織斑一夏は困惑していた。
何で俺はこんな所にいるのだろうかと・・・
1年1組と表示された教室の中で一夏は周りから向けられるあらゆる視線、
好奇心や嫌悪感、侮蔑に必死に耐えていた。
ほんと何故こうなったのか・・・いや答えは分かっている。
すべては受験で訪れた試験会場、迷い込んだ部屋の中にあったIS、そしてそれに不用意
に触った自分にあるのだから。
あれから大変だった、警備員に身体を拘束され、どこかの部屋に連れて行かれ、何時間もの事情聴取(いやあれは尋問て呼んでいいものだった)。
もちろん受験などできるわけもなく試験会場から強制退去させられ、後日にはどこかの病院でものものしい監視のもとあらゆる検査を受けさせられた。
解剖されるのではないか?一夏は本気で思ったものだ。
しかし、それは仕方の無い話であるのかもしれない。
何しろISを動かしてしまったのだから、本来は女性のみしか動かせないISを。
永遠に続くかと思われたその拘束の日々は唐突に終了した。
次の検査の予定がキャンセルされ自宅に戻された一夏の元にある通知と様々な物が送りつけられて来た。
それがIS学園への入学であり、制服や分けのわからない資料の入った情報端末だったのだが。
中学浪人にならないだけましだったが・・・なにしろそんなことになれば千冬姉になにをされるか分かったものではない。
それにしても弟の苦難にこの姉はなにもいってこなかった、いや姿さえみせなかったのは冷たいなと泣きたくなった。
まあもう一人の姉が何度か連絡を付けようとしてくれた様でかなり救われた思いがした。
もっともこの姉とも結局顔を会わせることも連絡をとることも出来なかったのだが。
第一外をまともに歩けないのだ、マスコミに追いかけられるは、電話は止められるはで。
とはいえ中学浪人にはならなかったが入学先がIS学園とは・・・
一夏はそっと(そうあくまでそっとだ)周りをみる。
彼の前後と左右を囲む・・・少女達。そう少女達だ、男なんて自分しか居ないのだ。
これは至極当然の事で、ISは女性しか動かせないし、ここはそのIS操縦者の通う学校なのだから女性いや少女達しか居ないのはあたりまえなのだ。
だからといって納得出来るほど一夏は達観できていない。
多くの少女の中でたった一人の男。ハッキリいって動物園の檻の中にいる珍獣扱いだ。
そんな時一夏はその少女の中に見覚えのある者に気づく。
「あれもしかして?」
そう彼女は記憶に間違いがなければ6年も前に別れ、それ以来疎遠になってしまった幼馴染。
「箒なのか?」
篠ノ之箒、一夏とっては懐かしい相手だ。同じ学校に通い、共に剣道を学び・・・
しかし、彼女は一夏と視線が合うとぷいと顔を逸らしてしまう。
一夏が6年ぶりの幼馴染にそれはないんじゃないか、と絶望に襲われるなか・・・
「では、次は織斑一夏君・・・織斑一夏君?」
「えっ?」
「聞いてなかったんですか?出席番号順で自己紹介をしてもらってるんですが、次は織斑君の番なんですけど?」(泣き)
実は一夏が呆けている間に、副担当教官の山田真耶が来てホームルームを開始していたのだが、全く気づいていなかった。
「あ、はい申し訳ありません。ただち行います。」
山田副担当教官の泣き顔に慌てて立ち上がる一夏。周りの女生徒達から笑いが漏れる。
恥ずかしかったが兎に角自己紹介を始める。
「えっと、織斑一夏です。」
その一言で終わり、クラス内に沈黙が落ちる。
「あの・・・他には何か無いのですか?」
その沈黙に慌てた山田副担当教官が聞いてくるのだが。
それだけでは駄目なのか?一夏は焦る。だが何を言えば言えばいいんだ?
言っちゃなんだがそれは何だろう・・・周りの女生徒達からもそんな視線がくる。
ちなみに一夏は気づかなかったが、箒が「何をやってるんだか。」と呆れていた。
まあ当の本人はそれどころでなく、ここで何か言わなければと焦るも何も浮かんでこない。
で結局彼が言った言葉は・・・
「以上です。」
先ほどより深い沈黙が広がり、一夏はとてつもない失敗をしでかしたと思った瞬間。
凄まじい衝撃が脳天を突き抜け、机に叩き付けらる。
「がは・・・何だ!?」
驚く一夏は顔を上げ、目の前にいる人物を見る。そこにはある意味見慣れた顔が。
「え?え?ち、千冬姉!!」
再び凄まじい衝撃が脳天を突き抜ける。そして再び机に叩き付けらる。
「織斑先生と呼べ馬鹿者が。あとまともに自己紹介も出来んのかお前は?」
そう言って一夏の姉千冬もとい織斑千冬先生は弟の一夏もとい生徒の織斑一夏を睨み付ける。
「すいません千冬ね・・織斑先生。何でここに?」
千冬姉と言い掛けて睨まれ言い直す一夏。
「IS学園の教師だからに決まっているだろうが。」
いやそんな話聞いたこと無かったんですが。
何しろ家に帰ってくるのは一月に数回、仕事の事を聞いても「お前は知らなくてもいい。」
という有様なのだから我が姉は・・・そう織斑千冬は織斑一夏の二人いる姉の一人なのだ。
二人の姉・・・そう一夏にはもう一人姉がいる。
どっちかというとその姉の仕事の方なら良く知っている。ただ帰ってくるのは数ヶ月に数回と千冬より少ないのだが。
そういえばあっちの姉はどうしているのだろう・・・今回話も出来なかったし。
今の自分達のやり取りを見ればきっと・・・
「くすくす・・・」
そうこんな感じで笑って・・・って
「え?」
一夏はやっと気付く千冬の隣に立っている女性に・・・いや目には入っていたのだが、白っぽい服だった為、IS学園の生徒かと思っていたのだ。
だが良く見ればIS学園の制服とはまったく違っていた。
白いシャツに青いネクタイ、膝丈の細いスカート(タイトスカート、一夏は名を知らなかった)という航空防衛隊の制服に身を包んでいる。
右胸のポケット部分には三等空佐を示す階級章、そして鷲が羽を広げたマーク、パイロットを示すまで付けていることにまで一夏は気づく。
「ねえあの人の服見たことある?」
「うーん何か前にテレビか見たことがあるような・・」
周りの生徒達がそう噂し合うのが聞きながら普通そう思うよなと一夏。
自分の様に航空防衛隊の制服だと認識するだけでなく、階級や職種まで分かるのは、着ている本人かよほどのミリタリーオタクだ。
もちろん一夏は航空防衛隊の制服(女子隊員用だ)など着たこともないしミリタリーオタクではない。
ただ身近に航空防衛隊に所属する三佐の女性パイロットがいるのだ(階級や職種はその女性に教えてもらった)。
「ち、千秋姉?」
今皆の前に立つその女性こそ、その事を教えてくれたパイロットであり、自分のもう一人の姉である織斑千秋だと気づいた瞬間。
三度凄まじい衝撃が脳天を突き抜けたのだった。
「織斑三佐と呼ぶように・・・分かっているな?」
千冬姉はそう言うと状況に呆然としている俺をほっといて織斑三佐(もう一人の姉)を伴って教壇に向かう。
「山田君ホームルームを任せてしまってすまなかったな。」
「いえ。それでその方が織斑先生が待っていたという?」
千冬姉はそれに頷くと教壇に手をつき生徒達に話し掛ける。
「諸君私がクラス担任の織斑千冬だ。」
そう名乗った瞬間、クラスは黄色い(いやピンクか)の歓声に溢れる。
曰く、「千冬様に会いたくてこの学園に来ました。」
「千冬様の為ならこの命ささげます。」
「私のお姉さまになって下さい。」
アイドルのコンサート会場?いやどこかの独裁者の演説会場なのか?って最後のお姉さまって?
千冬姉は頭が痛いという表情を浮かべぼやく。
「まったく毎年なんでこんな馬鹿ばかりなんだ?しかも私の担当クラスばかりに・・・」
いや多分他のクラスでも変わらないだろうなと一夏思った。
「・・・ちょっと待って。それじゃ織斑君って?」
「千冬様の弟ってこと?」
熱狂していた女生徒達がそれに気付き、千冬姉と俺を見る。
「それじゃあの人はもしかして・・・?」
「千冬様あの方を織斑三佐っておっしゃていたわよね。」
「そう言えば織斑君あの人のことを千秋姉って・・・」
俺が二人を千冬姉と千秋姉と呼び、三人とも織斑の姓・・・それは気づくだろうな。
そんな女生徒達の様子を見た千冬姉は身振りで千秋姉に自己紹介をする様に促す。
千秋姉は頷くと一歩前に出て、綺麗な動作で敬礼を決めてみせる。
「皆さん初めまして。本日付でIS学園支援飛行隊・救難班に着任いたしました織斑千秋三等空佐です。」
ここIS学園に俺達三姉弟がそろった瞬間だった。