無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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ルーデウスが生まれるより前の話。
今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第057話_ハル

---不思議少女との付き合い方---

 

ハルは8歳のときからゼピュロス家の屋敷の離れに住んでいた。理由は簡単だ。彼が8歳のとき兄が15歳で成人したからだ。彼の家は血筋を大事にする貴族であり、また血筋が絶えることを嫌う名家であった。だから、後継ぎが無事に大人になるまでは予備の子女が必要だった。一方で十分な能力を示した後継ぎが成人すれば、今度は予備は邪魔になる。予備の中でも優秀なものはそのまま跡目争いに参加できるが、一方で能力のイマイチな者は早々にそのレースから強制離脱の憂き目を見る。

ハルが生まれて物心がつくと早速、英才教育が始まった。専属の家庭教師が一般教育、各種常識、帝王学、交渉術、礼儀作法を詰め込もうとした。しかし、ハルは期待された程には優秀ではなかった。普通の子供だった。だから、兄が成人すると4大貴族の1つゼピュロス家に送られた。

ゼピュロス家はアスラ王領の北、赤竜の上顎へと続く土地、ドナーティ領を治める貴族だ。ボレアス家が兄である第一王子グラーヴェルに一早く取り入ったがノトス、ゼピュロス、エウロスの残りの大貴族は静観の構えを示し、継承候補の擁立には消極的だった。なぜなら、4大貴族が求める資質を成人したグラーヴェルが具備していると各家は判断していた。その上でボレアス家がグラーヴェルを擁立したことで基本的には継承候補争いは終局しているのだ。もしここで他の3家が別の候補者を立てれば血みどろの継承レースが起こる。4大貴族は今は別れているがそもそも同じグレイラット姓を名乗っている通り、遠い血縁関係にある。また、サウロス・ボレアス・グレイラットの妹がノトス家に入ったことやゴードン・ボレアス・グレイラットがエウロスの娘と結婚し、婿入りしたことが表すように婚姻関係になっている場合も多い。となれば親戚同士で争っても仲を悪くするだけである。はっきりいってアスラ王の擁立に貢献するかどうかが4大貴族のメリットとしては薄いのだ。安定している今、雉も鳴かずば撃たれまいなのである。

このことは前回の継承争いのときのことを考えればもっとよくわかる。現アスラ王の擁立を行った大立者は大貴族ガニウス家であり、そこに4大貴族の名前は出てこない。もし4大貴族のどこかの家が他の候補者を擁立していればその者が現王になっていたはずだし、現王の擁立に関わっているならガニウス家よりもいずれかの4大貴族が大立者として名を馳せることになっていたはずだ。だが、そうはなっていない。つまり4大貴族は前回の継承争いを静観したのである。

ではなぜボレアス家は今回、第一王子の擁立に踏み切ったのか。それはボレアス家内の問題に起因する。ボレアス家では数年前からジェイムズとフィリップの2人によるボレアス家の跡目争いが佳境を迎えていた。ジェイムズとフィリップはお互いの手駒を使って戦った。こういう戦いでモノを言うのが人脈である。王都で大臣をやっているジェイムズには簡単に多くの人脈を得る方法があった。それが第一王子の擁立を行っていたグラーヴェル派に与することだ。しかも既に大立者であるガニウス家が擁立している派閥ならば国王の継承争いに大きな変化は無い。サウロスはあまり良い顔をしないかもしれないが、他の大貴族は静観を貫くだろうという読みがあった。

このときのジェイムズはまさか数年後にノトス家の中で評価が低かったピレモンが逆転を狙うためにアリエル派に与したり、フィットア領が消失してガニウス家に付け込まれそうになるといった事態を予期できなかった。

そんな情勢の中でハルと呼ばれる少年は弱冠8歳にしてゼピュロス家の離れに幽閉されることになる。ゼピュロス家に行くことになった理由は、近年ボレアス家がノトスやエウロスと婚姻関係になったのに対して、ゼピュロス家とは長く婚姻関係になかったからだ。

さて幽閉といっても、ハルには屋敷から出られず何の権力もないというだけで、ただの子供としては不自由のない暮らしが待っていた。だが母親と引き離された寂しさもあったし、それまでの詰め込み教育に嫌気がさしていた面もあり、ゼピュロス家に来た当初は我儘に振る舞った。

ゼピュロス家の当主はこの厄介者が成長して荒くれ者になってはたまらないと頭を悩ませる。家臣の者に良い案は無いかと協力を仰ぐと、筆頭執事の提案により三女で同じ8歳になるナンシーと引き会わせ、友達になったらどうかということになった。ナンシーは非常に頭の良い娘だった。だが孤独を好む陰気な娘で遊びらしい遊びもせず、友達もいなかった。なぜ友達がいないかというと、7歳から通わせたドナーティ領内の幼年学校を僅か1か月で自主退学してしまい、独学で剣術の鍛錬を始め、世界の歴史を研究しはじめたからだ。

この提案は2人を会わせたら何かの化学反応が起きるかもしれないというアバウトな物だったが、当主はそれを聞いて良さそうだと判断し、お守役のメイドと執事に命じて実行に移させた。

とにかく2人は同じ部屋に押し込められた。結果はナンシーがハルに興味を示さず、ハルも女に舐められまいと強情を張り続けたため、沈黙だけが続き、作戦は失敗に終わった。無駄だと悟った当主は人間関係の構築の仕方を学ばせようと、ナンシーとハルに教育の続きを施すよう執事に命じた。そして家庭教師を招いての授業が始まった。

1月ほど経ったときの評価は、ナンシーの頭の出来はすこぶる良く、ハルは平均を少し下回るくらいで普通の貴族としたら良くも悪くもなしだった。これは予想の範囲内であった。そして半年が過ぎた後の評価は、ナンシーはすこぶる良く、ハルも十分に良いというものになっていた。

ハルは優秀ではなかったからここに来たのではなかったか、当主は予想と異なる事態を訝しんだ。家庭教師に再度確認すると、家庭教師は少し言いにくそうにした。それでも粘り強く聞くとナンシーがハルに色々なことを教えているというのだ。さっさと授業を終わらせたいナンシーは、ハルが躓いている部分について家庭教師を飛び越えてハルにアドバイスしているのだという。その教え方は家庭教師自身よりも判り易く、舌を巻くほどの広い見識を垣間見せているそうだ。

またハルはこの頃から我儘な行動が鳴りを潜めた。メイドの見立てによればハルはナンシーを慕っており、好かれたくて思慮深い行動をとるようになったのだという。それを聞いて当主は思った。ナンシーはハルが弟のように可愛くて面倒を看ており、ハルは姉のようにナンシーを慕っている。友達というよりは姉弟(きょうだい)だが満足のいく結果だろう、と。そしてナンシーが上手く制御すればハルは荒くれ者にはならずに済むだろうと。

 

 

--ハルファウス視点--

 

ゼピュロス家に来てしばらくすると女の子と同じ部屋に押し込められた。目上の者と会った場合、自分から挨拶に行かねばならない。逆に自分が目上の場合は相手が挨拶してくるのを待たねばならない。そうしないと上下関係がおかしくなってその後の関係がギクシャクする。さて、この女の子は自分より目上か目下かどっちだ。

まずはこの女の子が誰なのかということに想像力を働かす必要がある。年齢は10歳未満、ほぼ俺と同じ年齢だろう。着用している服はそれなりに良い仕立てのものだ。見習いメイドではない。ただ若干擦り切れている。虐待されているのか?ただの変わり者か? 王都に居れば割とまともな貴族の子供に会うことも多いが、地方領の領内では自分の領地内から出すことができない個性的な者もいると聞く。この女の子を見ていると、こちらに気をつかったり、俺と同じように挨拶の必要性を考慮したりする様子はない。たまにブツブツと何事かを呟いている。これは後者だろう。それはさておき、ゼピュロス家の直系の女の子だとすると三女だったか四女に俺と同い年くらいの女の子がいるはずだ。アスラ王国にいる大貴族の家族構成や血縁関係の中で一番頭を痛めるのがグレイラット家だ。関係が複雑すぎて、何をするにもそれでお互い得なのか損なのか、外野から見ていて判断に困る。こいつらに比べればアスラ王家のなんと良心的な事か。

アスラ族は皆、アスラ王領内に住み、平和に暮らしている。おっと、自分はそのアスラ族のくせにドナーティ領に居るのであった。そうか俺も変わり者か。

ということで、お互い変わり者同士の俺とこの女の子。年齢はほぼ同じ。アスラ王領の第二王子と4大貴族ゼピュロス家の三女(もしくは四女)。対等と考えて良いだろう。つまり、この女の子との関係はどちらが先に相手に挨拶をするかで決まる。ならば俺は待つ。待つ。待ち続ける。そして日が暮れた。

次の日も同じような部屋に押し込められて、俺は待ち続けた。女の子はこの日から本を持って来ていてそれを一心不乱に読み耽っていた。3日目からは女の子と同じように俺も本を読みながら待ち続けた。読んでいる本は王都で家庭教師がくれた帝王学の教科書だ。結局10日間この生活が続いた。

11日目からも朝に目覚めて身支度すると部屋に押し込められることは変わらなかった。が、変化が起こった。口元に髭を蓄えて腹の肉がでっぷりとした壮年の男が来て、俺達に読み書き、算術、礼儀作法の授業をした。家庭教師が自己紹介をしろというので俺は「ハルファウス・アシンカ・アスラ第二王子だ」と名乗った。女の子は「ナンシー」と口数少なく名乗った。ナンシー……それは愛称だろうと突っ込みたかった。

家庭教師も呆れ顔だったがちゃんと挨拶しろとは追求しなかった。だから、俺はナンシーの本名をしばらく知らなかった。

授業を受けて判ったのは、ナンシーはとても賢い女の子だということだ。家庭教師に質問されるとスラスラと答えるのだ。1度も間違ったところを見たことがない。この歳では優秀らしい。一方の俺は2回に1回は間違える。正答率は半分ということだ。それはそれで出来が悪いらしい。

1か月が経過して俺とナンシーの間に初めて会話が行われた。

 

「あなた、7かける6は42よ。いつも間違えているから注意しなさい」

 

「わかった。ごめん」

 

恥ずかしかった。いつも算術で間違う理由に全然気づいていなかった。なぜあの教師は俺の間違いを指摘してくれなかったのか。それから少し悲しい気持ちになった。1か月も同じ場所で学んで、出来た会話が算術の勘違いの指摘か。ナンシーから話しかけて来たことで立場の上下決定戦に勝利したはずだったが、そんなことはどうでも良いと思えるくらい不甲斐ない気持ちだった。

俺は良いところを見せようなんて別に思っていない。だいたい幽閉されている時点で俺は敗者としてここに来ている。立場の上下決定戦に拘ってつまらないプライドに縋っている自分がなんとも矮小な存在であると認識できた。そう理解した俺は今さら見栄を張っても仕方ない気がしていた。だから前日の授業で判らなかった部分を整理して、授業が始まる前にナンシーに尋ねることにした。彼女の教え方は上手だ。家庭教師よりもだ。すぐに理解できないこともあったが、そういう時でも見捨てずにナンシーは教えてくれた。家庭教師も頭の柔らかい良い教師だった。ナンシーが俺に教えているのを知っていても余計なことをするなと言うことはなかった。手間が省けると考えたのかもしれない。

ナンシーは何でも答えてくれた。次第に授業以外の事も質問するようになった。彼女のことが知りたくて彼女自身のことを聞いてみたのだが「別に」とか「特にない」とかまともな会話は成立しなかった。質問には答えてくれるのに冷たくされるのは何でだ?と不思議に思ったが、しばらくして個性が極端に薄いだけだと判った。

そんな彼女だったがいつも忙しそうにしていた。何をしているのかと訊くと、彼女は「世界の歴史を研究している」と言った。どんな作業をするのかと尋ねると、「残された文献や伝承されている出来事を整理して、因果関係を洗い出す」作業だと言った。「何か手伝えることは?」というと彼女が書いたメモを渡された。何すればいいんだ?と思ったが彼女は研究で忙しそうだったので、メモ書きを読んで授業と同じように判らない部分を整理して質問するのが日課になった。大貴族の娘がやるような事とも思えなかったので、何の役に立つのかまでは解らなかった。解らないままでも彼女が懸命に取り組んでいるから俺は彼女の手助けをしたいと思った。

2年が経つと彼女は先に誕生日になったらしくパーティーが開かれた。いつもはボサボサの髪で、メイドが無理やり脱がせない限りいつまでも同じ服を着ている彼女がバッチリ化粧をしてドレスに身を包むと別人のように輝いて見えた。そんな彼女に対して俺はそもそも幽閉されている身でプレゼントを用意することすらままならなかった。だがダンスを踊るときに最初に選ばれたのは俺だった。彼女の晴れ舞台で一緒にダンスをした。彼女には感慨のようなものは無さそうだったが、俺は嬉しかった。他の関係深い貴族の息子たちを他所に俺を選んでくれたことが嬉しかった。

同じ年に俺の10歳の誕生日が来ても特にパーティーやプレゼントなどと言うものはなかった。むしろ俺は誕生日の日に自分から当主の執務室へと赴き、「2年もの間、平穏に過ごさせて頂きありがとうございます。お陰様で10歳の誕生日を迎えることができました」と感謝を伝えに行ったほどだ。

当主は「最初は出来の悪い子どもが来たとがっかりしていたが、今の君は兄上より王に相応しい人物であろう」とお世辞をくれたので、「全てナンシーのおかげです。それに私は王になるつもりもありません」と俺は本音で返した。当主は少しの間黙っていたが「本音でしか話せぬのは確かに王に相応しくはない」と呟いたのが聞こえた。それから俺は執務室を退出した。

同日、歳の節目にはアルデバランの演劇を見る風習があったなと思いだした俺はナンシーにその話をした。ちょっとした世間話のつもりだった。だがナンシーは濁流が迫るような勢いで一気に話し始めた。アルデバランの演劇はそもそもの史実と異なり、本当は魔神ラプラスと闘神バーディーガーディの戦いであったという。それでもその演劇には意味がある。その演劇を見たのなら『真の王がなんたるか』ということを考えるべきだと。俺はあの演劇には「アスラ王族としての心構えの全てが詰まっている」と聞かされていた。『心構え』と『真の王の資質』。似て非なる2つのことについて俺はその日から考え始めた。俺への唯一の誕生日プレゼントはナンシーからもらった『研究テーマ』だった。

この頃になると彼女はアスラ王国の貴族について調べ始めていた。主に対象としているのは王族や大貴族で、ゼピュロス家の歴史を知るために彼女の祖父や祖母から話を聞くこともあった。俺も自分の研究に精進したが、偶に彼女の研究メモを見て過ごした。そんなある日、気になるメモ書きを見つけた。そのメモ書きには『サブマスターについての考察』と題されていた。いつも通り読む。

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 ノトス家の長男で出奔したパウロがボレアス家の支配するフィットア領で下級騎士をしている。その子供がそろそろ生まれるはず。彼は私の知るサブマスターだろうか、それともそうではないのだろうか。死産であった場合に私は何をすべきであろうか。

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何やら予言めいた内容でいままでに読んだ歴史研究との違いは明白だった。だが俺は野暮な質問はせずに不思議だなと思う程度に留めた。彼女と仲良くしていく上でこれはきっと大事なことだ。

さらに4年が経ち、俺が14歳になると周囲の扱いが変わった。幽閉されていた離れの屋敷は綺麗に改築され立派な屋敷になり、専属のメイドと執事が付いた。6年間続いた軟禁生活からも解放され、護衛をつけて街に出ることができるようになった。なぜ扱いが変わったかというと、妹で第二王女のアリエルがノトス家の擁立で継承権争いに参戦したのだ。アリエル自身が継承権争いに参戦することが直接的に俺に影響することではなかったが、グラーヴェル派にボレアス家、アリエル派にノトス家と4大貴族の対立構造が出来てしまった。

ノトス家の現当主ピレモンは何も考えていない阿呆だ。今頃はボレアス家も血相を変えていることだろう。いや、それが狙いなのかもしれないな。バカバカしい、ただの私怨だ。

ノトス家が擁立者として名を連ねることにゼピュロス家は頭を痛めた。おそらくエウロス家もそうだったのだろう。2つの大貴族はやる気のない俺を擁立して継承権争いに形式上参入することで逆にグラーヴェル派やアリエル派からの勧誘除けをしたというのが本質だ。その過程で俺の扱いを有名無実にならぬよう変化させねば簡単に見透かされると考えたわけだ。たが俺は分を弁えている。この4年の間に"真の王の資質"について研究し、自分がその器でないと自覚している。翻意して世話になったゼピュロスに迷惑をかければナンシーにも火の粉が飛ぶかもしれない。それだけは困る。

ここから話が変な方に転がって行った。俺は継承権争いに参入することになってしまったのにいつまでたってもアスラ王領に帰らずドナーティ領に居座った。それはゼピュロス家とエウロス家への配慮だったわけだし、屋敷を新しく誂えてくれたゼピュロス家に沿った行動だったはずだ。もし俺がアスラ王領に帰ると言い出せば待ったが掛かっただろう。だが、グラーヴェル兄上は俺に手紙を寄越してきた。

兄上の手紙の内容を要約すると、『お前には王になる素質がないので無駄なことをせずに静かにしていろ。それでも継承権争いに参加したいのならアスラ王領に戻ってきて正々堂々と戦え。自分とアリエルが戦って疲弊したところを横から掠め取るようなやり方で王になっても貴族を糾合した王国運営はできない』となる。アスラの貴族らしい上から目線の物言いと下衆な勘繰りで、嫌な気分になった。

だが煽っているとするならば冷静に行動しよう。彼の派閥はガニウス家とボレアス家を主軸として十分な勢力を誇っている。一方、俺の派閥はゼピュロス家とエウロス家を主軸として内政に集中したい勢力が集まった。どちらの勢力が大きいかで言えば単純計算で俺の勢力の方が大きくなってしまった。だがアスラ王領内、殊にシルバーパレス内の状況で言えば圧倒的にグラーヴェル派に利がある。なら何に焦って、何を根拠にあのような手紙を送るのだろうか。返事をする前にその辺りの情報が必要だ。

 

俺はゼピュロス家の当主に王都の動向を知るための情報収集を要望した。諜報員からの情報は、曰く、ゼピュロス家で優秀な教師の元で眠っていた才能が開花した。曰く、復権するために有力貴族を事前に調査してゼピュロス家を抱き込み一大勢力になった。曰く、グラーヴェルとアリエルが共倒れするまでドナーティ領に引き籠っている。というものだ。なるほど間違っていないこともない。

 

俺は情報を基に草案を作り、ゼピュロス家とエウロス家に提出した。提出した案は多少の修正もあったが了承を得て正式な返答となって兄上の元に送られた。

結果、俺は赤竜の上顎近くにある国境砦で指揮をとる『北方軍司令長官』に任ぜられた。国境砦は軍務省の管轄で、その管理者である長官職は公的な役職だ。北側国境警備の任務はゼピュロス家の私兵で賄われているため、そのお目付け役として中央から派遣されてくるのがこの役職で、閑職の上に荒くれ者揃いの北方騎士に命令をするのが悪巧みだけで生きてきた貴族には相当ストレスになるようだ。長続きせず国に帰る者が多い役職でもある。また、国境警備担当は基本的にその場を動くことができない。何があっても動けないため継承権争いで何かがあったとしてもシルバーパレスに無断で駆け付ければ任務放棄として厳罰が待っている。

この任を引き受けたことで俺の意図も伝わり、兄上も一安心であろう。任務のために国境砦に駐在することになった俺は7年過ごしたゼピュロス家の敷地を離れた。当主の配慮によりナンシーを参事官として配置してくれたため、俺は15歳の誕生日を待たずに国境砦へと向かった。そして俺はこの国境砦で日がな『真の王の資質』とはという命題について考えることになる。

 

 

 




次回予告
時空間魔術における消費魔力量は、
転移者の運命力と転移者が変更し得る
歴史の運命的強度に強い影響を受ける。
それに比べれば時間的距離に比例する
必要魔力量など誤差でしかない。

次回『ナンシー』
だから今、私が関係している事象に目を向けておくべきだ。

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