それでは・・・ラストスパートじゃ!!(゜Д゜ )
「はっ・・・はっ・・・!!」
森の中を一人の少女がひたすらに走る。つい昨日まで病気でうなされていたはずのその体に病魔の影はなく。健康体そのもの。しかしその表情はすぐれない。
まるで何かに追われるかのような表情でただただ走っていた。
{リオ・・・・リオ!!}
心の中で何度も叫ぶ。昨日自分が倒れてから村長に聞いた龍の伝説。その中にあった1つの文章がずっと頭から離れなかった。
『曰く、奴らは毒を持ち。その毒をもって獲物を死に至らしめる』
それを話す村長の目は今も鮮明に覚えている。村長に聞いた過去の話もまだ耳に新しい。
しかし、今はそれどころではなかった。毒をもつという龍。そして龍とともに過ごしその命を落としたというランという少女。
龍の鱗でできた薬によって命を助けられた自分。
そして、原因不明の病状に苦しめられていた幼馴染の姿。
それらすべてが繋がって。いまサヤはこうして走っている。幸いにもサフィールに送ってもらうときその方向は大体覚えている。後はそれらしいところを見つけるだけ。
それだけ考えて走り続けていると。
「――――っ!!??」
突如彼女を襲った覚えのある突風。まるで目の前に嵐が起きたかのような暴風が収まり、目を開けると、そこにはまるで一昨日の繰り返しのように涙をその目に浮かべた蒼の姿があった。
「はぁ・・・はぁ・・サ・・ヤ・・・?」
この前と同じように、サフィールに送り届けられてサヤが目にしたものは、確実に病状の悪化した幼馴染の姿だった。
床に伏せる姿は見るに堪えず。全身から汗を流しながら苦しそうに胸を押さえている。
自分の名を呼ぶその瞳はしかし自分をとらえてはいない。
予想していたよりもひどい状況にサヤはこぶしを強く握りしめた。
「昨日まで何ともなかったのに。今朝になってまた急に苦しみだして・・・薬を飲ませても全然治らないんだ!!なんとかしてくれよ!」
自分の後ろで何も知らない元凶が泣いている。思わず叫んでしまいそうになるのを抑えながらサヤはゆっくりとリオの隣に腰をおろし、苦しそうに胸を抑えるその手を両手で包みこんだ。
「サヤ・・・ごめん、ね?僕は・・・大丈夫・・・て、言った・・・けど・」
村を出るときはあんなに慌てて、とても冷静とは言えない状態だったにもかかわらず。実際にこうして弱り切ったリオを見てから自分の頭が恐ろしいほど冷静になっていた。
「リオ、サフィールさんもよく聞いて。」
「「・・・?」」
自分が予想していたよりもずいぶん低い声だったと思う。自分の中に少しだけ黒い感情が浮かんでくるのがわかる。しかしそれと同時に少し高揚しているのも感じる。
「リオを村に連れて帰るわ。」
「サヤ・・・それは、出来ないって・・・「時間がないのよ!!」・・・っ」
リオの言葉を叫ぶように遮った。驚くようにリオの目が見開かれるが、謝っているような時間はない。
「リオ。あんたの病気はここにいる限り治らない。だから今すぐ村に帰るの。」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。どうしてそんなこと・・・」
今度は後ろからサフィールが声を上げる。それは少しだけ震えているようにも聞こえたが、気付かないふりをした。
「・・・いいわ、全部・・・・全部隠さずに話してあげるわよ。」
そこから、サヤは語り始める。村に帰ってから起こったことをすべて、自分がリオと同じ症状で倒れたこと、村長が依然サフィールに出会っていたこと、以前ここで暮らしていた人間が同じ症状で死んでいたこと。
龍が毒を持っていること。そして
「今のリオの病状は、サフィールさん。貴方が持つ毒のせいなのよ。」
そう締めくくった。後ろでサフィールが自分の頭を抱えているが、サヤはもはやそれを見ることもしない。ただ、目の前で横たわるリオの手を握るだけだった。
「・・・そ、そんな・・・ランも・・・アタシのせいだってのか・・・」
「・・・・・」
「で、でも・・・それが本当かどうか・・・!!」
最期まで、信じたくはないのだろう。動揺を隠せないままそれでも否定しようとサヤに詰め寄る。
しかしサヤは顔も向けずに静かに口を開いた。
「ここまで病状も重なってるの、他に要因もないでしょう?」
「で、でも・・・ランの時と発症の時期が違いすぎるじゃねぇか!リオとはまだ三か月もいっしょに暮らしてねぇ!それに、サヤだって出会って一日で病気が出たんだろ!?」
確かに発症時期に違いがありすぎる。サフィールの話では最初の発症者。ランの病気は暮らし始めて一年以上かかった。それに対しリオはまだ二カ月ほど、サヤに至っては出会って一日で発症だ。
しかし、それに対する答えもサヤは既に持ち合わせていた。
「リオはもともと体が弱いのよ。平常な人間と比べて発症が早くても不思議じゃない。私に限って言えば・・・サフィールさん。貴女の不注意が招いた事故よ。」
「事故・・・・」
「覚えてるかしら・・・、あの日徹夜でリオを看病した時、朝私が帰るときに貴女寝ぼけて私の手にかみついたのを。」
「・・・・あっ」
サフィールの顔が見てわかるほどに悪くなっていく。それを理解して、サヤはさらに口調を強くした。
「体に毒を持つ者がかみついたのなら。その場で発症してもおかしくない。私が命を取り留められたのはあの時が『甘噛み』だったからです。」
そう言いながら以前サフィールが噛んだ腕をさする。
「あの時。貴女がもし本気でかみついていたら。私はきっとその場で命を落としていたかもしれない。」
もはや答えは出ていた。いうなればサヤはほかの二人と違って直接毒を肌に塗られたようなものなのだ。もちろんそれはサフィールの持つ毒が口から出るもので、なおかつ普段の唾液にも少なからず含まれる場合にもよるが。実際にサヤが発症し、サフィールの鱗薬で治療できたことからサヤは確信にも似たものを感じていた。
「で、でも・・・・そうだ、アタシの鱗があれば治るんだろ?それで・・!」
「それはあくまで一時しのぎです。病状は治っても耐性がつくわけではないんです。」
「ならそのたびに飲ませれば。」
「貴女は、リオに何度もこの苦しみを与え続けるつもりなの?」
「――――っ!!」
その時のサヤは、伝説の龍ですら恐怖を覚えるほどの声を発していた。思わずサフィールの方が震えあがる。
「・・・・・・」
もうサフィールには反論する余地はなかった。ただ、黙って下をうつむく。
その表情は読み取れないが、想像するに容易だった。
「・・・サ・・ヤ・・」
「・・・リオ。」
そこでようやく、今まで黙りこくっていたリオが口を開いた。相変わらず呼吸が荒く苦しそうだが、その声にははっきりとした意思が込められているのを感じる。
「ちょっとだけ・・・考えさせて、くれない・・かな・・」
「アンタ、いい加減にしなさいよ。命がかかってるのにこんなときまで女々しいこと言ってないで。」
悠長なリオな言葉にサヤもさすがに怒りを隠せなかった。しかし、その怒気の含まれる言葉にも、リオは屈することはなく。ただ自分の手を包むサヤの手をやさしくなでた。
「・・・おね、がい・・・」
「・・・・わかったわよ・・・」
それだけ言うと、サヤは立ちあがり洞窟の入口のほうへと歩いていく。帰るつもりはない。
ただ、ここが見えない入口の近くで待つだけ。
やがてサヤの姿が見えなくなってから、リオは重い腕を無理やり持ち上げ、何かを探すようにさまよわせる。
「・・・リオ。」
それに気付いたサフィールが駆け寄り、その手をやさしく包み込んだ。
「サ、フィール・・・」
「ごめん・・・」
うつむいたサフィールの口からこぼれてきたのは謝罪の言葉だった。
「アタシのせいで・・・こんな苦しい思いさせて、アタシがリオをこんなにしちまって・・・」
サフィールは、その美しい顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いていた。その瞳からこぼれる涙がリオの手に当たる。
「・・・・・」
「・・・・リオ、お前との生活・・・楽しかった。」
淡々と話を続けるサフィールにリオは何も言わず、ただその言葉を聞いていた。
「お前がいてくれて、一人の時がウソみたいに楽しくなって・・・お前がいるって思うだけで・・・早くこの場所に帰ってきたい・・・って・・・毎日・・」
手に落ちる涙が多くなるのに気付きながら、リオはただサフィールの言葉を聞き続けた。
「アタシはもう・・・十分お前に楽しませてもらった・・・だから、もう・・・」
そこまで聞いて・・・リオはもう我慢の限界だった。
「サフィ・・・ル・・!!」
「っ!!お、おい!!」
鉛のように思い体に鞭打って。高山にいるかのように息苦しい呼吸を我慢して、リオはまるで倒れ込むようにサフィールに抱きついた。
「リオ・・・!」
「何・・・勝手に、決めてるのさ・・・僕は・・帰らない・・・サフィールと、いる・・・」
「―――っ・・・・サヤの話聞いてただろ・・・ここにいたらお前死んじまうんだよ!」
リオの言葉で揺らいでしまった心に活を入れながら、サフィールは必死にリオを否定した。
「・・・死なない・・・」
「えっ・・?」
「僕は死なない・・・サフィールと一緒に・・・生きる・・・ずっと。君と一緒に・・・生きて、いたい。」
「で、でも・・・そんなこと・・・」
「・・・無理じゃない・・・」
リオは知っていた。龍にまつわる伝説を。
もちろんそれは呼んだだけのことで、確信があるわけではない。でも、龍の炎も、獲物を殺す毒も、信じられない怪力も。嵐のように力強い羽ばたきも。リオはその目で見て、体験していた。
だからこそ、確信にも似た考えがあった。
「『曰くその血を飲めば永遠の命が手に入る。』」
病気で外に出れなかったとき・・・村長に借りた本の中にあった一文。
「・・・アタシの・・血・・?」
「そう、それを・・・飲めば・・毒に負けない、体が・・・」
「で、でも・・・そんなことしちまったら・・お前もう・・・・」
「うん、きっと・・・人とは、呼ばれない体になる・・・」
人外の、しかも伝説に歌われる龍の血を接種するのだ、ひ弱な人間の体が平気でいられるわけはない。永遠の命を得るのに足る体に作り変えられる。
もはやそれは人ではなく、むしろ龍に近い存在になるだろう。
「そ、そしたら・・・もう人の群れに・・戻れないだろ!!」
そう、人は自分より強大な力を持つ者には恐怖を覚える生き物。ひとたびリオの存在が明るみになればその地を求める者も出るだろう。
決して平穏な生活なんてできない。人に隠れるような生活が待っているのだ。
「あ、アタシはそんなことしてほしくないんだよ!そもそも、お前がそんなことする理由なんてないだろ!!」
サフィールはもう自分がどちらを望んでいるのかわからなくなってしまっていた。言葉の通り、リオには人として生きていてほしい。自分のために仲間を捨てるなんてしてほしくない。
しかし同時に、リオの言葉に喜びを感じている自分もいるのだ。もう心が混乱して余計に涙が止まらなくなってしまっていた。
「っ・・!!」
ぐしゃぐしゃになった顔を・・・何か、暖かいものが包み込んだ。
「前に・・・言った・・」
目の前にリオの顔がある。その目に涙をためながら、こちらを見つめ、サフィールの瞳からあふれる涙を拭った。
「もう・・・間違えない・・・サフィールを、泣かせない・・・」
「――――っ!!リ・・オ・・・!!」
「・・君と・・・生きたい。」
そう言いながら、目を閉じ、サフィールに顔を近づける。
こいつ、卑怯だ・・・
なんて考えながら、サフィールは自分の胸の中が温かさに包まれていくのを感じながら自身の唇をかんだ。
口の中に鉄っぽい味を感じながら、それを飲み込むことはせず。
そのまま
「・・・んっ・・」
唇を重ねた
洞窟の入り口、一歩踏み出せば地上何十メートルという高さからひもなしバンジーを繰り出せるそんな場所で、サヤは洞窟内からかすかに聞こえてくる幼馴染の声に耳を澄ませ
そして、涙を流した。
「・・・・バカ・・・」
本当はわかっていたはずだった。リオが村を、サヤを選ばずサフィールのほうを選ぶということを。それでも諦めきれなくて、どうしてもまたリオに戻ってきてほしくて、責め立てるようにサフィールにあたり。リオを説得しようとした。
それでも、そんなことをしたというのに当のリオは人間をやめるなどと言い始める始末。
きっと村には帰ってこないだろうな。なんて考えてはいたが、まさかそこまでするなんて予想外だった。
「・・・ほんと・・・バカみたい。」
その言葉は誰に向けての言葉だったのか、もはや言った本人にもわからない。
今はただ、中にいる二人に声を聞かれないように静かに涙を流すのみ。
というわけで、
リオ、人間やめるってよ(・ω・`)
ついにリオ君人間卒業しちゃいました。あんなに女々しいリオ君が一人の女性のためにサヤを、人間を捨てる決心をしました。
わたくしとしては、少しだけ男らしいリオ君を書けて満足しております・・・・(^w^の)
次回でサフィール編も最終話を予定しております。
更新が遅くなってしまい、本当に申し訳ありません。もうしばらく不定期更新が続くかと思われますが、気長にお待ちいただければ幸いです。
それではここまで読んで下さりありがとうございます。
感想アドバイス、お待ちしております(^w^)