無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第091話_魔女デネブ

--- 誰かに頼るとき、条件を付けてはならない ---

 

冒険者ギルドと港近くの関所に調査した翌日、俺達はザントポートにある商人組合の事務所へと足を運んだ。

その名も大森林商人組合本部。

2階建ての1階が各種事務受付、2階は証書管理をする場所になっている。

本部というにはこじんまりとした建物だ。

そこへ予約も無しに訪れたわけだが、事務所は閑散としていた。

受付でボンヤリしていた胸部の豊かな女性に用件を話すと、案内される形で1階奥にある応接室へとすぐさま通された。

 

受付係が「本部長を呼んできます」と部屋を出ていく。

応対は丁寧だ。

若くまだ成人前にみえる3人組が子供扱いをされることもない。

理由の1つは身形(みなり)を整えてきたからだろう。

俺は商人然としたシックな装い、ロキシーには秘書っぽいパンツルック、エリスは昨日と変わらず冒険者風で護衛役の風体を。

いずれもそれなりの値の張る仕立てをしている。また、ロキシーは脱帽して髪色から魔族だと判るようにしたので、魔族とも交流のある地元民であれば彼女らが見た目通りの年齢でないことは理解できているだろうという計算もある。

いや土地柄で言えば近くに小人族の集落だってあるのだ。背丈で侮ったり、子供だと決めつける習慣自体が無いかもしれない。

 

そんなことを考えていると、少しふくよかなご婦人が先程の受付係を伴って現れ、本部長をやっているミナス・シェライスと名乗った。座ったままそれを聞いていた俺達はソファから立ち上がって自己紹介し、ソファへと戻る。

話はミナス本部長が切り出した。

 

「それでルーデウスさん。

 ご用件は『ザントポートの視察』とお聞きしておりますが、具体的には本商会に何をお求めなので?」

 

「ここザントポートで商売を始められるか現況視察に参りました。

 一通り回ってみましたが、パッと見て判らぬこともありますし、他の商店に押し掛けるのも迷惑だと思いまして」

 

「つまり、組合員の構成状況などを知りたい、という訳ですね」

 

「その通りですが、話せる範囲で構いません」

 

「それは、もう」

 

ホホホと愛想笑いをした後、ミナス本部長はザントポートの立地から来るいくつかの産業について話し始めた。

大森林の雨季に対応するための旅館業。

雨季に現れるレアモンスターの素材を買い付け、加工する業者。

聖剣街道を進むための馬車の製造販売、それに馬車を曳くための馬の飼育、馴致(じゅんち)、調教。

大森林から切り出してくる木材・間伐材の販売加工業。

海産物の漁獲と販売業。

ザントポートの子供と大森林の各部族の出身者が在籍する学校。

 

また、産業を支えるギルドとしては木こりギルドと漁業ギルドの2つがある。

木こりギルドは大森林のモンスターの退治をしつつ、木の伐採を行うギルドだ。木材が燃料や建築資材であるため、ベガリット大陸と魔大陸を除いたほぼ全世界にあり、冒険者ギルドや魔術ギルドに匹敵する巨大ギルドだ。

そして漁業ギルド。港湾と浅瀬に現れる水棲モンスターを退治し、港湾利用料と海水から塩製造をする事業、さらに浅瀬での漁業を営む団体だ。

 

俺はふむふむとメモを取っていたが、ロキシーはその応えに「船会社は無いのですか?」と問う。

その質問にもミナスは、

 

「定期航路以外は余りにも危険なため航路は1つしかありません。

 造船業も海運業もウェンポート側にある商会で事足りています」

 

とスラスラと答えた。

 

「だからザントポート側に船会社はないということですね」

 

ロキシーが相槌を打ち、ミナスが頷く。

俺はまたなるほどと言いながらメモを取る。

どっちが秘書だか判らない感じになってきた。

 

続けてロキシーが問う。

 

「では、港に隣接する4つある倉庫は誰の所有物ですか?」

 

ミナスは少し訝しがりながら、

 

「この地に1つだけあるデネブ商会の所有するものです」

 

と告げた。

 

「あぁ船会社の物ではないんですね」

 

と相槌を打つロキシー。ミナスは少し笑って、

 

「国外取引を行うなら商館を経由しなければいけないですから」

 

と返す。そういえば昔チュレンガンに商業の初歩を習ったときに似たようなことを習った気がする。思い出しながら、手元のメモに『商館:デネブ商会』と書き付ける。

 

「この地にはアスラ商会やミリス教商連合の商館は設置されていないのですか?」

 

今度は俺が聞いた。

 

「アスラ商会の商館が設置されているのは街道のあるミリシオンまでとなります」

 

「ミリス教商連合の方は?」

 

「ミリス教商連合はその名の通りミリス教を母体とした商館です。

 魔大陸と商売をするなどありえません」

 

俺はミナスの答えに満足して大きく頷いた。

それもそうか。

 

「まだお知りになりたいことがありますか?」

 

こちらが沈黙を保ったのを見てミナスがそう問いかけた。

俺としてはデネブ商会についてもっと聞きたい。

だがこれ以上下手な質問をするとルード商店に疑惑を持たれることにもなるだろう。

つまり、商売に絡めて上手く聞かなければならない。

うーむ。

 

「……そうですね。

 我がルード商店では中央大陸とミリス大陸でそれぞれ商売をしています。

 輸出入をせずに各地で製造販売をしておりますれば、商会のお世話になることもありません。

 ですが問題が1つ」

 

「問題?」

 

「はい。中央大陸とミリス大陸の物価の違いが大きいということです。

 ミリス教商連合さんの方は物価の高いアスラ方面への輸出になり、アスラ商会さんでは特産物を大量に移動させることで商売の利益を得ている。

 ルード商店では物価差に対応するために各地で製造販売をしています。

 そのどれもが効果的ではあると思っています。

 ですが我がルード商店の手法の場合、ルード商店全体で見た場合のミリス大陸での活動に大きなメリットが出ないという問題があります。何せ売り上げが生み出す利益は中央大陸の10分の1ですからね。

 これに対応するにはアスラ商会のように規模を使って、大量に消費される物を売るのが良いように思えますが、我が社で同じことをするのは難しいです。

 そしてデネブ商会さんというのはあまり規模が大きくない。魔大陸とミリス大陸の物価差を越えて上手くご商売をされているのには何か秘訣があるようにお見受けします」

 

「なるほど、それに関しては私共もデネブ商会と付き合いがあるので色々と理由が思いつきます。

 しかしながら、付き合いがある故にあまり軽々に競合する他社様へその仕組みをご説明することはできません」

 

「そうですか」

 

俺も無理に聞き出そうとはせず、引き下がる。

 

「でも、そうですね。

 デネブさんは変わった方ですからご本人に直接お尋ねしてみれば、案外簡単に教えていただけるかもしれません」

 

「簡単に会える方なのでしょうか?」

 

「えぇ。

 割と軽い感じの方というか。なんにでもポジティブな方ですから。

 あと、そうですね。

 女性には厳しい方なのでご注意ください」

 

「判りました」

 

--

 

話を聞いた翌日からデネブに会うためにザントポートで色々と情報収集をした。

ラノア魔法大学の卒業生。

巷では魔女デネブと呼ばれている。

フルネームはデネブ・ローブ。

長耳族とどこかの魔族のハーフ。

女性。

30年程前にこの地にやってきた彼女は町から離れた森の奥で魔術研究を始めたそうだ。

この大森林の中で一人で生活できる魔術師ということで周辺住民からも相当な強さを持っているのだろうと噂されていたが、特に接触がなかったせいで、その噂も長続きせず、その存在自体が忘却の彼方へと消えた。

それから10年の月日が流れた今から20年前。

ザントポートや周辺の獣族の集落で男ばかりが何人も消える事件が起こる。

容疑者不明のまま事件が捜査され、そして被疑者不明のまま1年が過ぎた。

捜査が頓挫したことで住民は自警団を組織し、犯人捜しではなく被害を抑えるために力を注ぐようになった。

 

人族側で被害が少なくなった時を境に、大森林の中にある村々で被害が増え始める。

そして獣族が捜査に乗り出す。

獣族は鼻が利く。

容疑者の体臭。使われている香水の匂い。

すぐに犯人が見つかった。

 

ここまでの話で分かると思うが、犯人はデネブだった。

彼女は男を魅了してしまう体質。

年齢的なものか、食事か、魔力の濃さのせいかその全てが影響しているのか。

その体質がここ数年で強化されてしまったらしい。

彼女が研究用の資材を買いに町に出掛けたり、大森林を歩いていると周辺の町や村から研究室にどんどんと男が付いてきてしまったということだった。

が、何かを理由にデネブは篭絡した男達を解放した。

 

その後、彼女は商館を立ち上げる。

何が彼女にそうさせたのかは分からない。

とにかく商会が品物を買い付けるようになったことで、男が誘拐されることは無くなった。

調査によると、デネブ商会は木こりギルドがさばききれなかった木材を廉価に仕入れて魔大陸に卸し、代わりに魔大陸で研究資材を調達しているという。とても儲かるとは思えないがどうなのだろうか。

 

--

 

一通りの情報収集が終わった晩、俺は夢を見た。

 

大森林の中にある屋敷。

通常1階部分になるところには大きな石垣が積まれ、雨季の増水対策が為されている。

そこを獣族の戦士たちが包囲して、地響きのような唸り声が森に木霊した。

1つ甲高い咆哮が轟くと地響きが止む。

その声を上げたのは精悍な顔立ちの戦士長ギュエ……いやこれはギュスターヴだろうたぶん。

 

「出てこい! いるのは判っているぞ!」

 

彼が流暢な人間語を上げる。

すると、開け放しの屋敷の入り口から女性が現れた。

 

「ワンワン、ニャーニャーとうるさいわネ」

 

「連れ去った仲間を返せ、魔女め」

 

魔女。ギュスターヴはそう話した。

ならばこの女性がデネブということか。

 

「連れ去っタ?

 それは濡れ衣ヨ。

 私の屋敷に居るのはみ~んなワタシの事がだぁいすきな子ばかりなんだかラ」

 

いけしゃぁしゃぁとそう反論したデネブの横に獣族の男が姿を現し、そして本当に心から訴えた。

 

「俺の幸せはデネブ様に奉仕することです。

 ギュスターヴ様、おかえりください」

 

男の言葉に満足するデネブが勝ち誇った表情をする。

 

「ほうら聞いたでしョ?

 本人が言ってるんだから疑う余地はないワ!

 もう帰ってもらえル?」

 

「黙れ!

 お前の妄言に付き合っておめおめと帰るわけがなかろう!

 ギルバートは魔女の魅了(チャーム)に惑わされているに過ぎんことは明らかだ!」

 

「あらラ。

 こんなこと、私が魔術で言わせてるって思ってるわケ?

 悲しいワー。デネブちゃん泣いちゃウ」

 

デネブが嘘泣きだとバレバレのジェスチャーで泣いてみせる。

するとギルバートと呼ばれた獣族がその姿をみて彼女の腰に抱き着いて

 

「デネブ様、あぁ私のために泣かないでください」

 

と本気で泣き始める。

その言葉が看過できなかったようで、さらに2名の人族の男が屋敷の入り口に姿を見せると、

 

「馬鹿。デネブ様は俺のために泣いてくれてるんだ」

「おい、何をどさくさに紛れて言っている。俺のために決まってるだろう!」

 

と争い始め、

 

「私のために争っちゃいやぁン。

 私の涙はみぃんなのものヨ」

 

その様を見てデネブがさらに悲しむという寸劇が始まっていた。

 

「話にならん。

 仲間は返させてもらう!」

 

ギュスターヴは馬鹿馬鹿しいといった感じだが、もうその様子すらも寸劇の中の一コマだ。

 

「抵抗はしないワ」

 

高らかにデネブが応じる。

 

「デネブ様、我々をお見捨てになるのですか?」

「嫌だ嫌だ。デネブ様。もっとご一緒に居させてください」

「そうです。デネブ様と離れるなら死んだほうがマシです!」

 

「いやぁン。私の美しさってやっぱりこんなに罪なのネ~」

 

ハンカチで目頭を押さえながら見送るデネブと抵抗しながらも引き摺られていく男達。

だが、ギュスターヴの怒りの籠った言葉が彼女達の寸劇に幕を下ろす。

 

「魔女よ。次に獣族に手を出せば命は無いと思え!」

 

そういって、鋭すぎる眼光がデネブを射抜くと、「ひぃッ」と口走ったデネブが錆び付いたブリキの玩具のような動作で敬礼する。

 

「わっかりましタ~!」

 

その様子もふざけているように見えたのか。

気に入らないことを隠そうともせずギュスターブが「ふんッ」と鼻息を1つして踵を返した。

 

誰も居なくなった建物に残ったデネブ。

 

「あ~んもう、なによなにヨ!

 判ったわよ。私が誘ったわけでもないのにぜ~んぶ私が悪いみたいじゃなイ。

 はぁ……でも、これからどうしようかしラ」

 

呟くデネブの後ろ姿は哀愁を漂わせていた。

 

デネブだけの研究所。

テーブルには囲いの1人が置いて行ったのであろうカボットの積まれた籠。

そこから1つカボットが床へと転がり落ちた。

転がるカボットを彼女が拾い上げ、まじまじと見つめる。

そうして夢が終わる。

 

--

 

再び見た夢。

髪は黒く、分厚い胸筋と一目みて強靭だと思わせる脚線を持ち合わせた壮健な戦士。見覚えはないが、あれはギュスターヴだ。

それから彼は言った「魔女め」と、ギルバートという獣族も「デネブ様」と呼んでいた。

その名前は商人組合で聞いた名前、調べた話、それらを重ね合わせた内容に一致する。

この都合の良い夢が何を示しているのか。

なぜ最近になって俺は見たことも無い過去を見るのか。

それが本当に過去にあった事なのか、それともただの妄想なのか。

判断は付かない。

悪神がもっともらしい夢を見せておいて、僅かな違いを潜り込ませれば俺は気付かないだろう。

そう言うのは人を騙す手口としては巧妙で対処がしにくい。

だからそのまま信じることはできない。

 

 

 

デネブ商会は町の外れにある。

魔大陸との貿易専門の商館としては立地がややおかしいが、港には倉庫が用意してあるのでそこまで問題はないのだろう。

一方で昨日の夢に見た森の奥にある研究所と町の中心を結んだ線上にこの建物があるということは、密輸品を運ぶための坑道で繋がっている可能性もあり得るわけか。

 

3階建ての商館の玄関をくぐると、2階へと吹き抜けになったがらんとした空間に入った。

入り口手前には10人机が3つ、椅子と共に並び、その奥には受付カウンター、カウンターの両脇に2階へと続く階段が見える。

外光が差し込む明るい室内には、雨季間近の湿気を吸った建材の匂いだけが籠っていた。

誰も居ない商館。

 

「誰も居ないわね」

 

「いつもこうなのでしょうか?」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

2人の言葉に俺は曖昧に濁しながら、窓側のサッシを観察して、ほとんど埃が積もっていないことを確認する。

”ほとんど”という事は、少しだけ埃っぽいともいえる。

ここ数日、掃除が出来ていないといった所か。

 

「最近までちゃんと掃除されていたようですし、たまたま非常事態で職員の方が外に出ているとかでしょうか」

 

「一人くらい連絡要員で残して置いた方が良いとは思いますけど」

 

「カボ? 帰って来たの~?」

 

声がしたと同時に2階の部屋の扉が1つスッと開いた。

 

「あら? だぁれ?」

 

そう言って、女性が1人駆けてくる。

 

「ルード商店のルーデウス・グレイラットと申します」

「秘書のロキシー・M・グレイラットです」

「護衛のエリス・グレイラットよ」

 

「あら、商人の方。

 私は商館長のデネブ・ローブよ。

 わざわざ来て頂いたのに御免なさいね。

 今、ちょっと立て込んでるの。

 十分なおもてなしはできませんわ」

 

「見たところ従業員の方が居ないようですね」

 

女性には厳しいとの話を受けて、俺が受け応えをする。

 

「ええ、そうなの。

 皆、賃金が未払いだー……って違う。

 違うのー、もうお客さまは気にしないで。

 トラブルに巻き込んでは、そちらのご迷惑になりますもの」

 

「私共も用事があって来ましたので、協力することでお話をきいて頂けるならご協力を惜しみませんよ」

 

「優しいのね」

 

「こほん」ロキシーが咳払いを1つ。

後ろからは、剣鞘を指で弾く、カツンカツンという音も聞こえてくる。

俺の提案とそれに対するデネブの受け答えが後ろの2人にはお気に召さない模様だ。

 

「うふふ。冗談よ。

 いいの、これは元々私が研究で失敗しただけのこと。

 私自身で何とかしてみせますわ」

 

「何か気になりますし、話だけでもしてみてください」

 

「貴方、ルーデウス君といったかしら?」

 

「はい」

 

「男の子よね?」

 

「そうですね。

 もしかしてお姉さんからは僕が女の子に見えたりしています?」

 

「あはは。

 そうじゃなくて。

 私の呪いが効いてないのね」

 

「お綺麗だとは思いますが、これでも妻を持つ身ですから。

 あまり惚れ気のようなものを見せると後で叱られてしまいます」

 

「それだけ愛されてるのね」

 

「ええ」

 

「あ~ん。どうしようかしら」

 

「もしそれで本当に面倒に思うなら僕らは関わりませんから、話してみてくださいよ」

 

「乙女の気持ち。判るでしょ?

 (呪いが効かない子に嫌われたくないのよねぇ)」

 

「心の声、漏れてますよ」

 

「あら、嫌だ(ハート)」

 

そう言ってデネブが悩まし気にウィンクをする。

その目からハートのようなものが飛んできたので回避。

今のウィンク、魔力が込められていた気がする。

もし当たったら俺も魅了(チャーム)されたかもしれない。

本人はそのつもりがないのだろうけど、恐ろしい呪いだ。

 

「話しても良いけど、嫌わないでくれる?」

 

デネブのお願い。

 

「お約束します」

 

俺は力強く頷いた。

 

「そう。なら話すわ。

 えっとね、お姉さんってこう見えて巷で魔女って呼ばれるくらい魔術に詳しいの。

 それで新しい魔術の研究もしてるのよね。

 それでそれで新しい研究には割と特殊な材料が必要だったりするのよね」

 

「材料ですか」

 

「そう。

 貴方も魔術師だから判るわよね?」

 

デネブは俺ではなくロキシーにそう問いかけた。

 

「え、はい」

 

秘書の格好をしているロキシーは少しだけ遅れてそれに応える。

 

「青い髪の魔術師、結構有名な詩曲だものね」

 

「あぁ……そうですね」

 

「んふ。

 友達の吟遊詩人が貴方のことを良く唄っていたの」

 

ロキシーは少し気まずいように視線を床に落とした。

 

「話が逸れてるわよ」

 

「あら、ごめんなさい」

 

「それでね。

 呪いがあって買いに行けないから、ゴーレムを作って従業員にしたのよ」

 

「人形の従業員ですか。

 それは、なかなか妙案ですね」

 

「でしょう?

 でも泥人形じゃ可愛くないからカボットを使ったのよ」

 

「カボット? あの野菜の?」

 

カボットは他の木に絡まって成長するツル性の植物で食用の大きな実をつける。

雨季の洪水で生き残るための独自進化なのだろうが、味はだいたいカボチャだ。

 

「そう!」

 

「ちゃんと働く良い子達だったんだけど、リーダー役のカボちゃんがお給料をくれって言い出しちゃってね。

 他の皆も唆して出て言っちゃったのよ」

 

「人形が給料を?」

 

「人形なんだけど従業員だもん。

 私以外の人間ともやり取りする訳だから、意思と個性を持たせたのよね。

 そしたらカボちゃんはちょっと理屈っぽい子に育ったみたいなのよ。

 『労働対価を払わないなら獣族の村に行って話をつけてくる!』って出て行っちゃったのよね」

 

「そこでどうして獣族の村に行くことになるんですか?」

 

「私がね。

 『人形のくせに対価とか生意気よ、主人の言うことに従うのが人形の務めでしょ!』って言ってやったの」

 

「それで?」

 

「うーん。

 良く覚えてないけど、その後もあれこれ言い合いをしてぇ。

 最後に『どうして人形なんて作ったんだ』って口ごたえしてきたの。

 あの子そんなヒドイことを言ったのよ」

 

「それはヒドイですね」

 

「でしょ~?

 それでね。

 『ギュスターヴに村の周りをウロウロするなって言われたから貴方達を作ったの』って答えちゃったのが原因な気がするわぁ」

 

「ギュスターブとは獣族の族長の、ですね?」

 

「そうなの!

 当時は戦士長だったのよ~」

 

「なるほど。

 ならカボちゃんは、ギュスターブさんをデネブさんの主人だと思ったのかもしれませんね」

 

「あぁん。そういうことかも!」

 

「ちょっと。

 どういうこと?」

 

ロキシーの指摘にデネブは納得したが、エリスはクエスチョンマークだ。

 

「デネブさんがギュスターヴという方の言っていることに素直に従っているから主人と思った、と言うことでしょう」

 

「ふぅん」

 

俺が補足し、エリスは得心したようなそうでないような顔をする。

 

「ちなみに出て行ったのはどれくらい前のことなんですか?」

 

「ん~。

 14日、いえ15日くらい前かしら?」

 

「随分前じゃないですか!

 何をぐずぐずしてたんですか?」

 

「デモデモ……。

 ワタシが森の中をウロウロするとギュスターヴが命は無いって言ってたしぃ」

 

「あの夢はこういうことか……」

 

「夢?」

 

「いえ、気にしないでください。

 とにかく村を襲うって言っていたんですね?」

 

「そうなのぉ~」

 

「判りました。

 そちらの問題は僕達で何とかします」

 

「ほんとぉ?

 後でお姉さんに無茶な要求してくるとかしない?

 (してくれてもイイんだけど……)」

 

「知りたいことの大まかな流れはだいたい判りましたので、情報料として問題解決をしても文句はないでしょう」

「そうですね」

「2人が良いなら、構わないわ!」

 

俺はデネブの誘惑を無視して、問題解決を引き受けた。

 

--

 

新造船が到着するまで残り4日。

3人で今後の予定やどう立ち回るかの相談をした結果、残り日数との兼ね合いから少しだけ強気に出ることにした。

 

夜更けの波止場。

そこにある『第3倉庫』前に俺達3人の姿があった。

特に会話もせずに目線を交わしてから頷き、事前にした段取りの通り倉庫の中へと入って行く。

 

倉庫の中を見回すと右奥隅に1つの灯りが見えた。

恐らくそこに人がいるだろうと、近づく。

すると、一人のモヒカン頭が木箱に座って休憩していた。

モップの柄の端に両手を重ねてその上に顎を乗せている。

お疲れのようだな。

 

「こんにちは」

 

俺は威圧感がないように軽く声を掛けた。

 

「何だお前ら?」

 

「デネブさんに頼まれて来たのですが」

 

「あ? 何もきいてねぇぞ」

 

「デネブさんは呪いがあって連絡のしようがなかったからですよ」

 

「信用ならねぇな」

 

「カボちゃんの様子が変ではありませんでしたか?」

 

「何だよ急に」

 

「このままだと商館は獣族に潰されます。

 よく見たら人ではないようですし、貴方もきっと殺されてしまいますよ」

 

「坊主、おめぇは俺が人形だってわかるみてぇだな」

 

「ええ。

 少し気配が薄いので」

 

「それで、どうして俺達が殺されるんだ?」

 

「カボちゃんの造反がこのまま進めば、本当に起こることです」

 

「お前さんはそうなるという確かな情報を持っているって訳か。

 まぁ、危ねぇ仕事だったし、そうかもな。

 だが、ここで引き下がっても俺達に未来はない」

 

「どういうことです?」

 

「人形は魔力の供給がなければいずれ機能停止する。

 だから俺らは密輸品の交換で魔力結晶を手に入れなきゃならねぇ」

 

魔力が万能だとしても召喚した精霊と人形には活動するためのエネルギーを供給しなければならない。

創造主に反旗を翻したのなら、自分で賄わなければならない。

 

「なるほど。

 協力してくれるなら、魔力供給の件も労働対価の件もデネブさんに取り成しましょう」

 

「そんなこと坊主がどうして約束できる。

 俺が人形だからって騙そうとしてるのか?」

 

「僕はデネブさんにこの件に関して、後で無茶な要求をしてもイイと確約を受けています。

 謂わば交渉の白紙委任状を持っていると言っても良いでしょう」

 

正確には微妙にニュアンスは違うのだが、何とかなるだろう。

 

「なら、それをデネブ様が言ったという証拠は?」

 

「ふむ。確かに証拠はないですね」

 

「話にならん。言った言わないで揉めるだけだ」

 

デネブの言葉からも察せられたようにカボット人形は言葉の解釈、自己保身をするための論理構造の構築が可能なゴーレムのようだ。語彙も豊富だし、この地域で商館経営の手伝いをするなら魔神語、獣神語、人間語が話せると予想できる。人形使いとしての優秀さは相当なものだ。

 

「ふむ」

 

少し思案して

 

「実は、僕も人形術が使えます」

 

と言ってから急造のゴーレムを作成してみせる。

無詠唱の土魔術で造形したゴーレム。細部の造りがちょっと甘いが、まぁ良いだろう。

 

「お手」

 

言われた通りにお手をするゴーレム。

それをみてカボット人形は目を丸くした。

 

「もしデネブさんが魔力供給について意地悪するようでしたら私が貴方達をその問題から解放しても良いですよ」

 

「そこまでする義理が坊主、お前にあるのか?

 デネブ様にいくら積まれた?」

 

その言葉に、俺達は3人で顔を見合わせる。

 

「タダ働きよね?」

 

エリスが口にした。

その言葉に少しカボット人形が眉を顰める。

その反応に俺は早口でまくし立てた。

 

「お代は頂いてませんが、それよりも僕らは気難しい獣族や聖獣とのコネクションを作りたいのですよ。加えてこの件を上手く解決してデネブさんとも友達になれるんじゃないかって思ってます」

 

「トモダチ……ダチか。

 金で雇われているんなら、その額を超えたときに裏切ると思ったがな。

 そういう考えなら信じる価値はある……か。

 どうせ給料なんてカボのヤツが息巻いているだけだ。

 魔力供給の件もやってくれるっていうなら俺は坊主に協力するぜ。

 俺の名はカボンバ。付いてきな」

 

モヒカンよ。お前もカボじゃねぇか。

心の中でツッコミを入れたが余計な事は言わずにいると、モヒカンは座っていた大きな木箱を動かした。

そして俺達に合図も送らず、いつのまにかモップから持ち替えていた松明を手に階段を降りて行った。

俺達はその後ろを追いかけて洞窟の中へと潜った。

 

 

 




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