無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第050話_新婚旅行2

---一度しかない人生だ。自分の人生がなんたるかを定義せよ---

 

とある町の商家にてその会話はあった。

 

「博士、今回の部下の失態、申し訳なく思います」

 

「いえいえ勇者殿、気にすることはありません。あなたのお弟子さん達は非常に優秀であると私は存じております。今回は相手が上手だっただけのことでしょう」

 

「ですが今回派遣したチームは追跡と探索のスペシャリスト達です。戦闘能力においても聖級以上であり、闘気を扱う技術も申し分ありませんでした。彼らの追跡を察知し、痕跡を消し、行方を(くら)ますとは……。もう一度『ダウジング』をして頂かなければ、こちらでは足取りさえ掴めぬ状況です」

 

「再度、探査針を打ち込むことは可能ですがその後が問題ですよ。勇者殿」

 

「と、言いますと?」

 

「また同じことの繰り返しになるだけです」

 

「ですが、このまま手を拱いているわけにもいきません。次は上手く行くかもしれません」

 

「確かにいつかは上手く行くやもしれません。ですが、追い掛け回された後に彼が我々に協力してくださるでしょうか? 既に今回の一件で敵対勢力と見なしている可能性も考えねばなりません」

 

「そんな! しかし我々の大義を知れば敵対など」

 

「ご納得頂けませんか、勇者殿。仕方ないですね。あまり隠し立てするつもりも無かったのでお伝えしましょう。貴方が求めずとも、もう既に探査針は打ってあるのです。しかし結果が示す彼の居場所は魔大陸と出ました。この意味がお分かりですか?」

 

「この数日で彼はアスラ王国から魔大陸へ移動したと? 人間では、いいえ、超越者ですらそれは叶いません。何かが間違っているのでは?」

 

「我々が保有する探査能力者、全員が同じ結果を示しています。間違いではありません。この結果から当機関は彼が既に超越者を逸脱し、不明存在(アンノウン)となったと考えております」

 

「……今後は排除するために動くと」

 

「そうなります。ですが彼がどのように動くかによっては傍観することもあり得ます。彼を無闇に刺激せずとも寿命が尽きるまでに問題を起こさなければ良いのですから」

 

「それで最近、仕事場を失った魔術師ギルドの……」

 

話はまだ続いていく……。

 

--

 

新婚旅行4日目、当初の予定ではミグルド族の村にきた日に結婚報告、次の日に香辛料の取引をして村を出立するつもりだったが再会を懐かしむロイン一家に水を差すことなく行動したため、結果的に新婚旅行5日目の俺は手持無沙汰だった。ロキシーは結婚するなら伝えておきたいことがあるとロカリーに言われて引き続き何事かやっている。

魔大陸でやりたいことは幾つかある。最初に思い付くのが転移災害に巻き込まれた人の捜索だ。だが既に発生から4か月以上が経ち、やらねばならない義理もない。とは言うものの何かのついでに見つかったら助けてやろうとは思っている。今回、このミグルド族の村にフィットア領の人間は居なかったし、ここに転移してきてどこかへ行った人間も居なかった。

次に思いつくのがルイジェルドを探すことだ。ロキシーを連れたまま出会うというのも中々に骨が折れる出会い方な気がするが、もし出会うことができたら呪いの話、集落の位置、集落で蔓延するかもしれない疫病の話はしておいた方が良いだろう。彼は基本的に町に入れないから探すなら魔大陸のフィールドとなる。

一方でだいたいどこかの町に居るのがキシリカだ。彼女に出会ったら上位魔眼についてどんなものがあるかを聞いておきたい。千里眼より強力な魔眼があればルイジェルドを見つけるのも簡単になるからな。町を捜索する場合、フィットア領の人間が生き残っている可能性がある。その対応もできるだろう。

あと2つは急ぐことでもないが暇でやることがないならやっても良いというレベルのモノだ。1つは、自動人形を作成するための素材の内、魔大陸にしかないものの収集だ。

といってもそもそもザノバがいなければ研究は頓挫する。リーリャとアイシャはブエナ村にいるし、ロキシーと一緒に行動している俺がシーローンの城に行く蓋然性はない。そして俺が事件を起こさねば、ザノバが放免されて大学に来ることもない。そうなったら自動人形の研究はロキシーに頼むことになるだろう。もう1つは、俺が前世で知ることがなかった何かを探しに行くという曖昧な話だ。だが少しだけ現実味を帯びてきてもいる。ロキシーがここに来る途中で言っていた『試練の山』の攻略だ。話に出てくる苔を食べたからといって強くなる理由も良く分からないし、人族には害があるかもしれない。もし必要ならいずれかの魔王に会いに行き、話の真偽を確かめてから行く必要がある。

やりたいことの中で一番まともなのがキシリカの捜索のためにリカリスの町に行くという案だろう。リカリスの町まで歩いて3日、往復で6日の距離。ガルーダで飛ばせば今日中に行って帰って来ることもできる。しかし、何かが起きて帰れなくなったらロキシーをほったらかしにすることになる。新婚旅行で新婦を新婦の実家にほったらかしはさすがに不味い。

結局、俺はロイン宅の近くの空き地で水神流の奥義の鍛錬と七星流の鍛錬をして汗を流した。

 

--

 

「ルーデウス……(くん)、少し良いかな」

 

「はい、お義父さん」

 

「お義父さんか、照れ臭いな。……いや、そういうことじゃなかった。そのだな。無理を承知でのお願いなのだが、孫ができたら顔見せにきてはくれないか」

 

「当然です」

 

ロインの表情は少し暗い。だからという訳でもないが、俺は迷わずに返事をした。

 

「随分と安請け合いするのだね。住んでいる所からここまで遠いのだろう? 子供の成長のことも考えればそう簡単には来れはしないと思うんだが」

 

「普通に馬車を使って来たら片道で3年かかりますが。でも大丈夫です。僕もロキシーも魔術師で色々な移動手段を持っていますから。大っぴらには出来ない方法を使えば数日で来ることが可能ですので問題ないですし、ちょくちょく香辛料を買い付けに来ます。これからはもっと気軽に会えますよ」

 

俺の説明にロインの表情が晴れた。

 

「やはりそうか。ロキシーの話を聞いていてどう考えても旅をしている期間が短いと思ったんだ。これで辻褄もあったよ。孫のこと楽しみにしている」

 

「もし都合が付いたら、私の両親とお会いになりますか? 魔神語も念話もできないので通訳に僕かロキシーが必要になりますけど」

 

「ご実家が大変な状況にあるとロキシーからは聞いているから、そんなに急ぐことはない。それこそ孫が出来た時に頼めるかな?」

 

「そうですか。ご配慮ありがとうございます。あぁそれと、移動手段についてはあまり明確にお教えすることができません。知らない方が安全でしょうから」

 

「承知しているよ」

 

--

 

結局、ロイン一家と昼食を共にして、それから別れることになった。

 

「お父さん、お母さん、また来ます」

 

「あぁしっかりやるんだぞ」

 

「もう少しこまめに帰ってきて欲しいのだけど……」

 

「うん……」

 

ロカリーの希望にロキシーは無理だと態度で示した。

 

「ロカリー、その話ならルーデウス君にも伝えてある。心配しなくても婿殿(かれ)は約束をまた守ってくれるよ」

 

「お任せください。お義母さん」

 

「はい。娘のことよろしくお願いします」

 

俺は大きく頷き、ロキシーがロインとロカリーに別れのハグをしてミグルド族の村を離れた。多分、半年毎くらいには顔を見せられるだろう。

 

--

 

それから俺たちはまた試練の山に戻った。相変わらずロキシーは試練の山に足を踏み入れることに抵抗があるようだが、実家にも近くて使い勝手が良いので慣れてもらった方が良いだろう。そんな風に思っているとロキシーから質問を受けた。

 

「もうブエナ村に帰るんですか?」

 

「そうですね、ロキシーのお義父さん達にもご報告が済みましたし、少し早いですけど」

 

「……」

 

彼女の押し黙った顔をじっと見つめていると、少し心がソワソワした。ロキシーの握っていた手の力が強くなったわけではない。ただその眠たげな瞳と自分の瞳を合わせていると、なぜか彼女の手の温もりが大きくなった気がしたのだ。彼女は何を想っているのか。俺はこれから彼女と何をしていきたいのか。そんな逡巡のせいで口から出たのは。

 

「でも……」

 

「でも?」

 

「もしロキシーが宜しければ少し相談したいことがあります」

 

転移魔法陣に乗っていつものベッドまで来ると、俺はいつもより多めに灯の精霊を召喚し、並んで座ろうとするロキシーの手を引いて、ベッドの端で向かい合わせになるように自分の膝の上にロキシーを載せた。まだ彼女のつむじを眺めることはできない。彼女の顔を見上げる。

 

「相談があるのでは……?」

 

いつまでも黙っていたのでロキシーが問いかけた。俺にはまだ迷いがある。

 

「大事なお話なので目を見て話したいのです。ねぇ、ロキシー。もう気付いていると思いますけど……」

 

結局、俺は言い出しづらくてそこで言葉が止まってしまった。もう彼女はあのことに薄々感づいている。でも俺がはっきり言ってしまって良いのだろうか。彼女の身が危険になるのではないか。

 

「ルディ、あなたと私はもう夫婦になったんです。お互いの両親からも祝福された夫婦です。話して楽になることは全部話してください。私に甘えてください。私はそれを望んでいます」

 

こんなことをロキシーに言わせる時点で俺はもう十分甘えている。それでもロキシーはもっと甘えて良いと言っている。甘えてしまおう。もう暗闇には戻りたくない。俺は覚悟を示すように頷いた。

 

「実のところ僕は前世の記憶を持っています。前世と言っても未来の記憶です。そこで僕はロキシーとシルフィとエリス、3人の妻と仲良く暮らしました。3人をそれぞれに愛していました。その記憶が僕の妄想なのか、ただの夢なのか、実際起こり得る未来の1つなのかは分かりません。でもいくつかのことは同じことが起きました」

 

「同じこと……違うこともあるのですね」

 

「はい、まずはロキシーに関することからお話します。僕の前世の記憶では僕はロキシーと3歳のときに出会います。現世と同じです。そこから2年間かけて水聖級魔術師になりました。だからロキシーとフィールドワークに出掛けたり、ダンジョン探索に行くことはありませんでした。それで5歳の誕生日の時に杖を頂いて卒業祝いにミグルド族のお守りを頂きました。

その後、ロキシーはシーローンに行き、僕は7歳になるとエリスの家庭教師になりました。僕の知っているロキシーのその後はシーローンのダンジョンを一人で踏破したことで臨時の宮廷魔術師になり、パックス王子に魔術を教えるようになったという話です。ですがそこでロキシーは後悔します。ロキシー自身の分析によれば、ロキシーが僕とパックスを比べるようになってしまい、その気配を察したパックスも態度が悪くなり、その態度が気に食わなかったロキシーは魔力災害が起こると僕たち家族の捜索をするためにシーローンを出奔します。

捨てられたと感じたパックスは、世を悲観するようになり、ある時、悪いヤツに騙されて国を裏切り、ザノバ王子以外の王族を殺害して謀叛を起こします。

そして彼を説得しに行ったロキシーは彼に指摘を受けます。パックスの努力を認めず、いつも上の空で、中級魔術を使えるようになった彼を褒めることもしなかった。あまつさえ呆れているように見えた。そんな悪い教師であったと」

 

「そう……だからダンジョンで弟子に対する愛の話をしたのですね」

 

「幻滅しましたか?」

 

俺は恐る恐る尋ねた。

 

「いえ、確かにルディの後に何の気構えも無しに弟子や生徒を取ると、その子の努力を正当に評価できなかった気がします。私はダンジョンで愛の話をされるまで自分の教え方に自信がありました。本当は最初の弟子であるルディが規格外だっただけというのにです。

それにルディがパックス王子やザノバ王子を知り得たとしても私がパックス王子の教師になるかどうかまでを調べ尽くすのは非常に難しいでしょうね。とするとルディの言う前世というのはあり得たかもしれない未来としては相当に有力だった気がします。

ただ、どうしてもパックス王子が謀反を起こすに至るというのは信じることが難しいです」

 

それで良い。無思慮に信じられることこそ俺が不安だったことだ。俺が言うことに疑問を持ち、自分で考えてくれる。それはロキシーが俺と真の意味で人生を共有してくれることに他ならない。俺はだからこそさらに一歩を踏み出した。

 

「前世のロキシーが望んだように未来が変化するかは判りません。結局、ロキシーが教師をせずとも良い教師に巡り合えなかったと、自暴自棄になったパックスが謀叛を起こすかもしれません。ですからロキシーの人生に対する僕が行った現世での干渉は非常に限定的でした。

しかし魔力災害については違います。前世の記憶では魔力災害を主たる要因として、父さま、エリスの両親と祖父、シルフィの両親は死にます。僕はそれを回避するために動きました。これによって大きく未来は変わったように思います。

この先に起こることは僕の知らないことの方が多いでしょう。何十年もかかったフィットア領の復興は何年か後には実現するか、その兆しを得るでしょうし、先日のアルスで北神流の剣士に追跡された件も僕の思い当たらない話でした」

 

「そうですか。ならばルディは占命術と言われる占いができるわけではないのですね」

 

俺は頷いた。そして続ける。

 

「僕はこれまでの事実と合致することが多い夢について記憶しているに過ぎません。そして今後については記憶している内容も役に立たなくなるでしょう。ですが僕よりも確度の高い未来を知っている者が僕以外に少なくとも2人います」

 

「なぜそう言えるのですか? 先程の説明ではそれらもルディが見た夢の可能性があるんですよね?」

 

「そうですね。語弊がある言い方でした。でもたった1つの未来の可能性を知るだけでも僕のように色々なことができるのです。僕の知るその2人はもっと多くの未来を知っていました。ですから、その可能性がある以上、気を付けなければいけません」

 

「何者ですか?」

 

「1人は存在αで、もう1人は龍神オルステッドです」

 

「そんざいあるふぁ?少し変わった名前ですね」

 

「いえ本当の名前ではありません。龍族にその名を告げると関係者の疑いありとして殺されるため、適当に名付けました。ロキシーはそういうところが抜けているので気を付けなければいけません」

 

ロキシーの表情はそれまでの好奇心を秘めつつも眠た気な表情からジト目が強い顔に変化した。俺がロキシーを天然さんのように扱うことに不満があるようだ。だが彼女にも思うところがあるらしく、口を尖らせることはなかった。

 

「まぁいいです。それで彼らはどれくらいの確度で未来を知っているのですか?」

 

「質問に答える前に先に言っておくと、存在αと龍神オルステッドは対立しています。そして未来は大まかに決まっていながら無限の可能性を持っています。その大まかな未来に対して存在αは強力な未来視を使って自分に有利な未来へ進むように世界を動かしています。一方、オルステッドは90年前からこの先110年の合わせて200年間を何度も繰り返すことで様々な事象を把握し、存在αが不利になる未来へ進むように妨害をしています。

ですから質問に答えようとすれば、存在αはほぼ全ての未来事象を掴んでいて、オルステッドは自分の体験した未来事象しか知りません。でも、存在αが圧倒的に有利かというとそうでも無くて、彼は未来に対する直接的な選択権を持っていません。せいぜい人を唆すくらいです。でも人の心は弱いですからすぐに彼に唆されてしまいます。一方、オルステッドは七大列強2位の力を持ち、選択権や決定権を持っています」

 

「大まかな未来、無限の可能性、未来を選択する権利。とても難しいですね。関わらずにはいられないのですか?」

 

俺は目を閉じて黙考した。その間、ロキシーは黙っていた。どんな表情をしていたかは判らない。

そして俺は決意を固めて目を開いた。変らず目の前にはロキシーがいる。

 

「家族を守るためならその判断は一見正しいように見えますが、僕はそうは思いません。それは運命を拒絶するだけで最後には後悔を残します」

 

「未来が判らない以上、後悔は常に付き纏いますよ」

 

「そうかもしれません。ですが、運命を拒絶する人生を僕はもう選びません。それがルーデウス・グレイラットの人生だからです」

 

「では、どうするのですか?」

 

「運命を受け入れ、そして新たな運命を切り開きます。僕は前世で龍神に世話になりました。現世の彼は僕を仲間と思っていないでしょうが、僕からすれば彼は苦楽を共にした仲間です。そして僕が魔力災害で未来を大きく変えてしまったために多くの未来が彼の預かり知らぬ事象へと変わったと思います。つまり、彼に迷惑をかけたことになる。僕は僕の責任をもって魔力災害の結果を組み替えたのですから、その先にある新しい事象の当事者なのです。だから関わらずにはいられません」

 

「そうですか、打ち明けてくれて嬉しいですよ。ルディ」

 

優しく微笑んだロキシーが愛おしくて、軽めのキスをした。

 

「まだいくつも話したいことはありますがお腹も空きましたし、ミリシオンへ甘い物でも食べにいきませんか?」

 

「はいっ! 喜んで♪」

 

そう言って今度は膝の上のロキシーがぎゅっと抱きしめてくれた。なんだこの可愛い生物は!バイト店員みたいな言い方に思わず笑ってしまった。どこが面白かったのか説明しなかったのでロキシーは不思議な表情をしていたがまぁいいだろう。箸が転がっても楽しい年頃だと思ってくれるかもしれない。その通りなんだ。俺はロキシーと一緒にいるだけでこんなに安心で嬉しくて楽しいのだから。

 

--

 

俺とロキシーは転移ネットワークを使ってミリシオンに来ると、商業区の中にあるオシャレなカフェに入って食事をとった。ロキシーは俺の分も合わせて2人分のデザート、甘いゼリーを食べてご満悦だ。そんな彼女を連れて服屋や花屋を周る。なぜかって、食事だけして戻るのもなんだか味気ない気がしたし、家族への土産物が必要な気もしたからだ。

 

「ルディ、その苗木買うんですか?」

 

「ええ。母さまの庭が無くなってしまいましたから」

 

アラツの木、ミリシオンにこの前寄ったときのことを思い出し、購入を決めた。今回はロキシーがいるので祖母たちには会わないほうが良いだろう。魔族のロキシーを悪く言われたくないし、妹達のために家族で引っ越せと言われたら面倒だ。

 

「あら、お義母さまへのプレゼントなら私も1つ買っていきましょう」

 

そういってロキシーは少し悩んでから、ミストルテというこの地方に分布する低木の苗木を買った。少し気候が違うので育つかは判らないが、ゼニスはそういうのも含めて喜ぶだろう。寒さに弱かったら俺がガラス張りの植物園を拵えても良い。少々手間だが、ロキシーからゼニスへのプレゼントが簡単に枯れてしまったら悲しいからな。同じ感じでパウロにウィスキーのボトルを、リーリャに調理器具、それにロキシーが裁縫を習うと言うので反物と皮革を幾つか購入した。きっと、皆の服やベルト、カバンとして生まれ変わるだろう。

また、ミリシオンで誰かに追われるようなことは無くひとまずのところほっとした。どうやらアルスで遭遇した追手の力はこの街までは及ばないらしい。

買い物を終えた俺達はルード商店経由で転移ネットワークに戻った。

 

--

 

俺はまずロキシーにこの5年間で知り得るはずがない魔術知識について概要を説明した。それから俺が書いた治癒・解毒・結界・重力の4つの教本、上級の召喚・転移に関する理論のメモ書き、魔法陣の下書き、魔道具イーサの説明書、魔力回復ポーションのレシピ、魔術の構成手順に関するレポート、魔力量増大の訓練法に関するレポートを渡す。俺の話す内容と渡された資料の題目にざっと目を通したロキシーは不満顔だった。

 

「つまり、ルディは既に知っている知識について確認するためだけに私を家庭教師として呼びつけた。そういうことですか?」

 

呼びつけたのはゼニスであって俺じゃあない。まぁ会いたかったから止めたりはしなかった。同罪と言われても仕方がないだろう。だから別の説明が必要だ。これは嘘や誤魔化しではない真実の伝え方の問題だ。

 

「昨日もお話しましたが、僕が覚えている夢のような前世の記憶が現世でも同じかどうかは確認する必要がありました」

 

「そうでしょうか。ここにある魔術については私が知らない魔術ばかりです。つまり、これらについては私を家庭教師として呼びつけずに確認できたということですよね? なら私が教えた内容も同じで、呼びつけずに確認できたのではないですか?」

 

むぅ鋭い。さすが先生。

 

「……はい、い、いえ。そんなことはありません。基本的な理論についてロキシーに確認ができたからこそ、それらの魔術を自分だけで確認できたのです。それに以前の記憶で教え方に苦労した部分についてはロキシーに確認することで弟子や妹に効率よく教えることができましたし、ロキシーと会わないという事象改変が、その後の未来に対してどれだけ大きく作用するのか分からなかったため、仕方なかったという面もあります。最後に一番大事なことですが、僕は現世でもやっぱりロキシーの弟子で居たかったのです」

 

「本当ですか?」

 

「本当です」

 

「そう……信じていますからね」

 

俺の説明に納得したのか、持っている資料を読むのを我慢するのが限界にきたのか、そういってロキシーからの追求は幕を下ろした。そしてロキシーが資料に目を通している内に、俺は人間語でヒトガミのことについて書いてある本をピックアップしていく。これらについては存在αに書き直したものを提供しなければならない。人形精霊のテレサでは単純コピーが限度だ。仕方がないので魔力量を多めに注いだダイコクを召喚して、本の複製をしながら『ヒトガミ』の単語の置換処理をするように指示する。

昼にロキシーに伝えた通り、新婚旅行の区切りとしてはもうブエナ村に帰るだけだ。だが、ロキシーとの新婚生活でなるべく秘密を作らないようにしようとした結果、自宅デートみたいな雰囲気になってしまった。どうにも帰るタイミングを失った気がする。

とにかくロキシーの読書に区切りが付いたら、帰宅の段取りを話し合おう。

 

手持ち無沙汰になった俺はロキシーの区切りがつくまで、彼女を見ながら新作のロキシー人形を作り始めた。本人を見ながら作れるなら、これまでよりもリアルなものを目指そう。今のロキシーを写すように。

 

 




入手アイテム:
 読書する新妻の像


次回予告
10歳のワタシへ。
あなたは今、何を感じていますか?
何に悩み、どんな不安があって
何を望み、どれほどの自信に裏打ちされて
どんな人達に囲まれて生きてますか?

次回『シルフィ・ライクト・ヒム I』
フレー、フレー!ワタシ。
ガンバレー、ガンバレー!ワタシ。
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