中央噴水前の魔術師の石像は絶対に破壊されてはならん。わかったな?」

 

「理由はわかりませんが、承知しました。では早速行ってまいります」

 

俺はルード傭兵団の事務所を出た。

 

さて、ワイバーンは一人で探し物をするには広い。闇雲に歩いて見つかるなんてこともないだろう。この世界の人間は基本的にテンプレな恰好をしているからネクロマンサーが俺の知ってるような奇妙な恰好だったら町でも目立つに違いない。

まずは酒場と冒険者ギルドに行き、その辺りの話の情報収集をしよう。そう思って、以前来たときの記憶から最初に冒険者ギルド、次に酒場に行く予定を立て、歩き出した。

 

冒険者ギルドに向かう大通りを歩いていると、あと2ブロックというところの脇道から一人の女、いや少女が飛び出してきて俺はヒラリとそれを躱した。と思ったのだが少し躱しきれず肩が当たった。

 

「えっ?おかしいわね……もっとちゃんと体当たりする予定だったのに……まぁいいわ。ちょっと!危ないじゃないの!」

 

少女は黄色と緑の中間色みたいな髪の魔族で白を基調とした神官然とした服装をしていたが、魔族で神官とはなんともチガハグな格好だ。まぁこの際はそれは置いておくとして、躱しきれなかったことに驚いているのはこっちだ。彼女の体当たりには邪気が無かった。一言文句でも言ってやりたいが、任務がある。ここで揉めている時間が惜しい。こっちから謝ってしまおう。

 

「いや、すまんね。急いでるので、じゃ!」

 

俺は軽く言って、さっさと歩きだそうとした。

 

「ちょっ、ちょっと待ちなさい。すまないと思っているなら出すもの出しなさい!」

 

「しょうがないな……ほら」

 

カツアゲか。俺はポケットからアスラ銀貨1枚を差し出した。

 

「えっ、こ、こんなに……いいの?」

 

金額に驚いたのだろうか、それほど悪い子ではない。……いや因縁つけてカツアゲするやつに良いヤツなんているわけがないか。普段なら前世の記憶からこういう輩を俺は良しとしないんだが、それを曲げる事情が俺にはある。

 

「急いでいるのでもういいですか?」

 

「ええ……、あ、ありがとうございます! 助かりました! あと、その、お気をつけて!危ないと思ったら東に逃げてください!」

 

少女は手を振りながら西の方へものすごい速さで走って行った。

 

「慌ただしい子だな」

 

そう思った瞬間だった。

 

『コノニオイ・・・・コロ・・・・ス!』

 

「え?」

 

とんでもない速さで飛んできた得体のしれないモノに殺害予告され……半ば反射的に使った予見眼に映るビジョン。

 

<左肩から心臓を撃ち抜くような刺突>

 

映ったビジョンを回避すべく、右に跳びこみ一回転して立ち上がる。

 

『グモモモ・・・メタシルク・・・・』

『カエシテ・・・アノコヲカエシテ・・・』

『ワレハ、レオナルド・・・キン・・ゴン、シシテコノクニヲマモ・・・ルモノ』

『アルビレ・・・サマ・・・・ニイタダキシ・・・コノカラダマ・カノットラ・・』

『イヤダ・・・マダシニタクナイ・・・センソウハイヤダカ・・・・アサン』

『ウルサイ、マダ・・・アンテイシナイ・・・トリコミスギタカ・・・』

 

死の怨嗟……周囲の彷徨える魂を取り込む悪霊の集合体、霊団か。この世界にいるとされているゴースト。初めて見たが、実に禍々しい風体だ。数年前まで戦争のあったこの地域はこういう魂でひしめいているのかもしれない。これがネクロマンサーの仕業としても任務の内容上、説得して迷宮に帰っていただかなければならないが、このゴーストは倒してしまっても良いだろう。通りに居合わせた気の毒な歩行者は近くの建物に皆、逃げ込んだ。速やかに無詠唱でエクソシストレートを放つ。

 

『グギギギギ、ソノテイド・・』

 

説明してくれてありがとう。ッチ、あまり効果がないようだ。

ミリスに独占されている中級以上の神撃魔術、クリフに聞いておけば良かったか……あいつは戒律に厳しい。教えてくれるとも思えんな。しょうがない。最近覚えたこういうのにとっておきの魔術がある。

そう判断してからの俺の動きはスムーズだった。懐に4つに折りたたまれた紙をすばやく取り出すと開いて魔力を注ぐ。こういうときはあの台詞がないと決まらない。

 

「いでよ!神獣テンプルナイツ!」

 

別に獣ではないんだが。そう思いながら開いた紙--魔法陣から聖なる力を司る精霊を

大量に召喚し、構造化する。造形は昔みたエクスキューショナーに近い、ただ兜部分は中世風のフェンシングのお面に似た形で丸みを帯びさせた。それを4体呼び出す。

俺は召喚し終わると、巨大な悪霊の塊から一足飛びで距離をとり、召喚した精霊騎士たちに命じる。

 

「テンプルナイツよ、その悪霊を討て!」

 

四騎士は無言のまま悪霊に向かっていく。精霊を構造化した魔力体だが、鎧がこすれる音がガチャガチャと静かな通りで木霊する。騎士たちの動きはせいぜい上級剣士といったところだが、悪霊の攻撃に怯まずに突っ込んでいき、そして、剣を差し込んだ。

 

『ガアアアアア』

 

テンプルナイツの一撃は俺のエクソシストレートよりも効いている。聖なる一撃で消滅するかと思ったが、集合体の特性なのか、剣が刺さった周囲を分離して消滅を免れている。しぶといヤツだ。俺は分離した破片ゴーストにエクソシストレートを打ち込んでいく。

 

『ステルビィオ、コノクニヲタノムゾ・・・・』

『・・・ビレオサマオタスケ・・・』

『コイツハツメタシル・・・ジャナイ・・・・』

 

2度、3度とテンプルナイツの攻撃を受けたゴーストは形勢不利と悟ったのか、東へと逃げて行った。安全を確認して、俺はテンプルナイツを形成している精霊たちの構造化を解いた。テンプルナイツは造形されたときと逆回しの手順で分解され、各精霊は魔力を失ったところで消滅していく。神獣召喚、役に立ったな。などと感慨深く……いや今は任務だ。ゴーストがいたということはネクロマンサー……たしか名前はツメタシルク、も近いだろう。俺は逃げていくゴーストの追跡に入った。

 

--

 

ゴーストを追っていくと、ワイバーンの中央広場に出た。オルステッドから噴水前の石像は必ず護るように言われていたので一応、無事を確認する。しかし、武人と雑踏のこの国でザノバが喜びそうな精工な石像を見かけるとは思わなかったな。まるで生きているかのような佇まいを感じる。俺も土像には一家言(いっかげん)もっている。オルステッドが壊さないように願うのもわかる気がする。眼福である。

しかし、ゴーストは見失ってしまった。一度、傭兵団の事務所に戻り、オルステッドに報告しよう。踵を返して元来た道を戻っていく。

 

「久しぶりにお腹いっぱいになったぁぁ……あっ」

 

名も知らぬ酒場の前を通ると、先程のカツアゲ少女が食後なのだろうか満足気な顔で出てきた。俺と目が合う。

 

「無事だったようね。良かったわ。しかもこちらに来たってことは逃げずに撃退したのかしら?」

 

「ああなるって知っていたんだったら、もっとちゃんと教えて欲しかったな。それとも君の差し金かい?」

 

俺はこの子に悪意を感じていない。掛けられた言葉に無警戒に応えて、一瞬目を離したあと振り向いたが彼女は居なくなっていた。

 

「え?」

 

狐にでも摘ままれた気がした。起こったことが信じられず一度、自分の頬を叩いたが夢ではなかった。

 

事務所についた俺はオルステッドに仔細を報告した。

 

「神官風の服に黄緑色の髪……そいつはツメタシルク・アンデッディアだな」

 

報告が終わった後に、ポツリとオルステッドが言い放った。

 

「え、うそ。冗談きついですよ。社長」

 

「嘘ではない。姿形(すがたかたち)をちゃんと教えておけば良かったな」

 

そりゃないですよ。急に徒労感が身体を襲ってきた。探している人物ともう会っているなんて、しかも2回も。つら……すんごいツラい。涙でそう。

 

「あやつは自分が西に走って行って、危なくなったら東に逃げろといったんだな?」

 

「はい。そう言っておりました」

 

「なら、目的地は王竜山脈の西の密林地帯だろう。あそこには死者を操る笛がある。おそらくゴーストはあやつが操作しているのではなく、あやつ自身がゴーストに追われていると考えると辻褄が合う」

 

今日は帰れそうもない。これから密林地帯行きか。リーリャさんにすぐ帰るみたいなこと言っちゃったけどどうしよう。どうしようもない、社長には自分からこの仕事をやらせてくれと頼んだのだ。家族には申し訳ないが、一日無断外泊しよう。

 

「判りました。必ずやツメタシルクを保護してきます」

 

「あぁもう遅いが家族は大丈夫なのか?」

 

「ご心配は無用です。操るための笛がなければ彼女はゴーストにやられてしまうかもしれませんから、助太刀が必要でしょう」

 

「あぁ……あやつはそんなに弱くはないがな」

 

……じゃぁ、家族が心配するかもしれないので帰りますとか言えないじゃないですか。俺は阿呆みたいに数度、口をパクパクさせて、最後はヤケというか意地で言い切った。

 

「行ってきます」

 

「無理はするなよ」

 

宣言する俺。社長の優しい言葉がナイフのように胸に刺さった。

 




メモ:俺は、5年後に重力魔術を覚えた。

次回予告
ルーデウスは森を走る。
笛を手に入れる為に走る。
可哀想な霊を救わんとするツメタシルクの為に走る。
走らなければならない。
もし笛を手に入れる前に追いつかれてしまったら、彼女は霊たちに殺される。

次回『新分野の開拓3_死霊魔術師との出会い』
私は信頼されている。信頼に報いなければならぬ。走れ、ルーデウス!

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