無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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シルフィの過去回です。
今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。



第051話_シルフィ・ライクト・ヒム I

---衝撃のあの日までをトレスする---

 

早朝、パウロさんと剣術の修行をする。その後にルディと朝ごはんを食べて、それから彼と読み書き、算術、歴史、この世界の法則についての勉強。お昼をご馳走になった後は丘の上まで出かけて魔術の鍛錬。私を不条理に害そうとする者たちは私の前から消えて、楽しい毎日が続いた。

彼が旅に出る少し前に、ゼニスさんとリーリャさんが出産間近ということで私の生活は変化を余儀なくされた。お母さんと一緒にルディの家の家事を手伝うことになったのだ。剣術の修行の後に掃除と洗濯をルディと2人でするようになって、お母さんが作る昼食の手伝いもした。その分、机に向かう時間が減ってしまったけれども、私が作った豆のスープをルディがおいしいって笑顔で言ってくれるのでやりがいがあった。

そうしてルディの妹2人が産まれた。産婆さんも無しにルディがテキパキとパウロさんとお母さんと私に指示を出していった。いや、指示を出したのは身重のリーリャさんだったか。でもルディが陣頭指揮を執って彼女に確認している様だった。ノルンちゃんは産道から出てくる向きが逆だったらしく、リーリャさんも慌てる様子を見せたがルディは落ち着いていた。血まみれで喜ぶ彼を見て、その時は産まれてくるのって大変だなって思うくらいだった。

7歳の誕生日が来る頃、ルディが何の用事なのか知らないけど村を出て旅立って行った。彼が居なくなって、またイジメが始まるのではと少し嫌な予感を覚えていたが、良く考えてみるとイジメっ子達は彼が旅に出たと気づいていないのだ。だから、すぐにはそういうことにはならなかった。

一方で彼の無事を心配するという気持ちは湧いてこなかった。だって彼は私の魔術の先生で、剣術はこの村で一番強いパウロさんを倒す程だ。ルディを凌駕する危険な存在がこの村の近くにあるならとっくに村は襲撃を受けている。お父さん達は毎日、日替わりで見張りを立てているけど手に余るようなことにはなっていない。つまりは、この辺りでルディを脅かす存在は居ないってことだ。それに彼は直ぐ帰って来ると約束もしてくれた。何も心配はいらない。それでも彼が居ない毎日は寂しく感じる。ただ彼が私のためにと残していった仕事があったので寂しさに溺れることはなかった。

彼が居なくなって数日してから聞いた話は衝撃的だった。彼は私のことを男の子だと思っているらしい。たしかに彼女がどうとか言われたことがある。でもこの村でお母さんのご飯の手伝いをする男の子っているのかな。やるとしても薪割や水汲み、火おこしくらい? 何だか良く分からないけどルディが勘違いしているのかも。

不安がありながらも私はまだ彼のことが好きだ。彼が私のためにしてくれたことを考えれば少しの勘違いくらいなんのこともない。お母さんもゼニスさんもリーリャさんもパウロさんだって私のために色々なことを手伝ってくれたし、教えてくれたし、頑張っただけ皆が期待してくれた。

でもお父さんだけは少し違った。女の子らしくするようになってから、小言というかあれはダメこれはダメと(うるさ)く言うようになった。お父さんがどういうつもりかはわかんなかった。ルディのことは良い子だねっていってたのに。お母さんもどうしてお父さんがそう言うのかは判らないらしく、心配していたけど結局要領を得なかったそうだ。「男親はね、娘がかわいいと独り占めしたくなるらしいからね」ってお母さんは結論付けていたけど、私はしっくり来なかった。

 

--

 

しばらくすると、また村の子供に揶揄(からか)われた。一瞬、イジメられた記憶から足が震えたけど、私には魔術もあるし、剣術もある。大丈夫。

前イジメてくれた子供の親分、クルスラ君はもう居ない。この村でも10歳を過ぎれば男の子は父親の農作業を手伝ったり、将来が有望で余裕もあればロアの平民向けの学校に通うことになる。見込みがなかったり、家に余裕がなければ妹や弟たちの世話をしたりする。あれから2年。私は10歳未満でお手伝いするようになったけど、そういった手伝いが忙しければ徒党を組んで悪さする時間はなくなる。親からも子供だからと大目に見てもらえなくなる。だからクルスラ君も今は汗水垂らしてお手伝い中かな。そんな風に冷静に考えていた。

揶揄ってきた男の子に意識を戻す。前は下っ端だった私と同い年くらいの子だ。その子が見た目も少し大きくなって今は親分風を吹かせている。ただ足取りは隙だらけだ。そんな子の号令の元、もっとずっと小さい子たちが私の髪の毛の色を囃し立て、魔族や悪魔と罵った。私がギロリと号令をした子を睨み、ひるんだ彼は反抗的だと喚いて泥玉を投げてきた。私がその泥玉を軽く躱すと、続いて下っ端たちも無邪気に泥玉を投げ始めた。無邪気な悪意、私はそれを受け入れなかった。無詠唱で威力の弱い『突風(ブラスト)』を向けると泥玉の飛距離は落ち、私の手前で地面にぶつかりグシャっとなる。その後は面倒なので歩く先に『土壁(アースウォール)』を出して無視した。追いかけられることはなかった。近づいてくる勇気もなくて遠くから喚くだけなのかな。拍子抜けしたが構っている暇もないから放っておこう。私はこうして過去の地獄を克服することに成功した。彼が魔術を教えて旅に出たのは、私に1人で地獄を克服させるためだろうか。まさかね。

 

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寂しさは募ったけれども意外に早く3か月が経過して、ルディは約束通り帰って来た。帰って来たという知らせを聞いた私は白のワンピースに着替えて彼の部屋へ。抱き着いたことも服のことも髪を伸ばしたことも彼はちゃんと受け入れてくれた。本当に男の子扱いされていたのか?それはやっぱりお母さんたちの勘違いだったのではないか。そうした事が頭を(よぎ)ったけれど、そんなことよりもルディが旅で疲れている事の方が心配になった。そんなに嫌なら止めてしまえば良いのに。なぜ彼は旅をしたのだろうか。そう考えていると彼の熱い抱擁は終わってしまった。頭が熱っぽくて考えていたことが背に羽を付けて飛んで行った。そう、名前のことも伝えなくちゃ。

 

「あのね」

 

「うん」

 

「シルフィってよんで」

 

「いいけど、お母さんと一緒になるんじゃ?」

 

「お母さんはフィアーナってよばれてる」

 

「わかったよ、シルフィ」

 

ルディから名前を呼ばれた瞬間、嬉しさが隠しきれなくなってしまう。それが恥ずかしくて、誤魔化したくて、ロアの女の子の話を聞いてみる。

 

「浮気、しなかった? ロアには女の子がいたんでしょう?」

 

「お嬢様が一人も友達がいないっていうから友達になりはしたけど……」

 

「やっぱり」

 

頭が少し冷える。でもそれだってルディらしいかな。私はどうすれば良いかわからなくて部屋を出た。彼は追っては来なかった。やっぱり浮気なんだ。

家に帰る途中、歩きながら少し考える。浮気を許して良いのかな。私は彼が好き、彼も私が好き。でも彼は私以外の女の子も好きみたい。

理想はウチのお父さんとお母さんのように、私が彼だけを好きで彼は私だけが好き、それが一番シンプル。幸せになれる自信がある。でもパウロさんとゼニスさんとリーリャさんの関係がダメかというとダメだとは思わない。パウロさんの立場がルディでゼニスさんの立場が私、リーリャさんの立場が例えばロアの娘のエリスさん。想像してみる。うん、大丈夫。アリ。エリスさんと仲良くできるかは不安だけど、大丈夫だ。

家に帰ってきて自分の部屋でベッドで寝転んでまた考える。でもそうなるにはどういうことになるんだろう。

私がルディと結婚して毎日幸せにしていたある日。ルディはエリスさんが好きでもない貴族と結婚させられると知る。結局、彼はエリスさんを望まない結婚から救いだす。とかなら……そう、好きなのは私だけどエリスさんにも情けをかけた。そういう流れならルディらしいもんね。その他の流れも考えることができたけど、結論は何か良くない方向にばかり進む気がした。難しいことはお母さんに相談しよう。

お母さんに相談すると、そもそもシルフィはルディに好きって伝えたの?と聞かれてしまった。私は女の子の格好で初めてルディと対面しただけで満足してしまった。だからルディのことが好きなんて伝えてもいない。そう説明すると、それで浮気になるのかしら?と指摘を受けた。ならない……ルディは浮気なんてしてない。でもどうやって伝えれば良いのかわかんないと言うと、「そうねぇ」とお母さんは呟いてから「デートした後に好きって伝えれば良いと思うわ」って教えてくれた。

 

--

 

次の日の朝の剣術訓練に赴き、準備運動をした後にパウロさんと素振りや型の稽古をした。型にも慣れてきたのでそろそろ新しいことを教えてくれる気配がしたのだけど、パウロさんはルディを呼びつけて、彼流の稽古の仕方を見せてみろと言った。話を聞いているとエリスさんにはもう同じように稽古を付けたみたい。私だって頑張って稽古しているところをルディに見てもらおう。私の気持ちが奮い立って

 

「お願いします!」

 

大きな声で返事が出来た。その後のルディの教え方は、魔術の訓練のような手取り足取りな形式ではなかった。むしろ突き放すような、自分で気付いてみろといった感じのやり方だった。

 

「わかった?」

 

「たぶん。でも……対処が……わかんない」

 

「それは父さまと練習してください。いろいろ試すといいでしょう」

 

答えは結局判らなかった。何が悪くてどうしたら良くなるのかというポイントを教えて欲しかったし、そうでないなら練習の仕方とか意味を教えて欲しかった。そして結局はパウロさんに丸投げして、ルディは私に教えてくれないのが悲しかった。エリスさんとかいう見たこともないお嬢様のぼやけた顔が浮かんできて少し嫌な気持ちになった。

そんな気持ちを抱えたまま昼食をお母さんと私とグレイラット家で囲む。私はルディの隣に座らされてもテンションは下がったままだ。ルディが私の作った野菜スープを褒めたけど、なんか取ってつけた感じに聞こえて素直に喜べなかった。

食事の後に食器洗いを手伝っているとリーリャさんがまたルディが旅に出ると教えてくれた。そうかまた旅に出るから剣術の続きはパウロさんに丸投げしたのかもしれない。昨日からルディのことで落ち込んだり、それが私の勘違いなんだって思えたり、心が忙しい気がする。こんな気持ちになるのも、エリスさんの存在と私が好きって伝えてないからだって分かってる。それにはデートが必要だってことも。

どうやってデートに誘おうか、そういう気持ちを携えたまま花壇に向った。そこには花の生育状況を確認しているルディがいた。

 

「ルディ、いつまでいる? また旅に出るってきいたよ」

 

「そうだなぁ。あと4日くらいかな」

 

4日後には旅に出るの!? 色々準備するにしても短すぎる……。

 

「そうなんだ。つぎは長い?」

 

「少し長くなるよ。6か月くらいかな。何もなければね」

 

顔が曇る。デートのことが頭から一瞬吹っ飛んで、帰って来たときに随分と疲れていたことを思い出す。彼は次に帰って来るときはもっと疲れて帰って来るかもしれない。

 

「あんまりあぶないことしちゃやだよ」

 

「それより魔術の鍛錬はできてる?」

 

話を逸らされた。私が物を知るようになっただけかもしれないけど、ルディは内緒事が多い。旅の内容については全然分からないし、聞いてはいけない気がして私からどんな旅をしているのかを聞いたこともない。私は彼を信用している。彼が私に知らせなくて良いと判断したのならそれが正しいって。だからあまり気にしなくても良い。彼はきっと旅の中で少し危ないこともするのかもしれない。でもちょっとくらいの危険は彼の力で何とかしてくれると思う。

私は逸らされた話を追求せずに重力魔術の途中経過を披露した。ルディは私が勘違いしている点を丁寧に教えてくれた。丁度良いから、私は次に修行成果を披露するときに上手くできたらデートをしてくれるように約束を取り付けた。そして彼は5日滞在してからまた旅に出かけてしまった。

 

--

 

またルディが居ない生活に戻った。ルディが帰って来るまでにした事は主に、早朝のパウロさんとの剣術訓練、午前の普段通りの家事手伝い、昼からの魔術の鍛錬の3つだ。いつもと変わらないように見えるけど、やっていることは大きく変わった。

早朝のパウロさんとの剣術訓練では、日々の日課の後にルディと打ち合って露呈した私の弱点克服が始まった。ただ、ルディとの打ち込みを経てパウロさんの指導方法も変化したみたい。

 

「なぁシルフィ、ルディと打ち合って何が判ったか言ってみろよ」

 

「私が思うに踏み込み位置が良くないってことだと思います」

 

「なるほど。そう読み取ったわけか」

 

「違うんですか?」

 

「さぁな、俺は間合いの取り方だと思った」

 

「師匠のパウロさんがそういうなら」

 

「待てシルフィ。ルディが教えたかったことと俺が見て思ったことシルフィが感じたこと、全部一緒じゃなきゃいけねぇのかな」

 

「……」

 

「ハハッ、ちょっと俺らしくない物言いだったかな。それもそうでさ、これはルディの受け売りだからな」

 

「ルディの?」

 

「あぁ。あいつがもっと小さかったときにな。事実ってのは人の数だけあるって言っていた。俺はそういう小難しいのは苦手なんだが、この前の打ち込みであいつは『判ったか?』って訊いたろ? でも何について教えようとしたかは言わなかった。それにあいつは『俺と練習してくれ』とシルフィに言っただけで、『俺に教えてもらえ』とは言わなかった。その意味を考えた方が良いんだろうな」

 

そう言ってその日の訓練は終わった。言葉の意味は理解していたけど、私は何か行動を起こしたりすることはなかった。パウロさんは私にどうやって"間合いの取り方"を覚えさせるかをいろいろと試行錯誤していた。パウロさん本人はそういうのは乱取りや手合い、実践の中で感覚で身に付けたらしい。

 

--

 

魔術の訓練について話そう。ルディから受けた、ちゃんと教本を最初から順番に読んでいるか?という問いかけについては読んでいると答えたものの、本当のところはそうではなかったので、最初から読み直すことにした。読み直すことで重力魔術の基礎から順に理解することができた。

重力魔術は『斥力(リパルシヴフォース)』、『引力(アトラクティブフォース)』、『無重力(ゼログラヴィティ)』の3つがあって、この3つや他の魔術を組み合わせた応用魔術として『跳躍(リープ)』と『飛翔(フライト)』があると書かれている。少し難しいのは、応用魔術というルディが考え出した概念だ。応用魔術に分類される『跳躍』や『飛翔』には固有の詠唱呪文が存在しない。つまり、それらの魔術名は動作からつけられた技術の総称ということだ。

ここまで理解したことで不味いことが1つ判った。私がイジメの現場から助けられ、「お空をとぶ」魔術と言っていたのが、『跳躍』であることが判明したけれども、教本を読んだ私がデートでお披露目すべき魔術は『飛翔』だということだ。なぜそう思うかというと、『跳躍』のところに【飛び跳ねる魔術であって、空を飛ぶ魔術ではない】と走り書きがあり、『飛翔』のところに【空をとぶ魔術】と補足が書いてあったのだ。つまり、本をちゃんと最初から読んだ上で『お空を飛べるようになったら』デートすると約束したのなら、それは『飛翔』を実演する必要があるということなのだ。

そして最後にこう書かれていた。

 

「教本に書いてある『飛翔』のやり方は重力魔術だけを使った一例だよ。よりスムーズに、より速く、キレのある旋回ができるよう、そう鳥のように飛ぶのを目指してね!」

 

別に『跳躍』で良いだろうとか、教本に書いてある『飛翔』を見せれば良いだろうと思うかもしれない。でも教本に書いてある『飛翔』は空を飛んでいる感じではない。そこが判っているからこその巻末の課題なのだろう。ならば私は『飛翔』という技術に見合う優雅な飛行を実現しなければならない。

私はこの前1度誤魔化してしまった。本当は教本を頭から読まずにナナメ読みしただけなのに読んだなんて言って。その心苦しさをデートのときに感じたくはない。

 

難題だった。魔術というのは基本的に適正があって詠唱に従った魔力の生成が淀みなくできれば術が完成する。少し高度なスキルに位置する混合魔術というのは魔術によって引き起こされる複数の現象を組み合わせたものだ。混合魔術が理解できず脱落する魔術師も結構いるとルディは言っていた。応用魔術も魔術によって引き起こされる複数の現象を組み合わて動作にしたものだから、新種の混合魔術ともいえる。でもルディがそれを混合魔術ではなく応用魔術と呼ぶのは、組み合わせる難度が混合魔術の範囲に収まらないからだと思う。それだけ難しい魔術のやり方を私が独自に編み出してみろというのだ。

どうせルディの編み出した方法が1番なんだからやり方を書いてくれれば良いのに、余計な時間をかける意味があるとは思えなかった。でも、パウロさんから又聞きだけどルディの考え方は「事実は人の数だけある」ということらしい。もしかしたら『飛翔』のやり方も「人の数だけある」から自分のやり方を見つけろ、ということなのかもしれない。少し大変だがデートのために頑張ろう。

 

私はまず教本に書いてあるやり方を自分なりに整理した。

 1.『無重力』を使って浮遊する。

  重力は徐々に元に戻るので自由落下が始まる前にかけ直す。

 2.『斥力』を地面に対して実行し、高度を取る。

 3.前方、やや下に見える地面に向かって『引力』を使う。

 4.『引力』を使うと高度が下がるので2に戻る。

 

速度の調整はこの『引力』の強さに比例する。この方法は空を飛んでいるというよりは、空中に浮きながら『引力』で移動して、下がった分を『斥力』で相殺する形になるので【浮遊移動】と言った方が正確かもしれない。【浮遊移動】は空を飛ぶとは言えないと考えた私は『無重力』の工程を削除して

 1.高度の維持と上下移動を無詠唱の『斥力』を連続的に使って行う。

 2.風魔術で風を生み出して自分の身体を水平方向に進ませる。

という方法にしてみた。

 

自分で改良した方法の問題点は『斥力』が『無重力』のようにある程度の持続力のある魔術ではないという点だ。『斥力』は瞬間的な力場を発生させるタイプの魔術である。落下しないように常時力場を発生させるには、無詠唱で連続的に効果を発生させなければいけない。そのために水平移動に使う風魔術は詠唱が必要だった。また背中とお腹を風で押すようにしないとどれだけ強い風を当てても風を上手く掴めず移動できなかった。そして速度を速めると空気の層にぶつかって口を開くのが難しくなる。鳥のようには飛べず、詠唱込みの『飛翔』は実用性に乏しかった。やはり私ごときの考えた方法なんてたかが知れているということなんだ。

それでも同時詠唱を練習しつつ他の方法を考えていた。幾度も重力魔術の教本と普通の魔術教本を読み直し、ルディならどうするか。そう考えてみたが彼が偉大過ぎて上手く行かなかった。仕方がなく、それぞれの魔術の特性を検討しながら全ての組み合わせを試してみることにした。

 

重力魔術は特殊な魔術だ。

これまでに習ってきた魔術が対象に出来るものは、火、水、土、風とされている。

ルディの教本によると

 火:魔力を燃焼させる

 水:魔力を常温で液体の物質として顕現させる。

   魔力によって対象エリアの運動エネルギーを下げる。

 土:魔力を常温で固体の物質として顕現させる。

 風:魔力によって複数エリアの空気の密度を変化させる。

とかなんとか。凄い難しい内容だったし、なぜか普通の教本に書かれていない内容だった。本で読んだだけでは私には理解が難しいのだ。ルディから講義で説明を受ければ、きっと判るまで色々な方法で教えてくれただろうけど、そうでもなければチンプンカンプンだ。

兎に角、これまでに覚えた魔術には『太古の盟約』とやらの制限によって直接生物に影響できないらしい。それに対して重力魔術は特殊な条件をクリアする必要があるものの生物に直接作用させることもできる。『無重力』を詠唱する場合は領域を指定して重力加速度をゼロにすることができ、無詠唱で正確にサイズを指定することで生物であっても直接対象の重力加速度をゼロにすることができる。『太古の盟約』の制限の対象外なのか、上手くルールの隙を付いたのかは不明で、将来的には『太古の盟約』を実際に調べに行く必要があると書いてある。

私が最初に改良した案では『無重力』の工程を外したけども、やはりこの魔術が『飛翔』の中心魔術になる気がした。でも中々良い案は出てこなかった。

 

 


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