無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第052話_シルフィ・ライクト・ヒム II

---自分に合ったものを創ることは車輪の再発明ではない---

 

剣術の訓練方法はパウロさんにお任せし、魔術鍛錬の試行錯誤に力を注いだ。と言いつつも私は家事手伝いはしっかりこなしていた。4か月近くもやっていれば慣れたものだし、妹ちゃん達の夜泣きもなくなったおかげでゼニスさんとリーリャさんだけでも手は回るくらいだったけど、自分のために続けていた。

お母さんなんて最近は殆ど手伝っていないのに、お父さんにお弁当を作った日のお昼は1人じゃ寂しいといってわざわざグレイラット家に来て一緒にご飯を食べて行く。お昼だけではなく、時にはいつまでも話し込んで午後のお茶まで一緒にするときがある。正直、恥ずかしいから程々にして欲しい。

 

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その日はルディがまた旅立ってから最初の、お母さんを含めた女性4人と妹ちゃんたちの午後のお茶会だった。

 

「それでシルフィはちゃんとルディ君に自分が女の子だって告げたのよね?」

 

「白いワンピースを着てルディの胸に飛び込んだから大丈夫! それにこれからはシルフィって呼んでもらうようにしたから!」

 

お母さんの問いかけに私は自信をもって答えたけれど、それを聞いた3人は顔を見合わせた。

 

「まぁ、ワンピースはスカート部分がありますから女の子だとぼっちゃ……ルディも理解していると思います」

「抱き着いた後、何かされなかった?」

 

リーリャさんのフォローと間を空かずに投げられたゼニスさんの質問。

 

「背中に手を回されて顔がぶつかるくらいぎゅっとされましたけど」

 

「そう、キスとかはなかったのね?」

 

「キス?」

 

「シルフィ、お父さんが出かけるときに私とするやつがあるでしょう?」

 

「し、してないです」

 

あれはキスと言うのか。

 

「そうなの」

 

「あ、でっ、でも今度戻ってきたらデートをする約束をしました!」

 

「「「デート!!」」」

 

「私の娘も決めるときには決めるのよ!」

「流石です。デートをするなら確実に女の子と認識されています」

「キスよ!キスに持っていくのよ!」

 

--

 

そんな事があって私はキスについて手ほどきを受けた。でも誰かと実際にしたわけじゃない。その辺りは初々しい方が良いから練習しなくて問題ないらしい。なぜ下手な方が良いのか分からない。複雑だ。

それからリーリャさんは本格的に料理、掃除洗濯、裁縫を教えてくれるようになった。以前から教えてくれると聞いている礼儀作法はそれらが一通り終わったらになるそうだ。

ゼニスさんも昔、同じパーティだった料理上手な人から手ほどきを受けたとっておきのレシピを教えてくれた。それにお花の育て方も。

お母さんとはルディのお嫁さんになる覚悟について色々と話した。ルディはとても優秀なので複数人の奥さんを持つ可能性が高いし、私は平民なので貴族になるなら正妻になれない可能性があるそうだ。そう言われても言葉の意味を実感できていなかった私に対してお母さんは、「ルディが複数人の奥さんを持つのは良いとして、どういう順番なら受け入れられるかを考えなさい」と言った。

だから私は考えた。ルディとこのまま関係が進んで行って、成人前に結婚する。ルディは貴族になるためにエリスさんと結婚して、ロアの領主様のところに婿養子に行く。私はそれについて行ってルディのために生きる。

貴族にならないで私とブエナ村でのんびり暮らしてくれたら一番良いな。なんでそれじゃダメなんだろう。私にとってルディが全てなように、ルディにとっても私が全てになれないのかな。

考えがまとまってからお母さんに相談すると全然覚悟が足りていないと言われてしまった。それからお母さんが問いかけてきた。

 

「既にシルフィと結婚している状況で、実は知らないところでエリスちゃんと付き合っていたとしたらどう思う? そして2人目の妻としてあなたの前にエリスちゃんが現れる」

 

状況的には今と似てるかな。それってどうなんだろう。私に魅力が足りなくて、満足できなくて他の子にも手を出したってことになる。そうするくらいなら色々言って欲しい。ルディが満足できるように私は変われるんだから。でも色々言って貰った結果、それでも満足できなくてなら仕方がないのかもしれない。彼は私が一生を捧げる程のことを授けてくれた。私を愛してくれるなら彼のために生きるのに何の抵抗もない。

まとめた自分の気持ちを話すと次の質問が来た。

 

「そうね。シルフィに隠れてエリスちゃんとも結婚しているっていうのはどうかしら?」

 

それって嘘をつかれているっていうこと? 嘘をつかれるのは嫌。嫌だけど……それでも、発覚した時にちゃんと話し合って私を選んでくれるなら我慢できるかな。

 

「それでルディ君が両方を選ぶか、エリスちゃんだけを選ぶとしたら?」

 

私はルディと結婚して幸せに生きて行きたい。ルディを愛したいという気持ちに素直に生きて行きたい。だけど彼が私を裏切ったり、私を選ばなかったら私はどうすれば良いのだろうか。ルディと一緒に暮らすことが叶わなかったら? そんなことを考えてもみなかったけれど、そうなったら新しい人生の目標を探さないといけない。

ルディに関係ない目標……全然思いつかない。それが悪い訳じゃないと思う。だってそれだけルディの存在が大きくてすごく好きだって証明だから。

もっと大人になったら目標が立つかもしれない。でも大人になった私の人生もルディのために生きることなら、少しくらい嫌なことがあってもルディに捨てられないようにしないといけないのかもしれない。エリスさんが1番で私が2番でも良いから愛してって。私はそれを受け入れて行く覚悟がいるのかもしれない。

 

--

 

ルディが旅立ってもう3か月が経った。ルディとどうやって付き合っていくかとか、デートするための魔術が上手くいってないとか、剣術はパウロさん任せになっているとか色々なことがごっちゃになっていた。

そんな折、リーリャさんと2人で妹ちゃんたちの面倒をみているときのことだった。

 

「シルフィちゃんはルディのことで悩んでいるの?」

 

最近、リーリャさんはルディのことを"坊ちゃま"とか"坊ちゃん"とは呼ばなくなった。どういった心の変化なのかは想いを馳せるのも難しかった。ただ時期的にみて、ルディが帰って来たときに符合するので、そのときに何か言われたのだろうか。でもそんなことよりも自分の悩みだ。

 

「ルディが沢山の女の子をお嫁さんにしたらどうすれば良いのかなって上手く考えられなくて」

 

「私に答えられるのは後から入って来る側の気持ちね」

 

「あっ」

 

「良いの。そういうのも理解していた方がきっとルディとは上手に付き合えるでしょう。もしシルフィちゃんが最初の奥さんになったら、その時のルディの気持ちと後から入ってくる娘の気持ちの両方を理解してあげて欲しいから」

 

私は意を決した。

 

「よろしくお願いします」

 

そう言うとリーリャさんはパウロさんの妻になった経緯と自分とアイシャちゃんがルディのおかげで命を救われたことを話してくれた。私はリーリャさんの説明で後から入って来る側の気持ちについて知ることができた。きっと十分にはまだ理解できていないだろうけど1人のときにもっと考えよう。

 

「ルディってリーリャさんのことが好きなんですか?」

 

リーリャさんが助けられた経緯から自然とそんな風に思った。

 

「好きでいてくれると嬉しいのだけど……自信は未だないの。もちろんお母さんとしてね。シルフィちゃんはルディのこと凄い子だって思う?」

 

「それは凄いですよ! 魔術も剣術もあんなにできるんですから」

 

「7歳で魔術と剣術をあそこまで修得する子なんて居ないわね。でももっと前からルディは凄い子だったの」

 

「そうなんですか?」

 

「あの子は夜泣きもしなかったし、歩くことも言葉を覚えることもほとんど自力で修得したの。少しは手伝ったけれど。きっと手伝わなくても出来るようになっていたと思うわ」

 

「……」

 

私は言葉もでなかった。今のノルンちゃんやアイシャちゃんの状況と比べてみればそれだけで凄いことだってわかる。

 

「ね。凄いでしょう? でもね。なにより私が1番に凄いと思うのは、あの子が『自分を犠牲にできる』ってところなの」

 

「自分を犠牲にできる?」

 

「そうよ。あの子が3歳のときに剣術と魔術を両方学ぶことになったのも、5歳のときにパウロに叱られて殴られたのも、私が妊娠したときに助けてくれたのも、この旅に出たのも、ルディ自身のためではないわ」

 

「それってでもルディがしたいことなのですよね?」

 

「きっと、そうね。だけどシルフィちゃんが思っているものとは大きく違うと思うわ。シルフィちゃんだってこの家のお手伝いを沢山してくれているでしょう? それはあなたがルディのことを好きで、心からしたいことといえるけれど、家庭教師や剣術の稽古のお礼をしたいからとか、服を作ってもらうためということもできるでしょう?」

 

私は頷いた。

 

「それって結局は自分のために何かしてくれたから、お返しとして『したいこと』をしたのよね。お返しをしようとすること自体は立派なことよ。でもルディの話はそういう風に解釈するのが難しいの。

自分が忙しくなったとしても剣術と魔術を両方学ぼうとしたのは両親の喧嘩を止めるため、痛い思いまでしてパウロと喧嘩したのはパウロがどうするべきかを伝えるため、私の件は家族関係が複雑になっても私とアイシャの命を助けるため、自分の時間を失くしても旅を続けるのも皆のためだもの」

 

「もしかして私を助けてくれたのも?」

 

「どうかしら。シルフィちゃんを助けたせいでルディが何かを我慢しなきゃいけなかったということは無いと思うけど」

 

ほっとした。私のためにルディが自分を犠牲にしているなんて思いたくなかった。

 

「とにかく、私が言いたかったのはね。シルフィちゃん。ルディがこのまま自分を犠牲にし続けたらいつか限界が来てしまう。私と奥様はルディがそうならないように支えたいと思っているけれど、親離れした後はお嫁さんになってくれる子に引き継いでいくと思うの。そのとき、お嫁さんが1人じゃきっと支えきれないわ。だから後から入って来る娘のことは自分と同じで、ルディが同じくらい好きなルディのためなら自分を犠牲にできる同志って考えると良いと思うの」

 

そっか1人じゃ支えきれない……そんな風に考えたこともなかった。そしてピンと来た。好きだけじゃだめだってこと。ルディを支えて行く。私が彼のお嫁さんになる意味。

最後にリーリャさんは、ルディが卒業試験として出された天候を制御する魔術をいとも簡単にクリアした話と卒業後は魔術の先生のロキシーさんとの師弟関係が同志という関係に変化したという話をしてくれた。同志とは『新たな知識と技術と思いを出会う度に共有し、常に信頼を忘れない』という関係らしい。私もルディから魔術の授業を受けて卒業の証に杖を貰った。

でもまだ同志になろうとは言って貰えてない。それも仕方がないことだ。ルディは旅立つために私を卒業させただけで、私はまだ彼が書いた教本を読んで勉強中の身だからだ。ならルディが用意している課程をすべて終わらせて私も同志に加えてもらおう。魔術の同志としての経験がきっとお嫁さんの同志にも役立つに違いないから。

 

--

 

私はまず魔術の同志になることを目指し、魔術の訓練に集中するようになった。お手伝いが終わると、夕方以降の時間を魔術の訓練と研究に注いだ。同志になった暁には未知の魔術を探すとか、誰も知らない使い方を研究するとか、答えがない作業が待っているはずだ。一方、ルディが出した課題なら私の手がギリギリ届く範囲にあるとしても答えはある。こんな所で挫けていたら肩を並べていくことはきっとできない。もうデートのためにと努力する考えを捨てよう。ルディに研究した技術を伝えよう。自分なりの『飛翔』を完成させる。リーリャさんと話をしたおかげでそんな風に気持ちが変化した。

 

--

 

研究を始めて1か月が経過した。研究なる物が実際にはどんなものかは私にはよくわかっていなかったけれど、とにかく魔術の特性を再検証したり、自分にあった運用方法について1つ1つ地道に考えた。私が普段なら見過ごしてしまう点や教本に載っていてもルディからは教わらなかった点は特に丁寧に検証した。

 

まずは初級魔術の『無重力(ゼログラビティ)』の仕組みについて教本の内容を整理すると、この魔術は名前の通り、重力を中和して無重力状態にする魔術だ。詠唱ありで使う場合は領域指定として効果が発動する。人間を含めて物体を直接対象にできない点は他の魔術と同じだ。そして詠唱に従った場合は前方およそ10メートルの位置に5×5×5メートルの無重力領域ができる。このままでは使い勝手はあまり良くないが、詠唱なしで使うと任意の位置の物体を直接対象にできる。ただし対象のサイズに完全に一致したサイズ設定を行なわないと術の効果は有効にならない。最後に射出設定に傾けた魔力量によって現在位置から上昇できる。

教本の『無重力』の説明には、他にも重力加速度のことが説明してあり、机上で演習するための演習問題も用意してあった。

ここからは私の研究だ。『無重力』についていろいろ調べると、教本から3つのことが判った。

1つ目として『無重力』は魔術を発動した後に制御の工程がある。制御の工程で魔力を注ぎ続ければ重力の中和をし続けることができる。こういった工程を必要とするのはやや珍しい。私が知っている魔術で同じ工程を持つのは『土砦(アースフォートレス)』だけだ。『土砦』の制御を手放した場合は生成した土製のカマクラの天井部分のドームが崩れるが、『無重力』の制御を手放した場合は徐々に重力加速度が元に戻って行く。

2つ目、『無重力』は魔力によって空間ないし対象の加速度の倍率を変化させる。その値をどのように変化させるかという違いはあるけれど、倍率を変化させるというのは3つの重力魔術に共通している。『無重力』は領域内の全ての物体にかかっている重力(加速度)に倍率としてゼロを指定し、無重力状態を実現している。

3つ目、『無重力』を無詠唱で使うときの射出速度設定は加速度の初期値ではなく、任意の方向へ押し出す力/引き込む力になる。この部分は後述の『引力』や『斥力』の射出速度設定とも同じ機能だ。

 

『無重力』の次に説明があるのが、中級魔術の『引力(アトラクティブフォース)』だ。教本をしっかり読む前は『引力』というフレーズからお互いを引っ張る力を増大させるように感じていたけれども、座っている状態から『引力』を使って部屋の入口の開いている扉を閉めることができたとき、座っている自分自身が扉側に引っ張られることはないということに気付いた。だからその考えが間違っていることが判った。

そして疑問を解消するために教本をまじめに読むと、『引力』の魔術が作用するのは加速度の倍率だということが判った。

『引力』の内容についてはあまり研究の余地がなかったので使い方についてまとめておく。基本的な使い方は2つあり、1つは重力加速度を強化する使い方だ。動いていない物体にも重力加速度はかかっている。この使い方によって相手の体重を重くして動きを鈍くさせる。剣術訓練のときにも結構使える。

もう1つは運動している物体の加速度を増大させる方法だ。走ったり飛んでいる物体の加速を増大させて速度を速めたり、加速度を等倍以下に働かせて早く停止させる。

教本にあった『飛翔』は、『無重力』を使っている状態の自身にかかっている加速度は本来ゼロだけれども、『無重力』の力が弱まっていくと徐々に重力(加速度)が元に戻るので、それに対して『引力』をかけて前進する力を生み出している。

重要なのは私が見つけた応用的な使い方だ。無重力状態の自身を対象に『引力』をかけると、射出速度を設定量に応じて引き込む力を得る。しかも引き込む力によって加速度が発生し、『引力』の倍率の対象になるので任意の方向に移動できる。先の遠隔で扉を閉める話のときに停止している扉を動かせるのはこの"引き込む力"が力の源である。

また、『無重力』は徐々に弱まっていき重力(加速度)が緩やかに戻っていくので、『飛翔』中は『無重力』を制御し続けるか『引力』の倍率を等倍以下(0.5など) に設定する。浮くためなら『斥力』ではと思うかもしれないけど『斥力』は自身に掛けるには非常に危険な魔術なので本当に限られたタイミング以外は『引力』を使う。

 

『引力』の次は『斥力(リパルシヴフォース)』のまとめとなる。『斥力』は上級魔術に指定されている。教本には色々な理屈が書いてあったが、要するに加速度に負の倍率をかける魔術だ。

私の研究というよりは体験談になるのだけど、もし『斥力』を自身を対象にするなら等倍以下、おおよそ百分の一の精度で変化させた方が良い。なぜなら正方向にかかっている加速度を逆転させて一瞬で負方向に等倍以上で変更させると、変化する運動量はとても大きくなってしまう。つまり身体に大きな負担がかかる。だから自身を対象に使うのはとっても危険なので基本はしない。

逆説的に、百分の一の精度の加速度が掛かっていて、その逆方向の加速度を発生させたいのなら、自分に対して等倍の『斥力』をかければ良い。

この性質を利用しているのが『飛翔』の工程だ。『無重力』は制御しなかった場合は重力(加速度)が緩やかに戻っていく。つまり、限りなくゼロに近い重力加速度を得る。よって、この際は重力に対して『引力』ではなく『斥力』を使うと細かい制御をせずに徐々に上昇することができる。

また『無重力』や『引力』と同じく射出速度の設定量によって押し出す力を得る。

 

これまでの理論を基に応用魔術『飛翔(フライト)』について、自分なりの実行手順を考えた。私は無詠唱魔術が使えるけれど、同時に使えるのは1つだけだ。条件を満たす手順は次のようになった。

 1.『無重力』を使って自分の重力をゼロにする。(制御工程を使って制御しない)

  射出速度設定は状況に合わせて決める。余裕があれば身体がふんわりと持ちあがる

  程度に留めるイメージだ。

 2.徐々に元に戻る重力に対して『斥力』を使い、高度をとる。

 3.あとは、『引力』の射出速度設定を使って任意の方向に進み、

  加速度を倍率で制御することで飛行速度を決定する。

 

また空を飛行するときは、風の影響を大きく受ける。影響が大きい場合は詠唱ありの風魔術を使ってこの影響を減らすことができる。やり方は飛行ルートを包むように空気の層をチューブ状に作るだけだ。

こうして私なりの『飛翔』が完成した。

 

--

 

魔術の研究が一段落した私は、パウロさんに任せきりになっている剣術の訓練メニューについても考える余裕ができた。ルディが次に帰って来たときまでに踏み込みの甘さを直しておきたい。ロアのお嬢様の剣の腕がどれくらいかは判らないけど、きっと私よりもルディから色々な指導を受けている。私は彼女に負けたくない。ルディは剣術の強さで女性を選ばないだろうけど、弱くて守られるだけの存在でいたいわけではない。少ない教えから私は多くのことを学ばなければならない。

自分の訓練メニューを自分で立てて工夫を始めると、パウロさんの指導メニューの意図も掴めるようになってきた。そうする内に私はパウロさんの指導メニューについても自分で工夫するようになって、パウロさん自身はアドバイザーみたいな立ち位置になった。パウロさんはそれを喜び、「ルディもそうやって俺のメニューを自分用に組みなおしていた」と嬉しそうに笑った。ルディの意図を汲んだパウロさんの望み通りになった気がした。この頃から私はパウロさんのことを『師匠』と呼ぶようになった。

 

--

 

もう半年になる。ここ数日は、そろそろのはずと思って午後までソワソワし、午後になるともう今日は会えないと落ち込む日が続いていた。

今日も夕方になってちょっと落ち込みながらお風呂の準備をしていると、突然お風呂に師匠が全裸で入ってきた。まぁこの状況はこれまでに2回、今日で3度目だ。絶叫するようなことはない。

 

「師匠、中に私がいるかどうか確認してから入ってきてもらえませんか?」

 

「まぁ、いいじゃねぇか。それに俺に構ってないで早くダイニングに行くべきだと思うぜ?」

 

まったく悪びれない師匠に溜息をつきながらお風呂場を後にして、帰りの挨拶をゼニスさんにしようとダイニングに行くと、そこに彼がいた。私の身体は私の意思の3歩先を走り、彼の胸へと勢いよくダイブする。

 

「おかえり、ルディ」

 

「ただいま、シルフィ。髪いい感じに伸びたね」

 

彼の魔術が発動して倒れ込むことなく受け止められた。嬉しさと同時になんと自然な重力魔術なのかと驚いた。彼と私を合わせて1つの対象にし、『無重力』を発動させている。

 

ゼニスさんに少し冷やかされてから帰りの挨拶をしてグレイラット家を離れると、私の心が躍り出した。明日には剣術と魔術の成果を見せる時が来る。剣術については師匠に太鼓判を貰っている。準備は充分、彼はきっと満足してくれる。それだけの自信が私にはある。少し遅かったくらいだ。

 

 

 




次回予告
私、ルディが好き。
どれだけあなたを想っているか伝えたい。
言葉だけじゃ足りない。湧き出るこの想いを。
どうにかしたい。
でも彼はまだ忙しい身。

次回『シルフィ・ライクト・ヒム III』
だから寂しさは募る。
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