東方染色記   作:折れない黒鉛筆

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 どうも、花なんか見るより団子が食べたいうp主の折れない黒鉛筆です。(フェスの団子派だとは言ってない)
 前の話を投稿してから約一ヶ月ちょっと、かなり遅くなりましたが第二十二話です。元々はこの話、一話でササっと完結させて秋に移行させてとある異変を書きたいのですが、書いているうちに気づけば8000字を超えてました。しかもこれで前編っていう。
 取り敢えず、久々の第二十二話をどうぞ。

p.s. 私の作品を定期的に見てくださってる方の中で「何で毎週更新してないん?」と思う方がもしいたならばお手数ですが私の活動報告の方を見ていただいて察して頂けると幸いです。

前回のあらすじ(書き忘れ
子供を探した
狼妖怪と戦って殺されそうになった
駆けつけた妹紅が狼妖怪を倒した

修正履歴
2018/04/30 前回のあらすじを書き忘れていたので修正


第二十二話 祭りと弾幕と一輪の花(前編)

 あの迷子探しから数日が経過した。相変わらず俺は能力に慣れる為に霊夢に許可を取ってから博麗神社の境内にて色々練習させてもらっている。因みに今は【インクを操る程度の能力】の方、つまりスプラトゥーン(具体的に言うとスプラトゥーン2)にあるブキのうちの一つ、『スプラマニューバー』を持ち、マニューバーにしか出来ない動きである『スライド』を練習しているのだが…

「ここをこうして…行くぜ!スライド!」

「あんた、よく飽きないわねぇ…さっきからずっと失敗してるじゃない。ってあっ、また…」

 マニューバーの銃口と逆側にある噴出口みたいな所からからインクを噴射。その勢いで前転しようとするが、途中で勢いが無くなり前転は出来ず。境内の敷地内に仰向けに寝そべる形になった。

「よいしょっと……はあ、前転だけならまだ出来るんだが両手にブキを持ったままブキから出るインクの勢いだけで前転するのって相当難しいな…」

 動きに関しては親の顔より見た……という訳ではないがゲーム内の説明や実際のインクリングの動きを何回も見ていたので、ある程度は頭の中でイメージ出来ている感じだ。まあ成功はしてないが。

 因みにだが少し前パチュリーに教えてもらった魔法陣を使って力を貯める計画はスライドという無関係な事をしながらだが少しずつ進歩している…気がしている。あくまで気がしているだけだが。一応二個同時出しには成功したので次は試しに霊力を入れ、入れた霊力を取り出すというステップにこの前差し掛かったところだ。

「にしてもなあ…どうにかして上手くスライド出来ないものか…」

「ま、頑張ってみたら?努力が報われると良いわねー」

 霊夢がそう言って縁側の方へと向かっていった。当たり前だがやっぱり興味ないよなぁ。正直自分と同じ年頃の高校生の練習風景とか絶対需要無いし。

 …それにしてもここに来てから大体2ヶ月くらい、まだそんなには経ってない為霊夢のことはよく知らないが、どうやら霊夢は魔理沙曰く『努力をしない天才』というヤツらしい。なんでも、努力は報われないものだと思っているんだとか。それ故、博麗神社のおみくじには末吉が入っていない…って魔理沙が言ってた。まあ今はそんな事どうでも良いが。

「…さて、一度休憩でも挟んで頭を冷やすついでに色々考えるかなー」

 別にこのままスライドでグルグルしていても良いのだが、俺が一日に扱えるインクには限りがある。そのインクを節約する事に加え、少し頭をグルグルさせてコツを考えた方が効率的だろうと思い、人間の里へと続くあの長い階段へと向かう。一応念の為に言っておくが、縁側とかに戻るより距離的にこっちの方が早く座れる場所に着けると考えた結果こうなっただけなので、別に追い出されてるとかいう訳ではないのでご安心を。

 …ってあれ?俺誰に向かってこんなこと言ってんだ…?まあ良いか。取り敢えず階段のうちの一段に腰掛ける。

 さて、スライドを上手くする為にはどうすれば良いのやら…。取り敢えず今はインクリングがやっていたスライドを見よう見まねっぽくやっていたが正直よく考えてみると人間とインクリングでは体のつくりも違う。そもそもインクリングを現代におけるイカとするならあいつら軟体動物で俺は脊椎動物だし。そう考えるとインクリングと全く同じやり方でやっても無理な気がしてきたぞ…?

「やあ、康介じゃないか。丁度良かった。少し手伝って欲しい事があるんだが…」

 なら別のやり方ですれば良いのだが…生憎俺は人間ver.のスライドを知らない。というか知ってる筈が無い。そもそもそんな方法あるかすら分からない。となるとやはりインクリングver.のスライドを使えるようにするしかないのか…?

「……おーい、康介…?聞いてるかー?」

 いやいや、コツすら掴めてないこの状況でインクリングのスライドをやり続けたら一生かけても足りないな。となると自己流スライドを編み出すのが一番良い感じになるのか…?ただ自分で言っときながらだが自己流スライドってなんだ…?正直全く意味がわk

「康介!」

「うわぁっ!…って慧音じゃん、驚かすなよ…。ってもしかしなくてもまた気付かなかったやつか、すまん。」

 不意に大声を出されこちらも驚きで大声を出してしまった。そして目の前を向くと若干怒った顔の慧音と目線が合う。そして即座に察して謝った。いい加減考え過ぎると周りが見えなくなる癖直さないとな…

「はあ…考え事に夢中になるのは良いが流石に考え過ぎだぞ…そこまでして一体何を考えていたんだ?」

「まあ話すと長くなるから簡潔に纏めるが…自身の能力の活用法、だな。ところでこんな遠い所まで一体何の用だ?霊夢に用があるなら呼んでくるが」

 取り敢えず階段から立ち上がりつつ、少し気になった事を聞いてみる。大体こういう系統は霊夢に用があるってのがほとんどだから聞く必要も無いかもだが。すると慧音は溜息を少しついてから話し始めた。

「何も聞いてなかったんだな…まあ良いか。今日人間の里で『夏祭り』を開催するのだが、それの準備を手伝って欲しいんだ。男性であるお前にな。もしこれから用事とかがあれば無理はしなくても良いが…どうだ?手伝ってくれるか?」

 慧音の言葉を聞いて色々と驚いた。今日人間の里で夏祭りが開催される事も初耳だし、その準備に俺が参加して良いのも驚きだし。それはそうと、今日は特に予定が入ってる訳ではない。要するにずっと暇だった、ということだ。一応特訓はしていたが、正直後回しでも全然問題ない。そんな事より、普通に幻想郷の夏祭りが気になる。要するに行ってみよう!と言うわけだ。

「良いぜ。丁度暇だったしこれから予定も無いしな。」

「ありがとう。じゃあ早速──」

「あ、ちょっと待て。少し外出準備と外出許可取ってくる。ま、どうせオッケー出してくれるだろうけど。」

「ああ、分かった。じゃあ私はここで待ってるからな。」

「了解、すぐ行ってくるわ」

 そう言い残して俺は霊夢が居るであろう縁側に向かった。どれだけ経ったは知らないがどうせこの時間帯ならまだ縁側にいるでしょ…多分。のんびりのんきな昼下がりだし。

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

 やっぱりと言うか、それとも計算通りと言うべきか。案の定霊夢は縁側でお茶を飲んでいた。そして俺が事情を説明して人間の里に行く旨を伝えると「さっさと行って来たら?」と言われた。さらに霊夢から「もう私に伝えなくても勝手に何処かに行っても良い」との事を言われた。…もう少し言い方はどうにかならなかったのだろうか。まあそんな小さい事気にしてもどうにかなる訳ではないけど。

 サクッと外出準備を整え、慧音がいるであろうあの階段へと急ぐ。一応待たせてるしな。

「お待たせー、許可取れたから行けるぞ」

「分かった。それじゃ行くぞ」

 そう言って階段を下っていく慧音の後ろをついて行く。…そういえば、夏祭りと聞いて二つ返事で了承しちゃったが準備って一体どんなことをするんだ…?力仕事とかは正直面倒くさいからやりたくないのだが…十中八九力仕事だろうなぁ。そうじゃなきゃあの時『男性であるお前にな。』なんて言わないだろうし。一応俺を連れ出す為の都合が良い理由だったからそう言っただけ…とも考えられるけどその可能性を考え出したらキリが無いし慧音がそんな事するような人には見えないし。そう考えて、心の中でため息をつく。が、受けてしまったものは仕方がない。とことんやってやろうじゃないか!……正直こんな感じで開き直るとヤケクソみたいな感じがして嫌なんだけどな。

「そういえばな、最近妹紅が少し明るくなったような気がするんだ」

 しばらく歩いていると、慧音が歩きながらふと何か話し始めたので一度考えていた事を保留させ、こちらも慧音に置いていかれないように歩きつつ話の聞き手に回る。

「へえ、そうなのか?」

「ああ、この前妹紅と色々話したり私の仕事を手伝ったりしてもらったんだが、お前に色々と打ち明ける前より少しだけポジティブと言うか何と言うか、とにかく少し明るくなったような気がするんだ。多分だがお前が妹紅自身の秘密を受け入れてくれて少し気持ちが楽になったのかもしれないな。」

 慧音が雲一つない青空を見上げながらそう言った。あれ以来妹紅とは会っていない為どこがどう明るくなったのかは俺も知らないがあの時気になったことを聞いてしまって良かったんだな、と思う。やはり時には思い切った行動も必要なんだよな…

「だからな、康介」

「ん?何ぞ?」

 少し自身の世界に入りかけてたが慧音の話の中にふと俺の名前が出てきて我に返り、少し変な反応をしてしまった。正直恥ずかしいが、そんな事は御構い無しと言わんばかりに慧音は話を続ける。

「お前には妹紅と仲良くしてやってほしいんだ。あいつの人生にとってはほんの一瞬のような時間かもしれないが、そのほんの一瞬の時間を良い思い出にさせてやりたいんだ。…まあ、お前にこんな事を言わなくてもお前は仲良くしてくれるだろうけどな。」

「当たり前だろ?任せとけって。」

 そう言って右手の握り拳で自身の胸を軽く叩く。これは『任せとけ』の身振り手振りバージョン……と俺は勝手に捉えている。あくまで俺がそう捉えているだけであって慧音には伝わるかどうかは微妙だが。

「ああ、頼んだぞ。…と、ここからならあと少しで里に着くはずだ。」

「お、もうそんなに歩いてたのか…」

 辺りを見回してみると進行方向の遥か遠くにうっすらと人間の里の門が見える。歩きながらだったとはいえ、話をしていると時間はあっという間だなぁ。そういえば人間の里、もとい人里に行くのは迷子案件の時以来だっけ。慧音がいるから今度は迷わない…よな?

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

「おお〜、祭りの準備って感じがしてる」

「だろ?今年はここで祭りのイベントの一つ、弾幕ごっこが行われるんだ。」

(…正直イベントとか銘打たなくても良い気がするのは気のせいだろうか。)

 今俺は慧音に連れられて里の中央辺りの広場に居る。その広場にはどこかの漫画で見たような地面より一段高いステージが。おそらくこの中で弾幕ごっこをするんだろうが…こんなステージとか用意しなくても普通に空中とかですれば良いのに、と思ってしまう。

「で、何故俺はここに連れてこられたんだ?まさかとは思うが、観光なんかじゃないだろうな?」

「当たり前じゃないか。ここ以外にも通りに出店が並んだりするのだが、実はとある屋台が少しばかり人手不足なんだ。その手伝いをして欲しくてお前を連れてきたんだ。」

「とある屋台…?」

「ああ、その屋台が焼き鳥屋なんだが少し手間取ってるみたいでな。準備だけで良い。だから、その屋台を手伝ってくれないか?」

 焼き鳥の屋台か…別に断る理由も無いのでやるつもりだが、なんかとんでもなく嫌な予感がするのは気のせいか…?いや、気のせいだろう。…そういう事にしておこう。そうしないと、いつまで経っても俺が心配しそうだ。

「おう、良いぜ。じゃあ、その焼き鳥の屋台まで案内してくれよ。」

「…ああ。じゃあついて来てくれ。」

 そう慧音が言い、広場から伸びている通りの一本へと歩き出した。当然俺もついて行く形で中央の広場を後にした。

 

 

 

 

 

 

数分後…

 

 

 

 

 

 

「確かこの辺だった筈だが…あっ、あったあった。」

「へー…これがこっちでの焼き鳥の屋台か。あまり外の世界と変わらないな。」

 様々な屋台が並び、夜への準備の為かバタバタしている通りの端に、その焼き鳥屋はあった。軽く中を覗いてみたが誰もいない。まだ準備中のようだ。…というか『準備を手伝って欲しい』と言われて来たのに準備終わってましたー、とかだったら流石に洒落にならん。

「ん?あいつ、何処行ったんだ?おそらくここに居るはずなんだが…」

 そう慧音が言いながら、辺りを見回している。多分あいつ=ここの焼き鳥屋台の店主(?)なんだろうけど…

「なあ慧音、少し気になったんだが、ここの焼き鳥屋台を切り盛りしてる人って誰なんだ?慧音がそいつに頼まれたから俺が連れてこられたんだよな?」

 先程から頭の片隅で気になっていた事を聞くと、慧音はこちらを向いて答えた。

「あ、ああ。友人の頼みだったので引き受けたんだが…私も仕事が残っているから早めにお前を引き渡してさっさと仕事に戻りたいんだがな…本当に何処行ったんだ…?」

 何故仕事が残っているのにこの人は人手を連れてくることを引き受けたんだろうか。慧音ってお人好しだったりするのか?そう思いながら俺も適当に辺りを見回していると、偶然反対方向を見ていた慧音が何かを見つけたような声を出した。おそらくここの店主、つまりは俺が今から手伝う相手だろう。多分。そう思って俺も慧音が向いていた方を向き…色々と納得した。

「あ、いたいた。全く、何処行ってたんだ?───妹紅」

 そこには、何処かで買い物をして来たのか、色々と荷物を持っている妹紅がいた。どうやら俺は、今から焼き鳥屋台店主でもある(らしい、というか今初めて知った)藤原妹紅の手伝いをするらしい。

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

「………よし。これでどうだ?」

「どれどれ…うん、良い感じに切れてるじゃないか。じゃ、そこに置いといてくれ。」

「あいよー」

 軽い応対をした後黙々と作業を続ける康介と私。正直最初こいつが来た時はどうしようかと頭を抱えかけたが、案外その性格に似合わず康介はそこそこ料理が出来るようだ。この準備を始める際、この前慧音に誘われて行った康介の歓迎会での料理が大体康介が作っていたと彼の口から聞かされた時は驚きだった。あの時はてっきり紅魔館のメイド長とやらが作ったかと思っていたが…まさか彼だったとはな。

 さて、問題の準備の方だが彼の手際が割と良かったお陰で本来の予定時間どころかそれより前に準備が終わりそうだ。久々に焼き鳥屋台を出店して欲しいと慧音に頼まれ、久々に出すと意気込んだは良いものの、まさか他人の手を借りる事になるとはね。それでも上手くいきそうで本当に良かった。一応慧音には『今暇で私の知り合いの人』と頼んだが…慧音が連れてきたのが康介で良かったと思える。

 気付けば陽がだいぶ西の方に傾いてきた。そろそろ私の方も準備が完了しそうだ。後は康介の鶏肉カットを待って、串に刺し、塩をふって焼くだけ。流石に焼き鳥を焼いたことの無い康介に任せるのもアレなので、彼には鶏肉カットだけを頼んだ。串に刺すやり方も知らないだろうし。

「…よし、鶏肉やり。…じゃなくて、鶏肉カット終了ー。」

「おお、ありがとな。お陰で予定時間に間に合いそうだ。」

 陽の傾き的に本来の予定時間には十分間に合いそうだ。私は康介の方を向いて、彼の手を握り感謝の意を伝えた。当の本人は少し照れ臭そうだ。

「別に良いってことよ。お陰で祭りが始まるまでの暇は潰せたしさ。ところで一つ聞きたいんだが…」

「ん、なんだ?」

「いや、大した事じゃないし俺が言うのもアレだが、この量で祭りが終わる辺りまで行けるのか?」

 康介が先程自分が切った鶏肉に目をやりながらそう言った。確かにこの量だと客足がどうとかは分からないが、繁盛した場合を考えるとおそらく中盤辺りまでしか持たないだろう。まあ焼き鳥のストックが切れてしまえば閉店するだけで良いし、そもそも良くて中盤で切れるように調整して買ってきたからな。ってん?あいつはイベントの事知らないのか?いや流石に知ってるか。

「いや、敢えてこの量なんだ。中盤辺りで少し屋台を閉めないといけないからさ。」

「へー、妹紅も色々大変なんだな。…じゃ、そろそろ行くかな。流石にこれ以上俺がここにいると邪魔になりそうだし」

「手伝ってくれてありがとな。…あ。そういえば、バイト代的なものはどうしよう」

 割と重要なことを忘れていた。知り合いであるとはいえ流石にタダで手伝ってもらったでは済ましたくない。かと言って特に今何か出来るかーと言っても特に出来そうにないし…そう考えていると、彼が口を開いた。

「あー、別に見返り求めて手伝った訳でも無いから別にこれと言ったものはいらない。ただ、どうしてもって言うんなら…祭りの終盤くらいにここに顔を出すからその時にもし焼き鳥が余っていたら、2本ほど割引きしてくれないか?一応手土産にさ。」

「…まあそれで良いか。じゃあまた後でな。私との約束、忘れるなよ?」

「あいよ、忘れるまで忘れないぜ」

 私が少し怖目に言うと、彼は少しニヤッとしてそう言い、焼き鳥屋台を去っていった。

 …あの言い方だとマジで忘れそうで心配だが。そう思いながらも、私は串に鶏肉を刺す作業を始めた。

 

 

 

 

 

 

数時間後…

 

 

 

 

 

 

「(mgmg…)これ美味いなあ…」

「ふふ、そう言って頂けると嬉しいです」

 陽が落ちて祭りが始まってから1時間くらい経っただろうか。俺は今たまたま見つけた空いてる屋台に入り、八目鰻の蒲焼きを食べている。そして目の前にいるやたら和服が似合うこの妖怪はミスティア・ローレライ。何でも夜雀の妖怪らしく人を鳥目、つまり夜盲症にする(らしい)妖怪だそうだ。あくまでそれは本来の能力では無いらしいが。

 祭りも中盤、今まで軽く食べ歩きしてきたがどこも良い感じに財布の中身に優しい店ばかりだった。まあそんな事はどうでも良いのだが今の俺には少し気になることが一つ。折角なので聞いてみる事にした。口の中にある物を飲み込み、ミスティアに一応敬語らしきもので聞いてみる。

「ところで、ミスティアさん」

「はい、何でしょう?」

「少し通りの方が寂しくないですか?」

 そう、ついさっきまで人混みと化していた通りが、少し人が減ったように思えるのだ。そして、ミスティアの屋台も人が少なめ。一体どういう事なんだろうか…

「この時間帯は今年だと広場の方で弾幕ごっこがあるんですよ。飛び入り参加オッケーの少し特殊な弾幕ごっこがね。皆そっちに行ってるんじゃないですか?」

 ミスティアがおでんコーナーに具材を追加しながらそう言った。確か昼間慧音に連れられて行ったところだっけな。やはりあのあまり意味が無さそうなステージの上で弾幕ごっこしてるのか。しかも飛び入り参加オッケーって…まあ弾幕ごっこって観客に回れば美しいものだしそっちに客が吸われるのも当然か。

「寧ろこういう時間帯に店に人が入ることの方が珍しいくらいなんですよ?ところで天ケ原さん、弾幕ごっこ見に行かないんですか?」

 ミスティアが菜箸でおでんを突っつきながらそう言ってきた。何故俺の名前を知ってるんだ、と思ったがそういえば文に取材されたんだっけか。反射的に湧いた疑問を頭の中で消化し、ついでに食べていた鰻を飲み込む。

「いや、そもそもこの時間帯に弾幕ごっこしてるって事初めて知ったからな。…まあもし仮に知ってたとしても参加しないけどね。俺弱いし。」

「天ケ原さんって弾幕ごっこ弱いんですね…てっきり異変解決に貢献したからには強いと思ってましたが」

「あんま期待はしないでくれや。幻想郷歴1ヶ月ほどだしな。…さて、ご馳走さん。お代ここに置いとくねー」

「はーい、またいらして下さいねー」

 代金をきっちりカウンターの上に置き、俺はミスティアの屋台を出た。少し賑わってるとはいえ、流石に序盤ほどの賑わいはない通りをのんびりと歩く。少し背伸びをして、これからどうするかでも考えるかな…

(さて、これからどうするかな。ミスティアの言ってた弾幕ごっこを見に行くのもアリだが…ぶっちゃけ何故か嫌な予感しかしない。かと言って丁度今軽くだが飯食ったとこだしな…少し歩いて腹を減らしつつ次の出店でも探すかな)

 適当に思考を巡らせながら普通に歩く。人混みの中だと人混みに思考を割かれあまり出来ない行為だが、あまり人の行き交いも激しくない今なら何か考えていても大丈夫だろう。多分。

「…………は?」

 普通に歩きながら色々と思考していたが、いきなり浮遊感に襲われ思考が止まる。言い訳っぽく言うなら、別のことを思考していたが故に少しだけ反応が遅れた。

 慌てて下を見る。下にはまるで落とし穴かと言わんばかりに気味悪い空間が広がっていた。いやまず風を起こして浮かばないと普通に落ちる…!そう思って風を起こそうとしたが、もうその時には既に俺の身体は気味悪い空間に落下していた。

「うわあああああ!?」

 辺りが謎の空間に包まれる。しかも、周りには誰のものか分からない目玉がたくさん浮いてこちらを見ているし…気味悪いなと思いながらも俺はひたすら落下していく。そういえばこの空間、どこかで見たような…?

 5秒と経たないうちに、ふと下に別の空間が見えてくる。何だあれは。と言うかあの色をした地面…いやステージを俺は今日の昼頃に見たぞ…?

 思考が回らないうちに俺は取り敢えずの風を起こし、下に見えた地面に上手いこと着地。気付けば周りはあの気味悪い空間ではなかった。というか周りに人々がたくさん。そして視線を前に向けるとそこには──

「お、まさかとは思ったが本当に連れて来てくれるとは。スキマ妖怪に言った甲斐があったな。」

 臨戦態勢らしきものを取っている妹紅がいた。……今度からは周りに気をつけて歩くことにしよう。ボーッとしていて気付いたら別の場所でしたー、みたいな事が起こる(今起こった)幻想郷、色々と怖い。まあそれを差し引いても楽しいから良いんだが。




次回予告
 謎の落とし穴に落ち、昼間広場で見たステージに(半ば強制的に)降り立った康介。どうやら妹紅と少しだけ特殊な弾幕ごっこをしないといけないらしい。「まあやるからには…」とやる気を少し入れ、妹紅との弾幕ごっこが、始まる…!
次回「第二十三話 祭りと弾幕と一輪の花(後編)」(仮)

 如何でしたでしょうか。おそらく次回は今回ほど文字数は多くならないかなーと思います。ただ、だからと言って次話の投稿が早まる、なんて事は大体無いと思うので気長に待っていてください。
 それではまた次回。うp主の折れない黒鉛筆でした。

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