【仮題】遠野志貴のグランドオーダー   作:ネコ七夜

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お待たせしました。
デオンちゃんのメイドコス解放はまだかぁ!!!


Program 00

Order/_00【 LIAR 】

 

 

 

◆暗転

 

 

――――頭痛がひどい。

 

喩えるなら、何千度も過熱した溶鉱炉で熱したナイフを直接脳みそにぶち込まれたかのような、声にならない衝撃と絶叫。

 

意識は蒸発し、視界はとっくに焼け焦げて。何でもない、ついさっきまでの記憶がグチャクチャになって頭蓋に張り付いた様な錯覚。

 

一瞬でも正気を失えば、自分の名前さえも忘れてしまいそうだ。

 

固まった体を如何にか揺すり、漸く己が横たわっている現実を確認する。

 

どうやらまた貧血を起こしたのだろう。頬と胴体に伝わる感覚から屋外ではなく屋内の床であることが判断できた。

 

何のために、何処の屋内にいたのかは、てんで分からない。

 

………眼鏡を探さなくちゃ、

 

いつも通り、慣れ親しんだ手順で体を弄る。

 

胸のポケットから、見慣れた大事な、命と同義の眼鏡を探り当て、安堵する。

 

これを掛ければこの頭痛も治まるだろう、そう己に言い聞かせ、恐る恐る顔へ持っていく。

 

見えてきたのはツギハギだらけの、下手な落書きで埋め尽くされた世界。

 

思わず、胃の中のノモが、痙攣のあまり口から漏れそうになるのを必死でこらえて飲み込む。

 

喉に焼けつくような痛みが走り、零れた声は酷く枯れている。

 

「ぐ、……ううぅ……っ!!」

 

途端、今度は胸を抉られるような痛みが襲う。

 

漸く起き上がろうとしていた体は足から崩れ、膝をつき無様にも頭から床へ再び倒れこむ。

 

何か大事な繋がりが途切れそうな、そんな感覚を不意に覚えるが、呼吸もままならない息苦しさに、そんな幻覚は消えてしまう。

 

 

やっと絞り出すように懇願できた言葉は―――――

 

 

「誰だい……君?」

 

出来れば人を呼んできてほしいんだ。

 

とまでは言い切れず、再び意識を手放す羽目になった。

 

真っ白に沈んで行く視界の中で、確かに捉えたのは――――

 

ピンクブロンドの髪が印象的な、俺と似たような大きめの眼鏡を掛けた、女の子の姿だった。

 

 

 

 

◇前転

 

 

 

――――ふと、幻を視た。

 

いつの頃かわからないけれど、もう思い出そうにも不確かな、そんな記憶なのだろう。

 

魔法使いに出会ったのは。

 

秋葉や翡翠と過ごす日々が崩れ去り、一面の死に恐怖していた、あの頃。

 

先生と話す時間は大抵、空を眺めていた。

 

流れる雲は壮大で、一面に広がる青い景色はそれだけで心が落ち着き、先生との会話は唯一の理解者であった為だろう、心が弾んだ。

 

病院を抜け出して、駆けて往ったあの丘の景色は、何物にも代えがたい宝物であり、遠野志貴という人格を形成するための重要な時間だったのだろう。

 

だから、この眼のことは家族にも……そう有馬の家も秋葉も、誰も知らない。教えていない。

 

遠野志貴が人間で在る為に。人間として生を遂げるためには、そんな異常なんて必要でなかった。

 

けれども、普通じゃない(・・・・)ってことは、それだけで他の非常識なモノを惹きつけ易くする。

 

それは――――――――いったい、どこでの記憶だったのか……

 

 

「――い、……ン輩。」

 

声が聞こえる。先輩と呼ばれることなんてあまり無かったな。と、ごちゃごちゃになった記憶を振り返りながら、漸く自身が睡眠か気絶かは解らないが意識を堕としていたことを確認して、ゆっくりと目を開ける。

 

 

「―――ここは……」

 

周囲の状況はつかめないが、眼鏡を手探りで探す。

 

声がしたということは、人がいるということだ。

 

ベッドに寝かされていたのだろう、寝かされていた体を捩じり、そばに置いてあった眼鏡を掴むと素早く掛ける。

 

目を開いて、何処かの病院か研究施設だろうか。近未来を思わせる―――そうSF映画のような金属製の壁に覆われた、しかしながらベッドや他の備品や調度品の高級感から壁に対しての窮屈さを感じない。

 

「先輩!―――よかったです。ドクター、先輩が意識を取り戻しました!」

 

「本当かい!?いやぁ良かったよかった!気を失ったままじゃ、今度こそ所長から大目玉を喰らうところだったよ。」

 

…やっぱり、聞き覚えのない声だ。

 

咄嗟に、不自然でないように、体を起こしながら身に着けているものを確認していく。

 

「やあ、気分はどうだい?遠野君。」

 

視線の先には二人の人間がいた。

 

柔和な顔つきをした、癖のある薄茶色の髪を後ろで縛った白衣の男性と、ピンクブロンドの髪で右目が隠れるまで前髪が伸びた、ちょっと鬼太郎みたいなヘアスタイルの少女がいた。

 

「とりあえず、なんとか……」

 

胃の中のモノを吐き出さない程度には体の不調は回復したといえるだろう。

 

しかしながら、いまだに体は烈火のごとく発熱していて寒気すら感じる。

 

寝かされていたベッドの上で体を起こすが、どうにも力が入らない。いや、感覚がやけに鈍い。

 

「まだ熱があるようだね。シュミレーター室の出口付近で君は倒れていたんだ。適正者でも慣れてないとたまに気分が悪くなる例は知っていたけど、体調にまで影響が出るなんて報告は今までなかったからね。僕も驚いたよ」

 

よく分からない単語が出てきているけれども、どうやら何らかの施設であることは理解できた。

 

「念のため、記憶に問題はないかい?自分の名前は分かる?」

 

少し冗談交じりで、白衣の男は問いかけてくる。申し訳ないけれど―――――

 

「遠野志貴、今までのことは覚えているつもりだけれど………。ここがどこなのか、何でここにいるのか……」

 

今の自分がどういう状況にあるのか、まるで思い出せない。

 

先輩から届いた手紙と、同封されていた地図を見て出かけたことは覚えている。

 

献血場に扮した組織のスカウトマンに連れられて――――――

 

「そんな………!マシュ、悪いけど所長に連絡してきてくれ。僕は彼の状況をもう少しヒヤリングしてみる。この会話の中で、少しでも回復が早められるかもしれない。」

 

「解りましたドクター。それと」

 

ピンクブロンド髪の少女は男との会話を中断し俺の前で立ち止まり。

 

「マシュ・キリエライトと申します。印象的な自己紹介のスキルはまだ持ち合わせていませんが―――よろしくお願いします、先輩」

 

それでは、と彼女は部屋を小走りに出ていく。

 

「自己紹介…ね、…」

 

なぜ自分のことを先輩と呼んだのだろうか。

 

年齢としては確かに彼女のほうが年下―――――

 

「さて。それじゃあ、もうちょっと質問をさせてもらうけれど……僕もうっかりしていたね」

 

思考は中断され、男の方へ向き直ると

 

「僕はロマニ、ロマニ・アーキマン。この人理継続機関フィニス・カルデアの医療部門担当だ。みんなからは親しみを込めてドクターロマンって呼ばれてるんだ」

 

 

――――そこから、ドクターと質問を交わし合う

 

ここはとある国の山頂に築かれた魔術と科学の複合施設。魔術適正――――とりわけとある降霊召喚と、レイシフトダイブという特殊な体感儀式に耐えうる人材を集めて人類の未来を守ることを主たる目的として運営されている、カルデアという機関だと

 

ドクターには自身の名前を訊かれ、遠野志貴と答えたけれど、記憶が曖昧だ。

 

別人の可能性というわけじゃないけれど、ここ最近――――違う、今まで自分が何をしていて、どうしてカルデアに行こうと思ったのか……

 

8年ぶりに秋葉と出会った、琥珀さんと再会して翡翠と出会って、シエル先輩と吸血鬼を対峙して―――――その後は………?

 

誰かと出会ったハズだ。何かをしたはずだ。あの出来事は最近の出来事じゃなくて過去の思い出話のようなものだ。

 

だったら俺は、今まではどうしていたんだ?

 

必死になって思い出そうにも、頭の中では霞すら浮かんでこない。

 

 

当たり障りのない範囲でドクターに覚えている時代までを話し、後は首を横に振る。

 

ベッドに座る俺と向き合う様に、ドクターは椅子に座り、何度か頷いたり首を傾げたりしていたが、やがて一通りの質問が終わったのか表情が柔らかなものに変わり

 

「っと、だいぶわかったよ、ありがとう。纏めると遠野君はここ数年間の記憶がごっそり抜け落ちているけれど、数日前に知人の紹介でカルデアが密かに探していた求人場所に行ったことは覚えている。ってことだね?」

 

「はい、なんで忘れて――――いえ、覚えているのかは自分でもわかりませんが……」

 

「うーん。ここでは何とも判断しずらいところだよ。僕も記憶についてはそこまで専門じゃないからね……しかも間の悪いことに、今日は特異点への第1回レイシフトダイブの実験日だ。建物内のセキュリティーレベルは最大まで引き上げられていて、もう今の時間は施設から出ることも、ましてや入ることもできないんだ。外の病院に移るにしても1か月以上はかかってしまう」

 

「そう……ですか」

 

1か月。確かに山岳地帯の施設から下山の手配をとったとしても、人も時間もかかる。

 

「申し訳ないけれど、むしろ1か月も時間があるんだ。所長には僕から遠野君のレイシフト実験の参加中止について報告をあげておくよ。その間にいろいろ館内を見て回ったり、職員と接していれば少しは記憶回復の刺激につながるかもしれないよ」

 

成程、ありがたい提案だ。ここに足を運んだ以上、自身もその実験に参加するのが目的だったはずだ。ここの人たちと会話を重ねれば少しは別のことも思い出すかもしれない。

 

そう考えたところで、ふと――――

 

 

「ところで、さっきの女の子―――マシュ…さん、でしたっけ?」

 

見た目10代の彼女は、カルデアのオペレーターか何かだろうか?

 

「ああ、マシュはカルデアのレイシフトダイブ参加者だよ、っともうすぐ開始時間だろうから今頃はコフィンで最終調整に入ってるはずだ。彼女がなにか?」

 

「いえ、さっきドクターが教えてくれたじゃないですか。あの子が倒れていた俺を見つけてくれたって。―――――お礼と自己紹介を言いそびれたなって……」

 

一度レイシフトしてしまうと、彼女らは肉体や精神が過去に転移してしまう。帰還するまで彼女にしっかりと伝えるまで、大分時間が空いてしまう。

 

落胆する気持ちが表情に出ていたのか、ドクターは俺に微笑みかける。

 

「すぐに話す時間はもう作れないけれど、今から管制室に向かえばもしかしたら見送りくらいはできるかもしれないよ。どうだろう、ここから5分くらいだけど歩けるかい?」

 

ドクターは椅子から立ち上がると、こちらに手を差し伸べてくる。

 

「はい、ありがとうございます。」

 

ベッドから足を下ろし、その手を取ろうとして――――

 

『ロマニ、すぐにコフィンまで来てくれ。』

 

彼の腕に巻かれた通信機器から男性の声が響いた。

 

「ああレフ。僕も今向かうところだったんだ。すぐに行くけど、どうしたんだい?」

 

『レイシフト選抜者のバイタルが少々不安定でな。失敗するわけにはいかないから、念のためチェックしてほしい。医療セクションからなら2分程度だろう?頼んだぞ。』

 

男の声は少し緊張したもので、ドクターへの依頼内容を伝えると、ぷつりと通信が終了した。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

先ほど、この部屋からだと5分かかると言っていた気がしたが……

 

「………あぁ、アハハ!―――――まあ、レフ教授も神経質なところがあるからね。それは、レイシフトする人員は初の試みだから、緊張して心理グラフが変調することくらい想定の範囲内だし、大丈夫だよ………たぶん」

 

何にせよ、レイシフト実験開始までもう時間もないということだ。何とか彼女の見送りに間に合えばいいけれど…

 

「それじゃあ行こうか、君の荷物はテーブルに置いてあるから、身につけておきたい貴重品があったら持っていくといい」

 

「はい、ありがとうございます」

 

そう答えたものの、自分に大事な持ち物なんてあるのだろうか。

 

立ち上がり、少々ふらつく足で何とか堪えながら、テーブルに置かれた小さめのスポーツバッグを手に取る。

 

ファスナーを開き中を見ると、最低限の着替えと財布にパスポート、そして―――――――『七夜』と刻まれた、持ちなれたナイフがあった。

 

ナイフは覚えている。

 

遠野の屋敷で手にした、吸血鬼と対峙した時も使っていた……

 

「フォーウ!キュウ!」

 

ん?

 

バッグから……いや、バッグの陰から鳴き声を聞き、覗き込んでみると、そこにはリスと猫を掛け合わせたような奇妙な白い小動物がいた。

 

「ああ、その子はカルデアに居ついてるペットみたいな動物だよ。マシュに懐いていて、よく後ろをついて行ってたりするから、潜り込んでいたのかな?」

 

「フォウ、フォーウ!」

 

不思議な鳴き声をする動物もいたものだと、姿を見て――――何か頭の奥に引っかかるものを感じた。

 

 

「準備はいいかい?そろそろ向かうよ」

 

「はい、今行きます」

 

とっさに反応し、バッグの中の物を適当に掴み取り、ポケットに押し込むと、ドクターの後に続いて部屋を出ようとし

 

 

 

爆発音と振動によってその場に縛り付けられた。

 

 

「ドクター!これはいったい―――!?」

 

「分からない!―――でも、爆発音が聞こえてきた通路の先は……っ!!コフィンの方向だ!くそっ!君は壁にかかっている非常灯を見ながら避難シェルターに向かってくれ」

 

「そんな!……ドクターは?!」

 

「僕は管制室に向かう。――いいかい?君は避難所に向かうんだぞ?」

 

必死な表情でドクターは俺に指示を出すと、脇目も振らず警報と赤色点灯が荒れ狂う廊下を駆けて行く。

 

 

 

「俺は―――」

 

 

躊躇いながらも、マシュ・キリエライトと名乗った少女のことが心配になり、既に見えなくなったドクターを追い、同じ方向へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足が重い。鳴り響く警告音が頭にガンガンと響いて眩暈がする。

 

息が上がる。視界がグラグラと歪み今にも意識が落ちそうだ。

 

震えが止まらない。まるで、電池が切れかけた様に……

 

 

コフィンの前へとたどり着いたころには、既に防火隔壁が入口を塞ぎかけていた。

 

ふらつく体は大事な繋がりが切れてしまったかのように、体は立っているだけで精いっぱいだ。

 

「――――邪魔だ」

 

眼鏡を外し、その先の燃え盛る瓦礫へと辿り着くためにポケットからナイフを取り出し3度振るう。

 

 

分厚い隔壁は音を立てて崩れ、その機能は完全に死んだ

 

 

死の線が太く、大きく、いつもより大量に視える。

 

とうとうこの体は死んでしまうらしい。

 

そう思いながらも、足を引きずりながら中央に向かって進む。

 

 

辿り着いた場所は辺り一面で炎と瓦礫が描く地獄だった。

 

治まらない息切れと酸素不足による息苦しさで、そばにあった残骸に手を付き

 

「―――――っ、熱ぅ!!」

 

触れた部分でフライパンで肉を焼く時のような音が聞こえ、反射で手を放し、そのままのけ反り尻餅をつく。

 

何とか起き上がろうと顔を上げてふと、視線の先に瓦礫に埋もれ俯せ倒れた彼女、マシュを見つけた。

 

「はぁっ、………くそっ、待ってろ……っ!」

 

よろけながらも、近くまで移動し、ナイフを握りこむ。

 

「…………先……、輩………?」

 

意識がある!生きてる。彼女を助けることが―――――

 

「待って、ろ……。こん、な…瓦礫―――――、………」

 

彼女の目の前まで来た。死の点を突いて、存在を殺せば―――――彼女を救えると

 

 

「―――――――――。」

 

そう、自身の体の限界を押して尚、直死の魔眼であればと思っていたのに

 

「………………」

 

彼女と瓦礫の隙間から夥しい血が、辺り一面を赤く染め上げていて、この状況じゃあどうあっても命をとりとめることはできないと

 

 

その場で最後の力も失い膝をついた。

 

「ごめんな………」

 

遠野志貴ではマシュ・キリエライトを死の運命から救うことができない。

 

懺悔の言葉に彼女は薄れゆく意識の中

 

「いいえ。先輩…は、悪く…ありま、せん…。」

 

火の手はいつの間にか通ってきた道を塞ぎ、完全に退路は断たれている。

 

元々ここに来るまでで命は使い果たしてしまった。

 

 

ああ、なんて―――――無様。

 

 

中央に浮かぶ地球儀が赤く染まり、無機質な警告アナウンス響くけれど……もう耳に入ってこない。

 

次第に彼女の呼吸が荒くなっていく。

 

お互い、もう助からないと意識してか、彼女と視線が交わり―――――手を握る。

 

「ごめん、こんなことぐらいしか、俺は君にしてあげられない」

 

「ありが……とう、ござい、ます………先輩……」

 

 

そうして、優しく解けないように彼女の手を包みながら

 

 

 

俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

暗転した意識の中で、機械的な音声は耳に届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ファーストオーダー・実証開始します』

 

 

 




今回のBADエンド√

「避難シェルターに向かう」を選択すると【2016年・人理焼却_END】
緊急レイシフトは行われず、志貴はシェルターに向かう途中で倒れそのまま息絶える。
外の世界ではシエル先輩などが尽力するも、7つの特異点で人理が崩壊し人類史は幕を閉じる。

BC(紀元前)から積み重ねた人類の歴史はAD(西暦)で終わり Over Count.1999へ続く……のか?
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