サヤは呼吸をすることさえ忘れるほど目の前の現状に混乱していた。
まるでおとぎ話にでも出てくるような美しい女性。しかしその体は人ではなく、蒼い鱗で全身を覆い、背中には同色の羽が生えている。
そんな女性が顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらこちらに懇願してきている。
いや、しかし実際に彼女を混乱せしめているのはそんなことではなかった。彼女の口から飛び出した言葉。自分がここ一カ月探しても姿どころか痕跡すらも見つけることができなかったその人の名前が彼女の口から飛び出したことに一番驚いていた。
「・・・い・・ま、なんて・・?」
信じられなくて、それでもすがるように。サヤは震える体を支えながら口を開いた。
「リオを・・・リオを助けてくれ・・・!!」
「な・・・んで・・・・なんでアンタがリオを知ってるのよ!!」
ふざけているとしか考えられなかった。自分が一カ月探していた人間を。急に現れた人外の口から聞くことになるなんて、そんなものは信じたくなかった。
「・・・アイツが、生贄だったのは知ってる。」
「っ!!」
そこから、目の前の女性はゆっくりと、まるで思い出すかのようにこれまでのことを話し始めた。
知人の墓がある洞窟でリオを拾ったこと。村には戻れないから。と、そこから一緒に暮らし始めてずっと面倒を見てきたこと、以前にこの村を訪れていて、その時リオの家で自分の姿を見ていたこと。
「・・・・・」
そのリオが今朝から体調を崩し、全く良くならず。今もなお苦しんでいると。
「だから・・・もう、お前に頼るしかないんだよ!」
そう言って頭を下げる女性。
しかし、サヤはそれを見てはいなかった。一気に入り込んできた情報を整理しようとして逆にドつぼにはまってしまっている。
リオが生きていて、今は別のところで暮らしていた。
以前にこの村にきて、自分がリオのベットにいるところを見ていた。
見ていたのに・・・声も掛けてくれなかったの?
そんなことは生贄としてこの村を出たのだから当然だとわかっている。自分が死んだ身であるなら、いかに親しい人間にも、その生を悟られてはいけない。そんなことは当然。むしろ正しい行為だと理解できる。
しかし納得はできない。『裏切られた』そう感じてしまう。
それを考えては否定する。『仕方がなかったんだ。』『リオもきっと苦悩して出した決断だったんだ。』
考えすぎて頭が痛くなってくる。リオのいないこの場では正しい答えなんてわかるはずもないのに、サヤはひたすら自分の考えを否定することしかできなかった。
「・・・い!・・・おい!」
「っ!?」
女性から声をかけられてようやく深い思考から戻ってくる。一体どれほどこうしていたのだろう。信じられないほど汗をかいていた。
それを確認しながら、自分を呼んだ目の前の女性に顔を向ける。最初ほどではないがまだその顔は涙で濡れている。
「頼む!アタシには看病なんてわからないんだ。お前しか・・・いないんだよ!」
そう言って頭を下げる。
サヤは一瞬何を言っているのか理解できなかった。この女性からリオの生存を聞かされて、そこから記憶が曖昧で、自分が何を頼まれているのかわからず、ボーっとしてしまう。
そして、すぐに思い出した。『リオが苦しんでいる』
「―――――っ!!」
そこからサヤの行動は早かった。
「私はいったんリオの家に薬を取りに戻るわ!アンタは村のみんなにばれないようにここで―――」
「人間の足じゃ時間がかかる。掴まってくれ!」
言うが早いか、いやむしろ掴まってくれと言いながらこちらを抱きかかえてくる。こちらの体をしっかりつかんだかと思えば次の瞬間には体が宙を浮いていた。
「!?」
「リオの家はあそこだったな・・・」
ある程度の高度まで上昇すると、彼女はその顔を村の奥へと向ける。次の瞬間、風がサヤの頬を殴った。そんな表現が似合いそうなほど強い衝撃がサヤを襲う。
「~~~っ!!」
声にならない悲鳴を上げると、ものの数秒でその風が収まり、自分の体がゆっくりと下ろされる。足裏に感じる地面の感触に思わず泣きそうだ。
「何か手伝うことはあるか!?」
切羽詰まった声が聞こえて目を開けると、そこは村の端。リオの家だった。あまりい現実離れした出来事に唖然とするが、すぐに我に返る。こんなことをしている場合ではないのだ。
「準備はすぐにできるから、ここで待ってて。」
サヤは羽をたたむ女性にそう声を掛けると急いでリオの家へと走り込む。自分が背覆っていたリュックをひっくり返し中身を床にばらまくと、慣れた手つきでリオの家に備え付けられた救急箱や薬の類をリュックに詰め込む。
リオの症状を聞き忘れてしまったため、とりあえずあるものをすべて詰め込んだ。結果リュックがパンパンになってしまったが、そんなこと気にも留めずに急いで外へと飛び出した。
先ほどの場所にいた女性がこちらの姿を確認するや否や駆け寄ってきて、膨らんだリュックをサヤから奪い取り軽々と持ちあげると、空いた片手でサヤを再び抱き上げた。
「行くぞ!」
「えぇ!!」
今度はちゃんと確認を取ってから、翼を大きく広げて空へと飛び立つ。
どれくらいの時間がたったのだろうか。サヤは相変わらず自分の頬を殴る風に目を閉じながら考えた。
すると、少しずつ風が勢いを衰えさせ、やがて少しの振動とともに風がやんだ。目を開けてみると、目の前は暗闇、洞窟の入り口だった。
「この奥だ。」
そう言ってリュックを持ったまま奥へと掛けていく。緩やかなカーブを曲がったかと思うと、奥のほうからオレンジの光が漏れてきた。おそらく松明か何かを灯したのだろう。
冷静にそんなことを考えながら、サヤはゆっくりと奥へと歩を進めていく。
やがて、先ほどの女性が床に座っているのが見えた。
「――――――っ!!リオ!」
その腕に一カ月ぶりに見る思い人を抱きかかえながら
サヤはやっぱり書いていていたたまれなくなってきます。そういう風に意識して書いているから当然なのですが、少しかわいそうすぎたかな・・・とすこし反省しております。
とんでもなくストーリーの進みが遅い。
本当に申し訳ありません。下書きなしで執筆更新しているのですが、書いていてどこで区切ると文章的に映えるのか。読者の皆様に「次も読みたい」と思っていただけるような構成になるのか悩みながら書いておるため、一つの山場を目安に一話構成しているつもりなのですが・・・
こんなペースではサフィール編どうなってしまう事やら・・・
今から心配になってきます・・・(゜Д゜;;)
ここまで読んで下さりありがとうございます。次回もよろしくお願いいたします。