東方染色記   作:折れない黒鉛筆

24 / 24
 どうも、うp主の折れない黒鉛筆です。
 まず、投稿がやばいほど遅れてしまって申し訳ありませんでした…正直4月の忙しさを舐めていた。
 それでも何とか4月中に書き切った第二十三話ですが、 知らないうちに1万字超えてました。あれも入れたいこれも入れたいと欲張って、尚且つ(後編)と宣言したからには出来るだけこの話に収め切りたい、なんて考えつつ書いてた結果なのでどうか許してヒヤシンス。
 それでは、第二十三話をどうぞ。

p.s.前回のあらすじの書き方を確認しようと第二十二話を見たんですが、なんと前回のあらすじを書き忘れていたという…
すぐ書き加えますので少々お待ちを。

前回のあらすじ
妹紅の手伝いをした
ミスティアの屋台で八目鰻の蒲焼きを食べた
変な落とし穴にかかった


第二十三話 祭りと弾幕と一輪の花(後編)

「お、まさかとは思ったが本当に連れて来てくれるとは。スキマ妖怪に言った甲斐があったな。」

「……唐突に色々と起こりすぎてて何が何だか良く分からん」

 今はあんな事思ってる暇なんかないな。うん。取り敢えず状況整理。多分この場所は見回した感じ、昼間見たあのステージで間違い無いと思う。周りに人が多くて騒がしく、昼間とは全く違う雰囲気だが。で、今から何をするかはまあ明白だから今は別に考えなくても良いか。そして俺を落としたあの落とし穴みたいなアレは…まあ妹紅の話からするにスキマ妖怪、つまり紫の仕業だろう。そうと決めつければあの落とし穴の既視感にも納得がいく。

「で、最低限の脳内整理は終わったか?」

「ああ、最低限は終わったぞ。…で、一応聞くが今から何するんだ?まさかとは思うがこのまま帰してくれるって訳では無いよな?」

 待ってくれている妹紅にも悪いので、取り敢えず思考を終わらせた旨を伝えダメ元で妹紅に聞いてみる。

「決まってるじゃないか。私と弾幕ごっこをするんだよ。少し特別なルールでな。」

 ですよね。思わずため息が出てしまう。多分今ここで帰ろうとしても帰れると思うが、どうせならやってみるしかないだろう。妹紅の弾幕ごっこの実力も気になってはいたし。

「…で、その特殊ルールってのは?」

「簡単なことさ。敗北条件が少し増える。従来の『一定回数被弾したら負け』と『指定されたスペルカードの枚数分を相手に攻略されたら負け』に加えて、『このステージから外に出たら負け』ってのが追加されるだけ。」

 つまりは某武道会みたいなルールが加わった弾幕ごっこって事だな。理解理解。

「で、被弾回数等はどうするんだ?一応お前の方が詳しいだろうからルール設定とかはお前に任せるが?」

 俺がそう言うと、妹紅は少し考える素振りを見せた。

「それじゃあ…被弾3回目で敗北、スペルカードは4枚でどうだ?」

 特に俺が不利になるような要素はない。スペルカードの方は前のハンデ付き魔理沙戦の時より一枚多いがまあ足りる。ただ、いかんせん弾幕ごっこに慣れていないため、被弾許容回数が少なめなのが怖い。まあ何とかなるか。特に何か賭けてる訳でもないし。

「ああ、それで良いぜ。……じゃあ、やるか。勝てると良いんだけどな…」

「私に勝てると思うなよ?…まあ、もし勝てたらあの焼き鳥タダにしてやっても良いが。」

「成る程ね…いや、別に良いや。」

「そうか、なら止めておくか。」

 軽く会話を交わしつつも、互いに集中していく。初撃をどうするか。そしてどう立ち回っていくか。

(妹紅の弾幕はほぼ見たことが無いからな…初見の対応力があれば何とかなりそうだ。まあそんなの俺にあるとは思えないけどな。対して俺は能力だけならバレてるか…若干不利か?)

 思考を巡らせる。俺と妹紅の間に緊迫した雰囲気が流れている。観客もその雰囲気に呑まれたのか静かになった。

 

 夏の夜の涼しい風が頬を撫で、静寂が辺りを包む。どれくらい経った…と言ってもおそらく5秒も経ってないだろう。

「行くぞ康介!弾幕ごっこ、開始だ!」

 そう言って空中に浮かび、弾幕を放ってきたのは妹紅。色とりどりの札を周囲に放つ。周りに放ったら観客の人たちも危ない…なんて、そんな悠長な事を考える時間はないか。俺に向かって飛んでくる札と札の隙間に身体をねじ込み、俺も負けじと弾幕を放つ。ただ、妹紅に比べると弾幕量に差がありすぎる。その分俺は弾幕を回避するのに精一杯になり、妹紅は俺のただでさえ少ない弾幕を簡単に回避する。つまり開幕ジリ貧。まずい。いつ被弾してもおかしくない。スペルカードで打開したいが…正直なところ打開出来そうなやつあったか?どれでも打開できそうな感じはあるけども。

「どうした康介、お前の力はそんなものか!?」

「うっせぇ!これでもそこそこ本気出してるんだからな!」

 言葉共にやや乱雑になりかけながらも弾幕を放ちつつ、今まで作ったスペルカードを思い返す。……うーん、無さそうだがまあ一度やるだけやってみるか。一度弾幕を放つのを止め、肩にかけたワンショルダーバッグに手を伸ばし適当に一枚のスペルカードを取り出す。念の為取り出したスペルカードの名前を確認。まあこれなら行けるか。俺はスペルカードを片手に前を向き、妹紅を視界に捉える。そして一呼吸置いてからスペルカードを掲げ、宣言。

「行くぞ!雨符「断続的な通り雨」!」

 そう宣言し、妹紅の頭上に雨雲に見立てた雲を作り出し、そこから弾幕を落とす。妹紅は一瞬真上から弾幕がやって来たのに驚いたように見えたが、難なく躱していく。やっぱりこのスペルカードだと色々欠けてる気がしてならない。ただ効果時間自体は長いから少しの足止めにはなりそうだ。実際スペルカードを宣言してから妹紅の弾幕量が少し減ったように思える。流石に避けられてるとは言えども頭上から飛んでくる弾幕なんてあまり避けた事無いだろうからそっちに気をとられるのは仕方がない事なのかもしれないけど。まあ取り敢えずその間に態勢を立て直すとしますか。

「中々、やるじゃないか!じゃあ私も行くぞ!時効「月のいはかさの呪い」!」

 態勢をある程度立て直した直後、妹紅が俺の弾幕を避けながらスペルカードを宣言してきた。一応態勢はある程度なら立て直しているので特に問題は無いが…俺のスペルカードを避けながら自身のスペルカードを宣言するって凄えな…。そう思っているうちに妹紅が線状に並んだ米粒っぽい弾と青いナイフのような弾を回転させながら発射させてきた。勿論当たる訳にはいかないので、米粒のような弾と弾の間を身体に当たらないようにしながら通り抜ける。青いナイフの弾は色々な方向にばら撒いてるだけっぽいから俺に飛んでくるやつだけ避ければ……なんかこの展開どこかでやったような。

 ふとデジャヴを感じ、後ろを振り向く。そこには、こちらにゆっくりと迫ってきている赤いナイフのような弾が。まじかよと思いつつも赤いナイフの弾を避ける。そしてすぐ前を向くと、そこには不敵に笑みを浮かべながら弾幕を発射し続けている妹紅の姿、そしてその手前に米粒みたいな弾、そして青ナイフの弾が大量にあった。もしかしなくても、これ全部避けないといけないっぽいな…

「お、赤いナイフに気付けるとはな。中々鋭いじゃないか。」

「まあな…」

 一応気付きはしたが、いつ被弾してもおかしくないくらいにキツい。米粒弾の間と間を潜り抜け、自分の方向に飛んでくる青ナイフの弾を避け、後ろを時々見て自身に飛んできている赤ナイフの弾を避ける。まだ弾速が遅いのが幸いだ。その幸いに救われたからか、何とか妹紅のスペルカードが時間切れになるまで避け切ることができた。ただキツい事には変わりない。全く勝ち筋が見えないし。ただ弾幕を放たないことには相手を被弾させられないので弾幕を放つ。

「まだまだ序盤の癖に疲れが見えてきたようだが?そのままだと私が勝ってしまうぞ?」

 妹紅が煽りっぽく言葉を発する。確かに最序盤の癖に俺は疲れてきている。それは事実。避けた事があまり無いような弾幕量、そもそも弾幕ごっこの経験の無さ、そして地面にいる事からの回避範囲の狭さがこの疲れを起こしている…気がする。多分。最後のは飛べばどうにでもなるから良いが。

 一応飛んでいない理由は無いわけではない。ただ飛行縛りでやるつもりも毛頭ない。だからと言って飛んでいる時にアレをしようものなら今の俺なら即落下、場合によっては弾幕ごっこどころじゃ済まなくなるかもしれないし。 ただ、不意程度ならつけるかもな…どうしたものか…

 …少し考えすぎたか、目の前に飛んできている札に気がつかなかった。この距離は……回避は出来ないと判断し、雲を展開しようとしたが雲を展開するより前に札が自身の右腕に当たってしまった。

「……っ!?いってぇ……」

 思わず被弾した箇所を抑える。一応流血なんて物騒なことは起こらないと思うからおそらく大丈夫な筈。ただ、場合によっては利き腕が使えなくなるかもなぁ。キツい。

「これで被弾1度目だな。さあ、一気に畳み掛けるぞ!不死「火の鳥 -鳳翼天翔-」!」

 色々思考を巡らせていると、妹紅がすぐさまスペルカードを宣言。それと同時に妹紅から赤い炎のような弾の塊がこちらに飛んでくる。それはまるで火の鳥、不死鳥のようだった。一瞬見惚れたが、流石に被弾する訳には行かないので塊自体に当たらないよう大きく右に避ける。炎弾の塊を避けた後で左側を見ると、炎弾の塊が通った後にはまた別の赤い弾が。なるほど、こういう感じか。

「余所見は禁物だぞ?」

 そう言う妹紅の声を聞き、慌てて前を向くと二つ目の炎弾の塊がこちらに飛んできている最中だった。後1秒もあれば普通に被弾する。更に、あの炎弾の塊の幅からして今から普通に避けても間に合わず被弾するだろうな。…って何冷静に考えてるんだか。

「クソがッ……!」

 咄嗟に自身の左側から突風を吹かせ、その突風の勢いで一気に何もない自身の右側に飛び込む。左足を炎弾が掠め、ついでに着地を失敗して右腕からステージに着地してしまったが、何とか第2波も避け切ることができた。急いで体勢を立て直し、妹紅の方にいくつか弾幕を放つ。だが、それも難なく妹紅に躱されてしまった。そして弾幕を躱した妹紅がこちらに向かって全方位弾と大量の炎弾の塊を放つ。流石にこの弾幕量ではこのまま、つまり地上移動だけでは避けきれない。ならどうするか?答えは簡単だ。妹紅と同じく空を飛べばいい。

 そう考えて、すぐに行動に移す。弾幕に被弾する前に上昇気流を起こし、自身を上昇させる。未だにメカニズムが分かっていないが飛べてるのだから今はどうでもいい。飛んでいる俺の足元を弾幕が通過していったのをチラ見し、同じ高さにいる妹紅の方を見る。相変わらずさっきと同じような弾幕が飛んできているので避けながら、だが。

「お、ようやく飛んだか。という事はつまり、『いんく』を使った攻撃を捨てたって事か。それで良かったのか?」

「良かったから飛んだんだよ。それに飛ぶのやめる事なんざいつでもできる。インク攻撃もまだ捨ててないぜ。」

 妹紅が弾幕を展開させながら話しかけてきたので適当に返しておく。一応こちらとしてもやりたい事があるので悟られないように少しずつ妹紅より上に上昇する。

 妹紅は弾幕ごっこが相当上手い。俺なんかが真正面から立ち向かっても俺に勝ち目はない。今も妹紅の弾幕を避けつつ余裕があれば弾幕を放ってはいる。が、こちらの弾幕は全くもって掠りやしない。どんだけ上手いんだあいつ。

 

 それでも少しずつ上に上がりながら妹紅の弾幕を躱していると、妹紅が炎弾の塊を発射するのを止めた。どうやら時間切れらしい。

「まさか私のスペルカードを一枚だけとはいえ被弾せずに避け切るとはね……中々やるじゃないか、康介。」

「どういたしまして…っと!」

 会話を交わしながら弾幕を互いに飛ばし合う。おそらくこれを観客視点で見ると綺麗なんだろうな、なんて思いつつも少しずつ上に向かう。この上に向かう行為もバレバレだろうけど。

「で、お前はどうして上に向かってるんだ?バレバレだぞ?」

 妹紅が俺を見上げ、弾幕を放ちながらそう言ってくる。まあ予想通りバレバレと。ただもう充分なくらいの高さには来れた。本来なら一回被弾させた後にこれをしたかったのだが…仕方ない。まあ初見殺し程度にはなるだろう。俺は一回落ち着く為に一息つき、そして…とあるスペルカードを宣言。

「…「スペシャルフルチャージ」!」

 そのスペルカードを宣言した刹那、自身を浮かせていた上昇気流が無くなり、重力に従い落下。観客がざわめく。妹紅の顔は遠くてよく見れないが、おそらく驚いてる事だろう。不意を突くには充分だ。取り敢えず落ち着いてとあるブキを持ち、頭から落下しながら妹紅の方を向く。

 チャンスは一回きり。それに最後まで成功させられるかがまだ分からない。ただ成功すれば多くて二回分の被弾になる筈だ。ただやった事はない、つまりぶっつけ本番なのだが。

 そう考えている間にも、俺の身体は下へと落下していく。そろそろだと思い、ブキを構える。妹紅の位置を確認。先程からずっと動いてない。射程も見た感じ届く。そして…妹紅の目の前を落下して通過するその瞬間、俺はそのブキ…『ホットブラスター』のトリガーを引き、その直後にとあるスペルカードを宣言した。

「スペシャル「スーパーチャクチ」っ!」

 そのスペルカードを宣言した直後、俺の身体が少し上へと浮き上がる。そして右腕を振り被って力を溜めつつ、チラリと妹紅の方を見る。どうやらホットブラスターの弾を受けたらしく、腕でガードをした直後だった。その証拠に、腕に青いインクの跡が付いているのが見える。

 反射的に妹紅が一発弾を放ち、俺の身体にヒットする。予想外の痛さに思わず顔をしかめるが、ここまで来たらゴリ押すしかない。

「これで…どうだっ!」

 そう叫び、右腕を突き出して地面に向かって急降下。地面に右手を叩きつけ、インクの大爆発を起こす。右腕が尋常じゃないくらい痛いがまあ仕方ない。すぐさまインクがかかった地面の上に立ち上がり、妹紅の方を見上げる。妹紅は腕にかかった青インクを払いのけながら弾幕を飛ばしてきた。マジかよ、と思いつつも右へ左へと避ける。

「今のは少し驚いたな。まさか一瞬で二被弾持っていかれるとは」

「どういたしまして……っと、あぶね」

 会話しながら弾幕を避け続け、こちらも弾幕を放つ。足元が自インクと化したので動きやすい…訳ではないので先程と同じ状況、下手したらさっきの状況より悪化しているかもしれない。というのも、今のでこちらはスペルカードを3枚使用。4枚目を避け切られると負けになってしまう為迂闊にスペルカードを宣言できない。対して妹紅は後二枚…まだ余裕がある。それに加え、今の初見殺し気味な二連続被弾を取ったからといって先程からの不利状況を打開できた訳ではない。要するにまだまだ相当キツい状況だ、という事だ。

「さて、そろそろ決着を付けようか!滅罪「正直者の死」!」

 妹紅が3枚目のスペルカードを宣言。そして妹紅の左右から俺の左右へとまるで線が引かれるかのように青い弾幕が並ぶ。試しに少し左に動いてみると、ライン状に並んだ弾幕も左へと動いた。どうやらこれは俺を敢えて外して飛んでくる弾のようだ。そう確認した刹那、妹紅の方からさらに追加の赤い弾幕が飛んでくる。取り敢えず自身に向かって飛んできている弾幕があったので、右に少し移動して弾幕を避ける。そして、自身の右側にレーザーが出現。左へと薙ぎ払うようにしながらこちら側に向かってくる。避ける為に慌てて左側を見ると、ライン状に配置された先程の弾幕が。早く左へと移動しないとレーザーに轢かれるが、下手に移動しても左側に展開されているこの弾幕に被弾するだけ。

「マジで言ってるかそれ…はあっ!」

 頃合いを見計らい、左側に展開されていた弾幕と弾幕の隙間を走って通過。右側を見る。まだレーザーは追ってきている。左側には……またあの赤いライン状の弾幕が。うんざりしている時間はない。また頃合いを見計らい、隙間を通って通過。

「よし、これで……」

 右側を振り向く。頃合いを見計らいすぎたせいか、レーザーがすぐそこまで迫ってきていた。急いで左に抜けようにも、赤い弾幕とのタイミングが合わない。上に飛んで避けようとしたが、今から上昇気流出しているようじゃ絶対間に合わない。スペルカードで対抗しようにもこの状況からたった一枚で妹紅の被弾を取れるスペルカードを俺は持っていない。今から作る事も考えたが今からササっと作れるほど手際は良くない。そもそも間に合わない。

「……詰み、か。」

 やっぱ弾幕ごっこ手慣れてる人は違ったな。上手い。この一言に尽きる。俺も妹紅達に追いつけるようもっと練習しないとな。

 はあ、とため息をつき俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、いててて…」

 ため息を一つついて、先程の弾幕ごっこで被弾した箇所をチラリと見つつ、静まり返った通りをゆっくりと歩く。あの後、案の定俺はレーザーに被弾し、妹紅の勝ちとなって俺と妹紅の弾幕ごっこは幕を閉じた。

 祭りも終盤になり、先程弾幕ごっこをしたステージで様々な催しが行われているからか辺りを見回しても人や妖怪は殆ど見当たらない。そんな通りを何故俺が歩いているのか、と言えばただ一つ。妹紅の店へと向かう為だ。

 あの弾幕ごっこの後、妹紅に焼き鳥が売れ残っているかをこっそり聞いてみた。すると、残っていると妹紅が言ったので今こうしてあの屋台へと向かっている、という訳だ。

「確かこの辺……お、あったあった。」

 暗がりの中に手伝いをした場所である妹紅の屋台が浮かんでくる。光はついておらず、もう閉店したという雰囲気を醸し出している。そういえば妹紅に肝心の尋ねる時間を言っていなかったな、なんて思いながら妹紅の屋台へと歩みを進める。

「ようやく来たな、康介。」

 屋台がもう目と鼻の先にある。そんな時に不意に屋台の方から声を掛けられた。

「よっ、妹紅。約束通り焼き鳥、買いに来たぜ。」

 そう言って屋台に設置されている椅子に腰掛け、辺りを見回す。屋台の周りこそは夜のため暗いが、そこそこ良い雰囲気なのは暗くても分かる。そして目の前には妹紅の姿。

「取り敢えず……4本余ってるか?持ち帰りで頼みたいんだが…」

「4本…?まあ良いか。了解。」

 疑問を感じた口調でそう言った妹紅だったが、作業を始める。その間俺は寝ないようにしつつ焼き鳥が出来るのを待つ。流石にこんな場所で寝たりはしないだろうが。

 焼き鳥の焼ける音と良い匂いが静寂に包まれていた空間を支配する。暫くの間二人とも口を開くことは無かったが、先に口を開いたのは焼き鳥を焼いている最中の妹紅だった。

「そういえばお前、弾幕ごっこ中々強いよな。あのインク攻撃で二連続被弾を取られた時は本当に驚いた。本来ならあれも避けられそうな気がしたんだがな…間に合わなかった。」

「逆に最初だと避けられない弾幕を放つことでしか被弾を取れないからな、俺は。だからそんなに上手くはないぞ」

 思い返してみれば、魔理沙とハンデ付きで戦った時もそう。霊夢と共に咲夜と戦ったときも……あれは不意打ちに入るのか?まあ良いか。その時もそうだ。俺が今までに少ないながらも取った被弾は不意打ちだったり初見殺しだったりと、全部実力で決めていないようなものだ。不意打ちや初見殺しをしっかり決めるのも実力のうちなのかもしれないが、それらは出来て当たり前。今の俺にはTPSやFPSで言う所の『対面力』が足りていないように思える。相手と対面した状況下で互いに弾幕を放ち、相手の弾幕を避けつつ自身の弾幕を当てる。そんな事が出来ていない。正直妹紅や魔理沙のような弾幕ごっこが上手い相手にはそういう事は出来ないのかもしれないが。

 思考を一通り終え、ふう、と息をつく。すると、妹紅が焼き鳥を焼き終えたらしく、トレーに入れてくれている所だった。

「あいよ、焼き鳥4本お待ち。」

 そう言って妹紅がトレーの入った袋を差し出す。

「お、ありがとな。じゃあこれ、お代な。」

 そう言って俺は焼き鳥4本分の代金を妹紅に渡し、袋を受け取ってカウンターの上に置き、その中から焼き鳥が入ったトレーを取り出す。

「さてと……持ち帰りと言ったが、折角だしここで一本食べるか。ほら、妹紅も食べなって。」

 そう言ってトレーを開き、焼き鳥を一本妹紅の方に差し出す。

「良いのか?なら遠慮なく。」

 妹紅が焼き鳥を受け取ったところで、俺ももう一本焼き鳥を取り出し、焼き鳥を眺める。如何にも美味しそうな見た目だ。

「それじゃ、いただきます。」

 そう言って焼き鳥に息を吹きかけて少しだけ冷まし、口の中に入れる。

「……!美味い!」

「ふふ、そりゃどうも。何せ大分前からやらせてもらってるからな。」

 …妹紅の言う『大分前から』は一味違う。そんな気がした。そんなくだらない事を考えながら焼き鳥を食べていると、いきなり後ろの方で何かが爆発する音が聞こえた。何だと思い後ろを見る。

「……ああ、成る程。夏祭りって言ったらこれか。」

「おお、今年も綺麗だな。」

 振り向いて視界に入った夜空に打ち上がっていたのは、花火。まさか幻想郷で花火を見られる事になるとは。正直考えてなかった。

「なあ妹紅、これって一体誰がやってるんだ?」

「山の河童達だよ。あいつら、ああいう系のやつに滅法強いからな。」

 妹紅が焼き鳥を頬張りながらそう答える。それを聞いている合間にも花火は一発、また一発と打ち上がっていく。ふと河童が火薬を扱って大丈夫なのだろうかという疑問が頭をよぎったが、そんな事はどうでも良いと割り切った。今はこの夏の象徴のような幻想的な風景を楽しもう。

 ──幻想郷の夜空に咲いた、色とりどりの花火を。

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

「……よっと。ふぅ、着いた着いた。」

 スタッと境内の石畳に着地する。あの花火を見終わった後、俺は妹紅と別れ真っ直ぐ博麗神社へと飛んだ。そのお陰か少し早く着くことができた。辺りを見回してみると、少しだけ霧は出ているような気もするがおそらく気のせいだろう。取り敢えず一刻も早く風呂に入って寝たい。そう思い、俺は神社の住居スペースへと向かう。

「ほう……良い匂いがするねえ。この匂いは…焼き鳥か。」

 何の前触れもなく、いきなり何処からか声がした。思わず身構える。紫の仕業かと思ったが、それにしては声質が違いすぎる。

「………誰?」

「そんなに身構えなくても良いじゃないか。ほら、私はここに居るよ。」

 そんな声が何処からか聞こえると、辺りにかかっていた霧が一点、俺の目の前に集まり、人の形となって俺の目の前に現れる。

「はじめまして…かな?私は伊吹萃香。見ての通り、鬼さ。」

「…はじめまして。俺の名前は天ケ原康介。幻想郷から帰れなくなった只の外来人だ。」

 萃香と名乗った少女は、薄い茶色のロングヘアーに、その頭の左右から身長と不釣り合いに長くねじれた角が二本生えている事が鬼である事を物語っていた。服装こそはよく見えないものの、頭に大きな赤のリボンをつけ、左の角に青のリボンを巻いている事はかろうじて分かった。そして片手には瓢箪のようなものが。そして酒臭い。

「康介ね、よろしく。取り敢えず一回その臨戦態勢を解こうか?私は別に戦いたくて出てきた訳じゃないんだ。それに……鬼と戦ったらどうなるか分かってるよね?」

 後半の気迫が詰まった言葉もあってか、取り敢えず俺は臨戦態勢を解く。それを見て、うんうんと頷いた萃香。

「それじゃあ、何故今出てきたんだ?」

「うーん、少しお前に色々話したい事があるんだよね。取り敢えず縁側の方へ行こうか。大丈夫。霊夢はまだ帰ってきてないよ。あ、後鬼だからって変に気を使わなくて良いからね」

 そう言って縁側の方へと向かう萃香の後をついていく事にした。

 

「よいしょっと。隣座りなよ、康介。」

「じゃあ遠慮なく。」

 萃香に促され、俺も縁側へと腰掛ける。すっかり静かになった夏の夜特有の空気が辺りを包み込んでいる。そんな中、萃香が口を開いた。

「さてと、何から話そうかね……そうだ、その焼き鳥貰って良いかな?酒のつまみに合いそうだ。」

「ああ、一本だけな。」

 そう言って自身の右側に置いていた袋の中から焼き鳥が入ったトレーを取り出し、萃香に渡す。萃香はトレーを開き、その中から一本焼き鳥を取ると、トレーを俺に返してきたので受け取る。本当は霊夢と俺の分だったんだが…まあ良いか、霊夢にラスト一本をあげるとしよう。

「ありがとうね。さてと……確かお酒は飲めないんだよね?外の法律ってやつでさ」

「よく知ってるな。そうだ。俺のいた世界では20歳未満はお酒を飲んではいけないって決まりなんだ。」

「なら仕方ない。盃を交わすのは当分先か…はあ。」

 心なしか萃香が落ち込んでいるように見えるのだが気のせいだろうか?萃香は瓢箪を口につけ何かを飲むと、瓢箪を口から離し、話を再開した。

「さてと、話を戻そうか。最近、何か異変を感じないかい?」

「異変…?それってこの前に起こった紅い霧の異変のことか?」

「違う違う。最近、力が存分に出しきれてない気がするんだ。私や霊夢、魔理沙を始めとした幻想郷で強いと有名な奴らがさ。それでお前はこの考えを聞いてどう思うのかな、って。」

 萃香の言葉を聞き、少し思考してみる事にした。俺から見た感じでは皆強そうに見えるし実際強いが、確かに言われてみれば所々引っかかるところはあるかもしれない。弾幕ごっこ初心者の俺がハンデ付きとはいえ魔理沙に勝てた事や、霊夢と魔理沙がフランに倒される寸前まで持っていかれている事。さらに、今日の妹紅戦で初見殺しを放ったが、あの後妹紅は「あの初見殺しは避け切れる気がしたが無理だった」と言っていた。俺は本来の皆の強さを知らないのでどうとも言えないが、萃香の言う通りなのかもしれない。

「確かに、言われてみれば少し引っかかるところはあるな…正直、実際の強さを知らない俺が言うのもどうかと思うけどな。」

「成る程ね。ありがとう。で、お前はどうなんだい?」

「俺…か?別に不調とかはあまり感じていないけどな…おそらく、だが。」

「へー。そうなのかい。……これで聞きたかったことは全部だね。答えてくれてありがとう。」

 萃香が縁側から立ち上がり、俺にお辞儀をしてくれる。俺も一応お辞儀を返しておいた。

「最後に一つだけ。何かあったら、すぐ戻ってこいよ。」

「……え?おい、それってどういう…はぁ、逃げられた。」

 萃香の意味深な言葉を問いただそうとしたが、もう既に萃香はどこかへ行ってしまっていた。そして縁側に俺一人が取り残される。

「どういう意味なんだ、今のは…」

 『何かあったら、すぐ戻ってこいよ。』その言葉が頭の中でずっと繰り返されていた。

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

 不気味な空間に佇む一人の妖怪。その空間に、妖怪が一人、入ってきた。

「…どうだったかしら?萃香。」

「ああ、まあ話してて嘘をつくようなやつじゃないって事は分かったよ。後あいつが不調を感じていないことも。」

「霊夢にも聞いてみたけれど、霊夢も特に不調は感じていなかったわ。ただ、フランドールにあと一歩のところで殺される所まで追い詰められたのは気になるわね…」

「なあ、それなんだが、単にそのフランドールって奴が強かったっていう説はないのか?」

「それについては無いと考えてるわ。霊夢は相当強いはずですし。」

「はずってなんだ…まあ良いか。つまり、今のところ力の衰えを感じているのは私と紫のような"幻想郷で長く生きてきた妖怪"くらいしか感じていない、ということか。」

「殆どそうね。ただ、あいつはどうかしら?あいつは言ってみればこの幻想郷にとってイレギュラーな存在。ここに来ることを私と萃香、そしてあの吸血鬼ぐらいしか知っていなかった。もしこの力の衰えが人為的なもので、その力の衰えを起こしている犯人があいつの存在を認知していなかったら…?」

「成る程な。でも、この異変の為にあいつを連れてきた訳じゃ無いんだろう?」

「…そうね。あの会話を見ていたけれど、霊夢にしては珍しく勘が外れていたわね。」

「で、その本来の目的は達成されたのか?」

「ええ、見ていた感じだとある程度は達成できたんじゃないかしら。」

「……じゃあ、前から話してたアレをするのか?」

「……仕方がないのよ。この異変の犯人があいつに気づくのも時間の問題。ただ、普通に実行する訳ではないわ。少し細工を加える。その為にあの言葉を言ったんでしょう?萃香。」

「…盗み聞きは良くないよ。私が言えた事ではないけど。」

「ふふふ…この作戦、成功するも失敗するもあいつ次第。場合によっては、幻想郷が滅ぶかもしれない。それでも…こうするしか無いのは残念なものね。」

 妖怪が何もない不気味な空間を見つめながら、残念そうにそう言った。




次回予告
 夏が過ぎ、秋がやってきた。そんな中、「いい加減魔法陣のやつとかスライドとかを完成させないと」と焦る康介。まずは魔法陣から取り掛かることにした。
 自身でやってみたり、紅魔館のパチュリーにやり方を教わったりしながら動く裏で、康介も気づいていない計画が少しずつ動き出していた…
次回「第三章 第二十四話「秋一番の魔法陣」(仮)

 如何でしたでしょうか。
 次回から第三章に突入します。しかし、章の名前を言ってしまうと完全なネタバレになってしまうので暫くは伏せておくことにします。明かしても良いなって頃に章の名前を付けます。一応章の名前は決まっているので。
 それではこの辺で。うp主の折れない黒鉛筆でした。次回は5月中に上げられたら良いなぁ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。