無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第053話_シルフィ・ライクト・ヒム III

---全力で取り組むこと以外に近道はない---

 

次の朝、師匠はルディと立ち会って簡単にのされていた。師匠が夕方も自己鍛錬を増やして、そのせいで夕方には毎日お風呂の準備をさせられていたから私は知っている。師匠が強くなったことに。その師匠をルディは剣を使わずに吹き飛ばした。ルディはそれを水神流の奥義の1つをアレンジしたものだと言っていた。

 

水神流奥義。

 

師匠に教わった3流派の知識によれば、水神流の奥義が1つでも使えれば水帝に、3つ以上使えれば水神になれるという話だったはず。それを習得するのがルディの旅の目的だったのかな。いや修得しただけでなく既にアレンジができるくらいモノにしている。

そしてのされた師匠は強くなったと褒められて嬉しそうだった。ルディはもっと強くなっている。でも彼を褒める人はこの場には居なかった。彼を褒める立場に私は成れるだろうか。

私は師匠とルディのやり取りの後にまた指導を受けた。指導内容は相手に自分の意図を悟らせないためのテクニックだった。

今回、私は彼の意図を読み取れた気がした。もし半年前の指導内容の練習が不十分だったなら、今回も同じ内容に関する指導だっただろう。だから新しい指導を受けられたことは前回の指導内容についてはクリアしたことを意味している。彼の教えは何もかもが関連している。以前の間合いを測り踏み込みを正確にする訓練を経て、私はルディや師匠の訓練の意図を読むようになった。そうしたら、今度は剣術の中で相手の意図を読んだり、相手に自分の意図を読ませないようにする訓練をしろというのだ。どうしてこんなことができるのだろうか。彼の才能の深さが少し恐ろしくもあった。

 

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昼が過ぎて手伝いが終わり、『飛翔』を披露するとルディが「完璧な『飛翔(フライト)』だったね」と褒めてくれた。

完璧にみえる彼に"完璧"と言ってもらえたことが凄く嬉しかった。私が研究した内容を持ってルディと色々議論したい。だけど、当初の目的を忘れてもダメだ。

 

「剣術も家の手伝いもあるのによく練習した。がんばったな」

 

「うん。ねぇ約束覚えてる?」

 

「デートね」

 

「うん」

 

「なら明日は魔術の特訓はやめてデートにしよう」

 

明日のデートが決定した瞬間だった。この6か月間頑張れたのは彼と同志になりたかったからだけど、デートをすること自体はとても嬉しい。今は大切な初デートを楽しみたい。

明日デートすることになったとお母さんに告げると「明日は朝練の後にお風呂を使わせてもらいなさい」とアドバイスをくれた。そして「失敗しても大丈夫だから思いをぶつけなさい」と力強い言葉をもらった。お父さんは一言だけ「成人になるまでは言付けは守りなさい」と言った。

この村でできるデートの内容についてはお母さんたちと議論済みだ。家でご飯を食べて、村を歩いて景色を見たり、道具屋に行って買い物をする。馬に乗って遠乗りに出掛ける。この時期は寒いので川に行って川遊びはない。私としてはルディと稽古事以外で会うというのがワクワクした。彼の予定がイマイチでも私がそれとなく誘導しようと思っていた。そんな必要はなかったけど。

お母さんに行ってきますと言葉を残し、ルディと手を繋いで歩いていく。旅のせいなのか彼がどんどんと遠くに行く気がしていた。それが私のすぐ隣、こんなに近くにいてくれる。抱き着いたことはある。だが歩いていて、こんなに距離が近かったことはない。身体が火照る程にドキドキしている。今日の服装は季節を考えると少し寒いかもしれないと思ったけれど、むしろその冷気が心地良い。

丘の上の樹まで行き、そのまま外でお弁当を食べる。ルディの家でご飯を食べると思っていたのに当てが外れてしまったけれど、2人きりで食べるのも新婚夫婦っぽくて良い。むしろ私が習った料理を披露するために自分からお弁当を作る提案をすべきだったかもしれない。一瞬後ろ向きな考えが過った。でもお母さんは失敗しても大丈夫と言っていた。大丈夫のはずだ。ルディが私を想って用意してくれたなら何も問題ないよね。

ご飯を食べ終わると、ルディが私にこれからについて尋ねてきた。

 

「大人になったら何になるかって話さ」

 

「ルディのお嫁さん」

 

「俺のお嫁さんは大変だよ?」

 

「わかってるよ、ルディ。でもいいよね?」

 

「良いよ」

 

私は大人になったらルディのお嫁さんになることを許された。彼と肩を並べて何か必要とされる存在になる。大変なのはわかってる。そしてルディの将来の夢を知った。

 

「え? 貴族になんてならないよ。俺はさ、新しい剣術の道場の先生になろうと思ってる。剣術と魔術を組み合わせた新しいやつのね」

 

はっとした。私はルディから剣術と魔術を学んでいる。剣術の基礎は師匠に習ったけど、最近はルディの指導方針に従って師匠はアドバイスをする役割にシフトしている。なら、私はルディの考案する新しい剣術の最初の弟子、あるいは教える内容を完成させるための協力者。知らぬうちに私はルディの夢の一端を担っているのかもしれない。

もうすぐで私の家が見えるというところでとっておきのポーズをした。柔らかい感触、数瞬で唇は離れていってしまった。閉じていた目を開く。

 

「ルディ、好きだよ」

 

「俺もシルフィが好きだ」

 

気持ちを伝えあった。ここまでならお父さんの言付けを守ったことになるだろう。

 

--

 

自分のベッドに入って今日のことを思い出す。今日は沢山のことを話した。大事なこともあったし、それほど大事でないと思えることもあった。私はとても楽しかったし、ルディも楽しそうだった。

 

「俺もシルフィが好きだ、だって。あーあーもぅ!」

 

先程聞いた愛のセリフを繰り返すと、自然と笑みがこぼれた。キリっとした顔のルディを思い出してベッドの上を右へ左へ身悶えする。

 

「……ふぅ」

 

余韻に浸りつくした後に私は考えた。ルディの口ぶりは大人になったら結婚してくれるってことだよね。でも、私が剣術で師匠より強くなってリーリャさんから礼儀作法も学び終わってしまえばどうかな。ブエナ村で学ぶことができることを終えたなら魔術や剣術を学ぶためにルディについて行くことが許されるかもしれない。10歳を過ぎて、成人するまでにルディがお父さんに結婚の許しを得るようなことを言っていたし、それが終われば私はルディと結婚して旅に出られる? そんな気がする。

ルディが教えてくれることもその旅の準備かも。ゴールのようなものが見えるようになったことで、ルディが私に隠し事をしている意味も何となく理解できるようになってきた。きっと私が彼とまだ釣り合わないんだ。

ルディとは同い年だけど私は彼に比べて子供。年齢以上に私が大人になってしまえば旅の許しが得られる。

あぁどうして今まで気づかなかったのだろう。ルディが旅の許しを得たのも師匠に模擬戦で勝った、あの時なのか。

 

--

 

それから1か月、私は師匠と剣術の修行をしながら時折ルディの剣術を見ていた。ルディはブエナ村に帰ってきても何かやることがあるらしく、朝練が終わって朝食を摂り終えるとすぅっと何処(いずこ)かへ消える。それでもだいたいはお昼のご飯時になると帰って来る。たまに「遅くなります」と告げるときもあり、そのときは夕方まで戻らないときがある。最初はどうしてもルディが気になったけど、訊く勇気も困らせたくもなかった。

 

「あの、ルディって師匠からみてどれくらい強いんですか?」

 

「あん? 剣術で言えば俺とルディの力の差は俺とシルフィの差よりも大きいかな」

 

私が師匠に勝とうとするのが到底無理かもと思えるのに、ルディは師匠からみてどう映るのだろうか。

 

「はぁ……。最近、鍛錬の時間を増やしていますけど、どんどん引き離されてません?」

 

師匠はいつも休憩の時に座る岩の上にどかっと腰を下ろした。

 

「何かとんでもなく失礼な誤解があるようだな。昔は七大列強を目指したこともあるが、若気の至りだったと気付いた。それでだ。俺は必要なだけの力があれば良いと考え直したのさ。だから今になって修行しているのは、別に息子に追いつけるようにってぇわけでもないぞ」

 

不味い物でも食べたような表情になった師匠。ちょっと嫌な事を訊いてしまったのかも。

 

「じゃぁ今のままではまずいことが今後あるってことですか?」

 

「なんだシルフィ、今日は随分と察しがいいじゃねぇか。そうだな。ルディの親父をやるのも大変ってことだよ」

 

アスラ王国は魔物の出現にしても国同士の争いにしても治安の良い国だ。そして師匠はかなり強いという話を聞いている。師匠がもっと強くならなければいけない脅威が今後、ブエナ村にやってくる可能性がある? それがルディに関係している?

 

「ルディが私はアスラの宮廷魔術師くらい強いって言ってくれたんですけど、師匠と私が力を合わせれば良いんじゃないですか?」

 

「俺は妻と娘を守る。お前はお前の両親を守れ」

 

なるほど、当然のことだった。私が宮廷魔術師並みに強いならまずはその力を家族を守るために使うべきだ。旅の許し……師匠より強くなっても大人になるまでは無理かもしれない。いや諦めるのは早い。私が強くなりながら師匠を強くして、私の家族も守ってくれると約束してくれれば私は旅の許しを得ることができるかもしれない。

私の目標はまた定まって来た気がする。ルディが大人になったら結婚してくれるって約束してくれた。だから胸を張ってお嫁さんになるために礼儀作法を学び、魔術の同志として認められたい。だから魔術の鍛錬や研究をする。そしてルディの旅が長くなるなら剣術も強くなりたい。訓練相手を務めてくれる師匠と切磋琢磨する。師匠が強くなって私の家族も守ってもらう。

 

--

 

ルディは家にいるときも紙束に何かを書いていることが多く、忙しそうだ。少し不思議なのは書き終わった紙束は今日の分だけ。毎日書いているのに昨日の分までは残っていない。部屋を見渡しても今日書いた分の紙束、白紙の紙とペンとインク、机と椅子とベッド。あとは旅に持っていくための武器と道具が数点。

とにかく、そんなルディに付き合う形で私は彼の部屋で過ごした。彼が書き物をしている間は邪魔しないように私も魔術の研究をする。今の研究テーマは両手で同時に無詠唱魔術を発動させる技術の訓練方法だ。

半月程そうしているとルディが私のやっている事に興味を持ってくれた。良かったら研究内容を少し見せて欲しいと言うので、重力魔術の研究メモを家から持って来て渡す。ルディは興味深げに目を通すと自分の紙束にメモをしていた。知識を共有する。いまなら同志になれる気がした。

 

「ルディはさ、うーん。私が魔術師として今ほど才能がなかったらどうするつもりだったの?」

 

「シルフィは何にでも一生懸命で素敵だよ。もし才能がなかったなら手元に置いて離さなかったかもね」

 

素敵なんて……ルディってこういうところがある。すぐ笑顔になっちゃう。でも他の子にもきっとこうだから心配になるっていう気持ちもわかって欲しい。それに私が一生懸命なのはルディに認められたくて、頑張ってしまうからだ。そのせいでルディは安心して私を手元から離してしまうってひどいジレンマ。

 

「でも、私は同志にしてくれないんでしょう?」

 

「同志かぁ。最近の父さまとシルフィは同志みたいな関係に見えるよ」

 

「そうじゃなくて。ルディとルディの先生は同志でしょ?」

 

「誰に聞いたかはともかく、それはロキシーと僕にちょっとした誤解があってね。先生と生徒の関係ではいられなかったんだよ。僕がシルフィの魔術の先生でいられるなら同志になる必要はない気がするけど」

 

「ロキシーさんだけ特別扱いでずるいよ」

 

「僕の魔術の生徒はシルフィ1人だけだから特別だよ。それでも同志が良いの?」

 

「道場の先生になったら生徒が増えるだろうし、妹ちゃんたちにも魔術を教えるんでしょう?」

 

「まぁ、そう、なる、かな……」

 

「なら同志がいい」

 

「覚えておくよ。でも今はまだやって欲しいことがあるから」

 

認めてくれるだけでいいのに、なんで焦らすのかな。そこにもルディの意図があるとか。それともロキシーさんとの関係は2人だけの大事な何かなのかも。わからない。

好きって気持ちが両想いになってお嫁さんにしてくれるって言われてキスもして、もう安心だってなるはずだったのに楽観的になれなかった。変にいろいろ考えるようになったせいなのかも。

そして1か月が経つ頃、ルディからしばらく会えないと言われた。

 

「また旅に出るんだね」

 

「うん」

 

連れて行ってはくれない。私に出来るのは拗ねて見せることだけだった。機嫌を取るようにルディは持っていた2冊の教本と1冊の禁書を渡してきた。解毒魔術についてはやり方は任せるので不明な部分を調べておくようにとの課題付きだ。そういうことじゃないんだけどなぁ。

 

--

 

ルディが旅立つのも3回目になれば……やっぱり寂しいなぁ。とは思うものの、剣術訓練、妹ちゃんたちのお世話、掃除、料理、裁縫、庭の手入れ、魔術の訓練と課題の調査、やることは沢山ある。

ルディの書いてくれた治癒魔術と解毒魔術のそれぞれの上級魔術について書かれた教本。それを読む。もともと7歳になる少し前、最初にルディが旅立つ前に治癒も解毒も上級になっている。しかし、ルディが書いてくれた解毒魔術の教本には驚くべきことが書いてあった。

 

「解毒魔術は数が多くてマイナーな症状に対する魔術もあるので、これまでに教えた物以外にも存在するよ。是非調べて穴埋めして欲しい。どんな症状を治す魔術があるかは書いておくので参考にしてね」

 

私はこれまでルディの教えに抜けがあるなんて思ってもみなかった。解毒魔術は苦手なのか、それとも適当に教えている部分が他の系統にもあるのかも。そして今回の課題は魔術の研究ではなく調査だ。一応、最後まで読み終えてからこの村の治療院で働いているゼニスさんにその2冊の本を見せることにした。

ゼニスさんに課題のことを説明して教えを請うと、残りの中級解毒魔術を詠唱も含めて教えてくれた。ゼニスさんによると上級の解毒魔術が使えるのはミリス神聖国の治療院の魔術師かラノア魔法大学の治癒魔術系統を専門で修得した魔術師に限られるそうだ。もちろんゼニスさんは使えなかった。よくよく考えるとルディの魔術の先生のロキシーさんも使えたのは中級までの治癒魔術のはずで7歳直前の時点で上級を一部でも知っているのは奇妙な話なんだけど……と首を捻っていた。

教わった魔術の訓練のために10日程費やした。

 

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禁書とされた結界魔術についても読んだ。書き直される前の最初にもらった重力魔術の教本と同じ感じで少し堅い表現が続く。普通の教本より、前書きと理論や考察が多く難しかった。でも、忙しいルディにまた読めなかったと言うつもりはなかった。同志を目指すならこれらを理解せねばならないし、ルディは私が理解できるレベルにあると判断してこの本を渡すことにしたと思う。

禁書の序章は結界魔術の権利にまつわる話だ。結界魔術の権利はミリス教団が所有している。権利を無視して魔術を教えると異端者としてミリス教団に追いかけまわされるし、知るはずのない結界魔術を使うとミリス教団に誰から教わったかを確認させられる。だから結界魔術を他人に教えてはいけない。この辺りは初歩的な内容で、魔術の種類についてルディから口頭で教わったときにも説明があった。

次に新しいことが書いてある。何が書いてあるかと言うと魔術を教えることの本質についてだ。私が今までに覚えた魔術は理論を理解するフェーズと呪文を覚えるフェーズからなる。

まずは理論を理解するフェーズについて。新しい魔術、例えば火魔術を何の知識もなくいきなり使ったら自分も火傷する可能性がある。重力魔術で設定を間違えればいきなり上空に飛んで行って墜落して死ぬ危険がある。だから、呪文を詠唱する前にちゃんと理論を理解して、自分や周りに迷惑にならないようにする。私のように重力魔術の教本を斜め読みして、上手く起動しなかったのはむしろラッキーと言える。また理論を理解してその魔術による作用、この世界の物理法則を照らし合わせることでより幅広く応用のきいた魔術の使い方が可能となる。

理論を理解した後、呪文を覚えるフェーズとなる。もしくは魔法陣の描き方、その紋様を覚える。呪文を正しく詠唱する、ないし魔法陣に魔力を通して意図した魔術が発動するかは唱えた魔術師の魔力量による。魔力量が足りなければ魔術は発動しない。さらに細かく言えば、呪文を詠唱すると体内の魔力が目的の状態へと変容しようとし、腕の部分から放出される。詠唱して発動する呪文の有利な点は詠唱中の基本的な制御によって目標地点を決められる点とコストがゼロという点にある。よって、呪文を当てる先が動体である単体の攻撃魔術の場合は呪文の詠唱によって発動させるのが一般的だ。上級から増えてくる領域を指定する魔術の場合は、詠唱文も長いし、細かい目標地点もないので魔力があれば魔法陣で発動すれば良い。ただ塗料で描いた魔法陣は1回限りで、石板に彫れば余計に魔力の充填が必要になるので、コストや魔力不足の問題が出てくる。

3点目に禁書には魔術を教えることの本質をベースに結界魔術を教えることについて書かれている。結界魔術は基本的に魔法陣によって固定位置に結界を展開する魔術だ。また、使っただけで危険になる要素が少なく、応用範囲が少ないとされている。だから普通の魔術師にとって結界魔術の理論はあまり覚える必要がない。とにかく魔力を込めて結界を展開したときに何が起きるかだけを理解しておけば良いし、魔力結晶の量が十分にあれば魔術師である必要すらない。別の言い方をすると、重要なのは魔法陣そのものだ。魔法陣の描き方が重要で「結界魔術の魔法陣を描くことができるようになる」ことを「結界魔術を教える」ことと定義できる。

4点目に書かれているのは「結界魔術の魔法陣を描くことができるようになる」状況とそれへの対策だ。そのようになる状況としては【結界魔術の魔法陣そのものや下書きを知るべきではない者に渡すこと】、【結界魔術の魔法陣をミリス教団の関係者以外の立ち入りを禁じている場所以外に設置すること】の2つがある。

【結界魔術の魔法陣そのものや下書きを知るべきではない者に渡すこと】が指摘しているのは判り易い。結界魔術の魔法陣を正式な手段で教わるためにはミリス教団の神殿騎士団に入る必要があり、神殿騎士団の正当な者以外に結界魔術の魔法陣を見せたり、教示してはいけない。

【結界魔術の魔法陣をミリス教団の関係者以外の立ち入りを禁じている場所以外に設置すること】が指摘しているのは少し悩んだ。そもそも結界魔術が外敵から身を護るための魔術であるか侵入者を捕らえるための魔術であることを勘案すると、これでは結界魔術を利用することができなくなってしまう。しかしそこは考えられており、魔法陣の紋様を隠すための塗料や石板に彫った魔法陣の溝を特殊な粘土で塗りつぶす。こうすることでミリス教団以外の者が出入りする場所でも結界魔術を利用することができる。ミリス教団は各国の上層部に塗りつぶした魔法陣や石板を提供して布教の足掛かりとしているそうだ。

ということで最後に結界魔術を使う場合について書かれている。この本を読んで無詠唱で魔術を発動できるものについては大っぴらには出来ないものの、使っても良い。ただしミリス教団に訊かれたら魔族から教えてもらった秘術だと答えること。無詠唱で使うことができない魔術については魔法陣をマスキングできる塗料か粘土が無い限り使ってはならない。ミリス教団の異端者掃討部隊は組織が大きく絶対に相手にしてはいけない。彼らは家族や知り合いを巻き込むから注意せよ……ちょっと怖い。

序章の最後にこの本は読み終わったら魔術で完全に焼却するようにと書いてあった。

 

--

 

長い序章を読み終えて、結界魔術の理論、術の種類、対応策の書かれた本章を読み始めた。結界魔術とは世界の法則に影響する構造を魔力をつかって生成する魔術だ。作った構造の中ではこの世界の法則を捻じ曲げることができる。

結界には、境界面と境界内の2つの効果域があり、境界面に特定の効果を生むモノ、境界内の全体に特定の効果を生むモノ、境界面と境界内の両方に効果を生むモノがある。

解毒魔術と同じでこれには抜けがあるかもしれないが、この本には聖級までの魔術が書かれている。

 

魔力障壁(マジックシールド):初級魔術。

 目の前に温度変化を伝播させない3×3メートルの壁を作る。

 

物理障壁(フィジカルシールド):中級魔術。

 目の前に砂粒以上の粒度の物体を通さない3×3メートルの壁を作る。

 通常は魔法陣から起動するがルディは無詠唱でこれを展開できる。

 ただしサイズは通常1×1メートルになる。

 

防音壁(ノイズバリア):中級魔術。

 可聴域の振動を遮断する境界を魔法陣から円柱状に生成する。

 

暗幕(ブラックカーテン):中級魔術。

 可視光線を遮断する境界を魔法陣から円柱状に生成する。

 

魔成阻害(マジックインピード):上級魔術。

 円柱上の領域を作り、その中では魔力から魔術を生成する工程を阻害する。

 

封域(シャットアウト):上級魔術。

 砂粒以上の粒度の物体を通さない壁を魔法陣から円柱状に生成する。

 

無音無光(スリープウェル):上級魔術。

 防音壁と暗幕の両方の特性を持つ境界を魔法陣から円柱状に生成する。

 

二重壁(デュラリティ):聖級魔術。

 魔力障壁と物理障壁の両方の特性を持つ3×3メートルの壁を魔法陣から生成する。

 

域内探査(ルームコンパス):聖級魔術。

 魔法陣に探索対象物と範囲を指定して起動することで結界内に探索対象物があれば

 その位置を知ることができる。

 

境界偽答(フェイクレスポンス):聖級魔術。

 結界の外側から内部への魔力的な探索に対して間違った反応を返す。

 

指向錯誤(ダミースクリーン):聖級魔術。

 境界面で光を屈曲させることで別の景色をみせて結界の内側を見せないようにする

 

 

数か月の訓練で書かれている全ての魔法陣を暗記し、これを記述できるように何度も練習した。だけど魔法陣の材料となる特殊なインクなどは無かったので起動は出来なかった。

街に買いに行けば良かったかもしれないけれど、街のどこに売っているかも分からないので人に訊かなきゃいけない。そうしたら何の魔法陣を描くのか訊かれるかもしれない。それは困る。だってこれは他人に教えちゃいけない秘密の魔術なんだから。

 

後、詠唱が出来る魔力障壁と物理障壁の2つは無詠唱での鍛錬もした。魔力障壁があれば詠唱魔術しか使えない相手にはかなり有利となる気がする。それと剣術においても物理障壁を使うことでかなり大胆な戦法が取れる。ルディの講義で魔法陣の基礎は学んでいる。でも実際に魔法陣を描くには教えてもらった知識だけでは疑問の残る部分もある。これらについては自分で学んでいく必要があると思う。

 

 


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