無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。
 ・ミリスにあるダンジョン「魔道」
は原作では語られていない部分のため拙作のオリジナルとなります。
また、今回の話では
・伝説のオウガバトル
・タクティクスオウガ
のネタが含まれます。あらかじめご了承ください。


第007話_その裏で_アルビレオとサラディン

---小さな手違いでも人を疑うことはできる---

 

私と弟弟子のサラディンを前にして師匠が告げました。

 

「私はこれより『魔道』攻略に向かう。もし私が死んだと判断した場合は、お前らの力で古代龍言語魔術を探せ。古代龍言語魔術の秘術を手に入れ、暗黒道の魔術の力をさらに強くするのだ」

 

ミリス神聖王国の地下に秘匿されたダンジョン『魔道』。師匠はミリス神聖王国の許可を得て、今回そのダンジョンに挑戦なさる。このダンジョンはその魔力を使って魔術書を生成するそうです。その魔術書が人族用のものかはわからないのですが、師匠はそれを入手・解読し、暗黒道の魔術をより発展させようとしています。

 

「承知いたしました」

 

私は貴族的な礼をして、師匠の言葉に応え、サラディンは無言で頷きました。私はサラディンの行動を不敬に感じました。私はこの男が好きではありません。しかし、私の邪魔をしないというならばそれほど無下に扱う必要もありません。

 

「では、後を頼む」

 

師匠は自身の館にある、これまでに手に入れた中で最高と思われる魔力付与品をすべて持ち出していきました。その威容は今代、最強の魔術師と言って間違いないでしょう。

 

私はこの館で師匠を待ちながら魔術の研究をしていましたが、サラディンは師匠が攻略に出て行ってすぐ、追うようにこの館を出て行きました。サラディンに文句を言うつもりはありません。彼とこの館で過ごしたくないという気持ちもありますが、彼は生来の旅人で、ラシュディ師匠の軍門に下るまで一所に留まるということを知らない男だったからというのが理由です。そうと知っていれば、むしろ、この十数年の間に彼がこの館から大きく離れることなく師事していたことのほうが意外だと言えます。

 

そして ―― 瞬く間に30年が経ちました。その間、師匠からは一度の便りもありません。

 

如何に師匠といえどやはりあのダンジョンを攻略できなかったのだと、私はようやく判断を下しました。いえ、本当は15年を過ぎた辺りからもうこれは駄目だろうと思っていました。だから私は人嫌いの御館様をでっちあげ、メイドを雇い、自身は転生術で赤ん坊から人生をやり直しました。御館様は私が得意な人形術を使い、魂の無い人形をまるで一人の人間のように演じさせたものです。目の悪いメイドを雇ったので彼女は簡単に騙されてくれました。

 

話を戻しましょう。私は15歳になったところで御館様を亡き者にし、メイドに相当の金を渡して解雇しました。そして、師匠の言う通りに古代龍言語魔術を探す旅に出ました。私はこの30年の間に暗黒道を研究し、また師匠の蔵書と走り書きを見て師匠の気持ちを理解しました。そこにあったのは苦悩と古代龍言語魔術に託した一縷の望みでした。

 

旅に出て、まず私が向かったのがミリス神聖王国です。ここで師匠の無事を確認しようと思いました。しかし、この国の支配層は30年の間に代替わりをしていました。

秘密裡の指示だったのか私が説明した『魔道』攻略のことは引き継ぎがされておらず、知らぬ存ぜぬで話になりませんでした。いえ……別の考え方もできます。引き継ぎはあったけれども、私の見た目は人族の青年で、30年近く前の話をするのは理屈に合わないと判断されたかもしれないのです。転生をしたことが裏目にでるとは思いもしませんでした。

 

30年―この時間は人族の師匠には長すぎるはずです。失念していました、もしご存命でも師匠は齢70近くなっているはず。もはや一線を退いて隠居暮らしをしていてもおかしくはありません。やはり我が師は死んだと考えるのが妥当です。

 

私は竜や龍と名の付く事物やときには無関係なダンジョンを虱潰しに調査しました。そして私は王竜王国に長く滞在しました。この国にある様々な竜にまつわる伝説から古代龍言語魔術へとつながるヒントがあるかもしれないと思ったのです。その時のこと、間が悪いというか良いというのか、王竜王国第32代国王レオナルド・キングドラゴンが崩御しました。

私はこれをチャンスと捉え、王竜王国の側近に近づき、彼を火葬せずに埋葬することに成功しました。そして夜な夜な王の墓に来て、国王レオナルドの魂を手名付け、古代龍言語魔術について知っていることを聞きだそうとしました。

 

「貴様、何をやっている」

 

少ししわがれた声でしたが、昔聞いたことがある声でした。私が肩越しに顔だけ振り向くと、20メートル先に小剣を手にした見慣れた緑のローブの男がいました。昔は真っ白な髭は無かったのですが……

 

「王の御霊とお話しているだけです」

 

話ながら身体を完全にローブの男に向けました。懐かしい声です。しかし、精霊が囁いています。彼は剣士だと。

 

「何を……なぜ王が火葬されていない」

 

「私がそのように手配しました」

 

「貴様が主犯ということか……何者だ」

 

あぁそうか、転生したから容姿も変わっているのでした。

 

「耄碌……いえ、年をとりましたね。弟弟子サラディン」

 

「…………馬鹿な!」

 

彼の驚いた様は初めてみたような気がします。

 

「ア……アルビレオ?まさか、あれから30年たつのだぞ。その若さ、邪法に堕ちたか!」

 

「邪法ではありませんが」

 

「まぁいい、しかし、魂を弄ぶような行為は見過ごせん。いくら兄弟子でもな」

 

「私を倒しても、王の御霊は彷徨う魂となるだけです。それがわかりませんか?」

 

「お主がやっていることは悪魔の所業だ。結果のために過程をおろそかにすることを良しとするな!」

 

問答無用でした。彼は間合いの外で剣を一閃。斬撃を飛ばす特殊な光の太刀ですか。

私は身体を半身程ずらしてそれを避けましたが、すぐに追撃の火球弾(ファイアボール)が飛んできました。初撃の光の太刀は囮、魔法を唱えるための時間稼ぎとは剣神流らしくない動きです。そう考えながら、今度は大きく左に飛び込んで火球弾(ファイアボール)も躱させて頂きます。私の予想通り、今度は火球弾(ファイアボール)が弾け、周囲を赤く染めました。

 

「止しましょう、ここは王の墓前ですよ」

 

私はそういうと水弾(ウォーターボール)を唱えて周囲に燃え盛る炎を消しました。

 

3手目もくるように思いましたが、彼は立ち止まっていました。彼は小剣を下ろしながら、問いかけてきました。

 

「なぜ反撃してこない」

 

「あなたと戦う理由がありません」

 

彼はほぞでも噛んでいるのでしょう。少し遅れて言いました。

 

「御霊を弄んで何をしようというのだ?」

 

「古代龍言語魔術について知っていることを教えて頂こうとしているだけですよ」

 

「お前が王を暗殺したのではないか?」

 

「滅相もない。ここに滞在している間に王が亡くなったので土葬を手引きしてこうして御霊とお話をする機会を得ただけです」

 

「そうか、しっかり御霊は浄化するんだな?」

 

「もとよりそのつもりですが、約束しましょう」

 

さっきの炎は速やかに消しましたが、王墓の警護兵の声が聞こえてきました。サラディンは走り去りました。

 

私は再度、振り返るとそこに漂いながら律儀に待っていた王に尋ねました。

 

「お待たせして申し訳ありません。私はアルビレオ、しがない奇術師にございます」

 

「良い。待つことも王の器量である」

 

「王よ、古代龍言語魔術というのをご存知ですか?」

 

「そのような魔術を聞くのは初耳である。王竜の使う重力魔術なら知っておるがな」

 

「そうですか、お時間を取らせて申し訳ありませんが兵士がきたようです。浄化は明日以降にさせていただきます」

 

「あい、わかった」

 

兵士たちを倒して王を浄化することは造作もないことでした。しかし、サラディンとこれ以上揉めるのも今後の調査の障害になると感じた私は、王に断りを入れ、その場を去りました。また明日来れば良い……そう思っていました。数日中にはまた忍びこんで浄化を済ませようと思っていたのです。なに、そうたいした作業ではありません。ですが、不審者の侵入を許した王墓の警備はとてつもなく厳重になってしまいました。サラディンが火炎弾(ファイアボール)なぞ使ってくれなければこのような面倒にはならなかったというのに。

それにしても警備は異常なほど厳重でした。少し調べてみると、私の謀略の手伝いをした王竜王国の側近が警備の指揮をしていたのです。この側近の役職を考えれば当たり前のことです。彼は王族の葬祭と墳墓の警備の担当なのです。

そして、これほど厳重にするのは自分の犯した罪を気付かれないようにするのに必死だからなのでしょう。このようなことをしなければ完全犯罪にできるのに努力の方向性を間違えすぎています。サラディン、側近、愚か者はすぐに私の邪魔をする。これが世の理であるならなんとも不出来なものです。良いでしょう。煩わしいとは思いますがさっさと終わらせれば良いだけのことです。私は側近にコンタクトを取りました。

 

--

 

失敗です。なぜこのようなことになったのでしょうか。私はあの側近に会い、彼に報酬の色付きの大きな魔石を3つ渡そうとしました。市場で売ればそれなりの額になるでしょう。しかし彼は言うのです。「金目のものなぞ誰が欲しがったか、私は力が欲しいのだ」と。

最初から彼は力を欲していました。でも力は金で買えるのです。ならば高価な魔石で良いではありませんか。

彼は言いました。

 

「この前の王墓への侵入者もお前だろう!さっさと力を授けよ!そうしなければ判っているな!」

 

この私に脅しとは怒りを通り越して呆れてしまいます。そして私は彼に力を授けました。でも、脅されたのです。少しイジワルするくらい構わないでしょう。私は彼に悪魔転生を施しました。彼の魂を肉体と分離し、用意した抜け殻の悪魔の肉体に押し込めてやる。しばらくして、馴染めば人間の心をもった低級悪魔の完成です。ちなみに悪魔といっても本にでてくる奇怪なモノではなく、魔獣の一種です。彼は自分の死体を見て大層お冠でしたが、新しい肉体に宿る魔力を感じて、最後には満足気でした。それを見て、伊達や酔狂で力を欲した訳でもないと少し尊敬できました。ただ残念なことに彼の精神力ではその身体を維持できず、数日後には彼を押し込めた魔獣の身体も中身のない着ぐるみのようになっていました。己に見合わぬ力を欲すればこうなるということでしょう。

 

責任者が不審な死を遂げたので、王竜王国の場内はまた騒ぎになっていました。さらに警備が厳しくなるかもと思いましたが、杞憂でした。不審な死を遂げた担当者の管轄といっても中身のない場所ですからね。警備は騒ぎが起こる前の状態に戻っていました。

私は悠々と王墓に忍び込み、そして愕然としました。王の御霊はもうここにはありませんでした。

 

--

 

国王レオナルドの御霊を探すため、王竜王国を回ることにしました。彷徨う魂の基本的な習性は記憶に残る人や場所のところを彷徨うと判っているので前王の歴史を紐解きつつ、各地を巡りました。しかし、一つ不可解な点があります。私が御霊を呼び出したのですから、御霊は私の言霊に基本的に従います。どこかに勝手に行ったりはしないのです。言霊の束縛を乗り越える魔力や意思を持つなら例外にはなります。ただし、そういうことが起きるのは神や高位の魔術師だったはずですが、なんとも不可解です。まぁ、起こったことは起こったこと、速やかに対処しましょう。

捜索を始めて5日目の夜でした。場所は中央噴水広場、そこで声を掛けられました。

 

「おい、どうしてこんなことになっている?」

 

声をかけてきたのは弟弟子のサラディンでした。

 

「何がですか?」

 

私は確認のために訊き返しました。

 

「しらばっくれるな。お前は王の魂を浄化するといったのになぜ悪霊に取り込ませたんだと訊いている!」

 

随分と怒っている様子。

 

「王の御霊が悪霊に取り込まれた。なるほど、そういうわけですか」

 

「質問に答えよ!」

 

「私は悪霊に王の御霊を取り込ませたわけではありません。あなたと再会した日、兵士が大勢来たので浄化できずに帰りましたが、落ち着いてから浄化をすると御霊と約束して別れたのです」

 

「ふん、それで俺が騙せると思ったわけだな。あぁそうか、たしかにあの時、俺はお前を信じて剣を引いた。だからといって今回も騙せると思うな。取り込ませた悪霊もお前がつくりだしたと調べは付いているのだからな」

 

「……そのようなこと」

 

「黙れ!王の御霊を残すために手配した側近を殺したのはお前だろう! 魔獣がやったとみせかけても私は分かっているのだぞ」

 

つまり、私が面倒になって魔獣を使って側近を殺し、側近のゴーストに王の御霊を食わせた。そういう筋書きですか。

 

筋は通っていますが……私にはそのようにする動機がありません。そこを突けば疑いは晴れるでしょう。

 

「なぜ、私がそのようなことを? メリットは何だと思うのですか?」

 

私は次の質問をしました。

 

「動機がないから、自分は犯人じゃない? 違うな。動機がないから自分は犯人から除外される。そういう算段だろう」

 

「つまり、動機がないという一点を持って私はあなたの追求を逃れられるので、バレやすい方法を使ってでも王の御霊を悪霊に取り込ませた。そういうストーリーだと? 誰かにそう入れ知恵されたのでしょうか?」

 

「下らぬ問答はもう止めだ。我が剣の錆となるがよい!」

 

信頼していたものに裏切られれば盲目となるということですか。愚かな弟弟子よ。少し冷静になる時が必要ですね。そう思った瞬間、私の身体は空へと舞い上がりました。サラディンの重力魔術。厄介ですね。身動きが取れないところを光の太刀で切り裂こうというのですね。でもそうはさせません。

 

「不確かなる神よ!我が呼び声に答え、大地より天を突け! しかして、その様は長く、そして太い! 『土槍(アースランサー)』!」

 

距離と形を変えるために追加詠唱を行って土槍(アースランサー)を自分の足元に呼び出し、私の身体を重力中和から無理やり押し出しました。軽やかに飛び降りたところに光の太刀。これを回避する術は本来ならありません。必殺の太刀。着地とほぼ同時に懐の魔力付与品(マジックアイテム)の球を光らせ、物理障壁を生み出します。

 

ガツッ

 

物理障壁が光の太刀を押しとどめてくれました。馬鹿な弟弟子は二度、三度と光の太刀を放ってきます。今度はこちらの番です。

 

「永遠の命に微睡みし深淵の王よ。長き眠りのために生み出したるその術を我に与えん。我、その力を持って汝の友を作らん。我、その力を持って汝の僕を作らん。彼の者は何人にも気付けられぬ身体となりて深き眠りに入らん。彼の者よ、この地に返るときを待つべし。石像硬化(ペトロスタテュー)!」

石化の治癒魔術。詠唱しながら相手の間合いに入るために走ります。これを迎え撃つサラディン。彼の剣が障壁で一瞬留まり、完全には止めきれず、振り降ろされます。

それも考慮済みです。一瞬停滞した太刀筋を私は簡単に読み取り、半身で彼の身体に直接触れ、そして魔術を解放。絶妙のタイミング。

 

魔術は成功しました。それでもまだ彼は動けます。この魔術は必殺ですが、即効性が薄いのが弱点です。ただし勝負はありました。彼はだんだんと動きを鈍くして最後には石像となり果てました。

 

「15年ほどそこで反省しなさい」

 

石像となった彼に言い渡して私はここを去りました。王の御霊が悪霊に取り込まれたなら、浄化の義務もないでしょう。私の目的は古代龍言語魔術です。それを忘れてはなりません。




次回予告
水神流開祖レイダルは神級剣士にして水神級魔術師だった。
つまり魔法剣士だった。
剣術に関しては"類まれなる才能により自ら編み出した"と納得しても良い。
だが魔術はどこかの誰かから教わったはずだ。
それはどこの誰か? 全くの謎である。
また残念なことに水神流道場は剣術の指導のみで魔術を教えていない。

次回『新分野の開拓4_時空間魔術_人形術_魔法剣士』
闘気の無い魔術師が接近戦の立ち回りを学びたい?
それなら、そうだな。アルビレオが適任だろう、か。

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